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あなたは必ず騙される ~ ポンジ・スキーム研究(1/5)

0.はじめに

「年率○○%の、絶対儲かる投資話があるんです!」

こんな話を持ち込まれても、普通の感覚を持った人なら「そんなうまい話があるか!」と、むしろ疑ってしまいますよね。

しかし、その相手の周りはいわゆる「セレブ」ばかりで、しかもそのセレブたちが実際に儲けを手にしているところを目の当たりにしたら。また、自分の親しい友人までが「あの人はすごい、ホンモノだよ」などと話をはじめたら。

あなたはそれでもこの投資話、自信を持って断ることができますか?

そんな話が出てきたら、「ポンジ・スキーム」を疑ってみるべきです。

 

このコラムは、何度かに分けてこの「ポンジ・スキーム」について解説します。

最近話題になった「マドフ事件」や「AIJ投資顧問事件」についてもご紹介する予定です。

※これらの記事は、本来のイタリア語読みである「ポンツィ」で書かれていましたが、最近は「ポンジ」と記載されることが多いためこちらに統一しています。

1.ポンジ・スキームとは

1)チャールズ(カルロ)・ポンツィ

「ポンジ・スキーム」の由来は、この詐欺師の名前そのものです。

この男「チャールズ(カルロ)・ポンツィ(Carlo Pietro Giovanni Guglielmo Tebaldo Ponzi)」は、1882年3月3日、イタリア・ルーゴに生まれています。その後、21歳だった1903年、アメリカに上陸しました。

アメリカに渡ったポンツィは、職を転々とした後ボストンにて「国際返信用クーポン」(国際通信用に、返信用切手と交換できるクーポンの付いた切手。郵便に使うという機能は共通ながら国によって物価が異なるため、安い国で買い、高い国で換金すると、理屈上は差益が得られる)の大量購入、換金という、当時流行りを見せていた鞘取りビジネスでひと儲けを目論見ますが、敢え無く失敗してしまいます。

ここでめげないのがポンツィの強みだったのでしょうか、失敗したにも関わらず、鞘取りのスキームによる投資を目的として、1919年12月、ボストンに会社を立ち上げます。当時の投資家に対する売り文句は、「たったの数十日で50%の利益が出る」というものでした。この投資会社は人気を呼び、ニューイングランドを中心に数千人から数百万ドルもの大金を集めたと言われています。

しかし、そもそもこのビジネスはそんなにうまくいくものではありませんでした。実の所、ポンツィは「先に投資した人に対し、後から投資した人の資金を使って配当」していたのでした。実は、この「自転車操業的」配当こそが、ポンジ・スキームの本質であると言っても過言ではありません。

さて、事態は急転直下となります。1920年7月、ザ・ボストン・ポスト(新聞)が、ポンツィが行うビジネスの合法性を疑問視する記事を大々的に掲載します。この結果ポンツィは、裁判所からの命令によって新規投資の受付を禁止されてしまいます。

ポンツィの手口が有効に回るには、「配当に見せかけるための新たな資金が入り続ける」ことが絶対条件ですから、このように新規投資受付を禁じられるとあっという間に破綻してしまいました。この結果、彼は詐欺罪で有罪となり刑務所に収容されることとなりました。

ポンツィは出所後も数度の詐欺を働き、実質的にアメリカ市民権を剥奪されます。その後1934年出身国のイタリアに戻り、さらに第二次世界大戦が勃発するとさらにブラジルに渡っています。この間、いわゆる原野商法など、現在の経済詐欺の原型となるようなスキームに次々と手を染めていたそうです。

まさに詐欺師人生の王道を歩いたポンツィですが、結局晩年は心臓発作や脳障害、視力障害などに苦しみ、1949年、貧しいままリオデジャネイロ市内の慈善病院で67年の生涯を閉じています。

 

2)ポンジ・スキームの特徴

ポンジ・スキームという名前が一般的でなかったためか、日本でこの手の事件が明るみに出た際には「ねずみ講」と呼ばれることが多いようです。しかしこの表現は正しくありません。

ねずみ講とは、法律上は無限連鎖講(むげんれんさこう)と呼ばれ、一人の上位会員に対して二人以上増加する下位会員から金銭を徴収し、その金銭を上位会員に分配することで、その上位会員が、自らの支払った金品を上回る配当を受けることを目的としてピラミッド型の組織を構築する詐欺の手法を言います。

このねずみ講で上位の会員が利益を得るためには、当然下位の会員は上位の会員よりも多く存在する必要がありますので、ねずみが子孫を大きく増やすように組織が拡大することからこの名前が付けられました。もちろん金品を払う下位の参加者が無限に増加するということはありえないため、途中で必ず破綻します。日本では無限連鎖講の防止に関する法律で禁止されています。

これに対してポンジ・スキームの特徴は、詐欺の首謀者が広く多数から資金を集め、この集めた資金の大半または全てを配当に見せかけて支払うことで、虚偽の運用実績を提示するところにあります。前述のねずみ講とは異なりピラミッド型の組織は必要とされず、首謀者が集まる資金を比較的自由に使える点が特徴であると言えます。

うまくこのスキームが構築されると首謀者には短期間かつ連続的に大きな資金が集まりますので、首謀者がその資金を乱用しやすい不正となっています。また信用を得るため一部の者への配当として多額の資金が流出するため、発覚、摘発されても損害の額に対して十分な賠償を得られない場合が多いようです。

 

次回(2/5)は、ポンジ・スキームの中でも史上最大規模と言われている「バーナード・マドフ事件」についてご説明します。

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