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中小企業の不正会計と監査役(3/3)

前回、前々回は、

  • 公認会計士の監査を受けない中小企業でどのような会計不正が発生するか、また唯一対応できると言ってよい監査役がどのようにそのような不正に対応すべきか
  • 上場会社でもよく行われて問題となる「循環取引(架空循環取引)」について説明し、どのように監査役が対応すべきか

についてご説明しました。

今回(最終回)は、在庫の過大・過少計上、架空人件費の計上、横領といった、中小企業でも頻繁に発生する不正について詳しく説明し、監査役がどのように対処すべきか検討します。

3)在庫過大、過少計上
この不正は、在庫を過大計上・過少計上することで利益を実際より多く、あるいは少なく見せかける手法です。

会社の営業利益は「売上高-売上原価-営業費」で計算されますが、この中の売上原価は「期首棚卸高+当期仕入(製造)高-期末棚卸高」で計算されます。
このため、在庫(期末棚卸高)を不正に調整すると、以下の通り利益が連動して調整できることになります。

  • 在庫の過大計上→売上原価の過少計上→利益の過大計上(粉飾)
  • 在庫の過少計上→売上原価の過大計上→利益の過少計上(逆粉飾、脱税)

在庫を調整することによる不正は、先にご説明しました売上を使った不正と比べ、自社(部門)が持つ在庫の有高を上下させるだけで済みますので、会社単独での実行が容易です。このため、入金の遅れなど外部からの情報や影響で発覚することがほぼありません。会社内部の管理体制で防止、発見するしかない不正であると言えます。

(事例)
E社は今期大きく売上を伸ばし、期末の時点で多額の法人税発生が見込まれていました。このため、E社は実地棚卸の結果算定された在庫金額を(書類上)大きく削ることで売上原価を不正に増やし、利益を圧縮することで法人税額を減額しました。業績が好調で例年と比較して利益率も高かったため、不正に増やした売上原価でも昨年度までと比べて大きく利益率が変動する訳ではなく、不正は発覚しにくいと考えていました。
ところが、決算期から半年後税務調査を受けた際、期末日後2週間程度の間に計上された売上伝票と在庫計上額、期末日直前直後の仕入額などを突き合わせた結果、期末日現在に存在しなければ売上が計上できない在庫が多数発見されました。この結果、期末の在庫残高が不正に減額されていることが発覚、追徴課税を受けました。

(発見・防止手法)
在庫に関する不正も、その実行の容易さに比べ発見はさほど簡単ではありません。例えば棚卸の際に現場を確認しに行く時間的余裕があったとしても、卸売業のように多量の在庫が多数存在する場合、過大計上や過少計上はもちろん、架空在庫や帳簿外の在庫を何のテクニックもなく探すことは至難の業です。ましてや期末日から何日も経過した状況で、何の資料もなくこのような不正を発見することは不可能と言っても良いと思います。

前述したような税務調査の担当官や公認会計士はこの手の発見手法をいくつか知っていますので、そのうちの一部をご紹介します。

  • 前年度との比較
    在庫の残高を前年度やその前と比較します。事例でご紹介したように、売上高や生産高が大きく変わっていれば前年度と変化がなくても異常のある場合もあり得ます。そのような場合は、売上高や仕入高などとの比率(回転期間や回転率と呼びます)で比較するのも有効です。
  •  棚卸日直前の売上、仕入、製造
    通常棚卸時には正確を期すため販売や仕入、製造をいったん止めますので、直前に販売されたものは在庫がなくなっているはずですし、仕入や製造されたものは在庫として存在するはずです。このチェックは販売や仕入、製造の会計データと棚卸集計表を突き合わせることで実施可能です。税務調査の場合はこの手法が良く採られます。
    同様の手法として、棚卸日後1か月程度の在庫を自ら検数し、期末日からの売上、仕入、製造などの記録と突き合わせて期末日の棚卸高を推定し、棚卸集計表と合致するかどうかを検討する方法もあります。
  • 滞留在庫や預け在庫、預かり在庫の有無
    架空循環取引でも登場しましたが、長期間動きのない在庫や、仕入先などに預けていてここにはない、と担当者が主張する在庫などはそれぞれ架空在庫の可能性があります。もちろん架空在庫ではなくても、滞留していたり預けられているのは相当に異常な取引ですので、監査役としては取締役に状況の把握や承認の有無を聴取し、適切な対応を取るよう意見を述べる必要があります。
    また逆に、棚卸表に上がっていないのに倉庫や工場に置かれている在庫についても、在庫の過少計上の可能性があります。得意先からの預かりであるなどと説明をされた場合でも、その事実を確認するのみならず、預かり自体が適切であるかを判断する必要があります。
  • テストカウント法
    棚卸の当日、現場を見て回りながらいくつかの在庫を自分でも数えてみます。その結果と現場の検数担当者の結果を照合して正しくカウントされているかを確認するとともに、後で作成される棚卸集計表において正しく集計されているかについても確認します。現場の担当者と集計担当者や経営層との共謀を防ぐため、それと告げずに検数する場合もあります。

4)架空人件費
この不正は、文字通り架空の人件費を計上する方法です。人件費は製造原価や販売費管理費の一部を構成しますので、架空計上をすることで、利益は実際より少なくなります。この目的は、直接的には法人税の課税所得を減らす、すなわち脱税に使用することにありますが、経営者が自由に使える資金(いわゆる裏金)をねん出するために使うことも少なくありません。

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ただ、通常は会社の場合社会保険の手続がありますので、雇用した従業員などの氏名、住所、給与額などは届け出る必要があります。このあたり全く架空の人間を届出するとすぐにばれてしまいますので、非正規雇用、つまりアルバイトなど社会保険の加入義務のない方を対象とするケースが多いようです。

類似の不正として、全くの架空ではないものの、実際の給与計上額より少ない額を本人に渡し、差額を経営者が裏金として取得するというケースもあります。このような不正の場合、社会保険などの手続も適法になされていますし、また本人も手取りがある程度確保されていれば文句を言わない可能性がありますので、発見は比較的難しくなります。

また、結婚相手や親などの扶養になっている場合、その相手の所得税が増えるのを嫌って扶養の範囲内(例えば給与の場合は年間103万円)を超えないように、経営者に給与の調整を依頼する場合もあります。

私は架空人件費の事例に当たることはそこそこあったのですが、あまり面白いものはありませんので事例そのものは省略し、発見・防止手法に進みます。

(発見・防止手法)
架空人件費は架空の従業員を設定することから始めますので、最も有効な手段は「給与の一覧表に載っている従業員が実在するかどうか」を確認することです。

 例えば給与台帳から何人かの従業員をピックアップし、現場に赴くか電話などで呼び出してみるというのは最も簡単な方法です。

 実際の支払額が給与計算額より少ないという不正の場合は発見が若干難しくなります。振込支払が原則であれば本人の口座に正しい金額が振り込まれているかどうか総合振込依頼書の控などで確認すれば良いのですが、現金支払の場合は、給与を受け取っている本人からの供述がない限り証拠資料をつかむことがほぼ不可能と言って良いかもしれません。

5)横領(現金横領、架空仕入れなど)
会社の不正と言った場合、誰もが思い浮かべるのがこの「横領」です。横領は雇用者である会社の金品を不正に取得等することですので、それ自体が不正そのものです。しかし、例えば売掛金の回収横領、架空経費の支払、現金預金勘定の改ざんなど期末処理を中心とした不正会計を通じて、必ず決算書に問題を発生させることになります。このことから、会計監査の観点からも対処が必要となります。このセミナーにおいては、昨年発覚して注目された「仮病キャバクラ嬢への献身横領事件」を事例として取り上げたいと思います。

 (逮捕)
務先だった工業用ゴム資材の卸商社『シバタ』の資金を自分の口座に振り込ませ、だまし取ったとして、警視庁中央署は2012年4月11日、電子計算機使用詐欺の疑いで、栗田守紀(もりとし)容疑者(当時33)を逮捕しました。直接の容疑は、2009年4月から翌年の7月まで、同社のパソコンを操作し、55回にわたって自分の給与とは別に計23000万円を自分の口座に振り込んだというものです。
栗田容疑者は同社が2005年に開設したインターネット・バンキングの法人口座の責任者に命じられると、すぐに不正に手を染め、以来約200回、計約6億円を詐取したと見られています。

(横領の目的)
栗田容疑者は同社の元経理係長。横領した金額のうち総額5億円以上を、なんとお気に入りのキャバクラ嬢に貢いでいました。
当キャバクラ嬢は、2004年ごろから、東京都葛飾区のJR亀有駅付近の店にて働き始めました。栗田容疑者は彼女と次第に親密になり、栗田容疑者はアフターも含めると月に数回は一晩あたり4~5万円使っていたそうです
 その後ほどなくして、彼女は栗田容疑者に『胃がんを患っていて入院費や手術費が必要だ』と金を振り込ませるようになります。当初は数万や数十万だったその要請はエスカレートし、様々な病気にかかったと理由を付けた上で、多いときは一度に1500万円という場合もあったそうです。
その間彼女は「無菌室に入っているから」などとメールで連絡を取るだけで栗田容疑者に一度も顔を見せることはなく、見舞いに行くなどと言われると「信じてもらえないなら死ぬ」などと拒否していました。しかし実の所は、栗田容疑者から振り込まれた金をブランド品の購入やホスト遊びなどにつぎ込んでいたそうです。

 (横領の手口、発覚)
同社は工業用ゴムやプラスチック資材などを卸す商社です。当時全国に40カ所の拠点を持つ中堅の同族企業で、業界内においては「堅実な経営」で知られていました。
これに対し栗田容疑者の不正手口は稚拙なもので、銀行から発行される口座の入出金記録や残高証明を破棄、自ら虚偽の記録を作成していたそうです。
結局、2010年7月に税務署の調査が入り、容疑者の不正が発覚しました。しかし時すでに遅しで、それまでに同社が余裕資金として持っていた数億の資金が失われたことになります。

