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中小企業の不正会計と監査役(1/3)

1.中小企業と会計不正

1)小規模会社の会計不正について
上場会社の場合、会計不正のほとんどは上場会社における有価証券報告書などの虚偽記載、すなわち金融商品取引法上のディスクロージャーに関する不正であると言っても過言ではありません。ディスクロージャーの内容は、株価など資金調達や採用など、経営環境に大きな影響を与えるため、不正会計に手を染めてでも会社の状況をよく見せたい、という動機が極めて多いです。

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また非上場の会社であっても、会計監査人(監査法人や公認会計士が専門的監査を行う)設置会社の場合、会社法上の財務情報について株主を中心に適法に開示する要請があります。このような会社であっても会計不正は広い意味でディスクロージャーに関する不正であると言えます。

それでは、今回のテーマのように小規模な会社(会計監査人非設置会社)、すなわちディスクロージャーに関する要請が高くない会社の場合はどうでしょうか。
結論から言うと、このような会社でも会計不正は起こりえます。そのような不正をカテゴリー分けすると、以下のようなものが主となります。

  •  法人税計算に係る会計不正
    法人税の課税ベースとなる所得は、基本的に企業会計の利益計算に基づいて計算されます。
    法人税は会社にとって大きな負担となるため、課税所得を少なく見せようとする動機は十分にあります。
    この結果、法人税を減らすため、課税所得、すなわち会計上の利益を少なく見せかけようとする不正の発生する可能性があります。
  •  会社法制に係る会計不正
    会社の利益配当は、会社が安定して経営できる財源を確保するため、会社法によって一定の制限がかけられています。この制限は企業会計の計算に基づいて算定されるため、配当を多く出したい場合には会計上の利益を多く見せかけようとする不正の発生する可能性があります。
  •  金融機関に対する会計不正
    会社が金融機関から融資を受けている場合、金融機関における貸出金の「自己査定」において悪い評価を受けると、担保追加、金利上昇などの融資条件悪化や、場合によっては借り換えの拒否など資金繰りに大きな影響が懸念されます。自己査定における判断材料の一つは会計データなので、これをよりよく見せる、すなわち売上が増加していたり利益が出ていたり、また債務超過(資産より負債が大きい)に陥っていないように見せる会計不正の可能性が大きくなります。
  •  上場準備を目的とした会計不正
    上場基準には時価総額や利益など一定の基準があります。また、上場基準そのものではなくても、売上高の伸びなど成長性をはかる基準として、会社の財務数値は極めて重視される指標となります。このようなことから、上場を準備している会社の場合、会計不正を志向する可能性は極めて高くなります。但し、このような会社の場合、会社法上の正式なものではありませんが監査法人が会計監査を行う場合がほとんどですので、監査にて発見される場合も多くあります。

2)会計監査人非設置会社の会計不正と監査役
会計監査人非設置会社の場合、前述のような会計不正を発見、是正できる法的権限のある者は監査役しかないと言っても過言ではありません。ということで、会計不正と監査役の関係を以下確認しておきたいと思います。

まず、会社法が定める監査役監査には、業務監査と会計監査とが含まれます。業務監査は、取締役の職務の執行が法令・定款を遵守して行われているかどうかを監査することで、一般に適法性監査と呼ばれています。これに対し会計監査は、定時株主総会に計算書類が提出される前に行われ、株主総会の招集通知時に、会計監査と業務監査の結果が記載される監査役会の監査報告が提供されます。会計監査人設置会社の場合は会計監査を会計監査人が行ってくれるため、監査役としてはこれを相当と認めるだけで良いのですが、そうでない場合は自分で行わなければなりません。

さて、では会計不正の対応は会計監査なのか業務監査なのか、どちらに当たるでしょうか。

結論を先に言いますと、これはどちらにも当るというのが正解だと思います。
「会計」不正ですから、その対応が会計監査にあたるということは間違いがないと思います。これに加え、これらの不正を行うためには取締役(またはその使用人)が不正行為を行う必要のある場合がほとんどだからです。

3)税務調査と会計不正
とはいえ、会社規模の大小にかかわらず、不正は税務調査で見つかる場合が圧倒的に多いと言われています。

税務調査は、申告納税が基本である日本の法人税、消費税などの制度において、納税者が故意や過失の有無にかかわらず間違った申告、納税を行うことを発見、防止する行政側の手続です。これとは別に「査察」という犯罪調査と同様の強制的な調査もありますが、今回は調査を受ける会社側も同意して行う「任意調査」だけを取り上げます。

