カテゴリー別アーカイブ: 税務調査

上場準備と重加算税

税務調査は誰でも嫌なものですが、その税務調査が「上場」を準備している段階でやってきた場合には、非常に大事な、かつ危険な問題を抱えることになります。
上場自体を遅らせたり、ひどい場合はあきらめたり…という大変な事態も起こり得るのです。
しかし、実際に上場準備の段階は税務調査を受ける機会が多くなります。
今回はその仕組みについて、税務調査やその結果として発生する場合のある「重加算税」と、上場準備会社や上場審査との関係について書いてみます。

1.新規上場
2015年をピークに新規上場数はいったん減少しましたが、2018年には盛り返し、依然として高い水準を保っています(東京証券取引所データより)。 

 

IPOGRAPH2020
東京証券取引所におけるIPO件数の推移(東京証券取引所公表データより)

 

金融緩和で資金の投資先としてIPOに目が向けられていることや、スタートアップからのベンチャー支援環境が以前より手厚くなっていることが主な理由です。

この上場、実際準備に関わった方はお分かりと思いますが、人材の獲得をはじめとした体制整備や証券会社、証券取引所の審査、監査などに対応するための資料作成には膨大な時間と費用が掛かります。その費用を負担した上、ある程度以上の業績やその見込みを実現しなければ上場が認められるには至りません。

しかし、この上場が認められると、経営者層や従業員の持つ株式は(時価の変動はあるものの)取引所で売買できる金融資産としての取り扱いがなされます。当然その価値は上場前とは比較にならないくらい跳ね上がり、大きなキャピタルゲインをもたらしてくれます。もちろんその対価として、上場した会社は「社会の公器」としての性格が極めて強くなり、一般的な閉鎖会社とは段違いの厳しい制約を受けることになります。
とはいえ、上場は経営者として頑張る人が一度は意識する、一つの到達点といえます。

2.税務調査とは
事業をしていると必ずと言っていいほど体験することになる「税務調査」。この税務調査とはなぜ行われるのでしょうか?

法人税、所得税、相続税など主要な税法は申告による課税制度を採っています。つまり納税者が自ら申告を作成し、これに基づいて納税することになります。この場合、納税者全員が正しい知識と納税意識に基づいて申告・納税をするなら良いのですが、間違いや不正などの可能性は否定できません。このため、何らかの形で申告された内容が正しいかどうかを確認する制度が必要となります。この目的を達するために存在するのが税務調査という制度です。

一般的には、原則として納税者の同意を得て行う、いわゆる任意調査が実施されます。しかし不正等により故意に脱税をする者には、税額を正すだけではなく刑事責任を追及するため、犯罪捜査に準ずる方法で調査する場合があります。これが査察調査です。査察調査の結果いかんによっては、検察官に告発し、公訴されることがあります。

3.上場準備と重加算税
この税務調査は普通に受ける場合でも厄介なものですが、上場準備の際には別の理由で非常に慎重な対応が求められます。

税務調査で課税上の問題が発生し、その原因として「仮装(事実と異なる記録等)」や「隠ぺい(事実を隠すこと)」があったと見られた場合、税務署はその納税者に「重加算税」を課します。
この重加算税、その内容や頻度(5年以内に同税目など)によって、追徴税額の35%~50%もの加算額を納付しなければならないのです。

そして、さらに極めて重いのはそれがほかの分野に与える影響です。
重加算税は交通違反でいうと「赤切符」のようなもので、仮に送検や起訴がされなかったとしても、それらの犯罪行為と同類の「悪質な」税逃れとして取り扱われるのです。

ここで問題となるのが上場準備における「審査」です。
上場審査は、その会社が上場するに足る資質を有しているかを審査する手続きで、会社の経営内容、管理体制や事業計画など広範囲な内容について検討がなされます。
この際、「重加算税が課された」という事実は、その原因となる「仮装・隠ぺい」という事実から、監査意見の修正につながる可能性があることや、税務訴訟の可能性などから、上場審査において厳しく見られてしまう場合が多いのです。

4.上場準備と税務調査
税務調査は全ての会社に必ず頻繁に入るわけではありませんので、場合によっては上場準備中の会社も税務調査の対象とならない…と思われるかもしれません。基本的に税務署には「上場を準備している」という情報そのものは入らないからです。

しかし実際、上場準備を進めている会社には必ずと言って良いほど税務調査が入ります
それは、税務署がおおよそ以下のような手順で調査先を選定しているからです。

  1. 納税者を質的に区分
    納税額が大きく、過去に脱税なども皆無な優良法人から、脱税などが高い確率で見込まれる継続管理法人まで、いくつかのカテゴリーに分かれています。
  2. カテゴリー別の管理
    上記のカテゴリー毎に現状を把握し、調査が必要であるかどうかの準備をします。業績が急に落ち込んでいたり、好況業種の中低調な業績だったり、またその逆の場合でも調査対象になることが多いようです。消費税の年税額が還付になっている場合も調査対象になりやすいと言われています。
  3. 調査先選定
    管理によって収集された情報、これまでの調査実績(頻度)等を勘案して調査実施先を選定します。

これらを上場準備会社にあてはめると、業績の急激な伸びや人員増、資本金の増加など選定対象となる条件が多くあることがわかります。
ということで、上場準備中の会社には、特に急激な変化を起こす上場直前に税務調査の入る可能性が高いのです。
もちろん、そのような状況できちんと気を付けていなければ重加算税のリスクも高く、思わぬところで遅れたり、場合によっては上場準備自体がダメになってしまうこともあり得ます。

5.どうしたらいい?
重加算税のリスクを低くするためには、いくつか方法があります。
細かく書くとそれぞれの項目が一つのコラムになるので、ざっと箇条書きしてみます。
詳しくはこちら(税務調査を受けない方法 -税理士法33条の2の添付書面-)の記事をご覧ください。

  1. 経営者が税務に対する正しい姿勢を持つ
    なんだそれは??と思われるかもしれませんが、この姿勢は意外と調査官の良い心証に効きます。良い心証が得られるということは、「仮装・隠ぺい」ではなく単なる「誤謬」として取ってもらえる可能性が増えるということと同義です。
    来社して最初の1時間程度のやり取りから得られる心証で、その後の調査結果が大きく変わる場合があります。
  2. 税務調査の可能性を減らす文書(税理士法第33条の2添付書面)を税理士に作成させる
    これは、税理士がどのような書類を入手し、どのような手続きを経て申告書を完成させたか説明する文書です。この文書を税務署に提出することで、税務調査のリスク、特に重加算税に至るような重大な問題点のリスクをほぼゼロにすることが可能です。但し、この書面を有効に作成できる税理士はまだ全体の数%程度と言われています。
  3. 上場準備をよく知り、税務調査対応に強い税理士を活用する
    上場準備の際は、税務調査だけではなく様々に重要な論点が現れます。これは、一介の中小企業から上場会社という影響力の大きな会社に転じていくプロセスだからです。その際、上場やその準備を知っている税理士とそうでない税理士の場合には、対応に大きな差が出ます。
    またもちろん、税務調査対策(防止も含め)を多く手掛けているかどうかも判断基準となります。

以上

 

見解の相違って何?(税務調査対策)

新聞などで、税務署や国税局による税務調査や修正申告などのニュースが出る際に「見解の相違がありましたが、既に修正申告と納税を済ませています」といった企業の発言が出る場合が良くあります。

この「見解の相違」とは何でしょうか?

