月別アーカイブ: 2020年6月

加圧トレーニング

皆様、「加圧トレーニング」をご存知ですか?
みんなで筋肉体操(NHK)」など、筋トレが注目されていますので、ご存知の方も多いかもしれません。
この加圧トレーニング、50年以上前にボディビルダーの佐藤義昭氏が、正座による「脚の痺れ」をヒントに発明したトレーニング方法です。

加圧トレーニングは、空気圧をかけたベルトなどで血流量を制限しながらトレーニングを行う事で、腕や脚の乳酸(疲労で発生する物質)を増やします。
そしてトレーニング後にベルトを外すと高濃度で溜まっていた乳酸が体内に流れていき、それに脳下垂体が反応する事により、成長ホルモンが分泌される、という仕組みだそうです。
この加圧トレーニング、若い世代だけではなく、我々のような50代やもっと高年齢の方々にも非常によい特徴を備えています。

まず、加圧トレーニングの特徴は、「負荷やトレーニング時間が少なくても効果が得られる」ところにあります。
例えば、普段20キロのダンベルを使っているような人でも、2~5キロ程度で十分だそうです。また、1回のトレーニングも30分程度で効果が得られるとのことです。
このことで、だんだんと体力が落ちていくシニアの方々でも安全にトレーニングが可能になります。

またダイエット効果が非常に高いです。加圧をすると通常の数~数百倍の成長ホルモンが分泌されることで、筋肉がついて脂肪が燃焼しやすくなるからです。また、肌のツヤやハリを取り戻す効果も期待できるらしいとのことです。
そして意外と大きいのが、リハビリ効果であるといわれています。
加圧をすると骨折や肉ばなれ、ねんざなどのケガの回復が早くなるという研究データがあるそうです。これは、分泌される成長ホルモンによって、筋肉や人体の修復が早まると考えられるからで、心筋梗塞や脳梗塞、脳出血などのリハビリ現場でも取り入れられているケースがあるそうです。

年齢を経るとどうしても老化により自然と体力が落ちていくのですが、この加圧トレーニングを使うと、老化のスピードを抑えることが可能になるそうです。
老化を抑えるトレーニングの場合、加圧だけで負荷をかけなくても十分な効果が得られる、とも言われています。

なお、自分で加圧トレーニングを体験できる道具も販売されているようですが、加圧トレーニングは専門的な経験を積んだトレーナーが、トレーニングをする人の体力や年齢を考慮した上で、圧のかけ具合や時間を決めなければ、かえって体への悪い負担を生じかねません。
もしご興味を持たれた方は、是非専門のトレーナーによる指導を受けてお試しください。

ひとり親控除(令和2年 税制改正)

1.改正について

「寡婦」、「寡夫」(両方とも「かふ」と読みます)という言葉をご存知でしょうか。
配偶者と死別したり離婚して未婚のままであったり、扶養家族や子供がいる人、所得が一定の額以下の人を所得税法上「寡婦」や「寡夫」と呼び、その条件に応じて課税所得が控除されることになっています。

この制度、従来は女性の要件が少し広くなっていたり、全ての要件を満たす女性は控除額の割り増しがあったりと、男女差のある制度となっていました。
また、この制度の適用があるのは「民法上の婚姻関係にある者」に限られ、未婚のひとり親については対象となっていませんでした。

令和2年の改正においてはこの点が見直され、「ひとり親控除」と新しい「寡婦控除」制度に再編されました。

2.ひとり親控除(35万円)

ひとり親とは、現に婚姻をしていない者又は配偶者の生死の明らかでないことに加え、さらに下記の要件を満たす者を言います。

  • 生計を一にする一定の子があること
  • 合計所得金額が 500 万円以下
  • 事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる者がないこと

ひとり親である場合には、ひとり親控除として、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から35万円を控除することとされました。
この35万円の控除は、従来の制度で「特別の寡婦」として認められていた割り増し控除額になります。
従来は女性のひとり親にしか認められていなかったのに対し、新しい制度においてはひとり親条件を満たせば男性でも適用されることになります。

3.(新しい)寡婦控除(27万円)

