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税務調査を不正対策に利用する

1.はじめに
新聞報道などで良く知られるように、税務調査で不正が発覚するケースは非常に多くあります。今回は、それはなぜかを制度から解き明かすと同時に、「積極的な利用の方法」について説明いたします。

CFE(公認不正検査士)が行う不正への対応は、時間的、費用的、また人的問題や法に基づく制約が多く、どのようなシチュエーションでも難しいものです。この原因の一つは、警察などと違って「強制力がないこと」にあります。

これに対し税務調査は公権力によって行われますから、この点において監査や不正調査とは全く異なる強力な手法であると言えます。とはいえ、税務調査が目的とするところは監査や不正調査のそれとは全く異なります。従って、「利用」と言っても、単純な話ではなく、それぞれの本質的違いを理解しなければなりません。

しかし逆に、そのような違いを理解し、実務を少し経験すれば、通常の不正対応において望むことのできない強力な力を得ることが出来るのです。

経理部門や会計士、税理士、弁護士など会計、税務、法律に携わる業種に限らず、取締役や監査役、内部監査部門など、内部統制の重要な部分を構成する方々全てにとって有用なお話になれば幸いです。

2.税務調査とは
1)税務調査がなぜ行われるか
法人税、所得税、相続税など主要な税法は「申告による課税制度(申告納税制度)」を採っています。このような申告納税制度の下においては、納税者が自ら申告書を作成し、この申告書に基づいて納税することになります。この場合、納税者全員が正しい知識と納税意識に基づいて申告・納税をするなら良いのですが、間違いや不正などの可能性は否定できません。このため、何らかの方法で「申告された内容が正しいかどうか」を確認する制度が必要となります。この目的を達するために存在するのが税務調査という制度です。

この税務調査を行う際、一般的には、原則として納税者の同意を得て行う、いわゆる任意調査が実施されます。しかし不正等により故意に脱税をする者には、税額を正すだけではなく刑事責任を追及するため、犯罪捜査に準ずる方法で調査する場合があります。これが査察調査(いわゆる「マルサ」)です。査察調査の結果いかんによっては、検察官に告発し、公訴に至ることがあります。

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2)税務調査でなぜ不正が見つかるか
①税務調査と監査、不正検査との比較
税務調査で不正が見つかる理由を考える前に、税務調査と監査や不正検査とを比較し、共通点や相違点を探ってみます。

次の比較表は、「公認不正検査士マニュアル」に記載されている「監査と不正検査の比較」をベースに、税務調査に関する部分を加筆したものです。

 表 監査、不正検査、税務調査の比較

 

監  査

不正検査

税務調査

実施時期

周期的
(
四半期、決算期など)

非周期的
(
不正発生時)

非周期的
(
但し一定の法則あり)

範囲

業務全般
(
会計中心)

特定の不正疑惑
(
あらゆる領域)

税に関する領域

目的

意見表明

責任の所在特定

適正な申告・納税

問題点の扱い

依頼主への報告、開示

依頼主への報告、司法

税法に基づく処分

網羅性

リスクアプローチ
に基づく範囲

対象不正疑惑の
全て

実務上問題と
されない

相手との関係

非対立的
(
強制性なし)

対立的
(
強制性なし)

対立的
(
正当理由なく拒めず)

方法論

監査技術

不正検査技術

税務調査技術
(
職人的部分あり)

仮説の根拠

職業的猜疑心

具体的証拠

具体的証拠と経験

コスト要求

高い

依頼内容による

低い

 

②具体的な税務調査手法
それでは、実際の税務調査がどのように行われるかについて、法人税の任意調査を例に簡単に説明します。

法人税の税務調査は、主に以下のような論点をターゲットに行われます。

  • 売上除外など収益の計上漏れ、計上時期のずれ
  • 経費水増しや架空計上、計上時期のずれ
  • 棚卸資産など、貸借対照表項目の過少計上(簿外資産の有無)
  • 税制上の特例など、適用要件あるものの実態調査

そして、その際取られる手法は、おおよそ以下のようなものです。

  • 分析的手法より、実証手続に徹底してこだわる(白色申告の推計課税を除く)
    →「現地、現実、現物」の確認
  • 仮説検証アプローチ
    但し、その仮説は後述する資料や経験に基づくものが多く、職人的。性悪説に基づく。
    この点、「リスクアプローチ」の概念はまだ完全に取り入れられていない感がある。
  • 非財務分析・内偵
  • 非財務数値との比較分析や内偵(現金商売に対する場合が多い)など。
  • 反面調査 非常に強力な手法であるが、あくまで任意の調査手法の一つ
  • 尋問手法 世間話から徐々に会社概況や業務の内容に移行し、資料や他の証言との矛盾を探る手法。

③資料収集
不正調査は「初動」が重要ですが、理想的には「不正調査が必要となった時点で確定的な情報、証拠が手元にある」場合には効果的な調査が可能となります。ただ、そんな都合の良い状況を一般の不正調査業務で実現することはほぼ不可能です(この意味で、GoogleやFacebookのような会社が不正調査ビジネスに進出すれば、事の是非はともかく非常に面白いかもしれません)。

ところが、税務署にはその「都合の良い理想」があるのです。これを資料収集制度と言います。税務署は普段から様々な情報を集め、既に膨大なデータベースを手元に確保しているのです。この収集方法で代表的なものが、「取引資料せん」、「調査時の資料収集」です。

まず「取引資料せん」とは、特定期間の特定取引(売上、仕入、外注費、諸経費など)について、取引先の住所、氏名、取引年月日、取引金額、支払先の銀行口座、取引内容などを記入した情報を収集するものです。これは税務署が納税者に「任意」での協力を依頼し、提出を受けることになっています(法定外資料に分類されます)。

後者「調査時の資料収集」は、税務調査で訪問した先で収集した取引記録です。税務調査の過程を注意深く見ていると、自らの税務調査とあまり関係がなさそうな取引まで便箋にメモして帰ることがあると思います。メモしている内容は上の「資料せん」と基本的に同じです。

これらの情報は全て国税局のコンピュータ(国税総合管理システム KSK)上にデータベース化され、各税務署で利用可能な状態となっています。例えば、沖縄で収集された資料に北海道の事業者との取引があれば、北海道の調査官がその資料を調査時に利用できる訳です。架空経費など、不整合を生む初歩的で単純な不正は、この収集した情報で比較的簡単に発見できます。

3.不正調査・防止への活用
1)税理士とのコミュニケーション
このように、税務調査は不正調査と非常に似ており、また一般的な不正調査においては権限上得難い情報も利用できます。となれば、冒頭で述べた通り、税務調査において不正が発覚しやすいことも理解できます。

しかし、税務調査で発覚している不正は、金額的な重要性の少ないものを含めると実は氷山の一角なのです。調査官は不正の調査を主眼としている訳ではありませんから、増差(税額が増える論点)以外は原則として立ち入らず、その場の注意で済ませてしまう事も多くあります。税務調査件数にもノルマがありますから、自分の仕事に効果が少ない論点に正義感をもって立ち入るより、次に進んだ方が楽な訳です(実際、いわゆる「良い税理士」はこの落としどころを探り、税務調査におけるクライアントの負担を軽くするよう努力します)。

しかしこれを不正調査の観点から見ると、非常に大きな問題があります。不正は「税額を増やす」という論点において重要性が無くても、粉飾やコンプライアンス、レピュテーション上の大きな問題となる場合があります。また「網羅性」にさほど重点を置いていない税務調査でたまたま発覚したということは、ハインリッヒの法則(「1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在する」という経験則)から見ても重大な問題が隠れている可能性があるのです。

また、会社側で税務調査を担当するのは経理担当者や社長など経営者自身であることが多く、これらの問題が自らに関係する場合には、当然隠蔽の意思が働きやすくなります。

このような問題に対しては、税務調査に関しては内部監査担当者や監査役が進捗や発見事項を把握してくことが重要です。税務調査担当職員や顧問税理士とコミュニケーションを取ることはもちろん、税務調査日程や調査官との面談、調査への立会、報告会への同席など、表に出ない問題点を闇に葬らせない牽制が効果的であると考えます。

2)税理士法33条の2書面、意見聴取制度の高度な利用
税理士法第33条の2に規定された「書面添付」制度は、申告書を作成するに当たって計算した事項等を記載した書面(添付書面)を税理士が作成した場合、当該書面を申告書に添付して提出した者に対する調査において、税務調査の通知前に、添付された書面の記載事項について税理士が意見を述べる機会を与えなければならないという制度です。

実務を踏まえて簡単に言いかえますと、「調査に入る前に、税理士が申告書の内容(主に適切に作られているかどうか)について意見を述べ、事前に調査の要点について議論、結論まで出すことが出来る」というものです。また場合によっては調査そのものが省略される場合もあります。