税法はもちろん法律ですので、相当細かい検討を重ねて精緻に作られています。またその上、税務の世界には「通達」という、法律ではないものの法律に近い拘束力を事実上持っている決まりがあります。 しかし、それだけ細かい内容が決められていても、その運用方法や趣旨の認識には少し幅があります。 また、税法というのは基本的に「何かの事実が発生した場合」に「どのような課税を適用するか」について定めた法律です。ですから、その「何かの事実」について納税者側と国税側に認識の相違があった場合、課税の前提となる事実認識のから争いが起こることになます。

しかし、通常は調査する側である国税側の方より、調査を受ける側の方がやはり立場が弱いものですから、そのような「見解の相違」があれば、どうしても調査を受ける側が引いてしまう場合が多いようです。これがいわゆる「見解の相違」が「調査の結論」と言われる所以です。

まあいくら納税者側が口頭で正当性を主張しても、その話を調査官がそのまま税務署へ持ち帰る訳にはいきません。 彼らとて公務員ですから、自らが法令の判断を明らかに誤っているのでない限り、納税者側の認識を補強する筋合いはありませんし、あまり納税者側をかばうようなそぶりを見せていては、自分の立場すら危うくするかもしれないのです。

■

さて、このような事象が発生した場合、納税者側やその税理士としてはどのように行動すべきでしょうか。

有効な方法の一つは、「説明文書を提出すること」です。 この文書は、税法などが定める正式な文書ではありませんが、納税者側の主張や事実認定に関する項目を論理的に、かつ税法などの法令に基づいて説明するものです。調査官に対してこのような文書を提出することで、納税者側の主張が認められる可能性は高くなります。

ただ残念ながら、このような説明文書は簡単に作成できるものではありません。
税法や会計のみならず、事業に関する法令や規制、慣習なども熟知しておかなければなりませんし、税務調査で発見された事実と整合性の取れる説明でなければまったく意味を持ちません。

私は、これまで文書提出を得意分野の一つとしてきました。
十分に効果を発揮する文書を作成するためには、単に文章がうまいだけでは足りません。 一種職人芸的な、論理的思考に基づく文章構成が必須となります。
実はこんなところで、私が理系(工学部機械工学科)出身であることが役に立っています。 「論理的に物事を伝える文章を作成する」訓練は、工学部の卒論、修士論文、学会発表時の論文作成で担当教授から相当厳しく指導を受けてきました。

理系から文系と言われる会計士・税理士として全く違う分野に踏み出したため、元々理系の知識で使えるものは何もないかと思っていましたが、こういう意外なものを含め、人生無駄なものは何もないんだなぁと感慨深いです。

税務調査でお困りの方、特に真面目にやっている自信があるのにいわれのない論点で責められている方
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税務調査を不正対策に利用する

1.はじめに
新聞報道などで良く知られるように、税務調査で不正が発覚するケースは非常に多くあります。今回は、それはなぜかを制度から解き明かすと同時に、「積極的な利用の方法」について説明いたします。

CFE(公認不正検査士)が行う不正への対応は、時間的、費用的、また人的問題や法に基づく制約が多く、どのようなシチュエーションでも難しいものです。この原因の一つは、警察などと違って「強制力がないこと」にあります。

これに対し税務調査は公権力によって行われますから、この点において監査や不正調査とは全く異なる強力な手法であると言えます。とはいえ、税務調査が目的とするところは監査や不正調査のそれとは全く異なります。従って、「利用」と言っても、単純な話ではなく、それぞれの本質的違いを理解しなければなりません。

しかし逆に、そのような違いを理解し、実務を少し経験すれば、通常の不正対応において望むことのできない強力な力を得ることが出来るのです。

経理部門や会計士、税理士、弁護士など会計、税務、法律に携わる業種に限らず、取締役や監査役、内部監査部門など、内部統制の重要な部分を構成する方々全てにとって有用なお話になれば幸いです。

2.税務調査とは
1)税務調査がなぜ行われるか
法人税、所得税、相続税など主要な税法は「申告による課税制度(申告納税制度)」を採っています。このような申告納税制度の下においては、納税者が自ら申告書を作成し、この申告書に基づいて納税することになります。この場合、納税者全員が正しい知識と納税意識に基づいて申告・納税をするなら良いのですが、間違いや不正などの可能性は否定できません。このため、何らかの方法で「申告された内容が正しいかどうか」を確認する制度が必要となります。この目的を達するために存在するのが税務調査という制度です。

この税務調査を行う際、一般的には、原則として納税者の同意を得て行う、いわゆる任意調査が実施されます。しかし不正等により故意に脱税をする者には、税額を正すだけではなく刑事責任を追及するため、犯罪捜査に準ずる方法で調査する場合があります。これが査察調査(いわゆる「マルサ」)です。査察調査の結果いかんによっては、検察官に告発し、公訴に至ることがあります。

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2)税務調査でなぜ不正が見つかるか
①税務調査と監査、不正検査との比較
税務調査で不正が見つかる理由を考える前に、税務調査と監査や不正検査とを比較し、共通点や相違点を探ってみます。

次の比較表は、「公認不正検査士マニュアル」に記載されている「監査と不正検査の比較」をベースに、税務調査に関する部分を加筆したものです。

 表 監査、不正検査、税務調査の比較

 

監  査

不正検査

税務調査

実施時期

周期的
(
四半期、決算期など)

非周期的
(
不正発生時)

非周期的
(
但し一定の法則あり)

範囲

業務全般
(
会計中心)

特定の不正疑惑
(
あらゆる領域)

税に関する領域

目的

意見表明

責任の所在特定

適正な申告・納税

問題点の扱い

依頼主への報告、開示

依頼主への報告、司法

税法に基づく処分

網羅性

リスクアプローチ
に基づく範囲

対象不正疑惑の
全て

実務上問題と
されない

相手との関係

非対立的
(
強制性なし)

対立的
(
強制性なし)

対立的
(
正当理由なく拒めず)

方法論

監査技術

不正検査技術

税務調査技術
(
職人的部分あり)

仮説の根拠

職業的猜疑心

具体的証拠

具体的証拠と経験

コスト要求

高い

依頼内容による

低い

 

②具体的な税務調査手法
それでは、実際の税務調査がどのように行われるかについて、法人税の任意調査を例に簡単に説明します。

法人税の税務調査は、主に以下のような論点をターゲットに行われます。

  • 売上除外など収益の計上漏れ、計上時期のずれ
  • 経費水増しや架空計上、計上時期のずれ
  • 棚卸資産など、貸借対照表項目の過少計上(簿外資産の有無)
  • 税制上の特例など、適用要件あるものの実態調査

