印紙税なんていらない

「印紙」や「収入印紙」という言葉は皆さんご存知と思います。
この印紙、一般の方がよく目にするのは、高額な領収書を受け取る時くらいでしょうか。
この印紙、正式には印紙税と呼ばれる税金の一種です。
様々なビジネスで登場する印紙税とその歴史や今後について説明します。

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1.印紙税とは
印紙については「印紙税法」という法律が定められています。
この印紙税法によると、印紙は次の通りの税金であるとされています。

印紙税法第二条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する。

要するに、印紙税法が定める「文書」に課税されるのが印紙税、という訳です。
それにしても、お金や不動産、お酒などに税金をかけるならともかく、「文書」すなわち単なる紙に税金をかけるとはどういった発想なのでしょうか。

2.印紙税の歴史と意義
この理由を紐解くには、歴史を知る必要があります。
元々印紙税は、1600年代にオランダで戦争によって発生した財政危機に対応するため制度化されたものが起源となっています。契約書や領収書、手形・証券・通帳、定款といった「取引やお金に関する文書」はその背後に資金の動きや利益の発生が見込まれることが多く、また経済活動が活発であればたくさんの文書が発生することから、そこから少しずつ徴収する印紙税は、他の税金と比べると、国民に重税感を与えにくいという特徴があり、各国に普及することになりました。

3.印紙税の現在
我が国における現在の印紙税収は、どのような規模なのでしょうか。
国の統計を見ると、平成9年には約1.7兆円の税収だったものが令和元年度で約1兆円と減少しています。しかしこの収入、未だに関税や酒税と同等、また相続税の半分程度ということからまだまだ重要な水準であると言えます。
とはいえ、もともと「お金の動く取引を証明する紙」に課税したものなので、今後証明書類の電子化によってどんどん減っていくはずです。コロナ禍の影響がこれを加速することになるでしょう。

4.税理士と印紙税
さて、私たち税理士は「この文書は印紙税が課税されますか?」というご質問をよく頂きます。
その場合は大体法令に定められた一覧表(国税庁提供のPDF資料が開きます)やその解説を見ながらお答えするのですが、実は「税理士の業務対象として印紙税は含められていない」ことを皆さんはご存知でしょうか。
税理士法には、下記のような条文があり、印紙税は対応業務から明確に外されているのです。

税理士法第二条 税理士は、他人の求めに応じ、租税(印紙税、(略)を除く(略))に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。(略)

5.印紙税あれこれ
①以前は3万円以上の領収書には印紙税を貼る必要がありましたが、現在はこれが「5万円以上」と改正されています。また、カード払いの場合にはその旨が領収書上明記してあれば印紙は必要ありません。
②金銭消費貸借契約書などの契約書は通常2通作って当事者が両方保有しますが、親子会社間など十分な信頼関係や実質的一体性がある当事者間の場合は、1通の原本を作って片方が原本、もう一方がコピーを持つようにすれば原本だけの印紙で済みます。
③印紙を貼り間違えて、印紙税が過大となった場合(不要な文書に貼った場合や金額を過大とした場合)には、「印紙税過誤納確認申請書」に必要事項を記入のうえ、納税地の税務署長に提出することで還付を受けることができます。

 

合併手続の留意点~合併無効とならないために

近年組織再編に関する法整備が進み、合併、分割、株式交換・移転といった組織再編手法が大変使いやすくなりました。
その中でも、昔からよく使われている「合併」については、基本的なM&A手法として大変便利な手法であると言えます。
しかしながら、合併については会社法に規定された手続を正しく進めなければ、それ自体が無効となってしまうリスクがあります。もし無効となった場合、単に手続自体が無駄になるだけではなく、合併を前提に進められている様々な契約や事業活動が全て合併前の状態に戻されるため、甚大な悪影響があります。

今回は、このようなことがないよう、満たされるべき最低限の手続について記載してみました。
※税理士の分野である税法やその他の分野に関してはまた別の機会があれば記載します。

①合併のスケジュール
合併手続はおおよそ下記の通りの手順で行われます。

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これらの合併手続は会社法に規定されており、これらの手続に従わなければ合併を行うことはできません。この手続や登記申請書の添付書類に瑕疵がある場合、合併自体が中断する場合や、のちに合併無効の訴えにより遡って無効となる場合があります。