この制度が素晴らしい所は、「この意見聴取段階で結論の出た項目については、もしその後調査を開始したとしても一切触れられることがない」という点です。

このような点を税理士と連携して上手に活用できれば、「当局との意見の相違が問題となりやすい税務スキームなどは調査の対象から外し、経営者自身も気づいていない誤りや不正を税務調査の過程で発見する、あるいは発生しないよう牽制する」といった非常に高度な利用をすることも可能です。

私も実際このようなケースをいくつか経験していますが、先に述べたような強制力や資料収集力を持った税務調査が不正対応に与える影響は絶大なものがあります。

税理士法33条の2書面については、こちらのコラム(「税務調査を受けない方法」)を参照

4.税務調査による不正発覚事例と分析
1)架空循環取引
日本公認会計士協会 会長通牒平成 23 年第3号「循環取引等不適切な会計処理への監査上の対応等について」は、循環取引について「経営者、あるいは特定の事業部門責任者等により意図的に仕組まれる為、正常な取引条件が整っているように見える場合が多い」と述べ、下記のような特徴を持っていると説明しています。

  • 取引先は、実在することが多い。
  • 資金決済は、実際に行われることが多い。
  • 会計記録や証憑の偽造又は在庫等の保有資産の偽装は、徹底して行われることが多い。

この会長通牒でも述べられているように、架空循環取引は非常に巧妙に正常取引を偽装しており、一般的なリスクアプローチに基づく監査によって発見することには限界があります。また、平成25年に発表された「不正リスク対応基準」でも、架空循環取引への対応は「取引先企業の監査人との連携」が必要であるとして継続審議となっています。

しかし、税務調査は前述の「反面調査」や「資料せん」、そして取引内容や債権債務、棚卸資産などに関する質問により、架空循環取引から生じるわずかな不整合を見出す可能性を持っています。

循環取引は一種の粉飾ですから税務調査において主眼とすべき論点ではありませんし、監査と同様発見それ自体は難しいものです。しかし調査の過程においてその兆候が出ることも多く、調査官と会社担当者間のやりとりを十分に把握しておくことが重要です(調査による発見・摘発は難しくても、不正リスク評価上重要な情報の得られる場合があります)。

事例:広島ガスグループ架空循環取引(税務調査での発見事例)[PDF

2)資産の流用、横領

  • 旅行会社の架空請求書、領収書(出張日報とは合致)
  • 領収書がコクヨ(会社名、住所、電話番号記載あり)であった点について注目
  • 会社名を検索しても出ず、電話番号は生きているが電話は着信しない

結局このケースにおいては、出張のハシゴや安宿の利用によって節約した旅費と、架空旅費の差額を横領していました。

一般的に、税務調査において「コクヨ領収書」や「手書領収書」など、調査官が経験上疑問を持つ証憑類はよくピックアップされます。

ところが、税務調査の実務上は、他に大きな論点があった場合にはこのような論点が「口頭での注意勧告」にとどまることが多く、闇に葬られる場合も多くあります。この点からも、できれば調査の過程を把握しておく必要があります。

3)テレビ朝日社員が1億4千万円流用
テレビ朝日は2013年11月20日、外部の制作会社に架空の業務費などを請求させ、番組制作費合計約1億4100万円を着服したとして、プロデューサーを11月19日付で懲戒解雇したと発表した。同局によると、2003年11月~2013年3月までの10年間に亘り、伊東は制作会社3社に架空計上や水増しした業務代金を請求させ、同局から支払われた番組制作費を私的な国内外への旅行費用や服飾品購入に使用して、制作会社1社には見返りとして現金数10万円を渡していたという。 2013年8月に東京国税局の定例税務調査で発覚し、同局が内部調査を進めていた。本人は私的流用を認め、返済も始めているという。(以上WikiPediaより)

以上

個人事業主と消費税(帳簿がないと大増税?)

1.はじめに

最近消費税については、10%への増税や、生活必需品などへの軽減税率の適用などの大きく変化がありました。小規模な個人事業においても、無視できない税負担になってきたと思います。
最近のように大きな増税となると価格への転嫁(消費税分値上げする)をどうするか考える必要も出てきますし、コロナ禍で大変な営業への影響を懸念される方も多いと思います。

ですが、事業主の方にとって従来からもっと大事なことが見落とされている場合が多いですので、今回は簡単にご説明&注意喚起しておきます。
間近の確定申告からでも是非ご注意ください。

2.仕入税額控除

日本の消費税は「税額控除方式」を採っています。
これは、売上にかかる消費税から、仕入や経費など支払にかかる消費税を差し引くことで納税すべき金額を差し引く方式です。

消費税の仕組み(財務省)
消費税の仕組み(財務省)

 

本来、預かった消費税である売上消費税から支払った消費税(消費税法上は「仕入税額」と言います)を当然差し引いて納税する消費税額を計算すべきなのですが、日本の消費税法にはちょっと問題な規定があります。それが、「帳簿等記載要件、請求書等保存要件(消費税法30条、末尾に条文抄を記載)」です。

この規定は「仕入税額を控除したかったら、仕入や経費の支払について
①相手先
②年月日
③仕入などした資産やサービスの内容
④支払対価を記載した帳簿
⑤請求書等
を保存しておかなければならない」というものです。 この要件、①~④の帳簿に関するものは「帳簿記載要件」、⑤の請求書等に関するものは「請求書等保存要件」と呼ばれます。

消費税導入当初はもう少し甘いものだったのですが、平成9年の改正(税率が3%→5%になった)際、同時に現在の厳しい内容へと改正されました。

3.税務調査時のリスク

売上が小規模な事業者で「簡易課税(売上税の一定率を仕入税額控除額とみなす方式)」を採用できていれば当面問題はありませんが、給与支払が少なく外注費が多いなど、簡易課税が不利になる事業者の場合は売上が小規模であっても注意が必要です。

この規定、条文を見てもわかるとおり「災害その他やむを得ない理由」を除いて宥恕規定(一定の事情があれば要件を満たしていない場合も認めてもらえる)が定められていません。調査の過程で仕入先に関して上の要件の一つでも満たしていなければ、「その取引に関する仕入税額控除は否認」と言えてしまうわけです。

実際に、この論点で消費税の仕入税額控除を否認しようとする調査官も最近はぽつぽつとあらわれています。 現在でも仕入税額控除が認められなければ税負担が上がりますが、今後増税になると、その影響も税率に比例して大きくなります。

4.対応

上で説明しました帳簿記載要件を満たすためには、青色申告(きちんと帳簿を作成する代わりに、様々な税務上の有利な制度が認められます。青色申告でないものを白色申告と言います)で作成すべきものと同レベルの、きちんとした帳簿を作成する必要があります。
また平成26年度からは全ての白色申告者についても帳簿作成が義務化されますし、先に述べました簡易課税についても、廃止または適用事業規模の縮小が議論されています。

ご自分で、もしくは税理士に頼んでなどどのような方法でも良いですが、まだきちんと整備ができていない事業主がおられましたら、青色申告、白色申告に関係なく請求書等の保存と帳簿の整備をお勧め致します。

以上

(仕入れに係る消費税額の控除)
消費税法 第三十条
(略)
7  第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(同項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が少額である場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。
8  前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
一  課税仕入れ等の税額が課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
イ 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
ロ 課税仕入れを行つた年月日
ハ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容
ニ 第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額
(略)
9  第七項に規定する請求書等とは、次に掲げる書類をいう。
(略)

令和3年税制改正の大綱~手続きの電子化関係

今回も「令和3年税制改正の大綱」についてご説明します。
コロナ禍において最も問題となったのが、テレワークや時差出勤など「人との接触を避ける」ことが必要となった際に「紙の書類をどうするか」でした。
残念ながら、現在の日本の税務に関する仕組みは、十分に電子化がなされていると言えず、逆に押印を不必要に要求するなど電子化の足を引っ張る状況になっています。
この状況を打開するため、様々な取り組みがなされることとなりました。

さて今回の税制改正の大綱においては、下記のような項目が挙げられています。
以下、一つずつ説明します。

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1.税務関係書類における押印義務の見直し
2.電子帳簿等保存制度の見直し等
3.地方税共通納税システムの対象税目の拡大
4.個人住民税の特別徴収税額通知の電子化
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1.税務関係書類における押印義務の見直し(国税、地方税)
提出者等の押印が必要とされている税務関係書類について、実印を要するものなど一部を除き押印を不要とします(次に掲げる税務関係書類を除く)。令和3年4月1日以後に提出する税務関係書類について適用され、また施行日前においても、運用上、押印がなくとも改めて求めないこととされます。

