税理士は仕事の全てを記録すべし?

私たち税理士は、法人税法、所得税法、相続税法、民法や会社法といった会計・税務に関係する法律に従って仕事をしなければなりません。でないとお客様に迷惑をかけるばかりか、自身にも重いペナルティを受ける場合があります。

これに加えて、我々税理士が活動する際従わなければならないのが「税理士法」です。
税理士法には、税理士の使命や義務、試験の内容や税理士名簿、税理士法人など税理士制度に必要な内容が全て書かれています。

今回はその規定の中で、あまり知られていない「帳簿作成の義務(41条)」についてご説明したいと思います。

1.帳簿作成の義務?
元々税理士は帳簿を作る仕事じゃないか!と思った方のセンスは正しいと思います。
税理士法第41条第1項には、下記のような記載があります。

(帳簿作成の義務)
税理士は、税理士業務に関して帳簿を作成し、委嘱者別に、かつ、1件ごとに、税務代理、税務書類の作成又は税務相談の内容及びそのてん末を記載しなければならない。

つまりお客様(法律上は委嘱者と呼ばれます)の会計帳簿ではなく、税理士がその行った業務の内容を詳細に記録しておく帳簿、のことなのです。正直、この名前変えた方が良いと思います。

この帳簿について、日本税理士会連合会が出している標準様式は下記のようなものです。

税理士業務処理簿

このような表に、お客様ごとに行った申告書を作成、提出したり、税務相談を受けたりといった業務内容について、毎日記録します。この記録は法定の「義務」であり、この義務を怠った場合、財務大臣による懲戒処分の対象となる可能性があります。
実際、税理士に対して行われた財務大臣による懲戒処分(ネットで公開されています)で、この「41条違反」は今かなり多くなってます。

処分例

このような懲戒処分が多い理由は、税理士法41条の「帳簿」を作成するには余分な手間がかかり、どうしても省略しがちになってしまうからではないかと思います。

2.弊所の対応
弊所は、税理士法人耕夢の前身である塩尻公認会計士事務所の時代からこの課題には積極的に取り組んでおり、独自に開発した「耕夢システム」において業務チェックリストやスケジュール・日報管理、お客様とのコミュニケーションを処理すると、自動的に税理士法41条の要件を満たした情報が記録されるようになっています。

耕夢システムがクラウド型であること、また独自の様式で記録していることから、税理士法が定める保存方法(電磁的でもよいが、クラウドを明言していないため事務所内の保存を前提にしている)や様式を完全に満たしているかどうかは正式な回答を得ておりませんが、事務所自体が受けた過去2回の税務調査においては、口頭ながら要件を満たしている旨のご意見を頂いています。

この業務処理簿は、手間をかかることを除けば事務所業務の品質管理や、お客様の利益保護にもつながる、税理士業界にとっても非常に重要な制度となっています。皆さんがITツールを活用して、できるだけ効率的に実現して頂くように願う所です。

以上

報酬の決め方について

私達がご提供する会計・税務業務は、控えめに言ってもかなり複雑です。正直に言えば、こんな複雑な制度ではなく簡単にし、私達税理士なんて要らない仕組みにした方がいいんじゃないかとすら思います。
このように業務が複雑なため、税理士がその業務を行う場合の「報酬」についても、どのように決まっているのかは、実はあまり良く知られていないようです。
この記事においては、税理士業界の実態と、私どもの事務所がどのような報酬規定を定めているかについてご説明します。

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1.日税連の調査結果
日本税理士会連合会(日税連)は平成26年、第6回目となる「税理士実態調査」を実施し、報告書を公表しました。この調査は昭和43年以降大凡10年毎に実施されているもので、税理士業界の現状を把握するうえで重要なデータとして認識されています。

その中で私が少しばかり驚いたのは、「報酬規定」の項目です。

報酬規定とは、平たく言えば税理士の「サービス価格表」であり、ある業務を行う場合にはどれだけのお支払いをお願いするか、ということが示されたものです。以前は、税理士会によって「最高額」を定めたものがありました(税理士報酬規定)が、この定めは平成14年3月をもって廃止されており、その後はそれぞれの税理士が独自に報酬規定を定める事となっています。