このような任意調査の場合、会社規模や業務内容によって異なりますが、1名~5名程度の調査官が税務署からやってきます。彼らは一定期間会社を訪問し、役職員への質問や資料収集により、申告内容が妥当であるかを調査します。調査官には「質問調査権」がありますので、この調査官の質問には回答しなければなりません。

調査官は申告内容の誤りを発見するための教育を受けていますし、十分な経験もありますので、結局の所その調査の過程で不正の発見される可能性が高くなるわけです。

さて、監査役はどれくらいこのような税務調査現場に立ち会っているでしょうか?弁護士や税理士など特殊な資格をお持ちの場合を除き、通常、経理担当者や税理士事務所の担当税理士が対応することが多いと思います。

確かに、経理や税務の業務に精通していない方の場合は、調査の過程で繰り広げられる理屈についていくのは非常に難しいかもしれません。しかし、税務調査は時に監査役監査で目の届かなかった、会社の細かい点にも職人的に踏み込みますので、横で聞いておくくらいのことをしても全く損にはなりません。

また、調査官は申告内容の誤りに直接関係する問題以外は積極的に摘発する義務はありませんので、対応する経理担当者や社長の不正については、それが申告内容に影響を与えない軽微なものであれば、「これから気を付けてください」で終わってしまう場合も否定できません。

これらのことから、監査役が不正に対応する観点からは、可能なら税務調査にオブザーバーとして立会い、それが難しければ、できるだけ調査終了時の講評を調査官から直接聞く、という対応をおすすめしたいと思います。

2.事例と対策
それでは、以下いくつかの代表的な会計不正の例を挙げ、そのあらましと、会計監査人非設置会社の監査役が採れる対策についてご説明します。

1)架空販売、押込販売、計上時期ずらし、売上除外
会社の状況を良く見せたり、また逆に税金を減らすため利益を押さえて見せたりする方法はたくさんありますが、やはり「売上を調整する」ことが一番ストレートな方法であると言えます。
また、例えばサービス業の会社には大きな在庫はなく、後述の「在庫を調整する方法」での不正会計は行えませんが、売上なら全ての会社で業績の調整を行うことが可能となります。その意味で、売上の調整は不正会計の中でも最も一般的なものと言うことができます。

ただ、売上というものは商品やサービスの内容や価格、支払条件等々について顧客との合意が必要ですから、全くの架空売り上げを含め必ずどこかに問題が出てきます。
以下、売上調整による不正会計の主な手法とその事例について説明します。

①架空販売
さて売上を調整するためにはいくつかの方法があります。
最も簡単なのは、実際に売り上げていないものを売上として扱う「架空販売」です。この架空販売の場合、売上自体は実際には発生していませんので、当然ながらまともな入金もありませんし、出荷記録なども発生しません。このため、調査の対象にいったんなれば、比較的発見の容易な不正であると言えます。

(事例)
卸売業A社はここ数年業績が振るわず、多額の銀行借入金が負担となっていました。このため、あまり業績不振が続くと銀行から追加の借入はおろか、借り換えすら拒否される可能性があります。この状態に危機感を持った経営者は、経理担当者に指示して架空の売掛金口座を設定、目標とする売上に届くように架空売上を積み上げました。
2,3年の間はごまかすことができましたが、結局税務調査時に多額の滞留売掛金について説明を求められ、不正が発覚してしまいました。

(発見・防止手法)
決算書の内訳明細書には「売掛金」のリストがあります。このリストの昨年版と今年度版を比較し、残高が異常に増えているような得意先がないかどうかを調べると、このような取引が含まれている場合があります。また、不正ではなくても、売掛金の焦げ付きが発見される場合もあります。

(後日談)
不正は発覚したものの税務調査官は利益を過大計上する不正であることから見逃し、口頭で是正を指示して調査を終えています。結局この会社は、架空売り上げやその他の不正で資金が回らなくなり、数年後に自己破産するに至りました。

②押込販売
前述の架空販売は、計上する側(経営者や従業員)が勝手に売上を形だけ計上してしまう方法ですが、「押込販売(おしこみはんばい)」は実際の販売と一見似た外見を持っています。

