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2013年ACFEグローバルカンファレンス参加報告

1.カンファレンス概要

2013年6月24日(月)から26日(水)まで、ACFEの第24回グローバルカンファレンス(年次総会)に参加して参りました。前回は2010年のアニュアルカンファレンス(ワシントンD.C.)に参加していますので、実に3年ぶりの参加ということになります。

前回は特にテーマを持った参加ではなく、「一度試しに参加してみよう」程度の目的だったのですが、今回は手口が巧妙化し、さらに増え続けるホワイトカラー犯罪への対応について、進んだ米国での取り組みを見たかったという一応のテーマを定めております。

カンファレンスの詳細についてはACFEジャパンのページに濱田理事長によるレポートが記載されていますので、私の受けたセッションや基調講演での興味深いお話をご説明します。

(*)関西不正検査研究会での発表順の都合上、本発表が遅くなってしまいました。

 

2.プレカンファレンス

カンファレンスは、23日から28日まで、1週間近くに渡って行われます。その最初、23日(日)に準備されているのが「プレカンファレンス」です。

滞在日程の関係でプレカンファレンスには出席していませんが、このプレカンファレンスは「カンファレンスのキックスタート」という位置づけで、基本的な内容のセッション(講義)や新メンバーに対するオリエンテーションが行われます。

 

3.メインカンファレンス

このカンファレンスの核となるメインカンファレンスは、プレカンファレンス終了後24日(月)~26日(水)の3日間行われました。

この間、参加者は基本的に以下の通りのセッションに参加することになります。

 ①80分の個別セッション…3+3+2=8回
②一般セッションが2+2+1=5回

上記①と②の全てを受けると、このメインカンファレンスだけで倫理2単位を含めて20単位を超えるCPEが取得できる計算になっています。

今回も素晴らしいと思ったのが用意されたセッション数とその質です。前回もお話しましたが、カテゴリーごとに「トラック」がA~Kの11用意され、そのそれぞれに7セッション(但し重複あり)が用意されています(各セッションの説明はこちら)。また、少なくとも私の受講したセッションは閑古鳥が鳴いたり内容が詰まらなかったりするようなものは一切なく、質の高いものばかりでした。このような内容の「分厚さ」は、残念ながらまだ日本において望み難いところではあります。

さて、以下私が受講したセッションについて簡単にご紹介します。

 

6月24日

①Entertainment Capital, Employee Fraud Capital: Lessons from Employee Fraud in Las Vegas
(エンターテインメントの都、そして従業員不正の都:ラスベガスの従業員不正から学ぶ)

ギャンブルというとイマイチイメージが良くないのですが、日本でも特区として検討されているように、エンターテインメント性も高く、観光産業としては相当なうまみがあるようです。ただ、ストレートに大きなお金が動く世界でもあり、不正を生じる機会は一般的な業種より圧倒的に多いようです。このセッションは、そのような環境で従業員不正をどのように防ぐかという論点を中心に話がありました。

監視カメラなどで厳格な不正防止のための管理をしているという点はある程度予想がつくところなのですが、カジノ事業者には「Nevada Gaming Control Board」が「The Minimum Internal Controls (MICS)」を義務付けている点については、やはりアメリカらしいと感じました。

②Digging Deeper to Discover Fraud with Data Analytics
(不正発見とデータアナリシスの深堀り)

不正調査に関する環境変化、特に制度やデータ量、複雑さの増大にどのように不正検査士が対応していくかについて幅広い講義がありました。

③Forensic Interviewing: Techniques to Detect Deception for Auditors, Examiners and Investigators
(調査のためのインタビュー術)

インタビューテクニックは私が興味を持っている分野の一つです。

苦手な英語の世界で説明される内容のためさすがにそのまま使えるものはないかと思っていましたが、事例もあってそれなりに面白く、参考になる点も多くありました。

具体的には、「過去形を使う」「IではなくWEを使う」「一つの問いに対して多くのNOを使う」などの、嘘をつく際の兆候について説明がありました。

意外だったのは「話す際かぶりを振る(うなずく)」動作。これは英語圏だと怪しいボディランゲージと見られているようです。日本人にとっては普通のことなので、下手に怪しまれないよう気を付けた方が良さそうです。

