カテゴリー別アーカイブ: 未分類

大法人の電子申告義務化について

1.電子申告とその義務化について
米国などに比べ遅れていた行政の電子手続化を進めるため、2004年に施行された「行政手続オンライン法」(正式名称は「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律」)に基づき我が国でも国税の電子申告システム整備されました。
このシステムはe-Tax(イータックス)と呼ばれ、パソコン等からインターネット経由で確定申告や申請書の提出などを行うことができます。
主要な国税の、過去10年余りの利用件数は下記の通りとなっています。

電子申告推移
各年度・主要税目の電子申告利用件数(国税局資料より抜粋)

しかしながら、旧来の「紙で提出する」実務が大企業などにも深く浸透していたことから十分な普及が進まず、元々の目的であった行政の効率化が果たせない状態となっていました。

そこで、経済社会のICT化等が進展する中、税務手続においても、ICTの活用を推進し、データの円滑な利用を進めることにより、社会全体のコスト削減及び企業の生産性向上を図ることが重要であることから、平成30年度税制改正により、「電子情報処理組織による申告の特例」が創設され、一定の法人が行う法人税等の申告は、電子情報処理組織(以下「e-Tax」といいます。)により提出しなければならないこととされました。(e-Taxページより)

義務化後最初の申告(令和3年3月期)が待ったなしとなりましたので、義務化とその対応方針についてご説明します。

2.電子申告の義務化の概要

  • 法人税及び地方法人税並びに消費税及び地方消費税
  • 資本金の額又は出資金の額が1億円超の内国法人、相互会社等…法人税・地方法人税、消費税・地方消費税


電子申告義務化対象法人
e-Tax義務化法人一覧(e-Taxホームページより)

  • 国及び地方公共団体…消費税・地方消費税
  • 確定申告書、中間(予定)申告書、仮決算の中間申告書、修正申告書及び還付申告書が対象で、これらに添付すべきものとされている書類の全てを含む
  • (例外)電気通信回線の故障、災害その他の理由によりe-Taxを使用することが困難であると認められる場合、納税地の所轄税務署長の事前の承認を要件として、法人税等の申告書及び添付書類を書面によって提出可

なお、電子申告義務化対象法人は、納税地の所轄税務署長に対し、適用開始事業年度等を記載した届出書(「 e-Taxによる申告の特例に係る届出書」を下記の期限までに提出する必要があります。

  1. 令和2年3月31日以前に設立された法人で令和2年4月1日以後最初に開始する事業年度(課税期間)において義務化対象法人となる場合…当該事業年度(課税期間)開始の日から1か月以内
  2. 令和2年4月1日以後に増資、設立等により義務化対象法人となる場合
    イ 増資により義務化対象法人となる場合…資本金の額等が1億円超となった日から1か月以内
    ロ 新たに設立された法人で設立後の最初の事業年度から義務化対象法人となる場合…設立の日から2か月以内
  3. 令和2年4月1日以後に義務化対象法人であって消費税の免税事業者から課税事業者となる場合…課税事業者となる課税期間開始の日から1か月以内
  • 令和2年4月1日以後に開始する事業年度(課税期間)から適用(地方税の法人住民税及び法人事業税についても電子申告が義務化)
  • 電子申告の義務化法人は、書面による申告書の提出は認められません。このため、電子申告の義務化の対象となる法人が、e-Taxにより法定申告期限までに申告書を提出せず、書面(添付書面含む)により提出した場合、その申告書は無効なものとして取り扱われることとなり、無申告加算税の対象となります。
  • 但し、やむを得ない理由で一部が紙で申告された場合、「申告書の主要な部分(どの部分が主要であるかは公表しない)」が電子申告されていれば、必ずしも無申告として取り扱う訳ではないとの見解(国税庁)

3.CSV形式で提出可能となるもの
(国税庁HPにCSV形式を簡易に作成できる標準フォームが掲載されています)
①別表の明細書のうち内訳の記載を要する別表6など
②財務諸表(勘定科目に国税庁から公表される勘定科目コード(令和元年に公表予定)を付ける必要あり
③勘定科目内訳明細書

