月別アーカイブ: 2020年10月

世界を変える「全固体電池」

皆さんは「全固体電池」という言葉をご存知でしょうか?

昨今、世界の自動車メーカーが「EVシフト(電気自動車への移行)」を進めています。
この電気自動車において技術の要となる「バッテリー」の分野で、今大きな技術革新が起きようとしています。
それが今回ご説明する「全固体電池」です。
この全固体電池、電気自動車の性能を飛躍的に高め、一気に主役に躍り出る可能性があります。
日本が現在リードするこの技術についてご説明します。

1.EVシフト
世界の自動車メーカーが進める「EVシフト」。
昨年にはトヨタがEVの車載用電池で世界最大手の中国・寧徳時代新能源科技(CATL)や比亜迪(BYD)、東芝、GSユアサなどと協業すると発表しました。
また、現在世界第2位の自動車市場であると同時に最悪といってよい大気汚染に悩む中国は、既に自動車メーカー各社に対して2019年以降、電気自動車(EV)を中心とする「新エネルギー車」を一定割合で生産・販売するよう義務付ける新規制を公表しています。
そして、なんと1社の時価総額で「日本の上場自動車メーカーの合計」を超えてしまったEVメーカーの米テスラが、コストの3割を占めるとされる車載電池を自社生産し、生産コストをほぼ半減させてガソリン車より安いEVを開発する目標を掲げました。
今後、電気自動車が急速に主流となるのは間違いありません。

2.EVの特性と問題点
さて電気自動車の性能を決めるのは、大きく分けて下記の3要素です。
①モーター(出力や消費電力)
②バッテリー(航続距離)
③車としての基本性能(ハンドリングや乗り心地、安全性)
このうち③については既存の自動車メーカーが連綿と積み上げたものがありますからよいのですが、①や②についてはまだまだ改善すべき問題があります。

特にバッテリー容量については、飛躍的に増やすことがこれまでなかなかできず、電気自動車は航続距離が極端に少ないのが悩みの種でした。
また、バッテリーの安全性や充填(充電)時間などもまだ内燃機関車(ガソリン・ディーゼル)やこれらをベースにしたハイブリッド車にかなわず、さらにバッテリーの劣化(使用を続けると性能が低下する)もあって実用性は極めて低いものと言わざるを得ませんでした。

3.全固体電池の特徴
固体の電解質
全固体電池とは、現在普及しているリチウムイオン電池の問題を解決するため、リチウムイオン電池で用いられている電解質と呼ばれる液体を固体化したものです。リチウムイオン電池の場合、充放電時には電極間をリチウムイオンが移動するのですが、全固体電池は固体の中をイオンが移動します。
なんだか固体の中は移動しにくいイメージがあるのですが、特殊な硫化物を使用することで、液体の電解質と同等かそれ以上の伝導性を持たせています。

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NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)
「従来のリチウムイオン電池と全固体電池の構造の比較」

飛躍的な性能向上
全固体電池は、理論的にはエネルギー密度(質量当たりの充電量)をリチウムイオン電池より高くできる可能性があります。また、固体電解質や電極の性質から充電時間が数分程度(リチウムイオン電池は数十分~数時間)と、ガソリンスタンドでの給油並みに短くできる可能性があります。
また、別の大きなメリットとして安全性があります。リチウムイオン電池と比べ、燃えにくく液が漏れず、劣化によるショートなどが発生しないという、人の命を預かる自動車にとって非常に重要な安全性を備えることができると期待されています。

課題
開発の第一人者である大阪府立大・辰巳砂昌弘(たつみさごまさひろ)教授によると以下のような点が解決すべき課題とのことです。

  • 硫化物を基礎とした固体電解質は大気に対して安定せず、水蒸気を含んだ空気に触れると硫化水素が発生して危険である(製造場所を乾燥させる必要がある)
  • 充放電時には電極が膨張・収縮するため、固体である電解質が電極に十分接触する方法を考える必要がある
  • 硫化物に代わる酸化物固体電解質の研究

4.日本の役割
この全固体電池の開発は日本が圧倒的にリードしているとのことですが、欧米や中国でも急速に開発が進んでいます。特に米国や中国は、日本と異なり巨大な市場と比較的緩やかな規制を基礎に、自動運転のような実証実験を行うのに有利な環境にあります。このため、現在優位にある日本もうかうかしていられません。
現在のペースで開発が進めば5年で実用化できるとの見込みだそうですが、おそらくもっと早い完成や普及が実現されるのではないかと考えています。

