カテゴリー別アーカイブ: 経営・内部統制

みんな知らない「役員」の怖い話

1.はじめに
税理士法人耕夢 代表社員の塩尻明夫です。
私は今「公認会計士・税理士・公認不正検査士・認定登録医業経営コンサルタント」として仕事していますが、元々は大学院まで機械工学を勉強していました。
物心ついた時から機械いじりが好きで、ガラクタとドライバーと半田ごて(電気回路を接続するために使う、一種の溶接器)がオモチャがわりという生粋の理系少年でしたから、そういった理系の道に進むのは当然のことでした。

さて理系というと「研究者」や「開発者」といった役割が多いイメージで、「経営者」とは対極の存在と思われがちです。

しかし、実際には理系出身で取締役に就任したり、経営者になったりという例もたくさんあります。これは立場や巡り合わせだけではなく、「会社経営に必要なのが営業や経理財務だけではない」ことが理由です。少なくとも我が国の産業で根幹を支える製造業においては、理系の能力も経営上必須なのです。

そんな理系の皆さんが取締役になったら「ぞっとする」話を今日は書いてみます。

社長イス・ハイバックチェアのイラスト

2.あなたは執行役員 or 取締役?
一般に「役員」と呼ばれる会社の役職にはいろいろあります。
「代表取締役CEO」といったら、なんだか偉そうですよね。
しかし、こういった呼び名の意味、皆さんどれくらいご存知でしょうか。
昔とある役員会で質問したら、誰も答えられなかったことがありました…
ということで、おそらく世の中で最も短い決定版の説明を作りました。

①法律(会社法)で定めたもの
「代表取締役」、「取締役」、「監査役」といった割と堅めの名前は、株式会社などの会社に関するルールを定めた「会社法」に定められています。
会社の経営に携わるのが「取締役」、その中で会社の顔として代表するのが「代表取締役」、取締役の仕事を監督するのが監査役です。
また取締役の会議を「取締役会」、監査役の会議を「監査役会」と呼びます。

この仕組みは日本やドイツ的で、アメリカの場合は「取締役」はどっちかというと日本の監査役のように業務を執行するトップの仕事を「取り締まる」役目になっています(この形は日本でも少し取り入れられつつあります)。
これらの役職には任期があり、1年~10年という任期が終わると一旦退任し、続けたければ就任時同様株主総会で選任される必要があります。

②組織の形に応じた呼び名
皆さんに最も馴染みのあるのは「社長」、「会長」、「常務」、「専務」、「相談役」といった役職名です。「執行役員」、「兼務」や「顧問」などもあるかもしれません。
社長が会社のトップであることはなんとなくわかりますが、会長はその上?また常務と専務がどう違う?

こういった説明は本やWEBなどで一生懸命なされていますが、実は「どれにも法的根拠は一切ない」のです。
これらは、日本的な会社組織を作る上で、組織図上従業員の上に位置する役職として扱われていることが多いようです。
実際の所、専務や常務がその位置に応じた意思決定を、明確な責任を伴って行っているかというと疑問を持たざるを得ない場合も多いです。

③機能に応じたもの
「CEO(最高経営責任者)」、「CFO(最高財務責任者)」、「COO(最高執行責任者)」という名前はよく目にします。「CTO(最高技術責任者)」も最近増えてきたようです。
これらも社長や専務同様、法律に基づく名称ではありません。
それぞれの機能に応じた経営判断や執行を、それぞれの責任を負って行う者のことを言います。
これらは主にアメリカでの企業経営形態、すなわち「トップダウン的な経営組織」を動かすために生み出されたものであると言われています。

3.取締役の責任
①会社法の規定
ここからは「会社法」に定める取締役について、本題である「ちょっと怖い話」をします。
まず、取締役と会社との関係は「委任」関係とされています(会社法330条)。
この委任関係がある場合、委任された側である取締役は「善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ、善良なる管理者としての注意義務)」という割と幅広い義務を負うことになります(民法644条)。
また法令、定款、総会決議を守り、職務を忠実に遂行する義務も負います(会社法355条)。会社との競業に関する規制や利益が相反する取引に関する規制もあります。
そして、会社法第423条には「その任務を怠ったときは損害を賠償する責任を負う」と定められています。
これらの責任は、会社に対するものや外部の債権者に対するものの両方があります。
単なる従業員と違い、取締役の場合は直接的に責任を負わされる場合があるのです。

②どんな場合に責任が?
取締役が自分や関係者を利する目的で会社に損害を与えた場合は、①以前に「最大懲役10年」という「特別背任(会社法960条)」という罪になります。

しかし、自分がやっていない行為、例えば代表取締役など他の取締役が明らかに違法だったり放漫な経営をしているのに、取締役会で「反対しなかった取締役」も責任を負うこととされているのです。ここ非常に重いところで、「反対する」だけではなく、「反対したことを議事録に書く」必要があります。
会計不正で粉飾し、会社が責任を負うべき場合もこの対象です。

③専門外の取締役は責任を負わなくてよい?
以前、不正会計や粉飾が問題となったとある会社で、技術系の取締役が週刊誌のインタビューで「そんな会計のことなんて技術系の自分には関係ないしわからないから」と答えていたケースがありました。

これは大きな間違いなのです。

会社法は、取締役の責任追及に際して、その専門性を条件としていません。
つまり、会計上の責任であっても理系の取締役は会計担当の取締役と同じ重さの責任を負うことに(法律上は)なっているのです。また逆も然りで、技術的な不正(検査不正など)の場合は、文系業務の取締役も同じ重さの責任を負うことになります。

実際の所は、「その専門性によって問題を知りえたかどうかが変わる」ため、裁判上責任を問われると判断されることがまだ少なく助かっている方が多いようです。
要するに、責任を負わされるかどうかの可能性は少し低いが、もし負わされたら責任の重さは同じ、ということになります。

しかし、会社法で責任を負うことになっている以上、なんらかの事情で問題を知っていたと裁判上判断される場合には同じ責任を問われてしまいます。取締役になった以上は、自分の専門以外のことも勉強し、口を出したり反対したり、また差し止めたりといった行動が必要になっていると言えます。

④執行役員は?
「取締役」のつかない「執行役員」はどうでしょうか。
執行役員制度は、日本においては1997年にソニーが最初に導入したと言われています。
取締役ではありませんので、前述のような取締役の法的な責任はなく、部長や課長といった従業員としての責任が課されることになります。

もし自分の専門外の法律や責任を勉強する気が全くない方が役員就任の打診を受けたら、取締役にならず執行役員で止めておくことをお勧めしたいところです。

⑤破産した場合は?
会社が破産した場合はどうでしょうか。
取締役はその債務を押し付けられるでしょうか?
ここについては、「負わなくてよい」が正解です。
会社の債務については、個人保証などをしていない限り、取締役が責任を負う必要はありません。
(代表取締役などトップは保証をしている場合が多いと思いますが)
しかしこれで安心してはいけません。
破綻に至った原因がその経営方針であった場合、③で述べたように保証をしていない取締役にも経営責任があるということで、会社法上の責任が問われる可能性があります。

4.取締役になるか?と言われたら
長年頑張ってきて、オーナーなどから「そろそろ取締役になるか?」と問われたら…
ほとんどの場合、それは純粋にねぎらいからの言葉だと思います。また皆さん今回のようなことをあまり知らないので、全くの善意で出世させると思っただけと思います。
このため、普通「評価された」と喜ぶ人が多いでしょうね。

しかし、今回説明したように会社法を深く知ると、手放しで喜ぶわけにはいきません。

私がそんなシチュエーションでお勧めしたい返事は

「ありがとうございます。でも、私には取締役はもったいないので、執行役員程度にして頂けますか」

といったところです。

 

それでも「いやいや、絶対君がならないと」とか「断って俺の顔に泥を塗るのか!」などと言われ出したら、「裏に何かある」と思った方がよさそうです(笑

テクノロジーガバナンスのすすめ(三菱電機・神戸製鋼の不正について)

1.終わらない検査不正
三菱電機が35年もの長期間に渡って数多くの検査不正を行っていた事件は、社長が引責辞任する事態にまで広がっています。

しかしこのずいぶん前に、日産やスバルの検査不正、また大手鉄鋼メーカー神戸製鋼所が製品の検査データの改ざんを繰り返していた問題は「技術日本の危機」として非常に大きな問題となっていました。それにも関わらず連綿と不正を続けていたということは、企業としての姿勢やガバナンスに大きな問題があると言わざるを得ません。

今回は、三菱電機と神戸製鋼の事例を取り上げ、このような問題が技術という分野で起こった原因や、企業がとるべき姿勢について、代表の塩尻明夫が「公認不正検査士=経営・不正防止」「技術系工学修士=技術倫理」という両方の側面から述べたいと思います。

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2.三菱電機検査不正

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①不正の発覚
2021年6月30日、同社の長崎製作所(長崎県時津町)が製造する鉄道車両向け空調装置で、仕様書の記載と異なる検査手法を行った上、検査成績書に不正記載を行っていたことが明らかとなりました。 「社内調査で6月14日に発覚した」そうです。同時に、6月28日には鉄道車両用空気圧縮機に関しても同様の不正検査を行っていたことが判明しています。

②不正の手口
行われていた不正の手法は、以下の通りです。

・冷房や暖房の能力を検査する際、仕様と異なる温度や湿度などの環境条件で検査を実施
・必要な防水検査で、製造段階の検査結果を流用して完成品の検査を省略
・空調機器の過負荷、振動、絶縁抵抗、耐電圧などの耐性試験を低い水準で実施、結果を計算式で補正して検査結果に偽装
・寸法検査を実施せず、図面などから部品の寸法を足し合わせる等の計算により偽装
・モデルチェンジ機種について、前モデルの検査結果を流用
・これらについて検査成績書偽装された結果を記載

③不正の連鎖
同社グループにおいては、2018年に子会社(トーカン)で製造する新幹線車両にも使われるゴム製品や、2020年に本社パワーデバイス製作所で製造するパワー半導体製品で顧客と取り決めた新しい検査規格を使わなかった等の検査不正が相次いで発覚していたところです。
この2事件も、数年~十数年発覚せずに不正検査が続けられてきました。

これらの不正は「内部調査で発覚した」とのことですが、発覚している不正は全て明らかに手順を省いて工数を減らしたり、製造不良を見逃すために行われている単純な方法であり、一般的な定期内部監査があれば容易にわかることばかりです。

今回に限って発覚したのではなく、組織としてこのような不正を長年容認してきたグループとしての姿勢が問題ではないかと推察します。
本事件については、今後調査結果などが明らかになっていくと思いますので、注視しておきたいと思います。

3.神戸製鋼検査不正

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①事件の概要(調査報告書より)
2016年6月にグループ会社神鋼鋼線ステンレス株式会社で検査データの改ざん事件が発覚、2017年8月末にもアルミ・銅事業部門において不正な試験値の取り扱いが発覚、同部門で不適合品の出荷を停止しています。

