中小企業の不正会計と監査役(1/3)

1.中小企業と会計不正

1)小規模会社の会計不正について
上場会社の場合、会計不正のほとんどは上場会社における有価証券報告書などの虚偽記載、すなわち金融商品取引法上のディスクロージャーに関する不正であると言っても過言ではありません。ディスクロージャーの内容は、株価など資金調達や採用など、経営環境に大きな影響を与えるため、不正会計に手を染めてでも会社の状況をよく見せたい、という動機が極めて多いです。

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また非上場の会社であっても、会計監査人(監査法人や公認会計士が専門的監査を行う)設置会社の場合、会社法上の財務情報について株主を中心に適法に開示する要請があります。このような会社であっても会計不正は広い意味でディスクロージャーに関する不正であると言えます。

それでは、今回のテーマのように小規模な会社(会計監査人非設置会社)、すなわちディスクロージャーに関する要請が高くない会社の場合はどうでしょうか。
結論から言うと、このような会社でも会計不正は起こりえます。そのような不正をカテゴリー分けすると、以下のようなものが主となります。

  •  法人税計算に係る会計不正
    法人税の課税ベースとなる所得は、基本的に企業会計の利益計算に基づいて計算されます。
    法人税は会社にとって大きな負担となるため、課税所得を少なく見せようとする動機は十分にあります。
    この結果、法人税を減らすため、課税所得、すなわち会計上の利益を少なく見せかけようとする不正の発生する可能性があります。
  •  会社法制に係る会計不正
    会社の利益配当は、会社が安定して経営できる財源を確保するため、会社法によって一定の制限がかけられています。この制限は企業会計の計算に基づいて算定されるため、配当を多く出したい場合には会計上の利益を多く見せかけようとする不正の発生する可能性があります。
  •  金融機関に対する会計不正
    会社が金融機関から融資を受けている場合、金融機関における貸出金の「自己査定」において悪い評価を受けると、担保追加、金利上昇などの融資条件悪化や、場合によっては借り換えの拒否など資金繰りに大きな影響が懸念されます。自己査定における判断材料の一つは会計データなので、これをよりよく見せる、すなわち売上が増加していたり利益が出ていたり、また債務超過(資産より負債が大きい)に陥っていないように見せる会計不正の可能性が大きくなります。
  •  上場準備を目的とした会計不正
    上場基準には時価総額や利益など一定の基準があります。また、上場基準そのものではなくても、売上高の伸びなど成長性をはかる基準として、会社の財務数値は極めて重視される指標となります。このようなことから、上場を準備している会社の場合、会計不正を志向する可能性は極めて高くなります。但し、このような会社の場合、会社法上の正式なものではありませんが監査法人が会計監査を行う場合がほとんどですので、監査にて発見される場合も多くあります。

2)会計監査人非設置会社の会計不正と監査役
会計監査人非設置会社の場合、前述のような会計不正を発見、是正できる法的権限のある者は監査役しかないと言っても過言ではありません。ということで、会計不正と監査役の関係を以下確認しておきたいと思います。

まず、会社法が定める監査役監査には、業務監査と会計監査とが含まれます。業務監査は、取締役の職務の執行が法令・定款を遵守して行われているかどうかを監査することで、一般に適法性監査と呼ばれています。これに対し会計監査は、定時株主総会に計算書類が提出される前に行われ、株主総会の招集通知時に、会計監査と業務監査の結果が記載される監査役会の監査報告が提供されます。会計監査人設置会社の場合は会計監査を会計監査人が行ってくれるため、監査役としてはこれを相当と認めるだけで良いのですが、そうでない場合は自分で行わなければなりません。

さて、では会計不正の対応は会計監査なのか業務監査なのか、どちらに当たるでしょうか。

結論を先に言いますと、これはどちらにも当るというのが正解だと思います。
「会計」不正ですから、その対応が会計監査にあたるということは間違いがないと思います。これに加え、これらの不正を行うためには取締役(またはその使用人)が不正行為を行う必要のある場合がほとんどだからです。

