どこにいても位置が分かる「GPS」とは

皆さんが毎日使うカーナビや携帯に必ず入っている「GPS」。
いつどこにいても、正確に場所やルートを教えてくれる便利な機械です。
これがなければ、現代人はほとんど何もできないと言っても過言ではないかもしれません。
このGPSについて、歴史や原理を簡単に説明します。

1.GPSのしくみ
GPSは「グローバル・ポジショニング(全地球測位)・システム」の略です。
昔から、自分のいる位置を知るには太陽や星の位置を観測する方法を用いることが一般的でした。
大海を往く船乗りはこの方法に長けていたと言われています。
※余談ながらその正確性を担保するために発達したのが正確な時計を作り出す技術でした。

これに対し、GPSは全く違うアプローチで正確な位置を割り出します。
まず地球上にいくつも人工衛星を打ち上げ、その人工衛星がまんべんなく地球の周りを周回するように配置しておきます。
そのうち1つの人工衛星と、位置を測定したいものの距離を正確に測ります。そうすると、人工衛星から地球までその距離を満たす場所は「円形」となるはずです(図の左側)。
ここにもう2つ衛星を加え、それぞれの距離からできる円形を合わせると図の右側のようになり、その円の交わりの中心部が正確な位置、ということになります。
この「正確な距離」を測るのは非常に難しいのですが、人工衛星に極めて正確な時計(原子時計)を搭載し、計測端末との時間差を計算、光の速度を利用することで距離を割り出しています。

なお端末側に原子時計を搭載する訳にはいきませんので、実際には第4の衛星を利用し、正確な時間を補正することで位置を計算しています。
また、携帯やカーナビで地図上に位置を示したり、最短ルートを計算したりする機能は、GPSの応用分野の一つです。

GPSの仕組み
図 GPSの仕組み

2.GPSの歴史
アメリカは、旧ソビエト連邦と長い冷戦時代において、戦略的に航空機や船舶の位置を正確に把握しておく必要がありました。また、巡航ミサイルを正確に誘導するための手法も求められていました。
このため、米国は1973年GPSシステムの開発をスタートし、1990年代から運用を開始しました。
日本においてもこれらを民生用に利用する開発が同時期にスタートし、カーナビや携帯への搭載が始まりました。私が就職活動をしていた1990年代初頭、ソニーの研究所で研究者の皆さんからこの驚くべき技術の説明を受けたことを今でも鮮明に覚えています。
民生用の利用が同時にスタートしたことでもわかる通り、このGPS、衛星からの電波が受信できれば誰でも正確な位置が計測できてしまいます。これを敵国やテロリストから悪用されることを防ぐため、米国(国防総省管轄)は民生用電波を遮断したり、送信するデータの精度をコントロール(落とす)ことができるようにしています。

3.新しいGPSシステム
各国のシステム
米国はいち早くGPSという画期的なシステムを開発、運用を開始し、米国外を含む民間でも利用可能となりました。このことは世界中に革新をもたらしたのですが、システムの根幹を米国が握っており、精度などをコントロールできることから、米国と競争する分野を持つ国は独自のGPSシステムの開発を急ぐこととなりました。
現在、米国GPS以外には下記のようなシステムが運用されています。
・ロシア…GLONASS(ГЛОНАСС、グロナス)
・中国…BeiDou(北斗、バイドゥ)
・欧州…Galileo(ガリレオ)
・インド…NAVIC(ナヴィック)

準天頂衛星システム「みちびき」
単純なGPSは、いくら精度を上げようとしても数m~10数mの誤差が発生してしまいます。これは、衛星の電波を受信する角度が浅ければ浅いほど精度が落ちることによるものです。
これを補正するため、3機程度の衛星を特殊な軌道に乗せ、常にどれかの衛星が天頂(真上)方向にある状態を作り出して精度を補完するのが準天頂衛星システムです。

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「みちびきの軌道」内閣府 宇宙開発戦略推進事務局

我が国は現在(2019年現在)、このシステム「みちびき」4機の衛星で運用し、1m程度の精度を実現しています。
これが7機体制(2023年めど)になると、米国のGPSが停止したり精度を落としても、独立して我が国での運用が可能となると言われています。
また、これに地上基地局(電子基準点)を利用し、数センチメートル以下の精度を実現する手法も運用が開始されています。
我が国以外にも、このような補完システムは米国(WAAS)、欧州(EGNOS)、インド(GAGAN)、ロシア(SDCM)、中国が運用しています。

4.GPSの今後
このように非常に便利なGPSシステムですが、精度が上がると下記のような分野で大きな発展がみられると期待されています。
・災害対策
・自動車の自動運転
・航空機や船舶、鉄道の高精度自動操縦
・建設、土木の自動化、効率化、高精度化
・農業の自動化、効率化
・ドローンとの組み合わせによる三次元測量
・5G通信・IoTとの組み合わせによるビッグデータ解析

 

社畜が異世界に飛ばされたと思ったらホワイト企業だった

面白い本を見つけました。
「社畜が異世界に飛ばされたと思ったらホワイト企業だった」という、一見何のことやらわからないタイトルの漫画です。

カワイイ女性キャラが多くてちょっと気が引けるかもしれませんが、そこに騙されてはいけません。
レビューを見ると、働く側から見て「ホワイト企業って素晴らしい」といったとらえられ方をしていることもちろん多いものの、実は経営者にとっても非常に奥の深い論点がたくさん取り上げられています。

普段漫画を読まない経営者の方でも、是非読んで頂ければと思いご紹介することにしました。
私の事務所でも参考にしています。

121089627_3582035601836346_7943856894229396879_n[1]現在、第4巻まで発売されています。
この本のご紹介や画像はこちらをご覧ください。
社畜が異世界に飛ばされたと思ったらホワイト企業だった

1.はじまり
ブラック中のブラック会社「ブラックシステム」で30連勤の深夜残業中だったヒロイン、粕森美日月(かすもりみかづき)は、突然流れ星に打たれて気を失います。
気づいた時には、ホワイト中のホワイト会社「ホワイト製作所」ぐんま支店に中途入社した社員(自分)紹介の場でした。
ここから、かすみ(新しい職場でのニックネーム。前職の時は「ゴミカス」)の驚きの日々がスタートします。

2.エピソード1~残業・休出ゼロ
この職場、皆出てくるのは始業5分前で、定時にはピタッと仕事を終えて帰ってしまいます。
また有給休暇も積極的に取得し、出張のある営業職でさえ「多かった先月でも残業は5,6時間くらいかなぁ」といった具合。
始業2時間出社して深夜まで残業し、休日出勤や深夜残業は当たりまえ、時には会社に泊まっていた前職とはまさに「異世界」。かすみは最初そんな雰囲気に全くなじめず、「有給取れって首ってことですか???有給取ったら怒られるんじゃ…」なんて言い出す始末。

働く側からすると、残業がゼロで早く帰れるし、有給休暇がとれるのは物凄く楽な反面、残業たっぷり、有給なし、といった会社にとっては「労働時間が短くて損している」ように思えますよね。
年間休日120日、有給20日100%取得、一日7時間労働の場合、年間労働時間は1,575時間となります。これに対し、土日や年末年始、夏休みを出勤にし(+60日)、有給を全くとらない(+20日)、残業を一日3時間(10時間労働)とすると、年間労働時間は3,050時間となり、ほぼ倍働く時間が増えるように見えます。