(事例)
営業担当Bは、自らの販売ノルマがもう少しの所で達成できず焦っていました。このため、懇意にしている取引先の購買担当者に依頼し、ノルマ達成に至る売上を計上してもらうことにしました。当然購買側の予算は変更されていませんので、販売物はBの会社の倉庫に置き、支払も通常の条件より数か月伸ばしてもらうか、適当な時期に返品処理をすることにしました。会社で棚卸を行う際には、その品目については隠すか自分がカウントしてつじつまを合わせていました。

毎年このような形で乗り切っていましたが、結局押し込み部分が大きくなり、会社の棚卸責任者が交代となった際、棚卸表に乗っていない大量の在庫が発見されることとなり、不正が発覚しました。

(発見・防止方法)
事例の通り、在庫棚卸を正確に行うことが一番の防止方法です。後で述べる通り棚卸に関する不正を発見することは専門家にとっても難しい事ですが、できるだけの手続きを駆使して確認する必要があります。また、月末に売り上げた代金が、所定の条件通り入金されているか、また年度初めに多額の返品がないかを確認することも有効です。

③計上時期ずらし
売上の計上時期をずらす方法は、当期に計上するべき売上を来期に回す(決算期末より後にずらす)場合と来期計上すべき売上を当期計上する(決算期末より前にずらす)場合の2種類があります。

前者は当年度の利益を減らしますので、当然ながら脱税目的で利用されます。また後者は利益を増やしますから、粉飾目的で利用されることが多くあります。これ以外にも、営業担当者が自らの営業成績を調整するために計上時期をずらすことも少なくありません。

売上の計上基準が出荷基準(当社倉庫を出たら売上)であるか検収基準(顧客に対して引き渡しを完了した時点で売上)であるかという差はありますが、いずれにしても顧客と共謀して検収書類などが改ざんされる場合は発見が非常に難しい方法です。

(事例)
営業担当Cは、既に今期の売上ノルマを達成していたため、期末日近い時点での売上が予定されている顧客に対し「製品到着は今月だが、来月頭の検収書を作成、送付して欲しい。ついては支払もひと月伸ばして頂いて結構です」という旨をメールにて依頼しました。担当Cをかわいがっている顧客は、二つ返事で来月頭日付の検収書を作成し、当社に送付しました。

(発見・防止手法)
粉飾や脱税目的の計上時期ずらしを発見するには、厳しい予算(ノルマ)がある場合、強気すぎるものや、予算の未達可能性が高くなっている部署がないかを期中で確認しておく必要があります。

営業担当が自らのノルマを調整するために計上時期をずらす方法を採った場合は、このようなリスクを想定した内部監査や部署内の相互チェックをおこなわない限り非常に発見が難しいと思います。そのような考え方は、自らのみならず会社にも顧客にも迷惑をかけるという営業モラルに関する教育を強化する必要があります。

④売上除外
売上除外とは、文字通り本来あるべき売上から、一部又は全部を所得税課税対象から除外する方法です。この方法は、基本的に裏金作りや脱税行為を目的としたものとなりますので、税務調査等で発見された場合は重加算税の課される可能性が極めて高くなります。

(事例)
飲食店Dは、過去から適当な数売上伝票を破棄し(つまみ売上)売上高を過少申告していました。税務署の調査官は調査前にこの飲食店へ覆面調査に数回訪れ、飲食した事実を記録し、その後正式な調査を行った際、記録した売上が一部含まれていないことから売上除外が発覚しました。ただこの不正を行っていたのはこの店舗の店長であり、除外された売上分の資金は当該店長に横領されていました。

(発見・防止手法)
飲食店などのような現金商売でない場合、可能な限り現金売上を廃止、入金口座を限定することが有効です。また現金商売とせざるを得ない場合、日々の現金管理や残高照合、レジデータのチェックを徹底させる、抜き打ち監査を行うなどというプロセスを強化する必要があります。

(補足)このような場合、不正を行っていたのが店長であっても、経営者が過少申告で重加算税を課される場合があります。

 

大法人の電子申告義務化について

1.電子申告とその義務化について
米国などに比べ遅れていた行政の電子手続化を進めるため、2004年に施行された「行政手続オンライン法」(正式名称は「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律」)に基づき我が国でも国税の電子申告システム整備されました。
このシステムはe-Tax(イータックス)と呼ばれ、パソコン等からインターネット経由で確定申告や申請書の提出などを行うことができます。
主要な国税の、過去10年余りの利用件数は下記の通りとなっています。

電子申告推移
各年度・主要税目の電子申告利用件数(国税局資料より抜粋)