ところが、この調査においては、報酬規程を「設けていない」税理士事務所(個人)は回答者25,970人中16,703人64.3%)であり、「設けている」事務所は8,391人(32.3%)となっていました。税理士会の報酬規定が廃止された直後に行われた前回(第5回、平成16年)の調査においては「設けていない」が68.4%でしたので、ほとんど状況が変化していないと言えます。

税理士業務は複雑多岐にわたり、一般の依頼者にとっては分かりにくいことも多くあります。このため、本来は消費者保護の観点から、事務所独自の報酬規定を作成し、積算根拠の説明も含め、依頼者の皆様に提示できるようにしておくことが必要と考えています。

2.私どもの報酬規定について
私どもは、平成14年の税理士会報酬規定廃止以前から事務所独自の報酬規定を定め、定期的に見直しを行いながら運用しております。また、お客様からサービス提供のご依頼があった場合、明確な積算根拠に基づく見積書とともに報酬規定を明示し、ご理解を得るようにしております。具体的には、下記の通り計算されます。

法人、個人の決算、確定申告業務
下記の要素に基づく合計額によって、報酬年額を計算、原則として1/16を毎月、1/4を決算終了後ご請求することにしています(全て税抜金額)。

  • 定額報酬 5万円
  • 年間取引高(売上高など)に一定率を乗じた「リスクチャージ」
  • 業務内容から見込まれる業務時間と、担当する職員等のレベルに応じた「タイムチャージ」

相続、分離課税譲渡所得(土地建物等の譲渡所得)

  • 上の確定申告業務と同じ考え方ですが、少しリスクチャージ率が高く設定されています
  • また、相続については以前からお付き合いのある方か、内容の難易度の高低などによって、基本報酬に対する増減率が定められています。

公認会計士、公認不正検査士、その他コンサルタント業務

  • タイムチャージが税理士業務より少し高くなります
  • 想定される取引金額に一定率を乗じる「リスクチャージ」方式と、契約時に合意した成功報酬(差額利益相当金額に一定率を乗じた金額)から選択します
  • 成功報酬には、難易度が高く金額の大きい助成金の申請サポートも含みます

3.オプションについて
基本料金を出来るだけ下げて「格安報酬」を唄い、実際のところは付随業務をオプション扱いとしている事務所も時々見かけることがあります。
報酬規定の決め方はそれぞれですので、説明さえきちんと行っていれば良いと思いますが、実際に業務を行ってみるとオプション部分が必要で結局割高になってしまう場合もあり得ます。

私どもの規定はいわゆる「フルサービス」となっており、オプションの選択はありません。「この業務については自社で対応可能である」という場合は、タイムチャージが変動しますのでその部分で調整することになっております。

最近はいわゆる「格安」と言われる事務所も影を潜めてきたようですが(収支が持たないので当たり前ですが)、これに代わってクラウド会計などを駆使し、徹底的に効率を高めた新しいタイプの事務所も多くなってきました。コロナ禍やコロナ後、このようなスタイルは大きく成果を上げるのではないかと思います。今後、価格はもちろんサービスの質や内容が今まで以上に重視されることになると思います。

以上

 

「にせ税理士」について

1.税理士の使命とは
税理士法第1条には、税理士の使命として「税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ること」が掲げられています。
この使命に基づき、我々税理士は確定申告など、様々な税に関する手続や相談に応える仕事を行っています。
税に関するこれらの仕事は、一般的に難易度が高く、また大きな金銭的利害の関係するものが多いため、税理士法はこのような仕事が行える者を、国家試験や実務経験を経て、税理士や税理士法人などとして公に登録された者に限定しています(税理士法第52条)。この法律に反して税理士等以外の者が税理士業務を行うと、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金が科されることになります(税理士法59条)。これには、報酬を受け取っているか否かは関係がありません。