しかし、経営管理の側面からみると、実際にはこれが全く逆なのです。
時間増を残業に換算すると、月120時間以上の超過になります。これは確実に過労死レベル。
超過時間のほとんどにおいて心身の疲労から生産性は落ち、ミスや体調不良も目立ち始めます。
サービス残業させるなんて言うのは論外ですから残業代は増加し、過酷な状況が原因の離職者も増え、採用費もかさむことから結局コスト増になってしまうのです。
最初から「所定時間しかない」ことを認識して、効率的に仕事をコントロールすれば結果としてトータルコストは下がります。
その仕組みは、現在様々に公開されているITやその他のノウハウを活用することで、どんな業種でも必ず実現することが可能です。

3.エピソード2~電車の遅れ
2時間前に出勤すると「早すぎて会社開いていない」と注意されたので15分前に出社しようとしたら、電車が故障で遅れてしまいました。慌てたかすみは会社に電話し、「走れば1時間くらいで行けます」と伝えます。会社は当然「動いてからでいいので遅延証明(ネットで可)もらって下さい」とそれを止めます。また、熱が出ていても、大雪が降りそうでもなんとか出勤して仕事を続けようとしてしまいます。

会社は雇用者として従業員の安全や健康を守る義務がある(労働契約法第5条)のですが、これは別に親が子を守るような愛情を基礎としたものではありません。そういった義務を守らないと、結局生産性の高い仕事時間を従業員から会社が安定して受け取ることができない、すなわち会社が健全な利益を上げられないからなのです。
実際、昨年地震や大雨といった災害が頻発した時、社員が無理して出社して結局帰宅難民になる、という光景が私たちの周りでも繰り返されました。こういう場合、まずは従業員の身を守ることを最優先とし、その場合でも業務が継続できる手段(BCP・事業継続計画)を普段から準備しておくことが、結果として収益性の向上につながるのです。

4.エピソード3~セクハラ、パワハラ
配属された部署に男性が数人いたので、かすみは先輩のいずみにこっそり「セクハラとかパワハラとか大変そうですね」と聞きますが、いずみは「全くないし、もしあったら部課長クラスでも飛ばされる」と答えます。
それに驚いたかすみは、「セクハラくらいで飛ばされていたら男の人は誰もいなくなっちゃいますよ」と食い下がっていずみを呆れさせます。
他の話でも、朝礼が通常無いと知って「業績が悪かった人の発表と懺悔の謝罪はいつやるんですか?」と問いかけています。
前職で如何に過酷なセクハラ、パワハラを受けていたかと心配になりますね(本書には描かれていますのでここには書きませんが、本当にひどいもんです)。

こちらも当たり前の話で、セクハラやパワハラが法律上禁止されているだけではなく、従業員の生産性を破壊的に下げ、機会損失など隠れたものも含め、コストを大幅に増やす影響があることは既にはっきりしています。
ここで経営者にとって重要なのは、様々な事例として紹介されているような「対症療法」ではなく、「トータルコストを下げる」ため、あらゆるハラスメントを根こそぎ絶つ努力を自らしなければならない、という姿勢なのです。

5.終わりに~内部統制との関係
余談ですが、私の専門分野の一つである「内部統制」の視点からも、この漫画は興味深いです。
この「ホワイト製作所」、社員はこれだけホワイトにできる理由を「うちはトップシェアだからね」と軽く断じていますが、これは恐らく原因と結果が逆です。
内部統制の重要な目的の一つである「業務の有効性及び効率性」という観点からみた場合、「ホワイト製作所」の経営者は相当高度な観点をもって経営を行っており、その結果が、結局トップシェア(やその維持)にもつながっているのではないかと勝手に理解しています。

本書には上記以外にもたくさんの面白いエピソードが書かれていますし、第2~4巻も同様にとても良い内容となっています。
また、以前メルマガで公開しました小規模企業の働き方改革~「見える」と全てが上手くいくという記事も、こういった「ホワイト化」の参考になると思います。
是非お読みください。

 

あなたは必ず騙される(続編)~ワンコインとポンジ・スキーム

1.はじめに
まずはこちらの動画をご覧ください(大きな音が出ます)

The biggest event in OneCoin History – the CoinRush 2016

この派手な動画の最後に出てくる女性、それが「ワンコイン」詐欺の首謀者です。

2.ワンコイン
①創始者 Dr.Ruja Ignatova(ルジャ・イグナトバ)
Ruja
彼女は1980年5月にブルガリアで生まれ、10歳でドイツに移り住みました。
貧しい生まれでしたが、周囲の支えと才と努力で、独コンスタンツ大学、英オックスフォード大学で法学博士号を取得しています。
その後、有名なコンサルティング会社「マッキンゼー」にて当時最年少の「アソシエイトパートナー」に就任、大型投資プロジェクトへの従事や仮想通貨のアドバイザーとしても活躍していました。
その活躍により「フォーブス」誌の表紙を飾るなど、華々しい活躍の中2014年に仮想通貨である「ワンコイン(Onecoin)」を創設します。

しかし、2017年、彼女は忽然と姿を消してしまいます。

②ワンコインの実態
OneCoinLogo
ワンコインは、ビットコインなどと同様、ブロックチェーン技術(参考:「仮想通貨技術を支える「ブロックチェーン」について」)を使った暗号通貨(仮想通貨)と称して誕生しました。
このワンコインは、100ユーロ(12,000円)程度の少額から30,000ユーロ(360万円)などの高額に至るプランによる「パッケージ販売」を特徴としています。実際に仮想通貨を受け渡すのではなく、「仮想通貨と交換する権利」が受け渡されるのです。
例えば、5000ユーロのパッケージを購入すれば、3900ユーロ分のワンコインが受け渡され、分割が起こると8500ユーロのワンコインとなるといった具合で、投資商品としての性格を備えていました。

しかし実際には、いわゆるブロックチェーンによる暗号通貨は実在していなかったのです。
実在しない「暗号通貨」を販売し、その収入を配当に見せかけて支払い、それを餌にしてまた新しいカモを集める、という正に「ポンジ・スキーム」の際たるものだったのです。

③ワンコインとイスラム金融
このワンコイン詐欺の被害は、なぜかイスラム教徒に多く広がりました。
イスラム教徒は、シャリーア(イスラム法)において利子のあるお金の貸付を禁止されているのですが、ヒヤル(合法的な抜け道)により、シャリーアを回避しつつ実質的に利子を取ることを目的とした金融技術が様々に編み出されています。今「イスラム金融」と呼ばれている概念の多くはこのヒヤルに関するものです。
ワンコインは利子ではなく、投資した通貨自身が分割により増加するため、ヒヤルの一つとして認識され、大人気となった訳です。

④破綻
ワンコインのコアメンバーであるコンスタンティン・イグナトフ(ルジャ・イグナトバの弟)は、数十億ドル規模の詐欺に関与した罪状を認めました。この結果、最大90年間の禁固刑が科せられる可能性があります(BBC 2019/11/14)。
この辺りまでにワンコインは44億ドルを集めていましたが、昨年12月1日にはウェブサイトが閉鎖されました。