2.電子帳簿等保存制度の見直し
これらの改正は令和4年1月1日から施行されます。

①電子計算機を使用して作成する帳簿書類
・現在必要となっている承認制度が廃止され、以下の要件を満たせば使用ができます
・国税関係帳簿書類(元帳や決算書、請求書などの帳簿書類)について、システムの概要書、操作説明書等の備付けがあり、画面等への速やかで明瞭な出力が可能、また調査の際その国税関係帳簿書類に係る電磁的記録のダウンロードに対応する

②スキャナ保存制度
・承認税度の廃止
・タイムスタンプ(「入力日の特定」や「改ざんの検知」を担う機能)の要件について、付与期間を3日以内から最長2月(入力期間と同じ)とする
・受領者等がスキャナで読み取る際に行う国税関係書類への自署を不要とする
・電磁的記録について訂正又は削除を行った事実及び内容を確認することができるシステムで記録の保存を行うことができれば、タイプスタンプは不要

③電子取引制度
・タイムスタンプ要件を②と同じく緩和
・検索要件を一部不要にするなど緩和

④地方税
・地方のたばこ税、軽油取引税について、国税の取り扱いに準じて同様電磁的帳簿記録や書類のスキャナ保存、電磁的記録の提出を可能とします

3.地方税共通納税システムの対象税目の拡大
地方公共団体の収納事務を行う「地方税共同機構」が電子的に処理する特定徴収金(法人の事業税その他の政令で定める地方税に係る地方団体の徴収金のうち、納税義務者又は特別徴収義務者が総務省令で定める方法により納付し、又は納入するもの)の対象税目に固定資産税、都市計画税、自動車税種別割及び軽自動車税種別割を追加し、eLTAX(地方税のオンライン手続のためのシステム)を通じて電子的に納付を行うことができるよう、所要の措置を講ずる(令和5年度以後の課税分について適用)。

4.個人住民税の特別徴収税額通知の電子化(住民税)
個人住民税の特別徴収税額通知について、次の見直しが行われます(令和6年度分以後の個人住民税について適用)。
①給与所得に係る特別徴収税額通知(特別徴収義務者=会社など用)
eLTAXを経由して給与支払報告書を提出する特別徴収義務者が申出をしたときは、市町村は、当該通知の内容をeLTAXを経由し、当該特別徴収義務者に提供しなければならないこととする。
(注)現在、選択的サービスとして行われている、書面による特別徴収税額通知(特別徴収義務者用)の送付の際の電子データの副本送付は終了する

②給与所得に係る特別徴収税額通知(納税義務者=給与を受ける者用)
eLTAXを経由して給与支払報告書を提出する特別徴収義務者であって、個々の納税義務者に当該通知の内容を電磁的方法により提供することができる体制を有する者が申出をしたときは、市町村は、当該通知の内容をeLTAXを経由して当該特別徴収義務者に提供し、当該特別徴収義務者を経由して納税義務者に提供しなければならないこととする。この場合において、当該特別徴収義務者は、当該通知の内容を電磁的方法により納税義務者に提供するものとする。

令和3年税制改正の大綱について(概要)

1.税制改正の大綱とは
令和2年12月21日、「令和3年度税制改正の大綱」が閣議決定されました。この税制改正の大綱は、政府が今後の税制改正のあり方について明確に方針を示すもので、毎年12月に公表されます。今回から数回にわたり、この税制改正の大綱について簡単に説明します。

税制改正の大綱は、政府が税制のあり方についての方針を示すもので、その後の税制改正はこの大綱に基づいて行われることとなります。

これに対し、与党自民党と公明党が発表する「税制改正大綱」と呼ばれるものも、政府の「税制改正の大綱」の直前に発表されます。これらはほぼ同じものなのですが、前者が「与党の方針を示すもの」であり、後者が「政府の方針を示すもの」であることから、場合によっては異なる場合もあり得ます。ただ現在のように政権与党がある程度安定している場合には「ほぼ同じ」と思っておいて良いようです。

税制改正大綱R3

2.税制改正の大綱の概要
今回発表された税制改正の大綱の概要は、以下の通りです。
これらのうち、私たちのお客様に大きく関係する項目については、これから数回にわたってメルマガ等で順次細かく解説いたします。

<個人所得課税>

  • 住宅ローン控除の特例の延長等(適用期限延長、面積要件緩和)
  • セルフメディケーション税制の見直し(範囲の重点化と手続簡素化、延長)
  • 国や地方自治体の実施する子育てに係る助成等の非課税措置(国や自治体からの子育て助成を非課税に)
  • 退職所得課税の適正化(年数が短い法人役員の退職金課税を強化)​

<資産課税>

  • 住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置の拡充(非課税枠を据え置き、面積要件緩和)
  • 教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の見直し(節税的利用防止、延長)
  • 土地に係る固定資産税等の負担調整措置(コロナ対策で負担調整据え置き)
  • 国際金融都市に向けた税制上の措置(外国人家族が相続する国外財産の課税対象外)

<法人課税>

  • 産業競争力強化に係る措置(DX促進、カーボンニュートラル、研究開発、コロナ禍対応賃上・投資促進、繰越欠損金控除上限引き上げ)
  • 中小企業支援(投資促進税制延長、所得拡大促進税制見直し、中小企業の経営資源の集約化)
  • 株式対価M&Aを促進するための措置の創設(M&A対象会社株主の譲渡損益課税を繰り延べ)
  • 国際金融都市に向けた税制上の措置(投資運用業役の員業績連動給与を損金算入可)

<消費課税>

  • 車体課税(エコカー減税及び自動車税・軽自動車税の環境性能割見直し等)
  • 金密輸に対応するための消費税の仕入税額控除制度の見直し

<納税環境整備>

  • 税務関係書類における押印義務の見直し(地方税関係書類についても同様)
  • 電子帳簿等保存制度の見直し等
  • 地方税共通納税システムの対象税目の拡大
  • 個人住民税の特別徴収税額通知の電子化
  • 国際的徴収回避行為への対応

<関税>

  • 暫定税率等の適用期限の延長等
  • 個別品目の関税率の見直し(ポリ塩化ビニル製使い捨て手袋の暫定税率無税)

帳簿を甘く見ると「消費税」で痛い目に~消費税の帳簿要件

私たち税理士は、税務業務の一環としてお客様の様々な取引を記録した「帳簿」を作成することがあります。
よく「記帳代行」などと呼ばれている仕事ですね。
この「記帳する仕事」が税理士の仕事だと思っておられる方も多いのですが、違います。
実は「税金の仕事をするために必須となる帳簿を作っている」という考え方が正しいのです。
今回はこの帳簿について、その重要性と、帳簿の作成や保管をおろそかにした場合の恐ろしいリスクについて説明します。
※一番恐ろしい所は3.4.ですので、お急ぎの方はそちらからお読み下さい。

1.帳簿とは?(簿記の定義)
会計業務に携わる上で基本となる「簿記」の世界においては、基本的な帳簿は以下のようなものがあります。

  • 主要な帳簿:仕訳帳、総勘定元帳
  • 補助的な帳簿:現金出納帳、預金出納帳、売上・仕入帳、在庫表、受取手形・支払支払手形帳、売掛・買掛帳

今回の趣旨とは異なるため細かい説明は省略しますが、主要な帳簿には営業に関する取引の全てが記載されており、補助的な帳簿は、主要な帳簿を補足する形で特定の取引の詳細が記載されています。

またこれらの帳簿を正しく作成するためには、「複式簿記」(一つの取引を借方、貸方と2つの概念に分け、資産や負債、資本と損益を正確に把握できる帳簿記載の方法)を使わなければなりません。

総勘定元帳

2.法律に基づく帳簿
①会社法
株式会社などの会社が作成すべき帳簿は、1.で説明した簿記の世界の概念を基本としつつ、会社法の第432条に下記の通り定められています。

「株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない。株式会社は、会計帳簿の閉鎖の時から十年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない。」

個人の場合には会社法のような制度がありませんので、原則として簿記の定義がそのまま使われており、保存義務についても後述の所得税法や民法に従うこととなります。

②法人税法・所得税法
税理士が携わる帳簿作成の大半を占めるのが、会社に関する法人税法、個人事業に関する所得税法に基づく業務です。

これらの帳簿については、会社法と同様に簿記の世界を基本として、法人税法、所得税法それぞれで帳簿の作成義務や保存義務が定められています。

また、「青色申告」(①で説明した複式簿記を使い、正しく作成した帳簿を適切に保存することを前提とした制度)を届け出た場合には、税制優遇などを受けることができます。

3.消費税の「帳簿保存義務」
実は、最も注意すべきなのは「消費税」の世界における帳簿の取り扱いなのです。

前述の通り個人事業でも法人であっても、帳簿の作成義務はありますので、申告書をきちんと作成するためには帳簿を作成していることが当然の前提となっています。

納税すべき消費税は、この作成された帳簿の記載に基づき、原則として「売上などの課税収入に課された消費税」から「仕入や経費などの課税支払に課された消費税」を差し引くことで計算されます。条文は下記の通りになっています。