改正後の「寡婦」とは、次に掲げる者でひとり親に該当しないものをいいます。
(1)夫と離婚した後婚姻をしていない、次の要件を満たす者

  • 扶養親族を有すること
  • 合計所得金額が 500万円以下であること
  • その者と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる者がいないこと

(2)夫と死別した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない次の要件を満たす者

  • 合計所得金額が 500万円以下であること
  • その者と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる者がいないこと

改正前の「寡婦」の要件との主な違いは、
①扶養親族を有する寡婦についても「合計所得金額要件」が追加された
②「非事実婚要件」が追加された
ことになります。

4.改正前後の適用判定変動
改正前後で、それぞれの方の適用がどのように変動するかについては、国税局「年末調整のしかた」に下記の通り判定図が掲載されています。

ひとり親控除判定

5.改正の適用開始日、その他

これらの改正は、令和2年分以降の所得税について適用されます。
まず令和2年の年末調整や確定申告について適用され、また令和3年の給与、公的年金の源泉徴収税額計算の際にも新しい制度を適用して計算します。
なお、住民税でも同じ制度改正があります。控除額は、所得税で35万円の場合には30万円、27万円の場合には26万円の控除となります。

以上

美人タレント女医事件

以前、バラエティ番組で「年収は5000万円で豪遊」という、驚くべきキャラクターで話題になった美人の女医さんがいました。
しかし結局、その女医さんは不正行為が明らかになり逮捕され、有罪判決を受けることになってしまったのです。
美人女医が逮捕、有罪判決!ということで世間の耳目を集めたこの事件、実は掘り下げると結構深い問題の根を持っていることが分かります。
以前講演でお話しした内容を抜粋、加筆修正したメルマガ記事をブログ化しています。

1)逮捕、有罪判決
この事件は、脇坂英理子氏(Ricoクリニック)という女性医師が逮捕されたことから衆目を集めることとなりました。
「美人女医」としてもてはやされていた脇坂医師は、TVのバラエティ番組に出演し、ホストクラブで一晩に何百万豪遊したとか、驚くような数の男性遍歴があるなど、常識的な人間からすると耳を疑うような話を番組で披露していました。
しかしその実態は、彼女が経営する美容クリニックで架空診療行為を繰り返し行い、健康保険や国保といった医療保険に対して約7000万円という高額の架空請求を行っていた不正実行者だったのです。
裁判の結果、結局は懲役3年、執行猶予4年の有罪判決となり、医師としても業務停止3年の行政処分を受けることとなりました。

2)手口
それでは、この不正請求はどんな手口で行われていたのでしょうか。
簡単にいうと、「実際に行っていないのに、架空の診療行為をでっち上げる」という手法でした。
例えば、一度通院しただけの患者にも、その後も通院を続けたように偽装して診療報酬を請求することで、架空の診療報酬が手に入るという訳です。
しかし、彼女はそれ以上に破壊的な不正請求にも手を染めていました。

3)「保険証集め」の手法
彼女が不正に請求した医療費には、かなりの割合で「一度も来院したことがない患者」が含まれていたようです。

この「患者」たち、実はアルバイト感覚で集められた芸人や暴力団組員ら数百人が、不正用に彼らの保険証を提供したことによりでっち上げられたものだったのです。
捜査関係者によると、「保険証提供者の報酬はせいぜい数千円。アルバイト感覚でやっていたとしか思えない」とのことでした。

4)組織的な「ビジネス」
実はこのような医療機関は彼女のクリニックだけではありませんでした。
暴力団の「企業舎弟」とされる首謀者たちは、コンサルタントの名目で元々経営の苦しい医療機関に目を付け、不正グループに勧誘していたのです。
また首謀者グループにはホストもおり、ホストクラブで受け皿となる女医や保険証の提供者となるホステスを探していたそうです。
同時にクラブ経営者たちにも報酬を提示して女医の紹介やニセ患者集めを働きかけていました。
結局、このスキームで得られた不正な利益のうち、一部は暴力団に上納されていたのです。

