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見解の相違って何?(税務調査対策)

新聞などで、税務署や国税局による税務調査や修正申告などのニュースが出る際に「見解の相違がありましたが、既に修正申告と納税を済ませています」といった企業の発言が出る場合が良くあります。

この「見解の相違」とは何でしょうか?

税法はもちろん法律ですので、相当細かい検討を重ねて精緻に作られています。またその上、税務の世界には「通達」という、法律ではないものの法律に近い拘束力を事実上持っている決まりがあります。 しかし、それだけ細かい内容が決められていても、その運用方法や趣旨の認識には少し幅があります。 また、税法というのは基本的に「何かの事実が発生した場合」に「どのような課税を適用するか」について定めた法律です。ですから、その「何かの事実」について納税者側と国税側に認識の相違があった場合、課税の前提となる事実認識のから争いが起こることになます。

しかし、通常は調査する側である国税側の方より、調査を受ける側の方がやはり立場が弱いものですから、そのような「見解の相違」があれば、どうしても調査を受ける側が引いてしまう場合が多いようです。これがいわゆる「見解の相違」が「調査の結論」と言われる所以です。

まあいくら納税者側が口頭で正当性を主張しても、その話を調査官がそのまま税務署へ持ち帰る訳にはいきません。 彼らとて公務員ですから、自らが法令の判断を明らかに誤っているのでない限り、納税者側の認識を補強する筋合いはありませんし、あまり納税者側をかばうようなそぶりを見せていては、自分の立場すら危うくするかもしれないのです。

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さて、このような事象が発生した場合、納税者側やその税理士としてはどのように行動すべきでしょうか。

有効な方法の一つは、「説明文書を提出すること」です。 この文書は、税法などが定める正式な文書ではありませんが、納税者側の主張や事実認定に関する項目を論理的に、かつ税法などの法令に基づいて説明するものです。調査官に対してこのような文書を提出することで、納税者側の主張が認められる可能性は高くなります。

ただ残念ながら、このような説明文書は簡単に作成できるものではありません。
税法や会計のみならず、事業に関する法令や規制、慣習なども熟知しておかなければなりませんし、税務調査で発見された事実と整合性の取れる説明でなければまったく意味を持ちません。

私は、これまで文書提出を得意分野の一つとしてきました。
十分に効果を発揮する文書を作成するためには、単に文章がうまいだけでは足りません。 一種職人芸的な、論理的思考に基づく文章構成が必須となります。
実はこんなところで、私が理系(工学部機械工学科)出身であることが役に立っています。 「論理的に物事を伝える文章を作成する」訓練は、工学部の卒論、修士論文、学会発表時の論文作成で担当教授から相当厳しく指導を受けてきました。

理系から文系と言われる会計士・税理士として全く違う分野に踏み出したため、元々理系の知識で使えるものは何もないかと思っていましたが、こういう意外なものを含め、人生無駄なものは何もないんだなぁと感慨深いです。

税務調査でお困りの方、特に真面目にやっている自信があるのにいわれのない論点で責められている方
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会社における「備品」の会計・税務・管理

大会社でも小規模な個人事業でも、またビジネスの内容を問わず必ず必要になるのが「備品」です。
巨大な製造設備と違って手軽に購入できるものですが、それでも会計や税務においてたくさんの論点があります。
この記事は、その論点の一部(法人税に関するもの)を簡単にご説明いたします。

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1.備品とは
事業のため1年以上の長期にわたって使用又は利用する目的で保有する資産を「固定資産」といい、法人税法では、土地、減価償却資産、電話加入権等と規定されています(法人税法第2条22項)。この中で減価償却資産とは一般的に時の経過等によってその価値が減っていく資産をいい、備品はこれに含まれます。

備品には、机や椅子といった伝統的なものから、テレビ、エアコンといった電化製品、そして最近だとパソコンやプリンタ、タブレットといった最新鋭のものまで、たくさんの種類があります。

似た概念に「消耗品」があって紛らわしいのですが、「道具として使用するもの」が備品、「それ自体を比較的短時間で消費しながら使用するもの」が消耗品、と理解すると分かり易いと思います。

2.会計処理方法
減価償却資産の取得に要した金額は、取得時に資産に計上されますが、減価償却により少しずつ費用となります。減価償却とは、減価償却資産の取得に要した金額を一定の方法によって各年度に配分していく手続です。資産の使用可能期間にわたり減価償却することで、使用に応じた費用を順次認識することができると考えられています。

3.会計処理時点
減価償却資産は購入した日に資産計上します。一方、減価償却を開始するのは、事業の用に供した日からとなります。

「事業の用に供した日」とは、その資産のもつ属性に従って本来の目的のために使用を開始するに至った日をいいます。事業の用に供したか否かは、業種・業態・その資産の構成及び使用の状況を総合的に勘案して判断します。例えば、備品を会社に搬入しただけでは事業の用に供したとはいえず、その備品を据え付け、目的通りの使用が可能なことを確かめたのちに、使用を開始した日が事業の用に供した日となります。

4.取得価額
減価償却資産の取得に要した金額とは、支出内容からとらえた場合、原則として、その資産の購入代価とその資産を事業の用に供するために直接要した費用の合計額となります。また、引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税などその資産の購入のために要した費用も購入代価に含まれます(法人税法施行令54条第1項)。

一方、その範囲からとらえる場合、一つの資産としての取得単位は、通常1単位として取引されるその単位、「工具、器具及び備品については1個、1組又は1そろいごとに」判定することとされています(法人税法基本通達7-1-11)。例えば、テーブルと机がセットになった応接セットや、パソコンと基幹ソフトウェアなどは1組または1そろいととらえることができます。

5.減価償却
減価償却は先に述べたとおり、使用に応じた費用を認識する意味から、その使用状況に応じた適切な方法と期間を選択する必要があります。

減価償却には定額法や定率法などの償却方法があります。償却方法は任意に選択し、税務署への届出が求められています。期間は、資産の種類ごとに一般に合理的と考えられる使用期間が法定耐用年数として定められています。これらの方法・期間に基づいて償却額を計算することになります。

なお、法定耐用年数は新品の資産を取得した際に用いられるものであり、中古資産を取得した場合には、耐用年数を別の方法で算定することになります。
また、事業年度の途中で取得した資産の減価償却費は、年間金額を月数割りした金額となります。