②発生していた不正行為のあらまし(調査報告書より)
同社においても、寸法検査、耐性試験など機械的性質等の検査、一部の外観検査など、顧客との間で取り交わした必要な検査項目が実施されておらず、条件の異なる他のデータでの代替やねつ造などが行われていました。

また、顧客との間で取り交わした製品仕様(強度、伸び、耐力等の機械的性質や寸法公差等)に適合していない一部の製品につき、検査証明書のデータの書き換え等を行うことにより、当該仕様に適合するものとして出荷しています。

彼らはこれを「トクサイ」と呼んでいましたが、本来の「トクサイ(特別採用)」とは通常なら不合格品になるものを、取引先の了解を得て引き取ってもらう制度です。基準には元々余裕があるので「採用側が知っていれば」問題なく使用できるし、納期も守られ安く購入できるメリットがあるのですが、これを全く知らせることなく勝手に行っていました。

③原因とされている事情
この不正の原因とされているのは、調査報告書や新聞記事を参考にすると以下の通りと言われています。

・過度な業績主義と、収益評価に偏った経営と閉鎖的な組織風土
・バランスを欠いた工場運営(生産・納期優先の風土、人事が固定化された閉鎖的組織)
・不適切行為を招く不十分な品質管理手続(改ざん、ねつ造を可能とする検査プロセス、厳格な社内規格の形骸化と勝手トクサイを許す風土)
・契約に定められた仕様の遵守に対する意識の低下(品質に対する誤った自信に基づく仕様遵守意識の欠如、不適切行為の継続)
・不十分な組織体制(監査機能の欠如、本社による品質ガバナンス機能の弱さ、事業部ごとの縦割風土)
・鉄鋼業界統合による寡占化
・品質管理担当が製造部門長の下に置かれており、独立した品質管理体制が取れなかった

④神戸製鋼の不祥事歴と企業風土
残念ながら、神戸製鋼は今回の事件だけではなく、過去にも以下のような不祥事を起こしており、良い企業風土の醸成に努力しているかどうか、という側面において疑問が残ります。
(1)総会屋への利益供与(1999年)→亀高元吉相談役が引責辞任
(2)神戸・加古川製鉄所でのばい煙データ改ざん(2006年)
(3)日本高周波鋼業(グループ会社)による鋼材強度試験データ不正(2008年)→同社のJIS認証取り消し
(4)政治資金規正法違反(2009年)→会長、社長が引責辞任
(5)神鋼鋼線ステンレス(グループ会社)が検査データ改ざん(2016年)→同社のJIS認証取り消し、今回の事件の発端となった

4.テクノロジー面のガバナンスについて
昨今の上場会社は、会社法や内部統制評価・監査制度(いわゆるJSOX)などの制度及び運用強化によって経営管理や財務報告におけるガバナンスについては一定の改善が見られます。
しかしながら、テクノロジーの側面においては上記のような制度がある訳ではなく、旧態依然とした「技術者の論理」が残されているといってよいと思います。
この技術者の論理、基本的には極めてシンプルな「納期・品質・安全を守る、科学的事実は嘘をつかない(嘘をつくのは人間である)」といった考え方に尽きます。

これに対し、今後は技術系分野において「テクノロジーガバナンス」が必須であると考えます。
このテクノロジーガバナンスとは、技術面に係る倫理、統制、開示、保全を統合的に管理する考え方で、コーポレートガバナンス・CSRの一環として構築する必要があります。特に今後IoT、AIの急速な普及に伴い、この分野が極めて重要になると言えます。
このテクノロジーガバナンスを構成するのは、例えば下記のような概念です。

・技術者倫理
例えば、一般社団法人日本鉄鋼連盟が公表している「品質保証体制強化に向けたガイドライン」には「倫理」という用語がありません。また、神戸製鋼の企業倫理綱領にも、もっと大きい範囲だと日本機械学会の会員向け倫理規定にもテクノロジーガバナンスに関連した記載はありません。
今後は、テクノロジーの分野においても、広い意味での倫理概念を整備し、職業倫理として定着させていかなければ、技術分野でわずかに残ったアドバンテージすら我が国から奪ってしまうことになりかねません。

・技術系取締役への企業ガバナンス教育やMOT人材の採用
現在、技術系取締役は、「技術系プロパーの上がり役職」といった性格を持つことが多く、ガバナンスに関する教育はほとんど受けていません。
技術系取締役に、会社法を含む企業ガバナンスに関する教育を行うことや、MOT(Management of Technology、技術経営)に関する専門的素養を持つ人材を経営層(取締役、監査役)や内部監査部門に加えることが重要となります。

・内部統制の重要性
人材がそろっても、その目的に合致した内部統制の整備運用がなければガバナンスを強化することはできません。
どんな分野においても、組織における不正を防止するには内部統制が最も重要です。
技術面関する場合でもあっても、内部統制に必要な考え方は同一で、整備運用に関しては統制環境・リスクの評価と対応・統制活動・情報と伝達・モニタリングといった構成要素を意識しなければなりません。
例えば、統制環境の場合は正しい技術倫理観に基づくテクノロジーガバナンスの強化と、トップから末端までに至る構成員(技術系以外も含む)の技術倫理に関する姿勢となりますし、モニタリングに関しては技術系内部監査機能の充実等がこれに当たります。

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日本機械学会倫理規定 (抜粋)
前文
本会会員は,真理の探究と技術の革新に挑戦し,新しい価値を創造することによって,文明と文化の発展および人類の安全,健康,福祉に貢献することを使命とする.また,科学技術が地球環境と人類社会に重大な影響を与えることを認識し,技術専門職として職務を遂行するにあたって,自らの良心と良識に従う自律ある行動が,科学技術の発展と人類の福祉にとって不可欠であることを自覚し,社会からの信頼と尊敬を得るために,以下に定める倫理綱領を遵守することを誓う.

(綱領)12項目から抜粋
1.技術者としての社会的責任
会員は,技術者としての専門職が,技術的能力と良識に対する社会の信頼と負託の上に成り立つことを認識し,社会が真に必要とする技術の実用化と研究に努めると共に,製品,技術および知的生産物に関して,その品質,信頼性,安全性,および環境保全に対する責任を有する.また,職務遂行においては常に公衆の安全,健康,福祉を最優先させる.

3.公正な活動
会員は,立案,計画,申請,実施,報告などの過程において,真実に基づき,公正であることを重視し,誠実に行動する.研究・調査データの記録保存や厳正な取扱いを徹底し,ねつ造,改ざん,盗用などの不正行為をなさず,加担しない.また科学技術に関わる問題に対して,特定の権威・組織・利益によらない中立的・客観的な立場から討議し,責任をもって結論を導き,実行する.

4.法令の遵守
会員は,職務の遂行に際して,社会規範,法令および関係規則を遵守する.

5.契約の遵守
会員は,専門職務上の雇用者または依頼者の受託者,あるいは代理人として契約を遵守し,職務上知りえた情報の機密保持の義務を負う.

会社における「備品」の会計・税務・管理

大会社でも小規模な個人事業でも、またビジネスの内容を問わず必ず必要になるのが「備品」です。
巨大な製造設備と違って手軽に購入できるものですが、それでも会計や税務においてたくさんの論点があります。
この記事は、その論点の一部(法人税に関するもの)を簡単にご説明いたします。

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1.備品とは
事業のため1年以上の長期にわたって使用又は利用する目的で保有する資産を「固定資産」といい、法人税法では、土地、減価償却資産、電話加入権等と規定されています(法人税法第2条22項)。この中で減価償却資産とは一般的に時の経過等によってその価値が減っていく資産をいい、備品はこれに含まれます。

備品には、机や椅子といった伝統的なものから、テレビ、エアコンといった電化製品、そして最近だとパソコンやプリンタ、タブレットといった最新鋭のものまで、たくさんの種類があります。

似た概念に「消耗品」があって紛らわしいのですが、「道具として使用するもの」が備品、「それ自体を比較的短時間で消費しながら使用するもの」が消耗品、と理解すると分かり易いと思います。

2.会計処理方法
減価償却資産の取得に要した金額は、取得時に資産に計上されますが、減価償却により少しずつ費用となります。減価償却とは、減価償却資産の取得に要した金額を一定の方法によって各年度に配分していく手続です。資産の使用可能期間にわたり減価償却することで、使用に応じた費用を順次認識することができると考えられています。

3.会計処理時点
減価償却資産は購入した日に資産計上します。一方、減価償却を開始するのは、事業の用に供した日からとなります。

「事業の用に供した日」とは、その資産のもつ属性に従って本来の目的のために使用を開始するに至った日をいいます。事業の用に供したか否かは、業種・業態・その資産の構成及び使用の状況を総合的に勘案して判断します。例えば、備品を会社に搬入しただけでは事業の用に供したとはいえず、その備品を据え付け、目的通りの使用が可能なことを確かめたのちに、使用を開始した日が事業の用に供した日となります。

4.取得価額
減価償却資産の取得に要した金額とは、支出内容からとらえた場合、原則として、その資産の購入代価とその資産を事業の用に供するために直接要した費用の合計額となります。また、引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税などその資産の購入のために要した費用も購入代価に含まれます(法人税法施行令54条第1項)。

一方、その範囲からとらえる場合、一つの資産としての取得単位は、通常1単位として取引されるその単位、「工具、器具及び備品については1個、1組又は1そろいごとに」判定することとされています(法人税法基本通達7-1-11)。例えば、テーブルと机がセットになった応接セットや、パソコンと基幹ソフトウェアなどは1組または1そろいととらえることができます。

5.減価償却
減価償却は先に述べたとおり、使用に応じた費用を認識する意味から、その使用状況に応じた適切な方法と期間を選択する必要があります。

減価償却には定額法や定率法などの償却方法があります。償却方法は任意に選択し、税務署への届出が求められています。期間は、資産の種類ごとに一般に合理的と考えられる使用期間が法定耐用年数として定められています。これらの方法・期間に基づいて償却額を計算することになります。

なお、法定耐用年数は新品の資産を取得した際に用いられるものであり、中古資産を取得した場合には、耐用年数を別の方法で算定することになります。
また、事業年度の途中で取得した資産の減価償却費は、年間金額を月数割りした金額となります。

6.売却または除却
資産を第三者へ売却、または不要になり除却した場合には、入金額と資産の残存価額との差額を損益として計上します。

7.特例
少額の減価償却資産には特例が設けられており、通常の会計処理と比較して早期に費用化が可能となっています。

取得価額 費用として処理 一括償却資産処理 少額減価償却資産 固定資産計上
10万円未満 中小事業者のみ〇
10~20万円未満 × 中小事業者のみ〇
20~30万円未満 × × 中小事業者のみ〇
30万円以上 × × ×