5)不正請求の主な内容
健康保険に対する医療費の不正請求は、この事件のようなものだけではありません。一般的なものだけでもこれだけあります。

  • 架空診療・投薬による請求…診療していないのに、診療したことにして診療報酬を不正に請求
  • 生活保護者(自己負担なし)に対する架空診療、過剰診療
  • 振替請求…外来診察なのに入院診察として扱い、診療報酬を不正に請求
  • 二重請求…患者が自費で診療したものを、保険診療したものと扱い二重請求
  • 付増請求…血液検査の際、採血は1回だったにもかかわらず、数回に分けて検査したように診療報酬を不正に請求
  • 健康診断の保険請求…健康診断には本来保険が適用されない
  • 看護師等の水増しによる不正請求…看護要員の長期にわたる不足にもかかわらず変更の届出を行わず、診療報酬を不正に請求していた。
  • 施設基準の虚偽申請…一定の施設や人的要件を要する請求につき、届出の際行われる検査時だけ満たし、検査が終われば元に戻していた。

6)処分や対応は
医療保険による保険診療については、保険診療報酬支払機関(国保、社保)から本人に対して確認通知があり、本人が知らない医療費請求についてはチェックをかけることができるようになっています。
またこのような不正が行われた場合には、厚生局・厚生労働省による指導、調査、行政処分や、医師免許・保険医療機関の取り消しなどの処分がなされることとなっており、刑事罰も合わせて一定の抑止効果を得ているとは思います。
しかし、医療サービスを受けた本人がその内容に無関心だったり、また患者による不正への積極的、消極的関与がある場合、施設基準など患者の目に触れにくい複雑なもので不正が行われる場合には発覚が非常に難しくなります。これに加え、今回の事件のように最初から組織的に組み立てられたものを積極的に摘発することは難しくなります。
健康保険は加入者の保険料や税金が使われる極めて公益性の高い制度です。
医療機関自体の倫理保持や、通報窓口や内部監査体制により防止・発見対策などを整備することが急務だと思います。

 

 

「耕夢」ってこんなシステムです(事務所日常のご紹介)

私たちの事務所名にもなった「耕夢(こうむ)」。
日本どころか世界のどこにもないコンセプトで作られた、会計事務所の業務管理用アプリケーションです。
このシステムを機能面で紹介することはもちろん可能なのですが(セールスフォースさんのページにもご紹介あり)、実際どのように使われているかを比較ストーリー形式で書いてみました。
この内容、特に誇張はなく、実際にそれぞれの事務所で起こっていることがほぼそのまま書いてあります。
では、会計事務所の一日を少しだけご覧ください!

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<7:30am>

(耕夢)
所長が出所。通勤中の電車で「内部chatter」に研修担当職員が掲載した会計・税務等の最新業界誌を読み、知識をアップデートするとともに必要な論点を「耕夢チェックリスト」に反映していく。また、お客様に関連する情報があれば、お客様それぞれに用意された「外部chatter」で早めに情報を提供しておく。
また、昨晩から今朝にかけて事務所に届いたFAXも紙で出力されず「内部chatter」に掲載されているので、全て確認の上対応が必要な場合は、そのFAX自体にコメントをつけ、各担当職員への指示を出しておく。​
ここまで全てスマホやタブレットだけでOK。

(旧来事務所)
所長は早めに出所するよう心掛けているが、各担当の業務進捗は朝礼まで不明。机の横に溜まった業界誌を「読まなきゃな」と思いつつ、昨晩返事できなかったメールの返信と、昨日事務所に居なかった際に積まれた書類・郵便の山で時間を取られる。もちろん紙で出力されたFAXは担当が出所するまで放置。​

​<08:45am>

(耕夢)
職員が​出所。掃除やシステムメンテナンス、郵便の受け取り、有給管理、小口現金、消耗品管理・発注など総務的業務も「総務チェックリスト」の「期日到来・未実施チェックリスト」を参考にしながら漏れなく総務業務を行っていく。
業務時間が始まると、まずは「直近スケジュール」で自分に加えて所長、他の職員の2週間分のスケジュールを確認。他の職員のスケジュールに給与計算やお客様との面談など「クリティカル業務​」マークの付いたものがある場合、体調不良による休みはもちろん、お子さん​の急な発熱により保育園に預けることができなかった場合の「在宅切り替え」など、バックアップ対応を皆で検討しておき、カバーしきれない場合は所長に報告して対処を頼んでおく。

