月別アーカイブ: 2021年8月

献血と骨髄バンク(新型コロナワクチンとの関係)

皆さん、献血をしたことがありますか?
ときどき、赤十字や若者たちが街で「献血をお願いします」と呼びかけているのを見たことがあると思います。また、ひょっとしたら大きな怪我や手術で、輸血を受けられたことがあるかもしれません。この献血について、また水泳選手が急性白血病を発症したことで注目を浴びている「骨髄バンク」について、またそれらに関連した活動、問題点について少し説明したいと思います。
※新型コロナウイルス用ワクチン接種の場合の注意点を追加しました。


厚生労働省の献血キャラクター「けんけつちゃん」

1.献血とは?
献血とは、病気や怪我で輸血を必要としている人のために、「自発的」に「無償」で血液を提供することを言います。日本での献血の受入れは、国(厚生労働省)から唯一、採血事業者として許可を受けている日本赤十字社が行っています。
この「自発的に」「無償で」という点、実は国際的な定義があります。
1991年の国際赤十字・赤新月社決議によると、「自発的な無償供血とは、供血者が血液、血しょう、その他の血液成分を自らの意思で提供し、かつそれに対して、金銭又は金銭の代替とみなされる物の支払いを受けないことをいう」と決められています。
かつては「売血」「血液銀行」といって、有償で人々から仕入れた血液を輸血用に売る商売がありました。このような事業者に血液を売る人々の多くはいわゆる低所得者で、生活の糧を得るために血液を売らざるを得ない人々でした。そうなると、本来間隔を置かなければならない売血が頻繁になり、健康を害するようになってしまいました。このような人からの血液は、輸血に適さない上に肝炎などの副作用を起こすリスクも増大します。
このような問題を受け、政府は昭和39年8月21日、献血に関する体制整備(日本赤十字社または地方公共団体によるもの)を閣議決定しました。その後売血はほぼなくなり、現在のような体制が続いています。

2.献血を受けるには
会場を探す
まず、各所に設けられている献血ルームや、イベント会場などにやってくる献血バスを探しましょう。日本赤十字のWEBページから、各地での献血会場を検索することができます。どの会場でも、後述の献血カードがあれば献血者の情報は記録されていますし、安全・衛生面において全く問題がありません。便利な場所、時間で気軽に行ける場所を選んでください。

申し込む
献血カードをお持ちでない方は、会場の窓口で作ってもらいましょう。献血は前回との間隔や年齢等さまざまな制約があり、個人ごと個別に管理する必要があるので、このカードがなければ献血できません。この申請の際には氏名、生年月日、原則として写真付きの身分証明の提示が必要です。
なお残念ながら、年齢制限や特定の薬の服用、予防接種を受けた場合、海外から帰国後4週間以内の場合や特定期間内に特定国(イギリスなど)に滞在していた場合など、「献血ができない」一定の制約があります。献血カードを提示後いくつか質問を受けますので、これらには正直に答えましょう。

献血する
カードが作成できたら、献血ルームに入ります。しかし、ここでいきなり献血するのではなく、医師の問診、血圧、血液検査、シーフテスト(肩・腕・手の状態が悪くないか自己検査)などの簡単なチェックを受ける必要があります。
これらの検査が終わった後は、ようやく献血開始です。
少し背中を起こしたようなベッドにリラックスして横になり、献血用の針を腕に刺して血液を提供します。
血管の太さや体の大きさなどによって異なりますが、400mlの献血で10~15分程度、成分献血と呼ばれる、血液から必要な成分だけを抽出して元に戻す献血の場合には40~1時間半程度かかります。私の場合は適しているのか、10分かからないことが多いです。
その間、担当するスタッフや看護師さんからは、しつこいくらい「大丈夫ですか」「水分採って下さい」と言われます。これは、血液の減少による体調不良を防止するためです。実際、献血後くらくらして倒れる方もおられるようです。これに対し、献血を始める前から何本かの飲料を持っておき(会場には大量に飲料が置いてあるのでいくらでももらえます)、献血中から少し多い目なくらい飲んでおくと、このような体調不良をほとんどなくすことが可能です。

④新型コロナなど、ワクチンを接種した場合
ワクチンは、人間が持つ「免疫」の仕組みを人為的に利用し、ウイルスや細菌などの病原体に対する抵抗力を作り出します(ワクチンの仕組みや種類については、「コロナワクチンとリスクマネジメント」を参照)。
この過程で、弱らせた病原体やウイルス、mRNAと呼ばれる遺伝子を体、すなわち血液に注入するので、これがそのまま献血で取り出されてしまっては、献血血液にそういった物質が紛れ込むことになりリスクがあります。

このため、日本赤十字は元々、以下のワクチンに応じて献血が不可となる時間を決めていました。

  • インフルエンザ、日本脳炎、コレラ、A型肝炎、肺炎球菌、百日ぜき、破傷風等の不活化ワクチンおよびトキソイドの接種を受けた場合…接種後24時間
  • B型肝炎ワクチンの接種を受けた場合…接種後2週間
  • 抗HBs人免疫グロブリンを単独または併用した場合…投与後6カ月間
  • 狂犬病ワクチン(動物にかまれた後)を接種した場合…接種後1年間
  • おたふくかぜ、風疹、BCG等の弱毒生ワクチンの接種を受けた場合…接種後4週間
  • 天然痘ワクチンの接種を受けた場合…2カ月間
  • 破傷風、蛇毒、ガスえそ、ボツリヌスの抗血清の投与を受けた場合…投与後3カ月