(発見・防止手法)
このようなケースは、金額の多寡はあれ決して珍しいものではありません。共通しているのは、以下のような点です。

  • 経営者に信頼される、堅実で文句も言わず休みなく働く経理担当者
  •  人材に乏しく、担当者が十数年交代していない
  •  担当者以外にはITに堪能な者がいない
  •  老舗で、資金繰りに比較的余裕がある

 このような横領を防ぐには担当者の交代(ローテーション)や強制的な休暇によって一時的に他人に業務をさせる手法が最適ですが、人材の限られる会社の場合にはどうしても躊躇してしまうと思います。しかし、厳しいようですがそのような方法を採らず一人の担当者が長期間経理業務を行っている場合、少なくない確率で、というより確実に不正が発生すると認識頂いた方が良いと思います。

なおこれらに合わせ、銀行からの残高証明や取引記録などについて、社内で別に作成したものやコピーを信用せず、必ず原本を確認する必要があります。残高証明などは社長等に直接届くなど、改ざんの隙を与えないという点をみせておくことで防止の一助にはなり得ます。

3.まとめ
1)監査役は不正にどのように対峙すべきか
これまで会計を中心に、会社で起こりうる不正のいくつかと、またその事例や対処についてご説明してきました。
不正リスクはどのような会社にもあり、完全にゼロにすることはできません。また、不正の手口それぞれに発見・防止手法も異なり、簡単に対応することができないものです。

公認会計士は、監査する際2013年4月から「不正対応基準」に従って監査しなければなりませんが、この基準を導入する際も相当な議論が交わされました。つまり、公認会計士にとっても不正への対応は難しい事なのです。
そうであれば、非上場会社の、しかも会計監査人がいない会社で、例えば経理や法務経験の乏しい監査役一人が不正に対して完全に対応することは困難を極めると言っても良いかもしれません。監査役は現場に多く立ち入ることも少ないですから、その点でも不正への対応は難しいと思います。

最後の項目は、このコラムのまとめとして、これまで説明した対応策などの他、監査役がどのような心構えで不正に対峙すべきかをご説明します。

2)変化の利用
横領や架空循環取引などに代表されるように、不正は担当者や商慣行が変わらないために発覚が遅れることが多くあります。

組織におけるの不正にとって、一種の「天敵」と言っていいのが「変化」です。この「変化」は、組織の変更、業務内容の変化、取り引き先の変動、そして監査役の交代や税務調査など、あらゆる概念を含みます。

 監査役自らが変化を発生させるわけにはいきませんが、そのような変化がある場合には必ず不正が明るみに出るチャンスがあるという認識を持っておく、いわばアンテナを張っておくような気構えが必要です。

また、新たに監査役に就任した際も注意が必要です。不正はそれが根深いほど過去から連綿と受け継がれている場合が多く、昨年との比較だけで判断できない場合も多いのです。例えば、就任する期の貸借対照表における資産、負債の内訳をチェックし、不明な残高について担当に裏付けとともに詳細な説明を求めるという手法は、過去から受け継がれた不正を発見する基礎となるだけではなく、今後担当者が監査役を警戒して不正を行いにくくなるという抑止効果にもなり得ます。

 3)不正リスクマネジメント
不正リスクマネジメントとは、会社において発生しうる、潜在的な不正の可能性と重要性を把握し(固有の不正リスク検討)、識別された不正リスクに対処すべき措置を決定、実行して、それでも発見できないリスク(残存リスク)を最小化するというリスクマネジメント手法の一つです。

このような不正リスクマネジメントは不正の防止、発見にきわめて有効ですが、これを十分に運用するためにはコーポレートガバナンスや内部統制がある程度整備されていることが必要です。このため、会計監査人非設置会社にとっては少し難しいかもしれません。

ただ、就任している会社の不正リスクにどのようなものがあるかについて今回のようなカテゴリーを参考にして検討し、それらへの対応を検討する、またその結果に基づいて来期の計画を行うといったPDCAサイクルを、簡単なものであっても実施することや、またその実施していることを経営陣や従業員に認識させることで、不正に対する抑止効果には十分なりうると考えます。

4)不正を許さない社風
これまで説明しました内容は、いくら監査役が頑張っても、全て経営者がその気になれば容易に妨害できることばかりです。オーナー経営者なら、監査役を事実上解任することも可能かもしれません。会社法上監査役は一定の地位を保護されていますが、実際には上手くいかない場合も多くあります。

また、経営者自身にコンプライアンス意識が希薄な場合、また過去から不正を嫌わないような社風がある場合、経営者本人はもちろん従業員も不正に手を染める可能性が非常に高くなります。

このように、経営者の「経営姿勢」は不正リスクに大きく影響します。内部統制の考え方に置いては、これを「内部経営環境」と呼ぶことがあります。

この内部経営環境を適切なものにしていくことは、即効性がなく非常に難しく時間がかかるものの、不正の防止には非常に効果があります。監査役としては、経営陣と対峙する場合でも、自らをも律することで「不正を許さない社風」の醸成を目指してほしいと考えています。

以上(完)

中小企業の不正会計と監査役(2/3)

前回は、公認会計士の監査を受けない中小企業でどのような会計不正が発生するか、また唯一対応できると言ってよい監査役がどのようにそのような不正に対応すべきかを説明しました。

今回は、上場会社でもよく行われて問題となる「循環取引(架空循環取引)」について説明し、どのように監査役が対応すべきか検討してみたいと思います。

2)循環取引
①循環取引とは
循環取引は、複数の企業(通常は同業)・当事者が互いに通謀・共謀し、商品の売買や役務の提供等の相互発注を繰り返すことで、売上高をかさ上げして計上する取引手法です。

商社や卸売業者間において、一般に商品在庫の多寡を調整するため、業界内で保有在庫を転売し、在庫と資金の保有比率を適正に維持するという商慣行が行われることがあります。

一般にこのような商品の転売行為そのものは違法行為として認識されているわけではなく、行為自体を取締まる法的根拠も特にありません。

しかしながら、このような循環取引を悪用し、売上高の計上を意図的に操作することで、売上高を実態より大きくかさ上げして企業の成長性が高いように見せるために行う場合や、経営者から過度の売上達成のノルマを課せられて、営業担当者や営業管理職が当該取引を行うケースがあります。また、後でご紹介するように、特定あるいは複数の取引先に対し不正に利益を提供するために行われる場合もあります。

いずれにしても取引実態を伴わない売上高を過大に計上しているため、売上計上額に関する不正であると言えます。

②循環取引と類似の不正

  •  スルー取引
    スルー取引とは、自分の注文をそのまま他社に回す取引であり、一般的に複数の企業間で売上の増額を目的として実施されます。また、当該取引は、仕入先又は販売先との他の取引に対する利益補填や、仲介企業を介在させて納入までの時間差を利用した押込販売を目的とする場合もあります。
  • Uターン取引・まわし取引
    当該取引は、最終的に最初の販売元に戻る取引です。例えば、自社が取引の起点となり、商社を通じて販売取引が実施され、最終的には自社が販売した製品等が複数の企業を経由して自社に戻り、その間の利幅を上乗せした在庫等として保有されるものです。
  • クロス取引、バーター取引
    当該取引は、例えば、自社の製品等を市場での実際の価格水準より高い水準で相手方に売却し、相手方または転売先から別の製品等を同様に割高で購入する取引です。相手方への自社の製品等の売却が実需に基づいていないため、売却した製品等の上乗せ分を購入する別の製品等の価格水準に上乗せして調整する訳です。この結果、当該取引に参加している企業は割高な在庫をお互いに抱え続けることになります。

③循環取引の発見の困難性と対応策
循環取引の概要は上記の通りですが、この循環取引、取引に関わっていない者が不正を発見するのは非常に難しい特性を持っています。

ず、前述の通り循環取引それ自体は即違法ではありません。このため、循環取引による不正行為を発見するためには、慎重に取引の全体像の実態を把握する必要があります。

これに加え、循環取引は通常受注から納品まで、社内外の資料(証憑)は完全に準備されている場合が多く、これらの不整合をターゲットにした調査にそぐわないことも、この不正を発見しにくい一つの原因となっています。

循環取引における不正行為は、通常、行き過ぎた売上至上主義が原因となっている場合が多いでしょう。経営者や市場が売上高を重視するあまり、その期待にあやまった形で応えてしまうのです。経営者は決算書を作成するにあたり再度、売上計上の妥当性を検証するとともに、過度な売上至上主義に陥り、内部牽制や社員の集団的意識が機能不全を起こしていないかに注意する必要があります。

また、長年の古い業界慣行も循環取引を生みやすい土壌となります。業界が古く、歴史がある場合もリスクが高いと認識する必要があります。

④メルシャンの架空循環取引
れまでの事例は私が実際に経験したり、近い位置で見聞したりしたものでしたが、この架空循環取引については有名な事例がいくつもありますので、今回はその中の一つ「メルシャン」の架空循環取引をご紹介します。

メルシャンというと酒、特にワインのイメージが強いですが、この取引の舞台となったのは「水産飼料事業部」すなわち「養殖魚用の飼料」を販売する部門です。

2005年ごろ、当部門の顧客である養殖業者が経営不振に陥っていました。この養殖業者には、事業本部長の独断で社内規定より長いサイトの売上債権が滞留していました。また、そもそもメルシャンの水産飼料事業部自体が、キリンホールディングスと資本・業務提携を締結した後の社内で「お荷物」的扱いを受け、事業譲渡などリストラの対象となる可能性がありました。

この事業部はそういった動きに危機感を持っていました。このため、当該滞留している売掛金や、事業部の業績不振にどのように対処するか検討した結果、以下のようなスキームで養殖業者に資金を提供し、事業部利益を確保するとともに売掛金を回収することとしました。

  • メルシャンは製造委託先の飼料工場に架空発注し、架空飼料を入荷処理するとともに工場へ代金を支払
  •  飼料工場は養殖業者から架空の魚を仕入れ、これに対する代金を支払う
  •  養殖業者はメルシャンから架空の飼料を仕入れ、メルシャンに対して代金を支払う
  • これら一連の取引で養殖業者は架空の利益(とこれに基づく資金)を留保でき、その資金から滞留売掛金を支払う
  • メルシャンも架空の利益を積み上げ、事業部業績をかさ上げする