2.にせ税理士とは
このような法律に違反してにせ税理士行為が行われるのは、税理士業務が税理士の独占業務であり、儲かると思われているからかもしれません。また、税金に関する手続きは押しなべて難しく、気軽に頼める税理士に出会えなければ、よく知っている者に頼んでしまうこともあるかもしれません。
しかし、税理士は前述の通り国家試験や実務経験を経た者だけが登録できますし、守秘義務や脱税相談の禁止など、様々な果たすべき義務があります。また最近は、「最低年間36時間の研修」が義務付けられ、自己研鑽も行っています。このような条件を満たしていない者に税理士業務を依頼した場合、場合によっては誤った手続きで不測の損害を受ける、税務署から厳しい処分が課されるといったトラブルを被ることになりかねません。またそういうトラブルの際には、あっさりと逃げてしまうケースもあります。
では、にせ税理士にはどんなタイプがあるでしょうか。大きく分けると下記のような区分があると言われています。

①無資格税理士
税理士としての資格を持たない者が、税理士であると嘘をついて税理士の仕事をする場合がこれに当たります。
税理士事務所に勤務していた(または現在も勤務している)経験者が、個人として行っている場合が多く、「○○先生」と呼ばれてあたかも税理士のようにふるまい、帳簿の記帳、申告書作成や税務相談に対応します。
しかし税理士ではありませんので、後述の通り税務調査に立ち会うことはできません(税務署はにせ税理士を摘発することも重要な仕事としていますので、怪しいとわかればすぐに見つかってしまいます)。

②名義借り・名義貸し
上の無資格者や税理士でない者が作った一般の会社(「○○記帳代行サービス株式会社」など)が依頼者から税理士業務を引き受け、自分たちができない税理士業務の部分を税理士が行っているように見せかけるため、実在する税理士や税理士法人の「名義を借りる」ことを言います。
この方法は、申告書に税理士や税理士法人の記名や捺印があるので一見問題がなさそうなのですが、税理士法はこのような「捺印だけ税理士が行う」行為もにせ税理士行為と同じとして禁止しています。
法人税の申告書を作成する場合、その申告書だけではなく作成の元になった帳簿や、さらにその元になった資料、会社の状況などを税理士は十分に知っていなければならないのです。このため、名義だけを貸し、税理士の捺印だけを行うような行為は税理士が十分に責任を果たしていることになりません。

3.にせ税理士を見抜くには
私たちが実際に出会った事例でも、全て依頼者は「ちょっとおかしいかな?」程度の疑問しか持たずに仕事を依頼し続けていました。私たち税理士にはほとんどがすぐわかることですが、慣れていない一般の方々にとっては難しいようです。
では、税理士でない一般の依頼者が、このようなにせ税理士と正規の税理士を区別するにはどうすればよいでしょうか?
以下、にせ税理士を見抜く「特徴」と、「方法」をご説明します。
もし運悪く依頼されている「税理士と思っていた人」がそうでなかった場合や、ご友人の依頼されている者がにせ税理士だった場合、最寄りの税務署や税理士会などにお問い合わせ頂ければ適切に対応してもらえると思います。

①にせ税理士の特徴

  • 安すぎる報酬
    自己研鑽や投資もせず闇で仕事しているため、コストが低い。また、税理士のような特別な能力がないので価格勝負するしかない
  • 経営相談や税金対策の相談になかなか乗ってもらえない
    帳簿作成や基本的な申告書作成など限られた能力しかなく、自己研鑽していないので税務対策、経営相談など高度な話が分からない
  • 税務調査に立ち会ってもらえない
    前述の通り、税務調査に立ち会うと、調査官に会ってばれてしまいます
  • 申告書に署名捺印や電子署名をしたがらない
    同じく署名すると「存在しない税理士」なのでばれてしまいます
  • 捺印(電子署名)している税理士と、頼んでいる「税理士」が違う
    頼んでいる「税理士」が、捺印や署名している税理士から名義を借りています
  • 顧問料の振込先が「○○税理士事務所」や「○○税理士法人」ではなく「株式会社○○」や「○○コンサルティング」など税理士のつかない名前となっている
    偽税理士が報酬を取っている、又は捺印だけの税理士から名義を借りている
  • 税務署との交渉を嫌がり、すぐに「こんなものですよ」と逃げる
    税務署と交渉しようにもにせ税理士なので、相対したとたんにばれてしまう。または能力がなく、高度な交渉ができない
  • 顧問契約書(業務委託契約書)がない
    税理士でないものが税務業務に関する契約書を作成した時点で無効な契約書になります