合併手続が中断、中止する場合はもちろん問題ですが、遡って無効となる場合には、合併を前提に進められている様々な契約や事業活動が全て合併前の状態に戻されるため、甚大な悪影響があります。このため、合併手続が登記まで適切に行われているかどうかについて、下記の手続を中心に十分注意する必要があります。

②合併契約の締結
合併契約には、消滅会社の株主に交付する対価や効力発生日など、法律で定められた事項を漏れなく決定しなければなりません。合併契約には法定の必須事項があり、この必要事項を欠くと合併の無効原因になります。また合併契約書は合併登記申請における添付書類となります。

③合併に関する書類の事前備置
存続会社および消滅会社は、株主や債権者が合併の適否や合併無効の訴え提起を判断できるよう、合併契約や当事会社の計算書類など一定の書類を本店に備え置かなければなりません。備え置く期間は合併の効力発生日後6ヵ月を経過するまでです。

④債権者保護手続
存続会社および消滅会社は、債権者に対して合併に異議があれば一定期間内に申し出る旨を官報(一定の場合は日刊新聞紙、電子公告)で公告しなければなりません。異議申出の期間は1ヵ月以上必要です。

⑤株主の株式買取請求
存続会社および消滅会社は、合併の効力発生日の20日前までに株主に対して合併する旨の通知(一定の場合は公告)をしなければなりません。

⑥株主総会による合併契約の承認
合併契約は、合併の効力発生日の前日までに存続会社および消滅会社の株主総会で特別決議による承認を受ける必要があります(但し簡易合併、略式合併の場合は、原則として株主総会による決議を省略できます)。

⑦登記・財産等の名義変更手続
存続会社の代表者は、合併の効力発生日から2週間以内に、存続会社の変更登記と消滅会社の解散登記をする必要があります。また、消滅会社の権利義務はすべて存続会社に移転するため、預金、土地および建物など、消滅会社の名義になっている財産等については存続会社への名義変更が必要です。

⑧合併に関する書類の事後備置
存続会社は消滅会社より承継した権利義務や合併手続の経過等を記載した書類を作成し、効力発生日から6ヵ月間本店に備え置かなければなりません。

⑨手続瑕疵の影響
上記の手続に瑕疵(かし 欠陥のこと)があった場合には手続の無効原因となり得ますが、その瑕疵が重大でない場合でも必ず合併が無効となるわけではありません。瑕疵が発見された場合には、合併手続に詳しい弁護士、司法書士などの専門家から無効性について意見を聴取した上で対処を判断する必要があります。

 

役員のお給料、そのやり方で大丈夫?結構危ない3つの注意点

役員のお給料は、従業員のそれと違って、法人税法上非常に重要な制限があります。
一つ間違えば、せっかく払った給料が会社の経費にならず多額の税金がかかる!なんてことが簡単に起こります。この制限を知って、無駄な法人税の発生を押えましょう!

※このコラムは一般向けのため、例外や詳細な条件などを省略してある部分がありますのでご注意ください。詳細についてのご質問は、事務所までお問い合わせ下さい。

1.役員の給料と従業員の給料の違い
会社のために仕事をしたら、お給料は当然もらえるものです。
ですが、一般の従業員さんと役員さんでその意味が違う、という点は御存じですか?
一般の従業員さんのお給料やボーナスは、原則として会社の費用(法人税法上は「損金」と言います)になるので法人税を減らせるのですが、役員さんはそうはいかないのです。
役員さんのお給料については大きく3つの注意点があるので、是非ご注意ください。

2.(注意点その1)役員のお給料は「原則経費ではない」
意外なことに、法人税法には「役員のお給料は『原則として』損金(税金の引ける経費)にならない」という驚きの定めがあります。
でも、おかしいですよね。
会社のために働いて、その分がお給料として支払われているので、会社の経費にならないのはどう考えても変です。
実は、会社の経費にするためには、次の3、4についての条件を満たす必要があるのです。

3.(注意点その2)役員のお給料は「定時」「同額」でなければ経費にならない
「原則経費にならない」とされる役員のお給料は、「定時(毎月決まった日など)」に、「同額(金額が変化しない)」支払の場合に限って経費になります。
例えば、毎月25日に100万円のお給料を支払っている方の場合、ある月だけ120万円にしてしまったら、増えた20万円部分が経費にならないのです。
このお給料を全額損金のまま変更できるのは、なんと決算日後3カ月までの間だけ。