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取引図(メルシャン広報資料より)

当然ながら、メルシャンは架空の飼料をどんどん仕入れますが、利益をねん出するための架空取引ですので、架空在庫がどんどんたまってきます。また、養殖業者にも利益は確かに上がりますが、そもそも架空の取引を循環させているだけで実際にキャッシュが生まれているわけではありませんので、売掛金の滞留も解決はできません。

結局、不正な取引が隠し通せないほど積み上がったところでこの架空循環取引は発覚、公表されるところとなりました。

(発見・防止手法)

水産飼料事業部の工場は本社から離れた八代(熊本県)や宇和島(愛媛県)にあったため、そもそも目の届きにくい状態ではありました。とはいうものの、監査役と内部監査部長は、在庫の増加に疑念を持って工場を訪問しています

かしその際、結局は時間稼ぎや偽装によって確実な証拠をつかむまでには至っていません。しかも、それ以上追及することはなく、社長への報告もされていませんでした。
この点は本事例において大変残念な所です。

実はこの架空循環取引は、非常に発見が難しい不正であると言えます。在庫の増加に疑念を持っていた監査役や内部監査部長も、その原因である架空循環取引そのものに疑いを持っていたわけではありません。発覚して初めて、売掛金や在庫の異常な増加が不正な取引としてつながったわけです。

このような不正取引が発生する可能性があること、またそのような取引を許さない社風を社長以下醸成してもらうこと、また経理担当などから異常な財務数値などについて報告を受け、それを実地に調査する体制を整えること、など様々な方法を組み合わせて対処していく必要があります。

 

「会計専門家でない」監査役、監査等委員取締役は「会計上の見積り」にどう対応すべきか?

以前「監査等委員会設置会社へ移行した場合、ここに注意」 において、監査役会制度と監査等委員会制度(以下「監査役等」制度とします)における法律、実務上の違いとその対応について説明しました。
監査等委員会という制度自体への疑問や批判はありますが、今後の企業にとって「ガバナンス強化」という方向性が必要なことは明らかであり、監査役や監査等委員(この記事においては「監査役等」とまとめます)にとっては、これまで以上にその役割が重視される時代になっていると思います。

そうなると、「では監査役等はどのように監査すべきなのか」という論点が今まで以上に重要になってきます。

さらに法や会計に関する制度や実務が複雑化し、また様々な分野でコロナ対応やDX(デジタルトランスフォーメーション、デジタル化による変革)が生じている今、監査役等はどの論点においても非常に難しい判断や実務を迫られていると言えます。

会計分野はその中でも非常に重要かつ複雑な分野であると言えますが、その中でも特に専門的な分野である「会計上の見積り」という論点については、会計監査人たる監査法人や公認会計士に「任せきり」なのが実情で、リスクに比較して監査役等の理解、対応が十分とは言えないと感じています。

そこで今回は、この論点についてその概要とリスクの重要性、そして監査役等がどのような姿勢で、如何に対応すべきかについて、「会計の専門家でない」方でも理解、実践できるよう簡単に説明したいと思います。
かなり長くなりますが、是非ご一読ください。

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1.会計不正とは何か
最近特に注目を集めている会計不正。この会計不正はなぜ発生するのでしょうか。
投資家が株式に投資する際、最も重視する資料の一つが「決算書」です。
決算書は、会社が持つ現在・将来の「稼ぐ力」を見出すために必須のデータがふんだんに盛り込まれています。基本的に投資家は、このデータとその他の情報を組み合わせ、投資判断を行っているのです。

そうなると、この決算書を「実態より良く見せる」行為(古くから「粉飾」と呼ばれてきました)は、投資家を欺いて資金を得る、本質的には詐欺と同様の悪い行いであると言えます。
このような行為を、一般に「会計不正」と呼びます。

2.会計不正の類型
この会計不正、実は大きく分けて3つほどの類型があります。

①虚偽の事実に基づいて会計処理するもの
②子会社や関連会社、協力会社等を利用して損失を繰り延べるもの
③「会計上の見積り」を悪用するもの

このうち、①には、在庫の水増しや、架空売上などが当たります。実際に存在しない在庫や売上を計上することで、財産や利益を実際より増やして見せる、最も古典的な会計不正です。

売上から仕入や経費を差し引いたのが利益なのですが、仕入れた商品のうち決算期末に「在庫(まだ販売していない)」となっているものについては、「売上から差し引く仕入」に含まないことになっています。

このため、仕入は実際の金額を計算しておき、在庫を実際より不正に増やしておけば「売上から差し引く仕入」が少なくなり、結果として利益が水増しされるのです。

増やした在庫は実態のない資産として計上されますから、上の水増しされた利益と合わせて二重に会社の「稼ぐ力」を過大表示していることになります。

また、②には、損失の「飛ばし」や、循環取引(特定のグループ内で売上をぐるぐると回し、損失の発生などを先延ばししていくこと)が当たります。

これらは昔からよく行われる会計不正ですが、①は実地棚卸(棚卸資産を実際に数えて集計すること)や売掛金の確認(取引先に売掛金残高がどれくらいあるかを問い合わせること)で判明しますし、②に関しては子会社の監査や、通常と異なる条件の取引を調査することである程度見出すことが可能です。

これに対し、③に挙げた「会計上の見積り」の悪用が行われていることを監査によって発見するのは大変難しいのです。それは会計上の見積りが一般的に可視化できる事実とは離れた、「将来の予想」という重要な概念から作られているからです。

以下、もう少し詳しく説明します。

3.会計上の見積りとは
会計上の見積とは、一般に会計で取り扱う「売上」や「費用」といった個別の取引に関するものではなく、いくつかの特殊概念を含み、少し広い意味合いを持つ考え方です。

この会計上の見積について、日本公認会計士協会は、WEBページにある解説(「会計上の見積りの監査」)内で次のように説明しています。

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財務諸表に含まれる金額のうち、将来の見積や既に発生している事象であるがその金額を確定するための情報が不足している場合など、決算上、金額を見積もって計上しなければならない場合を「会計上の見積」という。
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この見積りには正しい情報が必要ですが、経営者が利用可能な情報やその信頼性には様々なものがあり、結果として会計上の見積りには不確実性が伴います。

単に不確実性が大きいだけではなく、経営者が利用する情報を偏って選択した場合、重要な虚偽表示(不正)が発生する可能性が高くなるのです(国際監査基準第540号より)。

会計上の見積りが関係する論点はいくつかありますが、以下、その例と想定される不正の可能性をいくつか挙げてみます。

①工事進行基準による収益計上
工事進行基準とは、工事やソフトウェアの開発等の売上を「完成した時に計上する」のではなく、その進捗に応じて計上する方法を言います。

総額100億円の工事を3年で進める場合、1年目の進捗が30%、2年目が45%、3年目が25%だったとすると、それぞれの年度における売上高(完成工事高)の計上額は30億円、45億円、25億円となります。

また、仮に工事が何らかの理由で赤字となることが分かった場合には、その赤字は進捗で分けずに全額が一度に計上されます。

この工事進行基準には、主に「収益総額」「原価総額」「進捗度」という3つの見積り要素が必要ですが、これらを操作することで、各年度の売上や利益を実際より大きくすることが可能になります。

②貸倒引当金
貸倒引当金とは、取引先や貸付先から将来どのくらい債権が回収できるかを見積り、あらかじめその債権を「仮に」減らしておく方法を言います。通常なら債権は全て回収できるものですが、相手の財務状況が悪くなるとこの減額を検討しなければならない場合が出てきます。この「仮に」減らしておく部分が「引当金」です(実際に貸し倒れが起きると、「貸倒損失」として処理します)。

例えば、10億円を貸し付けている先が経営不振で資金ショートを起こしそうな際、担保などを見積もっても3億円しか回収できない可能性がある場合、帳簿に計上した10億円はそのままで、負債の部に7億円の引当金を計上します。このネット額3億円が「回収見込み額」となり、引当金とした7億円部分は「費用(損失)」として利益を減らします。

この「回収可能性」は、「見積の見本市」とも言えるほどたくさんの論点があり、それぞれを操作すれば驚くほど大きな結果の差すなわち利益への影響となって現れます。

③税効果会計の繰延税金資産
税効果会計は相当難しい論点のようで、弁護士や企業経営者からもたまに「繰延税金資産って一体何?」なんていう質問を受けます。

この税効果、会計の理論としては非常に複雑なのですが、シンプルに要点を説明しますと、以下の通りになります。

  • 会計で計算される「利益」と、法人税率を掛ける「所得」とは違うものである
  • その違いは、主に費用計上が認められるタイミングのズレによって生じる(たいていは会計の方が早く費用計上される)
  • 会計で費用を計上しても、法人税で費用計上が認められないとなると、認められない部分については、とりあえず先に法人税を払っておかなければならない
  • この「先に払った」法人税(これを法人税の前払と言います)については、将来費用が認められるまで会計上は費用として計上できない

上記の「法人税の前払」部分が、「繰延税金資産」と呼ばれているものにあたります(逆に法人税の未払に当たる部分が「繰延税金負債」です)。

支払った法人税から、会計上費用にできなかった部分、すなわち繰延税金資産にあたるものを差し引いた結果がその時期の税金費用となりますので、差し引いた分だけ税金費用が減り、利益を押し上げる訳です。

もちろん、問題となった支払などが将来会計上の費用として認められれば、対応する繰延税金資産は会計上その時の税金として計上されることになります。

ところがこの「法人税の前払部分」は、いつでも利益を押し上げる効果があるとは限りません。

法人税において認められなかった費用の計上が将来認められる時点で、もし企業が赤字と予想されたらどうなるでしょうか。

後で認められた費用が減らすべき法人税はそこになく、繰延税金資産として計上されていた法人税は「前払」としての意味を無くしてしまうのです。となると、前払という意味で計上された繰延税金資産は資産として扱うことは出来ず、利益を押し上げる効果もなくなってしまうのです。