4.PDFで提出可能となる添付書類
①一部のリリース前別表
②出資関係図
③経営力向上計画に係る認定書の写し
④申告に添付が必要な証明書など

5.添付すべき書類が大量にありe-Taxによる提出が出来ない場合は、光ディスクによる提出も可能

6.別表16(減価償却に関する明細書の添付)
元々、この別表16は「固定資産の科目別の合計を記載して提出し、明細の記載は省略できる※」とする取り扱いがありました。この取り扱いは電子申告義務化でも踏襲されています。
※法人税法施行令第63条第2項 その区分ごとの合計額を記載した書類を当該事業年度の確定申告書に添付したときは、同項の明細書を保存している場合に限り、同項の明細書の添付を要しないものとする

7.相続税の電子申告について
相続税法に基づく申告には「贈与税」と「相続税」がありますが、これまでは「贈与税」のみが電子申告の対象となっていました。
これが今回改められ、本年(2019年)10月から「相続税」でも電子申告が可能となることが決まっています。
遺産分割協議書など、電子化が難しい書面の提出をどのように行うかが問題となりますが、最後に残されたこの税目が電子申告の対象と納税者の利便性は大きく向上することになります。

8.対応方法について
これまで電子申告を利用していなかった法人や、一部を紙提出していた法人の場合、上記(義務化)の対応は少し面倒なものになるかもしれません。しかし、電子申告を上手に導入すると、結果として手続が非常にシンプルで効率的になり、誤りや税務調査リスクを低減することにもつながります。
またこのメリットは、今回義務化の対象となる大規模会社だけではなく、中小企業でも同様に受けることが可能です。

弊所はe-Tax登場とほぼ同時に、対応するほぼ全ての税目において電子申告での提出を実現しています。
また、上場会社を含む大規模法人や金融機関に関しても、電子申告を含む法人・消費税申告手続に関与しており、実務に精通しています。
特に電子申告の義務化に対応するためにはもちろん電子申告に対応したシステムが必要になりますが、システムの導入だけに終わるとせっかくの効率性が失われたり、システム投資の肥大化を招いてしまう可能性もありますので、実際に資料の準備からシステムの選定、決算書作成や税額計算、申告書の提出までの電子申告実務を十分に理解している専門家の関与が必須となります。

電子申告を新たに導入する場合、また現在導入しているがより効率化を図りたい、税務調査リスクを低減する申告を行いたいなどのご希望がありましたら是非お問合せ下さい。

温暖化の危機は藻が救う

長年問題になっている「地球温暖化」は、主に二酸化炭素やメタン、フロンなどによって起きるとされている問題です。
この温暖化を止める方法は様々に議論されてきたのですが、日本の学者さんが起点になって、非常に画期的な技術が出てきました。

それは「藻」を使うという方法です。

この方法、環境問題だけではなく日本のエネルギー問題も一気に解決できる可能性を秘めています。

1.温暖化とカーボンサイクル
長年問題になっている「地球温暖化」は、主に二酸化炭素やメタン、フロンなど、炭素化合物からなる気体が増えることによって起きるとされている問題です。
これらの気体は総称して「温室効果ガス」と呼ばれ、温室のビニールカバーに似た機能を果たしています。

太陽から地球に降り注いだ光のうち、温度上昇に最も効果のある赤外線は、大気がなければ地表で反射してもう一度宇宙空間に出てしまいます。しかしこれらのガスは赤外線を吸収してしまう特性を持っているので、太陽光からくる熱が大気中に留め置かれることになるのです。

ニュースを見ると温暖化が悪いように言われていますが、これがなければ地球に多様な生命が存在できる環境にはなりません。昼側はまだしも、夜側は温室効果ガスによる保温が効かず、少なくともマイナス何十度という寒さとなり、温暖化より悲惨な環境になってしまうと言われています。

温暖化の問題は、この効果が行き過ぎるために発生します。元々地球は大気中の二酸化炭素等の濃度をある程度一定に保つサイクルを続けていました。例えば、生物の活動により発生する二酸化炭素を植物が吸収し、この植物を生物が食する、というサイクルです。このサイクルは様々なものがありますが、基本的に全て炭素化合物であることから、総称して「カーボンサイクル」と呼ばれています。カーボンバランス