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増額変更がOKのケース(3月決算の場合)

これ以外の場合は、上で書いたように変化した部分が経費にならないという問題が起こってしまいます。例えば、下記のようなケースの場合、8月以後増やした部分(点線より上)が全部損金にならないのです。

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増額
変更がNOのケース(3月決算の場合)

4.(注意点その3)役員のボーナスは、「あらかじめ届け出た金額」から1円でも違えば経費にならない

定時・同額という事ですから、ボーナスはもってのほかです。
出した金額が全て経費にならない、という大変痛い状態となってしまうのです。
但し、決算期末から4カ月以内に「いつ、幾らのボーナスを出す」ことを書いた「事前確定届出」を税務署に出し、その届出通りの支払日、支払金額のボーナスを出した場合に「限り」そのボーナス金額が経費になります。
如何でしたか?
以上の通り、役員さんのお給料については、一般の従業員と非常に大きな違いと注意点があります。
この他にもたくさんの論点がありますので、十分にご注意ください。

 

微小ながんも発見する「PET検査」

皆様、PET(ペット)検査という言葉を聞かれたことがあるでしょうか?
このPET検査、「Positron Emission Tomography」の略で、日本語に訳すと「陽電子(ポジトロン)放射(エミッション)断層撮影(トモグラフィ)」となります。
このPET検査は、特殊な手法で非常に小さく、まだ悪影響の少ない形で除去できる「がん」の発見に役立ちます。
私はこのPET検査を毎年受診しておりますので、検査の説明と関係する制度についてご説明したいと思います。

1.がん細胞の特性
がんは「悪性腫瘍」と呼ばれ、自分の体の細胞が変異して病理性のある腫瘍(できもの)になることを言います。このがん、最初は1ミリ程度の大きさ(発生期)なのですが、育成期には数年かけて1cm~数cmと育ち、その後は急激に増殖、転移などを引き起こします。
ただ、育成期においてもがん細胞は普通の細胞とはちょっと違った特性を持っています。
それは、毛細血管の生成です。
がんは自分が育つために栄養を必要としますので、自分の周囲に勝手に毛細血管を張り巡らして少しでも多くの血液を得ようとするのです。

2.PET検査
PET検査はこの特性を利用します。
毛細血管で集めた血液は、正常な細胞に比べて数倍のブドウ糖を取り込むことになります。
そこで、FDG(フルデオキシグルコース)と呼ばれるブドウ糖に近い成分を体内に送り込んでおくと、このFDGもがん細胞に多く集まります。
実はこのFDG、正確には18F-FDGといい、グルコース(単純な構造をした糖)の-OH(ヒドロキシ基)を18F(弱い放射性を持つフッ素原子)で置き換えてあるので、それ自体から陽子線を発するのです。
これを特殊な機器で撮影すると、がん細胞は正常な細胞より「光って見える」のです。

3.被ばくについて
放射性物質を体内に取り込むのでちょっと怖いのですが、実際の被ばく量は「CT検査程度」と言われています。検査を担当する病院の皆さんはやはりかなり気を付けておられますが、年1回程度の受診のみだとほとんど影響はないようです。
なお18F-FDGの半減期(放射性が半分になる時間)は約110分です。
原発事故で注目された放射性物質(下記)と比較すると非常に短くなっています。
・ヨウ素131…8日
・セシウム134…2年
・セシウム137…30年

4.検査の流れ
問診、準備
病院につくと検査着に着替え、問診を受けます。その際、身長や体重も測りますが、この体重は検査溶液(FDG)の量を決めるのに大事なデータとなります。
採血と溶液注入
次に採血室に移動し、少しだけ採血します。
この採血も、血糖値があまり高いと検査が難しくなるので、必ず行われます。
そして採血針を刺したままアタッチメントを切り替え、数分程度かけてFDGを体内に注入します。
安静室
その後FDGが体にいきわたるまで、安静室にて45分~1時間程度安静にします。
その際、原則として雑誌や新聞、スマホなど、凝視するようなものは使用禁止です。目に血液が集まってしまい、検査に不都合が出るからです。皆さん普段忙しい方々だと思いますので、一瞬世間から隔絶される休憩時間と思って休みましょう。
検査
CTやMRIといった機器に似た装置に横たわり、15分ほど撮影を受けます。
動くと画像がぶれてしまうため、体を動かさないようにしなければならずちょっと辛いかもしれません。
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<私が受診している中之島クリニックのPET装置>

