月別アーカイブ: 2020年11月

もしもの時に役に立ちます「雑損控除」

大地震、水害、台風など大災害は財産に大きな損害を及ぼします。
また、空き巣など盗難も、万が一遭ってしまった場合には大変な損失となります。
このような損害や損失は無いに越したことはありませんが、発生した場合には納税者の担税力(税金を納める力)が一時的に弱まりますので、所得税には「雑損控除」という制度が設けられています。
この雑損控除は、発生した損害や損失の大きさに応じて、税金を減らしてくれる制度です。
こんな制度使わないほうが良いのですが、もしもの場合には思い出してください。

それでは、以下雑損控除の説明をします。

1.雑損控除とは
災害又は盗難若しくは横領によって、資産について損害を受けた場合等に受けられる所得控除(税金のかかる所得から差し引くこと)をいいます。

zatsuson

 

2.適用対象
ここでいう災害は、「震災、風水害、火災」(所得税法2条1項27)、「冷害、雪害、干害、落雷、噴火その他の自然現象の異変による災害及び鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害並びに害虫、害獣その他の生物による異常な災害」(所得税法施行令9条)をいいます。自身の意思に基づいてなされるものではなく、自然現象の異変による災害、または生物による異常な災害を意味します。

具体的には、自宅が火事により燃えた、台風により自宅が床上浸水して家財に大きな被害を受けた場合等が該当します。大雪で家屋が破損した場合の損失はもちろん、家の倒壊を防ぐための雪おろし作業費用等も対象となります。シロアリの被害によって発生した修繕費用や駆除費用といったものも対象です。

なお、あくまでも「損失を受けた場合」ですので、シロアリ被害の「予防費用」は対象外となります。

次に、盗難や横領ですが、所得税法及び同法施行令には定義がないものの、「盗難」の意義は「財物の占有者の意に反する、第三者による当該財物の占有の移転」と解されます。「横領」の意義は「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をすること」と解されます。例えば、空き巣や車上荒らし、ひったくり、他人による資金の不正取得等が該当します。

損失の要件は「災害、盗難、横領によって」ですから、例えば、いわゆる振り込め詐欺にあった場合は対象外になります。災害・盗難・横領による損失が「自身の意思を伴わないものである」と考えられているのに対し、詐欺は「自身の意志に基づいて現金を支出し損失を被っている」、すなわち「自身にも責任がある」と考えられているためです。

3.資産の要件
生活に通常必要な住宅や家具、衣類等の資産が対象です。
「生活に通常必要な動産」とは、家具、じゅう器、衣服及びこれらに類似する生活用動産で、通常の社会生活を営むのに必要とされる資産をいいます。よって、別荘について発生した損失は対象外です。事業用の資産や、別荘、書画、骨とう、貴金属等で1個又は1組の価額が30万円を超えるものなども当てはまりません。例えば、空き巣に入られた場合で、100万円の宝石が盗まれたとしても、1個または1組の価格が30万円超の資産は「生活に通常必要な資産」とはみなされないため、対象外となります。このほか、競走馬や棚卸資産、事業用固定資産等は対象外となることが法令等で定められています。

4.その他の要件
損害を受けた資産の所有者が、本人、または本人と生計を一にする配偶者やその他親族でその年の総所得金額が38万円以下の者、つまり配偶者控除や扶養控除の対象となる親族でなければなりません。

5.控除できる金額
次の金額のうちいずれか多い方の金額です。

① 差引損失額-総所得金額等 × 10%
 (差引損失額=損害金額+災害関連支出金額-保険金等により補填される金額)
② 差引損失額のうち災害関連支出金額-5万円

災害関連支出には、先に述べた雪下ろし作業の費用などの他、台風が去った後に行った障害物撤去費用や空き巣に窓ガラスを割られたことにより修理した費用なども含まれます。損害があった住宅や家財を処分、除去するために支出した金額で、実際の損害金額ではありません。

<計算例>
例えば、自宅が火災にあい、家屋の損失額100万円、原状回復費用50万円、火災保険金の受け取り30万円、総所得は400万円だったとします。
この場合、
①(100万円+50万円-30万円)-400万円×10%=80万円
②50万円-5万円=45万円
と計算され、①>②となるため、控除できる金額は①の80万円と算出されます。

6.繰越控除
損失額が大きいため、その年の所得金額から控除しきれない場合には、翌年以後後3年間繰り越して各年の所得金額から控除することができます。雑損失が発生した年の確定申告書を提出期限までに提出し、かつその後連続して確定申告書を提出している場合に限って適用されます。

なお、雑損失の繰越控除では、純損失の繰越控除の場合のように、青色申告か白色申告かにより、繰越控除が認められる損失の金額の範囲が異なってくる、ということはありません

また災害により住宅や家財に損害を受けた場合には、所得税額を直接減額する「災害減免法」による所得税の軽減免除もあります。この災害減免法と雑損控除は、有利な方を選択できます。

「クラウドファンディング」に騙される

最近よく聞かれるようになってきた「クラウドファンディング」。
インターネットのなかった時代には考えつかなかった素晴らしい発想ではあるのですが、我々のような不正検査士からみると、実は不正の温床になる場合があるのです。
ほとんどの真っ当な善意が踏みにじられることがないよう、警鐘を鳴らす意味も込めて書いてみました。

1.クラウドファンディングとは
クラウドファンディングとは、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、不特定多数の人が通常インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを意味します(WikiPediaより)。
昔からこのような形で資金を集める方法は用いられていましたが、2000年代後半になってインターネットを活用する形が定着し、「クラウドファンディング(以下「クラファン」とします)」と呼ばれるようになったあたりからは世間でもごく一般的になってきました。

具体的な流れとしては、必要な目的や資金をWEB上でプレゼンテーションし、クレジットカードで寄付、そして寄付者には金額などに応じて謝礼するなどといった形が一般的です。
現在では、慈善目的の寄付などにとどまらず、飛び抜けた発想をもった製品開発やゲームなどの開発、果ては結婚式の資金集めにまで(!)使われるようになってきました。

crowdfunding
(出典:朝日新聞社A-port)

しかしこのクラファン、素晴らしい目的をもった用途の中に、大きな不正の問題を抱えているのです。

2.不正な目的のクラファン
クラファンは、会社が上場するときのような厳格な審査や監査を受けているわけではありません。
また、サービスが充実してきたため、どんな者でも簡単に、ほとんどの場合無料でクラファンサイトを開くことができます。

このため、たとえば嘘の目的で寄付を集め、持ち逃げしてしまうことも比較的簡単に可能となります。

また、マネーロンダリング(資金洗浄。違法薬物や脱税、横領といった犯罪資金などを合法な資金として見せかける犯罪行為)にも利用が可能です。
たくさんのクラファンプロジェクトを作り、少しずつ多数の寄付を出したように見せて再度集めると、表向きはその集めた資金は合法な資金に見えてしまいます。