6.売却または除却
資産を第三者へ売却、または不要になり除却した場合には、入金額と資産の残存価額との差額を損益として計上します。

7.特例
少額の減価償却資産には特例が設けられており、通常の会計処理と比較して早期に費用化が可能となっています。

取得価額 費用として処理 一括償却資産処理 少額減価償却資産 固定資産計上
10万円未満 中小事業者のみ〇
10~20万円未満 × 中小事業者のみ〇
20~30万円未満 × × 中小事業者のみ〇
30万円以上 × × ×

使用可能期間が1年未満のものまたは取得価額が10万円未満のもの
事業の用に供した事業年度において、その取得価額に相当する金額を損金経理した場合には、その損金経理をした金額は、損金の額に算入されます。この場合の「使用可能期間が1年未満のもの」とは、法定耐用年数でみるのではなく、その法人の営む業種において一般的に消耗性のものと認識され、かつ、その法人の平均的な使用状況、補充状況などからみて、その使用可能期間が1年未満であるものをいいます。なお、事業の用に供した事業年度においてその取得価額の全額を損金経理している場合に、損金の額に算入することができます。したがって、いったん資産に計上したものをその後の事業年度で一時に損金経理をしても損金に算入することはできません。

一括償却資産
取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産については、一定の要件の下でその減価償却資産の全部又は特定の一部を一括し、その一括した減価償却資産の取得価額の合計額の3分の1に相当する金額をその業務の用に供した年以後3年間の各年分において必要経費に算入することができます

中小企業者等の特例
中小企業者等が、取得価額が30万円未満である減価償却資産を事業の用に供した場合には、一定の要件のもとに取得価額の合計額のうち300万円に達するまでの取得価額の合計額を、損金の額に算入することができます。

8. 資産管理
備品は一つ一つが小さいですし、前述の通り費用化してしまって会計上資産として残らないものが多くなります。このため、特に中小企業においては少額のものについて資産管理をしていない場合が多いようです。

ですが、持ち出しなどの不正を防ぐためや、重複購入による無駄な支出、使用限度超過による故障などのトラブルを防ぐため、資産計上していない備品であっても、番号などを付して個別に資産管理をしておくと、健全な経営にはとても役に立ちます。

以上、たかが備品といってもたくさんの論点がある事がお分かり頂けたと思います。是非ご参考になさって下さい。

「役員退職金」は税務署に3度おいしい

従業員と同じく、役員も退職すると「役員退職金」がもらえる場合があります。
しかしこの役員退職金、様々な注意点があり、しかも税務署にとっては舌なめずりしたくなるほど「おいしい」論点なのです。
今回はその恐ろしい論点と、どうすればリスクを下げられるかについてご説明します。

1.中小企業の後継者不足
中小企業庁によると、2025年までに、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万(日本企業全体の1/3)が後継者未定であるとのことです。そしてこの現状を放置すると、中小企業・小規模事業者廃業の急増により、2025年までの累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があると言われています。

2025年中小企業
中小企業庁「中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題」より抜粋

2.役員退職金と会社法
さてこのような中、引退する経営者が必要としているのが「役員退職金」です。役員退職金は、文字通り「役員が退職する際に会社が支払う退職金」であり、法律上様々な定めが置かれています。

まず会社法上、役員退職金は定款か株主総会の決議で定める必要があります(会社法361条)。
この規定は退職金に限らず役員が受ける利益全般について定められているものですが、通常は毎月の役員給与などと退職金は別に定めます。
また実際には定款で退職金を定めることは少なく、株主総会で「退任取締役に役員退職慰労金として〇〇円を支払う旨」の決議をするか、上限などの制約を定めて取締役会に詳細を委任することが多いようです。
とはいうものの、役員退職金はあくまで会社が支払う費用であり、利益処分ではありません。

3.税法上、役員給与は「原則として費用ではない」
税法上は、役員退職金は通常の役員給与とまとめて「役員給与」として取り扱われます。
そして驚くべきことに、現在の法人税法上、役員給与は「原則として損金の額に算入しない(費用として取り扱わない)」とされています(法人税法34条②)。
条文で定める要件を満たさない限り、費用としては認められないのです。

では、役員退職金についてその「要件」は、どんなものなのでしょうか。それは以下の通りとされています(法人税法施行令70条)。

「業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる」

要するに、「横並びで決めろ」という「ザ・昭和」な考え方にまだ縛られており、いくら卓越した業績を残した社長が退任する場合でも、業種業界規模的に突出した金額の場合には損金にできない、という理不尽な定めとされているのです。

この是非はさておき、比較すべき同種事業や類似規模の法人の事例を探してくることはなかなか容易ではありません。
このため、実務上は「功績倍率方式」といって、最終月額給与額に在任日数を乗じ、さらに役職の重要性に応じて「功績倍率」という掛け目を適用した金額で計算する方法が多く用いられています。

4.役員退職金の「第2の狙い」
役員退職金に見込まれる隠れた効果が「株価下げ」です。
株式の移転、特に親族間など特殊関係者の間での譲渡や相続、贈与といった取引の場合、税法は「時価」の採用を求めており、それを外れるとペナルティともいえる大きな税金を課すことがあります。
その「時価」は、原則として国税庁が発表する一定のルール(財産評価基本通達)に従って計算することになっているのですが、実はこの時価の計算において「会社の利益(正確には課税所得)」が大きなパラメータとして効いてくるのです。

詳しい仕組みは今回省きますが(※)、要するに利益が低いほど株価が低くなるのです。
第三者との取引なら高く売れた方が良いですが、例えば先代社長から後継者へ株式を譲渡したり贈与する場合、また亡くなった方から相続する場合は、時価が低い方が確実にあらゆる税金(譲渡所得税や贈与税、相続税)が下がります。
※株価の時価評価の仕組みは、弊所ブログ『粉飾したら相続税が下がる?-「比準要素1」の会社』に説明があります。

普通に頑張って経営されてきた場合、役員退職金は一般的な従業員の退職金よりそれなりに高い金額になると思います。これが全て費用として認められれば会社の利益を一時的に下げることができ、時価を抑える効果が期待できるのです。

5.「狙われる」カリスマ社長の退職金
では、3.で説明した「費用になる最大限の範囲」で役員退職金を出し、株価を目いっぱい下げて後継者に株式を移転するのがベストか?というと、そこに落とし穴があります。
実はこの役員退職金、「出したら必ず税務調査が来る」と言われるくらい、税務署側としても「おいしい」論点なのです。

一代で会社を立ち上げ、繁栄させた社長は、退任しようとしてもなかなか出来るものではありません。自分しか把握していない事情も多いですし、社内の多くは皆その社長を尊敬し、恐れ、頼っています。
そうなると、「退職した」といってもなかなか完全に会社を離れる訳にはいかず、会議に出席したり幹部からの相談を受けたりといったことが退職後も頻繁に発生します。