これに加えて、新型コロナウイルスのRNAワクチン(mRNAワクチンを含む)を接種した場合には、1回目、2回目いずれの場合も、接種後48時間を経過するまで献血が不可となりました。
なお、現在公費接種の対象となっているRNAワクチンは、ファイザー社と武田/モデルナ社となります(2021/8/21現在)。 また、その他の種類のワクチンを接種された方は、現時点では献血不可とのことです。
加えて言うと、予防接種「前」の献血については基本的に制限していないとのことです。

【令和3年5月14日から適用開始】 新型コロナウイルスワクチンを接種された方の献血受入れについて(日本赤十字)

2.骨髄バンクについて
骨髄バンクとは
人間の血液は、白血球や赤血球、血小板などの血液細胞から構成されていますが、これらの細胞は全てが「骨髄」(骨の中心部にある組織)の「造血幹細胞」という一種類の細胞から作り出されています。この骨髄において異常な造血細胞が無秩序に増加し、正常な血液細胞の増加を妨げる状態が白血病です。白血病になると、赤血球の減少による貧血や、白血球の減少による抵抗力減、そして血小板減少によって出血しやすいなどの症状が現れます。

この白血病は血液のがんと言われていますが、今のところ抗がん剤・放射線と骨髄移植によるものが代表的な治療法です。
骨髄移植とは、抗がん剤や放射線によって白血病幹細胞などの病原を死滅させ、その後正常な骨髄を移植することで、正常な造血力を再生させる治療法です。
この骨髄移植は、患者のみならず移植細胞の提供者にも大きな負担がかかることや、拒否反応が発生しないよう「型」の合う提供者を探さなければならないことから、効果は大きいものの容易な方法ではありません。
骨髄バンクは、このような患者さんを救うため、善意による骨髄提供の仲介を行うために設立されました。提供者となるドナーを多く集め、移植を必要とする患者さんとのマッチングを迅速かつ公平に行うことをその使命としています。
ドナー登録については様々な場所で受け付けが行われており、もちろん献血会場にも受付窓口があります。

骨髄バンクの抱える問題
トップ水泳選手の急性白血病が取り上げられた関係で、ドナー登録を希望する人々が急に増えたそうです。ドナーとなれるのは20歳以上55歳以下(登録自体は18歳以上54歳以下)の方だけで、しかも多様な型が必要だったり、献血以上に様々な制約がありますので、慢性的に不足している状態が多少改善されるかもしれません。
しかし、実際には「キャンセル」という深刻な問題も起きているそうです。
実際にあった話として看護師さんから伺ったのは、こんな話です。
小さなお子さんが白血病となり、せっかく待ちに待った「型」の合うドナーが見つかったのに、移植直前になって「キャンセル」された(制度上キャンセルを制限することはできず、理由も聞けない)ことがあったそうです。ご両親のお気持ちを思うと胸が痛みます。
実際登録はしたものの、提供する場合には数日入院しなければならないこと、提供側にも副作用の出る可能性があることなどから、このようにキャンセルする場合が出てくるそうです。

3.ロータリークラブ・ローターアクトクラブの活動
私が所属するロータリークラブ(世界200以上の国と地域、120万人を超えるメンバーで構成された奉仕団体)においては、献血や骨髄バンクの活動を長きにわたり支援しています。
ロータリークラブとともに活動する、30歳までの若者で構成された「ローターアクトクラブ」とともに、各地の献血会場でPRや誘導、骨髄バンク説明員などのボランティア活動に汗を流しています。
会場で見かけたら、是非激励してあげて下さい。

4.宗教と輸血
時折、宗教上の理由から、本人や家族により「輸血を拒否」した場合がニュースになります。
我が国は信教の自由(憲法20条)、自己決定権・幸福追求権(同13条)が認められていますが、他方医療機関としては治療上、献血しなければ患者の生命が危険な状況を放置するわけにはいきません。実際、宗教上輸血を拒否する患者に同意なく輸血した医療機関が賠償請求された場合もありました。
このため、現在はほとんどの医療機関が「宗教上の理由により輸血を拒否する患者さんへの基本方針」といったポリシーを定めて公開し、そのような患者さんの理解を得るようにしています。
基本的には「相対的無輸血(患者さんの意思を尊重して可能な限り無輸血治療に努力するが、輸血以外に救命手段がない場合には輸血する)」の立場を採り、「絶対的無輸血(いかなる事態になっても輸血をしない)」は否定する、という内容となっています。

policy
宗教上の理由により輸血を拒否する患者さんへの基本方針の例(神戸赤十字病院)

どんな会計ソフトでもOK(汎用データコンバータ)

1.財務会計データの非互換性
会計ソフトに代表される財務会計用ソフトウェアは、それぞれの開発会社が独自に定めた方法でデータを保存しており、当然ながらそれぞれの間に互換性(相互に利用できること)がありません。
このため、例えばある会計ソフトを長年利用してきた会社が、別のより使いやすい、廉価な会計ソフトに移行したいと考えたとしても、旧ソフトから新ソフトへのデータ移行は容易ではありませんでした。
また、同じ開発会社の会計ソフトと販売管理ソフトは連携の取れる場合が多いのですが、違う開発会社間の連携はごく稀なケースを除いては不可能でした。
そんな訳で、これまで財務会計用ソフトの世界は、データの非互換性が一種の「移動障壁」であったと言えます。