その他、薬物などの違法取引を返戻品に偽装して行ったり、様々な不正・犯罪の手口に利用される可能性があります。

クラファンの運営会社もこれらの不正に手をこまねいている訳ではなく、たとえば下記のようにチェックにかかったプロジェクトを停止するような措置は行っていますが、根絶するには至っていないようです。

fusei
C
ampfireの不正対処例

なお、事実と異なるなど不正なプロジェクトで資金を集めた場合 詐欺罪として処罰の対象となります(刑法246条 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する)。

3.クラファンサイトのオーソリ不正
まだあまり知られていませんが、「クラファンサイト自体が悪事に利用される」場合もあります。それは、クレジットカード不正との組み合わせによるものです。

クラファンの寄付の支払いは、ほとんどの場合クレジットカードで行われます。
この支払~決済に至る流れは、通常のネット通販と全く同じです。
ただ少し違うのは、「すぐに物品を発送せず(後ほどお礼は送られたりします)、支払い金額が少額な場合も多いので、申込者のチェックが甘い場合がある」という点です。

通販などでクレジットカード決済を行う場合は「オーソリゼーション」と呼ばれる信用チェック手続きを必ず利用します。この手続きは、カードそのものが有効か、また限度額を超過していないかなど、カードの利用可能性をチェックする必須の手続きです。

オーソリ
三井住友カード のサイトより

しかし、不正実行者はここを悪用します。

情報流出などによって不正に取得したカード番号などを使い、自動的に多数の申込手続(実際の決済までは進ませない)を行って、そのカードが有効かどうかをチェックし、不正利用するのです。

このチェック手続きは通常ボットと呼ばれる自動プログラムで行われます。また、最近はカード会社の番号法則に基づきランダムに作成した番号が有効かどうかをチェック(ランダムアタック)するためにも使われているそうです。

一般の物販サイトは、通常多数の人間から多くの注文があり、キャンセルされるなどの異常な取引があればすぐにわかりますが、クラファンの場合は少額でたくさんの取引が発生しやすく、チェックがかからない場合があると言われています。

こうなると、「データ漏洩で不正に取得されたカード番号」だけではなく、「全くどこにも提示すらしていないあなたのカード番号」すら、場合によっては不正利用される可能性もあるのです。

4.不正を防止するには

クラファン運営会社やカード会社は不正対策を進めていますが、まさに「いたちごっこ」であり完全に防ぐことは難しいと思います。また不正を野放しにしておくと、クラファンというせっかくの良い仕組みが悪いものとみられ、衰退してしまうかもしれません。
このため、利用者である我々としても、できるだけ不正を防止する努力をする必要があると思います。

たとえば以下のような防止策が考えられます。

①利用者側
まず、運営者が適切な目的でクラファンを立ち上げているか見抜く必要があります。SNS上の書き込みであっても、不正が見抜かれないよう良い評判を書き込ませることが可能ですので、クラファンの内容や目的自体が適切・合法なものかを複数の情報源で確認しておく必要があります。
また通常のカード不正利用防止の注意(カードを自分が見ていない所で切らせない、預けないなど)だけであれば、前述のランダムアタックには対処不可となってしまいます。
このため、自らのカード明細は頻繁にチェックし、細かい金額でも不明な支出は確認しておくことが必要です。

②クラファン運営側
運営側となる場合、すなわちクラファンを立ち上げる場合には、上記のような悪用を防ぐ対策(モニタリングやCAPTCHA認証といった、ロボットによる自動操作を発見・防止する手法)が適切になされたサイトを利用しましょう。これらも完璧なものはなく、不正実行者は様々な新しい手法を生み出してきますが、皆が少しずつでも対策をしていれば数を減らすことができます。

chapcha
CAPCHA認証の例

帳簿を甘く見ると「消費税」で痛い目に~消費税の帳簿要件

私たち税理士は、税務業務の一環としてお客様の様々な取引を記録した「帳簿」を作成することがあります。
よく「記帳代行」などと呼ばれている仕事ですね。
この「記帳する仕事」が税理士の仕事だと思っておられる方も多いのですが、違います。
実は「税金の仕事をするために必須となる帳簿を作っている」という考え方が正しいのです。
今回はこの帳簿について、その重要性と、帳簿の作成や保管をおろそかにした場合の恐ろしいリスクについて説明します。
※一番恐ろしい所は3.4.ですので、お急ぎの方はそちらからお読み下さい。

1.帳簿とは?(簿記の定義)
会計業務に携わる上で基本となる「簿記」の世界においては、基本的な帳簿は以下のようなものがあります。

  • 主要な帳簿:仕訳帳、総勘定元帳
  • 補助的な帳簿:現金出納帳、預金出納帳、売上・仕入帳、在庫表、受取手形・支払支払手形帳、売掛・買掛帳

今回の趣旨とは異なるため細かい説明は省略しますが、主要な帳簿には営業に関する取引の全てが記載されており、補助的な帳簿は、主要な帳簿を補足する形で特定の取引の詳細が記載されています。

またこれらの帳簿を正しく作成するためには、「複式簿記」(一つの取引を借方、貸方と2つの概念に分け、資産や負債、資本と損益を正確に把握できる帳簿記載の方法)を使わなければなりません。

総勘定元帳

2.法律に基づく帳簿
①会社法
株式会社などの会社が作成すべき帳簿は、1.で説明した簿記の世界の概念を基本としつつ、会社法の第432条に下記の通り定められています。

「株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない。株式会社は、会計帳簿の閉鎖の時から十年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない。」

個人の場合には会社法のような制度がありませんので、原則として簿記の定義がそのまま使われており、保存義務についても後述の所得税法や民法に従うこととなります。

②法人税法・所得税法
税理士が携わる帳簿作成の大半を占めるのが、会社に関する法人税法、個人事業に関する所得税法に基づく業務です。

これらの帳簿については、会社法と同様に簿記の世界を基本として、法人税法、所得税法それぞれで帳簿の作成義務や保存義務が定められています。

また、「青色申告」(①で説明した複式簿記を使い、正しく作成した帳簿を適切に保存することを前提とした制度)を届け出た場合には、税制優遇などを受けることができます。

3.消費税の「帳簿保存義務」
実は、最も注意すべきなのは「消費税」の世界における帳簿の取り扱いなのです。

前述の通り個人事業でも法人であっても、帳簿の作成義務はありますので、申告書をきちんと作成するためには帳簿を作成していることが当然の前提となっています。

納税すべき消費税は、この作成された帳簿の記載に基づき、原則として「売上などの課税収入に課された消費税」から「仕入や経費などの課税支払に課された消費税」を差し引くことで計算されます。条文は下記の通りになっています。

消費税法第30条第1項(抜粋)
事業者が、国内において行う課税仕入については、課税標準額(売上など)に対する消費税額から、国内において行った課税仕入に課された消費税額を控除する。