そして、その際取られる手法は、おおよそ以下のようなものです。

  • 分析的手法より、実証手続に徹底してこだわる(白色申告の推計課税を除く)
    →「現地、現実、現物」の確認
  • 仮説検証アプローチ
    但し、その仮説は後述する資料や経験に基づくものが多く、職人的。性悪説に基づく。
    この点、「リスクアプローチ」の概念はまだ完全に取り入れられていない感がある。
  • 非財務分析・内偵
  • 非財務数値との比較分析や内偵(現金商売に対する場合が多い)など。
  • 反面調査 非常に強力な手法であるが、あくまで任意の調査手法の一つ
  • 尋問手法 世間話から徐々に会社概況や業務の内容に移行し、資料や他の証言との矛盾を探る手法。

③資料収集
不正調査は「初動」が重要ですが、理想的には「不正調査が必要となった時点で確定的な情報、証拠が手元にある」場合には効果的な調査が可能となります。ただ、そんな都合の良い状況を一般の不正調査業務で実現することはほぼ不可能です(この意味で、GoogleやFacebookのような会社が不正調査ビジネスに進出すれば、事の是非はともかく非常に面白いかもしれません)。

ところが、税務署にはその「都合の良い理想」があるのです。これを資料収集制度と言います。税務署は普段から様々な情報を集め、既に膨大なデータベースを手元に確保しているのです。この収集方法で代表的なものが、「取引資料せん」、「調査時の資料収集」です。

まず「取引資料せん」とは、特定期間の特定取引(売上、仕入、外注費、諸経費など)について、取引先の住所、氏名、取引年月日、取引金額、支払先の銀行口座、取引内容などを記入した情報を収集するものです。これは税務署が納税者に「任意」での協力を依頼し、提出を受けることになっています(法定外資料に分類されます)。

後者「調査時の資料収集」は、税務調査で訪問した先で収集した取引記録です。税務調査の過程を注意深く見ていると、自らの税務調査とあまり関係がなさそうな取引まで便箋にメモして帰ることがあると思います。メモしている内容は上の「資料せん」と基本的に同じです。

これらの情報は全て国税局のコンピュータ(国税総合管理システム KSK)上にデータベース化され、各税務署で利用可能な状態となっています。例えば、沖縄で収集された資料に北海道の事業者との取引があれば、北海道の調査官がその資料を調査時に利用できる訳です。架空経費など、不整合を生む初歩的で単純な不正は、この収集した情報で比較的簡単に発見できます。

3.不正調査・防止への活用
1)税理士とのコミュニケーション
このように、税務調査は不正調査と非常に似ており、また一般的な不正調査においては権限上得難い情報も利用できます。となれば、冒頭で述べた通り、税務調査において不正が発覚しやすいことも理解できます。

しかし、税務調査で発覚している不正は、金額的な重要性の少ないものを含めると実は氷山の一角なのです。調査官は不正の調査を主眼としている訳ではありませんから、増差(税額が増える論点)以外は原則として立ち入らず、その場の注意で済ませてしまう事も多くあります。税務調査件数にもノルマがありますから、自分の仕事に効果が少ない論点に正義感をもって立ち入るより、次に進んだ方が楽な訳です(実際、いわゆる「良い税理士」はこの落としどころを探り、税務調査におけるクライアントの負担を軽くするよう努力します)。

しかしこれを不正調査の観点から見ると、非常に大きな問題があります。不正は「税額を増やす」という論点において重要性が無くても、粉飾やコンプライアンス、レピュテーション上の大きな問題となる場合があります。また「網羅性」にさほど重点を置いていない税務調査でたまたま発覚したということは、ハインリッヒの法則(「1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在する」という経験則)から見ても重大な問題が隠れている可能性があるのです。

また、会社側で税務調査を担当するのは経理担当者や社長など経営者自身であることが多く、これらの問題が自らに関係する場合には、当然隠蔽の意思が働きやすくなります。

このような問題に対しては、税務調査に関しては内部監査担当者や監査役が進捗や発見事項を把握してくことが重要です。税務調査担当職員や顧問税理士とコミュニケーションを取ることはもちろん、税務調査日程や調査官との面談、調査への立会、報告会への同席など、表に出ない問題点を闇に葬らせない牽制が効果的であると考えます。

2)税理士法33条の2書面、意見聴取制度の高度な利用
税理士法第33条の2に規定された「書面添付」制度は、申告書を作成するに当たって計算した事項等を記載した書面(添付書面)を税理士が作成した場合、当該書面を申告書に添付して提出した者に対する調査において、税務調査の通知前に、添付された書面の記載事項について税理士が意見を述べる機会を与えなければならないという制度です。

実務を踏まえて簡単に言いかえますと、「調査に入る前に、税理士が申告書の内容(主に適切に作られているかどうか)について意見を述べ、事前に調査の要点について議論、結論まで出すことが出来る」というものです。また場合によっては調査そのものが省略される場合もあります。

この制度が素晴らしい所は、「この意見聴取段階で結論の出た項目については、もしその後調査を開始したとしても一切触れられることがない」という点です。

このような点を税理士と連携して上手に活用できれば、「当局との意見の相違が問題となりやすい税務スキームなどは調査の対象から外し、経営者自身も気づいていない誤りや不正を税務調査の過程で発見する、あるいは発生しないよう牽制する」といった非常に高度な利用をすることも可能です。

私も実際このようなケースをいくつか経験していますが、先に述べたような強制力や資料収集力を持った税務調査が不正対応に与える影響は絶大なものがあります。

税理士法33条の2書面については、こちらのコラム(「税務調査を受けない方法」)を参照

4.税務調査による不正発覚事例と分析
1)架空循環取引
日本公認会計士協会 会長通牒平成 23 年第3号「循環取引等不適切な会計処理への監査上の対応等について」は、循環取引について「経営者、あるいは特定の事業部門責任者等により意図的に仕組まれる為、正常な取引条件が整っているように見える場合が多い」と述べ、下記のような特徴を持っていると説明しています。

  • 取引先は、実在することが多い。
  • 資金決済は、実際に行われることが多い。
  • 会計記録や証憑の偽造又は在庫等の保有資産の偽装は、徹底して行われることが多い。

この会長通牒でも述べられているように、架空循環取引は非常に巧妙に正常取引を偽装しており、一般的なリスクアプローチに基づく監査によって発見することには限界があります。また、平成25年に発表された「不正リスク対応基準」でも、架空循環取引への対応は「取引先企業の監査人との連携」が必要であるとして継続審議となっています。

しかし、税務調査は前述の「反面調査」や「資料せん」、そして取引内容や債権債務、棚卸資産などに関する質問により、架空循環取引から生じるわずかな不整合を見出す可能性を持っています。

循環取引は一種の粉飾ですから税務調査において主眼とすべき論点ではありませんし、監査と同様発見それ自体は難しいものです。しかし調査の過程においてその兆候が出ることも多く、調査官と会社担当者間のやりとりを十分に把握しておくことが重要です(調査による発見・摘発は難しくても、不正リスク評価上重要な情報の得られる場合があります)。

事例:広島ガスグループ架空循環取引(税務調査での発見事例)[PDF

2)資産の流用、横領

  • 旅行会社の架空請求書、領収書(出張日報とは合致)
  • 領収書がコクヨ(会社名、住所、電話番号記載あり)であった点について注目
  • 会社名を検索しても出ず、電話番号は生きているが電話は着信しない