しかし、現時点でもまだ首謀者ルジャ・イグナトバは見つかっていません。

3.仮想通貨とブロックチェーンについて
①ブロックチェーン(詳細解説はこちら
従来のデータ保存はサーバなどによって一元管理されているので、保存箇所を攻撃(ハッキングなど)したり、その通路(ネットワーク経路)を支配してしまえば改ざんや遮断を容易に行うことができました。
これに対し、ブロックチェーンは「利用者が使う全ての端末に、分散して全てのデータが保存されている」という点がポイントとなっています。
この「分散」についても、単にデータをバラバラに保存しているのではなく、それぞれの端末(ノード)が冗長性(無駄な部分)を持ち、一部が壊されたり改ざんされたりしても、生き残った他の部分から全体像が再構成できるように考えられているのです。
新しい取引が発生すると、そのデータが一定の規則によって次々と追加され、あたかもデータの塊(ブロック)が鎖(チェーン)のようにつながっていくことから、このような名前で呼ばれるようになりました。

②仮想通貨(暗号通貨)の問題点
ブロックチェーンによる仮想通貨を作る時には「マイニング」というプロセスが必須です。
マイニングはその名前から「鉱脈を探す」=「仮想通貨を発行する」と思われていますが、ブロックチェーン技術上のイメージとしては「新たな帳簿のページを作る」ことに過ぎません。つまり新たな通貨の記録を作る帳簿作成がその本質で、通貨そのものを作る訳ではないのです。

しかし、マイニングにはコストがかかります。具体的にはコンピュータ投資や電気代が増え続け、技術的な発行数の限界があります。
また個々のブロックチェーンの伝播には時間がかかり、大規模なパブリック型と呼ばれる方式だと遅延が累積して決済スピードに著しい問題の出る場合があります。

ワンコインは実際にはブロックチェーンを使っていなかったため、このような制約は全くなかったと言われています。そもそも実体が見えにくく、技術的にも高度に見える(すなわち素人を騙しやすい)ため、ワンコインのような詐欺には最も利用されやすい概念だったように思います。

4.ポンジ(ポンツィ)・スキーム(詳細解説はこちら
①ポンジ・スキームの誕生
「チャールズ(カルロ)・ポンツィ」はイタリア生まれ。
若いころアメリカに移住、職を転々とした後、ボストンにて「返信用切手交換クーポン付き国際郵便切手」の鞘取り(返信用切手と交換できるクーポンの国際的価格差を利用した利益獲得手段)ビジネスを始めます。

彼は1919年12月、ボストンに会社を立ち上げ「たったの数十日で50%の利益が出る」という触れ込みで数千人から数百万ドルもの大金を集めました。
ただ実際には「先に投資した人に対し、後から投資した人の資金を使って配当」しているにすぎませんでした。
この「自転車操業的」配当こそが、ポンジ・スキームの本質なのです。

しかし結局、新聞のスクープや新規投資資金の落ち込み(すなわち偽配当の資金繰り悪化)により敢え無く破綻、詐欺罪で有罪となってしまいました。

②ポンジ・スキームの特徴(ねずみ講との違い)
ねずみ講は、一人の上位会員に対して二人以上増加する下位会員から金銭を徴収、その金銭をさらに上位会員に分配するため、ピラミッド型の組織を構築する詐欺の手法です。
このため上位の会員が利益を得るためには「下位の会員数>上位の会員数」が必要となり、組織構造上級数的に増加する下位の会員はすぐ獲得できなくなるので、途中で必ず破綻します。
このねずみ講、我が国においては「無限連鎖講の防止に関する法律」で禁止されています。

これに対してポンジ・スキームの特徴は、詐欺の首謀者が広く多数から資金を集め、集めた資金の大半または全てを配当に見せかけて支払うことで、虚偽の運用実績を提示することにあります。
このためピラミッド型の組織は必要とされず、首謀者が集まる資金を比較的自由に使えることも特徴の一つです。
このため、冒頭に掲げたような派手なイベントを行うことも容易なのです。
信用を得るため一部の者への配当として多額の資金が流出するため、発覚、摘発されても損害の額に対して十分な賠償を得られない場合がほとんどです。

5.仮想通貨とポンジ・スキームの親和性
ポンジ・スキームを動かすためには、現出資者に配当する金額以上の資金を新たな出資者から集めることが必須ですが、偽の仮想通貨はにはその裏付けとなる資金が不要なため、手持ちの現金を超える偽装配当が可能となるのです。

これを私はポンジ・スキーム配当の「レバレッジ」と呼んでいます。

ワンコインはこの点をうまく活用し、「分割」によって仮想的な配当を行うことで、ポンジ・スキームでいずれ必ず訪れる破綻を遅らせることに成功したのです。

驚くべきことに、ワンコインより相当前、20世紀も終わるかどうかという頃に、全く同様の概念を用いたポンジ・スキーム詐欺が我が国で発生していました。それが「円天」事件です。

2000年ごろ創設された疑似通貨「円天」は電子マネーとして使用可能と公表されていました。
10万円以上を預け、上位会員になると「1年ごとに預けた金額と同額の円天を受け取ることができる」「年利100%の金利が払われる」とされ、受け取った円天は、円天市場で利用することが可能とされていました。
会員の募集や会社の信用を高めるため、演歌歌手・タレントを広告塔として招き、関連団体を介しホテルや国技館などで無料コンサートを月10回にわたり行っています。
このイベントには、伍代夏子、小林旭、坂本冬美、島倉千代子、瀬川瑛子、千昌夫、藤あや子、細川たかし、松方弘樹、松崎しげる、美川憲一、八代亜紀などそうそうたる有名人が協力していました。

(ニュース動画)「円天」巨額詐欺事件 元会長の懲役18年確定へ(12/01/12)ANNnewsCH

6.騙されないために

※詳しくは「あなたは必ず騙される ~ ポンジ・スキーム研究(5/5)最終回」を参照

1)成功するポンジ・スキームの特徴
ポンジ・スキームを研究していると、通常の詐欺のように「騙す側と騙される側」という単純な構図ではなく、成功するためには一定の特徴を持つべきことがわかります。それは以下のようなものです。

  • 騙す側に一定の特徴を持った①首謀者、②協力者、③紹介者 が必要
  • 騙される側にも①プレッシャー・機会、②ガバナンスの弱さ、③情報・知識の欠如 といった、一見「不正のトライアングル」にも似た要因が必要

これらを詳しく知ることで、ポンジ・スキームの兆候に気づき、騙されないための対策を採ることが可能となります。

ponzischeme
ポンジ・スキームの構成要素

2)だます側の特徴
①首謀者

  • 首謀者のキーワード:雄弁、大胆不敵、カリスマ、名声、人脈、目立つ社会貢献(しかしその裏には虚栄心、狡猾、金銭欲、虚飾などの裏がある)
  • 良い身なり、一等地の事務所、居宅と現代的な調度品、高級ホテル
  • 進める投資への自信と裏付けとなる華麗な経歴と実績(但し虚偽や誇張が多い)
  • 断定的で力強い説明、ビジュアルに優れた資料(内容は薄く、虚偽も多い)
  • 大物政治家、官僚OBなど、政財界キーパーソンとの親密な関係(但し金や接待に基づくものや、一方的なものが多い)

②協力者

  • 首謀者の右腕となり、忠実に詐欺行為やその管理行為を実行
  • 首謀者とは最も長い付き合い
  • 首謀者に対しては服従に近い関係(悪いこととはわかっていても絶対に裏切らない)
  • 身内や愛人であることも多い
  • 口は堅く、信頼できる。堅実な仕事ぶり
  • 実務を行っているため、首謀者よりも実情を理解している。違法性も認識している場合が多い