しかしこの「帳簿記載」について、消費税法は他の法律にない厳しい規定を置いています。下記の通りです。

消費税法第30条第7項(抜粋)
第1項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない

要するに、「帳簿や請求書を保存していない場合」には「売上などの消費税」はそのまま計算し、「仕入などの消費税」を「差し引きさせない」ことを定めているのです。

帳簿は当然作っているのだから、保存するのは簡単だろう、と軽く考えてはいけません。
法律上「保存する」は、「取引を行った年月日、内容、金額、相手方の氏名又は名称などの必要事項を整然とはっきり記載する」ことを求めているのです。

このため、厳密にいうとこれらが一部でも欠けていると、本来より大幅に多額の消費税を納めなければならないことになります。

4.事例
税務調査においてまだそれほどこの論点が厳しく問われるケースが多くないようです。
このため皆さん軽く考えがちなのですが、数で言えば事例はたくさん出ています。また、税務署や大阪国税局の調査官からも、消費税率が上がり重要性が増えているので、今後この分野は重点として取り扱っていくとの情報を頂いています。

(事例)国税不服審判所の裁決例(平成6年12月12日裁決)から
帳簿等には、仕入先としてその氏名の氏に相当する部分が記載されているのみであり、また、請求人は、本件調査の際に本件仕入先を明らかにして記載不備を補完しようとしなかったことから、帳簿又は請求書等の保存がない場合に該当するとして、仕入税額控除の適用は認められないとした事例

請求人は、[1]本件帳簿等は、消費税法第30条第8項及び第9項に規定する記載要件を充足し、かつ、それを保存しているのであるから、同条第7項に規定する仕入税額控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合には該当しない、また、[2]請求人は、本件取引の際に、仕入先に消費税を支払ったのであるから、仕入税額控除を認めるべきである旨主張する。

審判所の判断は、次のとおりである。

本件帳簿等には、仕入先としてその氏名の氏に相当する部分が記載されているのみで、住所、電話番号等の記載もないため、本件帳簿等から仕入先を特定することはできない。消費税法第30条第8項第1号のイは、明確に「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」を記載することと規定しているのであるから、当該記載が同項の帳簿としては不備なものであることは明らかである。

原処分に係る調査(「本件調査」)の際に、調査担当職員が、請求人に仕入先を特定できない場合には仕入税額控除が適用できない旨説明し、本件取引の仕入先を特定するよう求めたにもかかわらず、請求人が本件仕入先を明らかにして記載不備を補完しようとしなかったことが認められるから、その時点において保存されている帳簿等は、記載不備な状態における本件帳簿等のみであることになる。

請求人は、当審判所に対して、仕入先が特定できるものがあっても、仕入先を明らかにすると取引ができなくなるおそれがあるため明らかにすることはできない旨答述しているが、これをもって請求人が適法な帳簿又は請求書等を保存しないことにつき災害その他やむを得ない事情がある旨主張していると解しても、そのような主張は仕入先の相手方の氏名又は名称を記載した帳簿等の保存を求める消費税法第30条第7項ないし第9項の規定の趣旨とまったくあいいれないところであるから、このような理由をもってしては、同条第7項の「その他やむを得ない事情」に該当するとはいえない。

本件帳簿等に記載された氏の真偽について検討するまでもなく、本件取引については、消費税法第30条第7項に規定する仕入税額控除に係る帳簿又は請求書等の保存がない場合に該当し、同条第1項の規定による仕入税額控除を適用することはできない。

本件取引については、消費税法第30条第7項の規定により、同条第1項の仕入税額控除の規定は適用することができないのであるから、本件取引に係る仕入れの存否、その支払対価の額、消費税相当額の仕入先への支払の有無について検討するまでもなく、仕入税額控除をすることはできない。

どこにいても位置が分かる「GPS」とは

皆さんが毎日使うカーナビや携帯に必ず入っている「GPS」。
いつどこにいても、正確に場所やルートを教えてくれる便利な機械です。
これがなければ、現代人はほとんど何もできないと言っても過言ではないかもしれません。
このGPSについて、歴史や原理を簡単に説明します。

1.GPSのしくみ
GPSは「グローバル・ポジショニング(全地球測位)・システム」の略です。
昔から、自分のいる位置を知るには太陽や星の位置を観測する方法を用いることが一般的でした。
大海を往く船乗りはこの方法に長けていたと言われています。
※余談ながらその正確性を担保するために発達したのが正確な時計を作り出す技術でした。

これに対し、GPSは全く違うアプローチで正確な位置を割り出します。
まず地球上にいくつも人工衛星を打ち上げ、その人工衛星がまんべんなく地球の周りを周回するように配置しておきます。
そのうち1つの人工衛星と、位置を測定したいものの距離を正確に測ります。そうすると、人工衛星から地球までその距離を満たす場所は「円形」となるはずです(図の左側)。
ここにもう2つ衛星を加え、それぞれの距離からできる円形を合わせると図の右側のようになり、その円の交わりの中心部が正確な位置、ということになります。
この「正確な距離」を測るのは非常に難しいのですが、人工衛星に極めて正確な時計(原子時計)を搭載し、計測端末との時間差を計算、光の速度を利用することで距離を割り出しています。

なお端末側に原子時計を搭載する訳にはいきませんので、実際には第4の衛星を利用し、正確な時間を補正することで位置を計算しています。
また、携帯やカーナビで地図上に位置を示したり、最短ルートを計算したりする機能は、GPSの応用分野の一つです。

GPSの仕組み
図 GPSの仕組み

2.GPSの歴史
アメリカは、旧ソビエト連邦と長い冷戦時代において、戦略的に航空機や船舶の位置を正確に把握しておく必要がありました。また、巡航ミサイルを正確に誘導するための手法も求められていました。
このため、米国は1973年GPSシステムの開発をスタートし、1990年代から運用を開始しました。
日本においてもこれらを民生用に利用する開発が同時期にスタートし、カーナビや携帯への搭載が始まりました。私が就職活動をしていた1990年代初頭、ソニーの研究所で研究者の皆さんからこの驚くべき技術の説明を受けたことを今でも鮮明に覚えています。
民生用の利用が同時にスタートしたことでもわかる通り、このGPS、衛星からの電波が受信できれば誰でも正確な位置が計測できてしまいます。これを敵国やテロリストから悪用されることを防ぐため、米国(国防総省管轄)は民生用電波を遮断したり、送信するデータの精度をコントロール(落とす)ことができるようにしています。

3.新しいGPSシステム
各国のシステム
米国はいち早くGPSという画期的なシステムを開発、運用を開始し、米国外を含む民間でも利用可能となりました。このことは世界中に革新をもたらしたのですが、システムの根幹を米国が握っており、精度などをコントロールできることから、米国と競争する分野を持つ国は独自のGPSシステムの開発を急ぐこととなりました。
現在、米国GPS以外には下記のようなシステムが運用されています。
・ロシア…GLONASS(ГЛОНАСС、グロナス)
・中国…BeiDou(北斗、バイドゥ)
・欧州…Galileo(ガリレオ)
・インド…NAVIC(ナヴィック)

