月別アーカイブ: 2020年8月

第 11 回 ACFE JAPAN カンファレンスのお知らせ

一般社団法人 日本公認不正検査士協会(ACFEジャパン)は、「第11回 ACFE JAPANカンファレンス」を10月9日に開催します。
今年は新型コロナ感染症対策として全面的にオンラインでの開催となり、後日録画内容の配信も行われる予定です。

公認不正検査士(CFE)は、公認会計士でFBIの財務捜査官だったジョセフ・T・ウェルズが1988年に創設した資格です。
この公認不正検査士たちの団体が公認不正検査士協会(ACFE)で、米国を中心に世界180か国、85000人を超える会員が所属し、資格認定試験を経て不正調査や防止などの専門家として活躍しています。

このような職業的専門家資格においては、高度な専門的能力を維持・発展させるために継続的な教育体制が欠かせません。
実際、私たち公認不正検査士は、年間20時間(内倫理を2時間)の研修履行義務が貸されており、これを満たさなければ資格の更新ができないことになっています。

研修の方法は一般的に座学のセミナーですが、時々「カンファレンス」と呼ばれる大きなイベントが開催される場合もあります。
例えば、米国のACFE本部は毎年「グローバルカンファレンス」という全世界の会員を対象にしたカンファレンスを開催しており、ここには数千人の会員が集結します。

以前私がグローバルカンファレンスに参加した際の報告記事がこちら

さて少し規模は小さいですが、同様にACFEジャパンが毎年行っているのが「ACFEジャパンカンファレンス」です。このカンファレンスは、通常大きな会場に会員を集め、8時間~10時間程度の研修を受けるという形式を採っているのですが、今回は新型コロナ感染症対策を考慮し、全面的にオンライン開催を行うこととなりました。

ACFEカンファレンス

毎年、その時々に合ったカンファレンスのテーマが掲げられますが、今年は「Light the way ~ New Normal時代の企業が取り組むべきリスク対策 ~」となっています。

中身としては、New Normal時代新たに認識すべき概念や、DX(デジタルトランスフォーメーション)による新たなリスクについて、内容の濃い講演やパネルディスカッションが行われる予定です。また、昨年大きな話題となった関西電力金品受領問題や、形骸化・悪用が指摘されている第三者委員会の問題点などについても取り上げます。

このカンファレンスは会員以外でも参加することが可能です。
公認会計士や弁護士といった職業だけではなく、企業の内部監査担当者などにも非常に有益なものとなっています。

会場開催の場合はいつも満席となりなかなか多くの方に出席頂くことができない場合もあるのですが、今回はバーチャル開催なので制約は基本的にありません。
是非ご視聴頂き、できればCFE資格の取得をご検討下さい!

カンファレンスの特設ページはこちらとなっております。

税理士は仕事の全てを記録すべし?

私たち税理士は、法人税法、所得税法、相続税法、民法や会社法といった会計・税務に関係する法律に従って仕事をしなければなりません。でないとお客様に迷惑をかけるばかりか、自身にも重いペナルティを受ける場合があります。

これに加えて、我々税理士が活動する際従わなければならないのが「税理士法」です。
税理士法には、税理士の使命や義務、試験の内容や税理士名簿、税理士法人など税理士制度に必要な内容が全て書かれています。

今回はその規定の中で、あまり知られていない「帳簿作成の義務(41条)」についてご説明したいと思います。

1.帳簿作成の義務?
元々税理士は帳簿を作る仕事じゃないか!と思った方のセンスは正しいと思います。
税理士法第41条第1項には、下記のような記載があります。

(帳簿作成の義務)
税理士は、税理士業務に関して帳簿を作成し、委嘱者別に、かつ、1件ごとに、税務代理、税務書類の作成又は税務相談の内容及びそのてん末を記載しなければならない。

つまりお客様(法律上は委嘱者と呼ばれます)の会計帳簿ではなく、税理士がその行った業務の内容を詳細に記録しておく帳簿、のことなのです。正直、この名前変えた方が良いと思います。