消費税法第30条第1項(抜粋)
事業者が、国内において行う課税仕入については、課税標準額(売上など)に対する消費税額から、国内において行った課税仕入に課された消費税額を控除する。

しかしこの「帳簿記載」について、消費税法は他の法律にない厳しい規定を置いています。下記の通りです。

消費税法第30条第7項(抜粋)
第1項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない

要するに、「帳簿や請求書を保存していない場合」には「売上などの消費税」はそのまま計算し、「仕入などの消費税」を「差し引きさせない」ことを定めているのです。

帳簿は当然作っているのだから、保存するのは簡単だろう、と軽く考えてはいけません。
法律上「保存する」は、「取引を行った年月日、内容、金額、相手方の氏名又は名称などの必要事項を整然とはっきり記載する」ことを求めているのです。

このため、厳密にいうとこれらが一部でも欠けていると、本来より大幅に多額の消費税を納めなければならないことになります。

4.事例
税務調査においてまだそれほどこの論点が厳しく問われるケースが多くないようです。
このため皆さん軽く考えがちなのですが、数で言えば事例はたくさん出ています。また、税務署や大阪国税局の調査官からも、消費税率が上がり重要性が増えているので、今後この分野は重点として取り扱っていくとの情報を頂いています。

(事例)国税不服審判所の裁決例(平成6年12月12日裁決)から
帳簿等には、仕入先としてその氏名の氏に相当する部分が記載されているのみであり、また、請求人は、本件調査の際に本件仕入先を明らかにして記載不備を補完しようとしなかったことから、帳簿又は請求書等の保存がない場合に該当するとして、仕入税額控除の適用は認められないとした事例

請求人は、[1]本件帳簿等は、消費税法第30条第8項及び第9項に規定する記載要件を充足し、かつ、それを保存しているのであるから、同条第7項に規定する仕入税額控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合には該当しない、また、[2]請求人は、本件取引の際に、仕入先に消費税を支払ったのであるから、仕入税額控除を認めるべきである旨主張する。

審判所の判断は、次のとおりである。

本件帳簿等には、仕入先としてその氏名の氏に相当する部分が記載されているのみで、住所、電話番号等の記載もないため、本件帳簿等から仕入先を特定することはできない。消費税法第30条第8項第1号のイは、明確に「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」を記載することと規定しているのであるから、当該記載が同項の帳簿としては不備なものであることは明らかである。

原処分に係る調査(「本件調査」)の際に、調査担当職員が、請求人に仕入先を特定できない場合には仕入税額控除が適用できない旨説明し、本件取引の仕入先を特定するよう求めたにもかかわらず、請求人が本件仕入先を明らかにして記載不備を補完しようとしなかったことが認められるから、その時点において保存されている帳簿等は、記載不備な状態における本件帳簿等のみであることになる。

請求人は、当審判所に対して、仕入先が特定できるものがあっても、仕入先を明らかにすると取引ができなくなるおそれがあるため明らかにすることはできない旨答述しているが、これをもって請求人が適法な帳簿又は請求書等を保存しないことにつき災害その他やむを得ない事情がある旨主張していると解しても、そのような主張は仕入先の相手方の氏名又は名称を記載した帳簿等の保存を求める消費税法第30条第7項ないし第9項の規定の趣旨とまったくあいいれないところであるから、このような理由をもってしては、同条第7項の「その他やむを得ない事情」に該当するとはいえない。

本件帳簿等に記載された氏の真偽について検討するまでもなく、本件取引については、消費税法第30条第7項に規定する仕入税額控除に係る帳簿又は請求書等の保存がない場合に該当し、同条第1項の規定による仕入税額控除を適用することはできない。

本件取引については、消費税法第30条第7項の規定により、同条第1項の仕入税額控除の規定は適用することができないのであるから、本件取引に係る仕入れの存否、その支払対価の額、消費税相当額の仕入先への支払の有無について検討するまでもなく、仕入税額控除をすることはできない。

今年の年末調整は大変!(改正とその他のお話)

今年も年末調整の季節がやってきました。
ここ数年「新元号」「配偶者控除の改正」やそれに伴う用紙の変更などがあり毎年注意点が多かったのですが、今年はさらに永年大きく変わらなかった論点(基礎控除や給与所得控除)にまで改正がある大変な年になります。
改正論点を中心にわかりやすく解説しますので、経営者や給与担当の方は是非早めに手続きのスタートを、また働く皆さんはできるだけ早めに資料の提出をしましょう。

1.年末調整とは
年末調整とは、年末に在籍している役員・社員を対象として、毎月の給与や賞与から「天引き」(源泉する、といいます)されている所得税を、年末に精算する手続きのことを言います。
この精算が必要な理由は、主に以下の通りです。

  • 所得税の計算は年末時点を基準にしているものがほとんどで、年末にならないと状況が確定しない
  • そもそも、毎月の給与や賞与から計算されている税額は「仮計算」でしかなく、年末までの支給額を確定しないと正確には税金が計算できない

年末調整2020
年末調整の流れ(国税庁「年末調整のしかた」より)

実はこの年末調整、上のフローチャートをご覧頂くとわかる通り、皆さんが記載される面倒な用紙(扶養控除等申告書、基礎控除申告書、配偶者控除等申告書、所得金額調整控除申告書、保険料控除申告書、住宅ローン控除申告書)の作成はプロセスのほんの入り口なのです。そして実はその後の手数が非常に面倒なため、会社側(特に人事部や経理部)には結構負担がかかっています。

このため、遅れたり督促されたりした場合に担当の方が不満な顔をしていても、ただでさえ面倒な手続きをさらに遅らせているわけですからわからないでもありません。
その入り口となる書類についてはできるだけ誤りや抜けのないよう、期限までに必ず出すよう協力してあげましょう。

2.令和2年から適用される改正一覧
今年(令和2年)から適用される改正は、以下の通りとなっています。

  • 給与所得控除の引き下げ
  • 基礎控除の引き上げ
  • 所得金額調整控除の創設
  • 配偶者控除、扶養控除などの合計所得金額要件の見直し
  • 未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦(寡夫)控除の見直し
  • 電子手続

3.給与所得控除の引き下げ
給与については、支払いを受けた給与額から、給与額に応じて変動する一定額を差し引いた金額に税金をかけることになっています。この「差し引く一定額」を給与所得控除と言います。
この給与所得控除の計算表が、下記の通り改正されています。

給与所得控除改正
給与所得控除の改正

 この表は慣れないとわかりにくいのですが、給与収入が増えるに従って、少しずつ給与所得控除額が増えるように作られています。
改正前後を比べてみると、給与収入が850万円までは給与所得控除が10万円減少し、その後は25万円まで減少幅が広がるように改正されています。
その分所得税が増えることとなりますが、後で説明する基礎控除の改正、所得調整控除の創設により一部増税の影響を打ち消すこととしています。

4. 基礎控除の改正
所得には全て税金がかかるわけではなく、「基礎控除」と呼ばれる最低ラインが設けられています。この基礎控除については、長い間どんなに所得の高い人であっても適用がなされてきたのですが、下記の通り合計所得金額2,500万円を超える方についてはとうとう適用がなくなってしまいました。
他方、2,400万円以下の所得者については10万円増額されています。

基礎控除改正
基礎控除の改正

この金額を計算するため、従来の年末調整書類に加え「給与所得者の基礎控除申告書」という用紙に記入の上提出する必要があります。

 5.所得金額調整控除の創設
その年の給与の収入金額が850万円を超える所得者で、
①特別障害者に該当する人
②年齢23歳未満の扶養親族を有する人
③特別障害者である同一生計配偶者を有する人
④扶養親族を有する人
の総所得金額を計算する場合には、給与の収入金額(但し1,000万円が限度)から850万円を控除した金額の10%に相当する金額を、給与所得の金額から控除することとされました。

この金額を計算するため、従来の年末調整書類に加え「所得金額調整控除申告書」という用紙に記入の上提出する必要があります。

6.配偶者控除、扶養控除などの合計所得金額要件の見直し
いわゆる「扶養の対象」である、同一生計配偶者、扶養親族、源泉控除対象配偶者、配偶者特別控除の対象となる配偶者及び勤労学生の合計所得金額要件がそれぞれ10万円引き上げられ、次の表のとおり改正されました。これは、基礎控除の最低限度が4.の通り引き上げられたことに関係したものです。