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NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)
「EV用バッテリーの技術シフトの想定」より

 

セカンドオピニオン歓迎

セカンドオピニオンとは

「セカンドオピニオン」とは、元々医療の世界の言葉です。具体的には、「治療や手術などの方針について現在かかっている医師とは別の医師の意見を聞き、参考にすること」を言います。
医師とて全てにパーフェクトではありませんし、注意を尽くしていても見逃しや診断の誤りはあり得ます。このため、別の医師の意見を聞くことも時には必要なのです。
但し、その場合でも「ファーストオピニオン」、要するに担当医の意見はまず大事にすべきです。医療を受ける側は、症状などが悪いほど自分の願望に応じて都合の良い意見を求める(「オピニオンショッピング」と言います)ことがあるからです。

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※医療におけるセカンドオピニオンについては、例えば東京都福祉局のWEBページにわかりやすい説明があります。

税理士事務所のセカンドオピニオン
税理士事務所のWEBページ等で「あなたは今の税理士で大丈夫ですか?」や、「こんな税理士は要注意」といった説明を展開し(そこだけなら弊所ブログ「にせ税理士について」と似ています)、さらに他の税理士の業務に対する「セカンドオピニオン」を営業トークにしている事務所を時折見かけます。

セカンドオピニオンとは前述の通り元々医療の世界の言葉ですが、公認会計士や税理士などの専門家業務においても使われることが増えてきました。
要するに「現在依頼している専門家の業務について、他の専門家に依頼して評価、検討する」ことを言います。

このような営業姿勢は、特に若くパワフルな税理士が経営する事務所に多いようです。
しかし通常、元々契約している税理士はこのようなセカンドオピニオンを好まないものです。自分たちの間違い探しをされるような気がしてプライドが傷つけられるからかもしれません。

もう一つ注意すべき点があります。
私も時々関与している金融機関を通じてセカンドオピニオンを求められるのですが、「今の税理士がこんなにダメだから見て欲しい」といった論調が時々見受けられます。
ところが、良く聞くとその税理士が実際にはきちんとしたプロとしての判断や仕事をしておられるのに、依頼主とのコミュニケーション不足で理解されていないだけ、ということが多々あります。そのようなケースにおいては、今の税理士が如何に真っ当な仕事をしておられるかを説明し、もう少しコミュニケーションをとってみてはどうか、とアドバイスしています。

私達のスタンス
さて、私達の事務所は、私達のお客様が他の税理士などのセカンドオピニオンを受けることも「歓迎」しています。
私達の事務所内には、「耕夢」システムを中心として職員教育や業務チェックリスト、相互チェック、トリプルチェック、税務調査対策など品質管理に関する枠組みが設けられています。また最後の砦として、税理士賠償責任保険(税理士が判断を誤って税務上の損失が出た場合に補填する保険)にも加入しています。

しかし、どんなことにも100%の無誤謬はあり得ません。万一そのような場合には、顧客にご迷惑をお掛けすることになりますし、セカンドオピニオンの結果お客様が損失を回避できれば、それは結果としてお客様のためになる良い事なのです。
もちろんそのようなケースがあれば私達は大変恥ずかしい限りなのですが、逆にそのような緊張感の元に自らを置くことで、さらなる業務品質の向上を目指すエネルギーが生まれてきます。

温暖化の危機は藻が救う

長年問題になっている「地球温暖化」は、主に二酸化炭素やメタン、フロンなどによって起きるとされている問題です。
この温暖化を止める方法は様々に議論されてきたのですが、日本の学者さんが起点になって、非常に画期的な技術が出てきました。

それは「藻」を使うという方法です。

この方法、環境問題だけではなく日本のエネルギー問題も一気に解決できる可能性を秘めています。

1.温暖化とカーボンサイクル
長年問題になっている「地球温暖化」は、主に二酸化炭素やメタン、フロンなど、炭素化合物からなる気体が増えることによって起きるとされている問題です。
これらの気体は総称して「温室効果ガス」と呼ばれ、温室のビニールカバーに似た機能を果たしています。

太陽から地球に降り注いだ光のうち、温度上昇に最も効果のある赤外線は、大気がなければ地表で反射してもう一度宇宙空間に出てしまいます。しかしこれらのガスは赤外線を吸収してしまう特性を持っているので、太陽光からくる熱が大気中に留め置かれることになるのです。