そう、ここが税務署のねらい目となるのです。
調査に来ると、調査官は「退任した前社長の退任後の活動」を調べます。
上記のように、退任前と変わらない役割を果たしている場合、「これは役員を退任したとは実質的に言えませんね」と主張してくるはずです。

それがどうした、と軽く見てはいけません。
実質的に役員を退任していないということは、「先日支払った役員退職金は『退職金』ではない」という認定につながるのです。

それが生むのは恐ろしい結果です。
まず、退職金でないなら、「役員賞与ですね」となります。
この役員賞与、法人税法上は原則費用にできません。ここで1発目の課税です。
また、日本の所得税法は退職金の課税割合を給与などより低くしていますので、賞与と言われてしまうと結構大きな所得税の増加につながります。これが2発目。
最後に賞与とした場合、会社はその「源泉所得税」を差し引いて翌月10日に納付する義務があります。これをやっていないので「不納付加算税」というペナルティをとることができます。
こうやって、一つの論点で調査官は3つ以上の課税処分を獲得できるのです。
これがタイトルの「3度おいしい」が意味するところなのです。

※さらに、役員退職金を前提に計算した株式の時価を贈与などに使っていると、賞与と言われたことで利益(法人の課税所得)が大きく増加→株価が増加して贈与税などが追徴される、という副次的な影響も発生します。

6.どんな対策があるか
このように大変リスクの大きい役員退職金ですが、やはり会社の発展に大きな貢献のあった役員にはきちんと報いる必要がりますし、また株式の時価評価に与える効果が大きいですから後継者の株式移転など事業承継対策には極めて有効です。

では、5.のようなリスクを抑えるにはどのようにすればよいでしょうか。

実務的にはたくさんの論点がありますが、簡単なものを書いておきます。
・退任後は、暫く完全に経営にタッチしない
・そしてそれが立証できるようにする(議事録やメール等には特に注意)
・株主総会、取締役会など会社法上の手続きを完璧に行い、記録を残す
・役員退職金の法人税法上の限度額計算を厳密に検討する
・行った対策について、税理士から税理士法33条の2添付書面(※)に記載してもらう
※この書面の仕組みは「税務調査を受けない方法 -税理士法33条の2の添付書面-」に詳しく説明しています。

リスクもリターンも大きい「役員退職金」ですが、きちんとした対策をとれば恐れることはありません。十分に理解して是非活用しましょう。
我々税理士法人耕夢には、税務調査対策まで含めて確実で豊富な実績がありますので、もしこのような対策を検討されている場合にはお気軽にご相談下さい。

個人事業主と消費税(帳簿がないと大増税?)

1.はじめに

最近消費税については、10%への増税や、生活必需品などへの軽減税率の適用などの大きく変化がありました。小規模な個人事業においても、無視できない税負担になってきたと思います。
最近のように大きな増税となると価格への転嫁(消費税分値上げする)をどうするか考える必要も出てきますし、コロナ禍で大変な営業への影響を懸念される方も多いと思います。

ですが、事業主の方にとって従来からもっと大事なことが見落とされている場合が多いですので、今回は簡単にご説明&注意喚起しておきます。
間近の確定申告からでも是非ご注意ください。

2.仕入税額控除

日本の消費税は「税額控除方式」を採っています。
これは、売上にかかる消費税から、仕入や経費など支払にかかる消費税を差し引くことで納税すべき金額を差し引く方式です。

消費税の仕組み(財務省)
消費税の仕組み(財務省)

 

本来、預かった消費税である売上消費税から支払った消費税(消費税法上は「仕入税額」と言います)を当然差し引いて納税する消費税額を計算すべきなのですが、日本の消費税法にはちょっと問題な規定があります。それが、「帳簿等記載要件、請求書等保存要件(消費税法30条、末尾に条文抄を記載)」です。

この規定は「仕入税額を控除したかったら、仕入や経費の支払について
①相手先
②年月日
③仕入などした資産やサービスの内容
④支払対価を記載した帳簿
⑤請求書等
を保存しておかなければならない」というものです。 この要件、①~④の帳簿に関するものは「帳簿記載要件」、⑤の請求書等に関するものは「請求書等保存要件」と呼ばれます。

消費税導入当初はもう少し甘いものだったのですが、平成9年の改正(税率が3%→5%になった)際、同時に現在の厳しい内容へと改正されました。

3.税務調査時のリスク

売上が小規模な事業者で「簡易課税(売上税の一定率を仕入税額控除額とみなす方式)」を採用できていれば当面問題はありませんが、給与支払が少なく外注費が多いなど、簡易課税が不利になる事業者の場合は売上が小規模であっても注意が必要です。

この規定、条文を見てもわかるとおり「災害その他やむを得ない理由」を除いて宥恕規定(一定の事情があれば要件を満たしていない場合も認めてもらえる)が定められていません。調査の過程で仕入先に関して上の要件の一つでも満たしていなければ、「その取引に関する仕入税額控除は否認」と言えてしまうわけです。

実際に、この論点で消費税の仕入税額控除を否認しようとする調査官も最近はぽつぽつとあらわれています。 現在でも仕入税額控除が認められなければ税負担が上がりますが、今後増税になると、その影響も税率に比例して大きくなります。

4.対応

上で説明しました帳簿記載要件を満たすためには、青色申告(きちんと帳簿を作成する代わりに、様々な税務上の有利な制度が認められます。青色申告でないものを白色申告と言います)で作成すべきものと同レベルの、きちんとした帳簿を作成する必要があります。
また平成26年度からは全ての白色申告者についても帳簿作成が義務化されますし、先に述べました簡易課税についても、廃止または適用事業規模の縮小が議論されています。

ご自分で、もしくは税理士に頼んでなどどのような方法でも良いですが、まだきちんと整備ができていない事業主がおられましたら、青色申告、白色申告に関係なく請求書等の保存と帳簿の整備をお勧め致します。

以上

(仕入れに係る消費税額の控除)
消費税法 第三十条
(略)
7  第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(同項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が少額である場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。
8  前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
一  課税仕入れ等の税額が課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
イ 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
ロ 課税仕入れを行つた年月日
ハ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容
ニ 第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額
(略)
9  第七項に規定する請求書等とは、次に掲げる書類をいう。
(略)

