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令和元年度 査察の概要

30年以上前の映画「マルサの女」で一躍有名になった「査察」。
この制度は、受忍義務はありながら事実上任意である「税務調査」とは違って、悪質な脱税者を強制的に取り調べ、脱税について刑事責任を追及する強力な手続です。
この「査察」について、昨年令和元年度の実績が国税庁から発表されました。

1.税務調査と査察
法人税、所得税、相続税など主要な税法は「申告」による課税制度を採っています。つまり納税者が自分で申告書を作成し、これに基づいて納税することになります。
この場合、納税者全員が正しい知識と納税意識に基づいて申告・納税をするなら良いのですが、間違いや不正などの可能性は否定できません。このため、何らかの形で申告された内容が正しいかどうかを確認する制度が必要となります。
この目的を達するために存在するのが税務調査という制度で、一般的には納税者の同意を得て行う、いわゆる任意調査が実施されます。

しかし不正等により故意に脱税をする者には、税額を正すだけではなく刑事責任を追及するため、犯罪捜査に準ずる方法で調査する場合があります。これが査察(ささつ)調査です。
この査察調査の結果いかんによっては、検察官に告発し、公訴されることがあります。
通常の税務調査がそれぞれの税目に応じた法律に基づいているのに対し、査察調査は「国税犯則取締法」という特別な法律に基づいて行われます。

2.令和元年度の概要
国税庁は、毎年この査察を行った実績や事例を公表しています。
これは、活動実績を納税者に報告すると同時に、犯罪行為となる脱税についてどのように発見し、刑罰を与えたかという事例を紹介することで、適正・公平な課税の実現と申告納税制度の維持に資することを目的としています。
公表された内容のあらましは以下の通りです。

  • 全国で116件(平成30年度は121件)を告発、発見された脱税総額は93億円(同112億円)
  • 消費税還付事案11件
  • 国際事案25件、海外に不正資金を隠した所得税ほ脱事案で、国外財産調書(国外財産が5000万円を超える場合に提出義務のある調書)の不提出犯を初適用
  • 無申告事案は、過去5年間で最も多い 27 件を告発。
  • (なぜか)相続税の脱税額がほぼゼロ
  • 告発の多かった業種上位3業種は建設業、不動産業、人材派遣でここ数年順位とともに変化はないが、第4位に下水道管調査業が登場

3.告発事例
①海外法人を利用して法人税を免れた情報商材関連会社
投資に関するノウハウを紹介する情報商材に関する取引などで得た多額の利益を、海外の法人を利用して不正に法人税を免れた事業者について、外国との間で締結した租税条約に基づく情報交換制度(詳しくは「CRS(共通報告基準)であなたの口座情報が筒抜け?」を参照)を活用するなどして、不正取引を解明し告発

②消費税還付コンサルにより多額の利益を得た税理士
不動産投資家に対して金地金売買を利用した消費税還付のコンサルティングを行うことにより、多額の利益を得ていた税理士本人の脱税を告発。

③芸能スタイリスト会社の無申告
芸能関係のスタイリスト事業により得た所得に係る法人税及び消費税の申告義務を認識していながら、確定申告を行わず故意に納税を免れていた単純無申告事案を告発しました。

4.資料
詳細は、国税庁発表の「令和元年度 査察の概要」に記載されています。

ディープラーニングとは

最近、コンピュータプログラムが囲碁の世界王者を破るなどのニュースで注目されている「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる技術。
この技術は、囲碁や将棋などゲーム分野だけではなく、ビジネスや科学研究の分野でも非常に注目を集めています。
この注目の技術について、技術的に高度な内容は含めず簡単に説明してみたいと思います。

1.注目の「ディープラーニング」
2011年頃から注目され始めた「新世代人工知能(AI)」。その中心になっているのが「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる技術です。
この技術を活用したグーグルの「AlfaGo」が囲碁の世界王者に勝利したニュースは記憶に新しいですが、これ以外にもグーグルやアマゾンがディープラーニングのためのシステムを「オープンソース(プログラムの内容を公開する代わりに、利用者が見出した改善なども公開して進歩させることを前提にした枠組)」で公開するなど、機運が高まっています。