②税理士かどうか調べるには
上記の特徴にいくつか当てはまり、「おかしいな」と思ったら下記を試しましょう。

  • 日本税理士会連合会の「税理士情報検索サイト」
    こちらにフルネームを入れて検索すると、その人が税理士として登録されているかどうかがわかります。
  • 税理士証票を提示させる(写真付きですぐわかる)
    上記のサイトでも見つからず、いよいよにせ税理士である可能性が高くなったら、本人に「税理士標章を見せる」ように求めましょう。この税理士標章は、氏名や生年月日、登録番号、所属事務所など税理士としての基本情報が写真とともに記されており、税理士は仕事の際携帯することが義務付けられています。所長塩尻の税理士証票は下記の通りです。
    IMG_4855

 以上

これが贈与の全てだ! ~ プロが教える贈与のポイント

平成27年に相続税の増税があったため、最近は相続税を減らす対策としての「贈与(ぞうよ)」が大きな注目を浴びています。
でもこの贈与、実は意外と複雑で、気を付けないといけないポイントも多いのです。
今回はそんな贈与について、できるだけ分かりやすく解説し、よく言われる贈与税に関するうわさの真実、また上手な活用のヒントについて書いてみたいと思います。

1.はじめに
平成27年に、大変大きな「相続税の増税」がありました。
これは、法律の改正により「今まで相続税がかからなかった」多くの人にも相続税がかかるようになったことによるものです。
そのこともあって、相続税を減らす対策としての「贈与(ぞうよ)」が大きな注目を浴びています。
でもこの贈与、実は意外と複雑で、気を付けないといけないポイントも多いのです。
今回はそんな贈与について、できるだけ分かりやすく解説し、上手な活用のヒントについて書いてみたいと思います。

2.贈与・贈与税とは?
贈与という言葉を見ると、単に「人に自分のものを与える」だけのように感じます。
ですが、法律上の意味はちょっと違います。
「人に自分のものを与える」のはその通りなのですが、「与える相手に『与える』ことを伝えて」、「相手がそれに応じる」という条件がないと成立しないのです。ややこしいですね。
この点、法律を勉強している人なら「民法549条」や「片務契約(へんむけいやく)」「諾成契約(だくせいけいやく)」「無償契約」などという言葉をご存知と思いますが、このコラムにおいては不要なので省略します。
なお、贈与や贈与税といった言葉はありますが、贈与について規定した「贈与法」やその税金に関する「贈与税法」という法律はありません。それぞれ「民法」や「相続税法」に規程が設けられています。

3.相続・相続税との関係
持ち戻し
相続人となる子供が複数いた場合、一人の相続人だけが親からたくさんの財産を生前にもらっていた場合、他の相続人にとっては不利になります。このような生前に受けた贈与は、民法上「特別受益」と言われており、相続の際には公平を期すよう考慮することとされています。これを「持ち戻し」と呼びます。

贈与税率
相続税を回避するためにたくさんの財産を贈与すると、相続税を課税する意味がなくなってしまいます。このため、同じ財産を対象にした場合、相続税に比べて贈与税は非常に高くなるように税率が定められています。

3年内贈与
法律上、いつの贈与であっても贈与は贈与です。しかし、相続税を計算する場合には、相続発生前3年間の贈与については、相続財産に含めて計算します。ただ、もしその贈与で申告し、贈与税を支払っている場合には、その贈与税は計算された相続税から差し引くことができます。