結局このケースにおいては、出張のハシゴや安宿の利用によって節約した旅費と、架空旅費の差額を横領していました。

一般的に、税務調査において「コクヨ領収書」や「手書領収書」など、調査官が経験上疑問を持つ証憑類はよくピックアップされます。

ところが、税務調査の実務上は、他に大きな論点があった場合にはこのような論点が「口頭での注意勧告」にとどまることが多く、闇に葬られる場合も多くあります。この点からも、できれば調査の過程を把握しておく必要があります。

3)テレビ朝日社員が1億4千万円流用
テレビ朝日は2013年11月20日、外部の制作会社に架空の業務費などを請求させ、番組制作費合計約1億4100万円を着服したとして、プロデューサーを11月19日付で懲戒解雇したと発表した。同局によると、2003年11月~2013年3月までの10年間に亘り、伊東は制作会社3社に架空計上や水増しした業務代金を請求させ、同局から支払われた番組制作費を私的な国内外への旅行費用や服飾品購入に使用して、制作会社1社には見返りとして現金数10万円を渡していたという。 2013年8月に東京国税局の定例税務調査で発覚し、同局が内部調査を進めていた。本人は私的流用を認め、返済も始めているという。(以上WikiPediaより)

以上

「役員退職金」は税務署に3度おいしい

従業員と同じく、役員も退職すると「役員退職金」がもらえる場合があります。
しかしこの役員退職金、様々な注意点があり、しかも税務署にとっては舌なめずりしたくなるほど「おいしい」論点なのです。
今回はその恐ろしい論点と、どうすればリスクを下げられるかについてご説明します。

1.中小企業の後継者不足
中小企業庁によると、2025年までに、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万(日本企業全体の1/3)が後継者未定であるとのことです。そしてこの現状を放置すると、中小企業・小規模事業者廃業の急増により、2025年までの累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があると言われています。

2025年中小企業
中小企業庁「中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題」より抜粋

2.役員退職金と会社法
さてこのような中、引退する経営者が必要としているのが「役員退職金」です。役員退職金は、文字通り「役員が退職する際に会社が支払う退職金」であり、法律上様々な定めが置かれています。

まず会社法上、役員退職金は定款か株主総会の決議で定める必要があります(会社法361条)。
この規定は退職金に限らず役員が受ける利益全般について定められているものですが、通常は毎月の役員給与などと退職金は別に定めます。
また実際には定款で退職金を定めることは少なく、株主総会で「退任取締役に役員退職慰労金として〇〇円を支払う旨」の決議をするか、上限などの制約を定めて取締役会に詳細を委任することが多いようです。
とはいうものの、役員退職金はあくまで会社が支払う費用であり、利益処分ではありません。

3.税法上、役員給与は「原則として費用ではない」
税法上は、役員退職金は通常の役員給与とまとめて「役員給与」として取り扱われます。
そして驚くべきことに、現在の法人税法上、役員給与は「原則として損金の額に算入しない(費用として取り扱わない)」とされています(法人税法34条②)。
条文で定める要件を満たさない限り、費用としては認められないのです。

では、役員退職金についてその「要件」は、どんなものなのでしょうか。それは以下の通りとされています(法人税法施行令70条)。

「業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる」

要するに、「横並びで決めろ」という「ザ・昭和」な考え方にまだ縛られており、いくら卓越した業績を残した社長が退任する場合でも、業種業界規模的に突出した金額の場合には損金にできない、という理不尽な定めとされているのです。

この是非はさておき、比較すべき同種事業や類似規模の法人の事例を探してくることはなかなか容易ではありません。
このため、実務上は「功績倍率方式」といって、最終月額給与額に在任日数を乗じ、さらに役職の重要性に応じて「功績倍率」という掛け目を適用した金額で計算する方法が多く用いられています。

4.役員退職金の「第2の狙い」
役員退職金に見込まれる隠れた効果が「株価下げ」です。
株式の移転、特に親族間など特殊関係者の間での譲渡や相続、贈与といった取引の場合、税法は「時価」の採用を求めており、それを外れるとペナルティともいえる大きな税金を課すことがあります。
その「時価」は、原則として国税庁が発表する一定のルール(財産評価基本通達)に従って計算することになっているのですが、実はこの時価の計算において「会社の利益(正確には課税所得)」が大きなパラメータとして効いてくるのです。

詳しい仕組みは今回省きますが(※)、要するに利益が低いほど株価が低くなるのです。
第三者との取引なら高く売れた方が良いですが、例えば先代社長から後継者へ株式を譲渡したり贈与する場合、また亡くなった方から相続する場合は、時価が低い方が確実にあらゆる税金(譲渡所得税や贈与税、相続税)が下がります。
※株価の時価評価の仕組みは、弊所ブログ『粉飾したら相続税が下がる?-「比準要素1」の会社』に説明があります。

普通に頑張って経営されてきた場合、役員退職金は一般的な従業員の退職金よりそれなりに高い金額になると思います。これが全て費用として認められれば会社の利益を一時的に下げることができ、時価を抑える効果が期待できるのです。

5.「狙われる」カリスマ社長の退職金
では、3.で説明した「費用になる最大限の範囲」で役員退職金を出し、株価を目いっぱい下げて後継者に株式を移転するのがベストか?というと、そこに落とし穴があります。
実はこの役員退職金、「出したら必ず税務調査が来る」と言われるくらい、税務署側としても「おいしい」論点なのです。

一代で会社を立ち上げ、繁栄させた社長は、退任しようとしてもなかなか出来るものではありません。自分しか把握していない事情も多いですし、社内の多くは皆その社長を尊敬し、恐れ、頼っています。
そうなると、「退職した」といってもなかなか完全に会社を離れる訳にはいかず、会議に出席したり幹部からの相談を受けたりといったことが退職後も頻繁に発生します。

そう、ここが税務署のねらい目となるのです。
調査に来ると、調査官は「退任した前社長の退任後の活動」を調べます。
上記のように、退任前と変わらない役割を果たしている場合、「これは役員を退任したとは実質的に言えませんね」と主張してくるはずです。

それがどうした、と軽く見てはいけません。
実質的に役員を退任していないということは、「先日支払った役員退職金は『退職金』ではない」という認定につながるのです。

それが生むのは恐ろしい結果です。
まず、退職金でないなら、「役員賞与ですね」となります。
この役員賞与、法人税法上は原則費用にできません。ここで1発目の課税です。
また、日本の所得税法は退職金の課税割合を給与などより低くしていますので、賞与と言われてしまうと結構大きな所得税の増加につながります。これが2発目。
最後に賞与とした場合、会社はその「源泉所得税」を差し引いて翌月10日に納付する義務があります。これをやっていないので「不納付加算税」というペナルティをとることができます。
こうやって、一つの論点で調査官は3つ以上の課税処分を獲得できるのです。
これがタイトルの「3度おいしい」が意味するところなのです。