この考え方を「繰延税金資産の回収可能性」判断と言います。この判断にも「将来の収益の見積り」という、非常に恣意性の入りやすい考え方が含まれています。

④退職給付会計
退職給付会計は、税効果会計よりさらに複雑な理論を抱えています。ですが、これもシンプルに説明するなら下記の通りになります。

  • 現在雇用している人たちの退職金(規定や年金の状態で決まります)が将来どれくらい必要かを見積り
  • それをきちんと払うには「現在」どれくらいの財産が必要かを見積もる
  • これらの見積りに基づいて、現在足りない部分については費用を計上しておく

ご覧の通り、退職給付会計には「将来の退職金」と「それを払うための必要財産」という2つの見積りが必要です。

前者については退職金支給方法や昇給率、退職率、死亡率などを使用して計算するため非常に理論的に難しく、絶対の正しさとは言えないものの、年金数理士(アクチュアリー)など専門家に依頼することで、ある程度恣意性を排除した計算が可能となっているようです。

後者において問題となるのが「割引率」と言われる論点です。

現時点で計算すると、退職金を支払うための財源が10億円足りないと計算された場合でも、必ずしも今すぐ10億円準備しておかなければならない訳ではありません。投資利回りや期間を考えると、今これだけ準備すれば将来10億円になっている、という金額(現在価値)が計算できます。

この現在価値を計算する際に必要となるのが「割引率」です。この割引率の決め方にも一定の基準があるのですが、少しの操作で極めて大きな影響を与えることができるため、要注意の要素と言えます。

⑤減損
企業が持っている資産は、基本的に「稼ぐため」にあります。株主や銀行などから得た資金は、期待される以上の割合(投資利回り)で稼がなければ、営利を目的とする企業が存在する意義の一つが大きく失われるからです。

しかし、投資した資産(工場や有価証券など)が期待した収益を上げる事が出来なくなってしまうと、その時点で資産の価値は大きく下がってしまいます。現在の会計は、そのような兆候がある場合には、予想される収益の低下に応じて、資産自体の金額を引き下げてしまい、その引き下げた金額を損失として計上するように求めています。

これが、減損と言われるものです。

この「減損の兆候」を判断する際や、「予想される収益の低下に応じた資産の減額」を計算する際にも、会計上の見積りが大きく影響します。収益の低下を小さく見積もることができれば、大きな減損損失計上を回避できる場合があるからです。

その他、会計上の見積りが影響する分野は、減価償却計算、担保等で受け入れた資産の帳簿価額、各種引当金、リース資産の現在価値、市場価額のない有価証券の時価や国際会計基準における公正価値などたくさんあります。

4.監査役等の役割と対応
①監査役等と会計上の見積りの監査
会計上の見積りの計算には、経営者の意思決定や将来の見通しに基づく判断部分が大きく影響するので、場合によっては以下のような問題が発生します。

  • 会社の業績に与える影響が重要な場合、経営者の恣意性によって見積りがゆがめられやすい
  • 経営者は内部統制を無効化できるため、従業員を対象とした領域における内部統制システムの整備は、会計上の見積りを利用した会計不正には意味をもたない場合が多い

となると、会計上の見積りを悪用した会計不正に立ち向かうためには、経営者と直接対峙する権限や姿勢が必要となるのです。

このことから、たとえば監査法人等の会計監査人は、単に会計上の見積りの合理性を監査するだけではなく、「経営者が会計上の見積りを行う際に使用した重要な仮定が合理的であると判断しているかどうか」を「経営者確認書」という文書によって確認し、一定の牽制を掛けることにしています。

しかし、会計監査人は常に会社の内部と接触している訳ではありませんし、基本的には資料調査や従業員等へのインタビューのみに基づいて行われる会計監査で、経営者の意思が強く働く会計上の見積りを悪用した会計不正に100%対応など出来るものではありません。

また会計上の見積りに会計監査人が疑義を持ったとしても、経営者からある程度の外見的合理性をもって説明されたら、それを明らかに否定するだけの強い反証を用意することは極めて難しいのです。

また残念ながら、公認会計士たちも「不正」に真正面から対峙するようになってまだ日が浅く、対応が発展途上なのです。(「不正事例の研修を会計士に義務化 公認会計士協会 関根新会長」日経新聞記事)。

ここで私は、監査役等の役割がさらに重要になってくると考えています。

監査役等は、取締役会を筆頭に社内の重要会議に出席していますし、また通常は経営トップ層とも密なコミュニケーションを取っています。

このような立場に居る監査役等は、会計上の見積りを悪用しようとする兆候を最も早く感じ取ることができると言えます。

逆に、「対応しなければならない」という考え方もあります。

私のように会計が専門(公認会計士)である監査役等は言うに及びませんが、会計の専門家ではない方であっても、会社法における責任は専門家である者と変わらないと言われています。「私は会計の専門家ではないから分からない」と言っていてはいけないのです。

②監査役等の対処法
とは言ったものの、会計の知識なく会計の、しかも最も難しい分野の一つである「会計上の見積り」について、その合理性に関する判断を下すのはとても困難であるのも確かです。

そこで、そのような監査役でも対応が可能な方法をいくつかご紹介、ご提案してみます。もちろん方法はこれだけではありませんが、是非ご自身の能力をフルに発揮して対応してみて下さい。

a)トリガーを探る

会計上の見積りが必要となるシチュエーションには、往々にして「将来の損失発生可能性」がついて回ります。例えば、リストラ、投資の損失、退職金、貸し倒れなどがそれに当たります。

このような損失の発生可能性は、経営者をして会計上の見積りをゆがめさせる、悪いモチベーションとなり得ます。
そこで、監査役等は「近い将来損失になりそうな事象の発生可能性」について常にアンテナを立てておく必要があります。

もちろん、その事象がどれだけ損失を生むかという定量的な影響については、会計の知見を持つ監査役等、監査法人と協議することが必要です。

最も強力な情報源は「取締役会」や「重要会議」におけるやりとりですが、これ以外にも業界や競争相手の動向、場合によっては取締役以外の現場職員からの情報なども有用となる場合があります。

b)「質問力」を磨く
良い質問が出来る人は、良い情報を引き出せるだけではなくその場の状況をコントロールできます。会計上の見積りに対処するためにもこの力が非常に重要です。

例えば、「この債権の回収可能性は甘過ぎるじゃないか!」と断定的に指摘したとしても、先に書いた監査法人への対応と同様、専門的で一見合理性のある説明がなされたら、それを覆すだけの反証を用意することは素人にとって簡単ではありません。

これに対して、「この債務者の財務状況はどうやって調べましたか」「担保価値はどのように評価しましたか」「返済に回せるキャッシュフローはどうやって計算しましたか」「その確実性はどうですか」など、回収可能性を検討するに至った過程やその判断根拠について質問し、質問それぞれや他の状況との矛盾を探る方法は、相手に問題を自らさらけ出させる方法として有効です。

また、これらの質問と回答を正しく記録しておけば、万が一会計不正が発生した場合、自らが善管注意義務を果たしたことを立証できる証拠となり得ます(逃げを打つようですが、取締役や監査役等となる場合非常に大事な姿勢です)。

このような質問は会計的な知識がいると思われがちですが、一般的な経営者としての常識、リスク認識があれば十分に可能です。また、監査法人や会計の知見ある他の監査役等にアドバイスを受けても良いでしょう。

c)気兼ねしない
ここが一番大事な所です。
法律や会計の知見ある監査役等がそれぞれ法律、会計に関する質問、指摘をする場合はともかく、専門外の方が会計上の見積りに関係する質問をした場合、経営者や担当者から往々にしてあるのが下記のような反応です。

  • 「この業界は普通こうですよ」
  • 「○○と比較しても妥当だと思います」
  • 「専門外なんだから黙ってろ」

専門外で分からないことも多い場合には、こういう切り返しをされるとそれ以上の突込みを躊躇してしまいがちですが、そこで引いてしまってはいけません。

上記のような対応があること、それ自体が問題の所在を認識していることの表れとなっている可能性もあるのです。

もし問題がないのならば、専門外の監査役等にもわかる客観的・合理的な説明を行うべきですし、それをせず押し通そうとする場合には、妥協せずにわかりやすい説明を求めるべきです。

d)監査法人との連携
会計監査を担当する監査法人は会計のエキスパート中のエキスパートですが、上記の通り経営者から「ある程度幅を持った」合理性を説明されたら、それを完全に否定する反証を出すことは困難です。

このような点を補完し、監査上のリスクを減殺できるのが監査役等の存在であるとも言えます。

通常、監査役等の監査は原則として「相当性」監査(会計監査人の監査結果を相当と認める)ではありますが、それ以前に不正発生リスクを見出し、あらかじめ減殺しておく機能は監査役等にしか期待できないのです。

5.終わりに
会計監査人の監査も監査等委員の監査も同じなのですが、監査の本質的目的は「監査意見を出すこと」ではありませんし、「不適正、不適法意見」といったダメ出しをすることでもありません。

監査を進めていく上で、その監査の目的に応じて適切な経営、情報開示を行っていく体制が整備されていくようリードしていくことが一番の目的なのです。その結果として出されるものが監査報告であると私は考えています。

このために、監査役等は普段からアンテナを十分に張って適切な質問力により情報収集し、目立たず静かに平時のガバナンスを支える役割を果たすべきであると思います。

会計上の見積りが急激にそのリスクを増すのは、会社が業績落ち込みの階段を一段でも降りはじめた時、経営者がそれと気づかずに追い込まれ始めた時です。

如何に初動で止めるか、平時にその芽を摘み取っておくかが非常に重要です。

偉そうなことを書いてしまいましたが、このコラムが「ガバナンス強化」の時代を生きる監査役等の皆さんの参考になれば幸いです。

 

「実地棚卸」かんたんマニュアル(経理部門、管理部門向け)