2.汎用データコンバータ
このような状況に対応するため、税理士法人耕夢は「汎用データコンバータ」を開発しました。

汎用データコンバータを利用した業務の例

このコンバータは、①ある会計ソフトウェアや販売管理ソフトウェアなど、決まった様式で多数の取引などの情報を持つデータ(ソースデータ)から、別のソフトウェアにおいて取扱が可能な様式へ、一度の簡単な設定後は自動的に変換を行うことができる、一種の「フィルタ」と呼ばれるアプリケーションです。

このコンバータを利用することで、お客様がどの会計ソフト(仕訳をCSVなどテキストデータの形で出力が出来るものに限ります)をご利用の場合でも、簡単な基礎データ収集と初期設定によって私どもの事務所で使用する会計ソフトの形式へのデータ変換が可能です。

3.汎用データコンバータでできること
では、この汎用データコンバータでどのような作業ができるでしょうか。 現在実際に行われている作業の一部をご紹介します。

1)会計ソフト移行
このコンバータが最も力を発揮するのがこの作業です。
新しく顧問先になって頂いた会社が現在会計事務所で使用しているものと異なる会計ソフトを使用して経理業務を行っておられる場合、いわゆる「自計化(顧問先にて基本的な記帳を行い、会計事務所が内容の確認を行う方式)」状態を続けるためには、従来は

  1. 顧問先においてBをAに変更してもらう
  2. 会計事務所でBを新たに購入し、受け入れをする

など、共通の会計ソフトをどちらかで購入する必要がありました。
しかし、汎用データコンバータを用いることで、顧問先は従来通りの会計ソフトで記帳し、そのデータを会計事務所の会計ソフトに変換して受入れ、チェックや決算、申告書作成を行うという業務の流れが可能になります。

2)販売管理などサブシステムとの連携
同じメーカーのソフトを使っている場合、販売管理ソフトなどサブシステムと会計ソフトは通常連携が取れるようになっています。
しかし、会計ソフトとサブシステムのメーカーが違うというケースは以外と多くあります。その理由はいくつかありますが、例えば次のようなものです。

  1. 会計ソフトと同メーカーの販売管理ソフトが営業形態に合わない
  2. 会計ソフトは経理部、販売管理ソフトは営業部と別々に導入が行われた

このような場合も、汎用データコンバータは違うメーカー製ソフトウェア間の連携を取ることができます。例えば販売管理ソフトから販売データ、入金データなどをデータ出力し、これを会計ソフトの仕訳データに変換後会計ソフトで取り込むといった処理が可能となります。

3)財務会計データの総合チェック
汎用データコンバータの機能を用いて会計データをチェック用に加工し、勘定科目や摘要記載、消費税処理、仕訳検索、ベンフォード法(※)判定データなどの機能を付加することで、会計データの適正性や税務調査対策、ひいては不正調査に至るまでの業務を行うツールが作成できます。
弊所はこのツールを用いて不正調査や新規顧問先の予備調査などを行っています。

※自然に発生する数字の集合においては、その最初のn桁の発生度合いは一定の対数関数カーブに従うという法則。このカーブから外れるものは何らかの人為的な行為が含まれている可能性が高い。

4.汎用データコンバータの今後
今後会計はPCソフトウェアからクラウド環境へ急速に移行するものと予想されます。
また、資料をAIなどで画像処理することで自動会計仕訳が作成されたり、電子商取引の情報がそのまま財務会計データとなるなど大きく変革していきます。
しかし、会計という考え方が完全に変わってしまわない限り、「日付、摘要、勘定科目、金額」という基本的なデータ構造は不動となります。
恐らく将来的にはブロックチェーン技術(参考記事はこちら→仮想通貨技術を支える「ブロックチェーン」について)を活用し、プラットフォームを横断した財務会計情報がクラウド上で取り扱われるような形になっていくと思いますが、それまでは様々な形で偏在するデータを使わざるを得ません。その間の「つなぎ」として、しばらくは活用することになるのではないかと思います。

以上

監査等委員会設置会社への移行について

平成26年に可決・成立した改正会社法には「監査等委員会設置会社」という新たな機関設計の選択肢が盛り込まれています。
この「監査等委員会」制度については「上場企業における社外取締役の設置義務をクリアするため」であるとか「監査役制度がスライドしたもの」などとあまり良いイメージでない語られ方をすることも多いのですが、制度をきちんと研究するとなかなか使いでのある部分も認められます。
実務としても定着しつつある「監査等委員会設置会社」について、制度のあらましや監査役(会)制度との違い、活用方法について説明してみたいと思います。

1.監査等委員会設置会社制度
 改正会社法が平成26年に可決、成立しましたが、その中に「監査等委員会設置会社」という新たな機関設計の選択肢が盛り込まれました。

この制度をざっくりと説明すると、過半数が社外(従業員等ではなく、会社から独立した者)である3名以上の取締役で構成される監査等委員会が、取締役の業務執行を監査することを言います。

この改正後、数年間は上場会社において監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行する会社が相次ぎました。

監査等委員会設置会社
東証上場会社における独立社外取締役の
選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況
(2021年8月2日 株式会社 東京証券取引所)

この変化の原因には、上場企業における社外取締役の設置が事実上義務化された(「Comply or explain」ルール)ことから、監査役制度に加えて社外取締役を置くより、社外監査役を社外取締役にスライドさせてこの要件を満たしておけば合理的である、という判断が一定程度あるものと言われています。