使用可能期間が1年未満のものまたは取得価額が10万円未満のもの
事業の用に供した事業年度において、その取得価額に相当する金額を損金経理した場合には、その損金経理をした金額は、損金の額に算入されます。この場合の「使用可能期間が1年未満のもの」とは、法定耐用年数でみるのではなく、その法人の営む業種において一般的に消耗性のものと認識され、かつ、その法人の平均的な使用状況、補充状況などからみて、その使用可能期間が1年未満であるものをいいます。なお、事業の用に供した事業年度においてその取得価額の全額を損金経理している場合に、損金の額に算入することができます。したがって、いったん資産に計上したものをその後の事業年度で一時に損金経理をしても損金に算入することはできません。

一括償却資産
取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産については、一定の要件の下でその減価償却資産の全部又は特定の一部を一括し、その一括した減価償却資産の取得価額の合計額の3分の1に相当する金額をその業務の用に供した年以後3年間の各年分において必要経費に算入することができます

中小企業者等の特例
中小企業者等が、取得価額が30万円未満である減価償却資産を事業の用に供した場合には、一定の要件のもとに取得価額の合計額のうち300万円に達するまでの取得価額の合計額を、損金の額に算入することができます。

8. 資産管理
備品は一つ一つが小さいですし、前述の通り費用化してしまって会計上資産として残らないものが多くなります。このため、特に中小企業においては少額のものについて資産管理をしていない場合が多いようです。

ですが、持ち出しなどの不正を防ぐためや、重複購入による無駄な支出、使用限度超過による故障などのトラブルを防ぐため、資産計上していない備品であっても、番号などを付して個別に資産管理をしておくと、健全な経営にはとても役に立ちます。

以上、たかが備品といってもたくさんの論点がある事がお分かり頂けたと思います。是非ご参考になさって下さい。

医療機関のキャッシュフロー(倒産しないために)

医療機関に限らず、どんな事業体でも「利益が上がらない」からといってそれだけでは倒産しません。事業体の倒産は、必ず「資金ショート(支払不能)」によって起こります。

資金があれば取引先や従業員への支払いが可能ですが、尽きてしまえば支払が出来ず、信用が落ちますから仕入も翌月払いなどが使えなくなり、事業活動が出来なくなります。

何より、給与の遅配などが発生すると、「破綻目前」の烙印を押されることが多いです。

このような資金ショートは通常の経営をしていると起こりませんが、経営のバランスが崩れるとたちまち顕在化します。
倒産を防止するためには、収益だけではなくキャッシュフロー(お金の流れ)を認識しておく必要があるのです。

2020年から続く「コロナ禍」は、多くの事業で大きな問題を引き起こしましたが、その最大のものが「事業の停止による資金繰り悪化」だと言えます。

今回は、医療機関を例にとってキャッシュフローの考え方と、その判断方法を説明します。

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1.キャッシュフローとは
キャッシュフローは、文字通り「お金の流れ」を言います。
通常大きな利益を上げている病院は、プラスのキャッシュフロー額が大きく、収益性(売上高当たり利益や、職員一人当たり利益など)の高い病院は、キャッシュフローに関する指標も良好です。

しかし、収益とキャッシュフローの間にははっきりとした違いがあり、経営のバランスが崩れた場合等にはこれが大きな影響を及ぼすのです。

例えば、収益とキャッシュフローがずれる場合は以下のようなものです。

  • 診療報酬の計上タイミング
    収益は診療月に計上するが、キャッシュフローは2か月後
  • 診療材料等の支払
    締め・支払のタイミングにもよるが、収益計算上は納品月、キャッシュフローは1~2か月後
  • 診療材料、医薬品在庫
    収益は「つかった時」に費用として処理する(在庫部分は費用にならない)が、キャッシュフローは「払ったとき」
  • ボーナス
    収益上は通常毎月引当して費用化するが、キャッシュフローは支払月
  • 設備投資
    収益上は、数年~数十年の割合で割って費用化(減価償却)するが、キャッシュフローは購入時点
  • 窓口未収
    診療時に収益計上するが、未収入部分がある場合、キャッシュフローは回収するまで上がらない。

医療機関の場合、やはり社会保険診療報酬の特殊性がキャッシュフローに影響を与える場合が多くなります。
例えば今回のコロナ禍に当てはめると、

  1. 緊急事態宣言などで来院患者が減少
  2. 窓口収入が減少するが、全体の7割を占める保険診療報酬支給額はまだ支払われる
  3. その間給与や仕入支払などを支払う
  4. 2か月後、来院患者が減少した月の報酬支払を受けるタイミングで収入が大幅に支出を下回り、支払が苦しくなる

といった順で問題が起こります。

2.キャッシュフローの種類
①医業活動によるキャッシュフロー
これは本業たる医業から発生するキャッシュフローです。
医業収益から医業費用を差し引きますが、前項で説明した通り、損益とキャッシュフローの間には「ズレ」がありますから、全く同じものではありません。

ただ、この項目が赤字の場合は「本業で頑張ってもお金が減っていく」訳ですから、病院経営の継続性には大きな疑問符が付きます。

投資活動によるキャッシュフロー
長期貸付金や投資有価証券等、投資目的の支出、また建物、機器等の設備投資がこれに当たります。大きな所ですと、M&A(合併・買収)等もこの種類に含まれます。
このキャッシュフローは黒字だったら良いというものではありません。
本来、医業活動によるキャッシュフローから生まれた資金を継続的に将来に向け投資するのが健全な経営ですから、通常はこのキャッシュフローは継続的に大きすぎない赤字傾向なのが良い状態なのです。
ここが黒字になっている場合、リストラによる資産売却等がなされているような状況もあり得ます。

なお、①と②を合わせたキャッシュフローを「フリーキャッシュフロー」と言います。これが大きいと、経営戦略の打つ手が多くなり、競争力や成長力が強いと言えます。

財務活動によるキャッシュフロー
銀行借入や医療機関債(一般企業の社債にあたる)、増資等の資金調達が行われた場合にはキャッシュフローがプラスとなります。また、借入金の返済等が行われるとマイナスとなります。
借入金が順調に返済され、特に増資や追加借入等も行われていなければ、このキャッシュフローは赤字になります。そして、その赤字が上で説明したフリーキャッシュフローの範囲で賄われていれば、病院経営は健全であると言える訳です。

3.キャッシュフローの黒字、赤字の見方
最後に、3つのキャッシュフローがそれぞれ黒字、赤字の場合どのような状態が想定されるかの事例を説明します。

①医業、投資、財務全てが黒字の場合
全てが黒字なので非常に良い状態かと思いきや、そうではありません。
せっかく作った医業によるキャッシュフローを十分な投資(機器やシステム)に回さず、または資産を売却し(投資が黒字)必要のない借入を行っている(財務が黒字)という状態を示しています。
幸い本業は今のところ順調ですから、これらの原因を探って強い経営体質にしていく必要があります。

②医業が赤字、投資、財務が黒字の場合
本業の医業経営がうまく行っておらず(経費過剰など)、資金が足りないので資産を売却したり(投資が黒字)、追加借入を銀行に依頼している(財務が黒字)状態です。本業の赤字を解消するため、病院の運営体制を抜本的に見直す必要があります。

③医業が黒字、投資、財務が赤字の場合
本業が好調であり、そこから生まれたキャッシュフローを将来への投資、借入返済に回している健全な状態です。但し程度の問題であり、投資、財務の赤字が業務の黒字を上回るようなら、その投資内容や資金調達の方法を見直す必要があります。

いかがでしょうか?
キャッシュフローは医療機関の存続に極めて大きな影響を与えます。
特に、コロナ禍のような異常な状態においては、地域医療を安定して支えるため、自身の医療機関がどのようなキャッシュフロー状況なのかを掴み、改善へ努力する必要があります。
銀行からの資金調達のみならず、補助金・助成金なども活用して、大変な状況を乗り切るよう頑張りましょう。

なお、上記のような決算書レベルのキャッシュフローに加え、毎日の「資金繰り」に注意を払わなければならない場合、弊所がご提供する「資金繰り管理ツール」が大変役に立ちます。
この説明についてはこちら「倒産しないために~資金繰(しきんぐり)の重要性と便利なツール」をご参照ください。

病院と内部統制(医療法改正に関連して)

上場企業に対して平成20年4月から導入された「内部統制報告・監査」の制度や、平成18年から施行された会社法は、公認会計士の業界に「内部統制バブル」とも呼ばれる活況を呼びました。
内部統制システムを構築するためのアドバイスや、内部統制報告書の監査のため監査法人の業務は大幅に増えましたし、監査法人から独立してコンサルタント会社を設立するケースも多くありました。

それから10年以上経過した現在、内部統制という言葉は「監査コスト増」「内部統制報告書が不適正」とか、「重要な不備があった」といったマイナスイメージを持つものとなってしまいました。
しかしこの内部統制、実はその特性から、地方自治体、病院、社会福祉法人など非営利や公的な分野においても有効であり、また制度上も内部統制の整備が必要な状況となってきました。

今回は、病院における内部統制を例にとって、その概要と注意点をご説明します。

 

1.病院と内部統制

500床を超える病床数を備える大病院の場合、医・看護・薬局や事務局等非常に多くの役職員が従事する組織となるため、その組織管理を適切に行うことは、管理者の重大な責務となります。このような組織管理を考える際、「内部統制」は組織管理を考える際に重要かつ不可欠な概念となります。

内部統制を活用した組織管理手法は、一般的に株式会社などの営利企業の、しかも財務報告に関する分野に適用されることが多いですが、大病院等の医療機関も大企業と同様、職能別、階層別に組織化された存在であることに変わりはありません。このため、医療機関の特性に留意しながら、医療機関においても内部統制を導入することは、組織管理を適切に行うための手法として十分に有効です。

しかしながら、医療機関における内部統制は、その特性から一般の企業とは適用する目的や利用する構成要素が異なる場合もある点に十分な注意が必要です。

また、平成27年の医療法改正において、一定規模以上の医療法人に対して、公認会計士・監査法人による会計監査を受けることが義務付けられました(改正医療法第51条及び第70条の14)。
この「公認会計士等による外部監査」によって、おいては、監査の実施や意見に内部統制の整備状況が大きな影響を与えることが予想されており、この点でもますます重要性が増しています。

 

2.内部統制の説明

1992年にCOSO(「コソ」と読みます。トレッドウェイ委員会組織委員会の略称)が公表した「内部統制の統合的枠組み(COSOフレームワーク)」は、元々1980年代前半に発生した多くの企業の経営破綻が端緒となっています。

1985年にアメリカ公認会計士協会(AICPA)は、アメリカ会計学会、財務担当経営者協会、内部監査人協会、全米会計人協会に働きかけ、「不正な財務報告全米委員会(The National Commission on Fraudulent Financial Reporting)」(委員長J.C.Treadway, Jr.の名前を付してトレッドウェイ委員会)を組織しました。