扶養所得条件改正
配偶者控除・扶養控除合計所得金額改正

 7.未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦(寡夫)控除の見直し
配偶者と死別したり離婚して未婚のままであったり、扶養家族や子供がいる人、所得が一定の額以下の人を所得税法上「寡婦」や「寡夫」(両方とも「かふ」)と呼び、その条件に応じて課税所得が控除されることになっています。この制度、従来は女性の要件が少し広くなっていたり、全ての要件を満たす女性は控除額の割り増しがあったりと、男女差のある制度となっていました。
また、この制度の適用があるのは「民法上の婚姻関係にある者」に限られ、未婚のひとり親については対象となっていませんでした。
令和2年の改正においてはこの点が見直され、「ひとり親控除」と新しい「寡婦控除」制度に再編されました。
この改正については、別のページ ひとり親控除(令和2年 税制改正) において詳しく解説しています。

8.年末調整の電子手続
元々、「保険料控除申告書」や「住宅ローン控除申告書」を従来は書面(ハガキ等)で添付していた保険料控除証明書等は、保険会社等から送られる控除証明書等の電子データで提出することができることになりました。この手続を可能にするため、年末調整手続において、これらの電子発行された控除証明書等データ提出するための「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア」(以下「年調ソフト」が無償提供されています。
年末町営の電子申告イメージは下記の通りです。

年調電子化

 

なお、従業員から年末調整申告書に記載すべき事項を電子データにより提供を受けるためには、勤務先があらかじめ所轄税務署長に、「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、その承認を受ける必要があります。この申請書を提出した月の翌月末日までに税務署長から承認又は承認しないことの決定の通知がなければ、この申請書を提出した月の翌月末日に承認があったものとされていますので、例えば12月から年末調整手続の電子化を行う場合には、念のためこの10月末までには申請書を提出しておく必要があります(10月提出→決定通知がない場合には翌月、すなわち11月末日に承認があったものとみなされる→12月から利用可能)。

 

9.その他以前からの年末調整注意点 (改正で説明した書類を除く)
①扶養控除(異動)等申告書

年末調整においては最も一般的な様式で、要するに「年末時点での扶養家族について書く」書類です。しかしこの様式は意外と重要で「(仮に記載すべき扶養家族がなかったとしても)提出しなければあなたの毎月の源泉所得税額を非常に大きな率で計算しなければならなくなります。
なお年末時点の扶養家族状況はすなわち年明けの状況なので、それを考えて来年用(今年なら「令和3年用」)の用紙に記載してもらいます。

②配偶者控除等申告書の書き方
年末までの「本人と配偶者の所得見積額」を記載します。
配偶者控除、配偶者特別控除が前回の改正で廃止され「103万円」の制限がなくなったため、より複雑になっています。なお、年末までに実績が見積額と変わった場合は、翌年1月(源泉税の納付や源泉徴収票の提出)までは会社が訂正するか、または自分で確定申告が可能です。

③保険料控除申告書
保険料控除申告書は、生命保険料、地震保険料、社会保険料(国民年金や健康保険料)、小規模企業共済などを自分で支払っている時に記載します。また受取人が配偶者や親族となっている生命保険料や、生計を一にする親族の家屋を対象にした地震保険料が含まれます。
この控除証明書を提出する際には、証明書の添付、特に生計を一にする親族の国民年金支払証明書を忘れないようにしましょう。また、控除証明書に記載してある区分(生命保険の一般、個人年金、介護や地震保険の地震、旧長期など)についても十分注意して記載しましょう。

④住宅ローン控除申告書
正式には「住宅借入金等特別控除申告書」と言います。
ご存知の通り、この制度は住宅ローンを借りて家を購入した場合、数年に渡って住宅ローン残高の一定割合を所得税から控除してくれる制度です。しかし、1年目は必ず確定申告で手続きしなければなりませんので注意して下さい。

印紙税なんていらない

「印紙」や「収入印紙」という言葉は皆さんご存知と思います。
この印紙、一般の方がよく目にするのは、高額な領収書を受け取る時くらいでしょうか。
この印紙、正式には印紙税と呼ばれる税金の一種です。
様々なビジネスで登場する印紙税とその歴史や今後について説明します。

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1.印紙税とは
印紙については「印紙税法」という法律が定められています。
この印紙税法によると、印紙は次の通りの税金であるとされています。

印紙税法第二条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する。

要するに、印紙税法が定める「文書」に課税されるのが印紙税、という訳です。
それにしても、お金や不動産、お酒などに税金をかけるならともかく、「文書」すなわち単なる紙に税金をかけるとはどういった発想なのでしょうか。

2.印紙税の歴史と意義
この理由を紐解くには、歴史を知る必要があります。
元々印紙税は、1600年代にオランダで戦争によって発生した財政危機に対応するため制度化されたものが起源となっています。契約書や領収書、手形・証券・通帳、定款といった「取引やお金に関する文書」はその背後に資金の動きや利益の発生が見込まれることが多く、また経済活動が活発であればたくさんの文書が発生することから、そこから少しずつ徴収する印紙税は、他の税金と比べると、国民に重税感を与えにくいという特徴があり、各国に普及することになりました。

3.印紙税の現在
我が国における現在の印紙税収は、どのような規模なのでしょうか。
国の統計を見ると、平成9年には約1.7兆円の税収だったものが令和元年度で約1兆円と減少しています。しかしこの収入、未だに関税や酒税と同等、また相続税の半分程度ということからまだまだ重要な水準であると言えます。
とはいえ、もともと「お金の動く取引を証明する紙」に課税したものなので、今後証明書類の電子化によってどんどん減っていくはずです。コロナ禍の影響がこれを加速することになるでしょう。

4.税理士と印紙税
さて、私たち税理士は「この文書は印紙税が課税されますか?」というご質問をよく頂きます。
その場合は大体法令に定められた一覧表(国税庁提供のPDF資料が開きます)やその解説を見ながらお答えするのですが、実は「税理士の業務対象として印紙税は含められていない」ことを皆さんはご存知でしょうか。
税理士法には、下記のような条文があり、印紙税は対応業務から明確に外されているのです。

税理士法第二条 税理士は、他人の求めに応じ、租税(印紙税、(略)を除く(略))に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。(略)

5.印紙税あれこれ
①以前は3万円以上の領収書には印紙税を貼る必要がありましたが、現在はこれが「5万円以上」と改正されています。また、カード払いの場合にはその旨が領収書上明記してあれば印紙は必要ありません。
②金銭消費貸借契約書などの契約書は通常2通作って当事者が両方保有しますが、親子会社間など十分な信頼関係や実質的一体性がある当事者間の場合は、1通の原本を作って片方が原本、もう一方がコピーを持つようにすれば原本だけの印紙で済みます。
③印紙を貼り間違えて、印紙税が過大となった場合(不要な文書に貼った場合や金額を過大とした場合)には、「印紙税過誤納確認申請書」に必要事項を記入のうえ、納税地の税務署長に提出することで還付を受けることができます。

 

合併手続の留意点~合併無効とならないために

近年組織再編に関する法整備が進み、合併、分割、株式交換・移転といった組織再編手法が大変使いやすくなりました。
その中でも、昔からよく使われている「合併」については、基本的なM&A手法として大変便利な手法であると言えます。
しかしながら、合併については会社法に規定された手続を正しく進めなければ、それ自体が無効となってしまうリスクがあります。もし無効となった場合、単に手続自体が無駄になるだけではなく、合併を前提に進められている様々な契約や事業活動が全て合併前の状態に戻されるため、甚大な悪影響があります。

今回は、このようなことがないよう、満たされるべき最低限の手続について記載してみました。
※税理士の分野である税法やその他の分野に関してはまた別の機会があれば記載します。

①合併のスケジュール
合併手続はおおよそ下記の通りの手順で行われます。

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これらの合併手続は会社法に規定されており、これらの手続に従わなければ合併を行うことはできません。この手続や登記申請書の添付書類に瑕疵がある場合、合併自体が中断する場合や、のちに合併無効の訴えにより遡って無効となる場合があります。

合併手続が中断、中止する場合はもちろん問題ですが、遡って無効となる場合には、合併を前提に進められている様々な契約や事業活動が全て合併前の状態に戻されるため、甚大な悪影響があります。このため、合併手続が登記まで適切に行われているかどうかについて、下記の手続を中心に十分注意する必要があります。

②合併契約の締結
合併契約には、消滅会社の株主に交付する対価や効力発生日など、法律で定められた事項を漏れなく決定しなければなりません。合併契約には法定の必須事項があり、この必要事項を欠くと合併の無効原因になります。また合併契約書は合併登記申請における添付書類となります。