この帳簿について、日本税理士会連合会が出している標準様式は下記のようなものです。

税理士業務処理簿

このような表に、お客様ごとに行った申告書を作成、提出したり、税務相談を受けたりといった業務内容について、毎日記録します。この記録は法定の「義務」であり、この義務を怠った場合、財務大臣による懲戒処分の対象となる可能性があります。
実際、税理士に対して行われた財務大臣による懲戒処分(ネットで公開されています)で、この「41条違反」は今かなり多くなってます。

処分例

このような懲戒処分が多い理由は、税理士法41条の「帳簿」を作成するには余分な手間がかかり、どうしても省略しがちになってしまうからではないかと思います。

2.弊所の対応
弊所は、税理士法人耕夢の前身である塩尻公認会計士事務所の時代からこの課題には積極的に取り組んでおり、独自に開発した「耕夢システム」において業務チェックリストやスケジュール・日報管理、お客様とのコミュニケーションを処理すると、自動的に税理士法41条の要件を満たした情報が記録されるようになっています。

耕夢システムがクラウド型であること、また独自の様式で記録していることから、税理士法が定める保存方法(電磁的でもよいが、クラウドを明言していないため事務所内の保存を前提にしている)や様式を完全に満たしているかどうかは正式な回答を得ておりませんが、事務所自体が受けた過去2回の税務調査においては、口頭ながら要件を満たしている旨のご意見を頂いています。

この業務処理簿は、手間をかかることを除けば事務所業務の品質管理や、お客様の利益保護にもつながる、税理士業界にとっても非常に重要な制度となっています。皆さんがITツールを活用して、できるだけ効率的に実現して頂くように願う所です。

以上

報酬の決め方について

私達がご提供する会計・税務業務は、控えめに言ってもかなり複雑です。正直に言えば、こんな複雑な制度ではなく簡単にし、私達税理士なんて要らない仕組みにした方がいいんじゃないかとすら思います。
このように業務が複雑なため、税理士がその業務を行う場合の「報酬」についても、どのように決まっているのかは、実はあまり良く知られていないようです。
この記事においては、税理士業界の実態と、私どもの事務所がどのような報酬規定を定めているかについてご説明します。

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1.日税連の調査結果
日本税理士会連合会(日税連)は平成26年、第6回目となる「税理士実態調査」を実施し、報告書を公表しました。この調査は昭和43年以降大凡10年毎に実施されているもので、税理士業界の現状を把握するうえで重要なデータとして認識されています。

その中で私が少しばかり驚いたのは、「報酬規定」の項目です。

報酬規定とは、平たく言えば税理士の「サービス価格表」であり、ある業務を行う場合にはどれだけのお支払いをお願いするか、ということが示されたものです。以前は、税理士会によって「最高額」を定めたものがありました(税理士報酬規定)が、この定めは平成14年3月をもって廃止されており、その後はそれぞれの税理士が独自に報酬規定を定める事となっています。

ところが、この調査においては、報酬規程を「設けていない」税理士事務所(個人)は回答者25,970人中16,703人64.3%)であり、「設けている」事務所は8,391人(32.3%)となっていました。税理士会の報酬規定が廃止された直後に行われた前回(第5回、平成16年)の調査においては「設けていない」が68.4%でしたので、ほとんど状況が変化していないと言えます。

税理士業務は複雑多岐にわたり、一般の依頼者にとっては分かりにくいことも多くあります。このため、本来は消費者保護の観点から、事務所独自の報酬規定を作成し、積算根拠の説明も含め、依頼者の皆様に提示できるようにしておくことが必要と考えています。

2.私どもの報酬規定について
私どもは、平成14年の税理士会報酬規定廃止以前から事務所独自の報酬規定を定め、定期的に見直しを行いながら運用しております。また、お客様からサービス提供のご依頼があった場合、明確な積算根拠に基づく見積書とともに報酬規定を明示し、ご理解を得るようにしております。具体的には、下記の通り計算されます。