2.化石燃料はカーボンサイクルを壊す
ガソリンなどの燃料や化学製品等の原料となる「原油」や「石炭」、「天然ガス」は、元々太古に枯れて堆積した植物が、長い年月をかけて地価の圧力や熱を受けて変化したものから出来ています。その生成過程は化石と似ているため、原油は「化石燃料」とも呼ばれています。

この化石燃料、何億年も前の植物がその時代の二酸化炭素を吸収してできたものですから、今これを燃やせば、過去の二酸化炭素が現代に放出されることになります。

冒頭で書いた自然なカーボンサイクルがその時代の二酸化炭素の量を大きく変えることはありませんが、化石燃料を使うと「ため込んだ時点」と「使う時点」がずれていることから、そのサイクルを大きく変えてしまう可能性があるのです。

そうなると、バランスを崩したカーボンサイクルは温暖化を加速し、その温暖化が、様々な場所に固定されている二酸化炭素を放出させたり、吸収してくれる森林を滅ぼしたりすることで、人間がコントロール不能なほどの暴走を起こしてしまう可能性もあります。

一時期原油はもう採掘できなくなると言われていましたが、シェール革命などによりまだまだ採掘・使用は続いています。温暖化が行き過ぎるリスクはまだまだ残っている訳です。

3.藻の利用
このような問題を防ぐには、カーボンサイクルを安定して回せればよいと誰でも気づくと思います。要するに、「使った分と同じだけ吸収・固定」すれば、バランスが壊れないのです。

ということで、深海に二酸化炭素を送り込んで固定する方法や、地中に保存するなど様々な方法が試みられては来たものの、いずれも決定打ではなく、しかも化石燃料の使用継続が前提となっている点で問題でした。

ところが、渡邉信教授という日本の学者が、非常に面白い「藻」を発見したことから、この問題はちょっと違った様相を呈してきました。この藻(オーランチオキトリウム)は、なんと太陽光と有機物から化石燃料とよく似た油を生成することが出来るのです。

元々藻の一部は油を作り出す力を持っているのですが、このオーランチオキトリウムは非常に高い能力を持っています。また成長スピードも非常に高いため、限られた場所でたくさんの油を作ることが出来るのです。

例えば、下水等の有機排水にこの藻を投入し、水を浄化するとともに藻は有機物から油を作る、また油を精製した後の藻は加工して飼料にするなどの有効活用が可能になります。

藻の利用例
筑波大学 渡邉信教授の研究スライド(藻類バイオマス利用の研究開発)より

まだ実験段階ではあるものの、一定の設備や休耕田の活用など環境が整えられれば、なんと日本国内だけで必要な原油に相当する油を作り出すことが出来るほどのポテンシャルがあるそうです。

そうなると、「今ある二酸化炭素を使って作った油」は、今燃やしても二酸化炭素を大きく増やすことはなく、カーボンサイクルをバランスよく保つことが可能になるのです。

なおこの油は基本的に原油の成分と同じで、燃料だけではなくプラスチックの原料等としても使用が可能だとか。

エネルギー問題と環境問題を一気に解決し、ひいては「常にエネルギー問題に左右される」日本の安全保障の立ち位置をも変えるポテンシャルのある「藻」の技術、一刻も早く実用化されて欲しいものです。

4.原子力との関係
元々、原子力は温暖化問題の救世主といった立ち位置で注目されていたように思います。
しかし、震災による事故を除いても、一つ大きな問題があるのです。

太陽光はもちろん、化石燃料、風力、水力、潮汐力といったエネルギー源は、結局全てが現在または過去の太陽エネルギーを基礎にしています。

ところが、原子力だけは太陽エネルギーが一切関係していないのです。

原子力を扱うことの難しさは、大震災や津波によって技術者でない人たちにも痛みをもって理解されたと思います。
太陽があれほど遠くにあり、しかも大きなエネルギーを地球に送ってくれていることは、それなりに合理的な意味のあることだったのではないかと感じています。

オンライン忘年会の費用を会社が払ったら?