③合併に関する書類の事前備置
存続会社および消滅会社は、株主や債権者が合併の適否や合併無効の訴え提起を判断できるよう、合併契約や当事会社の計算書類など一定の書類を本店に備え置かなければなりません。備え置く期間は合併の効力発生日後6ヵ月を経過するまでです。

④債権者保護手続
存続会社および消滅会社は、債権者に対して合併に異議があれば一定期間内に申し出る旨を官報(一定の場合は日刊新聞紙、電子公告)で公告しなければなりません。異議申出の期間は1ヵ月以上必要です。

⑤株主の株式買取請求
存続会社および消滅会社は、合併の効力発生日の20日前までに株主に対して合併する旨の通知(一定の場合は公告)をしなければなりません。

⑥株主総会による合併契約の承認
合併契約は、合併の効力発生日の前日までに存続会社および消滅会社の株主総会で特別決議による承認を受ける必要があります(但し簡易合併、略式合併の場合は、原則として株主総会による決議を省略できます)。

⑦登記・財産等の名義変更手続
存続会社の代表者は、合併の効力発生日から2週間以内に、存続会社の変更登記と消滅会社の解散登記をする必要があります。また、消滅会社の権利義務はすべて存続会社に移転するため、預金、土地および建物など、消滅会社の名義になっている財産等については存続会社への名義変更が必要です。

⑧合併に関する書類の事後備置
存続会社は消滅会社より承継した権利義務や合併手続の経過等を記載した書類を作成し、効力発生日から6ヵ月間本店に備え置かなければなりません。

⑨手続瑕疵の影響
上記の手続に瑕疵(かし 欠陥のこと)があった場合には手続の無効原因となり得ますが、その瑕疵が重大でない場合でも必ず合併が無効となるわけではありません。瑕疵が発見された場合には、合併手続に詳しい弁護士、司法書士などの専門家から無効性について意見を聴取した上で対処を判断する必要があります。

 

「にせ税理士」について

1.税理士の使命とは
税理士法第1条には、税理士の使命として「税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ること」が掲げられています。
この使命に基づき、我々税理士は確定申告など、様々な税に関する手続や相談に応える仕事を行っています。
税に関するこれらの仕事は、一般的に難易度が高く、また大きな金銭的利害の関係するものが多いため、税理士法はこのような仕事が行える者を、国家試験や実務経験を経て、税理士や税理士法人などとして公に登録された者に限定しています(税理士法第52条)。この法律に反して税理士等以外の者が税理士業務を行うと、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金が科されることになります(税理士法59条)。これには、報酬を受け取っているか否かは関係がありません。

2.にせ税理士とは
このような法律に違反してにせ税理士行為が行われるのは、税理士業務が税理士の独占業務であり、儲かると思われているからかもしれません。また、税金に関する手続きは押しなべて難しく、気軽に頼める税理士に出会えなければ、よく知っている者に頼んでしまうこともあるかもしれません。
しかし、税理士は前述の通り国家試験や実務経験を経た者だけが登録できますし、守秘義務や脱税相談の禁止など、様々な果たすべき義務があります。また最近は、「最低年間36時間の研修」が義務付けられ、自己研鑽も行っています。このような条件を満たしていない者に税理士業務を依頼した場合、場合によっては誤った手続きで不測の損害を受ける、税務署から厳しい処分が課されるといったトラブルを被ることになりかねません。またそういうトラブルの際には、あっさりと逃げてしまうケースもあります。
では、にせ税理士にはどんなタイプがあるでしょうか。大きく分けると下記のような区分があると言われています。

①無資格税理士
税理士としての資格を持たない者が、税理士であると嘘をついて税理士の仕事をする場合がこれに当たります。
税理士事務所に勤務していた(または現在も勤務している)経験者が、個人として行っている場合が多く、「○○先生」と呼ばれてあたかも税理士のようにふるまい、帳簿の記帳、申告書作成や税務相談に対応します。
しかし税理士ではありませんので、後述の通り税務調査に立ち会うことはできません(税務署はにせ税理士を摘発することも重要な仕事としていますので、怪しいとわかればすぐに見つかってしまいます)。

②名義借り・名義貸し
上の無資格者や税理士でない者が作った一般の会社(「○○記帳代行サービス株式会社」など)が依頼者から税理士業務を引き受け、自分たちができない税理士業務の部分を税理士が行っているように見せかけるため、実在する税理士や税理士法人の「名義を借りる」ことを言います。
この方法は、申告書に税理士や税理士法人の記名や捺印があるので一見問題がなさそうなのですが、税理士法はこのような「捺印だけ税理士が行う」行為もにせ税理士行為と同じとして禁止しています。
法人税の申告書を作成する場合、その申告書だけではなく作成の元になった帳簿や、さらにその元になった資料、会社の状況などを税理士は十分に知っていなければならないのです。このため、名義だけを貸し、税理士の捺印だけを行うような行為は税理士が十分に責任を果たしていることになりません。

3.にせ税理士を見抜くには
私たちが実際に出会った事例でも、全て依頼者は「ちょっとおかしいかな?」程度の疑問しか持たずに仕事を依頼し続けていました。私たち税理士にはほとんどがすぐわかることですが、慣れていない一般の方々にとっては難しいようです。
では、税理士でない一般の依頼者が、このようなにせ税理士と正規の税理士を区別するにはどうすればよいでしょうか?
以下、にせ税理士を見抜く「特徴」と、「方法」をご説明します。
もし運悪く依頼されている「税理士と思っていた人」がそうでなかった場合や、ご友人の依頼されている者がにせ税理士だった場合、最寄りの税務署や税理士会などにお問い合わせ頂ければ適切に対応してもらえると思います。

①にせ税理士の特徴

  • 安すぎる報酬
    自己研鑽や投資もせず闇で仕事しているため、コストが低い。また、税理士のような特別な能力がないので価格勝負するしかない
  • 経営相談や税金対策の相談になかなか乗ってもらえない
    帳簿作成や基本的な申告書作成など限られた能力しかなく、自己研鑽していないので税務対策、経営相談など高度な話が分からない
  • 税務調査に立ち会ってもらえない
    前述の通り、税務調査に立ち会うと、調査官に会ってばれてしまいます
  • 申告書に署名捺印や電子署名をしたがらない
    同じく署名すると「存在しない税理士」なのでばれてしまいます
  • 捺印(電子署名)している税理士と、頼んでいる「税理士」が違う
    頼んでいる「税理士」が、捺印や署名している税理士から名義を借りています
  • 顧問料の振込先が「○○税理士事務所」や「○○税理士法人」ではなく「株式会社○○」や「○○コンサルティング」など税理士のつかない名前となっている
    偽税理士が報酬を取っている、又は捺印だけの税理士から名義を借りている
  • 税務署との交渉を嫌がり、すぐに「こんなものですよ」と逃げる
    税務署と交渉しようにもにせ税理士なので、相対したとたんにばれてしまう。または能力がなく、高度な交渉ができない
  • 顧問契約書(業務委託契約書)がない
    税理士でないものが税務業務に関する契約書を作成した時点で無効な契約書になります

②税理士かどうか調べるには
上記の特徴にいくつか当てはまり、「おかしいな」と思ったら下記を試しましょう。

  • 日本税理士会連合会の「税理士情報検索サイト」
    こちらにフルネームを入れて検索すると、その人が税理士として登録されているかどうかがわかります。
  • 税理士証票を提示させる(写真付きですぐわかる)
    上記のサイトでも見つからず、いよいよにせ税理士である可能性が高くなったら、本人に「税理士標章を見せる」ように求めましょう。この税理士標章は、氏名や生年月日、登録番号、所属事務所など税理士としての基本情報が写真とともに記されており、税理士は仕事の際携帯することが義務付けられています。所長塩尻の税理士証票は下記の通りです。
    IMG_4855

 以上

医療機関の消費税-「益税・損税」のメカニズムとあるべき政策

はじめに

平成26年4月1日から、消費税の税率が8%となった。この税率アップは、前回平成9年に税率が5%とされてから実に17年ぶりの税率改定となる。このことにより、元々消費税に関連して存在していた問題のいくつかが改めてクローズアップされることとなった。

我が国の消費税には、いわゆる「益税」の問題、すなわち最終消費者から預かった税金が全て納付されない場合がある、という問題が議論されている。しかし、医療機関に限れば、逆に「損税」と言われる論点が存在することも忘れてはならない。これは、社会保険診療報酬が消費税法上非課税扱いとなることに伴う、医療機関の消費税負担問題である。

以下、消費税の歴史や税体系、課税構造を説明しつつ、この損税問題がなぜ発生するか、また国民皆保険制度の元このような問題を解決するためには、どのような政策を採るべきかについて考察する。

 

