私達がご提供する会計・税務業務は、控えめに言ってもかなり複雑です。正直に言えば、こんな複雑な制度ではなく簡単にし、私達税理士なんて要らない仕組みにした方がいいんじゃないかとすら思います。
このように業務が複雑なため、税理士がその業務を行う場合の「報酬」についても、どのように決まっているのかは、実はあまり良く知られていないようです。
この記事においては、税理士業界の実態と、私どもの事務所がどのような報酬規定を定めているかについてご説明します。
1.日税連の調査結果
日本税理士会連合会(日税連)は平成26年、第6回目となる「税理士実態調査」を実施し、報告書を公表しました。この調査は昭和43年以降大凡10年毎に実施されているもので、税理士業界の現状を把握するうえで重要なデータとして認識されています。
その中で私が少しばかり驚いたのは、「報酬規定」の項目です。
報酬規定とは、平たく言えば税理士の「サービス価格表」であり、ある業務を行う場合にはどれだけのお支払いをお願いするか、ということが示されたものです。以前は、税理士会によって「最高額」を定めたものがありました(税理士報酬規定)が、この定めは平成14年3月をもって廃止されており、その後はそれぞれの税理士が独自に報酬規定を定める事となっています。
ところが、この調査においては、報酬規程を「設けていない」税理士事務所(個人)は回答者25,970人中16,703人(64.3%)であり、「設けている」事務所は8,391人(32.3%)となっていました。税理士会の報酬規定が廃止された直後に行われた前回(第5回、平成16年)の調査においては「設けていない」が68.4%でしたので、ほとんど状況が変化していないと言えます。
税理士業務は複雑多岐にわたり、一般の依頼者にとっては分かりにくいことも多くあります。このため、本来は消費者保護の観点から、事務所独自の報酬規定を作成し、積算根拠の説明も含め、依頼者の皆様に提示できるようにしておくことが必要と考えています。
2.私どもの報酬規定について
私どもは、平成14年の税理士会報酬規定廃止以前から事務所独自の報酬規定を定め、定期的に見直しを行いながら運用しております。また、お客様からサービス提供のご依頼があった場合、明確な積算根拠に基づく見積書とともに報酬規定を明示し、ご理解を得るようにしております。具体的には、下記の通り計算されます。
①法人、個人の決算、確定申告業務
下記の要素に基づく合計額によって、報酬年額を計算、原則として1/16を毎月、1/4を決算終了後ご請求することにしています(全て税抜金額)。
- 定額報酬 5万円
- 年間取引高(売上高など)に一定率を乗じた「リスクチャージ」
- 業務内容から見込まれる業務時間と、担当する職員等のレベルに応じた「タイムチャージ」
②相続、分離課税譲渡所得(土地建物等の譲渡所得)
- 上の確定申告業務と同じ考え方ですが、少しリスクチャージ率が高く設定されています
- また、相続については以前からお付き合いのある方か、内容の難易度の高低などによって、基本報酬に対する増減率が定められています。
③公認会計士、公認不正検査士、その他コンサルタント業務
- タイムチャージが税理士業務より少し高くなります
- 想定される取引金額に一定率を乗じる「リスクチャージ」方式と、契約時に合意した成功報酬(差額利益相当金額に一定率を乗じた金額)から選択します
- 成功報酬には、難易度が高く金額の大きい助成金の申請サポートも含みます
3.オプションについて
基本料金を出来るだけ下げて「格安報酬」を唄い、実際のところは付随業務をオプション扱いとしている事務所も時々見かけることがあります。
報酬規定の決め方はそれぞれですので、説明さえきちんと行っていれば良いと思いますが、実際に業務を行ってみるとオプション部分が必要で結局割高になってしまう場合もあり得ます。
私どもの規定はいわゆる「フルサービス」となっており、オプションの選択はありません。「この業務については自社で対応可能である」という場合は、タイムチャージが変動しますのでその部分で調整することになっております。
最近はいわゆる「格安」と言われる事務所も影を潜めてきたようですが(収支が持たないので当たり前ですが)、これに代わってクラウド会計などを駆使し、徹底的に効率を高めた新しいタイプの事務所も多くなってきました。コロナ禍やコロナ後、このようなスタイルは大きく成果を上げるのではないかと思います。今後、価格はもちろんサービスの質や内容が今まで以上に重視されることになると思います。
以上