排出と終了
弱いものとはいえ放射性物質を体内に入れていますので、完全になくなるまでは病院にいる必要があります。注射から2時間程度経過するまでもう一度隔離された安静室で待機、全てが尿として排出されるのを待ちます。
結果の通知
1~2週間したら、自宅に検査結果が届きます。
ここで小さなものが発見されても、慌てず専門の病院を受診、治療を検討しましょう。
検査結果にはこのような写真が入っています。
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上左から順番に体の断面を撮影しています。
この中で、様々な内蔵部分に「光る」部分があればそこが微小であってもがんの可能性がある、ということになります。
但し、脳や膀胱など、元々血液や尿の集まりやすい所は必ず光ってしまうため、別の検査を組み合わせる必要があるようです。

5.医療保険の適用
原則としてPETには医療保険の適用はありません。
安くても10万円程度かかる検査なので、支出としてはちょっと痛いかもしれませんね。
但し、がんが疑われるときなど、医師による指示があった場合には保険適用の対象となり自己負担だけで受診できます。
また、最近の健康保険は「人間ドック助成」のような制度を使い、PET検査についても補助する場合が多いようです。また会社によっては健康保険の補助を超える自己負担部分も会社が負担することがあります。この会社による負担については、従業員への給与(課税)とせず、福利厚生費など税務上の経費とすることが可能です(弊所も同様の制度を導入しています)。

6.生命保険(特約等)との関係
生命保険にはがん等に対応する特約がありますが、これらの中にはがんが発見された場合に一時金を支給したり、その後の保険料を無料にするものがあります。
PETによる発見は治療の容易な非常に初期のがんも発見可能であるにもかかわらず、これらの制度が使える場合が多くあります。

少し費用が掛かりますが、早期発見・治療や医療保険の対応などメリットも多いので、皆様ぜひ受診を検討なさって下さい。

 

仮病キャバクラ嬢への献身横領事件

私は公認会計士や税理士としての仕事に加え、公認不正検査士業務も行っています。

その業務で一番多く目にするのが「横領」です。
横領とは、他人から預かっているものを自分のものとして取ってしまうことですが、この横領、刑法に規定のある割と重い刑罰のある犯罪なのです。ただ件数は多いものの、背景や原因、動機などはバラエティに富んでいます。

今回は、その中でも大変奇妙なものの一つである「仮病キャバクラ嬢への献身横領事件」を事例として取り上げたいと思います。
週刊誌やTVなどでも取り上げられましたからご存知の方も多いかもしれませんが、不正検査士らしく「発見・防止」の為の対策案も最後に書いておきました。

1.逮捕
勤務先だった工業用ゴム資材の卸商社『シバタ』の資金を自分の口座に振り込ませ、だまし取ったとして、警視庁中央署は2012年4月11日、電子計算機使用詐欺の疑いで、栗田守紀(もりとし)容疑者(当時33)を逮捕しました。直接の容疑は、2009年4月から翌年の7月まで、同社のパソコンを操作し、55回にわたって自分の給与とは別に計2億3000万円を自分の口座に振り込んだというものです。

栗田容疑者は同社が2005年に開設したインターネット・バンキングの法人口座の責任者に命じられると、すぐに不正に手を染め、以来約200回、計約6億円を詐取したと見られています。

2.横領の目的
栗田容疑者は同社の元経理係長。横領した金額のうち総額5億円以上を、なんとお気に入りのキャバクラ嬢に貢いでいました。

当キャバクラ嬢は、2004年ごろから、東京都葛飾区のJR亀有駅付近の店にて働き始めました。栗田容疑者は彼女と次第に親密になり、栗田容疑者はアフターも含めると月に数回は一晩あたり4~5万円使っていたそうです

その後ほどなくして、彼女は栗田容疑者に『胃がんを患っていて入院費や手術費が必要だ』と金を振り込ませるようになります。当初は数万や数十万だったその要請はエスカレートし、様々な病気にかかったと理由を付けた上で、多いときは一度に1500万円という場合もあったそうです。