※さらに、役員退職金を前提に計算した株式の時価を贈与などに使っていると、賞与と言われたことで利益(法人の課税所得)が大きく増加→株価が増加して贈与税などが追徴される、という副次的な影響も発生します。

6.どんな対策があるか
このように大変リスクの大きい役員退職金ですが、やはり会社の発展に大きな貢献のあった役員にはきちんと報いる必要がりますし、また株式の時価評価に与える効果が大きいですから後継者の株式移転など事業承継対策には極めて有効です。

では、5.のようなリスクを抑えるにはどのようにすればよいでしょうか。

実務的にはたくさんの論点がありますが、簡単なものを書いておきます。
・退任後は、暫く完全に経営にタッチしない
・そしてそれが立証できるようにする(議事録やメール等には特に注意)
・株主総会、取締役会など会社法上の手続きを完璧に行い、記録を残す
・役員退職金の法人税法上の限度額計算を厳密に検討する
・行った対策について、税理士から税理士法33条の2添付書面(※)に記載してもらう
※この書面の仕組みは「税務調査を受けない方法 -税理士法33条の2の添付書面-」に詳しく説明しています。

リスクもリターンも大きい「役員退職金」ですが、きちんとした対策をとれば恐れることはありません。十分に理解して是非活用しましょう。
我々税理士法人耕夢には、税務調査対策まで含めて確実で豊富な実績がありますので、もしこのような対策を検討されている場合にはお気軽にご相談下さい。

個人事業主と消費税(帳簿がないと大増税?)

1.はじめに

最近消費税については、10%への増税や、生活必需品などへの軽減税率の適用などの大きく変化がありました。小規模な個人事業においても、無視できない税負担になってきたと思います。
最近のように大きな増税となると価格への転嫁(消費税分値上げする)をどうするか考える必要も出てきますし、コロナ禍で大変な営業への影響を懸念される方も多いと思います。

ですが、事業主の方にとって従来からもっと大事なことが見落とされている場合が多いですので、今回は簡単にご説明&注意喚起しておきます。
間近の確定申告からでも是非ご注意ください。

2.仕入税額控除

日本の消費税は「税額控除方式」を採っています。
これは、売上にかかる消費税から、仕入や経費など支払にかかる消費税を差し引くことで納税すべき金額を差し引く方式です。

消費税の仕組み(財務省)
消費税の仕組み(財務省)

 

本来、預かった消費税である売上消費税から支払った消費税(消費税法上は「仕入税額」と言います)を当然差し引いて納税する消費税額を計算すべきなのですが、日本の消費税法にはちょっと問題な規定があります。それが、「帳簿等記載要件、請求書等保存要件(消費税法30条、末尾に条文抄を記載)」です。

この規定は「仕入税額を控除したかったら、仕入や経費の支払について
①相手先
②年月日
③仕入などした資産やサービスの内容
④支払対価を記載した帳簿
⑤請求書等
を保存しておかなければならない」というものです。 この要件、①~④の帳簿に関するものは「帳簿記載要件」、⑤の請求書等に関するものは「請求書等保存要件」と呼ばれます。

消費税導入当初はもう少し甘いものだったのですが、平成9年の改正(税率が3%→5%になった)際、同時に現在の厳しい内容へと改正されました。

3.税務調査時のリスク

売上が小規模な事業者で「簡易課税(売上税の一定率を仕入税額控除額とみなす方式)」を採用できていれば当面問題はありませんが、給与支払が少なく外注費が多いなど、簡易課税が不利になる事業者の場合は売上が小規模であっても注意が必要です。

この規定、条文を見てもわかるとおり「災害その他やむを得ない理由」を除いて宥恕規定(一定の事情があれば要件を満たしていない場合も認めてもらえる)が定められていません。調査の過程で仕入先に関して上の要件の一つでも満たしていなければ、「その取引に関する仕入税額控除は否認」と言えてしまうわけです。

実際に、この論点で消費税の仕入税額控除を否認しようとする調査官も最近はぽつぽつとあらわれています。 現在でも仕入税額控除が認められなければ税負担が上がりますが、今後増税になると、その影響も税率に比例して大きくなります。

4.対応

上で説明しました帳簿記載要件を満たすためには、青色申告(きちんと帳簿を作成する代わりに、様々な税務上の有利な制度が認められます。青色申告でないものを白色申告と言います)で作成すべきものと同レベルの、きちんとした帳簿を作成する必要があります。
また平成26年度からは全ての白色申告者についても帳簿作成が義務化されますし、先に述べました簡易課税についても、廃止または適用事業規模の縮小が議論されています。

ご自分で、もしくは税理士に頼んでなどどのような方法でも良いですが、まだきちんと整備ができていない事業主がおられましたら、青色申告、白色申告に関係なく請求書等の保存と帳簿の整備をお勧め致します。

以上

(仕入れに係る消費税額の控除)
消費税法 第三十条
(略)
7  第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(同項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が少額である場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。
8  前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
一  課税仕入れ等の税額が課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
イ 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
ロ 課税仕入れを行つた年月日
ハ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容
ニ 第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額
(略)
9  第七項に規定する請求書等とは、次に掲げる書類をいう。
(略)

帳簿を甘く見ると「消費税」で痛い目に~消費税の帳簿要件

私たち税理士は、税務業務の一環としてお客様の様々な取引を記録した「帳簿」を作成することがあります。
よく「記帳代行」などと呼ばれている仕事ですね。
この「記帳する仕事」が税理士の仕事だと思っておられる方も多いのですが、違います。
実は「税金の仕事をするために必須となる帳簿を作っている」という考え方が正しいのです。
今回はこの帳簿について、その重要性と、帳簿の作成や保管をおろそかにした場合の恐ろしいリスクについて説明します。
※一番恐ろしい所は3.4.ですので、お急ぎの方はそちらからお読み下さい。

1.帳簿とは?(簿記の定義)
会計業務に携わる上で基本となる「簿記」の世界においては、基本的な帳簿は以下のようなものがあります。

  • 主要な帳簿:仕訳帳、総勘定元帳
  • 補助的な帳簿:現金出納帳、預金出納帳、売上・仕入帳、在庫表、受取手形・支払支払手形帳、売掛・買掛帳

今回の趣旨とは異なるため細かい説明は省略しますが、主要な帳簿には営業に関する取引の全てが記載されており、補助的な帳簿は、主要な帳簿を補足する形で特定の取引の詳細が記載されています。

またこれらの帳簿を正しく作成するためには、「複式簿記」(一つの取引を借方、貸方と2つの概念に分け、資産や負債、資本と損益を正確に把握できる帳簿記載の方法)を使わなければなりません。

総勘定元帳

2.法律に基づく帳簿
①会社法
株式会社などの会社が作成すべき帳簿は、1.で説明した簿記の世界の概念を基本としつつ、会社法の第432条に下記の通り定められています。

「株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない。株式会社は、会計帳簿の閉鎖の時から十年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない。」