ほとんどの方が「棚卸(たなおろし)」という言葉を聞かれたことがあると思います。
手持ちの商品について、数を数えることを言い、実際に数を数えることを「実地棚卸」と言います。
この「実地棚卸」、商品を販売していたり、また製品を製造したりする事業の場合には、少なくとも期末(出来れば中間や月次)で行う必要があるのです。
仕入や販売・移動などの払出が100%正確に記録で、品質や流行り廃りなどの変化がないモノを取り扱っている場合は帳簿記録だけで十分かもしれませんが、実際には記録間違いや現場での劣化、陳腐化などで記録残高を修正しなければならないケースも多くあります。
また、実地棚卸には大事な品物が盗難などの被害に遭わないよう、常に正確性をチェックしているという牽制としての役割もあります。
しかしこの実地棚卸、実際のカウント作業が大変なだけではなく、たくさんの注意点がある難しい手続なのです。
今回は、この実地棚卸について、簡単なマニュアルをまとめてみました。
このマニュアル通りに進めれば、誰でも正しい実地棚卸が行えます。
年末や3月決算に向け、ご利用頂ければ幸いです。

なおこの記事に関するお問い合わせは、このメールへのお返事か、弊所メールフォームをご利用ください。

souko

1.棚卸の手順
1)事前準備
①倉庫・工場等在庫配置場所ごとに見取図を準備、置き場に棚番等を付す
②タイムスケジュール見積、担当者配置、当日の生産・入出庫停止予定等決定と全社への通知
③商品および倉庫の整理整頓予定決定
④棚卸票の準備、検査
⑤商品受払台帳の整備(プレ棚卸)

2)棚卸の実施
①担当者の点呼、スケジュール最終確認、現場の整備状況確認
②緊急入出庫申請有無の確認
③棚卸開始宣言

3)棚卸票回収・集計
①棚卸票の回収
②商品受払台帳への記載
③在庫継続記録との差異把握
④差異分析と継続記録の修正

2.各段階での注意点
1)事前準備
①実地棚卸の目的(経営管理、資産保全、税務)や、生産・入出庫を止めなければならないことの重要性を十分に説明し、正確かつ迅速に終わらせることが担当者の責務であることを全員が認識する
②見取図や記号等に不備があると当日混乱の原因となるため、リハーサル等で慎重に確認を行っておく
2)整理整頓
実棚商品
・検数が行いやすいようなレイアウトで配置する
・同一品種・同一品名のものは、できる限り同一場所にまとめておく
・商品の品名、価格等を記載した紙を商品に添付しておく
・不良品、不動品等は正常品と区分し、整理しておくこと
(事前に処分や仕入先への返品・交換等行っておくことが望ましい)
預け品(社外在庫)
・原則として受け戻しておく
・受け戻しができない場合は、先方より預り証を受領しておくこと
預り品
・原則として返品しておく
・見本品、委託品、修理預り品等は通常品と区分し、整理しておくこと(返却しておくことが望ましい)
・返却できなかった預り品は、預り品であること、また預り先やその理由を明記した伝票を作成し、預り品置き場のよく見える場所に貼付しておくこと

3)棚卸票
リスト方式
・実棚在庫を記載しないこと(数えず書いてしまうため)
・残高のある商品名をリストしておくことは問題ないが、ないものもリストするか、加えて記載できる空欄を用意しておくこと
・実棚が終了したら、よく見える付箋等でカウントが終了したことを明示できるようにしておくこと
・その他記載内容以降は伝票方式と同様のため、この後は伝票方式を中心に説明する

伝票方式
・連番を付しておく
・できれば複写式が望ましい

4)商品継続記録の整備
・商品継続記録は棚卸前に締め切り、帳簿残高を確定させておくこと

5)売上、仕入、生産の締め切り
・売上、仕入については計上基準(検収基準、出荷基準等)を理解し、締め切りを厳格に守ること
・生産については原則停止する
・仕掛品等の評価を正確に行うため、原価管理上把握できるポイント(工程終了時点)等まで全て完了させてから生産を停止すること

6)緊急入出庫申請
・できるだけ断ること
・棚卸中やむを得ず入庫を行う場合、当該入庫を必要とする部門の長に理由と品名、数量等を記載した緊急入庫申請を提出させ、棚卸完了後当該申請分を除外する
・棚卸中やむを得ず出庫を行う場合、当該出庫を必要とする部門の長に理由と品名、数量等を記載した緊急出庫申請を提出させ、棚卸完了後当該申請分を追加する
・緊急入出庫分を加減算する場合には、申請書と入出荷伝票等を必ず照合すること

7)実地棚卸
棚卸責任者
・棚卸票を各在庫場所の棚卸担当者に割り当てる
・担当者への割当番号を記録しておく
棚卸担当者
・棚卸担当者は、区域ごとに2名一組(計数者、記録者)とする
・計数者が商品名・品番等と数量を読み上げ、記録者が商品名や数量等を棚卸票に記入
・棚番号が終わるごとに棚卸票を貼付する
・書き損じの棚卸票は、破り捨てずに×を付して回収する
検査担当者(経理部門や内部監査部門が実施監査法人等が行う場合も)
・棚卸実施場所を偏りないよう巡回し、実施状況を検査、指導する
・棚卸票の貼付漏れがないかを確認する
・サンプルを選んでテストカウントし、集計後の棚卸票と照合する
・可能であれば、現場の固定資産等の実地確認も行うと効率的

8)集計/整理
棚卸票の回収
・すべての棚の棚卸しが終了したことをレイアウト図で確認し、棚卸票を順次回収する
・回収終了後、配付枚数と使用、未使用、書き損じの枚数を照合し、紛失がないかを確認する
・棚卸責任者が、棚卸票の記載内容をチェックし、不備がある場合は現地を確認する
・訂正のある場合は、棚卸責任者が内容を確認し訂正印を押印する

商品受払台帳への記載
・実施棚卸数と帳簿残高とに差異がある場合には、もう一度現品と帳簿を調査し原因を追求する。
・過不足の理由が不明の場合は、棚卸責任者の承認を得て過不足数を商品受払台帳に記載
し、実際数量に一致させる

 

「クラウドファンディング」に騙される

最近よく聞かれるようになってきた「クラウドファンディング」。
インターネットのなかった時代には考えつかなかった素晴らしい発想ではあるのですが、我々のような不正検査士からみると、実は不正の温床になる場合があるのです。
ほとんどの真っ当な善意が踏みにじられることがないよう、警鐘を鳴らす意味も込めて書いてみました。

1.クラウドファンディングとは
クラウドファンディングとは、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、不特定多数の人が通常インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを意味します(WikiPediaより)。
昔からこのような形で資金を集める方法は用いられていましたが、2000年代後半になってインターネットを活用する形が定着し、「クラウドファンディング(以下「クラファン」とします)」と呼ばれるようになったあたりからは世間でもごく一般的になってきました。

具体的な流れとしては、必要な目的や資金をWEB上でプレゼンテーションし、クレジットカードで寄付、そして寄付者には金額などに応じて謝礼するなどといった形が一般的です。
現在では、慈善目的の寄付などにとどまらず、飛び抜けた発想をもった製品開発やゲームなどの開発、果ては結婚式の資金集めにまで(!)使われるようになってきました。

crowdfunding
(出典:朝日新聞社A-port)

しかしこのクラファン、素晴らしい目的をもった用途の中に、大きな不正の問題を抱えているのです。

2.不正な目的のクラファン
クラファンは、会社が上場するときのような厳格な審査や監査を受けているわけではありません。
また、サービスが充実してきたため、どんな者でも簡単に、ほとんどの場合無料でクラファンサイトを開くことができます。

このため、たとえば嘘の目的で寄付を集め、持ち逃げしてしまうことも比較的簡単に可能となります。

また、マネーロンダリング(資金洗浄。違法薬物や脱税、横領といった犯罪資金などを合法な資金として見せかける犯罪行為)にも利用が可能です。
たくさんのクラファンプロジェクトを作り、少しずつ多数の寄付を出したように見せて再度集めると、表向きはその集めた資金は合法な資金に見えてしまいます。

その他、薬物などの違法取引を返戻品に偽装して行ったり、様々な不正・犯罪の手口に利用される可能性があります。

クラファンの運営会社もこれらの不正に手をこまねいている訳ではなく、たとえば下記のようにチェックにかかったプロジェクトを停止するような措置は行っていますが、根絶するには至っていないようです。

fusei
C
ampfireの不正対処例

なお、事実と異なるなど不正なプロジェクトで資金を集めた場合 詐欺罪として処罰の対象となります(刑法246条 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する)。

3.クラファンサイトのオーソリ不正
まだあまり知られていませんが、「クラファンサイト自体が悪事に利用される」場合もあります。それは、クレジットカード不正との組み合わせによるものです。

クラファンの寄付の支払いは、ほとんどの場合クレジットカードで行われます。
この支払~決済に至る流れは、通常のネット通販と全く同じです。
ただ少し違うのは、「すぐに物品を発送せず(後ほどお礼は送られたりします)、支払い金額が少額な場合も多いので、申込者のチェックが甘い場合がある」という点です。

通販などでクレジットカード決済を行う場合は「オーソリゼーション」と呼ばれる信用チェック手続きを必ず利用します。この手続きは、カードそのものが有効か、また限度額を超過していないかなど、カードの利用可能性をチェックする必須の手続きです。

オーソリ
三井住友カード のサイトより

しかし、不正実行者はここを悪用します。

情報流出などによって不正に取得したカード番号などを使い、自動的に多数の申込手続(実際の決済までは進ませない)を行って、そのカードが有効かどうかをチェックし、不正利用するのです。

このチェック手続きは通常ボットと呼ばれる自動プログラムで行われます。また、最近はカード会社の番号法則に基づきランダムに作成した番号が有効かどうかをチェック(ランダムアタック)するためにも使われているそうです。

一般の物販サイトは、通常多数の人間から多くの注文があり、キャンセルされるなどの異常な取引があればすぐにわかりますが、クラファンの場合は少額でたくさんの取引が発生しやすく、チェックがかからない場合があると言われています。

こうなると、「データ漏洩で不正に取得されたカード番号」だけではなく、「全くどこにも提示すらしていないあなたのカード番号」すら、場合によっては不正利用される可能性もあるのです。

