CRS(共通報告基準)であなたの口座情報が筒抜け?

皆さん「CRS」という言葉をご存知でしょうか?
最近、国際的な脱税や租税回避に対する批判が高まっています。
アップルのような大企業のみならず、中小企業や個人富裕層までもが様々な手段を利用して課税を逃れようと工夫を重ねています。
この「CRS」という制度は、このような脱税や租税回避に対処するため2017年から運用されている国際基準です。
金融機関はこの制度に基づき、顧客情報をより詳しく把握して国税当局に報告し、当局は各国間でこの情報を共有しています。

1.CRSとは
OECDは、外国の金融機関等を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するため、非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準である「共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)」を公表し、日本を含む各国がその実施を約束しました。

OECD加盟国はこの基準に基づき、各国の税務当局は、自国に所在する金融機関等から非居住者が保有する金融口座情報の報告を受け、租税条約等の情報交換規定に基づき、その非居住者の居住地国の税務当局に対しその情報を提供します。

このため国内に所在する金融機関等は、平成30年以後、毎年4月30日までに特定の非居住者の金融口座情報を所轄税務署長に報告し、報告された金融口座情報は、租税条約等の情報交換規定に基づき、各国税務当局と自動的に交換されることとなります。

2.日本における状況
日本においては、国税庁が「租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律(実特法)」を改正しCRSに対応しています(平成29年1月1日から施行)。

日本の金融機関は、この実特法に基づき、新たに口座開設等を行う顧客の、「税務上の居住地」を記載した届出書の提出を依頼することになります。また顧客の税務上の居住地に日本以外の居住地があり、その居住地が報告対象国である場合、顧客の口座情報等を年1回、金融機関より国税庁に報告することが義務付けられています。

最近、新しい銀行口座を開設する上で、開設者本人やその関係者、法人の実質支配者などを詳細に書かせるようになった背景がここにあります。

3.具体的な手続き、注意点など
海外の税務当局は、所有している個人情報・法人情報(氏名、名称、住所等、納税者番号など)と収入に関する情報(利子配当譲渡収入など)、また口座番号やその口座に所有している預金や有価証券等の残高を日本の国税庁に提供します。
逆に、日本の国税庁からは、上記と同様の情報が海外の税務当局に提供されます。運用の始まったマイナンバーは、納税者番号として取り扱われているようです。なお、口座残高が25万ドル以下の場合は情報交換の対象外となっています。

この情報交換は2018年から始まっており、国税庁はその内容と日本での申告書や「国外財産調書(年末時点で5,000万円超の国外財産を有する者に提出義務のある資料)」を照らし合わせる作業を進めています。また、この照合結果を基礎として、順次疑いのある納税者に税務調査を進めることになっています。

最近はこの制度を生かした調査が行われており、下記のような報道も出ています。

調査対象者の男性は国外に預金口座を複数保有していた。大阪国税局はCRSなどで得られた情報をもとに税務調査を実施。調査の結果、一部の預金口座の存在を認めたが、その他は認めなかった。CRS情報で得られた口座情報を活用して追及した結果、意図的に海外預金の利子を申告していなかった事実を認めた。申告漏れ所得の総額は約5500万円で重加算税を含めた追徴税額は約2700万円だった。(日本経済新聞 「富裕層」の申告漏れ最多、1年で763億円 国税庁調査 2019/11/28)

なお、最近のCRSの運用については、国税庁が下記のような資料を公表しています。
平成 30 事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要(国税庁 PDF)

もし無申告の高額海外資産をお持ちの場合、全て情報交換の対象になりますので、税理士に相談の上できるだけ早く自主的に申告なさることをお勧めします。