③紹介者

  • 投資詐欺の場合、良いパフォーマンスを身近な人たちにも教えてあげたいという親切心や自慢により、友人などに紹介して詐欺被害を拡大させる手助けをしてしまう
  • カリスマ性などから首謀者に心酔してしまい、宗教的に他人を勧誘してしまうケースも多い
  • 有名人や社会的地位の高い紹介者は、スーパー・スプレッダーになりうる

3)騙される側の特徴
①プレッシャー・機会

  • 金のない人間がギャンブルにのめり込むのと似た状況
  • 困窮→金銭欲、あせり、射幸心
  • 長期的には絶対的に資金が足りないが、短期的には少し使える資金がある、もしくは調達できる→この資金を狙われる

②ガバナンスの弱さ

  • 個人の場合…意思(決定力)の弱さ、相談者・指導者の不在
  • 法人の場合…健全なガバナンスの欠如、専門家の不採用、事務作業権限の集中

③情報・知識の欠如

  • 権威者やその華麗な人脈、虚偽データに対する無駄な信頼
  • 新聞や雑誌、業界紙といった記事などに十分な注意を払っておらず、最新情報に疎い。また逆にデマや誇張なども安易に信じてしまう
  • 前任者まで連綿と受け継がれた古い情報や前例にのみ基づいて意思決定し、前例のない動きは極力しない→いわゆる天下り人材に多くみられる特徴

医療機関の不正防止・調査

私達が病気や怪我の治療の際お世話になる、病院や診療所等の医療機関。
これらは地域にとって非常に大事な存在です。
また医療機関は一種「聖域」として、一般的な営利企業とは異なる組織体制や文化を持っていることがほとんどです。
しかし、医療機関とて診療報酬というお金を扱い、資産を持つという意味において、不正のリスクにさらされている点で他の企業体と何ら変わる事はありません。このような医療機関において、不正対策をどのように行うべきかについて書いてみました。

1.医療機関の不正について
資金を扱うあらゆる組織において不正リスクは存在しますが、一般の営利企業と収益構造や法令、管理体制の異なる病院・診療所等の医療機関においては、一般的な営利企業とは不正リスクの質や頻度が異なると考えられています。しかしながら、不正リスクに関する理論、管理手法の本質的な所には共通点があります。

2.不正のトライアングル
不正リスクを考える際には、「不正のトライアングル」という概念が非常に役に立ちます。
「不正のトライアングル」とは、アメリカのドナルド・R・クレッシー教授が提唱した不正の仕組みに関する理論です。
具体的には、不正に手を染めるファクターは以下の3点であるとされています。triangle

 (1)不正を行うための「動機・プレッシャー」
 (2)不正を行うことができる「機会」
 (3)不正を行うことが本人にとって「正当化」

これらの条件が一つでも増加すれば、それだけ不正の発生する可能性が高くなっていることを意味します。

 

3.内部統制について
内部統制とは、(1)業務の効率性・有効性 (2)財務報告の信頼性 (3)法令の遵守 (4)資産の保全を目的として法人内で構築される管理体制を指し、「全社的な内部統制」と「業務プロセスに関する内部統制」に区分されます。
昨今、内部統制は上場企業が財務報告の適正性を保証するための開示対象として注目されていますが、本来内部統制は「組織がその目的に従って適切かつ効率的に活動し」「法令を順守し」「資産を保全する」と同時に「適切な情報開示を実施する」ことを可能とするための組織管理であるとされています。
この内部統制は適切な情報開示にはもちろん役立ちますが、不正リスクの低減や、事務部門、医療現場における事故、誤りの低減にも有効です。
但し、内部統制は経営者によって無効化することが可能であるため、経営者が主導する不正には役に立ちません。

4.医療機関における不正の例
①横領・不正請求窓口収入、保管現金、機器、消耗品、互助会資金等の管理を長年同一のベテラン職員に任せていることによる横領とその発覚遅れ自動販売機等売上金の横領医薬品の横流し社会保険診療報酬の不正請求

②キックバック医薬品、医療消耗品の購買担当者が、仕入業者からキックバック等の利益供与を受ける
③不正経理横領等を発覚させないため、帳簿や証拠書類を偽装する架空人件費

5.防止対策
不正のトライアングルの把握
職員における不正のトライアングルがどのような状態にあるかを把握し、不正リスクの発生を未然に抑えます。

病院向け内部統制の整備
病院には病院向きの内部統制があります。病院の特色を理解しつつ、不正が起こりにくい組織体制を整備、維持します。

内偵調査、尋問
残念ながら不正の発生が疑われる場合、疑いのある部署、者に対して内偵調査を行い、必要に応じて不正調査手法を用いて尋問します。

税務調査の利用
税務調査を不正調査に利用します(参考コラムはこちら)。この手法は、内部統制が無効化されやすい経営者の不正にも効果があります。

 

個人診療所レベルなら、院長が末端の職員にまで気を配ることが可能ですから、院長の管理レベル次第でこのようなリスクは防止することが比較的楽です。しかし、病院においては一般的に組織規模が大きく、院長や事務長がいくら気を配っていても末端まで注意を行き届かせることは不可能です。この為、不正リスクを低減する組織的な管理体制は必要です。

小規模企業の働き方改革~「見える」と全てが上手くいく

昨年「士業事務所の働き方改革」というテーマで講演をさせて頂く機会がありました。
この講演においては、弊所が「働き方」をどのようにとらえているのか、またどのようなツールを用いて実現しているのかについてご説明し、一定の評価を頂戴しました。この講演内容について、ブログ化し、また新たな情報も織り込んで皆さまにもお知らせいたします。
キーワードは、「予定が見える」「仕事が見える」「人が見える」「数字が見える」の4つです。

1.予定が見える
会計事務所の業務は、基本的に「申告期限」に代表されるように月次や年次で期限のあるものですから、これがそのまま仕事のスケジュールになることが一般的です。
このため、それぞれのスタッフは「当面」自分が何をやるか把握しているはずです(これがなければ大問題です)。

しかし、これが事務所内で共有されている訳ではありません。
また個人個人の思うスケジュールが全体最適とは限らないのです。

弊所は現在、スタッフに対しては少なくとも2週間の予定を設定、事務所での共有カレンダーに入力させるよう指示しています。この「予定」を入力する際には、自分の経験だけではなく、あとで述べる業務チェックリストによって表示される情報を参考に、必要な事項を漏れなく挙げるようにしています。
また、有給休暇や総務的業務、研修の時間もお客様に関する業務と同様に「年間プロジェクトの一つ」として管理し、内部売上を設定した上で予定を入れる対象として取り扱っています。schedule画面

これらの予定情報を全員で「共有」することで、お子さんの急な熱でも在宅に切り替えたり、他のスタッフへの振替も可能となっているのです。
またコロナ禍のように在宅やシフト勤務が急に必要となった場合でも、業務内容が共有化されているため協力して漏れなく実施することが容易にできます。sns画面5

私はよく講演会で「皆さんが雇用するスタッフの標準的な年間稼働時間を把握していますか?」と問いますが、正確に把握している人はまだあまりいないようです。
管理者の仕事は、スタッフの負担感を認識し、分担の指示やスポット業務への担当配分などを調整することで、最も限られた資源である「稼働時間」を如何に効率よく高収益な業務に割り当てていくか、に尽きるのです。

