月別アーカイブ: 2013年5月

あなたは必ず騙される ~ ポンツィ・スキーム研究(4/5)

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3)本事件の登場人物
前回まで、AIJ事件のあらましを説明してきました。これを受けて今回は、この事件の首謀者を中心とした登場人物たちのプロフィールについて触れてみたいと思います。このコラムの次回で説明する予定ですが、「ポンツィ・スキーム」を理解する上でこの「登場人物たちの特質」は非常に重要です。

①浅川和彦代表取締役

まずは「首謀者」と言われる浅川和彦代表取締役です。
AIJ社長の浅川和彦氏は横浜市立大学卒業で、75年に野村證券に入社。個人営業部門で実績を積み上げてきた実力派で、「伝説の営業マン」と呼ばれていたそうです。

そんな実力の助けもあり京都支店営業次席、熊本支店長と出世階段を順調に上っていったのですが、ある時突然退社しています。バブル崩壊の影響で、個人的な投資に失敗し借金を抱えたためといわれていますが、真偽のほどは不明です。

その後浅川氏は、外資系の米ペイン・ウェーバーを経て96年頃に歩合外務員として一吉証券に移籍、営業マンとして抜群の成績をあげ、個室と秘書を与えられるという破格の待遇を受けています。なんとその際の女性秘書が、次に説明するAIJの高橋成子取締役でした。

最終的に浅川氏は独立、AIJの前身の投資顧問会社(エイム・インベストメント・ジャパン)を買い、2004年ごろから企業年金を扱うようになりました。

周囲が話す浅川氏の人となりは、以下のようなものです。

  • 言葉巧みで負けず嫌い→元同僚「好きなマージャンでも、負ければ朝までやって取り返そうとした」
  • 断定的な物言いをし、リスクを説明しない古典的営業スタイル
  • 商品性を説明して納得してもらうというより、トップセールスマン特有の「人柄で契約してもらう」というもの典型的な野村の営業マン。人あたりがよくお調子者。「証券マンは普通7時には出社するんだよ!」
  • 贅沢な生活ぶり→東京・六本木の高級マンションに住居を構えており、毎日毎日社員に食事をおごるなど羽振りの良さ
  • 高額納税者番付に掲載

②高橋成子(しげこ)取締役

次は浅川氏の側近中の側近、高橋成子取締役です。高橋氏の経歴は下記の通りです。

  • 東京出身で、大手証券会社で投資信託を販売していた
  • 浅川社長がペイン・ウェーバー証券の時代に知り合う
  • 浅川社長が一吉証券に転職したのち秘書となる
  • 浅川社長のAIJ社長就任とともに同社取締役就任
  • AIJの資金や実印等を預かり、経理を中心として実務全般を任せられていた。浅川氏が使う経費などのチェック役
  • 平成17年2月から19年6月まで旧社保庁OB・石山勲氏の東京年金経済研究所の役員も兼務
  • AIM Investment Advisors Ltd取締役
  • 浅川社長の指示に従って、虚偽の運用報告書を作っていたとされる。
  • 役員報酬は月額350万円。高額の報酬は、口止め料の意味もあったらしい。
  • 証人喚問の予定だったが、病気(うつ)によって拒否

③松木新平取締役

浅川氏以外にも、元野村証券の大物が関与していました。

  • 元野村證券常務→浅川社長の野村証券における大先輩にあたる
  • 大物総会屋「小池隆一への利益供与事件」(平成9年5月)で、野村證券の酒巻社長・藤倉常務と共に逮捕され、懲役8月(執行猶予3年)の刑を受けた
  • 兵庫県の県立篠山鳳鳴高校を卒業、野村証券に入社。「最後の高卒社員」
  • 現場一筋のたたき上げで、大阪証券取引所で顧客の注文を場につなぐ『場立ち』をやったこともある
  • 東京に転勤後は外資系の金融機関などに転換社債を販売することで営業力を発揮した
  • 野村時代相場動向の詳しい情報提供や、値上がりする株がよく当たる人物として有名だった→この知名度がAIJにおいても資金獲得に貢献していた?