準天頂衛星システム「みちびき」
単純なGPSは、いくら精度を上げようとしても数m~10数mの誤差が発生してしまいます。これは、衛星の電波を受信する角度が浅ければ浅いほど精度が落ちることによるものです。
これを補正するため、3機程度の衛星を特殊な軌道に乗せ、常にどれかの衛星が天頂(真上)方向にある状態を作り出して精度を補完するのが準天頂衛星システムです。

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「みちびきの軌道」内閣府 宇宙開発戦略推進事務局

我が国は現在(2019年現在)、このシステム「みちびき」4機の衛星で運用し、1m程度の精度を実現しています。
これが7機体制(2023年めど)になると、米国のGPSが停止したり精度を落としても、独立して我が国での運用が可能となると言われています。
また、これに地上基地局(電子基準点)を利用し、数センチメートル以下の精度を実現する手法も運用が開始されています。
我が国以外にも、このような補完システムは米国(WAAS)、欧州(EGNOS)、インド(GAGAN)、ロシア(SDCM)、中国が運用しています。

4.GPSの今後
このように非常に便利なGPSシステムですが、精度が上がると下記のような分野で大きな発展がみられると期待されています。
・災害対策
・自動車の自動運転
・航空機や船舶、鉄道の高精度自動操縦
・建設、土木の自動化、効率化、高精度化
・農業の自動化、効率化
・ドローンとの組み合わせによる三次元測量
・5G通信・IoTとの組み合わせによるビッグデータ解析

 

社畜が異世界に飛ばされたと思ったらホワイト企業だった

面白い本を見つけました。
「社畜が異世界に飛ばされたと思ったらホワイト企業だった」という、一見何のことやらわからないタイトルの漫画です。

カワイイ女性キャラが多くてちょっと気が引けるかもしれませんが、そこに騙されてはいけません。
レビューを見ると、働く側から見て「ホワイト企業って素晴らしい」といったとらえられ方をしていることもちろん多いものの、実は経営者にとっても非常に奥の深い論点がたくさん取り上げられています。

普段漫画を読まない経営者の方でも、是非読んで頂ければと思いご紹介することにしました。
私の事務所でも参考にしています。

121089627_3582035601836346_7943856894229396879_n[1]現在、第4巻まで発売されています。
この本のご紹介や画像はこちらをご覧ください。
社畜が異世界に飛ばされたと思ったらホワイト企業だった

1.はじまり
ブラック中のブラック会社「ブラックシステム」で30連勤の深夜残業中だったヒロイン、粕森美日月(かすもりみかづき)は、突然流れ星に打たれて気を失います。
気づいた時には、ホワイト中のホワイト会社「ホワイト製作所」ぐんま支店に中途入社した社員(自分)紹介の場でした。
ここから、かすみ(新しい職場でのニックネーム。前職の時は「ゴミカス」)の驚きの日々がスタートします。

2.エピソード1~残業・休出ゼロ
この職場、皆出てくるのは始業5分前で、定時にはピタッと仕事を終えて帰ってしまいます。
また有給休暇も積極的に取得し、出張のある営業職でさえ「多かった先月でも残業は5,6時間くらいかなぁ」といった具合。
始業2時間出社して深夜まで残業し、休日出勤や深夜残業は当たりまえ、時には会社に泊まっていた前職とはまさに「異世界」。かすみは最初そんな雰囲気に全くなじめず、「有給取れって首ってことですか???有給取ったら怒られるんじゃ…」なんて言い出す始末。

働く側からすると、残業がゼロで早く帰れるし、有給休暇がとれるのは物凄く楽な反面、残業たっぷり、有給なし、といった会社にとっては「労働時間が短くて損している」ように思えますよね。
年間休日120日、有給20日100%取得、一日7時間労働の場合、年間労働時間は1,575時間となります。これに対し、土日や年末年始、夏休みを出勤にし(+60日)、有給を全くとらない(+20日)、残業を一日3時間(10時間労働)とすると、年間労働時間は3,050時間となり、ほぼ倍働く時間が増えるように見えます。

しかし、経営管理の側面からみると、実際にはこれが全く逆なのです。
時間増を残業に換算すると、月120時間以上の超過になります。これは確実に過労死レベル。
超過時間のほとんどにおいて心身の疲労から生産性は落ち、ミスや体調不良も目立ち始めます。
サービス残業させるなんて言うのは論外ですから残業代は増加し、過酷な状況が原因の離職者も増え、採用費もかさむことから結局コスト増になってしまうのです。
最初から「所定時間しかない」ことを認識して、効率的に仕事をコントロールすれば結果としてトータルコストは下がります。
その仕組みは、現在様々に公開されているITやその他のノウハウを活用することで、どんな業種でも必ず実現することが可能です。

3.エピソード2~電車の遅れ
2時間前に出勤すると「早すぎて会社開いていない」と注意されたので15分前に出社しようとしたら、電車が故障で遅れてしまいました。慌てたかすみは会社に電話し、「走れば1時間くらいで行けます」と伝えます。会社は当然「動いてからでいいので遅延証明(ネットで可)もらって下さい」とそれを止めます。また、熱が出ていても、大雪が降りそうでもなんとか出勤して仕事を続けようとしてしまいます。

会社は雇用者として従業員の安全や健康を守る義務がある(労働契約法第5条)のですが、これは別に親が子を守るような愛情を基礎としたものではありません。そういった義務を守らないと、結局生産性の高い仕事時間を従業員から会社が安定して受け取ることができない、すなわち会社が健全な利益を上げられないからなのです。
実際、昨年地震や大雨といった災害が頻発した時、社員が無理して出社して結局帰宅難民になる、という光景が私たちの周りでも繰り返されました。こういう場合、まずは従業員の身を守ることを最優先とし、その場合でも業務が継続できる手段(BCP・事業継続計画)を普段から準備しておくことが、結果として収益性の向上につながるのです。

4.エピソード3~セクハラ、パワハラ
配属された部署に男性が数人いたので、かすみは先輩のいずみにこっそり「セクハラとかパワハラとか大変そうですね」と聞きますが、いずみは「全くないし、もしあったら部課長クラスでも飛ばされる」と答えます。
それに驚いたかすみは、「セクハラくらいで飛ばされていたら男の人は誰もいなくなっちゃいますよ」と食い下がっていずみを呆れさせます。
他の話でも、朝礼が通常無いと知って「業績が悪かった人の発表と懺悔の謝罪はいつやるんですか?」と問いかけています。
前職で如何に過酷なセクハラ、パワハラを受けていたかと心配になりますね(本書には描かれていますのでここには書きませんが、本当にひどいもんです)。