このトレッドウェイ委員会は、多方面にわたる検討を行って1987年に「不正な財務報告」と題するレポートを公表し、不正な財務報告を防止し発見するためのフレームワークとその方策を勧告しました。この勧告においては、内部統制の重要性を指摘し、特にその評価に関する基準の設定ついて言及したことから、同委員会内に、内部統制のフレームワークを提示することを目的として、前述の組織委員会が組織されたのです。

このCOSOフレームワークは、内部統制は、事業体の取締役、経営者およびその他の構成員によって、以下の範疇に分けられる目的の達成に関して、合理的な保証を提供することを意図して、事業体の取締役、経営者およびその他の構成員によって遂行されるプロセスであると説明しています。

  • 業務の有効性と効率性(業務活動)…組織の業務が目的通り、効率よく実行されるか
  • 財務報告の信頼性(財務報告)…組織が公表する財務情報が正しいか
  • コンプライアンス(法令遵守)…組織が全体として法令等を遵守しているか

またCOSOフレームワークは、内部統制が下記の5つの要素から構成されていると説明しています。

  • 統制環境…組織の風土や経営者の姿勢など
  • リスクの評価と対応…組織が抱えるリスクの認識や対応
  • 統制活動…内部統制を有効にするため実際に行われる活動
  • 情報と伝達…組織内外におけるコミュニケーション
  • モニタリング…活動が適切に行われているかを確認

これらの内部統制を整備し、その整備状況についてテストやその評価を通じて問題点を認識し、さらにレベルの高い内部統制を整備していくというPDCAサイクルを繰り返すことで、そのような組織においてもその運営レベルを大きく改善することが可能になります。

 COSOCUBE
COSO Cube

3.医療機関の特殊性と内部統制

医療機関は、株式会社等一般的な営利企業と違い、下記のような特性を持っています。

  • 経営者を頂点とした組織体制から生まれるトップダウン性と、医療等の現場における活動から行われるボトムアップ性が組み合わされた組織構造
  • 職制の大きな違い(医療、看護、事務等)によるローテーション、部門間コミュニケーションの難しさ
  • 医療行為、医薬品の取り扱いや医療保険制度(患者から直接ではなく、医療保険などから大部分の診療報酬が支払われる)を中心とした業務の特殊性、複雑性
  • 委員会(様々な目的を持つ横断的組織)の存在
  • 医療法等法令に加え医の倫理に基づくコンプライアンス意識

これらの特性を端的に表す組織図の事例を以下に掲載します(WEBページで公表されているもの)
一般的な会社と似たトップダウンの組織の他、各種の委員会が設置されていることがわかります。
これらの委員会における活動によって医療法人の方針を決まることが多くあります。

組織図医療法人藤井会 北河内藤井病院 組織図

http://www.kitakawachi.fujiikai.jp/guide/organization.html

医療機関の内部統制、リスクマネジメントを検討する際は、少なくとも上記のような特性を理解した上で行う必要があります。このような特性を考慮して、内部統制の目的や構成要素を当てはめると、下記の通りになります。

内部統制の目的と医療

  • 業務の有効性と効率性(業務活動)
    病院の業務(診療行為や購買、総務、財務、経理等)が適切に行われ、また効率的に実施されているか
  • 財務報告の信頼性(財務報告)
    貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書、財産目録といった、病院に必要な財務書類が正しく作成されているか
  • コンプライアンス(法令遵守)
    医療法、薬事法といった法令を遵守するだけではなく、医療における倫理についても正しい姿勢を保つ必要があります。また、労働基準法、税法といった医療以外の法令についても、医療機関の特性に留意しつつ遵守する必要があります

内部統制の構成要素と医療

  • 統制環境
    病院における経営者(社員、評議員、理事会、理事長など)の姿勢、病院における組織風土など
  • リスクの評価と対応
    医療におけるリスクマネジメント(医療安全対策)、周辺業務におけるリスクマネジメント
  • 統制活動
    事故防止活動などのチェック体制、診療報酬授受・購買等財務活動に係る承認体制
  • 情報と伝達
    医療事故、点数改定等医療に係る情報の収集、研修会や委員会活動など
  • モニタリング
    医療安全管理体制、事務手続等に関する検査や内部監査

 

以上、大変簡単ですが医療機関において内部統制がどのように適用されるかを説明しました。

倒産しないために~資金繰(しきんぐり)の重要性と便利なツール

「企業経営には資金繰りが重要」とよく言われます。

「資金繰り」とはその名の通り「資金のやり繰り」のことですが、これはなぜ企業経営にとって重要なのでしょうか。

この記事は、そのような疑問について「黒字倒産」といった言葉を例にして解明し、資金繰りの重要性や難しさを理解頂くとともに、私どもの事務所で使用している便利な資金繰り管理ツールについてご紹介します。

1.黒字倒産って?

「黒字倒産」という言葉をご存知でしょうか?

文字通り、「事業が黒字なのに倒産する」ことを言います。

この黒字倒産、実はそんなに珍しくないのです。

売上は順調に上がっているのに、取引先が経営不振で入金が遅れたり、ひどい場合は貸し倒れにより回収できなくなり、仕入や給料、その他経費のための支払、借入の返済などが出来なくなってしまう状態がこれに当たります。

このような状態を俗に「資金ショート」と呼びます。

逆に赤字であっても、何らかの形で資金が手元にあって、必要支払額に足りる状態が続けば絶対に倒産とはなりません。

このように、「資金が足りていること」は、事業にとって極めて重要な条件なのです。

 
日銀ページより

2.資金は多ければよいか?

では、資金が足りている状態を続けるためには、どのようにすればよいのでしょうか?

自己資金が年間売上高の何百倍もある場合ならともかく、通常事業は最小限の資金で行われます。

その理由は「資金調達コスト」があるからです。

自己資金だけで足りない部分を銀行など借りた場合、その借入金には金利がかかります。

余分に借りておけば資金は余るほど足りる状態が続きますが、その余分な部分にまで金利が発生し、損になってしまいます(昨今の低金利状況だとあまり差はないかも知れませんが)。これが資金調達コストです。

ギリギリの資金で事業を運営することは、資金調達コストを最小化することにもつながります。

 

3.多すぎず、少なすぎず~資金繰り管理の勧め

では、ギリギリの資金で、しかも資金ショートを起こさないようにするには、どうすればよいのでしょうか?

それが「資金繰り管理」です。

つまり、これから一定期間内にどれくらいの入金があり、どれくらいの支出があるかをシミュレーションし、足りなくなる可能性が高い場合には資金を調達し、幸い余りそうな場合には返済を増やす、などのコントロールを行うのです。

この資金繰り、一般的には「月次(ひと月ごとに入金と出金を合計でチェック)」しているケースが多いのですが、最も効果的なのは「日繰り表」、すなわち毎日の入出金を厳密に予測して行う方法です。

日繰りの資金繰り管理を厳格に行い、それにもとづいた資金コントロールを行っている場合、よほど事業自体が傾いているのでなければ倒産する可能性は極めて低くなります。

一般の事業はもちろんですが、民事再生手続中のように、入金・出金のタイミングやバランスをシビアに調整しなければならない状況においては、資金繰り管理の重要性は格段に上がります。

 

4.資金繰り表作成ツール

とはいえ、日繰りの資金繰り表を作成するのは非常に難しく、知識と経験、そして手間の必要な業務です。

というのも、日繰りの資金繰り表を作成するためには、資金繰りそのものや簿記の知識、そして事業の入出金予定などを把握しておかなければならないからです。

また、日繰り表は原則として毎日更新しなければ正しい予想ができませんので、非常に手間もかかります。

ということで、これまで一般企業や病院、また通常営業状態から民事再生中まで、多くの企業等を見てきましたが、この日繰り表を機動的に正しく作れる担当者様はあまり多くなかったように思います。

そういう状況を改善するため、私どもの事務所は「日繰り資金繰り表」作成ツールを開発し、お客様を中心にお使い頂いています。

特徴は下記の通りです。

  • 現金、預金等複数の決済勘定科目に対応
  • 一定時点から半年までの日繰り表が、開始日付を指定するだけで自動的に作成される
  • 「定時支払マスター」により、家賃や借入返済など定期的な項目を一度に設定可能
  • 毎月変わる入金や支払いは「個別入出金マスター」に設定(式や別表により、一定の法則を持たせることも可能)
  • 金融機関休日を判定し、保守的に「入金は休日後」「支払は休日前」として自動的に調整(設定変更可能)

このツールはこれまで経営再建中の方を中心にお使い頂いていましたが、「資金繰り管理の実務経験がない方」でも、少しの練習で精密な資金繰り管理が可能となり、非常に大きな成果を上げています。

このツールは原則として私どものお客様に限定して使用しておりますが、会計事務所様、法律事務所様、金融機関の皆様には一定の使用方法説明後ご提供も可能です。

銀行担当者をして「こんなツールは見たことない」と言わしめる優れものですので、経営者や資金繰りに関わる方は是非ご検討下さい。

税務調査を不正対策に利用する

1.はじめに
新聞報道などで良く知られるように、税務調査で不正が発覚するケースは非常に多くあります。今回は、それはなぜかを制度から解き明かすと同時に、「積極的な利用の方法」について説明いたします。

CFE(公認不正検査士)が行う不正への対応は、時間的、費用的、また人的問題や法に基づく制約が多く、どのようなシチュエーションでも難しいものです。この原因の一つは、警察などと違って「強制力がないこと」にあります。

これに対し税務調査は公権力によって行われますから、この点において監査や不正調査とは全く異なる強力な手法であると言えます。とはいえ、税務調査が目的とするところは監査や不正調査のそれとは全く異なります。従って、「利用」と言っても、単純な話ではなく、それぞれの本質的違いを理解しなければなりません。

しかし逆に、そのような違いを理解し、実務を少し経験すれば、通常の不正対応において望むことのできない強力な力を得ることが出来るのです。

経理部門や会計士、税理士、弁護士など会計、税務、法律に携わる業種に限らず、取締役や監査役、内部監査部門など、内部統制の重要な部分を構成する方々全てにとって有用なお話になれば幸いです。

2.税務調査とは
1)税務調査がなぜ行われるか
法人税、所得税、相続税など主要な税法は「申告による課税制度(申告納税制度)」を採っています。このような申告納税制度の下においては、納税者が自ら申告書を作成し、この申告書に基づいて納税することになります。この場合、納税者全員が正しい知識と納税意識に基づいて申告・納税をするなら良いのですが、間違いや不正などの可能性は否定できません。このため、何らかの方法で「申告された内容が正しいかどうか」を確認する制度が必要となります。この目的を達するために存在するのが税務調査という制度です。

この税務調査を行う際、一般的には、原則として納税者の同意を得て行う、いわゆる任意調査が実施されます。しかし不正等により故意に脱税をする者には、税額を正すだけではなく刑事責任を追及するため、犯罪捜査に準ずる方法で調査する場合があります。これが査察調査(いわゆる「マルサ」)です。査察調査の結果いかんによっては、検察官に告発し、公訴に至ることがあります。