法人、個人の決算、確定申告業務
下記の要素に基づく合計額によって、報酬年額を計算、原則として1/16を毎月、1/4を決算終了後ご請求することにしています(全て税抜金額)。

  • 定額報酬 5万円
  • 年間取引高(売上高など)に一定率を乗じた「リスクチャージ」
  • 業務内容から見込まれる業務時間と、担当する職員等のレベルに応じた「タイムチャージ」

相続、分離課税譲渡所得(土地建物等の譲渡所得)

  • 上の確定申告業務と同じ考え方ですが、少しリスクチャージ率が高く設定されています
  • また、相続については以前からお付き合いのある方か、内容の難易度の高低などによって、基本報酬に対する増減率が定められています。

公認会計士、公認不正検査士、その他コンサルタント業務

  • タイムチャージが税理士業務より少し高くなります
  • 想定される取引金額に一定率を乗じる「リスクチャージ」方式と、契約時に合意した成功報酬(差額利益相当金額に一定率を乗じた金額)から選択します
  • 成功報酬には、難易度が高く金額の大きい助成金の申請サポートも含みます

3.オプションについて
基本料金を出来るだけ下げて「格安報酬」を唄い、実際のところは付随業務をオプション扱いとしている事務所も時々見かけることがあります。
報酬規定の決め方はそれぞれですので、説明さえきちんと行っていれば良いと思いますが、実際に業務を行ってみるとオプション部分が必要で結局割高になってしまう場合もあり得ます。

私どもの規定はいわゆる「フルサービス」となっており、オプションの選択はありません。「この業務については自社で対応可能である」という場合は、タイムチャージが変動しますのでその部分で調整することになっております。

最近はいわゆる「格安」と言われる事務所も影を潜めてきたようですが(収支が持たないので当たり前ですが)、これに代わってクラウド会計などを駆使し、徹底的に効率を高めた新しいタイプの事務所も多くなってきました。コロナ禍やコロナ後、このようなスタイルは大きく成果を上げるのではないかと思います。今後、価格はもちろんサービスの質や内容が今まで以上に重視されることになると思います。

以上

 

「にせ税理士」について

1.税理士の使命とは
税理士法第1条には、税理士の使命として「税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ること」が掲げられています。
この使命に基づき、我々税理士は確定申告など、様々な税に関する手続や相談に応える仕事を行っています。
税に関するこれらの仕事は、一般的に難易度が高く、また大きな金銭的利害の関係するものが多いため、税理士法はこのような仕事が行える者を、国家試験や実務経験を経て、税理士や税理士法人などとして公に登録された者に限定しています(税理士法第52条)。この法律に反して税理士等以外の者が税理士業務を行うと、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金が科されることになります(税理士法59条)。これには、報酬を受け取っているか否かは関係がありません。

2.にせ税理士とは
このような法律に違反してにせ税理士行為が行われるのは、税理士業務が税理士の独占業務であり、儲かると思われているからかもしれません。また、税金に関する手続きは押しなべて難しく、気軽に頼める税理士に出会えなければ、よく知っている者に頼んでしまうこともあるかもしれません。
しかし、税理士は前述の通り国家試験や実務経験を経た者だけが登録できますし、守秘義務や脱税相談の禁止など、様々な果たすべき義務があります。また最近は、「最低年間36時間の研修」が義務付けられ、自己研鑽も行っています。このような条件を満たしていない者に税理士業務を依頼した場合、場合によっては誤った手続きで不測の損害を受ける、税務署から厳しい処分が課されるといったトラブルを被ることになりかねません。またそういうトラブルの際には、あっさりと逃げてしまうケースもあります。
では、にせ税理士にはどんなタイプがあるでしょうか。大きく分けると下記のような区分があると言われています。