1.我が国の消費税の歴史と現状について

1)物品税

平成元年に消費税が導入されるまでの間、我が国においては間接税の一種である「物品税」が長い間採用されてきた。この物品税は、間接税についての伝統的な考え方の一つである、「生活必需品に対しては課税を控え、贅沢品はそれを購入する者に担税力が認められるから重く課税する」という考え方に基づく課税体系を基本としていた。

上記のような考え方に基づく物品税は、どの品目を課税対象とするかについてあらかじめリストアップしておく必要がある。しかし、需要者側のニーズが多様化することにより、同じ物品でも生活必需品か贅沢品であるかといった判定があいまいで課税に困難が生じたり、本来奢侈度の多寡で税率を変えていたものが不公平感のある課税体系となったりといった問題が発生していた。また、様々に進化するサービス業には原則課税されないなど、課税ベースの狭さも課題であった。

2)消費税成立までの流れ

このような問題を抱えた物品税に変わり、一般的な付加価値税の体系を持つ消費税については長い間議論や政治的検討がなされてきたが、下記の通り平成元年にようやく現在の消費税が導入された。

消費税導入から現在に至る流れについて、下記(表1 消費税の歴史)にあらましを示す。

表1 消費税の歴史

昭和53年 第1次大平内閣時に、一般消費税導入案が浮上。総選挙の結果を受け撤回。
昭和61年 第3次中曽根内閣時に、売上税法構想。
昭和63年 竹下内閣時に、消費税法が成立、12月30日公布
平成 元年 4月1日 消費税法施行 税率3%
平成 9年 4月1日、村山内閣で内定していた地方消費税の導入と消費税等の税率引き上げ(5%)を橋本内閣が実施。
平成24年 野田内閣が消費税率引き上げ法案を提出。8月10日、参院本会議で可決成立。
平成25年 安倍内閣が消費税率の8%への引き上げを決定。
平成26年 消費税率の引き上げ(8%)が実施される。

 

2.消費税の課税構造

1)概要

消費税の課税構造は一般的に、事業者が「売上等で顧客から預かった消費税」から、「仕入や経費等で支払った消費税」を差し引いた額を納税するという課税構造であると説明されることが多い。しかし、消費税の課税は実際にはもう少し異なる形で計算されている。

消費税の「課税標準(税金をかける元となる金額)」はあくまで売上等の「収入」であり、法律の建前としてはこれをまず納付するという形になっている。具体的には、課税標準に6.3%の消費税率(国税分。残り1.7% は「地方消費税」)を乗じたものが法律上「消費税額」と呼ばれているのである。

そして、これに対応する「仕入税額(支払った消費税額)」で一定の要件を満たす金額を控除したものが「納付税額」と呼ばれ、納付する国税額となる(その後地方消費税額が計算される)。

一般的に、消費税をはじめとする付加価値税の課税やその計算、管理には本来「インボイス方式(税務署等が発行する所定の伝票を消費税の支払・受取時に使い、納税額を当該伝票で確定する方式)」が適しているが、消費税の導入当初、中小企業の事務負担軽減のため見送られた経緯がある。

上記の通り、消費税は「預り金」ではなく、あくまで「事業者が受け取った金額に対する消費税」が主であり、支払った消費税は「控除できる」部分に過ぎないのである。このことは消費税導入当初から研究者や実務家によって指摘されており、現在は国税庁も「預り金的性格」であると表現することが多い。

 

2)消費税法の体系

消費税法は、以下の通りの税法体系となっている。

第一章 総則(第一条―第二十七条)

第二章 課税標準及び税率(第二十八条・第二十九条)

第三章 税額控除等(第三十条―第四十一条)

第四章 申告、納付、還付等(第四十二条―第五十六条)

1)で説明した通り、第二章で「課税標準」や「税率」について規定し、第三章で「税額控除」について規定するという体系となっている。

 

3)計算方法

消費税の計算方法は、おおよそ以下の通りである。

  • 「課税標準」と「税額控除」
①課税売上高(課税雑収入を含む)×6.3%を「課税標準」とする
②課税仕入、課税経費から「税額控除額(6.3%)」を計算
③ ①-②=「消費税額(国税)」
④ ③×17÷63=「地方消費税額」
⑤ ③+④=「納付税額」

 

  • 課税売上高が5億円以下、かつ課税売上高割合(売上や雑収入、固定資産の売却など全ての収入取引に占める課税売上高の割合)が95%以上でなければ②の全額を控除することができない。
  • 上記を除く場合は、②のうち「課税売上に対応する課税仕入」に限り①から控除できる。
  • 控除可能な仕入消費税額が課税売上に対する消費税額を上回った場合、当該上回った部分は還付される。
  • 2事業年度前の課税売上高が5000万円以下の事業者は、選択により「簡易課税」制度が選択できる。これは、上記の「消費税額」から、事業ごとに認められた「みなし仕入率」により計算された仕入税額を控除することで納付税額が計算できる簡易な方法である。

 

4)課税・非課税・不課税

消費税法上、事業者が行う取引は、以下の3つに分類して課税関係が決められている。

  • 課税…「対価性」のある国内取引(非課税取引を除く)
  • 非課税…「対価性」はあるが、消費されないもの(土地など)や政策上消費税を課さないもの(住宅貸付、医療など)
  • 不課税(免税)…「対価性」のないもの(贈与など)、国内取引でないもの(輸出)

 

5)基準期間

我が国の消費税は、課税売上高を基準として、主に小規模事業者に対する負担軽減(免税)や手続の簡易化(簡易課税の適用)などを認めているが、この判定に使用する課税売上高は、事務手続を考慮して原則として2事業年度前のものとなっている。

 

3.医療と消費税の関係

1)消費税導入時における医療の扱い[参考1]

理論的には医療も「サービス業」であり「役務提供」の一種であるから、消費税が課税の対象とする「対価性ある役務提供」であると言える。しかしながら、医療は所得の大小に関わらず、全ての人の生命を守るために必要なものであり、需要側(患者)、供給側(医療)ともに採算を考えずに支出、供給せざるを得ないものである。

このように、医療は低所得者であっても生きていくために選択の余地なく必要となる支出であり、そもそも逆進的な要素を持っている。この上、さらに逆進性を持つと言われる消費税を課税すると、低所得者に対する負担をより増大することになり、公的医療保険の趣旨にもそぐわない。

このため、消費税法は6条(非課税)及び別表第1において医療(公的医療保険の対象となるものに限る)を非課税としているのである。

2)現在の消費税における医療、介護の取扱

それでは、現在の消費税法における医療、介護の取扱について、先に述べた「別表第1」の記載から抜粋して説明する。

 

①社会保険医療の給付等

健康保険法、国民健康保険法などによる医療、労災保険、自賠責保険の対象となる医療などは非課税。但し、美容整形や差額ベッドの料金及び市販されている医薬品を購入した場合は課税取引となる。

 

②介護保険サービスの提供

介護保険法に基づく保険給付の対象となる居宅サービス、施設サービスなどは非課税。但し、サービス利用者の選択による特別な居室の提供や送迎などの対価は課税取引となる。

 

③社会福祉事業等によるサービスの提供

社会福祉法に規定する第一種社会福祉事業、第二種社会福祉事業、更生保護事業法に規定する更生保護事業などの社会福祉事業等によるサービスの提供は非課税。

 

3)社会保障・税一体改革と税率引き上げ

平成24年6月21日、当時政権党(野田内閣)であった民主党と、野党第一党であった自民党、公明党の三党間において、「社会保障・税の一体改革」について合意が成立した。この合意に基づき、平成24年6月26日、消費税増税を柱とする社会保障と税の一体改革関連法案が衆議院本会議で採決され、民主党・国民新党・自民党・公明党の賛成多数で可決、平成24年8月22日に公布された(平成24年法律第68号)。

この後自民党への政権交代がなされた後も経済動向を注視しながら消費税率引き上げの可否を検討した結果、平成25年10月1日、安倍首相は、官邸で開かれた政府与党政策懇談会で、平成26年4月に消費税率を8%に引き上げると表明した。

 

4.益税、損税のメカニズム

1)益税問題

我が国の消費税には導入当初から「益税」と呼ばれる問題が指摘されている。この益税は、簡単に言えば「顧客から預かったとされる消費税が全て納税されない」という問題である。

以下この「益税」問題に関して説明するが、消費税制度は平成元年の導入当初から現在に至るまでかなり変遷しているため、下記の説明は現在の制度を対象としている。

 

①免税事業者

基準期間(2事業年度前)の課税売上高が1000万円以下の事業者は、消費税の納税義務が免除される。これは、小規模事業者の事務負担を軽減するための制度と言われている。