令和3年税制改正の大綱~所得拡大促進税制見直し

続いて「令和3年税制改正の大綱」についてご説明します。
今回は「所得拡大促進税制」の見直しについてです。
コロナ禍の前、第二次安倍政権の時代から、中小企業を中心に「雇用者数の増加や給与増加」を実現した事業主や法人に対して、法人税や所得税)の税額控除の適用が受けられる制度を広げてきました。年度によって変遷はありますが、この制度を総称して「雇用促進税制」や「所得拡大促進税制」と呼びます。
また、大企業についても同様に「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合の税額控除制度」と呼ばれる、設備投資拡大をセットとした制度が設けられていました。
令和3年の税制改正大綱においては、この所得拡大促進税制について、対象の拡大など緩和が行われます。

所得拡大

1.中小企業における所得拡大促進税制の見直し
中小企業(法人・個人事業主)における所得拡大促進税制について、次の見直しを行った上、その適用期限を2年延長されます。また地方税についても同様の改正が行われます。

①適用要件

継続雇用者給与等支給額(前年度から継続して雇用している者への支給額)の増加割合」要件が、雇用者給与等支給額の比較雇用者給与等支給額に対する増加割合に見直されます(計算が煩雑な継続雇用者の要件が無くなります)。

②税額控除率要件(法人税や所得税の一定割合を控除限度とする計算)
継続雇用者給与等支給額の増加割合要件が、雇用者給与等支給額の比較雇用者給与等支給額に対する増加割合に見直されます。

2.給与等の支給額から控除する項目見直し
元々、「所得拡大促進税制」や「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合の税額控除制度」の金額を計算する際には、給与等の金額から「給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額」を差し引くこととされていました。計算上給与等の額が多い方が有利ですから、助成金など「給与等の為にもらった金額」は差し引かないと不合理、という考え方でした。

しかし現在のコロナ禍で「雇用調整助成金」の対象や助成割合が拡大され、利用が増加したこと、またこの利用で一定の雇用維持効果が出ていることから、要件を判定する場合には、雇用調整助成金及びこれに類するものの額を控除しないこととされました(税額控除率計算に関しては引き続き控除した金額を上限とします)。

令和3年税制改正の大綱について(概要)

1.税制改正の大綱とは
令和2年12月21日、「令和3年度税制改正の大綱」が閣議決定されました。この税制改正の大綱は、政府が今後の税制改正のあり方について明確に方針を示すもので、毎年12月に公表されます。今回から数回にわたり、この税制改正の大綱について簡単に説明します。

税制改正の大綱は、政府が税制のあり方についての方針を示すもので、その後の税制改正はこの大綱に基づいて行われることとなります。

これに対し、与党自民党と公明党が発表する「税制改正大綱」と呼ばれるものも、政府の「税制改正の大綱」の直前に発表されます。これらはほぼ同じものなのですが、前者が「与党の方針を示すもの」であり、後者が「政府の方針を示すもの」であることから、場合によっては異なる場合もあり得ます。ただ現在のように政権与党がある程度安定している場合には「ほぼ同じ」と思っておいて良いようです。

税制改正大綱R3

2.税制改正の大綱の概要
今回発表された税制改正の大綱の概要は、以下の通りです。
これらのうち、私たちのお客様に大きく関係する項目については、これから数回にわたってメルマガ等で順次細かく解説いたします。

<個人所得課税>

  • 住宅ローン控除の特例の延長等(適用期限延長、面積要件緩和)
  • セルフメディケーション税制の見直し(範囲の重点化と手続簡素化、延長)
  • 国や地方自治体の実施する子育てに係る助成等の非課税措置(国や自治体からの子育て助成を非課税に)
  • 退職所得課税の適正化(年数が短い法人役員の退職金課税を強化)​

<資産課税>

  • 住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置の拡充(非課税枠を据え置き、面積要件緩和)
  • 教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の見直し(節税的利用防止、延長)
  • 土地に係る固定資産税等の負担調整措置(コロナ対策で負担調整据え置き)
  • 国際金融都市に向けた税制上の措置(外国人家族が相続する国外財産の課税対象外)

<法人課税>

  • 産業競争力強化に係る措置(DX促進、カーボンニュートラル、研究開発、コロナ禍対応賃上・投資促進、繰越欠損金控除上限引き上げ)
  • 中小企業支援(投資促進税制延長、所得拡大促進税制見直し、中小企業の経営資源の集約化)
  • 株式対価M&Aを促進するための措置の創設(M&A対象会社株主の譲渡損益課税を繰り延べ)
  • 国際金融都市に向けた税制上の措置(投資運用業役の員業績連動給与を損金算入可)

<消費課税>

  • 車体課税(エコカー減税及び自動車税・軽自動車税の環境性能割見直し等)
  • 金密輸に対応するための消費税の仕入税額控除制度の見直し

<納税環境整備>

  • 税務関係書類における押印義務の見直し(地方税関係書類についても同様)
  • 電子帳簿等保存制度の見直し等
  • 地方税共通納税システムの対象税目の拡大
  • 個人住民税の特別徴収税額通知の電子化
  • 国際的徴収回避行為への対応

<関税>

  • 暫定税率等の適用期限の延長等
  • 個別品目の関税率の見直し(ポリ塩化ビニル製使い捨て手袋の暫定税率無税)

個人事業主の年間「税金スケジュール」

インターネットの普及はユーチューバーや転売ヤーなど、新しい個人ビジネスを生みました。
また、クラウドワークスに代表される、フリーランスに対して仕事をマッチングするサービスも盛んであり、個人事業主として活躍する方が増えているようです。

そこで今回は個人事業主の一年間の税金に関するスケジュールを簡単に説明したいと思います。

個人事業主が納める主な税金は、所得税・消費税・住民税・個人事業税の4つです。これらは同時に納付するのではなく、税金によって納付する時期が異なります。

1.所得税の確定申告
まず、個人事業主の方が納める所得税は、いわゆる暦年課税とされ、事業年度が暦年、つまり1月1日から12月31日と決められています(納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定 国税通則法15条2項1号)。この期間にかかわる所得を計算し、報告する手続が確定申告です。この手続は、事業年度の次の年の2月16日~3月15日に行うこととされています。この確定申告期限日までに申告とともに所得税を納税しなければなりません。

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2.消費税の確定申告
消費税も所得税と同様に、個人事業主の課税期間は1月1日から12月31日とされ、この期間にかかわる確定申告書を提出し、税金を納付します。ただ所得税と異なり、確定申告と納税の期限は、3月31日です。

3.住民税
確定申告した所得税の内容は、国税局から各地方自治体に伝達され、住民税が計算されます。
これに基づいて税額の計算がおこなわれ、住民税の通知書が6月ごろに地方自治体から届きます。住民税は4回(6月、8月、10月、翌年1月の各末日)に分けて納付する分割納付か一括納付かを選択することができます。