ニュースを見ると温暖化が悪いように言われていますが、これがなければ地球に多様な生命が存在できる環境にはなりません。昼側はまだしも、夜側は温室効果ガスによる保温が効かず、少なくともマイナス何十度という寒さとなり、温暖化より悲惨な環境になってしまうと言われています。

温暖化の問題は、この効果が行き過ぎるために発生します。元々地球は大気中の二酸化炭素等の濃度をある程度一定に保つサイクルを続けていました。例えば、生物の活動により発生する二酸化炭素を植物が吸収し、この植物を生物が食する、というサイクルです。このサイクルは様々なものがありますが、基本的に全て炭素化合物であることから、総称して「カーボンサイクル」と呼ばれています。カーボンバランス

2.化石燃料はカーボンサイクルを壊す
ガソリンなどの燃料や化学製品等の原料となる「原油」や「石炭」、「天然ガス」は、元々太古に枯れて堆積した植物が、長い年月をかけて地価の圧力や熱を受けて変化したものから出来ています。その生成過程は化石と似ているため、原油は「化石燃料」とも呼ばれています。

この化石燃料、何億年も前の植物がその時代の二酸化炭素を吸収してできたものですから、今これを燃やせば、過去の二酸化炭素が現代に放出されることになります。

冒頭で書いた自然なカーボンサイクルがその時代の二酸化炭素の量を大きく変えることはありませんが、化石燃料を使うと「ため込んだ時点」と「使う時点」がずれていることから、そのサイクルを大きく変えてしまう可能性があるのです。

そうなると、バランスを崩したカーボンサイクルは温暖化を加速し、その温暖化が、様々な場所に固定されている二酸化炭素を放出させたり、吸収してくれる森林を滅ぼしたりすることで、人間がコントロール不能なほどの暴走を起こしてしまう可能性もあります。

一時期原油はもう採掘できなくなると言われていましたが、シェール革命などによりまだまだ採掘・使用は続いています。温暖化が行き過ぎるリスクはまだまだ残っている訳です。

3.藻の利用
このような問題を防ぐには、カーボンサイクルを安定して回せればよいと誰でも気づくと思います。要するに、「使った分と同じだけ吸収・固定」すれば、バランスが壊れないのです。

ということで、深海に二酸化炭素を送り込んで固定する方法や、地中に保存するなど様々な方法が試みられては来たものの、いずれも決定打ではなく、しかも化石燃料の使用継続が前提となっている点で問題でした。

ところが、渡邉信教授という日本の学者が、非常に面白い「藻」を発見したことから、この問題はちょっと違った様相を呈してきました。この藻(オーランチオキトリウム)は、なんと太陽光と有機物から化石燃料とよく似た油を生成することが出来るのです。

元々藻の一部は油を作り出す力を持っているのですが、このオーランチオキトリウムは非常に高い能力を持っています。また成長スピードも非常に高いため、限られた場所でたくさんの油を作ることが出来るのです。

例えば、下水等の有機排水にこの藻を投入し、水を浄化するとともに藻は有機物から油を作る、また油を精製した後の藻は加工して飼料にするなどの有効活用が可能になります。

藻の利用例
筑波大学 渡邉信教授の研究スライド(藻類バイオマス利用の研究開発)より

まだ実験段階ではあるものの、一定の設備や休耕田の活用など環境が整えられれば、なんと日本国内だけで必要な原油に相当する油を作り出すことが出来るほどのポテンシャルがあるそうです。

そうなると、「今ある二酸化炭素を使って作った油」は、今燃やしても二酸化炭素を大きく増やすことはなく、カーボンサイクルをバランスよく保つことが可能になるのです。

なおこの油は基本的に原油の成分と同じで、燃料だけではなくプラスチックの原料等としても使用が可能だとか。

エネルギー問題と環境問題を一気に解決し、ひいては「常にエネルギー問題に左右される」日本の安全保障の立ち位置をも変えるポテンシャルのある「藻」の技術、一刻も早く実用化されて欲しいものです。

4.原子力との関係
元々、原子力は温暖化問題の救世主といった立ち位置で注目されていたように思います。
しかし、震災による事故を除いても、一つ大きな問題があるのです。

太陽光はもちろん、化石燃料、風力、水力、潮汐力といったエネルギー源は、結局全てが現在または過去の太陽エネルギーを基礎にしています。

ところが、原子力だけは太陽エネルギーが一切関係していないのです。

原子力を扱うことの難しさは、大震災や津波によって技術者でない人たちにも痛みをもって理解されたと思います。
太陽があれほど遠くにあり、しかも大きなエネルギーを地球に送ってくれていることは、それなりに合理的な意味のあることだったのではないかと感じています。