しかしこのディープラーニング、コンピュータの黎明期から主流だった「人間がプログラミングする」という考え方とは、少し異なるものを持っています。
この注目の技術について、簡単に説明してみたいと思います。

2.ディープラーニングとは
コンピュータは元々、「決まりきった処理を、決まった形で正確に処理する」ことを目的に開発されました。
その主な用途は計算です。
ゲーム等に象徴される高度な画像処理も、その基礎を掘り下げると非常に複雑な計算を超高速で行っているに過ぎません。
しかしこれらは、如何に進歩しても全て「人間が決まった計算方式(アルゴリズムと呼ばれます)を指定し、その通りにコンピュータが動く」点において、本質的には何ら変わりはありませんでした。

これに対して、ディープラーニングは「コンピュータが自分で処理方式を学習する」点が大きく異なります。
何層かのニューラルネットワーク(脳神経のような特性をコンピュータ上にシミュレーションした高度な数学的システム)に対して、いろいろな情報を大量に学習させることで、人間が見いだせない微妙な特徴やマクロな傾向までをコンピュータが自分で学習してしまうという点が大きな特徴です。

 deeplearning
出展:野村総合研究所

 

3.ディープラーニングがなぜ発達したか
実は、アーサー・C・クラーク原作、スタンリー・キューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」やその小説版に、ディープラーニングの概念を持ったコンピュータ「HAL9000」が登場します。
このHAL、小説によると「人脳の活動の大部分を、人脳よりはるかに優れた速度と確実さで再生する」とか「HALは人間の同僚たちと同じように、この任務の為に徹底的な訓練を受けた」などと書かれています。小説には、初歩的な英語や基本的な考え方を、人間が直接教え込むような描写も書かれています。

しかし、実際にディープラーニングが必要とする学習量は、人間が与える事のできる情報量とは比べ物になりません。
「2001年宇宙の旅」が書かれた時代(1960年代)においては、この点が解決すべき課題でした。
この課題が解決できた理由は、大きく分けて2つあります。一つはコンピュータの処理能力向上、もう一つはインターネットの発達によるデータ爆発(ビッグデータ)の存在です。

コンピュータの処理能力は、ご存知の通り計算能力や記憶容量が毎年飛躍的に向上しています。また、電子商取引やソーシャルメディア、企業の電子データ処理の急速な普及によって、インターネット上の電子データは不連続と言っていいくらいに増加しています。
このようなビッグデータは、人間が逐一閲覧していてもほとんど役に立ちませんが、飛躍的に処理能力の向上したコンピュータが、ディープラーニング技術で学習すると人間の見いだせない点まで学習することが出来るのです。

4.ディープラーニングの用途
ディープラーニングの用途はあらゆる所にあります。
現在使える可能性のある、あるいは実際に使われている分野は、例えば以下のようなものです。

  • コールセンターの初期対応
  • 不正取引(株式売買やクレジットカード等)の自動検知
  • Web検索の最適化や、適切な広告表示
  • 大規模プラントの故障個所・時期予測
  • スパムメール・フィルター
  • 画像や症状による病気診断
  • 不確実な状況における経営戦略の選択

ただこのディープラーニング、使える分野は正直限定されないと思います。
たくさんの情報があり、そこから何らかの判断を必要とされる全ての分野において、この技術は人間を超える判断を下すことが可能となるはずです。

これが行き渡った世界で、人間はどう対応すべきか…

先に書いた「2001年宇宙の旅」においては、ある理由によってHALが人間に反旗を翻し、宇宙で乗員を全て排除しようと試みます。
SFの世界と思っていたことが、あっという間に現実のものになりそうですが、できれば良い事だけが実現されるよう祈るばかりです。

ダブルで得する「税額控除」

会社の場合でも個人事業の場合でも、特に順調に売り上げや利益を上げている場合には税金(法人税や所得税)の負担が無視できません。
この記事は、その税金を減らすうえで非常に大きなメリットのある「税額控除」という制度を取り上げてご説明します。
中小企業を中心とした企業経営者や個人事業主の皆様は、是非参考になさってください。

