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コラム「公認会計士が解説する民事再生手続」第2回

皆さんこんにちは。

塩尻公認会計士事務所の塩尻明夫です。

前回は民事再生手続のあらましについてご説明しましたが、今回は実際の申立手続について解説します。

3.申立側の実務

1)手続の流れ

民事再生法に基づく手続の流れを図示すると、下記の通りとなります(クリックで拡大します)。

申立フロー

民事再生手続申立フロー

以下、上記の図に基づいて各手続を説明します。

民事再生業務は裁判所の管理の下行われますが、やはり主役は申立法人・申立代理人たる弁護士と、監督委員たる弁護士やその補助者たる会計士や税理士です。このため、これ以降は申立側と監督委員側に分けて実務をご説明します。

2)申立から手続開始まで

民事再生法の場合、破産の恐れがある、事業上重要な資産を手放さなければ債務が弁済出来ない恐れがあるなどの申立原因が存在すれば、債務者は支払不能、債務超過、支払停止になる前に申立てが出来ます。債務者に破産の恐れがある場合には、債権者も申立てすることができます。

申立がなされると、速やかに裁判所は保全処分を下します。この保全処分には、全ての債権者に対し、再生債務者、すなわち申立法人の財産への強制執行などを禁止する「包括的禁止命令」や担保権者に対する「競売手続中止命令」などがあります。この保全処分により再生債務者の財産を守らなければ、後に配当されるべき資金や資産などが流出、離散してしまうからです。

この後、2週間程度の間に裁判所は民事再生手続の開始決定を下します。

ところで、書籍やネット上の説明には、申立から説明をスタートしている場合が多くあります。しかし、実は申立の相当前段階で既に民事再生の実務は始まっているのです。例えば、裁判所への事前面談がその一つです。大阪地裁の場合、裁判所の第6民事部が担当となりますが、この民事再生係には申立予定日の2週間程度前に内々の相談に行くことが多いようです。その中で、例えばスポンサーの有無や、事業譲渡などの方向性も内定した、いわゆる「プレパッケージ型」の再生計画案について打合せがなされることも多くあります。

3)手続開始から再生計画案作成まで

保全処分が下され、手続の開始決定がなされると、申立直前の資金繰り難によって差し迫った状況はいったん落ち着きます。しかし、ここでゆっくりしている訳には行きません。

再生債務者は、一定期間(通常毎月)の報告書提出義務の他、開始決定時点における財産を時価評価した「財産評定書」や、再生計画の草案を作成していく必要があります。

財産評定というのは、単なる資産の時価評価ではなく、開始決定時点で再生債務者をハードランディング、すなわち破産させた場合、どれくらいの破産配当が得られるかという一種のシミュレーションです。この結果は、後で説明します弁済計画に基づく弁済率と比較されます。つまり、仮に弁済計画に基づく弁済率が財産評定に基づく破産配当率を下回る場合、民事再生手続が行えない事になるわけです。このため、この財産評定結果を、違法性無くいかに低く算定するかは担当する会計士や税理士の腕の見せ所と言えます。

次に大変なのが、再生計画の策定です。再生計画案とは、借金をいくら減額し、どのように返済していくのかなど、弁済の計画を示したものです。具体的には以下のような事項を記載します。

  •  再生計画の基本方針
  •  再生債権者の免除額や残額の弁済方法
  •  担保などの権利者について
  •  事業計画

弁済方法等に関してはある程度形式的に作成が可能と思いますが、民事再生に係る事業計画については困難が伴います。申立までの間、よほど突発的な事情でも無い限りは相当な経営危機に直面していた再生債務者ですから、申立時点において、資金的にはもちろん、人的にも営業基盤としても、お世辞にも健全とは言えない状況にあるはずです。例えば、重要な部材を仕入れている取引先は、民事再生を申し立てたことで支払いがストップした上に、大半の債権を貸倒損失として計上しなければならない訳ですから、「民事再生しましたので、これからも部材の調達をよろしくお願いします」なんて簡単に言えたものではありません。幸いに取引を続けてもらえたとしても、現金取引や前渡金取引などを前提とされることが多いようです。

このような状況を前提として事業再生を考える訳ですから、相当な困難を伴う計画になると思います。この時点においては、やはり事業に精通し、再生の強い決意を持った経営者と、能力の高い代理人弁護士の組み合わせが必須だと思います。

4)再生計画案の決議と認可まで

一般的には、再生計画案は正式なものをいきなり提出しません。まずドラフトを何バージョンか作り、裁判所に提出します。そのドラフトを叩き台に、後述する監督委員とのすりあわせや、大口債権者に対する説明を行います。

債権者集会で再生計画案が認められるためには、議決権を行使できる再生債権者の過半数で、かつその議決権の総額の2分の1以上の議決権をもつ人が再生計画案に同意する必要があります。

債権者集会で再生計画案が可決されなかった場合は、債権者集会の続行を申し立てます。この続行については、再生決議で必要となる決議要件のいずれか、または債権者集会に出席した債権者の過半数で、かつ出席した者の議決権総額の2分の1以上の議決権を有する債権者が、同意する必要があります。期日の続行回数に制限はありませんが、最初の債権者集会から原則として2ヶ月以内が限度となります。

なお、可決されてからは、官報への公告と即時抗告期間が必要となりますので、1か月程度かかりますが、その後再生計画が認可決定され、再生計画の履行がスタートすることになります。