こちらも当たり前の話で、セクハラやパワハラが法律上禁止されているだけではなく、従業員の生産性を破壊的に下げ、機会損失など隠れたものも含め、コストを大幅に増やす影響があることは既にはっきりしています。
ここで経営者にとって重要なのは、様々な事例として紹介されているような「対症療法」ではなく、「トータルコストを下げる」ため、あらゆるハラスメントを根こそぎ絶つ努力を自らしなければならない、という姿勢なのです。

5.終わりに~内部統制との関係
余談ですが、私の専門分野の一つである「内部統制」の視点からも、この漫画は興味深いです。
この「ホワイト製作所」、社員はこれだけホワイトにできる理由を「うちはトップシェアだからね」と軽く断じていますが、これは恐らく原因と結果が逆です。
内部統制の重要な目的の一つである「業務の有効性及び効率性」という観点からみた場合、「ホワイト製作所」の経営者は相当高度な観点をもって経営を行っており、その結果が、結局トップシェア(やその維持)にもつながっているのではないかと勝手に理解しています。

本書には上記以外にもたくさんの面白いエピソードが書かれていますし、第2~4巻も同様にとても良い内容となっています。
また、以前メルマガで公開しました小規模企業の働き方改革~「見える」と全てが上手くいくという記事も、こういった「ホワイト化」の参考になると思います。
是非お読みください。

 

あなたは必ず騙される(続編)~ワンコインとポンツィ・スキーム

1.はじめに
まずはこちらの動画をご覧ください(大きな音が出ます)

The biggest event in OneCoin History – the CoinRush 2016

この派手な動画の最後に出てくる女性、それが「ワンコイン」詐欺の首謀者です。

2.ワンコイン
①創始者 Dr.Ruja Ignatova(ルジャ・イグナトバ)
Ruja
彼女は1980年5月にブルガリアで生まれ、10歳でドイツに移り住みました。
貧しい生まれでしたが、周囲の支えと才と努力で、独コンスタンツ大学、英オックスフォード大学で法学博士号を取得しています。
その後、有名なコンサルティング会社「マッキンゼー」にて当時最年少の「アソシエイトパートナー」に就任、大型投資プロジェクトへの従事や仮想通貨のアドバイザーとしても活躍していました。
その活躍により「フォーブス」誌の表紙を飾るなど、華々しい活躍の中2014年に仮想通貨である「ワンコイン(Onecoin)」を創設します。

しかし、2017年、彼女は忽然と姿を消してしまいます。

②ワンコインの実態
OneCoinLogo
ワンコインは、ビットコインなどと同様、ブロックチェーン技術(参考:「仮想通貨技術を支える「ブロックチェーン」について」)を使った暗号通貨(仮想通貨)と称して誕生しました。
このワンコインは、100ユーロ(12,000円)程度の少額から30,000ユーロ(360万円)などの高額に至るプランによる「パッケージ販売」を特徴としています。実際に仮想通貨を受け渡すのではなく、「仮想通貨と交換する権利」が受け渡されるのです。
例えば、5000ユーロのパッケージを購入すれば、3900ユーロ分のワンコインが受け渡され、分割が起こると8500ユーロのワンコインとなるといった具合で、投資商品としての性格を備えていました。

しかし実際には、いわゆるブロックチェーンによる暗号通貨は実在していなかったのです。
実在しない「暗号通貨」を販売し、その収入を配当に見せかけて支払い、それを餌にしてまた新しいカモを集める、という正に「ポンツィ・スキーム」の際たるものだったのです。

③ワンコインとイスラム金融
このワンコイン詐欺の被害は、なぜかイスラム教徒に多く広がりました。
イスラム教徒は、シャリーア(イスラム法)において利子のあるお金の貸付を禁止されているのですが、ヒヤル(合法的な抜け道)により、シャリーアを回避しつつ実質的に利子を取ることを目的とした金融技術が様々に編み出されています。今「イスラム金融」と呼ばれている概念の多くはこのヒヤルに関するものです。
ワンコインは利子ではなく、投資した通貨自身が分割により増加するため、ヒヤルの一つとして認識され、大人気となった訳です。

④破綻
ワンコインのコアメンバーであるコンスタンティン・イグナトフ(ルジャ・イグナトバの弟)は、数十億ドル規模の詐欺に関与した罪状を認めました。この結果、最大90年間の禁固刑が科せられる可能性があります(BBC 2019/11/14)。
この辺りまでにワンコインは44億ドルを集めていましたが、昨年12月1日にはウェブサイトが閉鎖されました。

しかし、現時点でもまだ首謀者ルジャ・イグナトバは見つかっていません。

3.仮想通貨とブロックチェーンについて
①ブロックチェーン(詳細解説はこちら
従来のデータ保存はサーバなどによって一元管理されているので、保存箇所を攻撃(ハッキングなど)したり、その通路(ネットワーク経路)を支配してしまえば改ざんや遮断を容易に行うことができました。
これに対し、ブロックチェーンは「利用者が使う全ての端末に、分散して全てのデータが保存されている」という点がポイントとなっています。
この「分散」についても、単にデータをバラバラに保存しているのではなく、それぞれの端末(ノード)が冗長性(無駄な部分)を持ち、一部が壊されたり改ざんされたりしても、生き残った他の部分から全体像が再構成できるように考えられているのです。
新しい取引が発生すると、そのデータが一定の規則によって次々と追加され、あたかもデータの塊(ブロック)が鎖(チェーン)のようにつながっていくことから、このような名前で呼ばれるようになりました。

②仮想通貨(暗号通貨)の問題点
ブロックチェーンによる仮想通貨を作る時には「マイニング」というプロセスが必須です。
マイニングはその名前から「鉱脈を探す」=「仮想通貨を発行する」と思われていますが、ブロックチェーン技術上のイメージとしては「新たな帳簿のページを作る」ことに過ぎません。つまり新たな通貨の記録を作る帳簿作成がその本質で、通貨そのものを作る訳ではないのです。

しかし、マイニングにはコストがかかります。具体的にはコンピュータ投資や電気代が増え続け、技術的な発行数の限界があります。
また個々のブロックチェーンの伝播には時間がかかり、大規模なパブリック型と呼ばれる方式だと遅延が累積して決済スピードに著しい問題の出る場合があります。

ワンコインは実際にはブロックチェーンを使っていなかったため、このような制約は全くなかったと言われています。そもそも実体が見えにくく、技術的にも高度に見える(すなわち素人を騙しやすい)ため、ワンコインのような詐欺には最も利用されやすい概念だったように思います。

4.ポンツィ(ポンジ)・スキーム(詳細解説はこちら
①ポンツィ・スキームの誕生
「チャールズ(カルロ)・ポンツィ」はイタリア生まれ。
若いころアメリカに移住、職を転々とした後、ボストンにて「返信用切手交換クーポン付き国際郵便切手」の鞘取り(返信用切手と交換できるクーポンの国際的価格差を利用した利益獲得手段)ビジネスを始めます。