1.事業に関する税金の計算方法
我が国の税制は個人事業と法人の制度を完全に分けているのですが、基本的なところは同じです。簡単に言うと、売上などの収入から費用を差し引いた「利益」に対して税金がかかるということになります。
つまり、売上が大きくなったり、費用が下がったりして利益が増えると、その分税金が増えますし、逆もまたしかりということになります。
実際には税金の計算はもう少し複雑で、法人なら「税金を減らさない費用(損金不算入の費用と言います)」があったり、個人の場合は「費用や支出ではないが税金を減らす項目(所得控除といいます)」があったりと、なかなか大変です。

2.税額控除とは
これに加えて、法人税や個人所得税には「税額控除」という制度が用意されています。
この制度は、政策的な目的、例えば設備投資や雇用の拡大、試験研究の実施といった企業活動がなされると、税金を一部免除するというインセンティブを与えるために税金を控除するという形を採っています。

税額控除の仕組
税額控除の仕組み

上記の図をご覧ください。
先に説明した通り、税金はもともと利益に対してかかるものなのですが、その税金から「さらにマイナスができる」という所が税額控除のメリットになります。

3.特別償却との違い
よく似た目的を持った「特別償却」という制度もあります。
この制度も、同じように政策的な目的から設けられているのですが、効果については大きな違いがあります。

設備投資された資産は一度に費用となるのではなく、何年かに渡って分割して費用とされるのですが、その分割年数は法律に基づくルールで定められています。
この特別償却は、そのルールより早く費用とすることで、利益を圧縮し、税金を少なくしようとするものです。
なお政策的な目的が同じですから、特別償却の対象となる資産と、税額控除の対処となるものはほぼ同じとなっています。

税額控除と特別償却の目的は一緒なのですが、効果(税金を減らす)については大きな違いがあります。
特別償却は「費用化を早くする」だけで、トータルの費用額は「買った値段」で変わりません。
しかし税額控除の場合、特別償却よりは遅いものの、費用化額は全体として同じである上に、購入金額に応じた税額控除も受けられることになるのです(ある意味「二重に引ける」ことになります)。
ですから、よほどの理由がない限り、税額控除と特別償却が選択できるなら前者を選ぶべき、ということになります。

4.税額控除の例
税額控除の制度は多く用意されていますが、主なものは下記の通りです。
なお、これらの制度は「個人事業主でも会社でも適用可」となっています。

  • 試験研究費…試験研究費を支払ったり、増加した場合
  • 生産性向上設備投資促進税制…生産性向上設備等を取得した場合
  • 中小企業等投資促進税制…機械等を買った場合
  • 雇用促進税制…人数が増加した場合
  • 所得拡大税制…雇用者給与支給額が増加した場合

5.税額控除の注意点
税額控除を利用する際には、主に下記の点に注意する必要があります。

  • 最初の申告の際、原則「税額控除を利用する」ことを記載した明細を提出しないと、後から適用できることが明らかになっても認めてもらえない(訂正できない)
  • 法人税や所得税の一定割合が限度(極端な話赤字だと適用できない)

如何でしょうか?
これらの制度は、実際には非常に複雑ですので申告書を作る際には税理士などの専門家に必ずご依頼ください。
とはいえ、制度が使えるかどうかについて、経営者が知っておくことは経営判断を行う上で大変重要と思います。
是非ご参考になさってください。

令和2年度の路線価とコロナの影響について

7月1日、国税庁より全国の「路線価」が発表されました。
この路線価、相続税の計算をする際には非常に重要な指標となっています。
今回は、この路線価についてご説明します。

1.路線価って?
亡くなった方の相続人などにかかる「相続税」。
この相続税は、相続財産(亡くなった方から受け継がれる財産)の「時価」に、税率や相続人数などに基づいた計算を加味することで計算されます(「相続税の計算は意外と複雑」参照)。
相続財産に占める土地の割合は4~5割と非常に重要ですので、私たち税理士が相続税の計算を行う際、土地の時価を計算するのは非常に大事な仕事です。

しかしこの「土地の時価」を計算するにはどうすればよいでしょう。
上場株式なら株式市場でいつでも売り買いできる時価が公表されていますが、土地の場合はそうはいきません。
確かに、不動産会社を通じて「売りたい」「買いたい」といえばその状況に応じて価格がつきます。しかし、それはその特別な状況で採用される価格であって、税金の計算のように「公平性」が重要な指標として使うことは無理があります。