2.仕事が見える
小規模会計事務所の業務で、特に顕著な特徴が「人的依存」です。つまり、実施すべき業務の内容が「引継ぎ」や「前年度の書類」によって伝えられることが多いのです。
また、仕事を実施する者によって業務品質に大きな差が出るのも特徴です。大きな幅のある担当個々人の経験や能力に依存し、誤りや漏れが発生しやすくなってしまいます。
しかし、その大きな差は管理者側から容易に見出すことができず、業務品質の良否が待遇に連動しない、という事態が発生しますので、できるスタッフに大きな不公平感が残ってしまうのです。

弊所においては、会計事務所用に導入したクラウド管理システム「耕夢」上に「業務チェックリスト」を整備し、これを参照して決算等業務を行うことにしています。このチェックリストには、一般的な会計税務のみならず、相続税や一般管理業務、営業プロセス、研修に至るまで、内容や実施期限などが設定されています。このため、原則としてこのチェックリストの内容を指定された期限までに全て実施すれば、どの分野でも一定品質の業務が実現できるようになっています。

また実施された業務の概要や資料の受け渡し、月次完了、試算表、受信FAX、お客様の質問・回答、専門誌が全て所内SNSに自動掲載されますので、この内容をブラウズするだけで、管理者である私は一日に事務所で行われた全業務を把握、コメントすることすら可能となっています。

3.人が見える
弊所のスタッフが、他人の担当業務をヘルプした場合(相談や検算など)すると「〇〇さん担当業務を△△さんが実施」とSNSに自動表示されます。
このような表示は本人(△△さん)やヘルプを受けた人(○○さん)に通知されるので、コメントには「お礼」や「気づき」をそれぞれが記載することにしています。thanks
このような仕組みを利用することで、それぞれが気楽に聞き、教えあえる雰囲気が醸成されるのです。
もちろん、後述の通り「ヘルプした時間がヘルプとして実績記録され、評価される」という機能がなければ「単に自分の仕事が進まない」と見えるだけですから評価されることにならず、こんな雰囲気は作れません。

4.数字が見える
前述の通り、お客様の会計・税務業務だけではなく、総務や研修、雑誌読みといった自己研修にもプロジェクトを設定しています。
これらを正しく運用することで、自分が担当する業務の時間はもちろん、他の担当をヘルプしたり検算した時間や、病気等で休んだ担当の業務を休み中代行したり、代わりに質問に答えた時間なども正確に記録されます。

また、それぞれのプロジェクトには売上予定額と必要標準時間を設定していますので、グラフで担当割の偏りも直ぐにわかるようになっています。もちろん、間接業務や有休の取得にすら内部売上が設定されていますから、これらを多く行う役割をもったスタッフの評価が低くなることもありません。逆に、生産性が悪いのに残業だけしている人間が「あいつは遅くまで頑張っている」と評価されることも絶対にありません。

このように、事務所内の業務実施状況を詳細な把握は、公平感や安定した業務の実施、残業抑制に大きな効果を持ちます。例えば、弊所は子育て中で短時間勤務の正社員であっても、一定の条件を満たせばフルタイムと同じ給与を支払っていますが、これも成果が全員で確認できるから不公平感なく可能になるのです。sf画面

上記は、各担当で業務が偏っていないかを確認するためのグラフです。

数字というのは非常に大事です。

  • 数字が見えないから不安になる→残業減や有給取得、産休育休への抵抗
  • 数字が見えないから不満が出る→他担当の手伝い、総務時間、業務の偏り、「遅くまで居るだけの人」などがあぶりだされます。
  • 数字が見えないから価格が下がる→業務内容とそれに対する経営努力を説明、理解して頂きやすくなります

5.まとめ
働き方改革の目的を単に「残業減」ととらえる考え方は非常に危険だと思います。
業務の本質やあるべきプロセス、また使える人的リソース(稼働時間)を把握せず単純に残業減を上から強いた場合、恐らく強烈な不公平感が組織に蔓延することになります。この不公平感は間違いなく「良い人を萎えさせる」危険をはらんでいます。
私がこの業界に入った頃はまだ道具が少なく、相当な工夫をしないと「見える」化は難しかったのですが、最近はICT(情報通信技術)の発達でいろいろな良い道具が手に入るようになってきました。
またこういった方向性は、コロナ禍で否応なく進めざるを得ない環境になってきたようです。
ピンチはチャンスです。
是非「見える」化を進め、本当の意味での「働き方改革」とその結果である「収益性向上」を目指しましょう。

税理士法人耕夢は「競争しません」(1周年記念)

本日11月1日、税理士法人耕夢は昨年の設立からちょうど1年となりました。
お客様、職員の皆さん、そして全てのお世話になった皆様に、心より感謝申し上げます。

1.耕夢システムと法人化
会計事務所業界は転機を迎えています。劇的なIT化の進展や税務の複雑化のみならず、競争の激化、そして人材獲得の難しさは、重要な経営課題となりつつあります。これに加え、新型コロナ感染症の影響は、主要なお客様である中小企業に破壊的な影響を与えています。
このような激変する環境に適応するには、やはり組織の力が必要です。
飛び抜けた力が無くても、適切な知識・経験・常識を持ち、他を思いやる心を持った人間が協力し合うことで大きな力を発揮できる、そういった仕組みが大事です。
法人としての耕夢、またシステムとしての耕夢は、このような仕組み作りの為に生まれました。
(耕夢システムは、Salesforce社さんの「Sales Cloud」をプラットフォームとしています)

2.この1年間を振り返って
今年6月から6名が新たに参加、3拠点(本町、堺、岐阜)合計で17名となっています。
耕夢の理念を共有し、それぞれ協力し合う環境がこの1年で少しずつ出来上がりつつあります。
例えば、新たなお客様にご契約頂くありがたい場面でも、担当だけではなく全員がお客様の為に協力するということが当たり前のようになっています。
拠点間のネットワークを配備し、これを利用して全員がテレワークを行うことも可能となりました。このシステムは元々コロナ禍を想定せず準備していたものですが、運よく助けられることとなりました。
耕夢システムが持つ顧客管理、チェックリスト、日報、職員間のコミュニケーションといった機能は、品質管理や情報共有といった機能を通じて事務所運営に大きな良い効果を与えてくれています。
1年間を振り返ると、ありがたいことにある程度考えていたことが実現できたように思います。

3.これからの話~競争しません
これを踏まえ、今後の方針として「競争しない」を掲げたいと思います。
ITのない昭和の時代、成果の測定が極めて難しかった環境においては「競争」は良いツールでした。人の原始的な本能を刺激して成果を上げる方法だからです。
しかし、社内における競争は人間関係の軋轢を通じてイジメや抑圧、良い人材の流出など様々な問題を発生させる原動力となるのです。
「では競争しないでどうやって成長するのか」と思われるかもしれません。
しかし実はこの「競争が成長を生む」という考え方も昭和そのものと思います。
成果を(ITで)測定し、それを見せ、意味を理解させ、フィードバックさせるという仕組みを作れば、まともな人は必ず良い成果を自分で出します。また、競争とは逆に平和と相互理解、尊重すら生むのです。

また、対外的にも競争はしません。
他の事務所との報酬での単純な比較や、顧客数の多寡など、「ライバルに負けない」姿勢は社内の競争と同じく軋轢や疲弊を生みます。
私たちは、まずは自分たちが品質の高い業務をできる体制を作り、これを、実績とともにお客様に見て頂くこと、その正当な対価を頂くこと、といったシンプルですが非常に大事な姿勢を明確にします。

4.耕夢の役割
これら「競争しない」ためのツールが耕夢です。
耕夢は社内の成果を明確にし、業務の品質を高め、お客様に実績を見て頂き、価値を納得頂けるための機能が備えられています。
※下記はお客様ごとの発生時間推移と、各職員が担当する業務量のグラフ)

発生時間グラフ

税理士法人耕夢は、このような考え方を基礎に、今後もよい仕事ができるように努力致します。
皆様今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

世界を変える「全固体電池」

皆さんは「全固体電池」という言葉をご存知でしょうか?