新型コロナウイルス感染症は、ビジネスや観光、日常生活といったあらゆる分野に大きな影響を与えています。
中でも著しい影響を受けているのが、「人が集まる機会」です。
飲み会やパーティ、ライブ、スポーツなどのイベントにはたくさんの人が密な空間に集まりますので、どうしても感染可能性が高まってしまいます。
このため、多人数での飲食を禁止している会社も多いと思います。

1.オンライン飲み会
そんな中注目を浴びているのが「オンライン飲み会」です。
オンラインミーティングの機能を使って皆がバーチャルに顔を見ながら、それぞれが自宅などに用意した食事や飲料とともに会話を楽しむという、まさに新しい常識(ニューノーマル)を象徴するような機会です。

online_nomikai_woman

2.イベント費用の会社負担
新型コロナウイルスが問題となるまでは、会社は従業員間の親睦をはかって一体感を高めるために、リアルな飲み会、食事会といったイベントを普通に開催してきました。特に年末になるとほとんどの会社が「忘年会」を開催し、皆で一年間の頑張りを慰労する機会を設けていました。
この忘年会、会費制の場合もありますが多くの会社は一部又は全部を会社が「福利厚生費」として負担しています。これは、前述の通りこのようなイベントが会社の円滑な運営の為必要ということがその理由です。
そのため、税法も

  • 専ら従業員の慰安のために行われるイベントのため通常要する費用
  • それらが社会通念上一般的に行われていると認められるイベントであること

であれば、「課税(※)しない」スタンスを採っています。
但し、そのイベントに参加しなかった役員又は使用人(業務のため参加できなかった者を除く)に対しその参加に代えて金銭を支給する場合や、役員だけを対象としてイベントの費用を負担する場合には課税されることとなっています。

※今回のブログに言う「課税」には、法人税や所得税における課税が含まれますが、その内容については説明を簡単にするため省略します。

 3.オンライン飲み会の費用補助
では、オンライン飲み会でそれぞれの参加者が必要とする食事や飲料に充てる費用を会社が負担した場合にはどうなるでしょうか。
まず、元からある「イベント費用を会社が負担した場合」に課税されないための条件は満たしている必要があると思います。
すなわち、①専ら従業員の慰安のために行われるイベント、であり、②そのために通常要する費用(高すぎないこと)、そして③そのイベントが社会通念上普通のものであること、という条件になります。

オンライン飲み会は、コロナ禍前には一般的ではなかったかもしれませんが、現在の「新しい社会通念」においてはもう既に普通になっていると思います。
また、飲み会で通常会社が負担している一人当たりの費用より少ない金額であれば、「そのために通常要する費用」として考えても間違っていないと思います。
問題になるのは、それぞれの社員に金銭(金券や電子マネー等金銭同等物を含む)を支給することそれ自体です。
課税されない条件として最も確実なのは、上の条件に加え「実際に参加して係った費用のレシート等を収集し、これについて会社から補助を行うこと」です。このことで、法人税、所得税は課税されません。またついでながら消費税も控除の対象になると思います。

ただ、たくさんの社員からいちいち細かいレシートを取得し、精算するというのも面倒なので、社員全員へ一律に一定額を支給するというケースもあり得るでしょう。このような場合、参加しなかった者への参加に代えて支給する金銭や、実際に要した金額を大きく超える場合については、その支給する金銭は課税されることになると思います。

この論点はまだ非常に新しく事例も少ないので、法令や現在の取り扱いに照らしながら考えてみました。参加した者に対する実費を精算することが一番安全ですのでまずはその方法をお勧めしますが、その他の方法の場合は、顧問税理士などに十分ご相談の上実施されるのが良いと思います。

ひとり親控除(令和2年 税制改正)

1.改正について

「寡婦」、「寡夫」(両方とも「かふ」と読みます)という言葉をご存知でしょうか。
配偶者と死別したり離婚して未婚のままであったり、扶養家族や子供がいる人、所得が一定の額以下の人を所得税法上「寡婦」や「寡夫」と呼び、その条件に応じて課税所得が控除されることになっています。

この制度、従来は女性の要件が少し広くなっていたり、全ての要件を満たす女性は控除額の割り増しがあったりと、男女差のある制度となっていました。
また、この制度の適用があるのは「民法上の婚姻関係にある者」に限られ、未婚のひとり親については対象となっていませんでした。

令和2年の改正においてはこの点が見直され、「ひとり親控除」と新しい「寡婦控除」制度に再編されました。

2.ひとり親控除(35万円)