そこで国は、全国的な調査を定期的に行って、地域ごとに道路(不特定多数が通行するもの)に面する宅地について、1㎡当たりの時価を公表することとしています。これが一般に路線価(相続税路線価。この他、固定資産税課税の為の路線価もある)と呼ばれています。
※なお、特に市街地でない場所によっては路線ごとの時価が適していない場合もありますので、その場合には「倍率方式」と呼ばれる別の方法を時価として採用します。また、納税者が不動産鑑定士による鑑定評価額などを時価として採用することもできます。

2.路線価の例
路線価の例を見てみましょう。

銀座路線価

国税庁の路線価検索サイトから、「全国一路線価が高い」といわれる銀座5丁目周辺の路線価図を呼び出してみました。
ご覧の通り、全ての道路に細かい数字が示されています。
この数字が「路線価」、すなわち「1㎡当たりの土地の価格」になります。
※その他の記号も相続税を計算する上で非常に重要な意味を持つのですが、今回は省略します。

少々見づらいですが、図の左下に注目して下さい。
中央通りの「鳩居堂」と書かれた地点は、「45,920」と記されています。この数字は千円単位なので、1㎡当たりなんと4,592万円の価格となっている訳です。
この価格、いわゆるバブル期の3,600万円程度をはるかに上回っています。

3.大阪の推移
大阪で最も路線価が高いのは「梅田阪急百貨店前」です。
この路線価がどのように変化しているかを説明するため、今年から3年ごとにさかのぼったデータをまとめてみました。

路線価変遷

こちらも平成26年の1㎡あたり756万円が、平成29年には1,176万円となり、なんと今年令和2年には2,160万円にまで上昇しています。

国税庁が発表する地価の高い場所は、下記の通りです。
令和元年分都道府県庁所在都市の最高路線価

4.コロナの影響について
今回は地価が上昇している場所を中心にご説明しました。
これらは、インバウンド需要を中心に価値が暴騰したことが主な理由といわれています。
また、バブル後低迷を続けていた他の地域においても、このような場所に影響を受け、また旺盛なマンション建設需要などを背景に下げ止まっていた所でした。

しかし今回のコロナ禍を経て、地価がどのように変化するかが注目されるところです。
例えば、もしコロナ禍の影響で実際の土地実勢価格が大きく下がっていたとしても、相続税の計算はその前の非常に高い路線価で計算しなければならないのが原則だからです。
国税庁は、今後のこのような影響によって実際の地価が大きく下がる場合、その推移によっては路線価の減額修正を可能にする措置を導入することを検討しています。
この行方にも注意が必要です。

CRS(共通報告基準)であなたの口座情報が筒抜け?

皆さん「CRS」という言葉をご存知でしょうか?
最近、国際的な脱税や租税回避に対する批判が高まっています。
アップルのような大企業のみならず、中小企業や個人富裕層までもが様々な手段を利用して課税を逃れようと工夫を重ねています。
この「CRS」という制度は、このような脱税や租税回避に対処するため2017年から運用されている国際基準です。
金融機関はこの制度に基づき、顧客情報をより詳しく把握して国税当局に報告し、当局は各国間でこの情報を共有しています。

1.CRSとは
OECDは、外国の金融機関等を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するため、非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準である「共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)」を公表し、日本を含む各国がその実施を約束しました。

OECD加盟国はこの基準に基づき、各国の税務当局は、自国に所在する金融機関等から非居住者が保有する金融口座情報の報告を受け、租税条約等の情報交換規定に基づき、その非居住者の居住地国の税務当局に対しその情報を提供します。

このため国内に所在する金融機関等は、平成30年以後、毎年4月30日までに特定の非居住者の金融口座情報を所轄税務署長に報告し、報告された金融口座情報は、租税条約等の情報交換規定に基づき、各国税務当局と自動的に交換されることとなります。

2.日本における状況
日本においては、国税庁が「租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律(実特法)」を改正しCRSに対応しています(平成29年1月1日から施行)。

日本の金融機関は、この実特法に基づき、新たに口座開設等を行う顧客の、「税務上の居住地」を記載した届出書の提出を依頼することになります。また顧客の税務上の居住地に日本以外の居住地があり、その居住地が報告対象国である場合、顧客の口座情報等を年1回、金融機関より国税庁に報告することが義務付けられています。