 

6月25日

①Tools of the Fraudsters: What You Don’t Know Can Hurt You
(不正実行者のツール:知らなければやられる)

このセッションについては、後程詳しくご説明します。

②Exploiting Internet and Social Network Intelligence to Enhance Investigations
(調査に役立つインターネットとソーシャルネットワークの活用)

Facebookなどソーシャルネットワークが流行りですから、このセッションも人気があったようです。少し遅れて会場入りしたのですが、全く席が空いていない混みようでした。一応セッションは先に予約しておくので、おそらく当日予約なしで聴講した人たちがあふれていたのでしょう。特にチェックはしていないようです。

CIAが毎日ソーシャルネットワーク上で500万ものポストをチェックしていることや、調査に使える検索エンジン、ブログサイトなどが説明されました。また、Facebookのプライバシーオプションの変遷(どんどん長くなっている)や、ユーザー間の関係を調べる方法をはじめ、ソーシャルネットワークを利用したプロファイリングの手法について説明がありました。

その他、画像検索や犯罪歴まで検索されるサイト、イメージ検索、など様々な手法、サイトについて多くの説明がありました。

受講者も多かったのですが、皆さん相当重視しているらしく、講義が時間オーバーで終わった後も熱心に質問をしていました。

③Skimming at the Register: Fraud Goes High Tech
(店舗でのスキミング:不正はハイテク化する)

レジスターと言っても日本のように現金主体ではなく、話の内容はほぼ全てクレジットカード、特にスキミングに関するものでした。

クレジットカードの番号から関連する個人情報まで、内容によって1件40セント~20ドル程度までで販売されている実情や、ATMスキミングの手法あれこれについて話がありました。最近らしいなと思ったのは、ATMでのスキミング機器が「3Dプリンタ」を使ってそれらしく作られていることが多いという話でした。

 

6月26日

①Benford’s Law: A Review, Relevant Findings and Recent Applications
(「ベンフォード法」研究)

この講師(Mark J. Nigrini氏)は非常に分かりやすく、進行も上手いなぁと思っていたのですが、良く調べたらベンフォード法を不正調査に適用することを初めて示した研究者だったようです。不勉強でした。なお、この方のベンフォード法に関する書物はまだ邦訳がどれも出ていないようですので、どなたか研究会で一緒に手がけませんか?

幾つも事例が出ましたが、一つ印象的だったのは、「ポンツィ・スキームは人間の作為が入っているので、何らかの関連データにベンフォード法が効果を発揮する可能性が高い」という点でした。今後研究してみたいと思います。

②Travel and Expense Fraud: Keys to a Successful Investigation
(旅費・経費の不正:調査成功への鍵)

アメリカでも出張旅費、経費に関する不正は多いようです。後程ご紹介する「領収書偽造」ページみたいなものが普通に出回っている訳ですから、経営者側も安穏としていられません。

このセッションは、不正を起こす従業員がどのような手法を用いるかを理解し、正しい戦略によって不正と戦う手法や、不正が発覚した場合のインタビューの方法について説明がありました。

 

4.ポストカンファレンス

メインカンファレンス終了後、27日(木)~28日(金)に渡って「ポストカンファレンス」が開催されます。実は日本人向けスペシャルレートにはポストカンファレンス分も含まれているのですが、こちらも日程の関係上参加を断念しました。このポストカンファレンスは、カンファレンスに加えてさらにトレーニングを積むために用意されているそうです。

 

5.セッションのご紹介(1)一般セッション

1)セッションの内容

私が受講した中で、Tools of the Fraudsters: What You Don’t Know Can Hurt You(不正実行者のツール:知らなければやられる)については特に面白かったので、ここで詳しくご説明します。

このセッションは、従業員が経歴や旅費交通費等に関係するホワイトカラー不正に手を染める際、よく利用されるWEBページなどを紹介するものです。これを見てぞっとしたのは、何でもかんでも(低コストで)偽造できる状況にあるなぁ、といったアメリカの恐るべき状況でした。

日本の税務署のように、「コクヨ領収書」が怪しいなどと言っている場合ではありません。こういう状況は遅くとも数年で日本にやってきますので、相当注意しておいた方が良さそうです。