今年の年末調整は大変!(改正とその他のお話)

今年も年末調整の季節がやってきました。
ここ数年「新元号」「配偶者控除の改正」やそれに伴う用紙の変更などがあり毎年注意点が多かったのですが、今年はさらに永年大きく変わらなかった論点(基礎控除や給与所得控除)にまで改正がある大変な年になります。
改正論点を中心にわかりやすく解説しますので、経営者や給与担当の方は是非早めに手続きのスタートを、また働く皆さんはできるだけ早めに資料の提出をしましょう。

1.年末調整とは
年末調整とは、年末に在籍している役員・社員を対象として、毎月の給与や賞与から「天引き」(源泉する、といいます)されている所得税を、年末に精算する手続きのことを言います。
この精算が必要な理由は、主に以下の通りです。

  • 所得税の計算は年末時点を基準にしているものがほとんどで、年末にならないと状況が確定しない
  • そもそも、毎月の給与や賞与から計算されている税額は「仮計算」でしかなく、年末までの支給額を確定しないと正確には税金が計算できない

年末調整2020
年末調整の流れ(国税庁「年末調整のしかた」より)

実はこの年末調整、上のフローチャートをご覧頂くとわかる通り、皆さんが記載される面倒な用紙(扶養控除等申告書、基礎控除申告書、配偶者控除等申告書、所得金額調整控除申告書、保険料控除申告書、住宅ローン控除申告書)の作成はプロセスのほんの入り口なのです。そして実はその後の手数が非常に面倒なため、会社側(特に人事部や経理部)には結構負担がかかっています。

このため、遅れたり督促されたりした場合に担当の方が不満な顔をしていても、ただでさえ面倒な手続きをさらに遅らせているわけですからわからないでもありません。
その入り口となる書類についてはできるだけ誤りや抜けのないよう、期限までに必ず出すよう協力してあげましょう。

2.令和2年から適用される改正一覧
今年(令和2年)から適用される改正は、以下の通りとなっています。

  • 給与所得控除の引き下げ
  • 基礎控除の引き上げ
  • 所得金額調整控除の創設
  • 配偶者控除、扶養控除などの合計所得金額要件の見直し
  • 未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦(寡夫)控除の見直し
  • 電子手続

3.給与所得控除の引き下げ
給与については、支払いを受けた給与額から、給与額に応じて変動する一定額を差し引いた金額に税金をかけることになっています。この「差し引く一定額」を給与所得控除と言います。
この給与所得控除の計算表が、下記の通り改正されています。

給与所得控除改正
給与所得控除の改正

 この表は慣れないとわかりにくいのですが、給与収入が増えるに従って、少しずつ給与所得控除額が増えるように作られています。
改正前後を比べてみると、給与収入が850万円までは給与所得控除が10万円減少し、その後は25万円まで減少幅が広がるように改正されています。
その分所得税が増えることとなりますが、後で説明する基礎控除の改正、所得調整控除の創設により一部増税の影響を打ち消すこととしています。

4. 基礎控除の改正
所得には全て税金がかかるわけではなく、「基礎控除」と呼ばれる最低ラインが設けられています。この基礎控除については、長い間どんなに所得の高い人であっても適用がなされてきたのですが、下記の通り合計所得金額2,500万円を超える方についてはとうとう適用がなくなってしまいました。
他方、2,400万円以下の所得者については10万円増額されています。

基礎控除改正
基礎控除の改正

この金額を計算するため、従来の年末調整書類に加え「給与所得者の基礎控除申告書」という用紙に記入の上提出する必要があります。

 5.所得金額調整控除の創設
その年の給与の収入金額が850万円を超える所得者で、
①特別障害者に該当する人
②年齢23歳未満の扶養親族を有する人
③特別障害者である同一生計配偶者を有する人
④扶養親族を有する人
の総所得金額を計算する場合には、給与の収入金額(但し1,000万円が限度)から850万円を控除した金額の10%に相当する金額を、給与所得の金額から控除することとされました。

この金額を計算するため、従来の年末調整書類に加え「所得金額調整控除申告書」という用紙に記入の上提出する必要があります。

6.配偶者控除、扶養控除などの合計所得金額要件の見直し
いわゆる「扶養の対象」である、同一生計配偶者、扶養親族、源泉控除対象配偶者、配偶者特別控除の対象となる配偶者及び勤労学生の合計所得金額要件がそれぞれ10万円引き上げられ、次の表のとおり改正されました。これは、基礎控除の最低限度が4.の通り引き上げられたことに関係したものです。