彼は1919年12月、ボストンに会社を立ち上げ「たったの数十日で50%の利益が出る」という触れ込みで数千人から数百万ドルもの大金を集めました。
ただ実際には「先に投資した人に対し、後から投資した人の資金を使って配当」しているにすぎませんでした。
この「自転車操業的」配当こそが、ポンツィ・スキームの本質なのです。

しかし結局、新聞のスクープや新規投資資金の落ち込み(すなわち偽配当の資金繰り悪化)により敢え無く破綻、詐欺罪で有罪となってしまいました。

②ポンツィ・スキームの特徴(ねずみ講との違い)
ねずみ講は、一人の上位会員に対して二人以上増加する下位会員から金銭を徴収、その金銭をさらに上位会員に分配するため、ピラミッド型の組織を構築する詐欺の手法です。
このため上位の会員が利益を得るためには「下位の会員数>上位の会員数」が必要となり、組織構造上級数的に増加する下位の会員はすぐ獲得できなくなるので、途中で必ず破綻します。
このねずみ講、我が国においては「無限連鎖講の防止に関する法律」で禁止されています。

これに対してポンツィ・スキームの特徴は、詐欺の首謀者が広く多数から資金を集め、集めた資金の大半または全てを配当に見せかけて支払うことで、虚偽の運用実績を提示することにあります。
このためピラミッド型の組織は必要とされず、首謀者が集まる資金を比較的自由に使えることも特徴の一つです。
このため、冒頭に掲げたような派手なイベントを行うことも容易なのです。
信用を得るため一部の者への配当として多額の資金が流出するため、発覚、摘発されても損害の額に対して十分な賠償を得られない場合がほとんどです。

5.仮想通貨とポンツィ・スキームの親和性
ポンツィ・スキームを動かすためには、現出資者に配当する金額以上の資金を新たな出資者から集めることが必須ですが、偽の仮想通貨はにはその裏付けとなる資金が不要なため、手持ちの現金を超える偽装配当が可能となるのです。

これを私はポンツィ・スキーム配当の「レバレッジ」と呼んでいます。

ワンコインはこの点をうまく活用し、「分割」によって仮想的な配当を行うことで、ポンツィ・スキームでいずれ必ず訪れる破綻を遅らせることに成功したのです。

驚くべきことに、ワンコインより相当前、20世紀も終わるかどうかという頃に、全く同様の概念を用いたポンツィ・スキーム詐欺が我が国で発生していました。それが「円天」事件です。

2000年ごろ創設された疑似通貨「円天」は電子マネーとして使用可能と公表されていました。
10万円以上を預け、上位会員になると「1年ごとに預けた金額と同額の円天を受け取ることができる」「年利100%の金利が払われる」とされ、受け取った円天は、円天市場で利用することが可能とされていました。
会員の募集や会社の信用を高めるため、演歌歌手・タレントを広告塔として招き、関連団体を介しホテルや国技館などで無料コンサートを月10回にわたり行っています。
このイベントには、伍代夏子、小林旭、坂本冬美、島倉千代子、瀬川瑛子、千昌夫、藤あや子、細川たかし、松方弘樹、松崎しげる、美川憲一、八代亜紀などそうそうたる有名人が協力していました。

(ニュース動画)「円天」巨額詐欺事件 元会長の懲役18年確定へ(12/01/12)ANNnewsCH

6.騙されないために

※詳しくは「あなたは必ず騙される ~ ポンツィ・スキーム研究(5/5)最終回」を参照

1)成功するポンツィ・スキームの特徴
ポンツィ・スキームを研究していると、通常の詐欺のように「騙す側と騙される側」という単純な構図ではなく、成功するためには一定の特徴を持つべきことがわかります。それは以下のようなものです。

  • 騙す側に一定の特徴を持った①首謀者、②協力者、③紹介者 が必要
  • 騙される側にも①プレッシャー・機会、②ガバナンスの弱さ、③情報・知識の欠如 といった、一見「不正のトライアングル」にも似た要因が必要

これらを詳しく知ることで、ポンツィ・スキームの兆候に気づき、騙されないための対策を採ることが可能となります。

2)だます側の特徴
①首謀者

  • 首謀者のキーワード:雄弁、大胆不敵、カリスマ、名声、人脈、目立つ社会貢献(しかしその裏には虚栄心、狡猾、金銭欲、虚飾などの裏がある)
  • 良い身なり、一等地の事務所、居宅と現代的な調度品、高級ホテル
  • 進める投資への自信と裏付けとなる華麗な経歴と実績(但し虚偽や誇張が多い)
  • 断定的で力強い説明、ビジュアルに優れた資料(内容は薄く、虚偽も多い)
  • 大物政治家、官僚OBなど、政財界キーパーソンとの親密な関係(但し金や接待に基づくものや、一方的なものが多い)

②協力者

  • 首謀者の右腕となり、忠実に詐欺行為やその管理行為を実行
  • 首謀者とは最も長い付き合い
  • 首謀者に対しては服従に近い関係(悪いこととはわかっていても絶対に裏切らない)
  • 身内や愛人であることも多い
  • 口は堅く、信頼できる。堅実な仕事ぶり
  • 実務を行っているため、首謀者よりも実情を理解している。違法性も認識している場合が多い

③紹介者

  • 投資詐欺の場合、良いパフォーマンスを身近な人たちにも教えてあげたいという親切心や自慢により、友人などに紹介して詐欺被害を拡大させる手助けをしてしまう
  • カリスマ性などから首謀者に心酔してしまい、宗教的に他人を勧誘してしまうケースも多い
  • 有名人や社会的地位の高い紹介者は、スーパー・スプレッダーになりうる

3)騙される側の特徴
①プレッシャー・機会

  • 金のない人間がギャンブルにのめり込むのと似た状況
  • 困窮→金銭欲、あせり、射幸心
  • 長期的には絶対的に資金が足りないが、短期的には少し使える資金がある、もしくは調達できる→この資金を狙われる

②ガバナンスの弱さ

  • 個人の場合…意思(決定力)の弱さ、相談者・指導者の不在
  • 法人の場合…健全なガバナンスの欠如、専門家の不採用、事務作業権限の集中

③情報・知識の欠如

  • 権威者やその華麗な人脈、虚偽データに対する無駄な信頼
  • 新聞や雑誌、業界紙といった記事などに十分な注意を払っておらず、最新情報に疎い。また逆にデマや誇張なども安易に信じてしまう
  • 前任者まで連綿と受け継がれた古い情報や前例にのみ基づいて意思決定し、前例のない動きは極力しない→いわゆる天下り人材に多くみられる特徴