しかしながら、旧来の「紙で提出する」実務が大企業などにも深く浸透していたことから十分な普及が進まず、元々の目的であった行政の効率化が果たせない状態となっていました。

そこで、経済社会のICT化等が進展する中、税務手続においても、ICTの活用を推進し、データの円滑な利用を進めることにより、社会全体のコスト削減及び企業の生産性向上を図ることが重要であることから、平成30年度税制改正により、「電子情報処理組織による申告の特例」が創設され、一定の法人が行う法人税等の申告は、電子情報処理組織(以下「e-Tax」といいます。)により提出しなければならないこととされました。(e-Taxページより)

義務化後最初の申告(令和3年3月期)が待ったなしとなりましたので、義務化とその対応方針についてご説明します。

2.電子申告の義務化の概要

  • 法人税及び地方法人税並びに消費税及び地方消費税
  • 資本金の額又は出資金の額が1億円超の内国法人、相互会社等…法人税・地方法人税、消費税・地方消費税


電子申告義務化対象法人
e-Tax義務化法人一覧(e-Taxホームページより)

  • 国及び地方公共団体…消費税・地方消費税
  • 確定申告書、中間(予定)申告書、仮決算の中間申告書、修正申告書及び還付申告書が対象で、これらに添付すべきものとされている書類の全てを含む
  • (例外)電気通信回線の故障、災害その他の理由によりe-Taxを使用することが困難であると認められる場合、納税地の所轄税務署長の事前の承認を要件として、法人税等の申告書及び添付書類を書面によって提出可

なお、電子申告義務化対象法人は、納税地の所轄税務署長に対し、適用開始事業年度等を記載した届出書(「 e-Taxによる申告の特例に係る届出書」を下記の期限までに提出する必要があります。

  1. 令和2年3月31日以前に設立された法人で令和2年4月1日以後最初に開始する事業年度(課税期間)において義務化対象法人となる場合…当該事業年度(課税期間)開始の日から1か月以内
  2. 令和2年4月1日以後に増資、設立等により義務化対象法人となる場合
    イ 増資により義務化対象法人となる場合…資本金の額等が1億円超となった日から1か月以内
    ロ 新たに設立された法人で設立後の最初の事業年度から義務化対象法人となる場合…設立の日から2か月以内
  3. 令和2年4月1日以後に義務化対象法人であって消費税の免税事業者から課税事業者となる場合…課税事業者となる課税期間開始の日から1か月以内
  • 令和2年4月1日以後に開始する事業年度(課税期間)から適用(地方税の法人住民税及び法人事業税についても電子申告が義務化)
  • 電子申告の義務化法人は、書面による申告書の提出は認められません。このため、電子申告の義務化の対象となる法人が、e-Taxにより法定申告期限までに申告書を提出せず、書面(添付書面含む)により提出した場合、その申告書は無効なものとして取り扱われることとなり、無申告加算税の対象となります。
  • 但し、やむを得ない理由で一部が紙で申告された場合、「申告書の主要な部分(どの部分が主要であるかは公表しない)」が電子申告されていれば、必ずしも無申告として取り扱う訳ではないとの見解(国税庁)

3.CSV形式で提出可能となるもの
(国税庁HPにCSV形式を簡易に作成できる標準フォームが掲載されています)
①別表の明細書のうち内訳の記載を要する別表6など
②財務諸表(勘定科目に国税庁から公表される勘定科目コード(令和元年に公表予定)を付ける必要あり
③勘定科目内訳明細書

4.PDFで提出可能となる添付書類
①一部のリリース前別表
②出資関係図
③経営力向上計画に係る認定書の写し
④申告に添付が必要な証明書など

5.添付すべき書類が大量にありe-Taxによる提出が出来ない場合は、光ディスクによる提出も可能

6.別表16(減価償却に関する明細書の添付)
元々、この別表16は「固定資産の科目別の合計を記載して提出し、明細の記載は省略できる※」とする取り扱いがありました。この取り扱いは電子申告義務化でも踏襲されています。
※法人税法施行令第63条第2項 その区分ごとの合計額を記載した書類を当該事業年度の確定申告書に添付したときは、同項の明細書を保存している場合に限り、同項の明細書の添付を要しないものとする