(旧来事務所)
職員が出所。朝礼までに掃除などを進めるが、特にマニュアルはないのでベテラン職員の経験次第で、時々抜けることがある。
9時からは30分ほどかけて朝礼。本日行う業務や来所予定、申告期限などの確認を行うものの、報告方法や内容もメモや口頭で、網羅性の確保やフォローアップは難しい。本日急に体調不良で休んだ職員の担当業務については、業務進捗は本人しかわからず、とりあえず「何かあったら所長に相談する」ことにした。

<10:00am>

(耕夢)
朝一の業務が終了したので、次は今月が決算期末の​お客様の決算書・申告書作成。耕夢(こうむ。案件のこと)ごとに用意されたチェックリストを見ながら、漏れのないよう作業を進めていく。チェックリストのスケジュールに基づき早めに資料を依頼しているため滅多にないが、追加資料が必要となった場合も「外部chatter」で依頼、お客様からはファイルを添付してすぐにお送り頂く。「外部chatter」のセキュリティは十分に確保されているので、ファイルもパスワードなしで添付して頂いてOK。

(旧来事務所)
それぞれが自分のカレンダーにメモ書きした業務をスタート。​決算作業は前年の踏襲と各担当の経験に基づいて進める。しばらくして資料が足りないことに気づき、電話でお客様に依頼したものの、届くのは明日。他の業務も取り立ててないので(実際には見えていないだけ)手待ちになる。

<12:00pm>

(耕夢)
全員不在を避けるためランチタイムはシフト制としているが、担当が不在の際お客様から問い合わせがあっても、「外部chatter」でのやり取りやその他お客様関連データ、経緯は全て​掲載されているため、担当以外でも即座に対応が可能。

(旧来事務所)
お昼に出ようと思ったら、お客様から問い合わせのお電話が。運の悪いことに本日お休みの職員が担当しており、状況も資料もわからない。仕方がないのでその職員の携帯へ電話するが、病院へ行っているのか連絡がつかない。お客様には「申し訳ありませんが職員が不在で」とお詫びの電話を入れる。​所長はランチを兼ねて夕方まで外出してしまい、これまた電話に出ない。

<1:00pm>​

(耕夢)
所長が新規ご紹介先の工場を訪問のため外出。スキャンされた名刺がデータ化され、あらかじめ顧問先データ登録が完了しているので、スマホアプリから登録された電話番号に電話することも可能。また、登録された住所は地図に変換されてスマホのナビにそのまま転送されるため、徒歩、車、公共交通機関などを使った詳細なルートと所要時間が即座に表示され、初めての訪問でも迷いや遅れがない。​

(旧来事務所)
所長はフットワークが軽いのはいいが走ってから考えるタイプのため、外出してから「あのお客様の連絡先どうだったっけ」「○○の資料送って」「迷ったからちょっと遅れると連絡入れといて」など、職員頼みの行き当たりばったりな行動が多くなってしまう。そのたびに職員の作業は止まり、生産性は下がっていく。​

<2:00pm>

(耕夢)
午前中に行われた業務で耕夢の進捗割合が変わったので、それをトリガーとして自動で「内部chatter」に進捗度が掲載される。また、月次試算表が完成したら、これもPDFで「外部chatter」に掲載、社長向け伝達項目となる今月のトピックなどもコメントしておく。耕夢のリストには進捗度に応じて作物の育成段階を模した動くアイコンが設定されており、「(辛い)仕事」ではなく「お客様のために丹精込めて作物を育てる」イメージが持てて面白い。
また、隙間時間も前倒しの仕事はもちろん、​「期日経過・未完了ダッシュボード」を確認し、少し遅れ気味な他の職員の耕夢に関するチェックリストを代わりに実施したり、chatter掲載の業界誌を読んだりと、手待ちになることはほとんどない。

(旧来事務所)
資料の遅れもあり、集中月の決算作業は遅れがち。前年度も申告期限ぎりぎりになって税額や報告予定日のご連絡をしたので今年はなんとか早くしたいが、昨年辞めた職員の後を引き継いだためまだ業務に慣れず、マニュアルもなく過年度の資料を見ながら進めるのでなかなかスピードが上がらない。自分はバタバタしているのに、手待ちで所長が居ないのをいいことにネットを見ている職員がいるとストレスがたまり、はや転職を検討している。​