その間彼女は「無菌室に入っているから」などとメールで連絡を取るだけで栗田容疑者に一度も顔を見せることはなく、見舞いに行くなどと言われると「信じてもらえないなら死ぬ」などと拒否していました。しかし実の所は、栗田容疑者から振り込まれた金をブランド品の購入やホスト遊びなどにつぎ込んでいたそうです。

3.横領の手口、発覚
同社は工業用ゴムやプラスチック資材などを卸す商社です。当時全国に40カ所の拠点を持つ中堅の同族企業で、業界内においては「堅実な経営」で知られていました。

これに対し栗田容疑者の不正手口は稚拙なもので、銀行から発行される口座の入出金記録や残高証明を破棄、自ら虚偽の記録を作成していたそうです。

結局、2010年7月に税務署の調査が入り、その調査の過程で容疑者の不正が発覚しました。しかし時すでに遅しで、それまでに同社が余裕資金として持っていた数億の資金が失われたことになります。

4.裁判、判決
「インターネットバンキングを悪用し勤務先から約5億円をだまし取ったとして、電子計算機使用詐欺罪に問われた元会社員、栗田守紀被告(33)の判決公判が27日、東京地裁であり、山崎威裁判官は懲役7年(求刑懲役8年)を言い渡した。」(2012/9/27付日経新聞)

5.発見・防止手法
このようなケースは、金額の多寡、動機や背景は様々であっても、本質的な原因は結局皆同じです。共通しているのは、以下のような点です。

  • 経営者に信頼される、堅実で文句も言わず休みなく働く経理担当者
  • 人材に乏しく、担当者が十数年交代していない
  • 担当者以外にはITに堪能な者がいない
  • 老舗で、資金繰りに比較的余裕がある

このような横領を防ぐには担当者の交代(ローテーション)や強制的な休暇によって一時的に他人に業務をさせる手法が最適ですが、人材の限られる会社の場合にはどうしても躊躇してしまうと思います。
しかし、厳しいようですがそのような方法を採らず一人の担当者が長期間経理業務を行っている場合、少なくない確率で、というより確実に不正が発生しているとお考え頂いた方が良いと思います。
どうしてもそういった方法が取りにくい場合は、疑われず比較的低コストで行える対策がいくつかあります。上記に当てはまる環境があるようでしたら、是非ご検討下さい。

SalesforceさんのWEBイベントに登壇します

税理士法人耕夢の代表社員である私(塩尻明夫)が、来週14日、15日に開催されるSalesforceさんの中小企業・スタートアップ向けイベント「~歴史的な変革期 ネクストノーマル時代における中小事業の再生と成長~」にWEB登壇致します。
昨今のコロナ禍を考慮し、企画から打ち合わせ、収録、確認まで「全てオンラインで実施」するという画期的な内容になっています。

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私と職員代表の2名が事務所の特徴や仕事の進め方、そのための管理手法やIT活用の方法について具体的な画面も示しながら説明しています。

コロナ禍が問題になる前から、働き方のあるべき形や人材採用、業務品質と効率の両立などに問題意識を持って改革を進めてきましたが、正直もっと緩やかに世の中が変わっていくものと高をくくっていました。
それがこのコロナ禍で一気に加速どころか不連続な変化となり、「変わらない者は生き残れない」経営環境が姿を見せつつあります。
私たちも必死で適応しようと頑張っていますので、そのような考え方の片りんでも感じて頂き、今後の参考にして頂けると幸いです。

なお、講演は基調講演(メディアアーティストの落合陽一氏が登壇)の直後、一般公演のトップバッターという順番になっています。

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WEBイベントで気軽に見ることができますので、是非ご覧ください!

相続税の申告が必要になるのは?

ここ数年の税制改正で、「相続税を払う対象者が増える」ケース(基礎控除の引き下げ)や、「上手に制度を使えばオーナー会社の株式に係る相続税が免除される」方法(事業承継税制)など、様々な新しい論点が出てきました。
このため、これらの制度やその基礎となる「株価計算」、「土地評価」、また相続税額や贈与税といったお問合せが非常に多くなっています。
しかし、そんな場合にいつも課題となるのが、相続税が一体何なのか、という疑問です。
そこで今回は、基本に立ち戻って「ではそもそも相続税を払う(申告する)のはどんなケースなのか?」という論点に絞って記事を書いてみました。

1.相続
相続「税」の話をする前に、「相続」について説明しなければなりません。
相続とは、亡くなった人間の財産や負債、権利、義務の一切を他の人間が受け継ぐことを言います。この場合の「人間」は、当たり前ですが私たちのような自然人に限られ、会社などの法人は含まれません。