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2)税務調査でなぜ不正が見つかるか
①税務調査と監査、不正検査との比較
税務調査で不正が見つかる理由を考える前に、税務調査と監査や不正検査とを比較し、共通点や相違点を探ってみます。

次の比較表は、「公認不正検査士マニュアル」に記載されている「監査と不正検査の比較」をベースに、税務調査に関する部分を加筆したものです。

 表 監査、不正検査、税務調査の比較

 

監  査

不正検査

税務調査

実施時期

周期的
(
四半期、決算期など)

非周期的
(
不正発生時)

非周期的
(
但し一定の法則あり)

範囲

業務全般
(
会計中心)

特定の不正疑惑
(
あらゆる領域)

税に関する領域

目的

意見表明

責任の所在特定

適正な申告・納税

問題点の扱い

依頼主への報告、開示

依頼主への報告、司法

税法に基づく処分

網羅性

リスクアプローチ
に基づく範囲

対象不正疑惑の
全て

実務上問題と
されない

相手との関係

非対立的
(
強制性なし)

対立的
(
強制性なし)

対立的
(
正当理由なく拒めず)

方法論

監査技術

不正検査技術

税務調査技術
(
職人的部分あり)

仮説の根拠

職業的猜疑心

具体的証拠

具体的証拠と経験

コスト要求

高い

依頼内容による

低い

 

②具体的な税務調査手法
それでは、実際の税務調査がどのように行われるかについて、法人税の任意調査を例に簡単に説明します。

法人税の税務調査は、主に以下のような論点をターゲットに行われます。

  • 売上除外など収益の計上漏れ、計上時期のずれ
  • 経費水増しや架空計上、計上時期のずれ
  • 棚卸資産など、貸借対照表項目の過少計上(簿外資産の有無)
  • 税制上の特例など、適用要件あるものの実態調査

そして、その際取られる手法は、おおよそ以下のようなものです。

  • 分析的手法より、実証手続に徹底してこだわる(白色申告の推計課税を除く)
    →「現地、現実、現物」の確認
  • 仮説検証アプローチ
    但し、その仮説は後述する資料や経験に基づくものが多く、職人的。性悪説に基づく。
    この点、「リスクアプローチ」の概念はまだ完全に取り入れられていない感がある。
  • 非財務分析・内偵
  • 非財務数値との比較分析や内偵(現金商売に対する場合が多い)など。
  • 反面調査 非常に強力な手法であるが、あくまで任意の調査手法の一つ
  • 尋問手法 世間話から徐々に会社概況や業務の内容に移行し、資料や他の証言との矛盾を探る手法。

③資料収集
不正調査は「初動」が重要ですが、理想的には「不正調査が必要となった時点で確定的な情報、証拠が手元にある」場合には効果的な調査が可能となります。ただ、そんな都合の良い状況を一般の不正調査業務で実現することはほぼ不可能です(この意味で、GoogleやFacebookのような会社が不正調査ビジネスに進出すれば、事の是非はともかく非常に面白いかもしれません)。

ところが、税務署にはその「都合の良い理想」があるのです。これを資料収集制度と言います。税務署は普段から様々な情報を集め、既に膨大なデータベースを手元に確保しているのです。この収集方法で代表的なものが、「取引資料せん」、「調査時の資料収集」です。

まず「取引資料せん」とは、特定期間の特定取引(売上、仕入、外注費、諸経費など)について、取引先の住所、氏名、取引年月日、取引金額、支払先の銀行口座、取引内容などを記入した情報を収集するものです。これは税務署が納税者に「任意」での協力を依頼し、提出を受けることになっています(法定外資料に分類されます)。

後者「調査時の資料収集」は、税務調査で訪問した先で収集した取引記録です。税務調査の過程を注意深く見ていると、自らの税務調査とあまり関係がなさそうな取引まで便箋にメモして帰ることがあると思います。メモしている内容は上の「資料せん」と基本的に同じです。

これらの情報は全て国税局のコンピュータ(国税総合管理システム KSK)上にデータベース化され、各税務署で利用可能な状態となっています。例えば、沖縄で収集された資料に北海道の事業者との取引があれば、北海道の調査官がその資料を調査時に利用できる訳です。架空経費など、不整合を生む初歩的で単純な不正は、この収集した情報で比較的簡単に発見できます。

3.不正調査・防止への活用
1)税理士とのコミュニケーション
このように、税務調査は不正調査と非常に似ており、また一般的な不正調査においては権限上得難い情報も利用できます。となれば、冒頭で述べた通り、税務調査において不正が発覚しやすいことも理解できます。

しかし、税務調査で発覚している不正は、金額的な重要性の少ないものを含めると実は氷山の一角なのです。調査官は不正の調査を主眼としている訳ではありませんから、増差(税額が増える論点)以外は原則として立ち入らず、その場の注意で済ませてしまう事も多くあります。税務調査件数にもノルマがありますから、自分の仕事に効果が少ない論点に正義感をもって立ち入るより、次に進んだ方が楽な訳です(実際、いわゆる「良い税理士」はこの落としどころを探り、税務調査におけるクライアントの負担を軽くするよう努力します)。

しかしこれを不正調査の観点から見ると、非常に大きな問題があります。不正は「税額を増やす」という論点において重要性が無くても、粉飾やコンプライアンス、レピュテーション上の大きな問題となる場合があります。また「網羅性」にさほど重点を置いていない税務調査でたまたま発覚したということは、ハインリッヒの法則(「1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在する」という経験則)から見ても重大な問題が隠れている可能性があるのです。

また、会社側で税務調査を担当するのは経理担当者や社長など経営者自身であることが多く、これらの問題が自らに関係する場合には、当然隠蔽の意思が働きやすくなります。

このような問題に対しては、税務調査に関しては内部監査担当者や監査役が進捗や発見事項を把握してくことが重要です。税務調査担当職員や顧問税理士とコミュニケーションを取ることはもちろん、税務調査日程や調査官との面談、調査への立会、報告会への同席など、表に出ない問題点を闇に葬らせない牽制が効果的であると考えます。

2)税理士法33条の2書面、意見聴取制度の高度な利用
税理士法第33条の2に規定された「書面添付」制度は、申告書を作成するに当たって計算した事項等を記載した書面(添付書面)を税理士が作成した場合、当該書面を申告書に添付して提出した者に対する調査において、税務調査の通知前に、添付された書面の記載事項について税理士が意見を述べる機会を与えなければならないという制度です。

実務を踏まえて簡単に言いかえますと、「調査に入る前に、税理士が申告書の内容(主に適切に作られているかどうか)について意見を述べ、事前に調査の要点について議論、結論まで出すことが出来る」というものです。また場合によっては調査そのものが省略される場合もあります。

この制度が素晴らしい所は、「この意見聴取段階で結論の出た項目については、もしその後調査を開始したとしても一切触れられることがない」という点です。

このような点を税理士と連携して上手に活用できれば、「当局との意見の相違が問題となりやすい税務スキームなどは調査の対象から外し、経営者自身も気づいていない誤りや不正を税務調査の過程で発見する、あるいは発生しないよう牽制する」といった非常に高度な利用をすることも可能です。

私も実際このようなケースをいくつか経験していますが、先に述べたような強制力や資料収集力を持った税務調査が不正対応に与える影響は絶大なものがあります。

税理士法33条の2書面については、こちらのコラム(「税務調査を受けない方法」)を参照

4.税務調査による不正発覚事例と分析
1)架空循環取引
日本公認会計士協会 会長通牒平成 23 年第3号「循環取引等不適切な会計処理への監査上の対応等について」は、循環取引について「経営者、あるいは特定の事業部門責任者等により意図的に仕組まれる為、正常な取引条件が整っているように見える場合が多い」と述べ、下記のような特徴を持っていると説明しています。

  • 取引先は、実在することが多い。
  • 資金決済は、実際に行われることが多い。
  • 会計記録や証憑の偽造又は在庫等の保有資産の偽装は、徹底して行われることが多い。

この会長通牒でも述べられているように、架空循環取引は非常に巧妙に正常取引を偽装しており、一般的なリスクアプローチに基づく監査によって発見することには限界があります。また、平成25年に発表された「不正リスク対応基準」でも、架空循環取引への対応は「取引先企業の監査人との連携」が必要であるとして継続審議となっています。

しかし、税務調査は前述の「反面調査」や「資料せん」、そして取引内容や債権債務、棚卸資産などに関する質問により、架空循環取引から生じるわずかな不整合を見出す可能性を持っています。

循環取引は一種の粉飾ですから税務調査において主眼とすべき論点ではありませんし、監査と同様発見それ自体は難しいものです。しかし調査の過程においてその兆候が出ることも多く、調査官と会社担当者間のやりとりを十分に把握しておくことが重要です(調査による発見・摘発は難しくても、不正リスク評価上重要な情報の得られる場合があります)。

事例:広島ガスグループ架空循環取引(税務調査での発見事例)[PDF

2)資産の流用、横領

  • 旅行会社の架空請求書、領収書(出張日報とは合致)
  • 領収書がコクヨ(会社名、住所、電話番号記載あり)であった点について注目
  • 会社名を検索しても出ず、電話番号は生きているが電話は着信しない

結局このケースにおいては、出張のハシゴや安宿の利用によって節約した旅費と、架空旅費の差額を横領していました。

一般的に、税務調査において「コクヨ領収書」や「手書領収書」など、調査官が経験上疑問を持つ証憑類はよくピックアップされます。

ところが、税務調査の実務上は、他に大きな論点があった場合にはこのような論点が「口頭での注意勧告」にとどまることが多く、闇に葬られる場合も多くあります。この点からも、できれば調査の過程を把握しておく必要があります。

3)テレビ朝日社員が1億4千万円流用
テレビ朝日は2013年11月20日、外部の制作会社に架空の業務費などを請求させ、番組制作費合計約1億4100万円を着服したとして、プロデューサーを11月19日付で懲戒解雇したと発表した。同局によると、2003年11月~2013年3月までの10年間に亘り、伊東は制作会社3社に架空計上や水増しした業務代金を請求させ、同局から支払われた番組制作費を私的な国内外への旅行費用や服飾品購入に使用して、制作会社1社には見返りとして現金数10万円を渡していたという。 2013年8月に東京国税局の定例税務調査で発覚し、同局が内部調査を進めていた。本人は私的流用を認め、返済も始めているという。(以上WikiPediaより)

以上

中小企業の不正会計と監査役(3/3)

前回、前々回は、

  • 公認会計士の監査を受けない中小企業でどのような会計不正が発生するか、また唯一対応できると言ってよい監査役がどのようにそのような不正に対応すべきか
  • 上場会社でもよく行われて問題となる「循環取引(架空循環取引)」について説明し、どのように監査役が対応すべきか

についてご説明しました。

今回(最終回)は、在庫の過大・過少計上、架空人件費の計上、横領といった、中小企業でも頻繁に発生する不正について詳しく説明し、監査役がどのように対処すべきか検討します。