では、監査等委員会設置会社制度は具体的にどんな特徴を持つでしょうか。会社法の条文から拾い上げると下記の通りとなります。

①監査等委員会設置会社は、会計監査人を置かなければならない(327条5項)。
②監査役を置いてはならない(327条4項、5項)。
③監査等委員取締役は、それ以外の取締役とは区別して、株主総会の決議によって選任する(329条2項)。
④監査等委員取締役の報酬等は、他の取締役の報酬等とは区別して、定款または株主総会の決議によって定める(361条2項)。
⑤監査等委員会は、監査等委員である取締役3名以上(過半数が社外)で組織され、監査等委員は、取締役でなければならず、かつ、その過半数は、社外取締役でなければならない(331条6項)。
⑥なお、常勤の監査等委員を置くことは義務付けられていない(監査役における390条3項に該当する記載なし)。
⑦監査等委員取締役の任期は2年(短縮不可)であるのに対し、他の取締役の任期は1年(定款または株主総会決議により短縮可)である(332条3項、4項)。
⑧監査等委員会は、監査等委員取締役の選任に関する議案の提出について同意権を持つ。また、監査等委員取締役は、監査等委員取締役の選任等に関して意見を述べることができる。また、監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員である取締役以外の取締役の選任等について、監査等委員会の意見を述べることができる(342条の2第1項、4項、344条の2第1項、4項)。
⑨各監査等委員は、株主総会において、監査等委員取締役の報酬等について意見を述べることができる(361条5項)。
⑩監査等委員会が選定する監査等委員(選定監査等委員)は、株主総会において、監査等委員以外の取締役の報酬等について、監査等委員会の意見を述べることができる(361条6項)。
⑪監査等委員以外の取締役との「利益相反取引」について、監査等委員会が事前に承認した場合には、取締役の任務懈怠の推定規定を適用しない(423条4項)。
⑫監査等委員会設置会社の業務を執行するのは、代表取締役または業務執行取締役(363条1項各号)であり、執行役は設置されない(399条の13第3項)。
⑬業務執行の決定
1)監査等委員会設置会社の取締役会は、362条4項各号に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
2)1)にかかわらず、監査等委員会設置会社の取締役の過半数が社外取締役である場合には、当該監査等委員会設置会社の取締役会は、その決議によって、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができる。
また 1)及び 2)にかかわらず、重要な業務執行の全部または一部の決定を取締役に委任することができる旨を定款で定めることができる(399条の13第4項、5項、6項)。

2.具体的に変わったところ、変わっていないところ
これらの条文を読んだり、運用の現場にあてはめると、監査役会設置会社と比較して次のような捉え方をしておくことが必要です。

監査役の権限、立ち位置との違い

  • 監査役の権限は原則そのまま有する
    従来の監査役の権限そのもので本質的に変更されたものはなく、監査を行う上での権限は原則としてそのままスライドしていると考えて良さそうです。但し、任期は4年から2年に短くなっています。
  • 独立性も原則そのまま維持
    選任、報酬決定、会計監査人に関する議案等がほぼ同じ
  • 但し「監査役の独任制」は否定されている
    監査役は監査役そのものが監査を担う会社の機関として定義されていました(監査役が単独で監査活動が出来た)が、監査等委員会は「監査等委員会として」監査を行うことになります。
  • 常勤の設置義務なし
    ここが非常に大きな違いです。監査役制度においては常勤監査役の設置が義務付けられていましたが、監査等委員については常勤を「置かなくても良い」ことになっています。
  • 議決権を持つ
    最大の権限強化と言えます。議決権の行使は会社のガバナンス強化に大きく影響します。

監査業務への影響
常勤の設置義務がないことで、これまで行ってきた監査役監査からアプローチが少し変わってきます。

例えば、常勤監査役が重要会議に出席するなどして収集してきた情報が、たとえば「監査等委員会室」などのサポート部門や内部監査部門の情報を利用することで集められることになります。加えて監査役監査が独任制も合わせ「直接的」に監査していた状態と少し変わり、監査等委員会による「モニタリング」に重点を置いた監査が主となると考えます。

また、取締役として議決権を持つことから、監査役が行っていた「適法性監査」に加え「妥当性監査」も監査すべき領域であるとされています。
妥当性まで監査の範囲に含まれるのであれば、監査等委員取締役は単純に「問題や間違いを是正する」というスタンスから、一種「投資家」としての視点に切り替えが必要なように思います。また、経営上のリスクマネジメントについても、十分に行われているかをチェックする必要が出てくると思います。

このような方向性は簡易版「執行と監督の分離」とも言えのですが、実際の所執行部門と監査部門の分離は設計上不十分であり、運用でカバーする必要があります。

監査等委員会設置会社への「雪崩を打つような移行」は一旦落ち着いたようですが、今後監査等委員会設置会社制度に関する実務の積み重ねが重要となってきます。
長年積み重ねられた監査役会設置会社の実務を踏まえつつ、監査等委員会設置会社の違いや意義、強み・弱みを理解して実効性の高い監査を行っていきたいものです。

 