個人の場合には会社法のような制度がありませんので、原則として簿記の定義がそのまま使われており、保存義務についても後述の所得税法や民法に従うこととなります。

②法人税法・所得税法
税理士が携わる帳簿作成の大半を占めるのが、会社に関する法人税法、個人事業に関する所得税法に基づく業務です。

これらの帳簿については、会社法と同様に簿記の世界を基本として、法人税法、所得税法それぞれで帳簿の作成義務や保存義務が定められています。

また、「青色申告」(①で説明した複式簿記を使い、正しく作成した帳簿を適切に保存することを前提とした制度)を届け出た場合には、税制優遇などを受けることができます。

3.消費税の「帳簿保存義務」
実は、最も注意すべきなのは「消費税」の世界における帳簿の取り扱いなのです。

前述の通り個人事業でも法人であっても、帳簿の作成義務はありますので、申告書をきちんと作成するためには帳簿を作成していることが当然の前提となっています。

納税すべき消費税は、この作成された帳簿の記載に基づき、原則として「売上などの課税収入に課された消費税」から「仕入や経費などの課税支払に課された消費税」を差し引くことで計算されます。条文は下記の通りになっています。

消費税法第30条第1項(抜粋)
事業者が、国内において行う課税仕入については、課税標準額(売上など)に対する消費税額から、国内において行った課税仕入に課された消費税額を控除する。

しかしこの「帳簿記載」について、消費税法は他の法律にない厳しい規定を置いています。下記の通りです。

消費税法第30条第7項(抜粋)
第1項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない

要するに、「帳簿や請求書を保存していない場合」には「売上などの消費税」はそのまま計算し、「仕入などの消費税」を「差し引きさせない」ことを定めているのです。

帳簿は当然作っているのだから、保存するのは簡単だろう、と軽く考えてはいけません。
法律上「保存する」は、「取引を行った年月日、内容、金額、相手方の氏名又は名称などの必要事項を整然とはっきり記載する」ことを求めているのです。

このため、厳密にいうとこれらが一部でも欠けていると、本来より大幅に多額の消費税を納めなければならないことになります。

4.事例
税務調査においてまだそれほどこの論点が厳しく問われるケースが多くないようです。
このため皆さん軽く考えがちなのですが、数で言えば事例はたくさん出ています。また、税務署や大阪国税局の調査官からも、消費税率が上がり重要性が増えているので、今後この分野は重点として取り扱っていくとの情報を頂いています。

(事例)国税不服審判所の裁決例(平成6年12月12日裁決)から
帳簿等には、仕入先としてその氏名の氏に相当する部分が記載されているのみであり、また、請求人は、本件調査の際に本件仕入先を明らかにして記載不備を補完しようとしなかったことから、帳簿又は請求書等の保存がない場合に該当するとして、仕入税額控除の適用は認められないとした事例

請求人は、[1]本件帳簿等は、消費税法第30条第8項及び第9項に規定する記載要件を充足し、かつ、それを保存しているのであるから、同条第7項に規定する仕入税額控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合には該当しない、また、[2]請求人は、本件取引の際に、仕入先に消費税を支払ったのであるから、仕入税額控除を認めるべきである旨主張する。

審判所の判断は、次のとおりである。

本件帳簿等には、仕入先としてその氏名の氏に相当する部分が記載されているのみで、住所、電話番号等の記載もないため、本件帳簿等から仕入先を特定することはできない。消費税法第30条第8項第1号のイは、明確に「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」を記載することと規定しているのであるから、当該記載が同項の帳簿としては不備なものであることは明らかである。

原処分に係る調査(「本件調査」)の際に、調査担当職員が、請求人に仕入先を特定できない場合には仕入税額控除が適用できない旨説明し、本件取引の仕入先を特定するよう求めたにもかかわらず、請求人が本件仕入先を明らかにして記載不備を補完しようとしなかったことが認められるから、その時点において保存されている帳簿等は、記載不備な状態における本件帳簿等のみであることになる。

請求人は、当審判所に対して、仕入先が特定できるものがあっても、仕入先を明らかにすると取引ができなくなるおそれがあるため明らかにすることはできない旨答述しているが、これをもって請求人が適法な帳簿又は請求書等を保存しないことにつき災害その他やむを得ない事情がある旨主張していると解しても、そのような主張は仕入先の相手方の氏名又は名称を記載した帳簿等の保存を求める消費税法第30条第7項ないし第9項の規定の趣旨とまったくあいいれないところであるから、このような理由をもってしては、同条第7項の「その他やむを得ない事情」に該当するとはいえない。

本件帳簿等に記載された氏の真偽について検討するまでもなく、本件取引については、消費税法第30条第7項に規定する仕入税額控除に係る帳簿又は請求書等の保存がない場合に該当し、同条第1項の規定による仕入税額控除を適用することはできない。

本件取引については、消費税法第30条第7項の規定により、同条第1項の仕入税額控除の規定は適用することができないのであるから、本件取引に係る仕入れの存否、その支払対価の額、消費税相当額の仕入先への支払の有無について検討するまでもなく、仕入税額控除をすることはできない。

仮病キャバクラ嬢への献身横領事件

私は公認会計士や税理士としての仕事に加え、公認不正検査士業務も行っています。

その業務で一番多く目にするのが「横領」です。
横領とは、他人から預かっているものを自分のものとして取ってしまうことですが、この横領、刑法に規定のある割と重い刑罰のある犯罪なのです。ただ件数は多いものの、背景や原因、動機などはバラエティに富んでいます。

今回は、その中でも大変奇妙なものの一つである「仮病キャバクラ嬢への献身横領事件」を事例として取り上げたいと思います。
週刊誌やTVなどでも取り上げられましたからご存知の方も多いかもしれませんが、不正検査士らしく「発見・防止」の為の対策案も最後に書いておきました。

1.逮捕
勤務先だった工業用ゴム資材の卸商社『シバタ』の資金を自分の口座に振り込ませ、だまし取ったとして、警視庁中央署は2012年4月11日、電子計算機使用詐欺の疑いで、栗田守紀(もりとし)容疑者(当時33)を逮捕しました。直接の容疑は、2009年4月から翌年の7月まで、同社のパソコンを操作し、55回にわたって自分の給与とは別に計2億3000万円を自分の口座に振り込んだというものです。

栗田容疑者は同社が2005年に開設したインターネット・バンキングの法人口座の責任者に命じられると、すぐに不正に手を染め、以来約200回、計約6億円を詐取したと見られています。

2.横領の目的
栗田容疑者は同社の元経理係長。横領した金額のうち総額5億円以上を、なんとお気に入りのキャバクラ嬢に貢いでいました。

当キャバクラ嬢は、2004年ごろから、東京都葛飾区のJR亀有駅付近の店にて働き始めました。栗田容疑者は彼女と次第に親密になり、栗田容疑者はアフターも含めると月に数回は一晩あたり4~5万円使っていたそうです

その後ほどなくして、彼女は栗田容疑者に『胃がんを患っていて入院費や手術費が必要だ』と金を振り込ませるようになります。当初は数万や数十万だったその要請はエスカレートし、様々な病気にかかったと理由を付けた上で、多いときは一度に1500万円という場合もあったそうです。