このような事業者でも、消費者は消費税を含んだ支払をする必要がある(外見的に課税事業者か免税事業者か判別できるか否かに関わらず、顧客は消費税分を含めて支払う必要がある)ため、免税事業者に支払われた消費税については全額納税がなされないこととなる。その納税がなされない部分は事業者の利益になるが、この部分がいわゆる「益税」と呼ばれる。

 

②簡易課税事業者

前述の通り、消費税は原則「課税売上に係る消費税額」から「課税仕入に係る消費税額」を控除することで計算される。

しかし、基準期間における課税売上高が5000万円以下である事業者は、「みなし仕入率」を用いて仕入税額を計算することができるとされている。これを「簡易課税制度」と言う。

この「みなし仕入率」は、事業の種類(卸売、小売、製造、各種サービス業等)に応じて90%から40%まで段階的に設定されているが、これらはそれぞれの業種ごとの平均的な課税仕入率(課税仕入が課税売上の何%となるか)よりも納税者に若干有利、すなわち大きくなるように設定されていると言われている。

このため、実際の仕入税額よりみなし仕入税額の方が大きくなり、その差額部分がいわゆる「益税」となる。この制度も小規模事業者の事務負担軽減のために設けられた制度である。

 

2)損税問題

2.消費税の課税構造 3)計算方法 で説明した通り、消費税法上、事業者が課税仕入となる仕入や経費への支払を行ったとしても、その課税仕入が課税売上に対応するものでなければ当該課税仕入を課税売上から控除することは出来ない。

医療機関の収入が全て社会保険診療報酬だけであったとすると、3.医療と消費税の関係 1)消費税導入時における医療の扱い で説明した通り、この収入は消費税法上非課税と規定されているから、当該医療機関には納税すべき消費税が発生しないこととなる。

他方、医療機関が支払う医薬品仕入、家賃、検査機器やその他経費については消費税が課税されている。となると、課税売上がない事業者に発生した仕入消費税額は一切控除できない。そうであれば当然、課税売上のある事業者には認められている「仕入税額の還付」(2.消費税の課税構造 3)計算方法 を参照)も受けられないこととなる。

医療機関も理論的にはサービス業であるから、本来消費税を負担すべきなのはサービスを受ける患者である。しかしながら、上記のようなメカニズムにより、結果としてあたかも医療機関が消費税の最終負担者のような形になっているのである。これがいわゆる「損税」問題である。

この「損税」問題について、厚生労働省は「診療報酬改定の際、影響額を織り込んでいる」と主張している。具体的には、平成元年(消費税導入、税率3%)時点で0.76パ-セント、平成9年(消費税率を5%に引き上げ)の際に0.77パ-セント、都合1.53パ-セントを行政措置として社会保険診療報酬に上乗せして控除対象外消費税の手当をしてきたというものである。そしてこの引き上げは、消費税や税率引き上げで増加する医療機関の平均的な「損税」部分に見合ったものであるとされている。

しかし、日本医師会は、調査の結果、医療機関の規模に関わらず現時点においても社会保険診療等収益の2.2%に相当する消費税の負担増が発生しており、2.22%―1.53%=0.69%分の損害が放置されていると主張している[参考2]。

このような主張に基づくと、予定されている税率の引き上げはいわゆる「損税」問題を拡大し、医療機関の経営を圧迫する恐れがある。

 

5.採るべき政策についての考察

1)問題点の整理

社会保障と税の一体改革は、社会保障の安定財源確保と財政健全化を同時に達成することを目指す観点から行われるものであり、消費税の税率引き上げもこの改革を目的として行われることは既に述べた。しかし、社会保障の持続可能性を目的としたこの税率引き上げは、消費税の負担割合増加を通じて「損税」問題を拡大し、結果として社会保障の重要な領域である医療の消費税負担問題を拡大するというジレンマを包含した政策であるとも言える。

この問題については、厚生労働省は前述の通り、消費税導入時と税率引上げ時に、診療報酬の上乗せにより解決済みであるとしてきた。しかしながら、医師会や医療機関からは、増加する負担に対して不十分であること、改定項目が限られていて公平に配賦しているとはいい難いこと、またその後のマイナス改定等により現在の補填状況が検証不能であること、等が問題として指摘されている[参考2]。

 

2)採るべき政策とは

このような問題に対しては、どのような政策を採るべきだろうか。

3.医療と消費税の関係 1)消費税導入時における医療の扱い で説明した通り、医療(特に社会保険診療報酬の対象となる一般的な医療)については公共性が極めて強く、また一体改革の目的である社会保障の対象そのものであることから、消費税の軽減税率(食糧や衣料など基本的な生活必需品に一般の税率より低い税率を適用する方式)やゼロ税率(課税だが税率をゼロとする方式)は、そもそも「課税」という概念から見てそぐわないと考える。

他方、厚生労働省等が主張するように、医療が非課税となっていることで増える医療機関の負担(仕入税額に関するもの)を診療報酬の改定で対応する方式についても、改定の客観的な合理性・公平性を欠き曖昧で不十分である。

私は、上記の問題点を考慮した上で、下記の政策を採るべきであると提唱する。

  • 社会保険診療報酬は、消費税の非課税売上とするが、課税売上割合の計算上、課税売上として取り扱う。また社会保険診療報酬に対応する課税仕入は、税額控除(還付)対象とする
  • 社会保険診療報酬は、消費税の負担を考慮外として計算する

以下、上記について個別に説明する。

 

3)消費税上、社会保険診療報酬のあるべき取扱い[参考3]

消費税法上、輸出に関しては免税扱いとなっている。このため、例えば輸出が100%の事業者であれば、国内で商品を仕入れた際や経費を支払った際同時に支払った消費税についても、理論的には課税売上高がないため控除できないこととなる。

しかし消費税法は、あくまで輸出自体は免税としながらも、その他の場合、すなわち課税売上割合の計算や課税売上に対応する課税仕入の判定においては、輸出を課税取引とみなす規定を置いている(消費税法31条)。

この結果、前述の100%輸入となっている事業者であっても、国内で支払った消費税額は全額税額控除の対象となり、輸出免税により消費税が発生していないことから税額控除対象の消費税が全額還付されるのである。

上記の考え方は、社会保険診療報酬にも適用が可能であるものと考える。すなわち、政策目的から必要となる社会保険診療報酬の非課税性は保持しつつ、輸出と同様に、課税売上割合の計算や課税売上に対応する課税仕入の判定においては社会保険診療報酬を課税取引とみなす方式である。このような方式を採用することで、例えば収入の100%が社会保険診療報酬である医療機関においては、支払った仕入税額が全て控除対象となり、還付されることとなるのである。

なお、仮に上記のような方式を現行の消費税法に適用する場合、仕入税額控除の「帳簿記載要件(消費税法30条7~10項)」には注意が必要である。この要件は不正な税額控除を防ぐため、一定の要件を満たした仕入税額のみを控除させるために定められている。具体的には請求書と、以下の通りの情報を記載した帳簿を保存することとされている。

  • 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
  • 課税仕入れを行った仕入年月日
  • 課税仕入れに係る資産又は役務の内容
  • 課税仕入れに係る対価の額

なおこの要件には原則として宥恕規定はなく、災害などの場合を除き要件を満たさなければ税額控除が認められないこととなる。ほとんどの医療機関は現在課税事業者となっておらず、上記の要件を満たす帳簿記載や証憑保存がなされていない可能性があるため、特に注意が必要となると考える。

 

4)社会保険診療報酬の適切な調整

前述の通り、現在厚生労働省は消費税の損税部分につき、社会保険診療報酬の改定によって対応したとの立場に立っている。しかし、医師会等が主張するように、負担への対応が不十分であったり、配賦の公平性に欠けたりすることが問題として指摘されている

このため、3)の通り社会保険診療報酬については非課税を保ちつつ課税売上とみなす制度を導入すると同時に、消費税部分を総額で考慮するのではなく、外税的に社会保険診療報酬の点数を定め、消費税率変動の影響を排除することで、「損税」と言われる現象の影響を完全に排除することが医療政策上好ましいと考える。

 

結論

以上、消費税の歴史と現在の制度について、医療と消費税の関係、損税、益税のメカニズムについて考察した。

また、社会保障と税の一体改革により今後さらなる消費税率の引き上げが予定されているが、このことで拡大する「損税」問題については対策が必要である。この損税対策については諸説あるが、私は消費税法における輸出と同様の取扱を採用し、非課税性を保ちつつ損税問題を解決する方法を提案した。

以上


参考文献

[1]医療消費税非課税の経過 診調組 税-2-4資料(平成24.7.27 厚生労働省 医療機関等における消費税負担に関する分科会)

[2]日医ニュース1224号(平成24年9月5日 日本医師会)

[3]Mizuho Short Industry Focus36号(平成24年11月12日 みずほ銀行)