粉飾したら相続税が下がる?-「比準要素1」の会社

相続財産に株式が含まれている場合、相続税の計算に際してその「時価」を計算する必要があります。
この「時価」、上場している会社の場合は取引所の相場があるので比較的楽なのですが、同族会社など上場していない会社の株式については、原則として国税庁が公表する「財産評価基本通達」に定められた詳細なルールに基づいて行うことになっています。ただこの財産評価基本通達、極めて精緻かつ理論的に出来ているのですが、複雑すぎて理解するのが大変だったり、ちょっとした「抜け道」的なものがあったりします。
今回は計算方法を簡単に説明するとともに、その「抜け道」の一例をご紹介します。

1.株価計算の基本
上場会社のような「市場価格」がない株式(同族会社株式)の場合、相続税などを計算する際の時価は原則として「財産評価基本通達」というルールに基づいて行いますが、このルールに従うと、株式の時価は

①時価に引き直した純資産(時価資産-負債) …時価純資産価額
②類似の会社と比較して計算した時価 …類似業種比準価額
③配当利回りに基づいて計算した時価 …配当還元価額

の3つを使って計算することになります。

③については持ち株数が少ない株主向けですが、持ち株数が多い(親族保有も含む)オーナー株主が所有する株式の場合、①と②の併用(加重平均)によって計算します。

具体的には、下記のような割合で計算されます。

  • 大会社(従業員70名超など)…②が100%(純資産は考慮しない)
  • 中会社…規模に応じて①の割合が10%~40%に変化(②の割合が90%~60%に変化)
  • 小会社…①と②が50%ずつ

2.類似業種比準価額
①の「時価純資産」は、会社が持っている財産の純然たる価値なのですが、②の「類似業種比準価額」は、単純に今どれだけの財産を持っているかという事だけではなく、「将来の儲けを織り込んで形成されている」といわれる上場会社の市場価格を利用することで、株式の将来的な価値を示すために用いられます。

類似業種比準価額の計算方式は以下の通りです。

類似業種

 

  • A~D:国税庁が公開している類似業種の表から数値を抽出。
  • 1株当配当、所得、純資産については、評価対象会社の実績の2年平均で計算します

ただ、この計算方式は「納税者有利(税金が少な目に出る)」となるように定められていることが多く、一般的な会社であれば、通常は①の「時価純資産」よりも②の「類似業種比準価額」が有利な(低い)時価となります。

3.「比準要素1」問題
2.の計算式を見ていると、1株当り配当、所得、純資産を「低く」すればするほど、計算される時価は低くなります。このため、かつてはこれらをゼロになるまで低くし、時価を下げようとする試みが行われることとなりました。

このような行為を防ぐため、現在は「比準要素1の株式」という特別ルールが定められています。

この制度の概要は以下の通りです。
もし2.で説明した計算式のうち、2つ以上がゼロであれば、1.で計算した加重平均割合を一律「①純資産…75%、②類似業種…25%」とし、純資産の割合が非常に高くなる計算に切り替えてしまうのです。
そうすると、純資産の高い金額た株価に影響を与え、一般的には時価が非常に高くなってしまいます。

ただ、このような状況が想定される場合(一時的に赤字が続き、配当も出していない場合)であっても、ちょっと粉飾して利益が出ているように見せれば、「比準要素1」問題を回避できてしまう訳です。
もちろん粉飾は良いことではありませんので、そのほかの方法、例えば適法に配当を少し出すなどの方法をお勧めしておきます。

当然ながら、既に「比準要素1」の状態「でない(純資産も利益も出ている)」会社の場合は、配当を出す必要はありませんし、逆に出してしまうと株価を引き上げてしまうことになりますので注意が必要です。

コロナワクチンとリスクマネジメント

先日、新型コロナワクチンの2回目接種を終えました。
想定された通り若干の発熱など副反応は起こりましたが、大事に至ることなく終わりました。
変異種である「デルタ株」には効かないとか、ワクチン接種は危険だとかいう意見を散見しますが、今回はワクチンの説明とともになぜ私が受けたかを書いておきます。

1.感染症と統計学
世の中にはたくさんの病気がありますが、その中でも細菌やウイルスによって引き起こされる「感染症」は厄介です。これらは宿主の体の中で増えて病気を引き起こすだけではなく、さらに別のターゲットを目指して感染を広げようとするからです。
細菌やウイルスの病原性が強いほど危険かというと、生物的にはそうも言いきれません。
感染を広げるには、「生かさず殺さず」宿主に活動してもらって、どんどん広げてもらう方が良いからです。

感染の広がりやすさは、病原性の強さよりも感染力、潜伏期間(感染してからどれくらいで発症するか)によって変わります。極めて強い病原性と高い死亡率の「エボラウイルス」がそれほど広範囲に広がらないのに対し、人によっては無症状で終わる新型コロナウイルスが今回のような世界的な流行になった理由の一つはここにあります。

このような特徴を持つため、感染症の広がりを予想したり対策を採る際には、統計学をベースにした様々な「モデル」が採用されます。このことと、我々が採るべき「リスクマネジメント」が重要な関係を持つことは後述します。

2.ワクチンの働き
人の体はよくできていて、細菌やウイルスのような病原体が体の中に入ると、それらを異物として戦いながらそれらの特徴を覚えて体中に伝達し、次の機会に戦いやすくします。このような「免疫」という仕組みがあるので、一度感染症にかかった場合でも次はかかり難かったり、かかっても重症化しにくくなります。

ワクチンはこの「免疫」の仕組みを人為的に利用します。
後で説明する様々なしくみを使い、ワクチンはウイルスや細菌などの病原体に対する免疫を作り出します。この時重要なのは、自然に病気にかかった時と違い、病気の発症なく比較的安全に免疫を作り出す点です。人間世界に当てはめると、災害などの訓練を行うようなものと言えます。