ひとり親とは、現に婚姻をしていない者又は配偶者の生死の明らかでないことに加え、さらに下記の要件を満たす者を言います。

  • 生計を一にする一定の子があること
  • 合計所得金額が 500 万円以下
  • 事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる者がないこと

ひとり親である場合には、ひとり親控除として、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から35万円を控除することとされました。
この35万円の控除は、従来の制度で「特別の寡婦」として認められていた割り増し控除額になります。
従来は女性のひとり親にしか認められていなかったのに対し、新しい制度においてはひとり親条件を満たせば男性でも適用されることになります。

3.(新しい)寡婦控除(27万円)

改正後の「寡婦」とは、次に掲げる者でひとり親に該当しないものをいいます。
(1)夫と離婚した後婚姻をしていない、次の要件を満たす者

  • 扶養親族を有すること
  • 合計所得金額が 500万円以下であること
  • その者と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる者がいないこと

(2)夫と死別した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない次の要件を満たす者

  • 合計所得金額が 500万円以下であること
  • その者と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる者がいないこと

改正前の「寡婦」の要件との主な違いは、
①扶養親族を有する寡婦についても「合計所得金額要件」が追加された
②「非事実婚要件」が追加された
ことになります。

4.改正前後の適用判定変動
改正前後で、それぞれの方の適用がどのように変動するかについては、国税局「年末調整のしかた」に下記の通り判定図が掲載されています。

ひとり親控除判定

5.改正の適用開始日、その他

これらの改正は、令和2年分以降の所得税について適用されます。
まず令和2年の年末調整や確定申告について適用され、また令和3年の給与、公的年金の源泉徴収税額計算の際にも新しい制度を適用して計算します。
なお、住民税でも同じ制度改正があります。控除額は、所得税で35万円の場合には30万円、27万円の場合には26万円の控除となります。

以上

美人タレント女医事件

以前、バラエティ番組で「年収は5000万円で豪遊」という、驚くべきキャラクターで話題になった美人の女医さんがいました。
しかし結局、その女医さんは不正行為が明らかになり逮捕され、有罪判決を受けることになってしまったのです。
美人女医が逮捕、有罪判決!ということで世間の耳目を集めたこの事件、実は掘り下げると結構深い問題の根を持っていることが分かります。
以前講演でお話しした内容を抜粋、加筆修正したメルマガ記事をブログ化しています。

1)逮捕、有罪判決
この事件は、脇坂英理子氏(Ricoクリニック)という女性医師が逮捕されたことから衆目を集めることとなりました。
「美人女医」としてもてはやされていた脇坂医師は、TVのバラエティ番組に出演し、ホストクラブで一晩に何百万豪遊したとか、驚くような数の男性遍歴があるなど、常識的な人間からすると耳を疑うような話を番組で披露していました。
しかしその実態は、彼女が経営する美容クリニックで架空診療行為を繰り返し行い、健康保険や国保といった医療保険に対して約7000万円という高額の架空請求を行っていた不正実行者だったのです。
裁判の結果、結局は懲役3年、執行猶予4年の有罪判決となり、医師としても業務停止3年の行政処分を受けることとなりました。

2)手口
それでは、この不正請求はどんな手口で行われていたのでしょうか。
簡単にいうと、「実際に行っていないのに、架空の診療行為をでっち上げる」という手法でした。
例えば、一度通院しただけの患者にも、その後も通院を続けたように偽装して診療報酬を請求することで、架空の診療報酬が手に入るという訳です。
しかし、彼女はそれ以上に破壊的な不正請求にも手を染めていました。

3)「保険証集め」の手法
彼女が不正に請求した医療費には、かなりの割合で「一度も来院したことがない患者」が含まれていたようです。

この「患者」たち、実はアルバイト感覚で集められた芸人や暴力団組員ら数百人が、不正用に彼らの保険証を提供したことによりでっち上げられたものだったのです。
捜査関係者によると、「保険証提供者の報酬はせいぜい数千円。アルバイト感覚でやっていたとしか思えない」とのことでした。