昨今、世界の自動車メーカーが「EVシフト(電気自動車への移行)」を進めています。
この電気自動車において技術の要となる「バッテリー」の分野で、今大きな技術革新が起きようとしています。
それが今回ご説明する「全固体電池」です。
この全固体電池、電気自動車の性能を飛躍的に高め、一気に主役に躍り出る可能性があります。
日本が現在リードするこの技術についてご説明します。

1.EVシフト
世界の自動車メーカーが進める「EVシフト」。
昨年にはトヨタがEVの車載用電池で世界最大手の中国・寧徳時代新能源科技(CATL)や比亜迪(BYD)、東芝、GSユアサなどと協業すると発表しました。
また、現在世界第2位の自動車市場であると同時に最悪といってよい大気汚染に悩む中国は、既に自動車メーカー各社に対して2019年以降、電気自動車(EV)を中心とする「新エネルギー車」を一定割合で生産・販売するよう義務付ける新規制を公表しています。
そして、なんと1社の時価総額で「日本の上場自動車メーカーの合計」を超えてしまったEVメーカーの米テスラが、コストの3割を占めるとされる車載電池を自社生産し、生産コストをほぼ半減させてガソリン車より安いEVを開発する目標を掲げました。
今後、電気自動車が急速に主流となるのは間違いありません。

2.EVの特性と問題点
さて電気自動車の性能を決めるのは、大きく分けて下記の3要素です。
①モーター(出力や消費電力)
②バッテリー(航続距離)
③車としての基本性能(ハンドリングや乗り心地、安全性)
このうち③については既存の自動車メーカーが連綿と積み上げたものがありますからよいのですが、①や②についてはまだまだ改善すべき問題があります。

特にバッテリー容量については、飛躍的に増やすことがこれまでなかなかできず、電気自動車は航続距離が極端に少ないのが悩みの種でした。
また、バッテリーの安全性や充填(充電)時間などもまだ内燃機関車(ガソリン・ディーゼル)やこれらをベースにしたハイブリッド車にかなわず、さらにバッテリーの劣化(使用を続けると性能が低下する)もあって実用性は極めて低いものと言わざるを得ませんでした。

3.全固体電池の特徴
固体の電解質
全固体電池とは、現在普及しているリチウムイオン電池の問題を解決するため、リチウムイオン電池で用いられている電解質と呼ばれる液体を固体化したものです。リチウムイオン電池の場合、充放電時には電極間をリチウムイオンが移動するのですが、全固体電池は固体の中をイオンが移動します。
なんだか固体の中は移動しにくいイメージがあるのですが、特殊な硫化物を使用することで、液体の電解質と同等かそれ以上の伝導性を持たせています。

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NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)
「従来のリチウムイオン電池と全固体電池の構造の比較」

飛躍的な性能向上
全固体電池は、理論的にはエネルギー密度(質量当たりの充電量)をリチウムイオン電池より高くできる可能性があります。また、固体電解質や電極の性質から充電時間が数分程度(リチウムイオン電池は数十分~数時間)と、ガソリンスタンドでの給油並みに短くできる可能性があります。
また、別の大きなメリットとして安全性があります。リチウムイオン電池と比べ、燃えにくく液が漏れず、劣化によるショートなどが発生しないという、人の命を預かる自動車にとって非常に重要な安全性を備えることができると期待されています。

課題
開発の第一人者である大阪府立大・辰巳砂昌弘(たつみさごまさひろ)教授によると以下のような点が解決すべき課題とのことです。

  • 硫化物を基礎とした固体電解質は大気に対して安定せず、水蒸気を含んだ空気に触れると硫化水素が発生して危険である(製造場所を乾燥させる必要がある)
  • 充放電時には電極が膨張・収縮するため、固体である電解質が電極に十分接触する方法を考える必要がある
  • 硫化物に代わる酸化物固体電解質の研究

4.日本の役割
この全固体電池の開発は日本が圧倒的にリードしているとのことですが、欧米や中国でも急速に開発が進んでいます。特に米国や中国は、日本と異なり巨大な市場と比較的緩やかな規制を基礎に、自動運転のような実証実験を行うのに有利な環境にあります。このため、現在優位にある日本もうかうかしていられません。
現在のペースで開発が進めば5年で実用化できるとの見込みだそうですが、おそらくもっと早い完成や普及が実現されるのではないかと考えています。

100879359[1]
NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)
「EV用バッテリーの技術シフトの想定」より

 

セカンドオピニオン歓迎

セカンドオピニオンとは

「セカンドオピニオン」とは、元々医療の世界の言葉です。具体的には、「治療や手術などの方針について現在かかっている医師とは別の医師の意見を聞き、参考にすること」を言います。
医師とて全てにパーフェクトではありませんし、注意を尽くしていても見逃しや診断の誤りはあり得ます。このため、別の医師の意見を聞くことも時には必要なのです。
但し、その場合でも「ファーストオピニオン」、要するに担当医の意見はまず大事にすべきです。医療を受ける側は、症状などが悪いほど自分の願望に応じて都合の良い意見を求める(「オピニオンショッピング」と言います)ことがあるからです。

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※医療におけるセカンドオピニオンについては、例えば東京都福祉局のWEBページにわかりやすい説明があります。

税理士事務所のセカンドオピニオン
税理士事務所のWEBページ等で「あなたは今の税理士で大丈夫ですか?」や、「こんな税理士は要注意」といった説明を展開し(そこだけなら弊所ブログ「にせ税理士について」と似ています)、さらに他の税理士の業務に対する「セカンドオピニオン」を営業トークにしている事務所を時折見かけます。

セカンドオピニオンとは前述の通り元々医療の世界の言葉ですが、公認会計士や税理士などの専門家業務においても使われることが増えてきました。
要するに「現在依頼している専門家の業務について、他の専門家に依頼して評価、検討する」ことを言います。

このような営業姿勢は、特に若くパワフルな税理士が経営する事務所に多いようです。
しかし通常、元々契約している税理士はこのようなセカンドオピニオンを好まないものです。自分たちの間違い探しをされるような気がしてプライドが傷つけられるからかもしれません。

もう一つ注意すべき点があります。
私も時々関与している金融機関を通じてセカンドオピニオンを求められるのですが、「今の税理士がこんなにダメだから見て欲しい」といった論調が時々見受けられます。
ところが、良く聞くとその税理士が実際にはきちんとしたプロとしての判断や仕事をしておられるのに、依頼主とのコミュニケーション不足で理解されていないだけ、ということが多々あります。そのようなケースにおいては、今の税理士が如何に真っ当な仕事をしておられるかを説明し、もう少しコミュニケーションをとってみてはどうか、とアドバイスしています。

