平成25年税制改正における事業承継税制の改正

平成20年5月、「中小企業における経営の承継の円滑に関する法律」が成立しました。

この法律は、日本全体の雇用の約70%を支えている中小企業の経営者が円滑に事業承継でき、結果として雇用が確保されることも考慮して制定されました。

さてこの制度ですが、大きく分けると「遺留分に関する民法特例」、「金融支援」、「相続税の課税についての措置」から構成されています。そして、相続税の課税問題については、平成20年度の税制改正要綱にて、「非上場株式等に係る相続税の納税猶予制度」が平成21年度の税制改正で創設されることが明記されました。 この制度の当初の概要は、以下の通りでした。

  • 会社経営者がその子などに経営権を譲り、同時に株を贈与する場合にはその贈与税を一部納税猶予する
  • 会社経営者に相続が発生した場合、経営を受け継ぐ子などが相続した株式についての相続税の納税は猶予する
  • 上記の贈与税、相続税の納税猶予は、それぞれ一定の条件のもと納付義務が免除される
  • これらの対象となる株式については、遺留分の適用外とすることができる(民法の特例)

しかしながらこの制度、様々な届出や確認など手続が煩雑なこと、また「雇用の8割を5年間維持する」という、経営者の経営判断にとって大きな足かせとなる制限が課されていること、またこれらの要件を満たさなければ「猶予」された税額を、利子税と同時に一括で支払わなければならないという厳しいハードルが置かれており、成立から現在に至るまで適用した経営者は500件余りとあまり多くありませんでした。
実際に私も1件担当しましたが、経営者の現況からみて上記の制約を受けにくい環境にあったため実現しただけで、非常に使いにくい制度であったとの印象を持っています。

そこで、平成25年改正においては主に下記のような改正がなされています。

  • 経済産業大臣の「事前確認」を廃止、事前確認なく制度の利用が可能になった(平成25年4月から)
  • 現在「現経営者の親族」に限られている後継者について、親族外にも適用対象を広げた(平成27年1月から)
  • 5年間毎年の雇用8割維持要件を、「5年間平均」と緩和(平成27年1月から)
  • 利子税負担の軽減(利子税率引き下げ、一定の要件の下で利子税支払免除など、平成27年1月から)
  • 株式の移転時に「役員を退任」する必要があった現制度に比べ、「代表者の退任」と緩和した(平成27年1月から)

これで利用する方が増えるかどうか個人的には疑問が残るのですが、事業承継のための手段が少しでも増え、そして使いやすくなるのは歓迎したい所です。

 

なお、事業承継税制の利用に限らず、事業承継プランを策定、実施するには慎重な検討と十分なプランニング、そして事業承継計画とマッチした中長期経営計画の確実な実施が必須となります。
このようなプロジェクトは「単なる節税対策」ではありません。
ご自身の事業承継をお考えの際は、豊富な知識と経験をもつ専門家(弁護士、会計士、税理士、金融、不動産など)を選任して、後継者のみならず親族外のリーダー層(現、次世代)まで含めたプロジェクトチームの編成を強くお勧めします。