次に8月ごろに、都道府県税事務所から個人事業税の通知書がきます。8月、11月の末日が納付日ですが、一括納付に変更も可能です。

4.予定納税・中間納付
前年の所得税や消費税の納税額が一定金額を超える方は、当年度の税金を先に納税する、つまり前払いする義務が生じます。

所得税は予定納税と言われ、前年分の所得金額や税額などを基に計算した金額(予定納税基準額)が15万円以上である場合、予定納税基準額の3分の1の金額を、第1期分として7月1日から7月31日までに、第2期分として11月1日から11月30日までに納めることになっています。

消費税は中間納付と言われ、前年度の確定消費税額(地方消費税額は含みません)が48万円を超える方が対象となります。納税額は前年度の納税額を基準として算定され、中間納付税額によって、支払回数が異なります。1回、3回、11回の3パターンあり、一回当たりの負担を軽減するために、納税額が大きいほど回数が多くなり、分割して支払う仕組みとなっています。前年度の確定消費税額が48万円を超え、400万円以下の場合で、年1回とされ、前年度の納税額の2分の1を8月31日までに支払います。

5.源泉所得税
源泉徴収義務者(従業員を雇っている方など)で、納期の特例の承認を受けている方は、1月から6月までの分を7月10日までに、また7月から12月までの分を1月20日までに納付しなければいけません。この源泉所得税は事業主自らが金額を集計して納税する必要がありますので、忘れないように気を付けたいところです。

まとめると以下のようになります。期限を超えるとペナルティが生じることもありますので、期限には注意してください。

1月 ・1/20 源泉所得税納付期限(納期限特例の場合、7~12月分)
3月 ・3/15  所得税確定申告及び納付期限
・3/31 消費税確定申告及び納付期限
6月 ・6/30 住民税第1期
7月 ・7/10 源泉所得税納付期限(納期限特例の場合、1~6月分)
・7/31 所得税予定納付(第1期)
8月 ・8/31 消費税中間納付(年1回の場合)
・8/31 住民税第2期
・8/31 事業税第1期
10月 ・10/31 住民税第3期
11月 ・11/30 所得税予定納付(第2期)
・11/30 事業税第2期

 

「個人クリニックの親子承継」(個人版事業承継税制について補足追加)

医療法人ではない「個人事業」としての開業医の場合、避けて通れないのが「医業承継」です。今回は、この「医業承継」のうち、後継ぎとなる子がある場合の「親子承継」について取り上げます。
医業承継は一般の事業承継とは異なる手続や注意点も多く、慎重に行う必要がありますので、院長先生や後継予定の若先生、ご家族またそのような方々を外から支える事業者、コンサルタントの皆様は是非ご一読下さい。

なお、平成31年の税制改正で導入が決まった「個人版事業承継税制」についての記述を追加しています。
弊所も現在、該当するお客様について適用を準備しています。

1.はじめに

医業承継とは
厚生労働省の調査によると、「病院開設者又は法人の代表者」や「診療所開設者又は法人の代表者」の平均年齢は年々増加しています。

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(図 厚生労働省統計資料より)

これは診療所において60歳以上の割合が大きく増加し、それ以下の年代が減少していることが原因です。このように医療機関においても高齢化が進んでいますが、特に私たちに最も身近な診療所の事業承継が円滑に行われることが、地域医療の安定的供給の観点からも重要です。

さて医業承継とは、文字通り「事業承継の医療版」です。
事業承継ですから、一般的な事業と同じく、「誰に引き継ぐか」や、税金の届出、顧客(患者さん)や従業員(スタッフ)の引継ぎ、金融機関との付き合いなど、多くの論点に注意しなければなりません。
しかし、医療については通常の事業会社と違って特別な法令、規制、ルールが多くあり、一般的な事業を引き継ぐ場合より多くの注意点があるのです。
以下、これらについて順にご説明します。

親子承継について
事業承継は大きく分けて①親族への承継と、②親族外への承継に区分できます。この点は医業でもその他の事業でも全く同じです。但し、個人事業である医業の場合は「医師免許」を持った後継者かどうか、という点について大きな制約があります。
親族への承継の場合、第三者への承継に比べて信頼性や自由度、患者さん方への受けなどの点でメリットがありますが、税務上は「自由がきく」点が「恣意的に税金を減らせる」ことにつながるものとして、様々な制限を置いています。
特に子への承継は後に「相続」が関係する点で重要ですし、後述する建物や医療機器など資産の譲渡や貸付する場合の「値決め」にも注意が必要です。

2.医療関係手続の注意点
開業と廃業
個人クリニックの場合は、親子間の承継であっても、開設者や管理者が代わるので、現院長の「廃業」と新院長の「開業」の手続きが必要です。
具体的には、保健所や年金事務所(社会保険事務所)、公共職業安定所、労働基準監督署、税務署、都道府県、市町村などに所定の届出をしなければなりません。特に社会保険事務局に提出する「保険医療機関指定申請書」は、保健所に提出する「開設届」とともに、提出タイミングに注意しましょう。開業して最初の1か月の保険診療が請求できない、すなわち入金が遅れてしまうケースもあり得ます。

施設認定の届出に注意
このような届出のうち、「施設認定」(特定の治療行為が可能な施設であることを認めるもの)についてはさらに注意が必要です。過去は基準を満たしていても、それがイレギュラーな判断を伴った認定であったり、途中で制度や取り扱いの改正があったりして現在の基準に照らすと認められないケースも偶にあります。そうなると、重要な保険請求が出来なくなってしまう恐れもあります。診療所施設の改修や新たな設備の導入が必要となる場合もありますので、保健所や地区医師会事務局などと事前に検討して対処を決めておきましょう。

3.税金関係の注意点
届出
税金関係の書類についても、廃業と開業の両方について、下記のような届出が必要です。期限を経過すると税制上の特典が受けられない場合もありますので、忘れないようにしましょう。

  • 親:廃業届/子:開業届
  • 青色申告の承認申請書…青色申告の特典を得るために必須です。原則として開業から2か月以内が期限
  • 青色専従者の届出書…配偶者など、親族に給与を払うためには必須。
  • 給与支払事業所等の開設届出書
  • 源泉所得税の納期特例届出書
  • 棚卸資産の評価方法の届出書
  • 減価償却資産の償却方法の届出書