3.ワクチンの種類

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厚生労働省「新型コロナワクチンQ&A」より

①生ワクチン
最も初期に開発されたワクチンです。
19世紀初頭、天然痘を予防するため、イギリスの医師ジェンナーが牛の天然痘である「牛痘」が乳しぼりをする人に感染した際の水疱液を人に注射したのが始まりです。
生ワクチンは病原性を弱めた病原体から作られており、接種することで実際にその病気にかからせ、退治することで強い免疫力を付けることを狙っています。しかし、病原体そのものであるためリスクは比較的高く、取り扱いには気を付ける必要があります。

②不活化ワクチン、組換えタンパクワクチン
病原体に感染力をなくす処理をしたり、病原体と同じ構成のたんぱく質を使う方法です。
これらは生ワクチンと違って「ホンモノ」ではなく1回接種しただけで十分で持続性ある免疫を得ることが出来ないため、安全性とのトレードオフとして通常は複数回の接種が必要となります。

③mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン、DNAワクチン、ウイルスベクターワクチン
さらに進んだものがこれらのワクチンです。
これらのワクチンは、ウイルスを構成するたんぱく質の遺伝情報を取り出し、これを人の細胞に伝えてウイルスと同じ特徴(但し病原性なし)を持ったたんぱく質を生成させる方法です。
mRNA、DNA、ウイルスベクターの違いは、この遺伝情報を伝える方法をそれぞれRNA(リボ核酸)、DNA(デオキシリボ核酸)、ウイルスとしていることによるものです。
mRNAは非常に壊れやすいため、温度管理が重要となります。mRNA方式の新型コロナワクチンが輸送や保存に冷凍庫を必要とするのはこれが原因です。

4.リスクマネジメント
前述の通り、感染症の広がりを理解する際には統計学的な考え方が大変重要です。
となると、これを予防する、抑え込むにも統計学的に考えなければなりません。

ここにリスクマネジメントの考え方が生きてきます。
リスクマネジメントは、「リスクをゼロにする」ことを目的としていません。
リスク(一般的には危険な事象)に対し、様々な対策を採ることで、それが具現化する可能性を減じて行き、最終的には許容できる範囲にまで弱めることを意味します。

新型コロナウイルスについては、いわゆる三密(密集、密接、密閉)を避ければ感染しにくいことがわかっていますし、マスク、手洗い、うがい、消毒など対策が感染リスクを下げることも明らかとなっていますが、感染の広がりを見ていると許容できる範囲までリスクを低減しているとはいいがたい所があります。

これに対し、ワクチンについては上記の対策に加えてさらに感染や重症化のリスクを下げる効果が認められています。ワクチンを接種することについては、新しく、急いで開発されたことなどに起因する様々な懸念や変異種への効果など懸念もありますが、当面は自身や周囲の感染リスクをさらに下げるため、必要ではないかと思って接種した次第です。

専門家でない私の目から見ても明らかに「デマ」と言える情報がSNSなどで流布されていますが、できるだけ冷静に判断し、何よりも自身や周囲の大切な人たちを守る行動をしたいと思います。

上場準備と重加算税

税務調査は誰でも嫌なものですが、その税務調査が「上場」を準備している段階でやってきた場合には、非常に大事な、かつ危険な問題を抱えることになります。
上場自体を遅らせたり、ひどい場合はあきらめたり…という大変な事態も起こり得るのです。
しかし、実際に上場準備の段階は税務調査を受ける機会が多くなります。
今回はその仕組みについて、税務調査やその結果として発生する場合のある「重加算税」と、上場準備会社や上場審査との関係について書いてみます。

1.新規上場
2015年をピークに新規上場数はいったん減少しましたが、2018年には盛り返し、依然として高い水準を保っています(東京証券取引所データより)。 

 

IPOGRAPH2020
東京証券取引所におけるIPO件数の推移(東京証券取引所公表データより)

 

金融緩和で資金の投資先としてIPOに目が向けられていることや、スタートアップからのベンチャー支援環境が以前より手厚くなっていることが主な理由です。

この上場、実際準備に関わった方はお分かりと思いますが、人材の獲得をはじめとした体制整備や証券会社、証券取引所の審査、監査などに対応するための資料作成には膨大な時間と費用が掛かります。その費用を負担した上、ある程度以上の業績やその見込みを実現しなければ上場が認められるには至りません。

しかし、この上場が認められると、経営者層や従業員の持つ株式は(時価の変動はあるものの)取引所で売買できる金融資産としての取り扱いがなされます。当然その価値は上場前とは比較にならないくらい跳ね上がり、大きなキャピタルゲインをもたらしてくれます。もちろんその対価として、上場した会社は「社会の公器」としての性格が極めて強くなり、一般的な閉鎖会社とは段違いの厳しい制約を受けることになります。
とはいえ、上場は経営者として頑張る人が一度は意識する、一つの到達点といえます。

2.税務調査とは
事業をしていると必ずと言っていいほど体験することになる「税務調査」。この税務調査とはなぜ行われるのでしょうか?