医療機関の不正防止・調査

私達が病気や怪我の治療の際お世話になる、病院や診療所等の医療機関。
これらは地域にとって非常に大事な存在です。
また医療機関は一種「聖域」として、一般的な営利企業とは異なる組織体制や文化を持っていることがほとんどです。
しかし、医療機関とて診療報酬というお金を扱い、資産を持つという意味において、不正のリスクにさらされている点で他の企業体と何ら変わる事はありません。このような医療機関において、不正対策をどのように行うべきかについて書いてみました。

1.医療機関の不正について
資金を扱うあらゆる組織において不正リスクは存在しますが、一般の営利企業と収益構造や法令、管理体制の異なる病院・診療所等の医療機関においては、一般的な営利企業とは不正リスクの質や頻度が異なると考えられています。しかしながら、不正リスクに関する理論、管理手法の本質的な所には共通点があります。

2.不正のトライアングル
不正リスクを考える際には、「不正のトライアングル」という概念が非常に役に立ちます。
「不正のトライアングル」とは、アメリカのドナルド・R・クレッシー教授が提唱した不正の仕組みに関する理論です。
具体的には、不正に手を染めるファクターは以下の3点であるとされています。triangle

 (1)不正を行うための「動機・プレッシャー」
 (2)不正を行うことができる「機会」
 (3)不正を行うことが本人にとって「正当化」

これらの条件が一つでも増加すれば、それだけ不正の発生する可能性が高くなっていることを意味します。

 

3.内部統制について
内部統制とは、(1)業務の効率性・有効性 (2)財務報告の信頼性 (3)法令の遵守 (4)資産の保全を目的として法人内で構築される管理体制を指し、「全社的な内部統制」と「業務プロセスに関する内部統制」に区分されます。
昨今、内部統制は上場企業が財務報告の適正性を保証するための開示対象として注目されていますが、本来内部統制は「組織がその目的に従って適切かつ効率的に活動し」「法令を順守し」「資産を保全する」と同時に「適切な情報開示を実施する」ことを可能とするための組織管理であるとされています。
この内部統制は適切な情報開示にはもちろん役立ちますが、不正リスクの低減や、事務部門、医療現場における事故、誤りの低減にも有効です。
但し、内部統制は経営者によって無効化することが可能であるため、経営者が主導する不正には役に立ちません。

4.医療機関における不正の例
①横領・不正請求窓口収入、保管現金、機器、消耗品、互助会資金等の管理を長年同一のベテラン職員に任せていることによる横領とその発覚遅れ自動販売機等売上金の横領医薬品の横流し社会保険診療報酬の不正請求

②キックバック医薬品、医療消耗品の購買担当者が、仕入業者からキックバック等の利益供与を受ける
③不正経理横領等を発覚させないため、帳簿や証拠書類を偽装する架空人件費

5.防止対策
不正のトライアングルの把握
職員における不正のトライアングルがどのような状態にあるかを把握し、不正リスクの発生を未然に抑えます。

病院向け内部統制の整備
病院には病院向きの内部統制があります。病院の特色を理解しつつ、不正が起こりにくい組織体制を整備、維持します。

内偵調査、尋問
残念ながら不正の発生が疑われる場合、疑いのある部署、者に対して内偵調査を行い、必要に応じて不正調査手法を用いて尋問します。

税務調査の利用
税務調査を不正調査に利用します(参考コラムはこちら)。この手法は、内部統制が無効化されやすい経営者の不正にも効果があります。

 

個人診療所レベルなら、院長が末端の職員にまで気を配ることが可能ですから、院長の管理レベル次第でこのようなリスクは防止することが比較的楽です。しかし、病院においては一般的に組織規模が大きく、院長や事務長がいくら気を配っていても末端まで注意を行き届かせることは不可能です。この為、不正リスクを低減する組織的な管理体制は必要です。

小規模企業の働き方改革~「見える」と全てが上手くいく

昨年「士業事務所の働き方改革」というテーマで講演をさせて頂く機会がありました。
この講演においては、弊所が「働き方」をどのようにとらえているのか、またどのようなツールを用いて実現しているのかについてご説明し、一定の評価を頂戴しました。この講演内容について、ブログ化し、また新たな情報も織り込んで皆さまにもお知らせいたします。
キーワードは、「予定が見える」「仕事が見える」「人が見える」「数字が見える」の4つです。

1.予定が見える
会計事務所の業務は、基本的に「申告期限」に代表されるように月次や年次で期限のあるものですから、これがそのまま仕事のスケジュールになることが一般的です。
このため、それぞれのスタッフは「当面」自分が何をやるか把握しているはずです(これがなければ大問題です)。

しかし、これが事務所内で共有されている訳ではありません。
また個人個人の思うスケジュールが全体最適とは限らないのです。

弊所は現在、スタッフに対しては少なくとも2週間の予定を設定、事務所での共有カレンダーに入力させるよう指示しています。この「予定」を入力する際には、自分の経験だけではなく、あとで述べる業務チェックリストによって表示される情報を参考に、必要な事項を漏れなく挙げるようにしています。
また、有給休暇や総務的業務、研修の時間もお客様に関する業務と同様に「年間プロジェクトの一つ」として管理し、内部売上を設定した上で予定を入れる対象として取り扱っています。schedule画面

これらの予定情報を全員で「共有」することで、お子さんの急な熱でも在宅に切り替えたり、他のスタッフへの振替も可能となっているのです。
またコロナ禍のように在宅やシフト勤務が急に必要となった場合でも、業務内容が共有化されているため協力して漏れなく実施することが容易にできます。sns画面5

私はよく講演会で「皆さんが雇用するスタッフの標準的な年間稼働時間を把握していますか?」と問いますが、正確に把握している人はまだあまりいないようです。
管理者の仕事は、スタッフの負担感を認識し、分担の指示やスポット業務への担当配分などを調整することで、最も限られた資源である「稼働時間」を如何に効率よく高収益な業務に割り当てていくか、に尽きるのです。

2.仕事が見える
小規模会計事務所の業務で、特に顕著な特徴が「人的依存」です。つまり、実施すべき業務の内容が「引継ぎ」や「前年度の書類」によって伝えられることが多いのです。
また、仕事を実施する者によって業務品質に大きな差が出るのも特徴です。大きな幅のある担当個々人の経験や能力に依存し、誤りや漏れが発生しやすくなってしまいます。
しかし、その大きな差は管理者側から容易に見出すことができず、業務品質の良否が待遇に連動しない、という事態が発生しますので、できるスタッフに大きな不公平感が残ってしまうのです。

弊所においては、会計事務所用に導入したクラウド管理システム「耕夢」上に「業務チェックリスト」を整備し、これを参照して決算等業務を行うことにしています。このチェックリストには、一般的な会計税務のみならず、相続税や一般管理業務、営業プロセス、研修に至るまで、内容や実施期限などが設定されています。このため、原則としてこのチェックリストの内容を指定された期限までに全て実施すれば、どの分野でも一定品質の業務が実現できるようになっています。