4.不正を防止するには

クラファン運営会社やカード会社は不正対策を進めていますが、まさに「いたちごっこ」であり完全に防ぐことは難しいと思います。また不正を野放しにしておくと、クラファンというせっかくの良い仕組みが悪いものとみられ、衰退してしまうかもしれません。
このため、利用者である我々としても、できるだけ不正を防止する努力をする必要があると思います。

たとえば以下のような防止策が考えられます。

①利用者側
まず、運営者が適切な目的でクラファンを立ち上げているか見抜く必要があります。SNS上の書き込みであっても、不正が見抜かれないよう良い評判を書き込ませることが可能ですので、クラファンの内容や目的自体が適切・合法なものかを複数の情報源で確認しておく必要があります。
また通常のカード不正利用防止の注意(カードを自分が見ていない所で切らせない、預けないなど)だけであれば、前述のランダムアタックには対処不可となってしまいます。
このため、自らのカード明細は頻繁にチェックし、細かい金額でも不明な支出は確認しておくことが必要です。

②クラファン運営側
運営側となる場合、すなわちクラファンを立ち上げる場合には、上記のような悪用を防ぐ対策(モニタリングやCAPTCHA認証といった、ロボットによる自動操作を発見・防止する手法)が適切になされたサイトを利用しましょう。これらも完璧なものはなく、不正実行者は様々な新しい手法を生み出してきますが、皆が少しずつでも対策をしていれば数を減らすことができます。

chapcha
CAPCHA認証の例

あなたは必ず騙される(続編)~ワンコインとポンツィ・スキーム

1.はじめに
まずはこちらの動画をご覧ください(大きな音が出ます)

The biggest event in OneCoin History – the CoinRush 2016

この派手な動画の最後に出てくる女性、それが「ワンコイン」詐欺の首謀者です。

2.ワンコイン
①創始者 Dr.Ruja Ignatova(ルジャ・イグナトバ)
Ruja
彼女は1980年5月にブルガリアで生まれ、10歳でドイツに移り住みました。
貧しい生まれでしたが、周囲の支えと才と努力で、独コンスタンツ大学、英オックスフォード大学で法学博士号を取得しています。
その後、有名なコンサルティング会社「マッキンゼー」にて当時最年少の「アソシエイトパートナー」に就任、大型投資プロジェクトへの従事や仮想通貨のアドバイザーとしても活躍していました。
その活躍により「フォーブス」誌の表紙を飾るなど、華々しい活躍の中2014年に仮想通貨である「ワンコイン(Onecoin)」を創設します。

しかし、2017年、彼女は忽然と姿を消してしまいます。

②ワンコインの実態
OneCoinLogo
ワンコインは、ビットコインなどと同様、ブロックチェーン技術(参考:「仮想通貨技術を支える「ブロックチェーン」について」)を使った暗号通貨(仮想通貨)と称して誕生しました。
このワンコインは、100ユーロ(12,000円)程度の少額から30,000ユーロ(360万円)などの高額に至るプランによる「パッケージ販売」を特徴としています。実際に仮想通貨を受け渡すのではなく、「仮想通貨と交換する権利」が受け渡されるのです。
例えば、5000ユーロのパッケージを購入すれば、3900ユーロ分のワンコインが受け渡され、分割が起こると8500ユーロのワンコインとなるといった具合で、投資商品としての性格を備えていました。

しかし実際には、いわゆるブロックチェーンによる暗号通貨は実在していなかったのです。
実在しない「暗号通貨」を販売し、その収入を配当に見せかけて支払い、それを餌にしてまた新しいカモを集める、という正に「ポンツィ・スキーム」の際たるものだったのです。

③ワンコインとイスラム金融
このワンコイン詐欺の被害は、なぜかイスラム教徒に多く広がりました。
イスラム教徒は、シャリーア(イスラム法)において利子のあるお金の貸付を禁止されているのですが、ヒヤル(合法的な抜け道)により、シャリーアを回避しつつ実質的に利子を取ることを目的とした金融技術が様々に編み出されています。今「イスラム金融」と呼ばれている概念の多くはこのヒヤルに関するものです。
ワンコインは利子ではなく、投資した通貨自身が分割により増加するため、ヒヤルの一つとして認識され、大人気となった訳です。

④破綻
ワンコインのコアメンバーであるコンスタンティン・イグナトフ(ルジャ・イグナトバの弟)は、数十億ドル規模の詐欺に関与した罪状を認めました。この結果、最大90年間の禁固刑が科せられる可能性があります(BBC 2019/11/14)。
この辺りまでにワンコインは44億ドルを集めていましたが、昨年12月1日にはウェブサイトが閉鎖されました。

しかし、現時点でもまだ首謀者ルジャ・イグナトバは見つかっていません。

3.仮想通貨とブロックチェーンについて
①ブロックチェーン(詳細解説はこちら
従来のデータ保存はサーバなどによって一元管理されているので、保存箇所を攻撃(ハッキングなど)したり、その通路(ネットワーク経路)を支配してしまえば改ざんや遮断を容易に行うことができました。
これに対し、ブロックチェーンは「利用者が使う全ての端末に、分散して全てのデータが保存されている」という点がポイントとなっています。
この「分散」についても、単にデータをバラバラに保存しているのではなく、それぞれの端末(ノード)が冗長性(無駄な部分)を持ち、一部が壊されたり改ざんされたりしても、生き残った他の部分から全体像が再構成できるように考えられているのです。
新しい取引が発生すると、そのデータが一定の規則によって次々と追加され、あたかもデータの塊(ブロック)が鎖(チェーン)のようにつながっていくことから、このような名前で呼ばれるようになりました。

②仮想通貨(暗号通貨)の問題点
ブロックチェーンによる仮想通貨を作る時には「マイニング」というプロセスが必須です。
マイニングはその名前から「鉱脈を探す」=「仮想通貨を発行する」と思われていますが、ブロックチェーン技術上のイメージとしては「新たな帳簿のページを作る」ことに過ぎません。つまり新たな通貨の記録を作る帳簿作成がその本質で、通貨そのものを作る訳ではないのです。

しかし、マイニングにはコストがかかります。具体的にはコンピュータ投資や電気代が増え続け、技術的な発行数の限界があります。
また個々のブロックチェーンの伝播には時間がかかり、大規模なパブリック型と呼ばれる方式だと遅延が累積して決済スピードに著しい問題の出る場合があります。

ワンコインは実際にはブロックチェーンを使っていなかったため、このような制約は全くなかったと言われています。そもそも実体が見えにくく、技術的にも高度に見える(すなわち素人を騙しやすい)ため、ワンコインのような詐欺には最も利用されやすい概念だったように思います。

4.ポンツィ(ポンジ)・スキーム(詳細解説はこちら
①ポンツィ・スキームの誕生
「チャールズ(カルロ)・ポンツィ」はイタリア生まれ。
若いころアメリカに移住、職を転々とした後、ボストンにて「返信用切手交換クーポン付き国際郵便切手」の鞘取り(返信用切手と交換できるクーポンの国際的価格差を利用した利益獲得手段)ビジネスを始めます。

彼は1919年12月、ボストンに会社を立ち上げ「たったの数十日で50%の利益が出る」という触れ込みで数千人から数百万ドルもの大金を集めました。
ただ実際には「先に投資した人に対し、後から投資した人の資金を使って配当」しているにすぎませんでした。
この「自転車操業的」配当こそが、ポンツィ・スキームの本質なのです。

しかし結局、新聞のスクープや新規投資資金の落ち込み(すなわち偽配当の資金繰り悪化)により敢え無く破綻、詐欺罪で有罪となってしまいました。

②ポンツィ・スキームの特徴(ねずみ講との違い)
ねずみ講は、一人の上位会員に対して二人以上増加する下位会員から金銭を徴収、その金銭をさらに上位会員に分配するため、ピラミッド型の組織を構築する詐欺の手法です。
このため上位の会員が利益を得るためには「下位の会員数>上位の会員数」が必要となり、組織構造上級数的に増加する下位の会員はすぐ獲得できなくなるので、途中で必ず破綻します。
このねずみ講、我が国においては「無限連鎖講の防止に関する法律」で禁止されています。

これに対してポンツィ・スキームの特徴は、詐欺の首謀者が広く多数から資金を集め、集めた資金の大半または全てを配当に見せかけて支払うことで、虚偽の運用実績を提示することにあります。
このためピラミッド型の組織は必要とされず、首謀者が集まる資金を比較的自由に使えることも特徴の一つです。
このため、冒頭に掲げたような派手なイベントを行うことも容易なのです。
信用を得るため一部の者への配当として多額の資金が流出するため、発覚、摘発されても損害の額に対して十分な賠償を得られない場合がほとんどです。

5.仮想通貨とポンツィ・スキームの親和性
ポンツィ・スキームを動かすためには、現出資者に配当する金額以上の資金を新たな出資者から集めることが必須ですが、偽の仮想通貨はにはその裏付けとなる資金が不要なため、手持ちの現金を超える偽装配当が可能となるのです。

これを私はポンツィ・スキーム配当の「レバレッジ」と呼んでいます。

ワンコインはこの点をうまく活用し、「分割」によって仮想的な配当を行うことで、ポンツィ・スキームでいずれ必ず訪れる破綻を遅らせることに成功したのです。

驚くべきことに、ワンコインより相当前、20世紀も終わるかどうかという頃に、全く同様の概念を用いたポンツィ・スキーム詐欺が我が国で発生していました。それが「円天」事件です。

2000年ごろ創設された疑似通貨「円天」は電子マネーとして使用可能と公表されていました。
10万円以上を預け、上位会員になると「1年ごとに預けた金額と同額の円天を受け取ることができる」「年利100%の金利が払われる」とされ、受け取った円天は、円天市場で利用することが可能とされていました。
会員の募集や会社の信用を高めるため、演歌歌手・タレントを広告塔として招き、関連団体を介しホテルや国技館などで無料コンサートを月10回にわたり行っています。
このイベントには、伍代夏子、小林旭、坂本冬美、島倉千代子、瀬川瑛子、千昌夫、藤あや子、細川たかし、松方弘樹、松崎しげる、美川憲一、八代亜紀などそうそうたる有名人が協力していました。