3)在庫過大、過少計上
この不正は、在庫を過大計上・過少計上することで利益を実際より多く、あるいは少なく見せかける手法です。

会社の営業利益は「売上高-売上原価-営業費」で計算されますが、この中の売上原価は「期首棚卸高+当期仕入(製造)高-期末棚卸高」で計算されます。
このため、在庫(期末棚卸高)を不正に調整すると、以下の通り利益が連動して調整できることになります。

  • 在庫の過大計上→売上原価の過少計上→利益の過大計上(粉飾)
  • 在庫の過少計上→売上原価の過大計上→利益の過少計上(逆粉飾、脱税)

在庫を調整することによる不正は、先にご説明しました売上を使った不正と比べ、自社(部門)が持つ在庫の有高を上下させるだけで済みますので、会社単独での実行が容易です。このため、入金の遅れなど外部からの情報や影響で発覚することがほぼありません。会社内部の管理体制で防止、発見するしかない不正であると言えます。

(事例)
E社は今期大きく売上を伸ばし、期末の時点で多額の法人税発生が見込まれていました。このため、E社は実地棚卸の結果算定された在庫金額を(書類上)大きく削ることで売上原価を不正に増やし、利益を圧縮することで法人税額を減額しました。業績が好調で例年と比較して利益率も高かったため、不正に増やした売上原価でも昨年度までと比べて大きく利益率が変動する訳ではなく、不正は発覚しにくいと考えていました。
ところが、決算期から半年後税務調査を受けた際、期末日後2週間程度の間に計上された売上伝票と在庫計上額、期末日直前直後の仕入額などを突き合わせた結果、期末日現在に存在しなければ売上が計上できない在庫が多数発見されました。この結果、期末の在庫残高が不正に減額されていることが発覚、追徴課税を受けました。

(発見・防止手法)
在庫に関する不正も、その実行の容易さに比べ発見はさほど簡単ではありません。例えば棚卸の際に現場を確認しに行く時間的余裕があったとしても、卸売業のように多量の在庫が多数存在する場合、過大計上や過少計上はもちろん、架空在庫や帳簿外の在庫を何のテクニックもなく探すことは至難の業です。ましてや期末日から何日も経過した状況で、何の資料もなくこのような不正を発見することは不可能と言っても良いと思います。

前述したような税務調査の担当官や公認会計士はこの手の発見手法をいくつか知っていますので、そのうちの一部をご紹介します。

  • 前年度との比較
    在庫の残高を前年度やその前と比較します。事例でご紹介したように、売上高や生産高が大きく変わっていれば前年度と変化がなくても異常のある場合もあり得ます。そのような場合は、売上高や仕入高などとの比率(回転期間や回転率と呼びます)で比較するのも有効です。
  •  棚卸日直前の売上、仕入、製造
    通常棚卸時には正確を期すため販売や仕入、製造をいったん止めますので、直前に販売されたものは在庫がなくなっているはずですし、仕入や製造されたものは在庫として存在するはずです。このチェックは販売や仕入、製造の会計データと棚卸集計表を突き合わせることで実施可能です。税務調査の場合はこの手法が良く採られます。
    同様の手法として、棚卸日後1か月程度の在庫を自ら検数し、期末日からの売上、仕入、製造などの記録と突き合わせて期末日の棚卸高を推定し、棚卸集計表と合致するかどうかを検討する方法もあります。
  • 滞留在庫や預け在庫、預かり在庫の有無
    架空循環取引でも登場しましたが、長期間動きのない在庫や、仕入先などに預けていてここにはない、と担当者が主張する在庫などはそれぞれ架空在庫の可能性があります。もちろん架空在庫ではなくても、滞留していたり預けられているのは相当に異常な取引ですので、監査役としては取締役に状況の把握や承認の有無を聴取し、適切な対応を取るよう意見を述べる必要があります。
    また逆に、棚卸表に上がっていないのに倉庫や工場に置かれている在庫についても、在庫の過少計上の可能性があります。得意先からの預かりであるなどと説明をされた場合でも、その事実を確認するのみならず、預かり自体が適切であるかを判断する必要があります。
  • テストカウント法
    棚卸の当日、現場を見て回りながらいくつかの在庫を自分でも数えてみます。その結果と現場の検数担当者の結果を照合して正しくカウントされているかを確認するとともに、後で作成される棚卸集計表において正しく集計されているかについても確認します。現場の担当者と集計担当者や経営層との共謀を防ぐため、それと告げずに検数する場合もあります。

4)架空人件費
この不正は、文字通り架空の人件費を計上する方法です。人件費は製造原価や販売費管理費の一部を構成しますので、架空計上をすることで、利益は実際より少なくなります。この目的は、直接的には法人税の課税所得を減らす、すなわち脱税に使用することにありますが、経営者が自由に使える資金(いわゆる裏金)をねん出するために使うことも少なくありません。

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ただ、通常は会社の場合社会保険の手続がありますので、雇用した従業員などの氏名、住所、給与額などは届け出る必要があります。このあたり全く架空の人間を届出するとすぐにばれてしまいますので、非正規雇用、つまりアルバイトなど社会保険の加入義務のない方を対象とするケースが多いようです。

類似の不正として、全くの架空ではないものの、実際の給与計上額より少ない額を本人に渡し、差額を経営者が裏金として取得するというケースもあります。このような不正の場合、社会保険などの手続も適法になされていますし、また本人も手取りがある程度確保されていれば文句を言わない可能性がありますので、発見は比較的難しくなります。

また、結婚相手や親などの扶養になっている場合、その相手の所得税が増えるのを嫌って扶養の範囲内(例えば給与の場合は年間103万円)を超えないように、経営者に給与の調整を依頼する場合もあります。

私は架空人件費の事例に当たることはそこそこあったのですが、あまり面白いものはありませんので事例そのものは省略し、発見・防止手法に進みます。

(発見・防止手法)
架空人件費は架空の従業員を設定することから始めますので、最も有効な手段は「給与の一覧表に載っている従業員が実在するかどうか」を確認することです。

 例えば給与台帳から何人かの従業員をピックアップし、現場に赴くか電話などで呼び出してみるというのは最も簡単な方法です。

 実際の支払額が給与計算額より少ないという不正の場合は発見が若干難しくなります。振込支払が原則であれば本人の口座に正しい金額が振り込まれているかどうか総合振込依頼書の控などで確認すれば良いのですが、現金支払の場合は、給与を受け取っている本人からの供述がない限り証拠資料をつかむことがほぼ不可能と言って良いかもしれません。

5)横領(現金横領、架空仕入れなど)
会社の不正と言った場合、誰もが思い浮かべるのがこの「横領」です。横領は雇用者である会社の金品を不正に取得等することですので、それ自体が不正そのものです。しかし、例えば売掛金の回収横領、架空経費の支払、現金預金勘定の改ざんなど期末処理を中心とした不正会計を通じて、必ず決算書に問題を発生させることになります。このことから、会計監査の観点からも対処が必要となります。このセミナーにおいては、昨年発覚して注目された「仮病キャバクラ嬢への献身横領事件」を事例として取り上げたいと思います。

 (逮捕)
務先だった工業用ゴム資材の卸商社『シバタ』の資金を自分の口座に振り込ませ、だまし取ったとして、警視庁中央署は2012年4月11日、電子計算機使用詐欺の疑いで、栗田守紀(もりとし)容疑者(当時33)を逮捕しました。直接の容疑は、2009年4月から翌年の7月まで、同社のパソコンを操作し、55回にわたって自分の給与とは別に計23000万円を自分の口座に振り込んだというものです。
栗田容疑者は同社が2005年に開設したインターネット・バンキングの法人口座の責任者に命じられると、すぐに不正に手を染め、以来約200回、計約6億円を詐取したと見られています。

(横領の目的)
栗田容疑者は同社の元経理係長。横領した金額のうち総額5億円以上を、なんとお気に入りのキャバクラ嬢に貢いでいました。
当キャバクラ嬢は、2004年ごろから、東京都葛飾区のJR亀有駅付近の店にて働き始めました。栗田容疑者は彼女と次第に親密になり、栗田容疑者はアフターも含めると月に数回は一晩あたり4~5万円使っていたそうです
 その後ほどなくして、彼女は栗田容疑者に『胃がんを患っていて入院費や手術費が必要だ』と金を振り込ませるようになります。当初は数万や数十万だったその要請はエスカレートし、様々な病気にかかったと理由を付けた上で、多いときは一度に1500万円という場合もあったそうです。
その間彼女は「無菌室に入っているから」などとメールで連絡を取るだけで栗田容疑者に一度も顔を見せることはなく、見舞いに行くなどと言われると「信じてもらえないなら死ぬ」などと拒否していました。しかし実の所は、栗田容疑者から振り込まれた金をブランド品の購入やホスト遊びなどにつぎ込んでいたそうです。

 (横領の手口、発覚)
同社は工業用ゴムやプラスチック資材などを卸す商社です。当時全国に40カ所の拠点を持つ中堅の同族企業で、業界内においては「堅実な経営」で知られていました。
これに対し栗田容疑者の不正手口は稚拙なもので、銀行から発行される口座の入出金記録や残高証明を破棄、自ら虚偽の記録を作成していたそうです。
結局、2010年7月に税務署の調査が入り、容疑者の不正が発覚しました。しかし時すでに遅しで、それまでに同社が余裕資金として持っていた数億の資金が失われたことになります。

(発見・防止手法)
このようなケースは、金額の多寡はあれ決して珍しいものではありません。共通しているのは、以下のような点です。

  • 経営者に信頼される、堅実で文句も言わず休みなく働く経理担当者
  •  人材に乏しく、担当者が十数年交代していない
  •  担当者以外にはITに堪能な者がいない
  •  老舗で、資金繰りに比較的余裕がある

 このような横領を防ぐには担当者の交代(ローテーション)や強制的な休暇によって一時的に他人に業務をさせる手法が最適ですが、人材の限られる会社の場合にはどうしても躊躇してしまうと思います。しかし、厳しいようですがそのような方法を採らず一人の担当者が長期間経理業務を行っている場合、少なくない確率で、というより確実に不正が発生すると認識頂いた方が良いと思います。

なおこれらに合わせ、銀行からの残高証明や取引記録などについて、社内で別に作成したものやコピーを信用せず、必ず原本を確認する必要があります。残高証明などは社長等に直接届くなど、改ざんの隙を与えないという点をみせておくことで防止の一助にはなり得ます。

3.まとめ
1)監査役は不正にどのように対峙すべきか
これまで会計を中心に、会社で起こりうる不正のいくつかと、またその事例や対処についてご説明してきました。
不正リスクはどのような会社にもあり、完全にゼロにすることはできません。また、不正の手口それぞれに発見・防止手法も異なり、簡単に対応することができないものです。