また実施された業務の概要や資料の受け渡し、月次完了、試算表、受信FAX、お客様の質問・回答、専門誌が全て所内SNSに自動掲載されますので、この内容をブラウズするだけで、管理者である私は一日に事務所で行われた全業務を把握、コメントすることすら可能となっています。

3.人が見える
弊所のスタッフが、他人の担当業務をヘルプした場合(相談や検算など)すると「〇〇さん担当業務を△△さんが実施」とSNSに自動表示されます。
このような表示は本人(△△さん)やヘルプを受けた人(○○さん)に通知されるので、コメントには「お礼」や「気づき」をそれぞれが記載することにしています。thanks
このような仕組みを利用することで、それぞれが気楽に聞き、教えあえる雰囲気が醸成されるのです。
もちろん、後述の通り「ヘルプした時間がヘルプとして実績記録され、評価される」という機能がなければ「単に自分の仕事が進まない」と見えるだけですから評価されることにならず、こんな雰囲気は作れません。

4.数字が見える
前述の通り、お客様の会計・税務業務だけではなく、総務や研修、雑誌読みといった自己研修にもプロジェクトを設定しています。
これらを正しく運用することで、自分が担当する業務の時間はもちろん、他の担当をヘルプしたり検算した時間や、病気等で休んだ担当の業務を休み中代行したり、代わりに質問に答えた時間なども正確に記録されます。

また、それぞれのプロジェクトには売上予定額と必要標準時間を設定していますので、グラフで担当割の偏りも直ぐにわかるようになっています。もちろん、間接業務や有休の取得にすら内部売上が設定されていますから、これらを多く行う役割をもったスタッフの評価が低くなることもありません。逆に、生産性が悪いのに残業だけしている人間が「あいつは遅くまで頑張っている」と評価されることも絶対にありません。

このように、事務所内の業務実施状況を詳細な把握は、公平感や安定した業務の実施、残業抑制に大きな効果を持ちます。例えば、弊所は子育て中で短時間勤務の正社員であっても、一定の条件を満たせばフルタイムと同じ給与を支払っていますが、これも成果が全員で確認できるから不公平感なく可能になるのです。sf画面

上記は、各担当で業務が偏っていないかを確認するためのグラフです。

数字というのは非常に大事です。

  • 数字が見えないから不安になる→残業減や有給取得、産休育休への抵抗
  • 数字が見えないから不満が出る→他担当の手伝い、総務時間、業務の偏り、「遅くまで居るだけの人」などがあぶりだされます。
  • 数字が見えないから価格が下がる→業務内容とそれに対する経営努力を説明、理解して頂きやすくなります

5.まとめ
働き方改革の目的を単に「残業減」ととらえる考え方は非常に危険だと思います。
業務の本質やあるべきプロセス、また使える人的リソース(稼働時間)を把握せず単純に残業減を上から強いた場合、恐らく強烈な不公平感が組織に蔓延することになります。この不公平感は間違いなく「良い人を萎えさせる」危険をはらんでいます。
私がこの業界に入った頃はまだ道具が少なく、相当な工夫をしないと「見える」化は難しかったのですが、最近はICT(情報通信技術)の発達でいろいろな良い道具が手に入るようになってきました。
またこういった方向性は、コロナ禍で否応なく進めざるを得ない環境になってきたようです。
ピンチはチャンスです。
是非「見える」化を進め、本当の意味での「働き方改革」とその結果である「収益性向上」を目指しましょう。

税理士法人耕夢は「競争しません」(1周年記念)

本日11月1日、税理士法人耕夢は昨年の設立からちょうど1年となりました。
お客様、職員の皆さん、そして全てのお世話になった皆様に、心より感謝申し上げます。

1.耕夢システムと法人化
会計事務所業界は転機を迎えています。劇的なIT化の進展や税務の複雑化のみならず、競争の激化、そして人材獲得の難しさは、重要な経営課題となりつつあります。これに加え、新型コロナ感染症の影響は、主要なお客様である中小企業に破壊的な影響を与えています。
このような激変する環境に適応するには、やはり組織の力が必要です。
飛び抜けた力が無くても、適切な知識・経験・常識を持ち、他を思いやる心を持った人間が協力し合うことで大きな力を発揮できる、そういった仕組みが大事です。
法人としての耕夢、またシステムとしての耕夢は、このような仕組み作りの為に生まれました。
(耕夢システムは、Salesforce社さんの「Sales Cloud」をプラットフォームとしています)

2.この1年間を振り返って
今年6月から6名が新たに参加、3拠点(本町、堺、岐阜)合計で17名となっています。
耕夢の理念を共有し、それぞれ協力し合う環境がこの1年で少しずつ出来上がりつつあります。
例えば、新たなお客様にご契約頂くありがたい場面でも、担当だけではなく全員がお客様の為に協力するということが当たり前のようになっています。
拠点間のネットワークを配備し、これを利用して全員がテレワークを行うことも可能となりました。このシステムは元々コロナ禍を想定せず準備していたものですが、運よく助けられることとなりました。
耕夢システムが持つ顧客管理、チェックリスト、日報、職員間のコミュニケーションといった機能は、品質管理や情報共有といった機能を通じて事務所運営に大きな良い効果を与えてくれています。
1年間を振り返ると、ありがたいことにある程度考えていたことが実現できたように思います。

3.これからの話~競争しません
これを踏まえ、今後の方針として「競争しない」を掲げたいと思います。
ITのない昭和の時代、成果の測定が極めて難しかった環境においては「競争」は良いツールでした。人の原始的な本能を刺激して成果を上げる方法だからです。
しかし、社内における競争は人間関係の軋轢を通じてイジメや抑圧、良い人材の流出など様々な問題を発生させる原動力となるのです。
「では競争しないでどうやって成長するのか」と思われるかもしれません。
しかし実はこの「競争が成長を生む」という考え方も昭和そのものと思います。
成果を(ITで)測定し、それを見せ、意味を理解させ、フィードバックさせるという仕組みを作れば、まともな人は必ず良い成果を自分で出します。また、競争とは逆に平和と相互理解、尊重すら生むのです。

また、対外的にも競争はしません。
他の事務所との報酬での単純な比較や、顧客数の多寡など、「ライバルに負けない」姿勢は社内の競争と同じく軋轢や疲弊を生みます。
私たちは、まずは自分たちが品質の高い業務をできる体制を作り、これを、実績とともにお客様に見て頂くこと、その正当な対価を頂くこと、といったシンプルですが非常に大事な姿勢を明確にします。

4.耕夢の役割
これら「競争しない」ためのツールが耕夢です。
耕夢は社内の成果を明確にし、業務の品質を高め、お客様に実績を見て頂き、価値を納得頂けるための機能が備えられています。
※下記はお客様ごとの発生時間推移と、各職員が担当する業務量のグラフ)

発生時間グラフ

税理士法人耕夢は、このような考え方を基礎に、今後もよい仕事ができるように努力致します。
皆様今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。