その間彼女は「無菌室に入っているから」などとメールで連絡を取るだけで栗田容疑者に一度も顔を見せることはなく、見舞いに行くなどと言われると「信じてもらえないなら死ぬ」などと拒否していました。しかし実の所は、栗田容疑者から振り込まれた金をブランド品の購入やホスト遊びなどにつぎ込んでいたそうです。

3.横領の手口、発覚
同社は工業用ゴムやプラスチック資材などを卸す商社です。当時全国に40カ所の拠点を持つ中堅の同族企業で、業界内においては「堅実な経営」で知られていました。

これに対し栗田容疑者の不正手口は稚拙なもので、銀行から発行される口座の入出金記録や残高証明を破棄、自ら虚偽の記録を作成していたそうです。

結局、2010年7月に税務署の調査が入り、その調査の過程で容疑者の不正が発覚しました。しかし時すでに遅しで、それまでに同社が余裕資金として持っていた数億の資金が失われたことになります。

4.裁判、判決
「インターネットバンキングを悪用し勤務先から約5億円をだまし取ったとして、電子計算機使用詐欺罪に問われた元会社員、栗田守紀被告(33)の判決公判が27日、東京地裁であり、山崎威裁判官は懲役7年(求刑懲役8年)を言い渡した。」(2012/9/27付日経新聞)

5.発見・防止手法
このようなケースは、金額の多寡、動機や背景は様々であっても、本質的な原因は結局皆同じです。共通しているのは、以下のような点です。

  • 経営者に信頼される、堅実で文句も言わず休みなく働く経理担当者
  • 人材に乏しく、担当者が十数年交代していない
  • 担当者以外にはITに堪能な者がいない
  • 老舗で、資金繰りに比較的余裕がある

このような横領を防ぐには担当者の交代(ローテーション)や強制的な休暇によって一時的に他人に業務をさせる手法が最適ですが、人材の限られる会社の場合にはどうしても躊躇してしまうと思います。
しかし、厳しいようですがそのような方法を採らず一人の担当者が長期間経理業務を行っている場合、少なくない確率で、というより確実に不正が発生しているとお考え頂いた方が良いと思います。
どうしてもそういった方法が取りにくい場合は、疑われず比較的低コストで行える対策がいくつかあります。上記に当てはまる環境があるようでしたら、是非ご検討下さい。

税理士は仕事の全てを記録すべし?

私たち税理士は、法人税法、所得税法、相続税法、民法や会社法といった会計・税務に関係する法律に従って仕事をしなければなりません。でないとお客様に迷惑をかけるばかりか、自身にも重いペナルティを受ける場合があります。

これに加えて、我々税理士が活動する際従わなければならないのが「税理士法」です。
税理士法には、税理士の使命や義務、試験の内容や税理士名簿、税理士法人など税理士制度に必要な内容が全て書かれています。

今回はその規定の中で、あまり知られていない「帳簿作成の義務(41条)」についてご説明したいと思います。

1.帳簿作成の義務?
元々税理士は帳簿を作る仕事じゃないか!と思った方のセンスは正しいと思います。
税理士法第41条第1項には、下記のような記載があります。

(帳簿作成の義務)
税理士は、税理士業務に関して帳簿を作成し、委嘱者別に、かつ、1件ごとに、税務代理、税務書類の作成又は税務相談の内容及びそのてん末を記載しなければならない。

つまりお客様(法律上は委嘱者と呼ばれます)の会計帳簿ではなく、税理士がその行った業務の内容を詳細に記録しておく帳簿、のことなのです。正直、この名前変えた方が良いと思います。

この帳簿について、日本税理士会連合会が出している標準様式は下記のようなものです。

税理士業務処理簿

このような表に、お客様ごとに行った申告書を作成、提出したり、税務相談を受けたりといった業務内容について、毎日記録します。この記録は法定の「義務」であり、この義務を怠った場合、財務大臣による懲戒処分の対象となる可能性があります。
実際、税理士に対して行われた財務大臣による懲戒処分(ネットで公開されています)で、この「41条違反」は今かなり多くなってます。

処分例

このような懲戒処分が多い理由は、税理士法41条の「帳簿」を作成するには余分な手間がかかり、どうしても省略しがちになってしまうからではないかと思います。

2.弊所の対応
弊所は、税理士法人耕夢の前身である塩尻公認会計士事務所の時代からこの課題には積極的に取り組んでおり、独自に開発した「耕夢システム」において業務チェックリストやスケジュール・日報管理、お客様とのコミュニケーションを処理すると、自動的に税理士法41条の要件を満たした情報が記録されるようになっています。

耕夢システムがクラウド型であること、また独自の様式で記録していることから、税理士法が定める保存方法(電磁的でもよいが、クラウドを明言していないため事務所内の保存を前提にしている)や様式を完全に満たしているかどうかは正式な回答を得ておりませんが、事務所自体が受けた過去2回の税務調査においては、口頭ながら要件を満たしている旨のご意見を頂いています。

この業務処理簿は、手間をかかることを除けば事務所業務の品質管理や、お客様の利益保護にもつながる、税理士業界にとっても非常に重要な制度となっています。皆さんがITツールを活用して、できるだけ効率的に実現して頂くように願う所です。

以上

「にせ税理士」について

1.税理士の使命とは
税理士法第1条には、税理士の使命として「税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ること」が掲げられています。
この使命に基づき、我々税理士は確定申告など、様々な税に関する手続や相談に応える仕事を行っています。
税に関するこれらの仕事は、一般的に難易度が高く、また大きな金銭的利害の関係するものが多いため、税理士法はこのような仕事が行える者を、国家試験や実務経験を経て、税理士や税理士法人などとして公に登録された者に限定しています(税理士法第52条)。この法律に反して税理士等以外の者が税理士業務を行うと、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金が科されることになります(税理士法59条)。これには、報酬を受け取っているか否かは関係がありません。

2.にせ税理士とは
このような法律に違反してにせ税理士行為が行われるのは、税理士業務が税理士の独占業務であり、儲かると思われているからかもしれません。また、税金に関する手続きは押しなべて難しく、気軽に頼める税理士に出会えなければ、よく知っている者に頼んでしまうこともあるかもしれません。
しかし、税理士は前述の通り国家試験や実務経験を経た者だけが登録できますし、守秘義務や脱税相談の禁止など、様々な果たすべき義務があります。また最近は、「最低年間36時間の研修」が義務付けられ、自己研鑽も行っています。このような条件を満たしていない者に税理士業務を依頼した場合、場合によっては誤った手続きで不測の損害を受ける、税務署から厳しい処分が課されるといったトラブルを被ることになりかねません。またそういうトラブルの際には、あっさりと逃げてしまうケースもあります。
では、にせ税理士にはどんなタイプがあるでしょうか。大きく分けると下記のような区分があると言われています。

①無資格税理士
税理士としての資格を持たない者が、税理士であると嘘をついて税理士の仕事をする場合がこれに当たります。
税理士事務所に勤務していた(または現在も勤務している)経験者が、個人として行っている場合が多く、「○○先生」と呼ばれてあたかも税理士のようにふるまい、帳簿の記帳、申告書作成や税務相談に対応します。
しかし税理士ではありませんので、後述の通り税務調査に立ち会うことはできません(税務署はにせ税理士を摘発することも重要な仕事としていますので、怪しいとわかればすぐに見つかってしまいます)。

