「何にでも入ってる」水晶振動子(クオーツ)の世界

スマホ、5G(第5世代移動体通信)、IoT(全てのモノをインターネットに繋ぐ)、自動運転、宇宙開発、といった最近注目されている多くのキーワード。
これらに共通して必須となる「部品」をご存知でしょうか?それは「水晶振動子(クオーツ)」です。
今回はこの「水晶振動子」について説明します。

高度な計算や電波による精密な通信を必要とする機器の場合、動作する周波数を厳密に「チューニング」する(合わせる)ことが必要となります。この「基準」となるのが水晶振動子なのです。

水晶振動子はもともと、ジャックとピエールのキュリー兄弟(ピエールは「キュリー夫人」で有名なマリー・キュリーの夫)らによって発明されたある現象(水晶に電圧を加えると変形する性質)とを基礎にしています。
水晶の小さな「かけら」に電極を付け、交流電圧をかけると非常に正確な周期で振動する(発振)電気出力が得られます。この振動は極めて正確なので、これを様々な基準として使用するのが水晶振動子の仕組みです。

この仕組みが最初に使われたのが、皆様もよくご存じの「クオーツ時計」ですね。
1950年代までは非常に大きかった水晶振動子を小型化し、腕時計サイズにまで組み込んだのが日本のセイコーです。この時計は非常に正確だったので、コストダウンが進んだ結果スイスの腕時計メーカーが軒並み衰退する(クオーツショック)という事態まで引き起こしました。

この水晶振動子、前述の通りありとあらゆる機器の中に組み込まれているため市場規模は年間3,220億円という大きなものですが、なんと世界における日本メーカーのシェアは50%近いそうです(「2017年水晶デバイス世界シェア推定」日本水晶デバイス工業会 調査研究委員会)

水晶振動子シェア
IoTは「全てのものがインターネットに繋がる」ことを意味します。
ということは、今までとは比べ物にならない数の機器(というより、シールやカプセルといった、小さなものにも設置しやすい部品)がインターネットに繋がることになります。そうなると、それぞれに内蔵される水晶振動子の需要も爆発的に増加することが見込まれます。

とはいえ、ブラウン管テレビが液晶テレビに、そして有機ELにとってかわられようとしているように、水晶振動子も未来永劫このままという訳ではなさそうです。
最近はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微小電気機械システム)という、半導体の製造過程を応用した作り方で、同じように正確な振動を発生させる部品を作り出す方法も広がってきています。まだ水晶の方がコストが低かったり消費電力の面で有利な場合が多いのですが、周波数を容易に調整出来たり、電子回路への組み込みが容易といったメリットもありますので、今後改良により水晶を駆逐する可能性もあります。

このように、地味ではありますが水晶振動子などの市場は将来的にも大きく拡大が見込まれますし、発展の余地も大きいことから「次世代産業を支えるための技術」として日本のモノづくりの力が試される分野と言えます。