④西村秀昭社長

AIJの「販売部隊」として活躍したのがアイティーエム証券です。この西村社長は証人喚問において「運用については知らなかった」と述べ、議員から「あなたは被害者か加害者か」と問われると「どちらかというと被害者」と回答しています。この答弁には強い反発がありましたが、再度問われた際には「販売に関しては責任があり、そういった意味では加害者だと思う」と訂正したものの、不正への関与は否定しています。

  • 1955年:東京都生まれ。
  • 1979年:山一証券入社
  • 1985年:山一オーストラリア シドニー支店株式部長
  • 1989年:同メルボルン支店長 主に政府機関の債券発行やM&A(企業吸収・買収)で活躍。
  • 1992年:山一證券本社外国法人部課長、
  • 1994年同事業法人部次長。 欧米大手ヘッジファンドの日本証券営業や大手企業のファイナンス・資金運用等を担当。
  • 1998年1月:退職、アイティーエム証券(今回の事件においてはAIJの営業部隊にあたる)の設立準備へ。
  • 1998年6月:アイティーエム証券を設立。(山一OBを集め設立)

⑤石山勲氏

この問題には、社会保険庁のOBも関係しています。
大半の被害は厚生年金基金に集中していますが、それぞれの厚生年金基金の常務理事はほとんどが社会保険庁のOBのいわゆる天下りでした。これらの役所のOK同士はお互いに信頼することも多く、特に先輩後輩の間柄は非常に話のしやすい関係だったと思います。そしてこれらの理事はAIJの販路拡大にも関与しています。例えばこのような理事が「遠く離れた他県にまで出向き、AIJの採用を働き掛けたこともある」とも言われています。

石山氏とAIJとの関係は、以下の通りです。

  • 都内の年金基金(常務理事)に天下り(このとき浅川社長と知り合う)
  • 2004年に年金コンサルタント会社を設立(千葉県)、この会社の取締役には高橋成子氏も就任している
  • AIJと顧問契約(契約料:年間数百万円)
    セミナー開催、社保庁OBの年金基金への天下り組を参加させ、紹介や勧誘(接待攻勢)による営業活動を行っていた
  • AIJとの顧問契約は数年前に解消したと本人は述べているが、実際は年金コンサル会社の運営をAIJに任せていた。
  • 愛知県は特に石山氏の社会保険庁での最後の赴任地で、大勢の後輩が年金基金の現役幹部として働いていることから、被害が大きかった。

⑥萩原和男氏

同業者としては残念ながら、この事件には最悪の形で公認会計士が関与していました。事件発覚当初は、新聞などに荻原氏の名前や関与度合いが余りでなかったためセミナーなどでは名前を伏せていたのですが、後述の通り金融庁から懲戒処分を受けてしまっています。本来最後の砦であるべき監査報告書を改ざんするという関与は、首謀者に勝るとも劣らない重大性を持っていると思います。


平成25年4月26日
金融庁

公認会計士の懲戒処分について
公認会計士が行った下記の行為について、公認会計士法(昭和23年法律第103号)に違反すると認められたことから、本日、同法第31条第1項の規定に基づき、下記の懲戒処分を行いました。

1.処分対象 公認会計士 萩原 和男 (登録番号:第6734号 住所:東京都中央区)
2.処分内容 登録の抹消
3.処分理由 萩原和男公認会計士は、AIJ投資顧問株式会社(以下「AIJ」という。)の社長の依頼を受けて次の(1)から(3)までの行為を行った。この事実は、公認会計士法第26条に規定する信用失墜行為の禁止に違反すると認められる。
(1)当該公認会計士は、AIJが運用する外国投資信託AIMグローバルファンド(以下「ファンド」という。)の平成20年3月期から平成23年3月期までの4期について、虚偽の基準価額に基づくファンドの運用報告書を作成した。
また、真正なファンドの決算書に対してファンドの監査人が作成した監査報告書について、限定付適正意見を無限定適正意見へと書き換えるなどの改ざんを行い、これを当該運用報告書に添付した。
特に、平成21年3月期については、AIJの顧客である1つの企業年金基金へ交付されることを知りながら当該運用報告書を作成した。
(2)当該公認会計士は、ファンドの個人顧客であることは知らなかったものの、その者に提示されることを知りながら、ファンドの監査人が作成した平成22年3月期のファンドの監査済決算書について、虚偽の基準価額に基づくファンドの運用報告書と内容が一致するように改ざんを行った。
また、この際、当該監査済決算書に含まれる監査報告書について、限定付適正意見を無限定適正意見へと書き換えるなどの改ざんを行った。
(3)当該公認会計士は、当該公認会計士が経理を担当していたファンドの管理会社であるAIMインベストメントアドバイザーズリミテッド(以下「AIA」という。)の平成22年3月期の決算において、銀行から受領した預金元帳や入出金伝票などの証憑の改ざんを行うなどして、本来AIAの管理報酬ではない約6億円を不正に売上計上し、約3億2,800万円の利益を過大計上する不正経理に協力した。