最近、新しい銀行口座を開設する上で、開設者本人やその関係者、法人の実質支配者などを詳細に書かせるようになった背景がここにあります。

3.具体的な手続き、注意点など
海外の税務当局は、所有している個人情報・法人情報(氏名、名称、住所等、納税者番号など)と収入に関する情報(利子配当譲渡収入など)、また口座番号やその口座に所有している預金や有価証券等の残高を日本の国税庁に提供します。
逆に、日本の国税庁からは、上記と同様の情報が海外の税務当局に提供されます。運用の始まったマイナンバーは、納税者番号として取り扱われているようです。なお、口座残高が25万ドル以下の場合は情報交換の対象外となっています。

この情報交換は2018年から始まっており、国税庁はその内容と日本での申告書や「国外財産調書(年末時点で5,000万円超の国外財産を有する者に提出義務のある資料)」を照らし合わせる作業を進めています。また、この照合結果を基礎として、順次疑いのある納税者に税務調査を進めることになっています。

最近はこの制度を生かした調査が行われており、下記のような報道も出ています。

調査対象者の男性は国外に預金口座を複数保有していた。大阪国税局はCRSなどで得られた情報をもとに税務調査を実施。調査の結果、一部の預金口座の存在を認めたが、その他は認めなかった。CRS情報で得られた口座情報を活用して追及した結果、意図的に海外預金の利子を申告していなかった事実を認めた。申告漏れ所得の総額は約5500万円で重加算税を含めた追徴税額は約2700万円だった。(日本経済新聞 「富裕層」の申告漏れ最多、1年で763億円 国税庁調査 2019/11/28)

なお、最近のCRSの運用については、国税庁が下記のような資料を公表しています。
平成 30 事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要(国税庁 PDF)

もし無申告の高額海外資産をお持ちの場合、全て情報交換の対象になりますので、税理士に相談の上できるだけ早く自主的に申告なさることをお勧めします。

仮想通貨技術を支える「ブロックチェーン」について

一時期もてはやされた「ビットコイン」。
これ以外にも様々な仮想通貨が登場したり、投機的な価格の変動や、「ワンコイン」の不正事件、「コインチェック」の流出事件など、衆目を集めるニュースが多発しているため注目度が非常に高くなっています。

この仮想通貨、従来からあってよく利用されている、一般的な「電子マネー」とは概念的にも技術的にも大きく違ったものを持っています。というより、本質的には「通貨」に限らない広い概念をもつ技術なのです。

その技術の核となるのが「ブロックチェーン」という概念です。

私はこの技術の専門家ではありませんが、同じく専門外の方でも分かりやすいよう、簡単な説明を書いてみました。
なおこの記事は、以前作成したものに一部加筆修正しています。

1.データの保存形態の変遷
コンピュータの創生期から、どんどん増え続けるデータの処理や保存方法については様々な努力がなされてきました。
一台一台のパソコンに保存されていたものが、サーバと呼ばれる集中機に保存されるようになり、これがインターネットの普及に伴って「クラウド」という形態まで進歩してきましたが、「データがどこかで一元管理される」という形には変化がありませんでした。

この形だと、一元管理されている箇所を攻撃(ハッキングなど)したり、その通路(ネットワーク経路)を支配してしまえば改ざんや遮断が容易にできます。
実際、一部の国で行われているインターネット検閲などは、この点を利用している訳です。

2.ブロックチェーンの衝撃
ブロックチェーン技術は、このような常識に衝撃を与えました。
この技術は、元々「ビットコイン」のような、ネットワーク上を流通させる暗号通貨を実現するために作り出されたものです。

ブロックチェーンは、簡単にいうと「利用者が使う全ての端末に、分散して全てのデータが保存されている」という点がポイントです。

この「分散」についても、単にデータをバラバラに保存しているだけではありません。それぞれが冗長性(無駄な部分)を持ち、一部が壊されたり改ざんされたりしても、生き残った他の部分から全体像が再構成できるように考えられているのです。

例えば、誰かが自分の資金残高を10倍にするようデータを改ざんしたとします。その場合でも、他のデータを合わせるとその改ざんは即座に見破られ、不正が行われたことが分かる訳です。