では、相続はどんなときに起こるのでしょうか。先ほど、「民法」が相続の基本的な事項を規定しているとお話しました。民法882条には、「相続がいつ起こるか」についてこんな規定があります。

「相続は、死亡によって開始する。」(民法882条)

これ以外にも、失踪宣告といって、行方不明者の生死が7年間明らかでないときなどの場合、家庭裁判所への申立てによって行う「失踪宣告」によっても相続は発生します。失踪宣告とは、生死不明の者に対して、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度です。また、日本国憲法が施行される前の旧民法においては、「家督相続」における「隠居」のように、死亡を原因としない場合もありました。

では、相続が起こるとどんなことになるのでしょうか。これについても、民法に規定があります。

(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

「一切の権利義務」とあります。つまり、財産だけが移転するわけではなく負債(義務)も移転するのです。もっと言うと、単なる資産や負債でも足りず、権利や義務全てを受け継ぐことになるのです。

「被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」とありますが、これは何でしょうか。これは「被相続人だから」存在した権利義務のことを言います。例えば、雇用契約や名誉職などがこれにあたります。こういう権利義務は、被相続人が生存しているからこそ有効になるものだからです。

2.相続税の申告
相続税の申告や納税が必要となる場合
相続税の申告や納税が必要となるのは、下記の財産の合計額が「基礎控除額(3000万円+600万円×相続人数)」を超える場合です。

  • 相続又は遺贈(相続人以外が受継)により取得した財産
  • 被相続人の死亡前3年以内に被相続人から贈与により取得した財産
  • 相続時精算課税(特別に定められた生前贈与制度)の適用を受けて贈与により取得した財産の額

なお、上記の財産額には、「小規模宅地の特例(居住している財産などについて大幅に減額してくれる制度)」などの特例を適用する前の計算を使います。

ですので上記の合計額が基礎控除額を超えない場合には納税も申告もいりませんが、超えている場合(申告は必要)でも様々な特例を利用して税額がゼロになる場合もあり得ます。

相続税の申告期限
相続税の申告は、「被相続人が死亡したことを『知った日』の翌日から10か月以内」に行います。
例えば、4月1日に死亡した場合には、翌年の2月1日が申告期限になります。
この期限が土、日、祝日などに当たる場合、他の制度と同様その翌日が期限となります。
また相続税の申告書は、原則として被相続人の死亡の時における住所を管轄する税務署に提出します。

3.相続税の計算
このような過程で対象となった方は、相続税の申告書を提出する必要があります。
この相続税の計算方法については「相続税の計算は意外と複雑」で詳しく説明していますので、こちらもぜひご覧ください。

また、財産や相続人数に応じてどれくらいの相続税がかかるか、また相続税を少しでも減らす方法として最も簡単な「生前贈与」を利用する場合の最適金額の計算ができるシミュレーションはこちら解説記事はこちら)をご利用下さい。

 

第 11 回 ACFE JAPAN カンファレンスのお知らせ

一般社団法人 日本公認不正検査士協会(ACFEジャパン)は、「第11回 ACFE JAPANカンファレンス」を10月9日に開催します。
今年は新型コロナ感染症対策として全面的にオンラインでの開催となり、後日録画内容の配信も行われる予定です。

公認不正検査士(CFE)は、公認会計士でFBIの財務捜査官だったジョセフ・T・ウェルズが1988年に創設した資格です。
この公認不正検査士たちの団体が公認不正検査士協会(ACFE)で、米国を中心に世界180か国、85000人を超える会員が所属し、資格認定試験を経て不正調査や防止などの専門家として活躍しています。

このような職業的専門家資格においては、高度な専門的能力を維持・発展させるために継続的な教育体制が欠かせません。
実際、私たち公認不正検査士は、年間20時間(内倫理を2時間)の研修履行義務が貸されており、これを満たさなければ資格の更新ができないことになっています。

研修の方法は一般的に座学のセミナーですが、時々「カンファレンス」と呼ばれる大きなイベントが開催される場合もあります。
例えば、米国のACFE本部は毎年「グローバルカンファレンス」という全世界の会員を対象にしたカンファレンスを開催しており、ここには数千人の会員が集結します。