扶養所得条件改正
配偶者控除・扶養控除合計所得金額改正

 7.未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦(寡夫)控除の見直し
配偶者と死別したり離婚して未婚のままであったり、扶養家族や子供がいる人、所得が一定の額以下の人を所得税法上「寡婦」や「寡夫」(両方とも「かふ」)と呼び、その条件に応じて課税所得が控除されることになっています。この制度、従来は女性の要件が少し広くなっていたり、全ての要件を満たす女性は控除額の割り増しがあったりと、男女差のある制度となっていました。
また、この制度の適用があるのは「民法上の婚姻関係にある者」に限られ、未婚のひとり親については対象となっていませんでした。
令和2年の改正においてはこの点が見直され、「ひとり親控除」と新しい「寡婦控除」制度に再編されました。
この改正については、別のページ ひとり親控除(令和2年 税制改正) において詳しく解説しています。

8.年末調整の電子手続
元々、「保険料控除申告書」や「住宅ローン控除申告書」を従来は書面(ハガキ等)で添付していた保険料控除証明書等は、保険会社等から送られる控除証明書等の電子データで提出することができることになりました。この手続を可能にするため、年末調整手続において、これらの電子発行された控除証明書等データ提出するための「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア」(以下「年調ソフト」が無償提供されています。
年末町営の電子申告イメージは下記の通りです。

年調電子化

 

なお、従業員から年末調整申告書に記載すべき事項を電子データにより提供を受けるためには、勤務先があらかじめ所轄税務署長に、「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、その承認を受ける必要があります。この申請書を提出した月の翌月末日までに税務署長から承認又は承認しないことの決定の通知がなければ、この申請書を提出した月の翌月末日に承認があったものとされていますので、例えば12月から年末調整手続の電子化を行う場合には、念のためこの10月末までには申請書を提出しておく必要があります(10月提出→決定通知がない場合には翌月、すなわち11月末日に承認があったものとみなされる→12月から利用可能)。

 

9.その他以前からの年末調整注意点 (改正で説明した書類を除く)
①扶養控除(異動)等申告書

年末調整においては最も一般的な様式で、要するに「年末時点での扶養家族について書く」書類です。しかしこの様式は意外と重要で「(仮に記載すべき扶養家族がなかったとしても)提出しなければあなたの毎月の源泉所得税額を非常に大きな率で計算しなければならなくなります。
なお年末時点の扶養家族状況はすなわち年明けの状況なので、それを考えて来年用(今年なら「令和3年用」)の用紙に記載してもらいます。

②配偶者控除等申告書の書き方
年末までの「本人と配偶者の所得見積額」を記載します。
配偶者控除、配偶者特別控除が前回の改正で廃止され「103万円」の制限がなくなったため、より複雑になっています。なお、年末までに実績が見積額と変わった場合は、翌年1月(源泉税の納付や源泉徴収票の提出)までは会社が訂正するか、または自分で確定申告が可能です。

③保険料控除申告書
保険料控除申告書は、生命保険料、地震保険料、社会保険料(国民年金や健康保険料)、小規模企業共済などを自分で支払っている時に記載します。また受取人が配偶者や親族となっている生命保険料や、生計を一にする親族の家屋を対象にした地震保険料が含まれます。
この控除証明書を提出する際には、証明書の添付、特に生計を一にする親族の国民年金支払証明書を忘れないようにしましょう。また、控除証明書に記載してある区分(生命保険の一般、個人年金、介護や地震保険の地震、旧長期など)についても十分注意して記載しましょう。

④住宅ローン控除申告書
正式には「住宅借入金等特別控除申告書」と言います。
ご存知の通り、この制度は住宅ローンを借りて家を購入した場合、数年に渡って住宅ローン残高の一定割合を所得税から控除してくれる制度です。しかし、1年目は必ず確定申告で手続きしなければなりませんので注意して下さい。

自己株式取引における「時価」の考え方(弁護士・会計士・税理士向け)

株式会社が自己の発行する株式を株主から買い取ることがあります。
上場会社の場合株価対策や株主への還元を目的とすることが多いですし、非上場会社の場合は筆頭株主支配の強化、相続人からの買取による株式分散の防止、組織再編などの目的が多いようです。
今回は、この株式を買い取る際の「時価」の考え方について説明します。
この記事は専門性が高いため、内容は会計士や税理士といった会計専門家、また弁護士などの法律専門家に向けて記載しました。