7.相続税の電子申告について
相続税法に基づく申告には「贈与税」と「相続税」がありますが、これまでは「贈与税」のみが電子申告の対象となっていました。
これが今回改められ、本年(2019年)10月から「相続税」でも電子申告が可能となることが決まっています。
遺産分割協議書など、電子化が難しい書面の提出をどのように行うかが問題となりますが、最後に残されたこの税目が電子申告の対象と納税者の利便性は大きく向上することになります。

8.対応方法について
これまで電子申告を利用していなかった法人や、一部を紙提出していた法人の場合、上記(義務化)の対応は少し面倒なものになるかもしれません。しかし、電子申告を上手に導入すると、結果として手続が非常にシンプルで効率的になり、誤りや税務調査リスクを低減することにもつながります。
またこのメリットは、今回義務化の対象となる大規模会社だけではなく、中小企業でも同様に受けることが可能です。

弊所はe-Tax登場とほぼ同時に、対応するほぼ全ての税目において電子申告での提出を実現しています。
また、上場会社を含む大規模法人や金融機関に関しても、電子申告を含む法人・消費税申告手続に関与しており、実務に精通しています。
特に電子申告の義務化に対応するためにはもちろん電子申告に対応したシステムが必要になりますが、システムの導入だけに終わるとせっかくの効率性が失われたり、システム投資の肥大化を招いてしまう可能性もありますので、実際に資料の準備からシステムの選定、決算書作成や税額計算、申告書の提出までの電子申告実務を十分に理解している専門家の関与が必須となります。

電子申告を新たに導入する場合、また現在導入しているがより効率化を図りたい、税務調査リスクを低減する申告を行いたいなどのご希望がありましたら是非お問合せ下さい。

資本金・資本準備金・資本剰余金って何?

最近、最大手旅行会社のJTBが、資本金を23億400万円から1億円に減資することが明るみに出ました。
この資本金、一般的には会社の大きさを示すようなイメージでとらえられていることが多いですが、さて実際にはどのような意味を持つ存在なのでしょうか。
また、似た言葉で「資本準備金」や「資本剰余金」という概念との違いは何でしょうか。
今回は、これらの意味やその役割について、幅広くご説明します。

決算短信純資産の部
例:ある会社の純資産の部

1.会社には「カネ」が必要
言い古された言葉ですが、事業に必要なのは、「ヒト・モノ・カネ」です。
しかし、ヒトもモノも、カネ(資金)がなければ手に入れることは出来ませんね。

あなたには良い友達がいて、個人事業を起こす際には道具を貸してくれたり、またしばらくは無償で手伝ってもらえたり、というありがたい協力を得る事も出来るかもしれません。しかし出来たばかりの「会社」の場合そういうことは普通望めませんので、やはり「ヒト」や「モノ」を得るには資金が必要なのです。

このように、事業を始めるに当たって必要な資金のことを、経済学用語で「資本」と呼びます。別の言葉で言うと「元手(もとで)」ですね。この資本(元手)を手始めとして、会社は事業を拡げていくことになります。

2.「資本」は「資産」ではない
では、要するに資本とは「資産」のことじゃないか?と思ってしまいますが、そうではありません。会社の資産というのは、「会社が所有する財産」のことを言います。

資本(元手)を原資として資産を買い、人を雇い、そして事業に精を出して利益を上げたら、「資産」は少しずつ増えていきます。
つまり、資本は会社がその所有者(株主)から預かった元手の額すなわち「過去の金額」であり、資産は事業活動の結果会社が持つことになった財産の「今の金額」なのです。

3.「資産」「負債」「純資産」
以上の通り、資本は会社が株主から預かった元手であり、資産は会社が持つ財産の今の金額であると言えます。

ところで、会社がお金を調達する方法にはもう一つあります。それは「借入」です。
銀行等金融機関や、それ以外の個人や会社からの借入金は、資本と同じく会社にお金をもたらしますが、そのお金の「返し方」が資本と違います。

資本は、原則として会社が無くなるまで返してもらえませんが、借入金は、一定の期限や金利を定めて返済しなければなりません。
その他、仕入代金や税金の支払義務など、会社が負う債務をすべて合わせて「負債」と呼びます。

ここで、会社の良し悪しを示す、もっともシンプルな数字である「純資産」が出てきます。
純資産とは、「資産」から「負債」を差し引いた金額です。

言い換えれば、「返さなければならない負債を全て返した後、会社にどれくらいのお金が残るか」を示すのが「純資産」なのです。
この純資産は、会社に出資した株主がもともと出したお金から出来たものですから、原則として株主のものです。このため、純資産は「広義の株主資本」とも呼ばれます。