以上

最終回(5/5)は、「ポンツィ・スキームの分析」についてご説明します。これまで説明した事件や、その登場人物、だまされる側の特徴などを分析し、ポンツィ・スキームに引っかからないための方法について述べる予定です。

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平成25年税制改正における事業承継税制の改正

平成20年5月、「中小企業における経営の承継の円滑に関する法律」が成立しました。

この法律は、日本全体の雇用の約70%を支えている中小企業の経営者が円滑に事業承継でき、結果として雇用が確保されることも考慮して制定されました。

さてこの制度ですが、大きく分けると「遺留分に関する民法特例」、「金融支援」、「相続税の課税についての措置」から構成されています。そして、相続税の課税問題については、平成20年度の税制改正要綱にて、「非上場株式等に係る相続税の納税猶予制度」が平成21年度の税制改正で創設されることが明記されました。 この制度の当初の概要は、以下の通りでした。

  • 会社経営者がその子などに経営権を譲り、同時に株を贈与する場合にはその贈与税を一部納税猶予する
  • 会社経営者に相続が発生した場合、経営を受け継ぐ子などが相続した株式についての相続税の納税は猶予する
  • 上記の贈与税、相続税の納税猶予は、それぞれ一定の条件のもと納付義務が免除される
  • これらの対象となる株式については、遺留分の適用外とすることができる(民法の特例)

しかしながらこの制度、様々な届出や確認など手続が煩雑なこと、また「雇用の8割を5年間維持する」という、経営者の経営判断にとって大きな足かせとなる制限が課されていること、またこれらの要件を満たさなければ「猶予」された税額を、利子税と同時に一括で支払わなければならないという厳しいハードルが置かれており、成立から現在に至るまで適用した経営者は500件余りとあまり多くありませんでした。
実際に私も1件担当しましたが、経営者の現況からみて上記の制約を受けにくい環境にあったため実現しただけで、非常に使いにくい制度であったとの印象を持っています。

そこで、平成25年改正においては主に下記のような改正がなされています。

  • 経済産業大臣の「事前確認」を廃止、事前確認なく制度の利用が可能になった(平成25年4月から)
  • 現在「現経営者の親族」に限られている後継者について、親族外にも適用対象を広げた(平成27年1月から)
  • 5年間毎年の雇用8割維持要件を、「5年間平均」と緩和(平成27年1月から)
  • 利子税負担の軽減(利子税率引き下げ、一定の要件の下で利子税支払免除など、平成27年1月から)
  • 株式の移転時に「役員を退任」する必要があった現制度に比べ、「代表者の退任」と緩和した(平成27年1月から)

これで利用する方が増えるかどうか個人的には疑問が残るのですが、事業承継のための手段が少しでも増え、そして使いやすくなるのは歓迎したい所です。

 

なお、事業承継税制の利用に限らず、事業承継プランを策定、実施するには慎重な検討と十分なプランニング、そして事業承継計画とマッチした中長期経営計画の確実な実施が必須となります。
このようなプロジェクトは「単なる節税対策」ではありません。
ご自身の事業承継をお考えの際は、豊富な知識と経験をもつ専門家(弁護士、会計士、税理士、金融、不動産など)を選任して、後継者のみならず親族外のリーダー層(現、次世代)まで含めたプロジェクトチームの編成を強くお勧めします。