小規模企業の働き方改革~「見える」と全てが上手くいく

昨年「士業事務所の働き方改革」というテーマで講演をさせて頂く機会がありました。
この講演においては、弊所が「働き方」をどのようにとらえているのか、またどのようなツールを用いて実現しているのかについてご説明し、一定の評価を頂戴しました。この講演内容について、ブログ化し、また新たな情報も織り込んで皆さまにもお知らせいたします。
キーワードは、「予定が見える」「仕事が見える」「人が見える」「数字が見える」の4つです。

1.予定が見える
会計事務所の業務は、基本的に「申告期限」に代表されるように月次や年次で期限のあるものですから、これがそのまま仕事のスケジュールになることが一般的です。
このため、それぞれのスタッフは「当面」自分が何をやるか把握しているはずです(これがなければ大問題です)。

しかし、これが事務所内で共有されている訳ではありません。
また個人個人の思うスケジュールが全体最適とは限らないのです。

弊所は現在、スタッフに対しては少なくとも2週間の予定を設定、事務所での共有カレンダーに入力させるよう指示しています。この「予定」を入力する際には、自分の経験だけではなく、あとで述べる業務チェックリストによって表示される情報を参考に、必要な事項を漏れなく挙げるようにしています。
また、有給休暇や総務的業務、研修の時間もお客様に関する業務と同様に「年間プロジェクトの一つ」として管理し、内部売上を設定した上で予定を入れる対象として取り扱っています。schedule画面

これらの予定情報を全員で「共有」することで、お子さんの急な熱でも在宅に切り替えたり、他のスタッフへの振替も可能となっているのです。
またコロナ禍のように在宅やシフト勤務が急に必要となった場合でも、業務内容が共有化されているため協力して漏れなく実施することが容易にできます。sns画面5

私はよく講演会で「皆さんが雇用するスタッフの標準的な年間稼働時間を把握していますか?」と問いますが、正確に把握している人はまだあまりいないようです。
管理者の仕事は、スタッフの負担感を認識し、分担の指示やスポット業務への担当配分などを調整することで、最も限られた資源である「稼働時間」を如何に効率よく高収益な業務に割り当てていくか、に尽きるのです。

2.仕事が見える
小規模会計事務所の業務で、特に顕著な特徴が「人的依存」です。つまり、実施すべき業務の内容が「引継ぎ」や「前年度の書類」によって伝えられることが多いのです。
また、仕事を実施する者によって業務品質に大きな差が出るのも特徴です。大きな幅のある担当個々人の経験や能力に依存し、誤りや漏れが発生しやすくなってしまいます。
しかし、その大きな差は管理者側から容易に見出すことができず、業務品質の良否が待遇に連動しない、という事態が発生しますので、できるスタッフに大きな不公平感が残ってしまうのです。

弊所においては、会計事務所用に導入したクラウド管理システム「耕夢」上に「業務チェックリスト」を整備し、これを参照して決算等業務を行うことにしています。このチェックリストには、一般的な会計税務のみならず、相続税や一般管理業務、営業プロセス、研修に至るまで、内容や実施期限などが設定されています。このため、原則としてこのチェックリストの内容を指定された期限までに全て実施すれば、どの分野でも一定品質の業務が実現できるようになっています。

また実施された業務の概要や資料の受け渡し、月次完了、試算表、受信FAX、お客様の質問・回答、専門誌が全て所内SNSに自動掲載されますので、この内容をブラウズするだけで、管理者である私は一日に事務所で行われた全業務を把握、コメントすることすら可能となっています。

3.人が見える
弊所のスタッフが、他人の担当業務をヘルプした場合(相談や検算など)すると「〇〇さん担当業務を△△さんが実施」とSNSに自動表示されます。
このような表示は本人(△△さん)やヘルプを受けた人(○○さん)に通知されるので、コメントには「お礼」や「気づき」をそれぞれが記載することにしています。thanks
このような仕組みを利用することで、それぞれが気楽に聞き、教えあえる雰囲気が醸成されるのです。
もちろん、後述の通り「ヘルプした時間がヘルプとして実績記録され、評価される」という機能がなければ「単に自分の仕事が進まない」と見えるだけですから評価されることにならず、こんな雰囲気は作れません。

4.数字が見える
前述の通り、お客様の会計・税務業務だけではなく、総務や研修、雑誌読みといった自己研修にもプロジェクトを設定しています。
これらを正しく運用することで、自分が担当する業務の時間はもちろん、他の担当をヘルプしたり検算した時間や、病気等で休んだ担当の業務を休み中代行したり、代わりに質問に答えた時間なども正確に記録されます。

また、それぞれのプロジェクトには売上予定額と必要標準時間を設定していますので、グラフで担当割の偏りも直ぐにわかるようになっています。もちろん、間接業務や有休の取得にすら内部売上が設定されていますから、これらを多く行う役割をもったスタッフの評価が低くなることもありません。逆に、生産性が悪いのに残業だけしている人間が「あいつは遅くまで頑張っている」と評価されることも絶対にありません。

このように、事務所内の業務実施状況を詳細な把握は、公平感や安定した業務の実施、残業抑制に大きな効果を持ちます。例えば、弊所は子育て中で短時間勤務の正社員であっても、一定の条件を満たせばフルタイムと同じ給与を支払っていますが、これも成果が全員で確認できるから不公平感なく可能になるのです。sf画面

上記は、各担当で業務が偏っていないかを確認するためのグラフです。

数字というのは非常に大事です。

  • 数字が見えないから不安になる→残業減や有給取得、産休育休への抵抗
  • 数字が見えないから不満が出る→他担当の手伝い、総務時間、業務の偏り、「遅くまで居るだけの人」などがあぶりだされます。
  • 数字が見えないから価格が下がる→業務内容とそれに対する経営努力を説明、理解して頂きやすくなります

5.まとめ
働き方改革の目的を単に「残業減」ととらえる考え方は非常に危険だと思います。
業務の本質やあるべきプロセス、また使える人的リソース(稼働時間)を把握せず単純に残業減を上から強いた場合、恐らく強烈な不公平感が組織に蔓延することになります。この不公平感は間違いなく「良い人を萎えさせる」危険をはらんでいます。
私がこの業界に入った頃はまだ道具が少なく、相当な工夫をしないと「見える」化は難しかったのですが、最近はICT(情報通信技術)の発達でいろいろな良い道具が手に入るようになってきました。
またこういった方向性は、コロナ禍で否応なく進めざるを得ない環境になってきたようです。
ピンチはチャンスです。
是非「見える」化を進め、本当の意味での「働き方改革」とその結果である「収益性向上」を目指しましょう。