美人タレント女医事件

以前、バラエティ番組で「年収は5000万円で豪遊」という、驚くべきキャラクターで話題になった美人の女医さんがいました。
しかし結局、その女医さんは不正行為が明らかになり逮捕され、有罪判決を受けることになってしまったのです。
美人女医が逮捕、有罪判決!ということで世間の耳目を集めたこの事件、実は掘り下げると結構深い問題の根を持っていることが分かります。
以前講演でお話しした内容を抜粋、加筆修正したメルマガ記事をブログ化しています。

1)逮捕、有罪判決
この事件は、脇坂英理子氏(Ricoクリニック)という女性医師が逮捕されたことから衆目を集めることとなりました。
「美人女医」としてもてはやされていた脇坂医師は、TVのバラエティ番組に出演し、ホストクラブで一晩に何百万豪遊したとか、驚くような数の男性遍歴があるなど、常識的な人間からすると耳を疑うような話を番組で披露していました。
しかしその実態は、彼女が経営する美容クリニックで架空診療行為を繰り返し行い、健康保険や国保といった医療保険に対して約7000万円という高額の架空請求を行っていた不正実行者だったのです。
裁判の結果、結局は懲役3年、執行猶予4年の有罪判決となり、医師としても業務停止3年の行政処分を受けることとなりました。

2)手口
それでは、この不正請求はどんな手口で行われていたのでしょうか。
簡単にいうと、「実際に行っていないのに、架空の診療行為をでっち上げる」という手法でした。
例えば、一度通院しただけの患者にも、その後も通院を続けたように偽装して診療報酬を請求することで、架空の診療報酬が手に入るという訳です。
しかし、彼女はそれ以上に破壊的な不正請求にも手を染めていました。

3)「保険証集め」の手法
彼女が不正に請求した医療費には、かなりの割合で「一度も来院したことがない患者」が含まれていたようです。

この「患者」たち、実はアルバイト感覚で集められた芸人や暴力団組員ら数百人が、不正用に彼らの保険証を提供したことによりでっち上げられたものだったのです。
捜査関係者によると、「保険証提供者の報酬はせいぜい数千円。アルバイト感覚でやっていたとしか思えない」とのことでした。

4)組織的な「ビジネス」
実はこのような医療機関は彼女のクリニックだけではありませんでした。
暴力団の「企業舎弟」とされる首謀者たちは、コンサルタントの名目で元々経営の苦しい医療機関に目を付け、不正グループに勧誘していたのです。
また首謀者グループにはホストもおり、ホストクラブで受け皿となる女医や保険証の提供者となるホステスを探していたそうです。
同時にクラブ経営者たちにも報酬を提示して女医の紹介やニセ患者集めを働きかけていました。
結局、このスキームで得られた不正な利益のうち、一部は暴力団に上納されていたのです。

5)不正請求の主な内容
健康保険に対する医療費の不正請求は、この事件のようなものだけではありません。一般的なものだけでもこれだけあります。

  • 架空診療・投薬による請求…診療していないのに、診療したことにして診療報酬を不正に請求
  • 生活保護者(自己負担なし)に対する架空診療、過剰診療
  • 振替請求…外来診察なのに入院診察として扱い、診療報酬を不正に請求
  • 二重請求…患者が自費で診療したものを、保険診療したものと扱い二重請求
  • 付増請求…血液検査の際、採血は1回だったにもかかわらず、数回に分けて検査したように診療報酬を不正に請求
  • 健康診断の保険請求…健康診断には本来保険が適用されない
  • 看護師等の水増しによる不正請求…看護要員の長期にわたる不足にもかかわらず変更の届出を行わず、診療報酬を不正に請求していた。
  • 施設基準の虚偽申請…一定の施設や人的要件を要する請求につき、届出の際行われる検査時だけ満たし、検査が終われば元に戻していた。

6)処分や対応は
医療保険による保険診療については、保険診療報酬支払機関(国保、社保)から本人に対して確認通知があり、本人が知らない医療費請求についてはチェックをかけることができるようになっています。
またこのような不正が行われた場合には、厚生局・厚生労働省による指導、調査、行政処分や、医師免許・保険医療機関の取り消しなどの処分がなされることとなっており、刑事罰も合わせて一定の抑止効果を得ているとは思います。
しかし、医療サービスを受けた本人がその内容に無関心だったり、また患者による不正への積極的、消極的関与がある場合、施設基準など患者の目に触れにくい複雑なもので不正が行われる場合には発覚が非常に難しくなります。これに加え、今回の事件のように最初から組織的に組み立てられたものを積極的に摘発することは難しくなります。
健康保険は加入者の保険料や税金が使われる極めて公益性の高い制度です。
医療機関自体の倫理保持や、通報窓口や内部監査体制により防止・発見対策などを整備することが急務だと思います。