①無資格税理士
税理士としての資格を持たない者が、税理士であると嘘をついて税理士の仕事をする場合がこれに当たります。
税理士事務所に勤務していた(または現在も勤務している)経験者が、個人として行っている場合が多く、「○○先生」と呼ばれてあたかも税理士のようにふるまい、帳簿の記帳、申告書作成や税務相談に対応します。
しかし税理士ではありませんので、後述の通り税務調査に立ち会うことはできません(税務署はにせ税理士を摘発することも重要な仕事としていますので、怪しいとわかればすぐに見つかってしまいます)。

②名義借り・名義貸し
上の無資格者や税理士でない者が作った一般の会社(「○○記帳代行サービス株式会社」など)が依頼者から税理士業務を引き受け、自分たちができない税理士業務の部分を税理士が行っているように見せかけるため、実在する税理士や税理士法人の「名義を借りる」ことを言います。
この方法は、申告書に税理士や税理士法人の記名や捺印があるので一見問題がなさそうなのですが、税理士法はこのような「捺印だけ税理士が行う」行為もにせ税理士行為と同じとして禁止しています。
法人税の申告書を作成する場合、その申告書だけではなく作成の元になった帳簿や、さらにその元になった資料、会社の状況などを税理士は十分に知っていなければならないのです。このため、名義だけを貸し、税理士の捺印だけを行うような行為は税理士が十分に責任を果たしていることになりません。

3.にせ税理士を見抜くには
私たちが実際に出会った事例でも、全て依頼者は「ちょっとおかしいかな?」程度の疑問しか持たずに仕事を依頼し続けていました。私たち税理士にはほとんどがすぐわかることですが、慣れていない一般の方々にとっては難しいようです。
では、税理士でない一般の依頼者が、このようなにせ税理士と正規の税理士を区別するにはどうすればよいでしょうか?
以下、にせ税理士を見抜く「特徴」と、「方法」をご説明します。
もし運悪く依頼されている「税理士と思っていた人」がそうでなかった場合や、ご友人の依頼されている者がにせ税理士だった場合、最寄りの税務署や税理士会などにお問い合わせ頂ければ適切に対応してもらえると思います。

①にせ税理士の特徴

  • 安すぎる報酬
    自己研鑽や投資もせず闇で仕事しているため、コストが低い。また、税理士のような特別な能力がないので価格勝負するしかない
  • 経営相談や税金対策の相談になかなか乗ってもらえない
    帳簿作成や基本的な申告書作成など限られた能力しかなく、自己研鑽していないので税務対策、経営相談など高度な話が分からない
  • 税務調査に立ち会ってもらえない
    前述の通り、税務調査に立ち会うと、調査官に会ってばれてしまいます
  • 申告書に署名捺印や電子署名をしたがらない
    同じく署名すると「存在しない税理士」なのでばれてしまいます
  • 捺印(電子署名)している税理士と、頼んでいる「税理士」が違う
    頼んでいる「税理士」が、捺印や署名している税理士から名義を借りています
  • 顧問料の振込先が「○○税理士事務所」や「○○税理士法人」ではなく「株式会社○○」や「○○コンサルティング」など税理士のつかない名前となっている
    偽税理士が報酬を取っている、又は捺印だけの税理士から名義を借りている
  • 税務署との交渉を嫌がり、すぐに「こんなものですよ」と逃げる
    税務署と交渉しようにもにせ税理士なので、相対したとたんにばれてしまう。または能力がなく、高度な交渉ができない
  • 顧問契約書(業務委託契約書)がない
    税理士でないものが税務業務に関する契約書を作成した時点で無効な契約書になります

②税理士かどうか調べるには
上記の特徴にいくつか当てはまり、「おかしいな」と思ったら下記を試しましょう。

  • 日本税理士会連合会の「税理士情報検索サイト」
    こちらにフルネームを入れて検索すると、その人が税理士として登録されているかどうかがわかります。
  • 税理士証票を提示させる(写真付きですぐわかる)
    上記のサイトでも見つからず、いよいよにせ税理士である可能性が高くなったら、本人に「税理士標章を見せる」ように求めましょう。この税理士標章は、氏名や生年月日、登録番号、所属事務所など税理士としての基本情報が写真とともに記されており、税理士は仕事の際携帯することが義務付けられています。所長塩尻の税理士証票は下記の通りです。
    IMG_4855

