献血と骨髄バンク(新型コロナワクチンとの関係)

皆さん、献血をしたことがありますか?
ときどき、赤十字や若者たちが街で「献血をお願いします」と呼びかけているのを見たことがあると思います。また、ひょっとしたら大きな怪我や手術で、輸血を受けられたことがあるかもしれません。この献血について、また水泳選手が急性白血病を発症したことで注目を浴びている「骨髄バンク」について、またそれらに関連した活動、問題点について少し説明したいと思います。
※新型コロナウイルス用ワクチン接種の場合の注意点を追加しました。


厚生労働省の献血キャラクター「けんけつちゃん」

1.献血とは?
献血とは、病気や怪我で輸血を必要としている人のために、「自発的」に「無償」で血液を提供することを言います。日本での献血の受入れは、国(厚生労働省)から唯一、採血事業者として許可を受けている日本赤十字社が行っています。
この「自発的に」「無償で」という点、実は国際的な定義があります。
1991年の国際赤十字・赤新月社決議によると、「自発的な無償供血とは、供血者が血液、血しょう、その他の血液成分を自らの意思で提供し、かつそれに対して、金銭又は金銭の代替とみなされる物の支払いを受けないことをいう」と決められています。
かつては「売血」「血液銀行」といって、有償で人々から仕入れた血液を輸血用に売る商売がありました。このような事業者に血液を売る人々の多くはいわゆる低所得者で、生活の糧を得るために血液を売らざるを得ない人々でした。そうなると、本来間隔を置かなければならない売血が頻繁になり、健康を害するようになってしまいました。このような人からの血液は、輸血に適さない上に肝炎などの副作用を起こすリスクも増大します。
このような問題を受け、政府は昭和39年8月21日、献血に関する体制整備(日本赤十字社または地方公共団体によるもの)を閣議決定しました。その後売血はほぼなくなり、現在のような体制が続いています。

2.献血を受けるには
会場を探す
まず、各所に設けられている献血ルームや、イベント会場などにやってくる献血バスを探しましょう。日本赤十字のWEBページから、各地での献血会場を検索することができます。どの会場でも、後述の献血カードがあれば献血者の情報は記録されていますし、安全・衛生面において全く問題がありません。便利な場所、時間で気軽に行ける場所を選んでください。

申し込む
献血カードをお持ちでない方は、会場の窓口で作ってもらいましょう。献血は前回との間隔や年齢等さまざまな制約があり、個人ごと個別に管理する必要があるので、このカードがなければ献血できません。この申請の際には氏名、生年月日、原則として写真付きの身分証明の提示が必要です。
なお残念ながら、年齢制限や特定の薬の服用、予防接種を受けた場合、海外から帰国後4週間以内の場合や特定期間内に特定国(イギリスなど)に滞在していた場合など、「献血ができない」一定の制約があります。献血カードを提示後いくつか質問を受けますので、これらには正直に答えましょう。

献血する
カードが作成できたら、献血ルームに入ります。しかし、ここでいきなり献血するのではなく、医師の問診、血圧、血液検査、シーフテスト(肩・腕・手の状態が悪くないか自己検査)などの簡単なチェックを受ける必要があります。
これらの検査が終わった後は、ようやく献血開始です。
少し背中を起こしたようなベッドにリラックスして横になり、献血用の針を腕に刺して血液を提供します。
血管の太さや体の大きさなどによって異なりますが、400mlの献血で10~15分程度、成分献血と呼ばれる、血液から必要な成分だけを抽出して元に戻す献血の場合には40~1時間半程度かかります。私の場合は適しているのか、10分かからないことが多いです。
その間、担当するスタッフや看護師さんからは、しつこいくらい「大丈夫ですか」「水分採って下さい」と言われます。これは、血液の減少による体調不良を防止するためです。実際、献血後くらくらして倒れる方もおられるようです。これに対し、献血を始める前から何本かの飲料を持っておき(会場には大量に飲料が置いてあるのでいくらでももらえます)、献血中から少し多い目なくらい飲んでおくと、このような体調不良をほとんどなくすことが可能です。

④新型コロナなど、ワクチンを接種した場合
ワクチンは、人間が持つ「免疫」の仕組みを人為的に利用し、ウイルスや細菌などの病原体に対する抵抗力を作り出します(ワクチンの仕組みや種類については、「コロナワクチンとリスクマネジメント」を参照)。
この過程で、弱らせた病原体やウイルス、mRNAと呼ばれる遺伝子を体、すなわち血液に注入するので、これがそのまま献血で取り出されてしまっては、献血血液にそういった物質が紛れ込むことになりリスクがあります。