株式をそれぞれの発行会社が買い取る(自己株買取)際には、その取引価格をどのように決定するかが問題となります。特に、当該取引は同族関係者間での取引ですから経済合理性に基づかない価格が設定されると課税上の問題が発生する恐れがあります。
これに加え、完全支配関係下(100%支配グループ内)における取引の場合には、グループ法人税制の適用が想定されますので、この論点にも注意する必要があります。
以下、上記を踏まえて自己株式を取引する場合(非上場会社)の時価の考え方について説明します。

1)法人間における非上場株式取引
法人対法人で非上場株式を譲渡する(自己株式ではない)場合、一般的には相続税の申告において株式の時価評価に使用する「財産評価基本通達」の178から189-7にある方式を「課税上弊害が無い限り」一部修正して計算するのが原則です。この場合の時価を「法人税法上の時価」と呼びます。この場合、譲渡後の議決権割合を基として計算方法が決定されます。議決権を基礎とするのは、株式会社においては議決権割合こそが会社を支配する力を表すからです。

2)グループ法人税制適用外における自己株式取引
ところが、自己株式の取引に関して上記1)を厳密に適用すると、議決権の数は0として規定されている(財産評価基本通達188-3)自己株式を取得した場合、最も評価の低い「配当還元方式」で評価されるべきという考え方となってしまいます。
しかし、通常の取引において十分な価値を持つ株式の場合、自己株だからといって非常に評価の低い金額で取引しても問題がないと言い切ってしまうのも問題があるため、「譲渡前の議決権数」を基礎として1)を適用する考え方が(理論的には完全ではないものの)実務的には多く使われているようです。
なお、自己株式取引において低額譲渡(時価とされる金額より低い価格で取引)の問題が発生した場合、譲渡側の法人には寄附金課税が見込まれるものの、譲受法人にとっては資本取引の為、受贈益課税が発生しないと考えられています。

3)グループ法人税制適用下の取り扱い
さらに、グループ法人税制適用下においては、自己株式の譲渡損益が資本金等の額に加減算され、課税所得に算入されないことになりました(平成22年改正税法)。また、グループ法人税制適用下においては、自己株式取得に伴って発生するみなし配当(株式を買い取る場合、資本にあたる部分以外を配当支払とみなす)も全額が益金不算入となります。
また、グループ法人税制適用下の寄附については、税務上なかったものとみなされ、支出法人側で損金不算入、受取法人側で益金不算入とされます。但し、この取扱いが適用される寄附金と受贈益は、一方の法人において寄附金となり、他方の法人において受贈益となるものに限られます(法法25の2①括弧書き、37②括弧書き)。このため、一方の法人においてのみ寄附金の額が発生し、他方の法人においては受贈益の額が発生しないというようなもの(前述)で発生する譲渡法人の寄附金課税)に関しては、この取扱いは適用されず、一般的な寄附金課税となると考えます。

オンライン忘年会の費用を会社が払ったら?

新型コロナウイルス感染症は、ビジネスや観光、日常生活といったあらゆる分野に大きな影響を与えています。
中でも著しい影響を受けているのが、「人が集まる機会」です。
飲み会やパーティ、ライブ、スポーツなどのイベントにはたくさんの人が密な空間に集まりますので、どうしても感染可能性が高まってしまいます。
このため、多人数での飲食を禁止している会社も多いと思います。

1.オンライン飲み会
そんな中注目を浴びているのが「オンライン飲み会」です。
オンラインミーティングの機能を使って皆がバーチャルに顔を見ながら、それぞれが自宅などに用意した食事や飲料とともに会話を楽しむという、まさに新しい常識(ニューノーマル)を象徴するような機会です。

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2.イベント費用の会社負担
新型コロナウイルスが問題となるまでは、会社は従業員間の親睦をはかって一体感を高めるために、リアルな飲み会、食事会といったイベントを普通に開催してきました。特に年末になるとほとんどの会社が「忘年会」を開催し、皆で一年間の頑張りを慰労する機会を設けていました。
この忘年会、会費制の場合もありますが多くの会社は一部又は全部を会社が「福利厚生費」として負担しています。これは、前述の通りこのようなイベントが会社の円滑な運営の為必要ということがその理由です。
そのため、税法も