②名義借り・名義貸し
上の無資格者や税理士でない者が作った一般の会社(「○○記帳代行サービス株式会社」など)が依頼者から税理士業務を引き受け、自分たちができない税理士業務の部分を税理士が行っているように見せかけるため、実在する税理士や税理士法人の「名義を借りる」ことを言います。
この方法は、申告書に税理士や税理士法人の記名や捺印があるので一見問題がなさそうなのですが、税理士法はこのような「捺印だけ税理士が行う」行為もにせ税理士行為と同じとして禁止しています。
法人税の申告書を作成する場合、その申告書だけではなく作成の元になった帳簿や、さらにその元になった資料、会社の状況などを税理士は十分に知っていなければならないのです。このため、名義だけを貸し、税理士の捺印だけを行うような行為は税理士が十分に責任を果たしていることになりません。

3.にせ税理士を見抜くには
私たちが実際に出会った事例でも、全て依頼者は「ちょっとおかしいかな?」程度の疑問しか持たずに仕事を依頼し続けていました。私たち税理士にはほとんどがすぐわかることですが、慣れていない一般の方々にとっては難しいようです。
では、税理士でない一般の依頼者が、このようなにせ税理士と正規の税理士を区別するにはどうすればよいでしょうか?
以下、にせ税理士を見抜く「特徴」と、「方法」をご説明します。
もし運悪く依頼されている「税理士と思っていた人」がそうでなかった場合や、ご友人の依頼されている者がにせ税理士だった場合、最寄りの税務署や税理士会などにお問い合わせ頂ければ適切に対応してもらえると思います。

①にせ税理士の特徴

  • 安すぎる報酬
    自己研鑽や投資もせず闇で仕事しているため、コストが低い。また、税理士のような特別な能力がないので価格勝負するしかない
  • 経営相談や税金対策の相談になかなか乗ってもらえない
    帳簿作成や基本的な申告書作成など限られた能力しかなく、自己研鑽していないので税務対策、経営相談など高度な話が分からない
  • 税務調査に立ち会ってもらえない
    前述の通り、税務調査に立ち会うと、調査官に会ってばれてしまいます
  • 申告書に署名捺印や電子署名をしたがらない
    同じく署名すると「存在しない税理士」なのでばれてしまいます
  • 捺印(電子署名)している税理士と、頼んでいる「税理士」が違う
    頼んでいる「税理士」が、捺印や署名している税理士から名義を借りています
  • 顧問料の振込先が「○○税理士事務所」や「○○税理士法人」ではなく「株式会社○○」や「○○コンサルティング」など税理士のつかない名前となっている
    偽税理士が報酬を取っている、又は捺印だけの税理士から名義を借りている
  • 税務署との交渉を嫌がり、すぐに「こんなものですよ」と逃げる
    税務署と交渉しようにもにせ税理士なので、相対したとたんにばれてしまう。または能力がなく、高度な交渉ができない
  • 顧問契約書(業務委託契約書)がない
    税理士でないものが税務業務に関する契約書を作成した時点で無効な契約書になります

②税理士かどうか調べるには
上記の特徴にいくつか当てはまり、「おかしいな」と思ったら下記を試しましょう。

  • 日本税理士会連合会の「税理士情報検索サイト」
    こちらにフルネームを入れて検索すると、その人が税理士として登録されているかどうかがわかります。
  • 税理士証票を提示させる(写真付きですぐわかる)
    上記のサイトでも見つからず、いよいよにせ税理士である可能性が高くなったら、本人に「税理士標章を見せる」ように求めましょう。この税理士標章は、氏名や生年月日、登録番号、所属事務所など税理士としての基本情報が写真とともに記されており、税理士は仕事の際携帯することが義務付けられています。所長塩尻の税理士証票は下記の通りです。
    IMG_4855

 以上

令和元年度 査察の概要

30年以上前の映画「マルサの女」で一躍有名になった「査察」。
この制度は、受忍義務はありながら事実上任意である「税務調査」とは違って、悪質な脱税者を強制的に取り調べ、脱税について刑事責任を追及する強力な手続です。
この「査察」について、昨年令和元年度の実績が国税庁から発表されました。

1.税務調査と査察
法人税、所得税、相続税など主要な税法は「申告」による課税制度を採っています。つまり納税者が自分で申告書を作成し、これに基づいて納税することになります。
この場合、納税者全員が正しい知識と納税意識に基づいて申告・納税をするなら良いのですが、間違いや不正などの可能性は否定できません。このため、何らかの形で申告された内容が正しいかどうかを確認する制度が必要となります。
この目的を達するために存在するのが税務調査という制度で、一般的には納税者の同意を得て行う、いわゆる任意調査が実施されます。

しかし不正等により故意に脱税をする者には、税額を正すだけではなく刑事責任を追及するため、犯罪捜査に準ずる方法で調査する場合があります。これが査察(ささつ)調査です。
この査察調査の結果いかんによっては、検察官に告発し、公訴されることがあります。
通常の税務調査がそれぞれの税目に応じた法律に基づいているのに対し、査察調査は「国税犯則取締法」という特別な法律に基づいて行われます。

2.令和元年度の概要
国税庁は、毎年この査察を行った実績や事例を公表しています。
これは、活動実績を納税者に報告すると同時に、犯罪行為となる脱税についてどのように発見し、刑罰を与えたかという事例を紹介することで、適正・公平な課税の実現と申告納税制度の維持に資することを目的としています。
公表された内容のあらましは以下の通りです。

  • 全国で116件(平成30年度は121件)を告発、発見された脱税総額は93億円(同112億円)
  • 消費税還付事案11件
  • 国際事案25件、海外に不正資金を隠した所得税ほ脱事案で、国外財産調書(国外財産が5000万円を超える場合に提出義務のある調書)の不提出犯を初適用
  • 無申告事案は、過去5年間で最も多い 27 件を告発。
  • (なぜか)相続税の脱税額がほぼゼロ
  • 告発の多かった業種上位3業種は建設業、不動産業、人材派遣でここ数年順位とともに変化はないが、第4位に下水道管調査業が登場

3.告発事例
①海外法人を利用して法人税を免れた情報商材関連会社
投資に関するノウハウを紹介する情報商材に関する取引などで得た多額の利益を、海外の法人を利用して不正に法人税を免れた事業者について、外国との間で締結した租税条約に基づく情報交換制度(詳しくは「CRS(共通報告基準)であなたの口座情報が筒抜け?」を参照)を活用するなどして、不正取引を解明し告発

②消費税還付コンサルにより多額の利益を得た税理士
不動産投資家に対して金地金売買を利用した消費税還付のコンサルティングを行うことにより、多額の利益を得ていた税理士本人の脱税を告発。

③芸能スタイリスト会社の無申告
芸能関係のスタイリスト事業により得た所得に係る法人税及び消費税の申告義務を認識していながら、確定申告を行わず故意に納税を免れていた単純無申告事案を告発しました。

4.資料
詳細は、国税庁発表の「令和元年度 査察の概要」に記載されています。