新しい取引が発生すると、そのデータが一定の規則によって次々と追加され、あたかもデータの塊(ブロック)が鎖(チェーン)のようにつながっていくことから、このような名前で呼ばれるようになったのです。

3.ブロックチェーンの用途とメリット
ブロックチェーン技術は、言ってみれば進化したデータ保存方法ですから、データを扱う全ての用途に活用できます。特に、「取引とその履歴を記録し、改ざんや盗難リスクが大きい」用途にはうってつけです。

例えば、以下のような用途です。

  • 電子マネー…改ざんや盗難リスクがあり、また災害等でデータが失われることを防ぎやすい。また数多くの端末で分散処理され、遅れはあるもののシステムダウンの恐れが極めて低い。
  • 電子商取引…電子マネーと同じ理由で適しています。
  • 証券取引、銀行の勘定系、資金送金…上記と同じ理由ですが、システムダウンへの耐性が高い点は他より重視されます。
  • 不動産等の登記…不動産の登記簿(登記情報)は、権利(所有権や担保)情報やその履歴で構成されています。またその内容に改ざんがあれば、不動産取引に悪影響を与えます。

 

4.ブロックチェーンのデメリット
逆に、ブロックチェーンは以下のようなデメリットも持ちます。
意外と重大な欠点もあるのですが、今後メリットの大きさと技術の進歩で改善が図られると思います。

  • 低いパフォーマンス…参加者全員で全てのデータを分散して所持し、お互いを確認しながら取引を進めるため、データが巨大化し処理が遅くなります。
  • オンラインでしか動かない…単独の機器でももちろん動かすことは理論的に可能ですが、ブロックチェーンの意味がありませんね。取引が実行されたことを全ての参加者に通知、取引内容を含んだブロックの生成、チェーンに追加といった一連処理はオンラインでしか動きません。
  • データの巨大化によるストレージの圧迫…今誰が何をどれだけ持っているかというデータだけではなく、今までどんな取引がされてきたのかという履歴を全て保存するため、管理するデータ量が膨大となってしまいます。
  • 機密性に欠ける…全ての参加者が全てのデータを分散して持っていますので、身分等に応じて一部を隠すことが難しくなります。
  • 不正取引が簡単…システムの欠陥を突けば、簡単に大きな金額を送金する取引を記録することができ、その経緯や作業者を隠すことも比較的容易です。

 

相続税の計算は意外と複雑

私たちの事務所には相続税を概算できるページを以前から設けているのですが、昨今の改正、特に平成27年の改正で相続税を払わなければならない方が増えたこともあり、こちらへのアクセスもずいぶん多くなっています。

でも、相続税が実際どのように計算されるかについては、実はあまり良く知られていません。

というより、実際の計算方法は皆さんが考えるよりちょっと複雑なのです。

相続税の計算方法について一番多い誤解が、

「相続税は相続財産に相続税率を掛けることで計算される」

というものです。

いや、正直これでいいんじゃないの?と私も思うのですが、いろんな理屈やらがあって、実際の計算は下記のように行われることになっています。

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①相続財産を「法定相続分」で分けたと「仮定」(あくまで仮定)

②その「仮定」の財産それぞれに、税率(累進税率)を掛ける

③②の計算結果を集計する

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「法定相続分」は、民法で決められている財産の分け方で、特に相続人間で分け方を決めなければこの配分で分けることになります。例えば配偶者と子供2人であれば、配偶者が半分、そして残り半分を子供が2人で半分ずつ受け取ります。

累進税率とは、財産が増えると税率が上がる仕組みです。急激に増えないよう、緩やかなカーブを描いて率が増加するように工夫されています。

 

さて、相続税の計算はまだ終わりません。

先ほどの③に続いて、各相続人の税金を計算する過程が残っています。

 

④③で集計した相続財産全体を、各相続人の財産取り分の割合で分ける

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これでようやく、それぞれが納める税金が計算できることになります。

相続税の計算が少しだけ複雑なことが分かって頂けましたでしょうか?

多くの方が何度も経験するものではありませんが、改正により可能性は増えていると思います。ご参考にして頂けると幸いです。