4)組織的な「ビジネス」
実はこのような医療機関は彼女のクリニックだけではありませんでした。
暴力団の「企業舎弟」とされる首謀者たちは、コンサルタントの名目で元々経営の苦しい医療機関に目を付け、不正グループに勧誘していたのです。
また首謀者グループにはホストもおり、ホストクラブで受け皿となる女医や保険証の提供者となるホステスを探していたそうです。
同時にクラブ経営者たちにも報酬を提示して女医の紹介やニセ患者集めを働きかけていました。
結局、このスキームで得られた不正な利益のうち、一部は暴力団に上納されていたのです。

5)不正請求の主な内容
健康保険に対する医療費の不正請求は、この事件のようなものだけではありません。一般的なものだけでもこれだけあります。

  • 架空診療・投薬による請求…診療していないのに、診療したことにして診療報酬を不正に請求
  • 生活保護者(自己負担なし)に対する架空診療、過剰診療
  • 振替請求…外来診察なのに入院診察として扱い、診療報酬を不正に請求
  • 二重請求…患者が自費で診療したものを、保険診療したものと扱い二重請求
  • 付増請求…血液検査の際、採血は1回だったにもかかわらず、数回に分けて検査したように診療報酬を不正に請求
  • 健康診断の保険請求…健康診断には本来保険が適用されない
  • 看護師等の水増しによる不正請求…看護要員の長期にわたる不足にもかかわらず変更の届出を行わず、診療報酬を不正に請求していた。
  • 施設基準の虚偽申請…一定の施設や人的要件を要する請求につき、届出の際行われる検査時だけ満たし、検査が終われば元に戻していた。

6)処分や対応は
医療保険による保険診療については、保険診療報酬支払機関(国保、社保)から本人に対して確認通知があり、本人が知らない医療費請求についてはチェックをかけることができるようになっています。
またこのような不正が行われた場合には、厚生局・厚生労働省による指導、調査、行政処分や、医師免許・保険医療機関の取り消しなどの処分がなされることとなっており、刑事罰も合わせて一定の抑止効果を得ているとは思います。
しかし、医療サービスを受けた本人がその内容に無関心だったり、また患者による不正への積極的、消極的関与がある場合、施設基準など患者の目に触れにくい複雑なもので不正が行われる場合には発覚が非常に難しくなります。これに加え、今回の事件のように最初から組織的に組み立てられたものを積極的に摘発することは難しくなります。
健康保険は加入者の保険料や税金が使われる極めて公益性の高い制度です。
医療機関自体の倫理保持や、通報窓口や内部監査体制により防止・発見対策などを整備することが急務だと思います。

 

 

第1回CFE研究会東西交流会

先日(1月26日)、東京不正検査研究会、不正の早期発見研究会、関西不正検査研究会の三研究会が合同で、第1回目となる東西交流会が開催されました。
今回は東京不正検査研究会さんが主催で、芝浦港南区民センターを会場に、各会の会員及びACFEジャパンの安田事務局長を加え18名の参加となりました。

ただ、私はきちんと参加連絡をしていなかったようで…
大変ご迷惑をお掛けしました m(_ _)m > 皆様

司会の米澤勝さん(東京不正検査研究会)からご挨拶のあと、各研究会の紹介がありました。三会だけではなく、現在は東海や業種別の研究会も設立されているようですので、これからも盛会になりそうな気がします。

その後、第一部は関西の山口利昭さんから「不正調査と刑事告訴」というテーマで発表していただきました。
弁護士さん以外にはなかなかなじみの少ない「事実認定の方法」や「事情聴取」に加え、いつもながら豊富な実務経験に基づく興味深いお話を頂きました。

第二部は東京の高橋孝治さんから「不公正ファイナンス」についてお話頂きました。
今年冒頭から日経でも特集されるなど、第三者割当増資や現物出資を悪用した不公正ファイナンスは、日本の証券市場の恥部と言っても良い程大きな問題になっていると思います。この問題について、法令や事例を基礎として詳しくお話頂きました。

その後品川に移動し、「創作ダイニング土間」さんにて懇親会。
時間の関係でお話できなかったことや、全く関係のない話まで、じっくりと楽しく過ごせました。

次回(来年?)は関西での開催ということになるかと思いますが、ジャパンカンファレンス同様一層盛り上がるようにと願う次第です。
ご参加の皆様、特に開催頂いた東京不正検査研究会の皆様、米澤様ありがとうございました。