粉飾したら相続税が下がる?-「比準要素1」の会社

相続財産に株式が含まれている場合、相続税の計算に際してその「時価」を計算する必要があります。
この「時価」、上場している会社の場合は取引所の相場があるので比較的楽なのですが、同族会社など上場していない会社の株式については、原則として国税庁が公表する「財産評価基本通達」に定められた詳細なルールに基づいて行うことになっています。ただこの財産評価基本通達、極めて精緻かつ理論的に出来ているのですが、複雑すぎて理解するのが大変だったり、ちょっとした「抜け道」的なものがあったりします。
今回は計算方法を簡単に説明するとともに、その「抜け道」の一例をご紹介します。

1.株価計算の基本
上場会社のような「市場価格」がない株式(同族会社株式)の場合、相続税などを計算する際の時価は原則として「財産評価基本通達」というルールに基づいて行いますが、このルールに従うと、株式の時価は

①時価に引き直した純資産(時価資産-負債) …時価純資産価額
②類似の会社と比較して計算した時価 …類似業種比準価額
③配当利回りに基づいて計算した時価 …配当還元価額

の3つを使って計算することになります。

③については持ち株数が少ない株主向けですが、持ち株数が多い(親族保有も含む)オーナー株主が所有する株式の場合、①と②の併用(加重平均)によって計算します。

具体的には、下記のような割合で計算されます。

  • 大会社(従業員70名超など)…②が100%(純資産は考慮しない)
  • 中会社…規模に応じて①の割合が10%~40%に変化(②の割合が90%~60%に変化)
  • 小会社…①と②が50%ずつ

2.類似業種比準価額
①の「時価純資産」は、会社が持っている財産の純然たる価値なのですが、②の「類似業種比準価額」は、単純に今どれだけの財産を持っているかという事だけではなく、「将来の儲けを織り込んで形成されている」といわれる上場会社の市場価格を利用することで、株式の将来的な価値を示すために用いられます。

類似業種比準価額の計算方式は以下の通りです。

類似業種

 

  • A~D:国税庁が公開している類似業種の表から数値を抽出。
  • 1株当配当、所得、純資産については、評価対象会社の実績の2年平均で計算します

ただ、この計算方式は「納税者有利(税金が少な目に出る)」となるように定められていることが多く、一般的な会社であれば、通常は①の「時価純資産」よりも②の「類似業種比準価額」が有利な(低い)時価となります。

3.「比準要素1」問題
2.の計算式を見ていると、1株当り配当、所得、純資産を「低く」すればするほど、計算される時価は低くなります。このため、かつてはこれらをゼロになるまで低くし、時価を下げようとする試みが行われることとなりました。

このような行為を防ぐため、現在は「比準要素1の株式」という特別ルールが定められています。

この制度の概要は以下の通りです。
もし2.で説明した計算式のうち、2つ以上がゼロであれば、1.で計算した加重平均割合を一律「①純資産…75%、②類似業種…25%」とし、純資産の割合が非常に高くなる計算に切り替えてしまうのです。
そうすると、純資産の高い金額た株価に影響を与え、一般的には時価が非常に高くなってしまいます。

ただ、このような状況が想定される場合(一時的に赤字が続き、配当も出していない場合)であっても、ちょっと粉飾して利益が出ているように見せれば、「比準要素1」問題を回避できてしまう訳です。
もちろん粉飾は良いことではありませんので、そのほかの方法、例えば適法に配当を少し出すなどの方法をお勧めしておきます。

当然ながら、既に「比準要素1」の状態「でない(純資産も利益も出ている)」会社の場合は、配当を出す必要はありませんし、逆に出してしまうと株価を引き上げてしまうことになりますので注意が必要です。