月別アーカイブ: 2025年5月

頂き女子りりちゃん

まだ記憶に新しい「頂き女子りりちゃん」事件。
様々なメディアで取り上げられ、その後の話題にも事欠かないこの事件は、表面上は「単なる恋愛詐欺事件」に見えるかもしれません。
しかしその実態は驚くほど緻密かつ完成度の高い、新種の不正としての特性を完全に備えています。

風俗嬢として働いていた「りりちゃん」は、男性顧客の心を掴み、弱者を演じることで信頼を得た上で、「闇金に追われている」「死にたい」などと精神的危機を訴え、金銭を引き出す技術を体系化。それを「魔法マニュアル」と称し、他の女性にも販売していました。そのマニュアルを使い、名古屋市の女子大生が複数の男性から計1000万円以上を詐取したことが発覚し、「りりちゃん」自身も詐欺幇助と詐欺の罪で逮捕。最終的には懲役8年6ヶ月、罰金800万円の有罪判決が確定しました。

このマニュアルにおいて驚くべきポイントはいくつかあります。

①高度に完成された「心理操作技術」
構成は大きく三段階――信頼関係の構築、金銭引出しの会話術、そしてアフターケア――に分かれており、ターゲットの感情を計算し尽くして制御する内容になっています。

②フィルタリングの巧みさ
彼女は“おぢ”と呼ばれるターゲットを「ギバー型(与える人)」「マッチャー型(見返りを求める人)」「テイカー型(搾取する人)」に分類。最も効率良く金銭が得られる“良おぢ”に的を絞り、LINEの返信間隔や言動から心理状態を把握し、段階的に情報を小出しにして感情を高めていきます。いきなり金銭を要求するのではなく、「自分から出させる」よう誘導するこの手法は、従来の詐欺とは一線を画す点です。

③リスクの回避手法
さらに驚くべきは、彼女が法的リスクやターゲットからの報復リスクまで防ぐ方法までも理論化していた点です。
金銭提供を「頼んでいない」「むしろ一度断っている」という構図を作ることで、法的責任の回避を図ったり、結婚詐欺の追及を防ぐ言い訳、また強い報復の恐れのあるターゲットに手を出さないための方法などが明記されています。

④「防ぎにくい」「裁きにくい」
最も厄介なのは、こうした一連の行為が「防ぎにくい」「裁きにくい」点にあります。
ターゲットされた男性は、その資金が尽きるまで自分の意思でお金を差し出し、満足すら感じています。このような場合、その行為を他者によって止められるか、また詐欺として裁けるどうかは微妙な所です。
そしてこの手法は、彼女のマニュアルを完ぺきに実践すれば、どんな女性でも実行できてしまうのです。
このように彼女が確立した「頂き女子」手法は、これまで見出されていなかった「パンドラの箱」であると言えます。

このマニュアル分析はあまりに危険(理解して使われると必ず被害が出る)なため、詳しい紹介や防止手法については公認不正検査士の勉強会でのみ公表しています。

いよいよ相続税調査にもAIが関与

国税庁が2025年7月から全国で導入する新たな仕組みとして、「AIによる相続税のリスクスコア判定」が始まります。これは、すべての相続税申告書についてAI(人工知能)を用いて税務リスクを自動的に評価し、スコア化するというもの。従来は人の目によって選定されていた調査対象が、今後はAIの判断を経て抽出される時代になります。

ではAIの導入を経て何がどう変わるのでしょうか。

これまでの相続税調査は、調査官の経験と直感、そして過去の統計、幅広く、また長い時間に基づいて集められた資料などに基づいて「この申告は気になるな」と人間が見定める仕組みでした。もちろんそこには熟練の技術が必要になり、そのような「職人技」的な運用にはどうしても限界があります。
特にコロナ禍を経て、こういった熟練の技がどうしても途絶えつつある現況、調査の範囲や深さ、質を、コストを押さえつつどう維持するかは大きな課題となっていました。

そこで今回登場したのが「AI相続税リスク判定システム」です。
開始後は、すべての相続税申告書を対象に、AIが過去の調査実績や申告内容との比較を行い、税務上の誤りの可能性を0.0~1.0のスコアで数値化します。スコアが高ければ高いほど、調査対象として選ばれる可能性が高まる訳です。

注目すべき点は、全国一律の基準で評価がなされるという所かもしれません。
この評価からは地域や税務署ごとの差が排除され、公平かつ品質の高い運用が期待されます。また、調査対象の選定が合理化されることで、本来注力すべき案件に集中でき、より精度の高い税務行政が実現されるというメリットも想定できます。

納税者にとっては「漏れなく調査される」という印象もあるかもしれませんが、先んじて開始している法人税のAIによる調査先選定は、運用が安定的となった昨今、「真っ当な会社への調査が明らかにへり、大きな問題のある会社へピンポイントで調査が入りやすくなった」との意見も多くみられます。

もちろん、AIがすべてを判断するわけではなく、最終的な判断は調査官が行います。ただ、その判断の土台にAIのスコアが用いられる、という所が重要です。

それでは、どのように対処すればよいでしょうか。
AIがどのようにスコア付けするか、という詳細な技術は公表されていませんが、相続税を長年やっている税理士にはだいたい分かります。
最も多いケースである「財産隠し」については、そういった行為が行われた場合に必ず発生する異常な点があります。嘘をついたり何かを隠蔽した場合には、必ず矛盾が出るからです。
この為、まずはそういった行為を行わない事、が重要です。
今までは見逃されたわずかな兆候も、AIの運用が安定すれば簡単にピックアップされます。

他方、何も悪いことはしていないのにそういった兆候に「見えてしまう」ことも多々あります。
そういう場合には、そういったリスクを認識して対処できる、相続税をよく理解した税理士に依頼することや、税理士から「申告書の作成に関する計算事項等記載書面(税理士法33条の2①書面。「税務調査を受けない方法 -税理士法33条の2の添付書面-」に詳しい記事があります)を提出してもらうことが重要です。

そういった「正しい対処」を心がけている場合、このシステムの導入は真っ当な納税者にとって有利に働く、と言っても良いと思います。