  • 専ら従業員の慰安のために行われるイベントのため通常要する費用
  • それらが社会通念上一般的に行われていると認められるイベントであること

であれば、「課税(※)しない」スタンスを採っています。
但し、そのイベントに参加しなかった役員又は使用人(業務のため参加できなかった者を除く)に対しその参加に代えて金銭を支給する場合や、役員だけを対象としてイベントの費用を負担する場合には課税されることとなっています。

※今回のブログに言う「課税」には、法人税や所得税における課税が含まれますが、その内容については説明を簡単にするため省略します。

 3.オンライン飲み会の費用補助
では、オンライン飲み会でそれぞれの参加者が必要とする食事や飲料に充てる費用を会社が負担した場合にはどうなるでしょうか。
まず、元からある「イベント費用を会社が負担した場合」に課税されないための条件は満たしている必要があると思います。
すなわち、①専ら従業員の慰安のために行われるイベント、であり、②そのために通常要する費用(高すぎないこと)、そして③そのイベントが社会通念上普通のものであること、という条件になります。

オンライン飲み会は、コロナ禍前には一般的ではなかったかもしれませんが、現在の「新しい社会通念」においてはもう既に普通になっていると思います。
また、飲み会で通常会社が負担している一人当たりの費用より少ない金額であれば、「そのために通常要する費用」として考えても間違っていないと思います。
問題になるのは、それぞれの社員に金銭(金券や電子マネー等金銭同等物を含む)を支給することそれ自体です。
課税されない条件として最も確実なのは、上の条件に加え「実際に参加して係った費用のレシート等を収集し、これについて会社から補助を行うこと」です。このことで、法人税、所得税は課税されません。またついでながら消費税も控除の対象になると思います。

ただ、たくさんの社員からいちいち細かいレシートを取得し、精算するというのも面倒なので、社員全員へ一律に一定額を支給するというケースもあり得るでしょう。このような場合、参加しなかった者への参加に代えて支給する金銭や、実際に要した金額を大きく超える場合については、その支給する金銭は課税されることになると思います。

この論点はまだ非常に新しく事例も少ないので、法令や現在の取り扱いに照らしながら考えてみました。参加した者に対する実費を精算することが一番安全ですのでまずはその方法をお勧めしますが、その他の方法の場合は、顧問税理士などに十分ご相談の上実施されるのが良いと思います。

印紙税なんていらない

「印紙」や「収入印紙」という言葉は皆さんご存知と思います。
この印紙、一般の方がよく目にするのは、高額な領収書を受け取る時くらいでしょうか。
この印紙、正式には印紙税と呼ばれる税金の一種です。
様々なビジネスで登場する印紙税とその歴史や今後について説明します。

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1.印紙税とは
印紙については「印紙税法」という法律が定められています。
この印紙税法によると、印紙は次の通りの税金であるとされています。

印紙税法第二条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する。

要するに、印紙税法が定める「文書」に課税されるのが印紙税、という訳です。
それにしても、お金や不動産、お酒などに税金をかけるならともかく、「文書」すなわち単なる紙に税金をかけるとはどういった発想なのでしょうか。

2.印紙税の歴史と意義
この理由を紐解くには、歴史を知る必要があります。
元々印紙税は、1600年代にオランダで戦争によって発生した財政危機に対応するため制度化されたものが起源となっています。契約書や領収書、手形・証券・通帳、定款といった「取引やお金に関する文書」はその背後に資金の動きや利益の発生が見込まれることが多く、また経済活動が活発であればたくさんの文書が発生することから、そこから少しずつ徴収する印紙税は、他の税金と比べると、国民に重税感を与えにくいという特徴があり、各国に普及することになりました。

3.印紙税の現在
我が国における現在の印紙税収は、どのような規模なのでしょうか。
国の統計を見ると、平成9年には約1.7兆円の税収だったものが令和元年度で約1兆円と減少しています。しかしこの収入、未だに関税や酒税と同等、また相続税の半分程度ということからまだまだ重要な水準であると言えます。
とはいえ、もともと「お金の動く取引を証明する紙」に課税したものなので、今後証明書類の電子化によってどんどん減っていくはずです。コロナ禍の影響がこれを加速することになるでしょう。

4.税理士と印紙税
さて、私たち税理士は「この文書は印紙税が課税されますか?」というご質問をよく頂きます。
その場合は大体法令に定められた一覧表(国税庁提供のPDF資料が開きます)やその解説を見ながらお答えするのですが、実は「税理士の業務対象として印紙税は含められていない」ことを皆さんはご存知でしょうか。
税理士法には、下記のような条文があり、印紙税は対応業務から明確に外されているのです。