4.会社法
このように、「資本」とは、株主が出資したお金や資産、負債から定義されます。
ところが、どのような会社であるかを判断するため大変重要な数字である資本について、分かりやすい決まりを定めておかなければ、決算書を作る際や株主、銀行などが見る際に混乱が生じてしまいます。

このため、会社に関する様々な決まりを定めた「会社法」においては、資本について細かい規定が設けられています。

次の項目から、会社法における「資本金」「資本準備金」及び「資本剰余金」についてご説明します。会社の種類によってこれらの定義や制度は少しずつ異なりますので、このコラムにおいては全て「株式会社」を前提としています。

5.「資本金」は自分で決める
会社法において、株式会社の資本金は以下のように定義されています。

会社法第445条 株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。2 前項の払込み又は給付に係る額の二分の一を超えない額は、資本金として計上しないことができる。

つまり資本金の額は、株式会社の設立や株式の発行をした際に、株主が払い込んだお金のうち、1/2以上、ということになります。

会社法が出来る前は、会社の財産が多い方が債権者を保護できるという考え方のもと、株式会社が1000万円、有限会社が300万円という「最低資本金」制度が設けられていました。

しかし、前の項目で説明した通り、「資本金」と「資産」すなわち会社の財産額は異なります。
このため、新規開業を促進することを目的として、最低資本金制度が廃止されることになり、「資本金1円」の会社を設立し、維持することも可能となりました。

現在も依然として資本金の額(会社の登記簿で確認できます)によって会社の規模を判断される場合もありますが、最近はこのこともあってあまり気にされなくなってきたようです。

6.「資本準備金」は自動的に決まる
次に、資本準備金は以下のように定められています。

会社法445条2 前項の払込み又は給付に係る額の二分の一を超えない額は、資本金として計上しないことができる。

3 前項の規定により資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない。

例えば、株主の払い込んだお金が100万円だったとすれば、そのうち50万円までは「資本金としない」ことができ、その「資本金としなかった」金額が資本準備金になる訳です。

会社法で定める準備金(法定準備金)は、会社法が出来る前(商法の時代)からありましたが、これは「会社の債権者を保護するため、一定額を溜めておきなさい」という意味合いの制度と言われており、資本準備金の他には利益準備金が定められています。

この法定準備金、減らすことができる目的には①資本金への組み入れ ②剰余金への組み入れ の2つがありますが、②の際には「債権者保護手続」が必要になります。この債権者保護手続は、資本金を減少する「減資」の際にも求められています。この点から見ると、法定準備金は、資本金に近い性格を持つと言えるかもしれません。

7.「資本剰余金」にはいろいろある
会社法上、資本剰余金は、資本準備金及び資本準備金以外の資本剰余金(その他資本剰余金)に区分されます。ここで説明する資本剰余金はその他資本剰余金を対象とします。

その他資本剰余金は、「資本としての性格を持った剰余金」として位置付けられます。

つまり、利益から発生する「利益剰余金」とは異なり、株主からの払込など、資本取引から発生する剰余金であるという意味です。

その他資本剰余金には、以下のようなものが含まれます。

  • 資本準備金の取り崩し額
  • 自己株式処分差額(自己株式を譲渡した際の差損益)
  • 組織再編における増加資本のうち、資本金や資本準備金に組み入れなかった金額

会社が配当する際、純資産のうち資本金や資本準備金は配当の原資にはできませんが、その他資本剰余金は配当原資とすることが認められています。この点が、資本準備金とその他資本剰余金の大きな違いです。

8.大会社
資本金が5億円以上になると、会社法上は「大会社」として取り扱われます。この場合、中小企業と違って以下のような義務が課されることになります。それぞれ大きな論点ですので、内容の詳しい説明は省略します。

  • 会計監査人の設置義務(公認会計士による監査)
  • 監査役会設置義務(委員会設置会社を除く)
  • 内部統制システムの決定義務
  • 損益計算書についての公告義務(基本は貸借対照表のみ)
  • 連結計算書類作成義務(有価証券報告書提出会社のみ)