この他、自費診療が多い場合には、消費税の届出が必要な場合もあります。

措置法の活用
医業の世界で「措置法」と俗に呼ばれる制度をご存知でしょうか?
正式には「租税特別措置法」の第26条のことを言います。
社会保険診療報酬(健康保険の対象となる診療)が年間5000万円以下(かつ全体の収入が7000万円以下)の場合は、社会保険診療報酬に関する経費については、実際の金額ではなく、「概算経費率(収入に対して一定率を掛けたものを経費にする)」を使えるものとした制度です。
この制度、一般的には実際にかかった経費を上回る概算経費となることが多く、小規模な医療機関にとっては非常に有利な制度となっています。
ところが、この制度はあくまで「年間」で計算しますので、年間の収入が上の制限を超過している場合でも、承継前(親)と承継後(子)の収入がそれぞれ制限を超過していなければ、それぞれこの制度を活用できるのです。例えば、年間の社会保険診療報酬が7000万円の診療所の場合、承継前の親先生の収入が3000万円、承継後の子先生の収入が4000万円であれば、それぞれ概算経費率が使えることになります。

税理士の対応
親子承継に限りませんが、医療機関における事業承継手続を行う場合には、税務、会計、法律だけではなく、医療制度特有の考え方も大変重要になってきます。
当事者たる医師親子がこのような知識を持っておくことはもちろん必要ですが、これらの手続を担当する税理士も十分にこれらを理解しておく必要があります。
また、様々な手続、届出を行う際には、それぞれの役所などの窓口担当者と事前に綿密な打ち合わせを行っておく必要がありますが、その際には医業経営に関する十分な知識と経験が必須です。
そんな訳で、少なくとも親子承継や医療法人設立など、医業特有の手続に関しては医業を良く知る税理士(「認定登録医業経営コンサルタント」などの有資格者)に担当してもらうことが安全です。

個人版事業承継税制
平成31年の税制改正で、「個人版事業承継税制」が導入されることとなりました。
この制度、後継者(※)が先代より事業用資産(土地建物や機械器具、車両、特許などの無形固定資産)を相続や贈与により移転を受けた場合、発生する相続税や贈与税の納税が次の事業承継まで100%猶予されるという制度です。
この制度は、2019年1月1日~2028年12月31日までの間に行われる事業承継相続、贈与が対象となります。
さて小規模なクリニックであっても、事業承継の容易さや税制上のメリットを考えて「医療法人」化することが非常に多いです。
しかしまだまだ多数を占める平成19年4月1日以前の「持分あり」医療法人はその持分が相続税の課税対象になるにもかかわらず、法人版の事業承継税制(贈与税、相続税の納税猶予)の適用対象外となっていました。
他方、平成19年4月1日以降に法人化すると、元々のオーナー医師の所有権は事実上なくなってしまいます(持分がないため)
このような問題を一挙解決する手法として、この個人版事業承継税制はクリニックの中長期経営方針に大きな影響を与えると考えております。

※経営承継円滑化法に基づく認定(申請は2019年4月1日から5年以内に申請)を受けていることが必要

4.スタッフ
医業や親子承継に限りませんが、事業を引き継ぐ場合にはスタッフの引き継ぎが大きな課題となります。
経験豊かな既存スタッフは、現場における業務をスムーズに継続する上で不可欠ですが、反面新院長のスタンスと合わない場合、反発があったり、極端な場合には経営に混乱を生じたりする可能性も否定できません。
このような既存スタッフを継続雇用する場合には、お互い十分なコミュニケーションを取り、新たな経営方針を十分に説明して理解させることが重要です。
もし既存のスタッフに退職してもらう場合には、退職金をどうするかは非常に重要な問題となります。また継続してもらう場合でも、あくまで親の廃業、子の開業ですから、既存のスタッフにはいったん退職金を支払うか、支払義務を子が引き継ぐかのどちらかを決めなければいけません。
退職金の計算方法や親子承継の場合の退職金引継ぎなどは、法令にも注意しながら決定する必要があります。

5.患者さん
一般的には「大先生の子供さん」が引き継がれたということで、現在の患者さんが引き続き通われる場合が多いようです。しかし、性格の違いや診療・治療スタンスの違いから、ある程度の割合で患者さんが離れていくこともあり得ます。
このため、一般的には子供の診療を主としつつ、一週間に短い時間だけ親先生が診療し、スムーズなつなぎを目指すことが多いようです。

6.その他の注意点
診療所などの不動産
ビルの一室など、診療所を他のオーナーから賃貸している場合には、親子間で賃貸借契約を引き継ぐ必要があります。一般的に診療所の契約の場合、親子間の契約であれば特段の抵抗なく引き継がれる場合が多いようですが、古い条項の見直しなど、念の為契約内容はきちんと確認しておきましょう。
不動産が親先生の自己所有となっている場合は、子供が引き継ぐ場合その場所を使わせてもらわなければなりません。このため、親子間であっても「賃貸借契約」が必要となります。
診療所と住居が一体となっている場合は、診療所部分と住居部分を区分し、診療所部分に関して契約書を作ることになります。
子供が親に支払う賃借料は医業における必要経費となり、親が受け取るものは不動産所得の収入となります。

医療機器などの器具備品
医療機器は、一般的に自己資金(借入を含む)での購入とリースによる使用があります。
前者の場合には、親から子へ「売却」や「贈与」するなどして移転するか、不動産のように「賃貸」して使わせる必要があります。またリースの場合は、必要に応じてリース会社とリース契約の引継ぎについて交渉する必要があります。

金融機関
親先生に銀行などの借入金がある場合、それが診療所に関するものであれば、子に引き継がせることが理想的です。しかし、個人間での借入金の引き継ぎは非常に難しく、条件や担保、保証人の変更で不利になる場合もあり得ます。このような場合、例えば借入金は親に残し、子は診療所資産(不動産や機器など)、診療報酬未収入金などを引き継ぐ対価として親に対して支払い義務(債務)を負い、その支払をそのまま親の借入金支払いにスライドさせるといった手法を採用することもあり得ます。

マーケティング・患者満足
親先生の世代のマーケティングは、電話帳広告や駅、近隣への看板など、旧来のメディアが主流でした。しかし最近はインターネットホームページやブログ、メールマガジン、ソーシャルネットワークなど新しいメディアを利用したマーケティングが主流となりつつあります。
また、クラウドを利用した予約システムなど、患者満足度と効率性を上げるツールも多く利用されています。
親子承継をきっかけとして、このようなツールの利用を検討されては如何でしょうか。
なお、医療機関には広告などに関する規制(ガイドライン、下記)がありますので注意が必要です。

医療広告ガイドラインに関するQ&A  同 事例集

 