以前私がグローバルカンファレンスに参加した際の報告記事がこちら

さて少し規模は小さいですが、同様にACFEジャパンが毎年行っているのが「ACFEジャパンカンファレンス」です。このカンファレンスは、通常大きな会場に会員を集め、8時間~10時間程度の研修を受けるという形式を採っているのですが、今回は新型コロナ感染症対策を考慮し、全面的にオンライン開催を行うこととなりました。

ACFEカンファレンス

毎年、その時々に合ったカンファレンスのテーマが掲げられますが、今年は「Light the way ~ New Normal時代の企業が取り組むべきリスク対策 ~」となっています。

中身としては、New Normal時代新たに認識すべき概念や、DX(デジタルトランスフォーメーション)による新たなリスクについて、内容の濃い講演やパネルディスカッションが行われる予定です。また、昨年大きな話題となった関西電力金品受領問題や、形骸化・悪用が指摘されている第三者委員会の問題点などについても取り上げます。

このカンファレンスは会員以外でも参加することが可能です。
公認会計士や弁護士といった職業だけではなく、企業の内部監査担当者などにも非常に有益なものとなっています。

会場開催の場合はいつも満席となりなかなか多くの方に出席頂くことができない場合もあるのですが、今回はバーチャル開催なので制約は基本的にありません。
是非ご視聴頂き、できればCFE資格の取得をご検討下さい!

カンファレンスの特設ページはこちらとなっております。

税理士は仕事の全てを記録すべし?

私たち税理士は、法人税法、所得税法、相続税法、民法や会社法といった会計・税務に関係する法律に従って仕事をしなければなりません。でないとお客様に迷惑をかけるばかりか、自身にも重いペナルティを受ける場合があります。

これに加えて、我々税理士が活動する際従わなければならないのが「税理士法」です。
税理士法には、税理士の使命や義務、試験の内容や税理士名簿、税理士法人など税理士制度に必要な内容が全て書かれています。

今回はその規定の中で、あまり知られていない「帳簿作成の義務(41条)」についてご説明したいと思います。

1.帳簿作成の義務?
元々税理士は帳簿を作る仕事じゃないか!と思った方のセンスは正しいと思います。
税理士法第41条第1項には、下記のような記載があります。

(帳簿作成の義務)
税理士は、税理士業務に関して帳簿を作成し、委嘱者別に、かつ、1件ごとに、税務代理、税務書類の作成又は税務相談の内容及びそのてん末を記載しなければならない。

つまりお客様(法律上は委嘱者と呼ばれます)の会計帳簿ではなく、税理士がその行った業務の内容を詳細に記録しておく帳簿、のことなのです。正直、この名前変えた方が良いと思います。

この帳簿について、日本税理士会連合会が出している標準様式は下記のようなものです。

税理士業務処理簿

このような表に、お客様ごとに行った申告書を作成、提出したり、税務相談を受けたりといった業務内容について、毎日記録します。この記録は法定の「義務」であり、この義務を怠った場合、財務大臣による懲戒処分の対象となる可能性があります。
実際、税理士に対して行われた財務大臣による懲戒処分(ネットで公開されています)で、この「41条違反」は今かなり多くなってます。

処分例

このような懲戒処分が多い理由は、税理士法41条の「帳簿」を作成するには余分な手間がかかり、どうしても省略しがちになってしまうからではないかと思います。

2.弊所の対応
弊所は、税理士法人耕夢の前身である塩尻公認会計士事務所の時代からこの課題には積極的に取り組んでおり、独自に開発した「耕夢システム」において業務チェックリストやスケジュール・日報管理、お客様とのコミュニケーションを処理すると、自動的に税理士法41条の要件を満たした情報が記録されるようになっています。

耕夢システムがクラウド型であること、また独自の様式で記録していることから、税理士法が定める保存方法(電磁的でもよいが、クラウドを明言していないため事務所内の保存を前提にしている)や様式を完全に満たしているかどうかは正式な回答を得ておりませんが、事務所自体が受けた過去2回の税務調査においては、口頭ながら要件を満たしている旨のご意見を頂いています。

この業務処理簿は、手間をかかることを除けば事務所業務の品質管理や、お客様の利益保護にもつながる、税理士業界にとっても非常に重要な制度となっています。皆さんがITツールを活用して、できるだけ効率的に実現して頂くように願う所です。