 以上

これが贈与の全てだ! ~ プロが教える贈与のポイント

平成27年に相続税の増税があったため、最近は相続税を減らす対策としての「贈与(ぞうよ)」が大きな注目を浴びています。
でもこの贈与、実は意外と複雑で、気を付けないといけないポイントも多いのです。
今回はそんな贈与について、できるだけ分かりやすく解説し、よく言われる贈与税に関するうわさの真実、また上手な活用のヒントについて書いてみたいと思います。

1.はじめに
平成27年に、大変大きな「相続税の増税」がありました。
これは、法律の改正により「今まで相続税がかからなかった」多くの人にも相続税がかかるようになったことによるものです。
そのこともあって、相続税を減らす対策としての「贈与(ぞうよ)」が大きな注目を浴びています。
でもこの贈与、実は意外と複雑で、気を付けないといけないポイントも多いのです。
今回はそんな贈与について、できるだけ分かりやすく解説し、上手な活用のヒントについて書いてみたいと思います。

2.贈与・贈与税とは?
贈与という言葉を見ると、単に「人に自分のものを与える」だけのように感じます。
ですが、法律上の意味はちょっと違います。
「人に自分のものを与える」のはその通りなのですが、「与える相手に『与える』ことを伝えて」、「相手がそれに応じる」という条件がないと成立しないのです。ややこしいですね。
この点、法律を勉強している人なら「民法549条」や「片務契約(へんむけいやく)」「諾成契約(だくせいけいやく)」「無償契約」などという言葉をご存知と思いますが、このコラムにおいては不要なので省略します。
なお、贈与や贈与税といった言葉はありますが、贈与について規定した「贈与法」やその税金に関する「贈与税法」という法律はありません。それぞれ「民法」や「相続税法」に規程が設けられています。

3.相続・相続税との関係
持ち戻し
相続人となる子供が複数いた場合、一人の相続人だけが親からたくさんの財産を生前にもらっていた場合、他の相続人にとっては不利になります。このような生前に受けた贈与は、民法上「特別受益」と言われており、相続の際には公平を期すよう考慮することとされています。これを「持ち戻し」と呼びます。

贈与税率
相続税を回避するためにたくさんの財産を贈与すると、相続税を課税する意味がなくなってしまいます。このため、同じ財産を対象にした場合、相続税に比べて贈与税は非常に高くなるように税率が定められています。

3年内贈与
法律上、いつの贈与であっても贈与は贈与です。しかし、相続税を計算する場合には、相続発生前3年間の贈与については、相続財産に含めて計算します。ただ、もしその贈与で申告し、贈与税を支払っている場合には、その贈与税は計算された相続税から差し引くことができます。

4.贈与の種類
暦年贈与
暦年(れきねん)とは普通、1月から12月までの1年間のことを言います。
この暦年贈与は、特別な制度を使わない「普通の贈与」として取り扱われます。
暦年贈与の場合、もらう人単位で「1年間110万円」までは税金がかからないことになっています。この金額を「基礎控除」といいます。
この基礎控除を超えた部分には贈与税がかかりますので、贈与があった翌年の2月1日から3月15日までに贈与税を申告、納税する必要があります。また前述の通り贈与税は相続税に比べてかなり高く、贈与された金額が高くなればなるほど税率も高くなります。

相続時精算課税贈与
この制度を使い、例えば60歳以上の父母又は祖父母から20歳以上の子又は孫に対して財産を贈与した場合、申告と利用の届出をすることで、なんと2500万円までは税金がかからないことになるのです。また、2500万円を超える場合でも、超えた部分には20%の税金しかかかりません。
ここまでだけ見ると、税額が高くて、金額が上がると税率も上がる暦年贈与と比べて非常に得なように見えますが、実はそうではありません。
相続時精算課税贈与の対象となった贈与財産は、贈与した人が亡くなった際にはその相続財産に「贈与した時の時価」で「加えられてしまう」のです。そして、もし先に払った贈与税があれば、相続税から差し引くこととされています。つまり相続時精算課税贈与とは、文字通り「相続の際に『精算』する」ことを前提にした贈与なのです。