では、以下セッションで説明のあったWEBサイトをご紹介します。

 

2)紹介されたWEBサイト

Bad Ideas

悪事に関する議論が交わされています。「自分のセールスノルマを(不正に)上げるにはどうしたらいいですか?」みたいに他愛のないものも多いですが、シャレにならない質問と答えも出てきます。

The Reference Store

就職活動でレジュメを送る際、やはり前職はチェックされます。その際の前職にフェイクの(良い)情報を書いてしまおうというのがこのサイトです。フェイクの前職にはもちろん問い合わせに対する対応サービスも含まれています。このページ、驚くべきことにFAQの「Is this legal?」という問いに対し「YES! Perfectly Legal. Misinformation on a resume isn’t a crime!」と答えています。ホントでしょうか?

Alibi Network

文字通り、「アリバイ」を提供してくれるサービスです。ホテルやセミナーなど、「あなたがそこにいたこと」を証明してくれます。用途はいろいろありそうですね。

Custom Receipt Maker

ITでの経理処理が進んでいるので、経費支払を証明するレシートの提出をコピーやスマホで撮影した画像で済ましてしまう会社も多いそうです。そこで活躍するのがこれ。

この技術は特に難しいものではなく、例えば「撮影したレシートの画像をそのまま使い、金額だけを自動的に10倍にする」なんて芸当もさほど難しくなく今ある技術で作れてしまいます。

 

6.セッションのご紹介(2)クロージングセッション

1)キーノートスピーカー

アニュアルカンファレンスの締めは、必ず大きな事件となった不正で有罪判決を受けた人間が、更正プログラムの一環として無報酬でスピーチをします。今回はなんとエンロン元CFOAndrew Fastow氏でしたので、実は非常に期待していたのですが…。

ACFEジャパンのページで濱田理事長がおっしゃる通り、「合法だった」とか「破綻することはなかった」などの発言に終始しており、反省の言葉や事件に踏み込んだ発言が全くなかったことにはがっかりしました。聴衆も演壇上の役員たちも同じような表情をしていたのが印象的でした。

 

2)CPE申告

さすがにアメリカ、IT活用は進んでおり、カンファレンス専用のスマートフォンアプリでスケジュール管理、広大なカンファレンス会場のレイアウト確認からレジュメ配布、ネットワーキングまで全てが画面上で行えます。準備を十分にしていなかった前回と異なり、今年はWiFiとiPadを携えて行きましたので、このメリットは十分享受できました(なお会場にはフリー接続可能な無線LANも準備されていました)。

ただ意外なことに、CPEの申告だけは「紙」でした。最初に配布される複写式のCPE申請書に記入、提出するので、ここだけ前時代的でした。

 

7.倫理について

カンファレンスの公式ページには記録されていないのですが、2日目の一般セッションでマネーロンダリング、テロ、組織犯罪対策の専門家Chris Mathers氏の雑談部分に、「倫理」を考える上で興味深いくだりがありました。彼はこのように問います。

「あなたが20万ドルを横領したとする。それで良い地域に良い家を買い、子供が良好な環境で育って、最後には優秀な医者となり、世界の難病患者を救ったとする。これは是か否か?」

おそらく我々日本人のほとんどは「それは悪い」として否定するはずである。しかし、彼らは真剣に「是か非か」を悩むのです。興味深いことに、この悩みは、幼少時からアメリカで育った日本人を両親にもつ若者でも同じでした。

この差は、単に欧米的な功利主義(「最大多数が最大幸福を得られるものが善い」とする考え方)と内面的動機説(「結果よりも目に見えない内的な動機」を重視し、その動機が善いなら倫理的であるとする考え方)という単純な差以上のものがあるようにも思います。

 

8.おわりに

今回はラスベガスという最高のリゾートの一つで行われましたが、残念ながら期限のある仕事が直前に舞い込んだため、カンファレンス終了(日本時間9時)から数時間は部屋で拘束されるという非常にもったいない?期間を過ごしてしまいました。その中でも、日本から行かれた濱田理事長、脇山DQUEST社長、アメリカから参加された成田さん、岩田さんとは会場、夜ともに楽しく過ごさせて頂きました。御礼申し上げます。

以上