9.その他の違い
ここまで資本金、資本準備金、及び資本剰余金について、会社法の定義を説明しました。

これらは、「利益」ではなく「株主の支出した資本」から生み出される点については共通しているのですが、法律の定めでそれぞれ違った取り扱いとなっています。

ところで、資本金、資本準備金、及び資本剰余金の違いはこれら以外にもありますので、以下簡単に説明します。

①その他の違い-法人税法(中小企業税制)
法人税法には中小企業に対する税率軽減の制度があります。この制度、「資本金」が1億円以下(大会社の子会社などは除かれます)の会社を中小企業と定め、このような会社に限っては年間800万円の所得まで、通常の税率より低い法人税率を適用するというものです。また、この他にも中小企業に関しては法人税法上の特典を受けることが出来る制度があります。
※ニュースとなったJTBは、主にここを狙っていたと考えられます。

さらに、中小企業の中でも資本金が3000万円以下の場合、中小企業支援の観点から多くの特典が用意されています。

②その他の違い-法人税法(資本と利益の違い)
現在の会社法は「資本」と「利益」については概念上区分しているだけで、実際には資本剰余金からの配当(本来利益から行われるもの)が認められているなど、相互の違いが事実上なくなっています。

ところが、法人税法上「資本」はあくまで「株主から払い込まれたもの」で、「利益」は「会社が獲得したもの」として、未だ明確に区分しています。このため、自己株式を売買した場合や、資本剰余金から配当を行った場合など、会社法に基づく会計と法人税法上の処理に違いの発生する場合があります。

③その他の違い-消費税法
新しく会社を設立する場合、「資本金」を1000万円未満にしておくと、設立以後2年間(売上高などが非常に多くなる場合は1年7か月程度が限度)は消費税の納税が原則として免除されます。

④その他の違い-地方税法(均等割)
地方税(都道府県民税や市町村民税)には、利益が出ていなくても一定の税金を会社に課す「均等割」という制度があります。この均等割の金額は、会社の規模が大きくなると高くなるよう定められています。

法人税の場合、会社の規模は前述の通り「資本金」で判断するのに対し、均等割の場合は「資本金等」で判断します。

この「資本金等」には、資本金と資本準備金が含まれるのですが、さらに「無償減資による減資差益」という金額も加えなければなりません。この減資差益は、資本金を減額して、株主にお金を払い戻さなかった時に発生するものです。つまり、税金を下げようとして資本金を減額したとしても、均等割は減らしてもらえない訳です(平成27年度の税制改正によってこの点は一部緩和されています)。

その他の違い-地方税法(外形標準課税)
外形標準課税は、規模の大きな企業に対して、均等割よりさらに積極的な課税を行う、地方税の一つです。具体的には、資本、所得、付加価値の3要素に課税をする制度となっています。

この制度の「資本」への課税は、前項で説明した「資本金等」が対象になるのですが、何故か大企業かどうかという判定は、「資本金が1億円を超えているかどうか」となっています。ですから、資本金と資本準備金を合わせた金額が1億円を超えていても、資本金が1億円以下であれば外形標準課税の対象にはなりません。このため、制度の導入時は、資本金を1億円以下に減らす減資手続が相次ぎました。

の他の違い-中小企業基本法(中小企業法)
中小企業基本法(中小企業法)は、我が国における企業の多数を占める中小企業を支援し、国民経済の健全な発展及び国民生活の向上を図ることを目的として制定されています。そのため、中小企業法には、中小企業施策に関する国及び地方公共団体の責務等が多数定められてきます。

この中小企業法における「中小企業」、会社法や税法とは少し異なり、業種や資本金、従業員などの多寡によって、個人も含めて判定することとなっています。

例えば、製造業で、資本金の額が3億円以下、又は常勤従業員が300人以下の会社の場合、中小企業法上の中小企業として扱われることになります。

10.まとめ
資本金、資本準備金、資本剰余金の違いについて、会社法を中心に、その他の制度も含めて説明しました。

最低資本金制度がなくなったことで、中小企業を起業や経営する場合「資本金の大小」を意識する場面は少なくなったように思います。ただ、後にIPO(上場)の準備を開始したり、他社をM&Aしたりといった場合には、この論点を意識して物事を進めなければならない場合が出てきます。

ただ、中小企業にとって一番大事なのは「資金繰り」です。確かに1円の資本金で会社の設立は可能ですが、開業当初の会社には1円しかない訳ですから、起業時の準備費用すら支出出来ないことになります。

起業時の資金調達は誰もが苦労するところですが、自己資金、借入金などをバランスよく組み合わせつつ、資金繰りに工夫をしながら、あなたのビジネスを成長させていきましょう。

以上