​<3:00pm>

(耕夢)
他の担当が仕上げた決算の「検算」を、副担当として実施。​該当するお客様の「チェックリスト」を表示し、一つ一つの項目がきちんと実行されているかを確認していく。ドラフト決算書や申告書も「chatter」にて掲載が可能となっているので、出張先や在宅でも、またタブレットでも検算作業が可能となっている。
検算により発見された特定の事項は「チェックリスト」の「添付書類コメント​」に記載する。このコメントにはタグが付けられており、「税理士法33条の2の添付書面(税務調査のリスクを減らす書類)」への記載事項へ自動的に転記される。またこれらのタグは、チェックリストそのものの改訂、消去を指示する場合にも利用できるようになっている。

(旧来事務所)
決算は完成したが、所長が不在で、他に内容を知る者もいないので、とりあえず印刷して注意事項やまだもらっていない書類などを付箋に書いて所長の机の上に置いておく。以前別のお客様で税務調査があった時、チェック漏れで大きな失敗を指摘され、お客様からも所長からも叱責された記憶がちらつく。もっと勉強しなきゃとも思うが、なかなかその時間も取れなくて不安が募る。​

<4:00pm>

(耕夢)
保育園のお迎えがある短時間職員が退所。明日は乳幼児健診があるため在宅勤務の予定だが、留意事項は関連する「chatter」に記録してあるため、業務はシームレスに進めていける。
また、どうしても質問の必要な場合「内部chatter」で資料を添付して問い合わせをしておけば、スマホアプリでお迎え後など手の空いた時間に簡単な回答を貰うことも可能となっている。

(旧来事務所)
病欠の職員とようやく連絡がつき、午前中の質問事項をお客様に伝えることができた。このやり取りで取られた時間はかなりのものだが、表向きは自分の仕事が進まなかった結果しか残らず、なんだか損した気分になる。今結婚を考えている相手がいるが、出産、育児をこの環境で乗り越えられるとは思えず、非常に悩ましい。

<5:00pm>

(耕夢)
業務をこなしながら、お客様とは「外部chatter」を中心に​密なコミュニケーションを取っておく。電話やメールでも連絡は可能であるが、「税理士法41条に規定する業務処理簿」に記載すべき税務に関する質問・回答や、どんな業務を行ったか​といった情報は、chatterを使えば二度手間がなく効率的で、正確かつ分かりやすい。パソコンメールすら使えないお客様でもSNS的な使い勝手のスマホ向けchatterアプリは馴染みがあるし、資料のコピーもその場で撮影したものを鮮明に投稿できるので、業務に関連しそうな書類はすぐ掲載される。使い勝手の良さから「パソコンよりこっちの方が便利」という年配の経営者も出てくるほど。

(旧来事務所)
定時終了間際に、お客様から電話とFAXで「明日が期限なので今日中にこの資料を作って欲しい」と頼まれる。内容を見ると2カ月前にはわかっていたことで、その時一言入れておいてくれれば…という言葉をぐっと飲みこんで残業を覚悟する。何時も「ほうれんそうが大事」と言っている所長にはメールで報告しておくが、返事がなく読んだかどうかすらわからない。

​<5:30pm>

(耕夢)
業務時間終了少し前に、「スケジュール」と「実績」を入力。スケジュールは、今後最低でも2週間程度​の業務予定を日時(開始・終了)を指定して記載し、また、実績については先に書いてあるスケジュールを基礎とし、それぞれの耕夢単位で実際にかけた時間を入力する事で効率的に記録できる。総務業務や担当外のヘルプ業務を行った場合でも実績として記録され、業務実績の評価は正当に行われる。
実績が記録されると「内部chatter」に「退勤記録」が自動的に掲載され、定時できちんと退所できたことが出張中の所長にも確認できる。​また、上手にヘルプ業務を行った場合や難しい課題を解決した場合には、所長や職員から「いいね」やお礼のコメントがついてくる場合もある。
有給休暇も内部売上を割り当てられた「耕夢」の一つとして扱われており、予定を登録することで自動的に「内部chatter」に申請が行われる。承認はその申請に所長が「いいね」することで完了する。有給休暇の累積と残り日数はレポートで自ら確認できるので、業務の状況にも配慮しつつ無理のない消化が可能となっている。​