事業承継、農地の贈与(課税繰り延べ)
我が国の企業のほとんどを占める中小企業は、上場会社のように大きくはなくとも、地域の経済や雇用にとって非常に重要な存在です。しかし、多くの中小企業は経営者の高齢化と後継者難に直面しています。また、農業従事者も減少を続けており、こちらも後継者難は非常に大きな問題となっています。
ところが、通常中小企業の株式は「相続財産」とされ多額の相続税がかかりますし、農地も土地として相続税の課税対象となります。引き継ぐためには多額の相続税がかかることとなっては、ただでさえ後継者難に悩む企業経営や農業にとって追い打ちとなってしまいます。
このような問題に対応するため、事業承継、農地それぞれに関して「贈与税の特例」が設けられています。
この特例制度自体は非常に複雑なのですが、ざっくりと言うと企業経営者や農業従事者が後継者となる者にその株式や農地を贈与した場合、贈与した際の贈与税(株式や農地に対応する部分に限ります)を「猶予」し、贈与した人が亡くなった後後継者が企業や農業を引き継いだ場合には、一定の条件の元「猶予された贈与税や相続税が免除」されます。
このことにより、中小企業や農業の後継者にとっては相続税の負担が軽減されるのですが、従業員を大きく減らしたり、農地を売ってしまったりした場合には、猶予された贈与税に利息を付けて払わなければならないという大きなリスクもあります。

住宅資金贈与
父母や祖父母から住宅を購入するために資金の贈与を受け、贈与を受けた年の翌年3月15日までにその資金で自分が住むための住宅を購入したり、増改築をした場合、その贈与した資金には一定額まで贈与税がかかりません。
この制度は現在段階的に縮小されており、令和3年末まで下記のような非課税枠となっています(国税庁ページより)。

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なお対象となる住宅の種類(省エネ住宅かどうか)や、購入する時期、その時の消費税率などによって非課税金額が異なります。また、贈与を受ける者がその年の1月1日時点で20歳以上であることや、贈与のあった年の所得が2000万円以下であることなどの制約があるので注意が必要です。

教育資金贈与
この教育資金贈与は、次の結婚・子育て資金贈与とともに、親、祖父母世代から次の世代へ資産を移転し、教育機会の充実や人材育成、少子化対策等へ良い影響を与えることを期待して設けられた制度です。
まず、祖父母(贈与者)は、取扱金融機関(銀行、信託銀行など)に子・孫(受贈者)名義の口座等を開設し、教育資金を一括して預けます。この預け資金については、子・孫ごとに1500万円を非課税とします。
次に、預けられた資金が教育資金に使われているかどうかを取扱金融機関が領収書等によってチェックし、書類を保管しておきます。
そしてこの口座は、子や孫等が30歳に達する日に終了し、その時点で残額や目的外使用があればそれらの金額に贈与税がかかることになります。
この制度は、平成25年4月1日から令和3年3月31日までの期間となっています。

結婚・子育て資金贈与
この贈与についても、教育資金贈与と同様、祖父母や両親(贈与者)が、子・孫(受贈者)名義の金融機関の口座等に、結婚・子育て資金を一括して預けます。ただ、対象となる子・孫が20歳以上50歳未満であること、また非課税の金額は子・孫ごとに1000万円(結婚関係は300万円が限度)となる点が異なります。
また、領収書等のチェック、保管についても教育資金と同様金融機関が行います。
最後に、口座は子や孫が50歳に達する日に終了し、終了時に使い残しがあれば、贈与税が課税されます。
また終了前に贈与者が死亡した時、使い残しがあれば、贈与者の相続財産に加算します。
この制度も期間が限定されており、平成27年4月1日から令和3年3月31日までの4年間となっています。