3)税務調査と会計不正
とはいえ、会社規模の大小にかかわらず、不正は税務調査で見つかる場合が圧倒的に多いと言われています。

税務調査は、申告納税が基本である日本の法人税、消費税などの制度において、納税者が故意や過失の有無にかかわらず間違った申告、納税を行うことを発見、防止する行政側の手続です。これとは別に「査察」という犯罪調査と同様の強制的な調査もありますが、今回は調査を受ける会社側も同意して行う「任意調査」だけを取り上げます。

このような任意調査の場合、会社規模や業務内容によって異なりますが、1名~5名程度の調査官が税務署からやってきます。彼らは一定期間会社を訪問し、役職員への質問や資料収集により、申告内容が妥当であるかを調査します。調査官には「質問調査権」がありますので、この調査官の質問には回答しなければなりません。

調査官は申告内容の誤りを発見するための教育を受けていますし、十分な経験もありますので、結局の所その調査の過程で不正の発見される可能性が高くなるわけです。

さて、監査役はどれくらいこのような税務調査現場に立ち会っているでしょうか?弁護士や税理士など特殊な資格をお持ちの場合を除き、通常、経理担当者や税理士事務所の担当税理士が対応することが多いと思います。

確かに、経理や税務の業務に精通していない方の場合は、調査の過程で繰り広げられる理屈についていくのは非常に難しいかもしれません。しかし、税務調査は時に監査役監査で目の届かなかった、会社の細かい点にも職人的に踏み込みますので、横で聞いておくくらいのことをしても全く損にはなりません。

また、調査官は申告内容の誤りに直接関係する問題以外は積極的に摘発する義務はありませんので、対応する経理担当者や社長の不正については、それが申告内容に影響を与えない軽微なものであれば、「これから気を付けてください」で終わってしまう場合も否定できません。

これらのことから、監査役が不正に対応する観点からは、可能なら税務調査にオブザーバーとして立会い、それが難しければ、できるだけ調査終了時の講評を調査官から直接聞く、という対応をおすすめしたいと思います。

2.事例と対策
それでは、以下いくつかの代表的な会計不正の例を挙げ、そのあらましと、会計監査人非設置会社の監査役が採れる対策についてご説明します。

1)架空販売、押込販売、計上時期ずらし、売上除外
会社の状況を良く見せたり、また逆に税金を減らすため利益を押さえて見せたりする方法はたくさんありますが、やはり「売上を調整する」ことが一番ストレートな方法であると言えます。
また、例えばサービス業の会社には大きな在庫はなく、後述の「在庫を調整する方法」での不正会計は行えませんが、売上なら全ての会社で業績の調整を行うことが可能となります。その意味で、売上の調整は不正会計の中でも最も一般的なものと言うことができます。

ただ、売上というものは商品やサービスの内容や価格、支払条件等々について顧客との合意が必要ですから、全くの架空売り上げを含め必ずどこかに問題が出てきます。
以下、売上調整による不正会計の主な手法とその事例について説明します。

①架空販売
さて売上を調整するためにはいくつかの方法があります。
最も簡単なのは、実際に売り上げていないものを売上として扱う「架空販売」です。この架空販売の場合、売上自体は実際には発生していませんので、当然ながらまともな入金もありませんし、出荷記録なども発生しません。このため、調査の対象にいったんなれば、比較的発見の容易な不正であると言えます。

(事例)
卸売業A社はここ数年業績が振るわず、多額の銀行借入金が負担となっていました。このため、あまり業績不振が続くと銀行から追加の借入はおろか、借り換えすら拒否される可能性があります。この状態に危機感を持った経営者は、経理担当者に指示して架空の売掛金口座を設定、目標とする売上に届くように架空売上を積み上げました。
2,3年の間はごまかすことができましたが、結局税務調査時に多額の滞留売掛金について説明を求められ、不正が発覚してしまいました。

(発見・防止手法)
決算書の内訳明細書には「売掛金」のリストがあります。このリストの昨年版と今年度版を比較し、残高が異常に増えているような得意先がないかどうかを調べると、このような取引が含まれている場合があります。また、不正ではなくても、売掛金の焦げ付きが発見される場合もあります。

(後日談)
不正は発覚したものの税務調査官は利益を過大計上する不正であることから見逃し、口頭で是正を指示して調査を終えています。結局この会社は、架空売り上げやその他の不正で資金が回らなくなり、数年後に自己破産するに至りました。