こちらのページからご質問などが可能です。

次回は、「監督委員側の実務」からご説明します。

コラム「公認会計士が解説する民事再生手続」第1回

皆さんこんにちは。

塩尻公認会計士事務所の塩尻明夫です。

先日「相続の基礎」コラムの連載を終えましたが、今度は少し分野を変えて「民事再生手続」の解説をして行きたいと思います。
この再生手続、批判もあるものの再生型の倒産手続としては非常に柔軟かつ便利で、機動的な活用が可能な制度になっています。
出来れば自分が経営していたり勤めていたりする会社には起こって欲しくない事態ですが、いざというときのために読んで頂けると幸いです。

0.はじめに

一時期は非常に多くの申請があった民事再生法ですが、返済猶予などが行われる中小企業金融円滑化法の影響もあってか、破産と同様ここ1年は申請数が大幅に減少しているようです。

この傾向、見方によっては倒産する会社が減少して良いようにも感じるのですが、本来破綻しているべき会社の本質的な問題が解決されず、単に破綻時期が先延ばしされただけなのであれば、本当に破綻が訪れた場合の影響がさらに大きくなることが懸念されます。特にこの円滑化法が終わる平成25年3月以降、これらの企業がどのようになるか、予断を許さないところです。

今のところは、このまま景気が少しでも持ち直し、先延ばしされた破綻が二度と訪れないことを祈るばかりです。

さて、私は平成15年から幾つかの民事再生業務に関与しています。関与するまでは別の世界の話だった民事再生法もある程度理解するようになり、この手続の重要性も少しずつ分かるようになってきました。そこでこのコラムにおいては、私が理解している制度の説明だけではなく、この業務を通じて得た経験なども織り込めればと思います。

当連載は、今回以降4回を予定しています。

1.倒産とは?

「倒産」という言葉を聞かれた場合、皆さんはどのような印象を持ちますでしょうか?一口に「倒産」と言っても、実は自主廃業、清算、特別清算、私的整理、民事再生、会社更生、破産などなど多数の形態があります。また、手形の不渡りが発生したことを倒産と呼ぶ人もおられます。

企業再生に関与される皆様の場合はこれらの区分はされていると思いますが、一般の事業会社の場合、経理部の方でもその区別がついていない場合があります。ですので、よく「先生、取引先がつぶれました」という表現での連絡を受ける事があります。

民事再生は、これら多数ある会社の倒産形態のうち、事業の再生を最も強力に推し進めることのできる法制度です。

2.民事再生法のあらまし

1)倒産法制と民事再生法の歴史

かつて、戦前に制定された和議法という法律がありました。この法律は、当時としては最も強く事業の再生を考慮した倒産法制でした。しかし、和議が成立した後、再生対象の会社が管財人の管理下から離れ、また債務弁済を遅滞させるような事態が発生しても何ら強制力がありませんでした。このためきちんと完結した事案がほとんど無いことから「ザル法」との批判を強く受けていました。とはいっても、十分な強制力のある会社更生法が定める更生手続は非常に厳格で使いづらいものでした。

これらに対し、民事再生法は、和議法に代わる形で平成12年4月1日に施行されました。この後現在まで10年が経過し、新破産法とともに、既に倒産法制の中心と言っても過言ではないほど浸透しています。

2)民事再生法のイメージ

民事再生法だけではありませんが、同様に複雑な法律制度を説明する際、個別の制度ばかりを説明しているとなかなか全体像がつかめません。そこで、私は普段民事再生法をはじめとする倒産法制を説明する際、人間の病気や怪我とその治療方法に当てはめて説明しています。それは次の通りです。

    手法・法律     人間の治療に当てはめた場合
私的整理・中小企業再生支援協議会 自宅での治療や通院治療
民事再生法 入院による管理治療、時に生死には影響しない手術有
会社更生法 集中治療室(意識なし)、時に内臓摘出などの処置有
破産法 死亡、または死刑宣告

 

3)民事再生法の実績データ

帝国データバンクによると、民事再生法の申請は平成22年まで施行10年間の累計で7754件に達しているそうです。単年度の件数を見ると、平成20年度(平成20年4月~平成21年3月)は前年度比31.3%増の935件で、平成14年度(948件)以来6年ぶりの高水準となっています。これに対し、平成21年度には29.8%減の656件と大幅な減少を見せています。これは、景気動向だけではなく中小企業金融円滑化法の影響も大きいものと考えられます。

また手続の経過をみると、これまで申請のあった7754件のうち5394件が認可決定を受け、3365件、全体の実に43.4%がすでに終結決定を受けています。一方、申請後に取り下げ・棄却・廃止となった企業も1747件と、全体の22.5%が再生手続きを途中で断念しています。

また、平成20年度中に認可決定を受けた555社のうち、再生計画が判明した163社の平均弁済率は12.4%と、平成13年4月調査時の24.2%を大きく下回っています。平均弁済期間としては、1年以内(一括弁済)の比率が39.2%と、前回調査時の8.1%を大きく上回っています。これは、不動産デベロッパーを中心に、「即死」的破綻案件が多かったことや、低い弁済率でも短期の弁済完了を望む債権者側の意向、“清算型”民事再生の定着などが影響したと見られています。

こちらのページからご質問などが可能です。

次回は、申立の実務手続からご説明します。