(旧来事務所)
急ぎの書類作成は意外と計算が難しく、終わる気配もないまま定時にタイムカードを押せない日が続く。本日積み残しの仕事はとりあえず明日以降に回すしかなく、「こんなに忙しいのに何考えてるんだ」と言われて有給すら取りづらい。

<7:00pm>

(耕夢)
所長が出張先から自宅へ直帰。その間にスマホアプリで本日実施された業務やその時間、耕夢の割り当て状況、お客様ごとの採算に目を通しておく。お客様とのやり取りや事務所内外での通知事項だけではなく、耕夢の進捗状況やチェックリスト改定内容、受信FAX、送付状控など全てが内部・外部chatterに記載されているので、これらをブラウズしておけば翌日に持ち越すことなく連絡や意思決定を行うことができる。

(旧来事務所)
ようやく書類ができたので、お客様にFAXして業務終了。​置きっぱなしの決算書の上へさらに控を置いて、帰り支度を始める。明日この件で朝礼後時間がとられると、溜まった仕事がまた遅れてしまうとうんざりする。

病院は簡単に乗っ取れる

ちょっとセンセーショナルなタイトルですが、全くのフィクションでもありません。
病院が乗っ取られたり、不正の温床とされた事例を再構成し、どういう点が脆弱なのかを書いてみることにしました。
今回は防衛策に触れていませんが、いずれそちらの話も書いてみようと思っています。
こういった不正を防止する枠組みを作るのは、公認不正検査士の業務領域の一つです。

なお、今回少し趣向を変えて、「いらすとや」さんのイラストを挿絵に使用しています。

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1.とある病院にて
医療法人根木会 加茂病院

1

設立40年になる中堅総合病院(ベッド数200床)で、規模は小さいながらも長年地域医療に貢献し、患者の皆さんから重要な病院として親しまれてきた。

院長は長年内科に携わってきた穏健な医師で、公立病院の内科部長を務めたあと父親の設立したこの病院を引き継ぐ。

2

専門である医療に関しては経験が長く、またよく勉強しており、患者や勤務医師・看護師からの信頼も厚い。
しかし…

経営管理の甘い病院はここ数年資金難にあえいでおり、新たな設備投資はおろか、現場での医療資材、消耗品等の支払にも黄信号がともっている状態。

このままだと、早晩給与の支払いにも影響が出そうな状態となっていた。

3

2.コンサルタント登場
メインバンク:「この資金繰だと、新たな資金のご融資は難しいですね。
大幅なリストラを行って頂くと同時に、追加担保を差し入れて頂かないと取引継続すら難しくなります」

4

院長:「…事務長なんとかして」

そこで、弱り切った事務長が、ツテをたどって探してきたのがコンサルタントA氏。

5

このA氏、元銀行マンらしく、初対面から自信満々で「今の資金繰りを改善し、新たに銀行との融資も見事まとめて見せましょう!」と大変頼りになる言葉を発してきた。
「銀行と交渉するためには、私が顧問だけではなく理事になっておく必要があります。また、対外的に箔が付きますから社員にもしておいた方が良いですよ」

3.A氏の「手腕」
A氏は早速銀行と交渉を開始。
言われた通り、「社員・理事」として扱ったことが良かったのか、はたまたA氏の銀行時代の経験や人脈が効いたか、若干条件は厳しかったものの、新しい取引銀行がつなぎ融資に応じてくれた。

7

危機を救われた院長はA氏を完全に信用し、もうなんでもA氏に相談するようになってしまう。
そこでA氏から一つ提案をしてきた。

8

「事務長、人は良いのですが、今のように大変な状態を乗り切ろうとすると、力不足かもしれません。どうでしょう、私の仲間で、医療事務から経理、労務や税金まで何でもよくできる者がいます。入れておけば何かと安心ですよ。事務長がへそを曲げてはいけませんから、事務長は今のまま理事としておき、彼は事務長「補佐」、理事にせずとも、私と同じように社員で十分です。
さらにA氏は提案を続ける。

