皆さんが毎日使うカーナビや携帯に必ず入っている「GPS」。
いつどこにいても、正確に場所やルートを教えてくれる便利な機械です。
これがなければ、現代人はほとんど何もできないと言っても過言ではないかもしれません。
このGPSについて、歴史や原理を簡単に説明します。
1.GPSのしくみ
GPSは「グローバル・ポジショニング(全地球測位)・システム」の略です。
昔から、自分のいる位置を知るには太陽や星の位置を観測する方法を用いることが一般的でした。
大海を往く船乗りはこの方法に長けていたと言われています。
※余談ながらその正確性を担保するために発達したのが正確な時計を作り出す技術でした。
これに対し、GPSは全く違うアプローチで正確な位置を割り出します。
まず地球上にいくつも人工衛星を打ち上げ、その人工衛星がまんべんなく地球の周りを周回するように配置しておきます。
そのうち1つの人工衛星と、位置を測定したいものの距離を正確に測ります。そうすると、人工衛星から地球までその距離を満たす場所は「円形」となるはずです(図の左側)。
ここにもう2つ衛星を加え、それぞれの距離からできる円形を合わせると図の右側のようになり、その円の交わりの中心部が正確な位置、ということになります。
この「正確な距離」を測るのは非常に難しいのですが、人工衛星に極めて正確な時計(原子時計)を搭載し、計測端末との時間差を計算、光の速度を利用することで距離を割り出しています。
なお端末側に原子時計を搭載する訳にはいきませんので、実際には第4の衛星を利用し、正確な時間を補正することで位置を計算しています。
また、携帯やカーナビで地図上に位置を示したり、最短ルートを計算したりする機能は、GPSの応用分野の一つです。
2.GPSの歴史
アメリカは、旧ソビエト連邦と長い冷戦時代において、戦略的に航空機や船舶の位置を正確に把握しておく必要がありました。また、巡航ミサイルを正確に誘導するための手法も求められていました。
このため、米国は1973年GPSシステムの開発をスタートし、1990年代から運用を開始しました。
日本においてもこれらを民生用に利用する開発が同時期にスタートし、カーナビや携帯への搭載が始まりました。私が就職活動をしていた1990年代初頭、ソニーの研究所で研究者の皆さんからこの驚くべき技術の説明を受けたことを今でも鮮明に覚えています。
民生用の利用が同時にスタートしたことでもわかる通り、このGPS、衛星からの電波が受信できれば誰でも正確な位置が計測できてしまいます。これを敵国やテロリストから悪用されることを防ぐため、米国(国防総省管轄)は民生用電波を遮断したり、送信するデータの精度をコントロール(落とす)ことができるようにしています。
3.新しいGPSシステム
①各国のシステム
米国はいち早くGPSという画期的なシステムを開発、運用を開始し、米国外を含む民間でも利用可能となりました。このことは世界中に革新をもたらしたのですが、システムの根幹を米国が握っており、精度などをコントロールできることから、米国と競争する分野を持つ国は独自のGPSシステムの開発を急ぐこととなりました。
現在、米国GPS以外には下記のようなシステムが運用されています。
・ロシア…GLONASS(ГЛОНАСС、グロナス)
・中国…BeiDou(北斗、バイドゥ)
・欧州…Galileo(ガリレオ)
・インド…NAVIC(ナヴィック)
②準天頂衛星システム「みちびき」
単純なGPSは、いくら精度を上げようとしても数m~10数mの誤差が発生してしまいます。これは、衛星の電波を受信する角度が浅ければ浅いほど精度が落ちることによるものです。
これを補正するため、3機程度の衛星を特殊な軌道に乗せ、常にどれかの衛星が天頂(真上)方向にある状態を作り出して精度を補完するのが準天頂衛星システムです。
我が国は現在(2019年現在)、このシステム「みちびき」4機の衛星で運用し、1m程度の精度を実現しています。
これが7機体制(2023年めど)になると、米国のGPSが停止したり精度を落としても、独立して我が国での運用が可能となると言われています。
また、これに地上基地局(電子基準点)を利用し、数センチメートル以下の精度を実現する手法も運用が開始されています。
我が国以外にも、このような補完システムは米国(WAAS)、欧州(EGNOS)、インド(GAGAN)、ロシア(SDCM)、中国が運用しています。
4.GPSの今後
このように非常に便利なGPSシステムですが、精度が上がると下記のような分野で大きな発展がみられると期待されています。
・災害対策
・自動車の自動運転
・航空機や船舶、鉄道の高精度自動操縦
・建設、土木の自動化、効率化、高精度化
・農業の自動化、効率化
・ドローンとの組み合わせによる三次元測量
・5G通信・IoTとの組み合わせによるビッグデータ解析