②押込販売
前述の架空販売は、計上する側(経営者や従業員)が勝手に売上を形だけ計上してしまう方法ですが、「押込販売(おしこみはんばい)」は実際の販売と一見似た外見を持っています。

(事例)
営業担当Bは、自らの販売ノルマがもう少しの所で達成できず焦っていました。このため、懇意にしている取引先の購買担当者に依頼し、ノルマ達成に至る売上を計上してもらうことにしました。当然購買側の予算は変更されていませんので、販売物はBの会社の倉庫に置き、支払も通常の条件より数か月伸ばしてもらうか、適当な時期に返品処理をすることにしました。会社で棚卸を行う際には、その品目については隠すか自分がカウントしてつじつまを合わせていました。

毎年このような形で乗り切っていましたが、結局押し込み部分が大きくなり、会社の棚卸責任者が交代となった際、棚卸表に乗っていない大量の在庫が発見されることとなり、不正が発覚しました。

(発見・防止方法)
事例の通り、在庫棚卸を正確に行うことが一番の防止方法です。後で述べる通り棚卸に関する不正を発見することは専門家にとっても難しい事ですが、できるだけの手続きを駆使して確認する必要があります。また、月末に売り上げた代金が、所定の条件通り入金されているか、また年度初めに多額の返品がないかを確認することも有効です。

③計上時期ずらし
売上の計上時期をずらす方法は、当期に計上するべき売上を来期に回す(決算期末より後にずらす)場合と来期計上すべき売上を当期計上する(決算期末より前にずらす)場合の2種類があります。

前者は当年度の利益を減らしますので、当然ながら脱税目的で利用されます。また後者は利益を増やしますから、粉飾目的で利用されることが多くあります。これ以外にも、営業担当者が自らの営業成績を調整するために計上時期をずらすことも少なくありません。

売上の計上基準が出荷基準(当社倉庫を出たら売上)であるか検収基準(顧客に対して引き渡しを完了した時点で売上)であるかという差はありますが、いずれにしても顧客と共謀して検収書類などが改ざんされる場合は発見が非常に難しい方法です。

(事例)
営業担当Cは、既に今期の売上ノルマを達成していたため、期末日近い時点での売上が予定されている顧客に対し「製品到着は今月だが、来月頭の検収書を作成、送付して欲しい。ついては支払もひと月伸ばして頂いて結構です」という旨をメールにて依頼しました。担当Cをかわいがっている顧客は、二つ返事で来月頭日付の検収書を作成し、当社に送付しました。

(発見・防止手法)
粉飾や脱税目的の計上時期ずらしを発見するには、厳しい予算(ノルマ)がある場合、強気すぎるものや、予算の未達可能性が高くなっている部署がないかを期中で確認しておく必要があります。

営業担当が自らのノルマを調整するために計上時期をずらす方法を採った場合は、このようなリスクを想定した内部監査や部署内の相互チェックをおこなわない限り非常に発見が難しいと思います。そのような考え方は、自らのみならず会社にも顧客にも迷惑をかけるという営業モラルに関する教育を強化する必要があります。

④売上除外
売上除外とは、文字通り本来あるべき売上から、一部又は全部を所得税課税対象から除外する方法です。この方法は、基本的に裏金作りや脱税行為を目的としたものとなりますので、税務調査等で発見された場合は重加算税の課される可能性が極めて高くなります。

(事例)
飲食店Dは、過去から適当な数売上伝票を破棄し(つまみ売上)売上高を過少申告していました。税務署の調査官は調査前にこの飲食店へ覆面調査に数回訪れ、飲食した事実を記録し、その後正式な調査を行った際、記録した売上が一部含まれていないことから売上除外が発覚しました。ただこの不正を行っていたのはこの店舗の店長であり、除外された売上分の資金は当該店長に横領されていました。

(発見・防止手法)
飲食店などのような現金商売でない場合、可能な限り現金売上を廃止、入金口座を限定することが有効です。また現金商売とせざるを得ない場合、日々の現金管理や残高照合、レジデータのチェックを徹底させる、抜き打ち監査を行うなどというプロセスを強化する必要があります。

(補足)このような場合、不正を行っていたのが店長であっても、経営者が過少申告で重加算税を課される場合があります。