(ニュース動画)「円天」巨額詐欺事件 元会長の懲役18年確定へ(12/01/12)ANNnewsCH

6.騙されないために

※詳しくは「あなたは必ず騙される ~ ポンツィ・スキーム研究(5/5)最終回」を参照

1)成功するポンツィ・スキームの特徴
ポンツィ・スキームを研究していると、通常の詐欺のように「騙す側と騙される側」という単純な構図ではなく、成功するためには一定の特徴を持つべきことがわかります。それは以下のようなものです。

  • 騙す側に一定の特徴を持った①首謀者、②協力者、③紹介者 が必要
  • 騙される側にも①プレッシャー・機会、②ガバナンスの弱さ、③情報・知識の欠如 といった、一見「不正のトライアングル」にも似た要因が必要

これらを詳しく知ることで、ポンツィ・スキームの兆候に気づき、騙されないための対策を採ることが可能となります。

2)だます側の特徴
①首謀者

  • 首謀者のキーワード:雄弁、大胆不敵、カリスマ、名声、人脈、目立つ社会貢献(しかしその裏には虚栄心、狡猾、金銭欲、虚飾などの裏がある)
  • 良い身なり、一等地の事務所、居宅と現代的な調度品、高級ホテル
  • 進める投資への自信と裏付けとなる華麗な経歴と実績(但し虚偽や誇張が多い)
  • 断定的で力強い説明、ビジュアルに優れた資料(内容は薄く、虚偽も多い)
  • 大物政治家、官僚OBなど、政財界キーパーソンとの親密な関係(但し金や接待に基づくものや、一方的なものが多い)

②協力者

  • 首謀者の右腕となり、忠実に詐欺行為やその管理行為を実行
  • 首謀者とは最も長い付き合い
  • 首謀者に対しては服従に近い関係(悪いこととはわかっていても絶対に裏切らない)
  • 身内や愛人であることも多い
  • 口は堅く、信頼できる。堅実な仕事ぶり
  • 実務を行っているため、首謀者よりも実情を理解している。違法性も認識している場合が多い

③紹介者

  • 投資詐欺の場合、良いパフォーマンスを身近な人たちにも教えてあげたいという親切心や自慢により、友人などに紹介して詐欺被害を拡大させる手助けをしてしまう
  • カリスマ性などから首謀者に心酔してしまい、宗教的に他人を勧誘してしまうケースも多い
  • 有名人や社会的地位の高い紹介者は、スーパー・スプレッダーになりうる

3)騙される側の特徴
①プレッシャー・機会

  • 金のない人間がギャンブルにのめり込むのと似た状況
  • 困窮→金銭欲、あせり、射幸心
  • 長期的には絶対的に資金が足りないが、短期的には少し使える資金がある、もしくは調達できる→この資金を狙われる

②ガバナンスの弱さ

  • 個人の場合…意思(決定力)の弱さ、相談者・指導者の不在
  • 法人の場合…健全なガバナンスの欠如、専門家の不採用、事務作業権限の集中

③情報・知識の欠如

  • 権威者やその華麗な人脈、虚偽データに対する無駄な信頼
  • 新聞や雑誌、業界紙といった記事などに十分な注意を払っておらず、最新情報に疎い。また逆にデマや誇張なども安易に信じてしまう
  • 前任者まで連綿と受け継がれた古い情報や前例にのみ基づいて意思決定し、前例のない動きは極力しない→いわゆる天下り人材に多くみられる特徴

医療機関の不正防止・調査

私達が病気や怪我の治療の際お世話になる、病院や診療所等の医療機関。
これらは地域にとって非常に大事な存在です。
また医療機関は一種「聖域」として、一般的な営利企業とは異なる組織体制や文化を持っていることがほとんどです。
しかし、医療機関とて診療報酬というお金を扱い、資産を持つという意味において、不正のリスクにさらされている点で他の企業体と何ら変わる事はありません。このような医療機関において、不正対策をどのように行うべきかについて書いてみました。

1.医療機関の不正について
資金を扱うあらゆる組織において不正リスクは存在しますが、一般の営利企業と収益構造や法令、管理体制の異なる病院・診療所等の医療機関においては、一般的な営利企業とは不正リスクの質や頻度が異なると考えられています。しかしながら、不正リスクに関する理論、管理手法の本質的な所には共通点があります。

2.不正のトライアングル
不正リスクを考える際には、「不正のトライアングル」という概念が非常に役に立ちます。
「不正のトライアングル」とは、アメリカのドナルド・R・クレッシー教授が提唱した不正の仕組みに関する理論です。
具体的には、不正に手を染めるファクターは以下の3点であるとされています。triangle

 (1)不正を行うための「動機・プレッシャー」
 (2)不正を行うことができる「機会」
 (3)不正を行うことが本人にとって「正当化」

これらの条件が一つでも増加すれば、それだけ不正の発生する可能性が高くなっていることを意味します。

 

3.内部統制について
内部統制とは、(1)業務の効率性・有効性 (2)財務報告の信頼性 (3)法令の遵守 (4)資産の保全を目的として法人内で構築される管理体制を指し、「全社的な内部統制」と「業務プロセスに関する内部統制」に区分されます。
昨今、内部統制は上場企業が財務報告の適正性を保証するための開示対象として注目されていますが、本来内部統制は「組織がその目的に従って適切かつ効率的に活動し」「法令を順守し」「資産を保全する」と同時に「適切な情報開示を実施する」ことを可能とするための組織管理であるとされています。
この内部統制は適切な情報開示にはもちろん役立ちますが、不正リスクの低減や、事務部門、医療現場における事故、誤りの低減にも有効です。
但し、内部統制は経営者によって無効化することが可能であるため、経営者が主導する不正には役に立ちません。

4.医療機関における不正の例
①横領・不正請求窓口収入、保管現金、機器、消耗品、互助会資金等の管理を長年同一のベテラン職員に任せていることによる横領とその発覚遅れ自動販売機等売上金の横領医薬品の横流し社会保険診療報酬の不正請求

②キックバック医薬品、医療消耗品の購買担当者が、仕入業者からキックバック等の利益供与を受ける
③不正経理横領等を発覚させないため、帳簿や証拠書類を偽装する架空人件費

5.防止対策
不正のトライアングルの把握
職員における不正のトライアングルがどのような状態にあるかを把握し、不正リスクの発生を未然に抑えます。

病院向け内部統制の整備
病院には病院向きの内部統制があります。病院の特色を理解しつつ、不正が起こりにくい組織体制を整備、維持します。

内偵調査、尋問
残念ながら不正の発生が疑われる場合、疑いのある部署、者に対して内偵調査を行い、必要に応じて不正調査手法を用いて尋問します。

税務調査の利用
税務調査を不正調査に利用します(参考コラムはこちら)。この手法は、内部統制が無効化されやすい経営者の不正にも効果があります。

 

個人診療所レベルなら、院長が末端の職員にまで気を配ることが可能ですから、院長の管理レベル次第でこのようなリスクは防止することが比較的楽です。しかし、病院においては一般的に組織規模が大きく、院長や事務長がいくら気を配っていても末端まで注意を行き届かせることは不可能です。この為、不正リスクを低減する組織的な管理体制は必要です。

仮病キャバクラ嬢への献身横領事件

私は公認会計士や税理士としての仕事に加え、公認不正検査士業務も行っています。

その業務で一番多く目にするのが「横領」です。
横領とは、他人から預かっているものを自分のものとして取ってしまうことですが、この横領、刑法に規定のある割と重い刑罰のある犯罪なのです。ただ件数は多いものの、背景や原因、動機などはバラエティに富んでいます。

今回は、その中でも大変奇妙なものの一つである「仮病キャバクラ嬢への献身横領事件」を事例として取り上げたいと思います。
週刊誌やTVなどでも取り上げられましたからご存知の方も多いかもしれませんが、不正検査士らしく「発見・防止」の為の対策案も最後に書いておきました。

1.逮捕
勤務先だった工業用ゴム資材の卸商社『シバタ』の資金を自分の口座に振り込ませ、だまし取ったとして、警視庁中央署は2012年4月11日、電子計算機使用詐欺の疑いで、栗田守紀(もりとし)容疑者(当時33)を逮捕しました。直接の容疑は、2009年4月から翌年の7月まで、同社のパソコンを操作し、55回にわたって自分の給与とは別に計2億3000万円を自分の口座に振り込んだというものです。

栗田容疑者は同社が2005年に開設したインターネット・バンキングの法人口座の責任者に命じられると、すぐに不正に手を染め、以来約200回、計約6億円を詐取したと見られています。

2.横領の目的
栗田容疑者は同社の元経理係長。横領した金額のうち総額5億円以上を、なんとお気に入りのキャバクラ嬢に貢いでいました。

当キャバクラ嬢は、2004年ごろから、東京都葛飾区のJR亀有駅付近の店にて働き始めました。栗田容疑者は彼女と次第に親密になり、栗田容疑者はアフターも含めると月に数回は一晩あたり4~5万円使っていたそうです

その後ほどなくして、彼女は栗田容疑者に『胃がんを患っていて入院費や手術費が必要だ』と金を振り込ませるようになります。当初は数万や数十万だったその要請はエスカレートし、様々な病気にかかったと理由を付けた上で、多いときは一度に1500万円という場合もあったそうです。

その間彼女は「無菌室に入っているから」などとメールで連絡を取るだけで栗田容疑者に一度も顔を見せることはなく、見舞いに行くなどと言われると「信じてもらえないなら死ぬ」などと拒否していました。しかし実の所は、栗田容疑者から振り込まれた金をブランド品の購入やホスト遊びなどにつぎ込んでいたそうです。

3.横領の手口、発覚
同社は工業用ゴムやプラスチック資材などを卸す商社です。当時全国に40カ所の拠点を持つ中堅の同族企業で、業界内においては「堅実な経営」で知られていました。

これに対し栗田容疑者の不正手口は稚拙なもので、銀行から発行される口座の入出金記録や残高証明を破棄、自ら虚偽の記録を作成していたそうです。

結局、2010年7月に税務署の調査が入り、その調査の過程で容疑者の不正が発覚しました。しかし時すでに遅しで、それまでに同社が余裕資金として持っていた数億の資金が失われたことになります。