以上

報酬の決め方について

私達がご提供する会計・税務業務は、控えめに言ってもかなり複雑です。正直に言えば、こんな複雑な制度ではなく簡単にし、私達税理士なんて要らない仕組みにした方がいいんじゃないかとすら思います。
このように業務が複雑なため、税理士がその業務を行う場合の「報酬」についても、どのように決まっているのかは、実はあまり良く知られていないようです。
この記事においては、税理士業界の実態と、私どもの事務所がどのような報酬規定を定めているかについてご説明します。

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1.日税連の調査結果
日本税理士会連合会(日税連)は平成26年、第6回目となる「税理士実態調査」を実施し、報告書を公表しました。この調査は昭和43年以降大凡10年毎に実施されているもので、税理士業界の現状を把握するうえで重要なデータとして認識されています。

その中で私が少しばかり驚いたのは、「報酬規定」の項目です。

報酬規定とは、平たく言えば税理士の「サービス価格表」であり、ある業務を行う場合にはどれだけのお支払いをお願いするか、ということが示されたものです。以前は、税理士会によって「最高額」を定めたものがありました(税理士報酬規定)が、この定めは平成14年3月をもって廃止されており、その後はそれぞれの税理士が独自に報酬規定を定める事となっています。

ところが、この調査においては、報酬規程を「設けていない」税理士事務所(個人)は回答者25,970人中16,703人64.3%)であり、「設けている」事務所は8,391人(32.3%)となっていました。税理士会の報酬規定が廃止された直後に行われた前回(第5回、平成16年)の調査においては「設けていない」が68.4%でしたので、ほとんど状況が変化していないと言えます。

税理士業務は複雑多岐にわたり、一般の依頼者にとっては分かりにくいことも多くあります。このため、本来は消費者保護の観点から、事務所独自の報酬規定を作成し、積算根拠の説明も含め、依頼者の皆様に提示できるようにしておくことが必要と考えています。

2.私どもの報酬規定について
私どもは、平成14年の税理士会報酬規定廃止以前から事務所独自の報酬規定を定め、定期的に見直しを行いながら運用しております。また、お客様からサービス提供のご依頼があった場合、明確な積算根拠に基づく見積書とともに報酬規定を明示し、ご理解を得るようにしております。具体的には、下記の通り計算されます。

法人、個人の決算、確定申告業務
下記の要素に基づく合計額によって、報酬年額を計算、原則として1/16を毎月、1/4を決算終了後ご請求することにしています(全て税抜金額)。

  • 定額報酬 5万円
  • 年間取引高(売上高など)に一定率を乗じた「リスクチャージ」
  • 業務内容から見込まれる業務時間と、担当する職員等のレベルに応じた「タイムチャージ」

相続、分離課税譲渡所得(土地建物等の譲渡所得)

  • 上の確定申告業務と同じ考え方ですが、少しリスクチャージ率が高く設定されています
  • また、相続については以前からお付き合いのある方か、内容の難易度の高低などによって、基本報酬に対する増減率が定められています。

公認会計士、公認不正検査士、その他コンサルタント業務

  • タイムチャージが税理士業務より少し高くなります
  • 想定される取引金額に一定率を乗じる「リスクチャージ」方式と、契約時に合意した成功報酬(差額利益相当金額に一定率を乗じた金額)から選択します
  • 成功報酬には、難易度が高く金額の大きい助成金の申請サポートも含みます

3.オプションについて
基本料金を出来るだけ下げて「格安報酬」を唄い、実際のところは付随業務をオプション扱いとしている事務所も時々見かけることがあります。
報酬規定の決め方はそれぞれですので、説明さえきちんと行っていれば良いと思いますが、実際に業務を行ってみるとオプション部分が必要で結局割高になってしまう場合もあり得ます。

私どもの規定はいわゆる「フルサービス」となっており、オプションの選択はありません。「この業務については自社で対応可能である」という場合は、タイムチャージが変動しますのでその部分で調整することになっております。

最近はいわゆる「格安」と言われる事務所も影を潜めてきたようですが(収支が持たないので当たり前ですが)、これに代わってクラウド会計などを駆使し、徹底的に効率を高めた新しいタイプの事務所も多くなってきました。コロナ禍やコロナ後、このようなスタイルは大きく成果を上げるのではないかと思います。今後、価格はもちろんサービスの質や内容が今まで以上に重視されることになると思います。

以上