私達のスタンス
さて、私達の事務所は、私達のお客様が他の税理士などのセカンドオピニオンを受けることも「歓迎」しています。
私達の事務所内には、「耕夢」システムを中心として職員教育や業務チェックリスト、相互チェック、トリプルチェック、税務調査対策など品質管理に関する枠組みが設けられています。また最後の砦として、税理士賠償責任保険(税理士が判断を誤って税務上の損失が出た場合に補填する保険)にも加入しています。

しかし、どんなことにも100%の無誤謬はあり得ません。万一そのような場合には、顧客にご迷惑をお掛けすることになりますし、セカンドオピニオンの結果お客様が損失を回避できれば、それは結果としてお客様のためになる良い事なのです。
もちろんそのようなケースがあれば私達は大変恥ずかしい限りなのですが、逆にそのような緊張感の元に自らを置くことで、さらなる業務品質の向上を目指すエネルギーが生まれてきます。

温暖化の危機は藻が救う

長年問題になっている「地球温暖化」は、主に二酸化炭素やメタン、フロンなどによって起きるとされている問題です。
この温暖化を止める方法は様々に議論されてきたのですが、日本の学者さんが起点になって、非常に画期的な技術が出てきました。

それは「藻」を使うという方法です。

この方法、環境問題だけではなく日本のエネルギー問題も一気に解決できる可能性を秘めています。

1.温暖化とカーボンサイクル
長年問題になっている「地球温暖化」は、主に二酸化炭素やメタン、フロンなど、炭素化合物からなる気体が増えることによって起きるとされている問題です。
これらの気体は総称して「温室効果ガス」と呼ばれ、温室のビニールカバーに似た機能を果たしています。

太陽から地球に降り注いだ光のうち、温度上昇に最も効果のある赤外線は、大気がなければ地表で反射してもう一度宇宙空間に出てしまいます。しかしこれらのガスは赤外線を吸収してしまう特性を持っているので、太陽光からくる熱が大気中に留め置かれることになるのです。

ニュースを見ると温暖化が悪いように言われていますが、これがなければ地球に多様な生命が存在できる環境にはなりません。昼側はまだしも、夜側は温室効果ガスによる保温が効かず、少なくともマイナス何十度という寒さとなり、温暖化より悲惨な環境になってしまうと言われています。

温暖化の問題は、この効果が行き過ぎるために発生します。元々地球は大気中の二酸化炭素等の濃度をある程度一定に保つサイクルを続けていました。例えば、生物の活動により発生する二酸化炭素を植物が吸収し、この植物を生物が食する、というサイクルです。このサイクルは様々なものがありますが、基本的に全て炭素化合物であることから、総称して「カーボンサイクル」と呼ばれています。カーボンバランス

2.化石燃料はカーボンサイクルを壊す
ガソリンなどの燃料や化学製品等の原料となる「原油」や「石炭」、「天然ガス」は、元々太古に枯れて堆積した植物が、長い年月をかけて地価の圧力や熱を受けて変化したものから出来ています。その生成過程は化石と似ているため、原油は「化石燃料」とも呼ばれています。

この化石燃料、何億年も前の植物がその時代の二酸化炭素を吸収してできたものですから、今これを燃やせば、過去の二酸化炭素が現代に放出されることになります。

冒頭で書いた自然なカーボンサイクルがその時代の二酸化炭素の量を大きく変えることはありませんが、化石燃料を使うと「ため込んだ時点」と「使う時点」がずれていることから、そのサイクルを大きく変えてしまう可能性があるのです。

そうなると、バランスを崩したカーボンサイクルは温暖化を加速し、その温暖化が、様々な場所に固定されている二酸化炭素を放出させたり、吸収してくれる森林を滅ぼしたりすることで、人間がコントロール不能なほどの暴走を起こしてしまう可能性もあります。

一時期原油はもう採掘できなくなると言われていましたが、シェール革命などによりまだまだ採掘・使用は続いています。温暖化が行き過ぎるリスクはまだまだ残っている訳です。

3.藻の利用
このような問題を防ぐには、カーボンサイクルを安定して回せればよいと誰でも気づくと思います。要するに、「使った分と同じだけ吸収・固定」すれば、バランスが壊れないのです。

ということで、深海に二酸化炭素を送り込んで固定する方法や、地中に保存するなど様々な方法が試みられては来たものの、いずれも決定打ではなく、しかも化石燃料の使用継続が前提となっている点で問題でした。

ところが、渡邉信教授という日本の学者が、非常に面白い「藻」を発見したことから、この問題はちょっと違った様相を呈してきました。この藻(オーランチオキトリウム)は、なんと太陽光と有機物から化石燃料とよく似た油を生成することが出来るのです。

元々藻の一部は油を作り出す力を持っているのですが、このオーランチオキトリウムは非常に高い能力を持っています。また成長スピードも非常に高いため、限られた場所でたくさんの油を作ることが出来るのです。

例えば、下水等の有機排水にこの藻を投入し、水を浄化するとともに藻は有機物から油を作る、また油を精製した後の藻は加工して飼料にするなどの有効活用が可能になります。

藻の利用例
筑波大学 渡邉信教授の研究スライド(藻類バイオマス利用の研究開発)より

まだ実験段階ではあるものの、一定の設備や休耕田の活用など環境が整えられれば、なんと日本国内だけで必要な原油に相当する油を作り出すことが出来るほどのポテンシャルがあるそうです。

そうなると、「今ある二酸化炭素を使って作った油」は、今燃やしても二酸化炭素を大きく増やすことはなく、カーボンサイクルをバランスよく保つことが可能になるのです。

なおこの油は基本的に原油の成分と同じで、燃料だけではなくプラスチックの原料等としても使用が可能だとか。

エネルギー問題と環境問題を一気に解決し、ひいては「常にエネルギー問題に左右される」日本の安全保障の立ち位置をも変えるポテンシャルのある「藻」の技術、一刻も早く実用化されて欲しいものです。

4.原子力との関係
元々、原子力は温暖化問題の救世主といった立ち位置で注目されていたように思います。
しかし、震災による事故を除いても、一つ大きな問題があるのです。

太陽光はもちろん、化石燃料、風力、水力、潮汐力といったエネルギー源は、結局全てが現在または過去の太陽エネルギーを基礎にしています。

ところが、原子力だけは太陽エネルギーが一切関係していないのです。

原子力を扱うことの難しさは、大震災や津波によって技術者でない人たちにも痛みをもって理解されたと思います。
太陽があれほど遠くにあり、しかも大きなエネルギーを地球に送ってくれていることは、それなりに合理的な意味のあることだったのではないかと感じています。

今年の年末調整は大変!(改正とその他のお話)

今年も年末調整の季節がやってきました。
ここ数年「新元号」「配偶者控除の改正」やそれに伴う用紙の変更などがあり毎年注意点が多かったのですが、今年はさらに永年大きく変わらなかった論点(基礎控除や給与所得控除)にまで改正がある大変な年になります。
改正論点を中心にわかりやすく解説しますので、経営者や給与担当の方は是非早めに手続きのスタートを、また働く皆さんはできるだけ早めに資料の提出をしましょう。

1.年末調整とは
年末調整とは、年末に在籍している役員・社員を対象として、毎月の給与や賞与から「天引き」(源泉する、といいます)されている所得税を、年末に精算する手続きのことを言います。
この精算が必要な理由は、主に以下の通りです。