このため、日本赤十字は元々、以下のワクチンに応じて献血が不可となる時間を決めていました。

  • インフルエンザ、日本脳炎、コレラ、A型肝炎、肺炎球菌、百日ぜき、破傷風等の不活化ワクチンおよびトキソイドの接種を受けた場合…接種後24時間
  • B型肝炎ワクチンの接種を受けた場合…接種後2週間
  • 抗HBs人免疫グロブリンを単独または併用した場合…投与後6カ月間
  • 狂犬病ワクチン(動物にかまれた後)を接種した場合…接種後1年間
  • おたふくかぜ、風疹、BCG等の弱毒生ワクチンの接種を受けた場合…接種後4週間
  • 天然痘ワクチンの接種を受けた場合…2カ月間
  • 破傷風、蛇毒、ガスえそ、ボツリヌスの抗血清の投与を受けた場合…投与後3カ月

これに加えて、新型コロナウイルスのRNAワクチン(mRNAワクチンを含む)を接種した場合には、1回目、2回目いずれの場合も、接種後48時間を経過するまで献血が不可となりました。
なお、現在公費接種の対象となっているRNAワクチンは、ファイザー社と武田/モデルナ社となります(2021/8/21現在)。 また、その他の種類のワクチンを接種された方は、現時点では献血不可とのことです。
加えて言うと、予防接種「前」の献血については基本的に制限していないとのことです。

【令和3年5月14日から適用開始】 新型コロナウイルスワクチンを接種された方の献血受入れについて(日本赤十字)

2.骨髄バンクについて
骨髄バンクとは
人間の血液は、白血球や赤血球、血小板などの血液細胞から構成されていますが、これらの細胞は全てが「骨髄」(骨の中心部にある組織)の「造血幹細胞」という一種類の細胞から作り出されています。この骨髄において異常な造血細胞が無秩序に増加し、正常な血液細胞の増加を妨げる状態が白血病です。白血病になると、赤血球の減少による貧血や、白血球の減少による抵抗力減、そして血小板減少によって出血しやすいなどの症状が現れます。

この白血病は血液のがんと言われていますが、今のところ抗がん剤・放射線と骨髄移植によるものが代表的な治療法です。
骨髄移植とは、抗がん剤や放射線によって白血病幹細胞などの病原を死滅させ、その後正常な骨髄を移植することで、正常な造血力を再生させる治療法です。
この骨髄移植は、患者のみならず移植細胞の提供者にも大きな負担がかかることや、拒否反応が発生しないよう「型」の合う提供者を探さなければならないことから、効果は大きいものの容易な方法ではありません。
骨髄バンクは、このような患者さんを救うため、善意による骨髄提供の仲介を行うために設立されました。提供者となるドナーを多く集め、移植を必要とする患者さんとのマッチングを迅速かつ公平に行うことをその使命としています。
ドナー登録については様々な場所で受け付けが行われており、もちろん献血会場にも受付窓口があります。

骨髄バンクの抱える問題
トップ水泳選手の急性白血病が取り上げられた関係で、ドナー登録を希望する人々が急に増えたそうです。ドナーとなれるのは20歳以上55歳以下(登録自体は18歳以上54歳以下)の方だけで、しかも多様な型が必要だったり、献血以上に様々な制約がありますので、慢性的に不足している状態が多少改善されるかもしれません。
しかし、実際には「キャンセル」という深刻な問題も起きているそうです。
実際にあった話として看護師さんから伺ったのは、こんな話です。
小さなお子さんが白血病となり、せっかく待ちに待った「型」の合うドナーが見つかったのに、移植直前になって「キャンセル」された(制度上キャンセルを制限することはできず、理由も聞けない)ことがあったそうです。ご両親のお気持ちを思うと胸が痛みます。
実際登録はしたものの、提供する場合には数日入院しなければならないこと、提供側にも副作用の出る可能性があることなどから、このようにキャンセルする場合が出てくるそうです。

3.ロータリークラブ・ローターアクトクラブの活動
私が所属するロータリークラブ(世界200以上の国と地域、120万人を超えるメンバーで構成された奉仕団体)においては、献血や骨髄バンクの活動を長きにわたり支援しています。
ロータリークラブとともに活動する、30歳までの若者で構成された「ローターアクトクラブ」とともに、各地の献血会場でPRや誘導、骨髄バンク説明員などのボランティア活動に汗を流しています。
会場で見かけたら、是非激励してあげて下さい。

4.宗教と輸血
時折、宗教上の理由から、本人や家族により「輸血を拒否」した場合がニュースになります。
我が国は信教の自由(憲法20条)、自己決定権・幸福追求権(同13条)が認められていますが、他方医療機関としては治療上、献血しなければ患者の生命が危険な状況を放置するわけにはいきません。実際、宗教上輸血を拒否する患者に同意なく輸血した医療機関が賠償請求された場合もありました。
このため、現在はほとんどの医療機関が「宗教上の理由により輸血を拒否する患者さんへの基本方針」といったポリシーを定めて公開し、そのような患者さんの理解を得るようにしています。
基本的には「相対的無輸血(患者さんの意思を尊重して可能な限り無輸血治療に努力するが、輸血以外に救命手段がない場合には輸血する)」の立場を採り、「絶対的無輸血(いかなる事態になっても輸血をしない)」は否定する、という内容となっています。

policy
宗教上の理由により輸血を拒否する患者さんへの基本方針の例(神戸赤十字病院)