9

「院長、もっと資金を入れて経営を安定させましょう。
これまた私の仲間に、医療法人専門の投資家がいます。銀行ばかりだと金利もかさみますし、ここはひとつ債務を肩代わりしてもらい、同時に彼も社員にして経営参画してもらっては?院長もだいぶ楽できますよ」
A氏を信用しきった院長は、この提案も疑うことなく受け入れてしまう。

4.支配と追い出し
医療法人の役員会に当たる理事会は、以前からあまり開かれていなかった。しかしA氏が影響力を増す中、どうも納得のいかない理事たちが集合、理事長やA氏抜きで議論を始めた。

10

その中には、どこで調べたのかA氏やその周辺の胡散臭い噂を持ち出す者もいた。しかし肝心の理事長(院長)がA氏に頼りきりとなっており、理事会として具体的な方針を決める間もなく社員総会の日がやってきた。
社員総会の日。
A氏が連れてきた副事務長が、「こういうことはちゃんとしなければだめだ」と言い出したため、これまで適当だった手続が妙に厳格となって開催された。

11

と思っていると、今回任期満了(2年)で再任予定だった理事長はじめ元からいた理事の再任事案が全て否決されてしまった。
社員の過半数は既にA氏の関係者ばかリになっていたのだから当然である(※)。

12

かくして、理事長はじめ元からいた理事が全員再任されない社員総会議事録が作成され、登記されてしまった。
理事長は、「出資割合に応じて社員の議決権の強さが決まる」とA氏から嘘を聞かされていたため、こんなことが起こるとは想定外だった。
A氏はこれまた息のかかった医師を形だけの理事長に据え、完全に医療法人の乗っ取りに成功した。

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※医療法人社団のモデル定款(社員関連)
第6条 本社団の社員になろうとする者は、社員総会の承認を得なければならない。
2 本社団は、社員名簿を備え置き、社員の変更があるごとに必要な変更を加えなければならない。
第7条 社員は、次に掲げる理由によりその資格を失う。
(1) 除 名  (2) 死 亡  (3) 退 社
2 社員であって、社員たる義務を履行せず本社団の定款に違反し又は品位を傷つける行為のあった者は、社員総会の議決を経て除名することができる。
第8条 やむを得ない理由のあるときは、社員はその旨を理事長に届け出て、その同意を得て退社することができる。
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5.実態の判明
A氏が本性を現すのはここからである。

13

どこからか集めてきた生活保護者(医療費が全額補助される)への過剰診療を新しい院長(理事長)に指示する、健康保険の不正・架空請求をする、職員を減らし、安全を無視してでもコストダウンするなどの方法で不正な利益を追求し始める。

さらに息のかかった業者からの仕入にはキックバックを強要し、病院の設備投資として受けた融資資金は不正仲間のペーパー会社に支払う、架空の看護師による看護基準での不正請求、その架空人員への給与を自身に還流させるなどありとあらゆる手段で病院の資金を吸い取っていった。

14

ところが、これらの不正はなぜか裏帳簿にまとめられ、逐一報告を受けている者がいた。
実は、これら不正な利益の一部はA氏のバックとなる某反社組織に上納されていたのである。

15

これらの上納金は、生活保護者集めや架空人材情報の提供、反対する者への圧力など様々な効果の見返りや、用心棒代としての名目であったとみられる。
まともな医師や看護師等の職員たちは嫌気がさしたり危険を感じたりして次々退職してしまい、不正に加担するか、何も考えない者と、せっかくの病院を蝕む悪人だけが残ってしまった。

6.病院経営の実態
平成30年度病院経営定期調査(一般社団法人日本病院会、公益社団法人全日本病院協会、一般社団法人日本医療法人協会、平成30年6月時点)によると、医業利益が赤字の病院は全体の6割を占め、さらに全体の53%が減益となっている。
このように、病院の経営は「悪いことが普通」の状態になっている。また前述した医療法人のガバナンスについては、病院経営者の多くがきちんと理解し、リスクに備えているとはいいがたい。この結果、今回書いたような事態をフィクションとして笑い飛ばすことはできない状況にあると言える。