  • 所得税の計算は年末時点を基準にしているものがほとんどで、年末にならないと状況が確定しない
  • そもそも、毎月の給与や賞与から計算されている税額は「仮計算」でしかなく、年末までの支給額を確定しないと正確には税金が計算できない

年末調整2020
年末調整の流れ(国税庁「年末調整のしかた」より)

実はこの年末調整、上のフローチャートをご覧頂くとわかる通り、皆さんが記載される面倒な用紙(扶養控除等申告書、基礎控除申告書、配偶者控除等申告書、所得金額調整控除申告書、保険料控除申告書、住宅ローン控除申告書)の作成はプロセスのほんの入り口なのです。そして実はその後の手数が非常に面倒なため、会社側(特に人事部や経理部)には結構負担がかかっています。

このため、遅れたり督促されたりした場合に担当の方が不満な顔をしていても、ただでさえ面倒な手続きをさらに遅らせているわけですからわからないでもありません。
その入り口となる書類についてはできるだけ誤りや抜けのないよう、期限までに必ず出すよう協力してあげましょう。

2.令和2年から適用される改正一覧
今年(令和2年)から適用される改正は、以下の通りとなっています。

  • 給与所得控除の引き下げ
  • 基礎控除の引き上げ
  • 所得金額調整控除の創設
  • 配偶者控除、扶養控除などの合計所得金額要件の見直し
  • 未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦(寡夫)控除の見直し
  • 電子手続

3.給与所得控除の引き下げ
給与については、支払いを受けた給与額から、給与額に応じて変動する一定額を差し引いた金額に税金をかけることになっています。この「差し引く一定額」を給与所得控除と言います。
この給与所得控除の計算表が、下記の通り改正されています。

給与所得控除改正
給与所得控除の改正

 この表は慣れないとわかりにくいのですが、給与収入が増えるに従って、少しずつ給与所得控除額が増えるように作られています。
改正前後を比べてみると、給与収入が850万円までは給与所得控除が10万円減少し、その後は25万円まで減少幅が広がるように改正されています。
その分所得税が増えることとなりますが、後で説明する基礎控除の改正、所得調整控除の創設により一部増税の影響を打ち消すこととしています。

4. 基礎控除の改正
所得には全て税金がかかるわけではなく、「基礎控除」と呼ばれる最低ラインが設けられています。この基礎控除については、長い間どんなに所得の高い人であっても適用がなされてきたのですが、下記の通り合計所得金額2,500万円を超える方についてはとうとう適用がなくなってしまいました。
他方、2,400万円以下の所得者については10万円増額されています。

基礎控除改正
基礎控除の改正

この金額を計算するため、従来の年末調整書類に加え「給与所得者の基礎控除申告書」という用紙に記入の上提出する必要があります。

 5.所得金額調整控除の創設
その年の給与の収入金額が850万円を超える所得者で、
①特別障害者に該当する人
②年齢23歳未満の扶養親族を有する人
③特別障害者である同一生計配偶者を有する人
④扶養親族を有する人
の総所得金額を計算する場合には、給与の収入金額(但し1,000万円が限度)から850万円を控除した金額の10%に相当する金額を、給与所得の金額から控除することとされました。

この金額を計算するため、従来の年末調整書類に加え「所得金額調整控除申告書」という用紙に記入の上提出する必要があります。

6.配偶者控除、扶養控除などの合計所得金額要件の見直し
いわゆる「扶養の対象」である、同一生計配偶者、扶養親族、源泉控除対象配偶者、配偶者特別控除の対象となる配偶者及び勤労学生の合計所得金額要件がそれぞれ10万円引き上げられ、次の表のとおり改正されました。これは、基礎控除の最低限度が4.の通り引き上げられたことに関係したものです。

扶養所得条件改正
配偶者控除・扶養控除合計所得金額改正

 7.未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦(寡夫)控除の見直し
配偶者と死別したり離婚して未婚のままであったり、扶養家族や子供がいる人、所得が一定の額以下の人を所得税法上「寡婦」や「寡夫」(両方とも「かふ」)と呼び、その条件に応じて課税所得が控除されることになっています。この制度、従来は女性の要件が少し広くなっていたり、全ての要件を満たす女性は控除額の割り増しがあったりと、男女差のある制度となっていました。
また、この制度の適用があるのは「民法上の婚姻関係にある者」に限られ、未婚のひとり親については対象となっていませんでした。
令和2年の改正においてはこの点が見直され、「ひとり親控除」と新しい「寡婦控除」制度に再編されました。
この改正については、別のページ ひとり親控除(令和2年 税制改正) において詳しく解説しています。

8.年末調整の電子手続
元々、「保険料控除申告書」や「住宅ローン控除申告書」を従来は書面(ハガキ等)で添付していた保険料控除証明書等は、保険会社等から送られる控除証明書等の電子データで提出することができることになりました。この手続を可能にするため、年末調整手続において、これらの電子発行された控除証明書等データ提出するための「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア」(以下「年調ソフト」が無償提供されています。
年末町営の電子申告イメージは下記の通りです。

年調電子化

 

なお、従業員から年末調整申告書に記載すべき事項を電子データにより提供を受けるためには、勤務先があらかじめ所轄税務署長に、「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、その承認を受ける必要があります。この申請書を提出した月の翌月末日までに税務署長から承認又は承認しないことの決定の通知がなければ、この申請書を提出した月の翌月末日に承認があったものとされていますので、例えば12月から年末調整手続の電子化を行う場合には、念のためこの10月末までには申請書を提出しておく必要があります(10月提出→決定通知がない場合には翌月、すなわち11月末日に承認があったものとみなされる→12月から利用可能)。

 

9.その他以前からの年末調整注意点 (改正で説明した書類を除く)
①扶養控除(異動)等申告書

年末調整においては最も一般的な様式で、要するに「年末時点での扶養家族について書く」書類です。しかしこの様式は意外と重要で「(仮に記載すべき扶養家族がなかったとしても)提出しなければあなたの毎月の源泉所得税額を非常に大きな率で計算しなければならなくなります。
なお年末時点の扶養家族状況はすなわち年明けの状況なので、それを考えて来年用(今年なら「令和3年用」)の用紙に記載してもらいます。

②配偶者控除等申告書の書き方
年末までの「本人と配偶者の所得見積額」を記載します。
配偶者控除、配偶者特別控除が前回の改正で廃止され「103万円」の制限がなくなったため、より複雑になっています。なお、年末までに実績が見積額と変わった場合は、翌年1月(源泉税の納付や源泉徴収票の提出)までは会社が訂正するか、または自分で確定申告が可能です。

③保険料控除申告書
保険料控除申告書は、生命保険料、地震保険料、社会保険料(国民年金や健康保険料)、小規模企業共済などを自分で支払っている時に記載します。また受取人が配偶者や親族となっている生命保険料や、生計を一にする親族の家屋を対象にした地震保険料が含まれます。
この控除証明書を提出する際には、証明書の添付、特に生計を一にする親族の国民年金支払証明書を忘れないようにしましょう。また、控除証明書に記載してある区分(生命保険の一般、個人年金、介護や地震保険の地震、旧長期など)についても十分注意して記載しましょう。

④住宅ローン控除申告書
正式には「住宅借入金等特別控除申告書」と言います。
ご存知の通り、この制度は住宅ローンを借りて家を購入した場合、数年に渡って住宅ローン残高の一定割合を所得税から控除してくれる制度です。しかし、1年目は必ず確定申告で手続きしなければなりませんので注意して下さい。