公認会計士は、監査する際2013年4月から「不正対応基準」に従って監査しなければなりませんが、この基準を導入する際も相当な議論が交わされました。つまり、公認会計士にとっても不正への対応は難しい事なのです。
そうであれば、非上場会社の、しかも会計監査人がいない会社で、例えば経理や法務経験の乏しい監査役一人が不正に対して完全に対応することは困難を極めると言っても良いかもしれません。監査役は現場に多く立ち入ることも少ないですから、その点でも不正への対応は難しいと思います。

最後の項目は、このコラムのまとめとして、これまで説明した対応策などの他、監査役がどのような心構えで不正に対峙すべきかをご説明します。

2)変化の利用
横領や架空循環取引などに代表されるように、不正は担当者や商慣行が変わらないために発覚が遅れることが多くあります。

組織におけるの不正にとって、一種の「天敵」と言っていいのが「変化」です。この「変化」は、組織の変更、業務内容の変化、取り引き先の変動、そして監査役の交代や税務調査など、あらゆる概念を含みます。

 監査役自らが変化を発生させるわけにはいきませんが、そのような変化がある場合には必ず不正が明るみに出るチャンスがあるという認識を持っておく、いわばアンテナを張っておくような気構えが必要です。

また、新たに監査役に就任した際も注意が必要です。不正はそれが根深いほど過去から連綿と受け継がれている場合が多く、昨年との比較だけで判断できない場合も多いのです。例えば、就任する期の貸借対照表における資産、負債の内訳をチェックし、不明な残高について担当に裏付けとともに詳細な説明を求めるという手法は、過去から受け継がれた不正を発見する基礎となるだけではなく、今後担当者が監査役を警戒して不正を行いにくくなるという抑止効果にもなり得ます。

 3)不正リスクマネジメント
不正リスクマネジメントとは、会社において発生しうる、潜在的な不正の可能性と重要性を把握し(固有の不正リスク検討)、識別された不正リスクに対処すべき措置を決定、実行して、それでも発見できないリスク(残存リスク)を最小化するというリスクマネジメント手法の一つです。

このような不正リスクマネジメントは不正の防止、発見にきわめて有効ですが、これを十分に運用するためにはコーポレートガバナンスや内部統制がある程度整備されていることが必要です。このため、会計監査人非設置会社にとっては少し難しいかもしれません。

ただ、就任している会社の不正リスクにどのようなものがあるかについて今回のようなカテゴリーを参考にして検討し、それらへの対応を検討する、またその結果に基づいて来期の計画を行うといったPDCAサイクルを、簡単なものであっても実施することや、またその実施していることを経営陣や従業員に認識させることで、不正に対する抑止効果には十分なりうると考えます。

4)不正を許さない社風
これまで説明しました内容は、いくら監査役が頑張っても、全て経営者がその気になれば容易に妨害できることばかりです。オーナー経営者なら、監査役を事実上解任することも可能かもしれません。会社法上監査役は一定の地位を保護されていますが、実際には上手くいかない場合も多くあります。

また、経営者自身にコンプライアンス意識が希薄な場合、また過去から不正を嫌わないような社風がある場合、経営者本人はもちろん従業員も不正に手を染める可能性が非常に高くなります。

このように、経営者の「経営姿勢」は不正リスクに大きく影響します。内部統制の考え方に置いては、これを「内部経営環境」と呼ぶことがあります。

この内部経営環境を適切なものにしていくことは、即効性がなく非常に難しく時間がかかるものの、不正の防止には非常に効果があります。監査役としては、経営陣と対峙する場合でも、自らをも律することで「不正を許さない社風」の醸成を目指してほしいと考えています。

以上(完)

資本金・資本準備金・資本剰余金って何?

最近、最大手旅行会社のJTBが、資本金を23億400万円から1億円に減資することが明るみに出ました。
この資本金、一般的には会社の大きさを示すようなイメージでとらえられていることが多いですが、さて実際にはどのような意味を持つ存在なのでしょうか。
また、似た言葉で「資本準備金」や「資本剰余金」という概念との違いは何でしょうか。
今回は、これらの意味やその役割について、幅広くご説明します。

決算短信純資産の部
例:ある会社の純資産の部

1.会社には「カネ」が必要
言い古された言葉ですが、事業に必要なのは、「ヒト・モノ・カネ」です。
しかし、ヒトもモノも、カネ(資金)がなければ手に入れることは出来ませんね。

あなたには良い友達がいて、個人事業を起こす際には道具を貸してくれたり、またしばらくは無償で手伝ってもらえたり、というありがたい協力を得る事も出来るかもしれません。しかし出来たばかりの「会社」の場合そういうことは普通望めませんので、やはり「ヒト」や「モノ」を得るには資金が必要なのです。

このように、事業を始めるに当たって必要な資金のことを、経済学用語で「資本」と呼びます。別の言葉で言うと「元手(もとで)」ですね。この資本(元手)を手始めとして、会社は事業を拡げていくことになります。

2.「資本」は「資産」ではない
では、要するに資本とは「資産」のことじゃないか?と思ってしまいますが、そうではありません。会社の資産というのは、「会社が所有する財産」のことを言います。

資本(元手)を原資として資産を買い、人を雇い、そして事業に精を出して利益を上げたら、「資産」は少しずつ増えていきます。
つまり、資本は会社がその所有者(株主)から預かった元手の額すなわち「過去の金額」であり、資産は事業活動の結果会社が持つことになった財産の「今の金額」なのです。

3.「資産」「負債」「純資産」
以上の通り、資本は会社が株主から預かった元手であり、資産は会社が持つ財産の今の金額であると言えます。

ところで、会社がお金を調達する方法にはもう一つあります。それは「借入」です。
銀行等金融機関や、それ以外の個人や会社からの借入金は、資本と同じく会社にお金をもたらしますが、そのお金の「返し方」が資本と違います。

資本は、原則として会社が無くなるまで返してもらえませんが、借入金は、一定の期限や金利を定めて返済しなければなりません。
その他、仕入代金や税金の支払義務など、会社が負う債務をすべて合わせて「負債」と呼びます。

ここで、会社の良し悪しを示す、もっともシンプルな数字である「純資産」が出てきます。
純資産とは、「資産」から「負債」を差し引いた金額です。

言い換えれば、「返さなければならない負債を全て返した後、会社にどれくらいのお金が残るか」を示すのが「純資産」なのです。
この純資産は、会社に出資した株主がもともと出したお金から出来たものですから、原則として株主のものです。このため、純資産は「広義の株主資本」とも呼ばれます。

4.会社法
このように、「資本」とは、株主が出資したお金や資産、負債から定義されます。
ところが、どのような会社であるかを判断するため大変重要な数字である資本について、分かりやすい決まりを定めておかなければ、決算書を作る際や株主、銀行などが見る際に混乱が生じてしまいます。

このため、会社に関する様々な決まりを定めた「会社法」においては、資本について細かい規定が設けられています。

次の項目から、会社法における「資本金」「資本準備金」及び「資本剰余金」についてご説明します。会社の種類によってこれらの定義や制度は少しずつ異なりますので、このコラムにおいては全て「株式会社」を前提としています。

5.「資本金」は自分で決める
会社法において、株式会社の資本金は以下のように定義されています。

会社法第445条 株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。2 前項の払込み又は給付に係る額の二分の一を超えない額は、資本金として計上しないことができる。

つまり資本金の額は、株式会社の設立や株式の発行をした際に、株主が払い込んだお金のうち、1/2以上、ということになります。

会社法が出来る前は、会社の財産が多い方が債権者を保護できるという考え方のもと、株式会社が1000万円、有限会社が300万円という「最低資本金」制度が設けられていました。

しかし、前の項目で説明した通り、「資本金」と「資産」すなわち会社の財産額は異なります。
このため、新規開業を促進することを目的として、最低資本金制度が廃止されることになり、「資本金1円」の会社を設立し、維持することも可能となりました。

現在も依然として資本金の額(会社の登記簿で確認できます)によって会社の規模を判断される場合もありますが、最近はこのこともあってあまり気にされなくなってきたようです。

6.「資本準備金」は自動的に決まる
次に、資本準備金は以下のように定められています。

会社法445条2 前項の払込み又は給付に係る額の二分の一を超えない額は、資本金として計上しないことができる。

3 前項の規定により資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない。

例えば、株主の払い込んだお金が100万円だったとすれば、そのうち50万円までは「資本金としない」ことができ、その「資本金としなかった」金額が資本準備金になる訳です。

会社法で定める準備金(法定準備金)は、会社法が出来る前(商法の時代)からありましたが、これは「会社の債権者を保護するため、一定額を溜めておきなさい」という意味合いの制度と言われており、資本準備金の他には利益準備金が定められています。

この法定準備金、減らすことができる目的には①資本金への組み入れ ②剰余金への組み入れ の2つがありますが、②の際には「債権者保護手続」が必要になります。この債権者保護手続は、資本金を減少する「減資」の際にも求められています。この点から見ると、法定準備金は、資本金に近い性格を持つと言えるかもしれません。

7.「資本剰余金」にはいろいろある
会社法上、資本剰余金は、資本準備金及び資本準備金以外の資本剰余金(その他資本剰余金)に区分されます。ここで説明する資本剰余金はその他資本剰余金を対象とします。

その他資本剰余金は、「資本としての性格を持った剰余金」として位置付けられます。

つまり、利益から発生する「利益剰余金」とは異なり、株主からの払込など、資本取引から発生する剰余金であるという意味です。

その他資本剰余金には、以下のようなものが含まれます。

  • 資本準備金の取り崩し額
  • 自己株式処分差額(自己株式を譲渡した際の差損益)
  • 組織再編における増加資本のうち、資本金や資本準備金に組み入れなかった金額

会社が配当する際、純資産のうち資本金や資本準備金は配当の原資にはできませんが、その他資本剰余金は配当原資とすることが認められています。この点が、資本準備金とその他資本剰余金の大きな違いです。

8.大会社
資本金が5億円以上になると、会社法上は「大会社」として取り扱われます。この場合、中小企業と違って以下のような義務が課されることになります。それぞれ大きな論点ですので、内容の詳しい説明は省略します。

  • 会計監査人の設置義務(公認会計士による監査)
  • 監査役会設置義務(委員会設置会社を除く)
  • 内部統制システムの決定義務
  • 損益計算書についての公告義務(基本は貸借対照表のみ)
  • 連結計算書類作成義務(有価証券報告書提出会社のみ)

9.その他の違い
ここまで資本金、資本準備金、及び資本剰余金について、会社法の定義を説明しました。

これらは、「利益」ではなく「株主の支出した資本」から生み出される点については共通しているのですが、法律の定めでそれぞれ違った取り扱いとなっています。

ところで、資本金、資本準備金、及び資本剰余金の違いはこれら以外にもありますので、以下簡単に説明します。

①その他の違い-法人税法(中小企業税制)
法人税法には中小企業に対する税率軽減の制度があります。この制度、「資本金」が1億円以下(大会社の子会社などは除かれます)の会社を中小企業と定め、このような会社に限っては年間800万円の所得まで、通常の税率より低い法人税率を適用するというものです。また、この他にも中小企業に関しては法人税法上の特典を受けることが出来る制度があります。
※ニュースとなったJTBは、主にここを狙っていたと考えられます。