税理士法第二条 税理士は、他人の求めに応じ、租税(印紙税、(略)を除く(略))に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。(略)

5.印紙税あれこれ
①以前は3万円以上の領収書には印紙税を貼る必要がありましたが、現在はこれが「5万円以上」と改正されています。また、カード払いの場合にはその旨が領収書上明記してあれば印紙は必要ありません。
②金銭消費貸借契約書などの契約書は通常2通作って当事者が両方保有しますが、親子会社間など十分な信頼関係や実質的一体性がある当事者間の場合は、1通の原本を作って片方が原本、もう一方がコピーを持つようにすれば原本だけの印紙で済みます。
③印紙を貼り間違えて、印紙税が過大となった場合(不要な文書に貼った場合や金額を過大とした場合)には、「印紙税過誤納確認申請書」に必要事項を記入のうえ、納税地の税務署長に提出することで還付を受けることができます。

 

合併手続の留意点~合併無効とならないために

近年組織再編に関する法整備が進み、合併、分割、株式交換・移転といった組織再編手法が大変使いやすくなりました。
その中でも、昔からよく使われている「合併」については、基本的なM&A手法として大変便利な手法であると言えます。
しかしながら、合併については会社法に規定された手続を正しく進めなければ、それ自体が無効となってしまうリスクがあります。もし無効となった場合、単に手続自体が無駄になるだけではなく、合併を前提に進められている様々な契約や事業活動が全て合併前の状態に戻されるため、甚大な悪影響があります。

今回は、このようなことがないよう、満たされるべき最低限の手続について記載してみました。
※税理士の分野である税法やその他の分野に関してはまた別の機会があれば記載します。

①合併のスケジュール
合併手続はおおよそ下記の通りの手順で行われます。

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これらの合併手続は会社法に規定されており、これらの手続に従わなければ合併を行うことはできません。この手続や登記申請書の添付書類に瑕疵がある場合、合併自体が中断する場合や、のちに合併無効の訴えにより遡って無効となる場合があります。

合併手続が中断、中止する場合はもちろん問題ですが、遡って無効となる場合には、合併を前提に進められている様々な契約や事業活動が全て合併前の状態に戻されるため、甚大な悪影響があります。このため、合併手続が登記まで適切に行われているかどうかについて、下記の手続を中心に十分注意する必要があります。

②合併契約の締結
合併契約には、消滅会社の株主に交付する対価や効力発生日など、法律で定められた事項を漏れなく決定しなければなりません。合併契約には法定の必須事項があり、この必要事項を欠くと合併の無効原因になります。また合併契約書は合併登記申請における添付書類となります。

③合併に関する書類の事前備置
存続会社および消滅会社は、株主や債権者が合併の適否や合併無効の訴え提起を判断できるよう、合併契約や当事会社の計算書類など一定の書類を本店に備え置かなければなりません。備え置く期間は合併の効力発生日後6ヵ月を経過するまでです。

④債権者保護手続
存続会社および消滅会社は、債権者に対して合併に異議があれば一定期間内に申し出る旨を官報(一定の場合は日刊新聞紙、電子公告)で公告しなければなりません。異議申出の期間は1ヵ月以上必要です。

⑤株主の株式買取請求
存続会社および消滅会社は、合併の効力発生日の20日前までに株主に対して合併する旨の通知(一定の場合は公告)をしなければなりません。

⑥株主総会による合併契約の承認
合併契約は、合併の効力発生日の前日までに存続会社および消滅会社の株主総会で特別決議による承認を受ける必要があります(但し簡易合併、略式合併の場合は、原則として株主総会による決議を省略できます)。

⑦登記・財産等の名義変更手続
存続会社の代表者は、合併の効力発生日から2週間以内に、存続会社の変更登記と消滅会社の解散登記をする必要があります。また、消滅会社の権利義務はすべて存続会社に移転するため、預金、土地および建物など、消滅会社の名義になっている財産等については存続会社への名義変更が必要です。

⑧合併に関する書類の事後備置
存続会社は消滅会社より承継した権利義務や合併手続の経過等を記載した書類を作成し、効力発生日から6ヵ月間本店に備え置かなければなりません。

⑨手続瑕疵の影響
上記の手続に瑕疵(かし 欠陥のこと)があった場合には手続の無効原因となり得ますが、その瑕疵が重大でない場合でも必ず合併が無効となるわけではありません。瑕疵が発見された場合には、合併手続に詳しい弁護士、司法書士などの専門家から無効性について意見を聴取した上で対処を判断する必要があります。