もしもの時に役に立ちます「雑損控除」

大地震、水害、台風など大災害は財産に大きな損害を及ぼします。
また、空き巣など盗難も、万が一遭ってしまった場合には大変な損失となります。
このような損害や損失は無いに越したことはありませんが、発生した場合には納税者の担税力(税金を納める力)が一時的に弱まりますので、所得税には「雑損控除」という制度が設けられています。
この雑損控除は、発生した損害や損失の大きさに応じて、税金を減らしてくれる制度です。
こんな制度使わないほうが良いのですが、もしもの場合には思い出してください。

それでは、以下雑損控除の説明をします。

1.雑損控除とは
災害又は盗難若しくは横領によって、資産について損害を受けた場合等に受けられる所得控除(税金のかかる所得から差し引くこと)をいいます。

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2.適用対象
ここでいう災害は、「震災、風水害、火災」(所得税法2条1項27)、「冷害、雪害、干害、落雷、噴火その他の自然現象の異変による災害及び鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害並びに害虫、害獣その他の生物による異常な災害」(所得税法施行令9条)をいいます。自身の意思に基づいてなされるものではなく、自然現象の異変による災害、または生物による異常な災害を意味します。

具体的には、自宅が火事により燃えた、台風により自宅が床上浸水して家財に大きな被害を受けた場合等が該当します。大雪で家屋が破損した場合の損失はもちろん、家の倒壊を防ぐための雪おろし作業費用等も対象となります。シロアリの被害によって発生した修繕費用や駆除費用といったものも対象です。

なお、あくまでも「損失を受けた場合」ですので、シロアリ被害の「予防費用」は対象外となります。

次に、盗難や横領ですが、所得税法及び同法施行令には定義がないものの、「盗難」の意義は「財物の占有者の意に反する、第三者による当該財物の占有の移転」と解されます。「横領」の意義は「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をすること」と解されます。例えば、空き巣や車上荒らし、ひったくり、他人による資金の不正取得等が該当します。

損失の要件は「災害、盗難、横領によって」ですから、例えば、いわゆる振り込め詐欺にあった場合は対象外になります。災害・盗難・横領による損失が「自身の意思を伴わないものである」と考えられているのに対し、詐欺は「自身の意志に基づいて現金を支出し損失を被っている」、すなわち「自身にも責任がある」と考えられているためです。

3.資産の要件
生活に通常必要な住宅や家具、衣類等の資産が対象です。
「生活に通常必要な動産」とは、家具、じゅう器、衣服及びこれらに類似する生活用動産で、通常の社会生活を営むのに必要とされる資産をいいます。よって、別荘について発生した損失は対象外です。事業用の資産や、別荘、書画、骨とう、貴金属等で1個又は1組の価額が30万円を超えるものなども当てはまりません。例えば、空き巣に入られた場合で、100万円の宝石が盗まれたとしても、1個または1組の価格が30万円超の資産は「生活に通常必要な資産」とはみなされないため、対象外となります。このほか、競走馬や棚卸資産、事業用固定資産等は対象外となることが法令等で定められています。

4.その他の要件
損害を受けた資産の所有者が、本人、または本人と生計を一にする配偶者やその他親族でその年の総所得金額が38万円以下の者、つまり配偶者控除や扶養控除の対象となる親族でなければなりません。

5.控除できる金額
次の金額のうちいずれか多い方の金額です。

① 差引損失額-総所得金額等 × 10%
 (差引損失額=損害金額+災害関連支出金額-保険金等により補填される金額)
② 差引損失額のうち災害関連支出金額-5万円

災害関連支出には、先に述べた雪下ろし作業の費用などの他、台風が去った後に行った障害物撤去費用や空き巣に窓ガラスを割られたことにより修理した費用なども含まれます。損害があった住宅や家財を処分、除去するために支出した金額で、実際の損害金額ではありません。

<計算例>
例えば、自宅が火災にあい、家屋の損失額100万円、原状回復費用50万円、火災保険金の受け取り30万円、総所得は400万円だったとします。
この場合、
①(100万円+50万円-30万円)-400万円×10%=80万円
②50万円-5万円=45万円
と計算され、①>②となるため、控除できる金額は①の80万円と算出されます。

6.繰越控除
損失額が大きいため、その年の所得金額から控除しきれない場合には、翌年以後後3年間繰り越して各年の所得金額から控除することができます。雑損失が発生した年の確定申告書を提出期限までに提出し、かつその後連続して確定申告書を提出している場合に限って適用されます。

なお、雑損失の繰越控除では、純損失の繰越控除の場合のように、青色申告か白色申告かにより、繰越控除が認められる損失の金額の範囲が異なってくる、ということはありません

また災害により住宅や家財に損害を受けた場合には、所得税額を直接減額する「災害減免法」による所得税の軽減免除もあります。この災害減免法と雑損控除は、有利な方を選択できます。

今年の年末調整は大変!(改正とその他のお話)

今年も年末調整の季節がやってきました。
ここ数年「新元号」「配偶者控除の改正」やそれに伴う用紙の変更などがあり毎年注意点が多かったのですが、今年はさらに永年大きく変わらなかった論点(基礎控除や給与所得控除)にまで改正がある大変な年になります。
改正論点を中心にわかりやすく解説しますので、経営者や給与担当の方は是非早めに手続きのスタートを、また働く皆さんはできるだけ早めに資料の提出をしましょう。

1.年末調整とは
年末調整とは、年末に在籍している役員・社員を対象として、毎月の給与や賞与から「天引き」(源泉する、といいます)されている所得税を、年末に精算する手続きのことを言います。
この精算が必要な理由は、主に以下の通りです。

  • 所得税の計算は年末時点を基準にしているものがほとんどで、年末にならないと状況が確定しない
  • そもそも、毎月の給与や賞与から計算されている税額は「仮計算」でしかなく、年末までの支給額を確定しないと正確には税金が計算できない

年末調整2020
年末調整の流れ(国税庁「年末調整のしかた」より)

実はこの年末調整、上のフローチャートをご覧頂くとわかる通り、皆さんが記載される面倒な用紙(扶養控除等申告書、基礎控除申告書、配偶者控除等申告書、所得金額調整控除申告書、保険料控除申告書、住宅ローン控除申告書)の作成はプロセスのほんの入り口なのです。そして実はその後の手数が非常に面倒なため、会社側(特に人事部や経理部)には結構負担がかかっています。

このため、遅れたり督促されたりした場合に担当の方が不満な顔をしていても、ただでさえ面倒な手続きをさらに遅らせているわけですからわからないでもありません。
その入り口となる書類についてはできるだけ誤りや抜けのないよう、期限までに必ず出すよう協力してあげましょう。