さらに、中小企業の中でも資本金が3000万円以下の場合、中小企業支援の観点から多くの特典が用意されています。

②その他の違い-法人税法(資本と利益の違い)
現在の会社法は「資本」と「利益」については概念上区分しているだけで、実際には資本剰余金からの配当(本来利益から行われるもの)が認められているなど、相互の違いが事実上なくなっています。

ところが、法人税法上「資本」はあくまで「株主から払い込まれたもの」で、「利益」は「会社が獲得したもの」として、未だ明確に区分しています。このため、自己株式を売買した場合や、資本剰余金から配当を行った場合など、会社法に基づく会計と法人税法上の処理に違いの発生する場合があります。

③その他の違い-消費税法
新しく会社を設立する場合、「資本金」を1000万円未満にしておくと、設立以後2年間(売上高などが非常に多くなる場合は1年7か月程度が限度)は消費税の納税が原則として免除されます。

④その他の違い-地方税法(均等割)
地方税(都道府県民税や市町村民税)には、利益が出ていなくても一定の税金を会社に課す「均等割」という制度があります。この均等割の金額は、会社の規模が大きくなると高くなるよう定められています。

法人税の場合、会社の規模は前述の通り「資本金」で判断するのに対し、均等割の場合は「資本金等」で判断します。

この「資本金等」には、資本金と資本準備金が含まれるのですが、さらに「無償減資による減資差益」という金額も加えなければなりません。この減資差益は、資本金を減額して、株主にお金を払い戻さなかった時に発生するものです。つまり、税金を下げようとして資本金を減額したとしても、均等割は減らしてもらえない訳です(平成27年度の税制改正によってこの点は一部緩和されています)。

その他の違い-地方税法(外形標準課税)
外形標準課税は、規模の大きな企業に対して、均等割よりさらに積極的な課税を行う、地方税の一つです。具体的には、資本、所得、付加価値の3要素に課税をする制度となっています。

この制度の「資本」への課税は、前項で説明した「資本金等」が対象になるのですが、何故か大企業かどうかという判定は、「資本金が1億円を超えているかどうか」となっています。ですから、資本金と資本準備金を合わせた金額が1億円を超えていても、資本金が1億円以下であれば外形標準課税の対象にはなりません。このため、制度の導入時は、資本金を1億円以下に減らす減資手続が相次ぎました。

の他の違い-中小企業基本法(中小企業法)
中小企業基本法(中小企業法)は、我が国における企業の多数を占める中小企業を支援し、国民経済の健全な発展及び国民生活の向上を図ることを目的として制定されています。そのため、中小企業法には、中小企業施策に関する国及び地方公共団体の責務等が多数定められてきます。

この中小企業法における「中小企業」、会社法や税法とは少し異なり、業種や資本金、従業員などの多寡によって、個人も含めて判定することとなっています。

例えば、製造業で、資本金の額が3億円以下、又は常勤従業員が300人以下の会社の場合、中小企業法上の中小企業として扱われることになります。

10.まとめ
資本金、資本準備金、資本剰余金の違いについて、会社法を中心に、その他の制度も含めて説明しました。

最低資本金制度がなくなったことで、中小企業を起業や経営する場合「資本金の大小」を意識する場面は少なくなったように思います。ただ、後にIPO(上場)の準備を開始したり、他社をM&Aしたりといった場合には、この論点を意識して物事を進めなければならない場合が出てきます。

ただ、中小企業にとって一番大事なのは「資金繰り」です。確かに1円の資本金で会社の設立は可能ですが、開業当初の会社には1円しかない訳ですから、起業時の準備費用すら支出出来ないことになります。

起業時の資金調達は誰もが苦労するところですが、自己資金、借入金などをバランスよく組み合わせつつ、資金繰りに工夫をしながら、あなたのビジネスを成長させていきましょう。

以上

「生産性」とは言うけれど(耕夢システムのご紹介)

1.日本の生産性が低い?
日本の企業はよく「先進国中で生産性が低い」と言われます。
この生産性、一般的な定義は

「労働時間当たりで生み出した付加価値」

とされています。

付加価値というのは、企業活動で世の中に生み出された新しい価値のことで、企業の利益や給料、賃借料や金利、税金などを合計したものです。
要するに、その企業活動が無かった時に比べて世の中がどれくらい(金銭的に)良くなったかを示す指標と言えます。

ということは、「生産性の低さ」は、要するに

「世の中を(金銭的に)に良くしたければ、他の国より長く働かなければならない」

ということを意味します。

「だから日本は長時間労働から脱却できないのだ」ともいわれることがあります。

国レベルの労働生産性については、国が生み出した付加価値(GDP)を総労働時間で割って計算する場合が多いので、その統計における経済構造や計算基礎で結果が割とばらつくため、国どうしの比較(マクロ経済レベル)において単純に断じるのは議論があるようです。

日本の労働生産性
OECD加盟国の時間当たり労働生産性比較(2017年 総務省)

2.それでもやはり生産性は低い
しかし、やはり日本の一般的なビジネス環境においては、生産性を低くする要因が結構あるように思います。

分かりやすい例で書いてみます。
同じ場所から出発し、同じ目的地に向かう2台のタクシーがあるとします。

  • ある運転手は、豊富な知識をもとに、裏道も上手に使った効率的なルートで、信号や渋滞にもつかまりにくい適切で上手な運転により、早く到着しました。
  • もう一人の運転手は、何も工夫しない、信号や渋滞にはまりまくるルートを走り、希望の時間よりずいぶん遅れて到着しました。

さて、今のタクシー料金ルールで、運転手の売上が高いのはどちらでしょうか?
前者の運転手は持てるスキルを最大限使ってお客様に良いサービスをしたにも関わらず、ぼんくらな後者よりずっと低い売上しか上げられないのです。

なんだタクシーの例だから我々の会社とは関係ないじゃないか、と思うかもしれませんが、違います。
皆さんがお勤めの、または経営される会社の中にこういうおかしな評価が存在しませんか?
きちんとした成果測定がないため、このタクシーのような、本質とは逆の評価結果になっているケースはありませんか?
きちんとした成果測定のない職場においては、同じ問題が発生するのです。

よくあるのが、「日中タバコ休憩などでサボっていて残業の多い労働者は残業代が増えて給与が高く、一生懸命業務効率やコミュニケーション、スケジュールを工夫して時間内に仕事を終えている労働者には残業代がつかず、給与が低くなってしまう」という例です。
もっと厄介なのは、仕事の内容を評価するための測定がなされておらず、上司は残業している社員を「頑張っている」、していない社員を「仕事しておらず暇」と評価してしまう可能性があることです。

そうなると、企業全体の生産性が悪化するばかりか、「本当に良い仕事をしている良い社員」が評価されない現実に幻滅して離職してしまうという、最悪の事態を招きかねません。

3.成果測定の重要性
このように、測定手法がないか、それ自体に欠陥があると、生産性の低下だけではなく組織上も大きな軋轢を生む恐れがあります。
「生産性の低さ」という問題のあるところには必ず「正しい成果測定がない」という背景が存在します。
しかしこの成果測定、戦後の高度成長期、言い換えればアナログな世界においては大変難しいものでした。
何しろ表計算すら使えない環境ですから、給与の計算に使う労働時間の集計すらそろばんや電卓で行う必要があったのです。
そんなわけで、社員の個別の仕事内容やその所要時間を集計するなど極めて大きな手間、コストのかかる作業が必要で事実上不可能でした。
でも、「昨日より今日、今日より明日はもっと良くなる」という希望を持たせる著しい経済成長が、それを見ずに済む環境を与えてくれていたのです。

しかし、現在のようにITの普及した環境においては、大きな手間をかけずに「社員のアクティビティに基づいた詳細な成果の測定」が可能となっています。
成果測定が可能になれば、先に挙げたような「頑張っているように見える」社員のフェイクも見破れますし、本当に頑張る社員への評価も正しいものになるはずです。
何より、昭和期のような「みんな一斉に成長する」という経済が全く望めない現在、この問題を「見ぬふりする」ことは、企業だけではなく社会や国自体の衰退をさらに加速してしまうでしょう。

4.税理士業界の問題
実は、私たちが属する税理士事務所の業界は、この「成果測定」についてかなり遅れた環境にあると言わざるを得ません。
労働時間については法律の規制もありタイムカード等で把握しているのですが、職員が一日どのような仕事をどれだけしたか、という記録については、顧問先ごとに何をしたか、という程度の記録がほとんどです(実際にはこの記録すら作成していない事務所もあります)。

これに加えて成果の判断は「担当する顧問先の報酬」「残業時間」等「単純な数字」に応じて行われることが多いため、入力スタッフを独り占めして売上を増やしたり、新人への指導を嫌がる、産休・育休社員を疎んじる(他人のサポートをすると自分の時間が減って担当する仕事が進まないため)といった問題や、多く残業している人間を「頑張っている」、効率よく仕事した人間を「仕事していないと判断する」、といった誤解が多く発生します。

よく言われるように、税理士業界は過当競争の真っただ中にあります。
多くの事務所が価格競争に晒され、無理なコストダウンや人件費の高騰(経験者を最優先することが多く、人材不足も深刻です)によってどんどん収益性が下がっているのに、生産性の低下原因がどこにあるのかを把握できずにいるのです。

5.耕夢システム
こういった問題に対処するため、弊所が開発・運用している「耕夢システム」には、顧問先ごとよりさらに詳細な「プロジェクト(会計、税務、相続、コンサルなど)単位」の時間管理を詳細に記録する機能が盛り込まれています。自分の担当業務だけではなく、他人のサポートも正確に記録され、自身の業務時間と同等以上に評価される仕組みとなっているのです。
このことは「未経験者でも手厚い周囲のサポートで業務がこなせる」という副次的効果も生み、人材難への解決策になっています。

また、年間のどのようなタイミングでどのような時間発生があったかをグラフで確認する機能もあり、生産性の改善や顧客に対する価格変更の説明にも大きな効果を生んでいます。

発生時間推移
時間発生実績グラフの例(耕夢システム)

プロジェクトの売上予算に対して時間の発生が想定より過大となっている場合には「採算アラート」が発出され、異常な時間発生について分析、対処を促す機能も装備されています。異常な時間発生には様々な原因があり、担当者の単なる不効率だけではなく、イレギュラーな事象の発生、顧客要求の増大など、原因によって対処のまったく異なる場合があるためです。

この結果、弊所の生産性は大きく向上しています。
業務時間を変えずに1~2割増の新規業務をこなしたり、コロナ禍においてテレワークや短時間勤務を織り込んでも仕事の成果が変わらないなど、耕夢導入後良い傾向が続いています。

今後はさらに精緻な評価制度を社会保険労務士等専門家とともに開発し、より良い事務所運営を目指します。