4.裁判、判決
「インターネットバンキングを悪用し勤務先から約5億円をだまし取ったとして、電子計算機使用詐欺罪に問われた元会社員、栗田守紀被告(33)の判決公判が27日、東京地裁であり、山崎威裁判官は懲役7年(求刑懲役8年)を言い渡した。」(2012/9/27付日経新聞)

5.発見・防止手法
このようなケースは、金額の多寡、動機や背景は様々であっても、本質的な原因は結局皆同じです。共通しているのは、以下のような点です。

  • 経営者に信頼される、堅実で文句も言わず休みなく働く経理担当者
  • 人材に乏しく、担当者が十数年交代していない
  • 担当者以外にはITに堪能な者がいない
  • 老舗で、資金繰りに比較的余裕がある

このような横領を防ぐには担当者の交代(ローテーション)や強制的な休暇によって一時的に他人に業務をさせる手法が最適ですが、人材の限られる会社の場合にはどうしても躊躇してしまうと思います。
しかし、厳しいようですがそのような方法を採らず一人の担当者が長期間経理業務を行っている場合、少なくない確率で、というより確実に不正が発生しているとお考え頂いた方が良いと思います。
どうしてもそういった方法が取りにくい場合は、疑われず比較的低コストで行える対策がいくつかあります。上記に当てはまる環境があるようでしたら、是非ご検討下さい。

第 11 回 ACFE JAPAN カンファレンスのお知らせ

一般社団法人 日本公認不正検査士協会(ACFEジャパン)は、「第11回 ACFE JAPANカンファレンス」を10月9日に開催します。
今年は新型コロナ感染症対策として全面的にオンラインでの開催となり、後日録画内容の配信も行われる予定です。

公認不正検査士(CFE)は、公認会計士でFBIの財務捜査官だったジョセフ・T・ウェルズが1988年に創設した資格です。
この公認不正検査士たちの団体が公認不正検査士協会(ACFE)で、米国を中心に世界180か国、85000人を超える会員が所属し、資格認定試験を経て不正調査や防止などの専門家として活躍しています。

このような職業的専門家資格においては、高度な専門的能力を維持・発展させるために継続的な教育体制が欠かせません。
実際、私たち公認不正検査士は、年間20時間(内倫理を2時間)の研修履行義務が貸されており、これを満たさなければ資格の更新ができないことになっています。

研修の方法は一般的に座学のセミナーですが、時々「カンファレンス」と呼ばれる大きなイベントが開催される場合もあります。
例えば、米国のACFE本部は毎年「グローバルカンファレンス」という全世界の会員を対象にしたカンファレンスを開催しており、ここには数千人の会員が集結します。

以前私がグローバルカンファレンスに参加した際の報告記事がこちら

さて少し規模は小さいですが、同様にACFEジャパンが毎年行っているのが「ACFEジャパンカンファレンス」です。このカンファレンスは、通常大きな会場に会員を集め、8時間~10時間程度の研修を受けるという形式を採っているのですが、今回は新型コロナ感染症対策を考慮し、全面的にオンライン開催を行うこととなりました。

ACFEカンファレンス

毎年、その時々に合ったカンファレンスのテーマが掲げられますが、今年は「Light the way ~ New Normal時代の企業が取り組むべきリスク対策 ~」となっています。

中身としては、New Normal時代新たに認識すべき概念や、DX(デジタルトランスフォーメーション)による新たなリスクについて、内容の濃い講演やパネルディスカッションが行われる予定です。また、昨年大きな話題となった関西電力金品受領問題や、形骸化・悪用が指摘されている第三者委員会の問題点などについても取り上げます。

このカンファレンスは会員以外でも参加することが可能です。
公認会計士や弁護士といった職業だけではなく、企業の内部監査担当者などにも非常に有益なものとなっています。

会場開催の場合はいつも満席となりなかなか多くの方に出席頂くことができない場合もあるのですが、今回はバーチャル開催なので制約は基本的にありません。
是非ご視聴頂き、できればCFE資格の取得をご検討下さい!

カンファレンスの特設ページはこちらとなっております。

「にせ税理士」について

1.税理士の使命とは
税理士法第1条には、税理士の使命として「税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ること」が掲げられています。
この使命に基づき、我々税理士は確定申告など、様々な税に関する手続や相談に応える仕事を行っています。
税に関するこれらの仕事は、一般的に難易度が高く、また大きな金銭的利害の関係するものが多いため、税理士法はこのような仕事が行える者を、国家試験や実務経験を経て、税理士や税理士法人などとして公に登録された者に限定しています(税理士法第52条)。この法律に反して税理士等以外の者が税理士業務を行うと、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金が科されることになります(税理士法59条)。これには、報酬を受け取っているか否かは関係がありません。

2.にせ税理士とは
このような法律に違反してにせ税理士行為が行われるのは、税理士業務が税理士の独占業務であり、儲かると思われているからかもしれません。また、税金に関する手続きは押しなべて難しく、気軽に頼める税理士に出会えなければ、よく知っている者に頼んでしまうこともあるかもしれません。
しかし、税理士は前述の通り国家試験や実務経験を経た者だけが登録できますし、守秘義務や脱税相談の禁止など、様々な果たすべき義務があります。また最近は、「最低年間36時間の研修」が義務付けられ、自己研鑽も行っています。このような条件を満たしていない者に税理士業務を依頼した場合、場合によっては誤った手続きで不測の損害を受ける、税務署から厳しい処分が課されるといったトラブルを被ることになりかねません。またそういうトラブルの際には、あっさりと逃げてしまうケースもあります。
では、にせ税理士にはどんなタイプがあるでしょうか。大きく分けると下記のような区分があると言われています。

①無資格税理士
税理士としての資格を持たない者が、税理士であると嘘をついて税理士の仕事をする場合がこれに当たります。
税理士事務所に勤務していた(または現在も勤務している)経験者が、個人として行っている場合が多く、「○○先生」と呼ばれてあたかも税理士のようにふるまい、帳簿の記帳、申告書作成や税務相談に対応します。
しかし税理士ではありませんので、後述の通り税務調査に立ち会うことはできません(税務署はにせ税理士を摘発することも重要な仕事としていますので、怪しいとわかればすぐに見つかってしまいます)。

②名義借り・名義貸し
上の無資格者や税理士でない者が作った一般の会社(「○○記帳代行サービス株式会社」など)が依頼者から税理士業務を引き受け、自分たちができない税理士業務の部分を税理士が行っているように見せかけるため、実在する税理士や税理士法人の「名義を借りる」ことを言います。
この方法は、申告書に税理士や税理士法人の記名や捺印があるので一見問題がなさそうなのですが、税理士法はこのような「捺印だけ税理士が行う」行為もにせ税理士行為と同じとして禁止しています。
法人税の申告書を作成する場合、その申告書だけではなく作成の元になった帳簿や、さらにその元になった資料、会社の状況などを税理士は十分に知っていなければならないのです。このため、名義だけを貸し、税理士の捺印だけを行うような行為は税理士が十分に責任を果たしていることになりません。

3.にせ税理士を見抜くには
私たちが実際に出会った事例でも、全て依頼者は「ちょっとおかしいかな?」程度の疑問しか持たずに仕事を依頼し続けていました。私たち税理士にはほとんどがすぐわかることですが、慣れていない一般の方々にとっては難しいようです。
では、税理士でない一般の依頼者が、このようなにせ税理士と正規の税理士を区別するにはどうすればよいでしょうか?
以下、にせ税理士を見抜く「特徴」と、「方法」をご説明します。
もし運悪く依頼されている「税理士と思っていた人」がそうでなかった場合や、ご友人の依頼されている者がにせ税理士だった場合、最寄りの税務署や税理士会などにお問い合わせ頂ければ適切に対応してもらえると思います。

①にせ税理士の特徴

  • 安すぎる報酬
    自己研鑽や投資もせず闇で仕事しているため、コストが低い。また、税理士のような特別な能力がないので価格勝負するしかない
  • 経営相談や税金対策の相談になかなか乗ってもらえない
    帳簿作成や基本的な申告書作成など限られた能力しかなく、自己研鑽していないので税務対策、経営相談など高度な話が分からない
  • 税務調査に立ち会ってもらえない
    前述の通り、税務調査に立ち会うと、調査官に会ってばれてしまいます
  • 申告書に署名捺印や電子署名をしたがらない
    同じく署名すると「存在しない税理士」なのでばれてしまいます
  • 捺印(電子署名)している税理士と、頼んでいる「税理士」が違う
    頼んでいる「税理士」が、捺印や署名している税理士から名義を借りています
  • 顧問料の振込先が「○○税理士事務所」や「○○税理士法人」ではなく「株式会社○○」や「○○コンサルティング」など税理士のつかない名前となっている
    偽税理士が報酬を取っている、又は捺印だけの税理士から名義を借りている
  • 税務署との交渉を嫌がり、すぐに「こんなものですよ」と逃げる
    税務署と交渉しようにもにせ税理士なので、相対したとたんにばれてしまう。または能力がなく、高度な交渉ができない
  • 顧問契約書(業務委託契約書)がない
    税理士でないものが税務業務に関する契約書を作成した時点で無効な契約書になります

②税理士かどうか調べるには
上記の特徴にいくつか当てはまり、「おかしいな」と思ったら下記を試しましょう。

  • 日本税理士会連合会の「税理士情報検索サイト」
    こちらにフルネームを入れて検索すると、その人が税理士として登録されているかどうかがわかります。
  • 税理士証票を提示させる(写真付きですぐわかる)
    上記のサイトでも見つからず、いよいよにせ税理士である可能性が高くなったら、本人に「税理士標章を見せる」ように求めましょう。この税理士標章は、氏名や生年月日、登録番号、所属事務所など税理士としての基本情報が写真とともに記されており、税理士は仕事の際携帯することが義務付けられています。所長塩尻の税理士証票は下記の通りです。
    IMG_4855

 以上