2.令和2年から適用される改正一覧
今年(令和2年)から適用される改正は、以下の通りとなっています。

  • 給与所得控除の引き下げ
  • 基礎控除の引き上げ
  • 所得金額調整控除の創設
  • 配偶者控除、扶養控除などの合計所得金額要件の見直し
  • 未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦(寡夫)控除の見直し
  • 電子手続

3.給与所得控除の引き下げ
給与については、支払いを受けた給与額から、給与額に応じて変動する一定額を差し引いた金額に税金をかけることになっています。この「差し引く一定額」を給与所得控除と言います。
この給与所得控除の計算表が、下記の通り改正されています。

給与所得控除改正
給与所得控除の改正

 この表は慣れないとわかりにくいのですが、給与収入が増えるに従って、少しずつ給与所得控除額が増えるように作られています。
改正前後を比べてみると、給与収入が850万円までは給与所得控除が10万円減少し、その後は25万円まで減少幅が広がるように改正されています。
その分所得税が増えることとなりますが、後で説明する基礎控除の改正、所得調整控除の創設により一部増税の影響を打ち消すこととしています。

4. 基礎控除の改正
所得には全て税金がかかるわけではなく、「基礎控除」と呼ばれる最低ラインが設けられています。この基礎控除については、長い間どんなに所得の高い人であっても適用がなされてきたのですが、下記の通り合計所得金額2,500万円を超える方についてはとうとう適用がなくなってしまいました。
他方、2,400万円以下の所得者については10万円増額されています。

基礎控除改正
基礎控除の改正

この金額を計算するため、従来の年末調整書類に加え「給与所得者の基礎控除申告書」という用紙に記入の上提出する必要があります。

 5.所得金額調整控除の創設
その年の給与の収入金額が850万円を超える所得者で、
①特別障害者に該当する人
②年齢23歳未満の扶養親族を有する人
③特別障害者である同一生計配偶者を有する人
④扶養親族を有する人
の総所得金額を計算する場合には、給与の収入金額(但し1,000万円が限度)から850万円を控除した金額の10%に相当する金額を、給与所得の金額から控除することとされました。

この金額を計算するため、従来の年末調整書類に加え「所得金額調整控除申告書」という用紙に記入の上提出する必要があります。

6.配偶者控除、扶養控除などの合計所得金額要件の見直し
いわゆる「扶養の対象」である、同一生計配偶者、扶養親族、源泉控除対象配偶者、配偶者特別控除の対象となる配偶者及び勤労学生の合計所得金額要件がそれぞれ10万円引き上げられ、次の表のとおり改正されました。これは、基礎控除の最低限度が4.の通り引き上げられたことに関係したものです。

扶養所得条件改正
配偶者控除・扶養控除合計所得金額改正

 7.未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦(寡夫)控除の見直し
配偶者と死別したり離婚して未婚のままであったり、扶養家族や子供がいる人、所得が一定の額以下の人を所得税法上「寡婦」や「寡夫」(両方とも「かふ」)と呼び、その条件に応じて課税所得が控除されることになっています。この制度、従来は女性の要件が少し広くなっていたり、全ての要件を満たす女性は控除額の割り増しがあったりと、男女差のある制度となっていました。
また、この制度の適用があるのは「民法上の婚姻関係にある者」に限られ、未婚のひとり親については対象となっていませんでした。
令和2年の改正においてはこの点が見直され、「ひとり親控除」と新しい「寡婦控除」制度に再編されました。
この改正については、別のページ ひとり親控除(令和2年 税制改正) において詳しく解説しています。

8.年末調整の電子手続
元々、「保険料控除申告書」や「住宅ローン控除申告書」を従来は書面(ハガキ等)で添付していた保険料控除証明書等は、保険会社等から送られる控除証明書等の電子データで提出することができることになりました。この手続を可能にするため、年末調整手続において、これらの電子発行された控除証明書等データ提出するための「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア」(以下「年調ソフト」が無償提供されています。
年末町営の電子申告イメージは下記の通りです。

年調電子化

 

なお、従業員から年末調整申告書に記載すべき事項を電子データにより提供を受けるためには、勤務先があらかじめ所轄税務署長に、「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、その承認を受ける必要があります。この申請書を提出した月の翌月末日までに税務署長から承認又は承認しないことの決定の通知がなければ、この申請書を提出した月の翌月末日に承認があったものとされていますので、例えば12月から年末調整手続の電子化を行う場合には、念のためこの10月末までには申請書を提出しておく必要があります(10月提出→決定通知がない場合には翌月、すなわち11月末日に承認があったものとみなされる→12月から利用可能)。

 

9.その他以前からの年末調整注意点 (改正で説明した書類を除く)
①扶養控除(異動)等申告書

年末調整においては最も一般的な様式で、要するに「年末時点での扶養家族について書く」書類です。しかしこの様式は意外と重要で「(仮に記載すべき扶養家族がなかったとしても)提出しなければあなたの毎月の源泉所得税額を非常に大きな率で計算しなければならなくなります。
なお年末時点の扶養家族状況はすなわち年明けの状況なので、それを考えて来年用(今年なら「令和3年用」)の用紙に記載してもらいます。

②配偶者控除等申告書の書き方
年末までの「本人と配偶者の所得見積額」を記載します。
配偶者控除、配偶者特別控除が前回の改正で廃止され「103万円」の制限がなくなったため、より複雑になっています。なお、年末までに実績が見積額と変わった場合は、翌年1月(源泉税の納付や源泉徴収票の提出)までは会社が訂正するか、または自分で確定申告が可能です。

③保険料控除申告書
保険料控除申告書は、生命保険料、地震保険料、社会保険料(国民年金や健康保険料)、小規模企業共済などを自分で支払っている時に記載します。また受取人が配偶者や親族となっている生命保険料や、生計を一にする親族の家屋を対象にした地震保険料が含まれます。
この控除証明書を提出する際には、証明書の添付、特に生計を一にする親族の国民年金支払証明書を忘れないようにしましょう。また、控除証明書に記載してある区分(生命保険の一般、個人年金、介護や地震保険の地震、旧長期など)についても十分注意して記載しましょう。

④住宅ローン控除申告書
正式には「住宅借入金等特別控除申告書」と言います。
ご存知の通り、この制度は住宅ローンを借りて家を購入した場合、数年に渡って住宅ローン残高の一定割合を所得税から控除してくれる制度です。しかし、1年目は必ず確定申告で手続きしなければなりませんので注意して下さい。