「どこにも規定のない」贈与
教育資金や結婚・子育て資金については上に書いたように特別の制度が出来ましたが、実は従来からこのような贈与の大半は元々非課税であったと言われています。
また、同居する親族への生活費補助についても、課税される贈与としては従来から取り扱われていません。
これらを考えると、面倒な手続きの必要な上の制度ではなく従来通りの取り扱いをしてはどうか、という意見もあるのですが、従来通りの取り扱いについては、それが本当に課税されない贈与なのか、課税されるべき贈与なのかをが(税務署から見て)はっきりしない場合には多額の課税がされてしまう場合もあり得ます。
そのような場合には信頼できる税理士に相談して、リスクの少ない方法を選ぶようにしましょう。

5.贈与の「ウソ・ホント」
贈与税はめちゃくちゃ高い?
確かに同じ資産の額であったとすれば、贈与税率は相続税率より非常に高くなっています。だからと言って、基礎控除(110万円)を超えて贈与し、贈与税を払うのが必ず損かというとそうでもありません。
例えば、全体の財産から見て相続税の実効税率(予想される相続税額を相続財産の総額で割り返したもの)が20%の税率で課税される可能性の高い方があるとします。その方が300万円の贈与をした場合、贈与税は下記の通りとなります。

(300-110)×10%(贈与税率)=19万円(300万円の6.3%)

つまり、放っておけば財産に20%の相続税がかかるところ、上記の贈与を行えば6.3%の贈与税で済む訳です。
贈与を利用した相続対策を行うためには、このような点に注意しておくと効果的です。詳しくは「3代で財産がなくなる」相続税と効果的な対策(シミュレーション)をご覧ください。

暦年贈与はちょっと税金を出して申告しておくと安全?
申告書を提出した、という行為は認められますが、だからと言って税務署が申告書の内容を保証してくれる訳ではありません。ですので、申告をすること自体が贈与や贈与税の計算そのものを立証する証拠にはならないのです。

毎年110万円を10年贈与したら1100万円に一括で税金がかかる?
これは一番といっていいほどよく頂く質問です。
論拠としては、「毎年110万円を10年間贈与することを約束したのだから、1100万円の贈与と同じだ」と指摘されないか、という点に集約されると思います。
この考え方も理論的にはあり得ない訳ではないのですが、そのことが明らかに書かれた契約書でもなければ税務署側も「10年間の贈与契約に合意した」と断言はできないと思います。
ですので、明らかに毎年贈与することを約束していない限りは、このようにまとめて課税される心配はないと思って良いと思います。

保険料の贈与は安全?
補償額やリターン(返戻)の大きな保険契約を子が結び、親がその保険料を子に贈与する、という贈与手法が最近良く使われています。この保険料を毎年110万円未満にしておけば贈与税がかからない、と言われている方法です。
この方法は確かに良いアイデアなのですが、ちょっと注意が必要です。
まだ収入の発生する見込みがない方がそんな保険契約を結んだら、少なくとも数年間は保険料の贈与を受けないといけないですよね。
とすると、③の懸念と同じで「数年間の贈与契約に合意した」と言えるかもしれないのです。
このような説明がなく、単に「贈与税はかかりませんよ」とだけ言うような保険担当さんには、頼まない方が良さそうです。

6.まとめ
以上、贈与について出来るだけ簡単にまとめてみました。
この贈与、他の制度や金融商品と組み合わせることで、とても効果的な相続税対策を組み立てることも可能です。ただ、程度の大小はありますがどの方法も注意点やリスクがあります。
また、ここには書けない、いわゆる「グレーゾーン(違法ではないが、状況や見方によっては納税者と税務署で見解が異なる状態)」と呼ばれる方法もたくさんあります。
大変使いでのある贈与ですが、検討される場合は必ず税理士などの専門家にきちんと相談されることをお勧めします。

以上