法人税、所得税、相続税など主要な税法は申告による課税制度を採っています。つまり納税者が自ら申告を作成し、これに基づいて納税することになります。この場合、納税者全員が正しい知識と納税意識に基づいて申告・納税をするなら良いのですが、間違いや不正などの可能性は否定できません。このため、何らかの形で申告された内容が正しいかどうかを確認する制度が必要となります。この目的を達するために存在するのが税務調査という制度です。

一般的には、原則として納税者の同意を得て行う、いわゆる任意調査が実施されます。しかし不正等により故意に脱税をする者には、税額を正すだけではなく刑事責任を追及するため、犯罪捜査に準ずる方法で調査する場合があります。これが査察調査です。査察調査の結果いかんによっては、検察官に告発し、公訴されることがあります。

3.上場準備と重加算税
この税務調査は普通に受ける場合でも厄介なものですが、上場準備の際には別の理由で非常に慎重な対応が求められます。

税務調査で課税上の問題が発生し、その原因として「仮装(事実と異なる記録等)」や「隠ぺい(事実を隠すこと)」があったと見られた場合、税務署はその納税者に「重加算税」を課します。
この重加算税、その内容や頻度(5年以内に同税目など)によって、追徴税額の35%~50%もの加算額を納付しなければならないのです。

そして、さらに極めて重いのはそれがほかの分野に与える影響です。
重加算税は交通違反でいうと「赤切符」のようなもので、仮に送検や起訴がされなかったとしても、それらの犯罪行為と同類の「悪質な」税逃れとして取り扱われるのです。

ここで問題となるのが上場準備における「審査」です。
上場審査は、その会社が上場するに足る資質を有しているかを審査する手続きで、会社の経営内容、管理体制や事業計画など広範囲な内容について検討がなされます。
この際、「重加算税が課された」という事実は、その原因となる「仮装・隠ぺい」という事実から、監査意見の修正につながる可能性があることや、税務訴訟の可能性などから、上場審査において厳しく見られてしまう場合が多いのです。

4.上場準備と税務調査
税務調査は全ての会社に必ず頻繁に入るわけではありませんので、場合によっては上場準備中の会社も税務調査の対象とならない…と思われるかもしれません。基本的に税務署には「上場を準備している」という情報そのものは入らないからです。

しかし実際、上場準備を進めている会社には必ずと言って良いほど税務調査が入ります
それは、税務署がおおよそ以下のような手順で調査先を選定しているからです。

  1. 納税者を質的に区分
    納税額が大きく、過去に脱税なども皆無な優良法人から、脱税などが高い確率で見込まれる継続管理法人まで、いくつかのカテゴリーに分かれています。
  2. カテゴリー別の管理
    上記のカテゴリー毎に現状を把握し、調査が必要であるかどうかの準備をします。業績が急に落ち込んでいたり、好況業種の中低調な業績だったり、またその逆の場合でも調査対象になることが多いようです。消費税の年税額が還付になっている場合も調査対象になりやすいと言われています。
  3. 調査先選定
    管理によって収集された情報、これまでの調査実績(頻度)等を勘案して調査実施先を選定します。

これらを上場準備会社にあてはめると、業績の急激な伸びや人員増、資本金の増加など選定対象となる条件が多くあることがわかります。
ということで、上場準備中の会社には、特に急激な変化を起こす上場直前に税務調査の入る可能性が高いのです。
もちろん、そのような状況できちんと気を付けていなければ重加算税のリスクも高く、思わぬところで遅れたり、場合によっては上場準備自体がダメになってしまうこともあり得ます。

5.どうしたらいい?
重加算税のリスクを低くするためには、いくつか方法があります。
細かく書くとそれぞれの項目が一つのコラムになるので、ざっと箇条書きしてみます。
詳しくはこちら(税務調査を受けない方法 -税理士法33条の2の添付書面-)の記事をご覧ください。

  1. 経営者が税務に対する正しい姿勢を持つ
    なんだそれは??と思われるかもしれませんが、この姿勢は意外と調査官の良い心証に効きます。良い心証が得られるということは、「仮装・隠ぺい」ではなく単なる「誤謬」として取ってもらえる可能性が増えるということと同義です。
    来社して最初の1時間程度のやり取りから得られる心証で、その後の調査結果が大きく変わる場合があります。
  2. 税務調査の可能性を減らす文書(税理士法第33条の2添付書面)を税理士に作成させる
    これは、税理士がどのような書類を入手し、どのような手続きを経て申告書を完成させたか説明する文書です。この文書を税務署に提出することで、税務調査のリスク、特に重加算税に至るような重大な問題点のリスクをほぼゼロにすることが可能です。但し、この書面を有効に作成できる税理士はまだ全体の数%程度と言われています。
  3. 上場準備をよく知り、税務調査対応に強い税理士を活用する
    上場準備の際は、税務調査だけではなく様々に重要な論点が現れます。これは、一介の中小企業から上場会社という影響力の大きな会社に転じていくプロセスだからです。その際、上場やその準備を知っている税理士とそうでない税理士の場合には、対応に大きな差が出ます。
    またもちろん、税務調査対策(防止も含め)を多く手掛けているかどうかも判断基準となります。

以上

 

「何にでも入ってる」水晶振動子(クオーツ)の世界

スマホ、5G(第5世代移動体通信)、IoT(全てのモノをインターネットに繋ぐ)、自動運転、宇宙開発、といった最近注目されている多くのキーワード。
これらに共通して必須となる「部品」をご存知でしょうか?それは「水晶振動子(クオーツ)」です。
今回はこの「水晶振動子」について説明します。

高度な計算や電波による精密な通信を必要とする機器の場合、動作する周波数を厳密に「チューニング」する(合わせる)ことが必要となります。この「基準」となるのが水晶振動子なのです。

水晶振動子はもともと、ジャックとピエールのキュリー兄弟(ピエールは「キュリー夫人」で有名なマリー・キュリーの夫)らによって発明されたある現象(水晶に電圧を加えると変形する性質)とを基礎にしています。
水晶の小さな「かけら」に電極を付け、交流電圧をかけると非常に正確な周期で振動する(発振)電気出力が得られます。この振動は極めて正確なので、これを様々な基準として使用するのが水晶振動子の仕組みです。

この仕組みが最初に使われたのが、皆様もよくご存じの「クオーツ時計」ですね。
1950年代までは非常に大きかった水晶振動子を小型化し、腕時計サイズにまで組み込んだのが日本のセイコーです。この時計は非常に正確だったので、コストダウンが進んだ結果スイスの腕時計メーカーが軒並み衰退する(クオーツショック)という事態まで引き起こしました。

この水晶振動子、前述の通りありとあらゆる機器の中に組み込まれているため市場規模は年間3,220億円という大きなものですが、なんと世界における日本メーカーのシェアは50%近いそうです(「2017年水晶デバイス世界シェア推定」日本水晶デバイス工業会 調査研究委員会)

水晶振動子シェア
IoTは「全てのものがインターネットに繋がる」ことを意味します。
ということは、今までとは比べ物にならない数の機器(というより、シールやカプセルといった、小さなものにも設置しやすい部品)がインターネットに繋がることになります。そうなると、それぞれに内蔵される水晶振動子の需要も爆発的に増加することが見込まれます。

とはいえ、ブラウン管テレビが液晶テレビに、そして有機ELにとってかわられようとしているように、水晶振動子も未来永劫このままという訳ではなさそうです。
最近はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微小電気機械システム)という、半導体の製造過程を応用した作り方で、同じように正確な振動を発生させる部品を作り出す方法も広がってきています。まだ水晶の方がコストが低かったり消費電力の面で有利な場合が多いのですが、周波数を容易に調整出来たり、電子回路への組み込みが容易といったメリットもありますので、今後改良により水晶を駆逐する可能性もあります。

このように、地味ではありますが水晶振動子などの市場は将来的にも大きく拡大が見込まれますし、発展の余地も大きいことから「次世代産業を支えるための技術」として日本のモノづくりの力が試される分野と言えます。

見解の相違って何?(税務調査対策)

新聞などで、税務署や国税局による税務調査や修正申告などのニュースが出る際に「見解の相違がありましたが、既に修正申告と納税を済ませています」といった企業の発言が出る場合が良くあります。

この「見解の相違」とは何でしょうか?

税法はもちろん法律ですので、相当細かい検討を重ねて精緻に作られています。またその上、税務の世界には「通達」という、法律ではないものの法律に近い拘束力を事実上持っている決まりがあります。 しかし、それだけ細かい内容が決められていても、その運用方法や趣旨の認識には少し幅があります。 また、税法というのは基本的に「何かの事実が発生した場合」に「どのような課税を適用するか」について定めた法律です。ですから、その「何かの事実」について納税者側と国税側に認識の相違があった場合、課税の前提となる事実認識のから争いが起こることになます。

しかし、通常は調査する側である国税側の方より、調査を受ける側の方がやはり立場が弱いものですから、そのような「見解の相違」があれば、どうしても調査を受ける側が引いてしまう場合が多いようです。これがいわゆる「見解の相違」が「調査の結論」と言われる所以です。

まあいくら納税者側が口頭で正当性を主張しても、その話を調査官がそのまま税務署へ持ち帰る訳にはいきません。 彼らとて公務員ですから、自らが法令の判断を明らかに誤っているのでない限り、納税者側の認識を補強する筋合いはありませんし、あまり納税者側をかばうようなそぶりを見せていては、自分の立場すら危うくするかもしれないのです。

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さて、このような事象が発生した場合、納税者側やその税理士としてはどのように行動すべきでしょうか。

有効な方法の一つは、「説明文書を提出すること」です。 この文書は、税法などが定める正式な文書ではありませんが、納税者側の主張や事実認定に関する項目を論理的に、かつ税法などの法令に基づいて説明するものです。調査官に対してこのような文書を提出することで、納税者側の主張が認められる可能性は高くなります。

ただ残念ながら、このような説明文書は簡単に作成できるものではありません。
税法や会計のみならず、事業に関する法令や規制、慣習なども熟知しておかなければなりませんし、税務調査で発見された事実と整合性の取れる説明でなければまったく意味を持ちません。

私は、これまで文書提出を得意分野の一つとしてきました。
十分に効果を発揮する文書を作成するためには、単に文章がうまいだけでは足りません。 一種職人芸的な、論理的思考に基づく文章構成が必須となります。
実はこんなところで、私が理系(工学部機械工学科)出身であることが役に立っています。 「論理的に物事を伝える文章を作成する」訓練は、工学部の卒論、修士論文、学会発表時の論文作成で担当教授から相当厳しく指導を受けてきました。

理系から文系と言われる会計士・税理士として全く違う分野に踏み出したため、元々理系の知識で使えるものは何もないかと思っていましたが、こういう意外なものを含め、人生無駄なものは何もないんだなぁと感慨深いです。

税務調査でお困りの方、特に真面目にやっている自信があるのにいわれのない論点で責められている方
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