4.贈与の種類
暦年贈与
暦年(れきねん)とは普通、1月から12月までの1年間のことを言います。
この暦年贈与は、特別な制度を使わない「普通の贈与」として取り扱われます。
暦年贈与の場合、もらう人単位で「1年間110万円」までは税金がかからないことになっています。この金額を「基礎控除」といいます。
この基礎控除を超えた部分には贈与税がかかりますので、贈与があった翌年の2月1日から3月15日までに贈与税を申告、納税する必要があります。また前述の通り贈与税は相続税に比べてかなり高く、贈与された金額が高くなればなるほど税率も高くなります。

相続時精算課税贈与
この制度を使い、例えば60歳以上の父母又は祖父母から20歳以上の子又は孫に対して財産を贈与した場合、申告と利用の届出をすることで、なんと2500万円までは税金がかからないことになるのです。また、2500万円を超える場合でも、超えた部分には20%の税金しかかかりません。
ここまでだけ見ると、税額が高くて、金額が上がると税率も上がる暦年贈与と比べて非常に得なように見えますが、実はそうではありません。
相続時精算課税贈与の対象となった贈与財産は、贈与した人が亡くなった際にはその相続財産に「贈与した時の時価」で「加えられてしまう」のです。そして、もし先に払った贈与税があれば、相続税から差し引くこととされています。つまり相続時精算課税贈与とは、文字通り「相続の際に『精算』する」ことを前提にした贈与なのです。

事業承継、農地の贈与(課税繰り延べ)
我が国の企業のほとんどを占める中小企業は、上場会社のように大きくはなくとも、地域の経済や雇用にとって非常に重要な存在です。しかし、多くの中小企業は経営者の高齢化と後継者難に直面しています。また、農業従事者も減少を続けており、こちらも後継者難は非常に大きな問題となっています。
ところが、通常中小企業の株式は「相続財産」とされ多額の相続税がかかりますし、農地も土地として相続税の課税対象となります。引き継ぐためには多額の相続税がかかることとなっては、ただでさえ後継者難に悩む企業経営や農業にとって追い打ちとなってしまいます。
このような問題に対応するため、事業承継、農地それぞれに関して「贈与税の特例」が設けられています。
この特例制度自体は非常に複雑なのですが、ざっくりと言うと企業経営者や農業従事者が後継者となる者にその株式や農地を贈与した場合、贈与した際の贈与税(株式や農地に対応する部分に限ります)を「猶予」し、贈与した人が亡くなった後後継者が企業や農業を引き継いだ場合には、一定の条件の元「猶予された贈与税や相続税が免除」されます。
このことにより、中小企業や農業の後継者にとっては相続税の負担が軽減されるのですが、従業員を大きく減らしたり、農地を売ってしまったりした場合には、猶予された贈与税に利息を付けて払わなければならないという大きなリスクもあります。

住宅資金贈与
父母や祖父母から住宅を購入するために資金の贈与を受け、贈与を受けた年の翌年3月15日までにその資金で自分が住むための住宅を購入したり、増改築をした場合、その贈与した資金には一定額まで贈与税がかかりません。
この制度は現在段階的に縮小されており、令和3年末まで下記のような非課税枠となっています(国税庁ページより)。

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なお対象となる住宅の種類(省エネ住宅かどうか)や、購入する時期、その時の消費税率などによって非課税金額が異なります。また、贈与を受ける者がその年の1月1日時点で20歳以上であることや、贈与のあった年の所得が2000万円以下であることなどの制約があるので注意が必要です。

教育資金贈与
この教育資金贈与は、次の結婚・子育て資金贈与とともに、親、祖父母世代から次の世代へ資産を移転し、教育機会の充実や人材育成、少子化対策等へ良い影響を与えることを期待して設けられた制度です。
まず、祖父母(贈与者)は、取扱金融機関(銀行、信託銀行など)に子・孫(受贈者)名義の口座等を開設し、教育資金を一括して預けます。この預け資金については、子・孫ごとに1500万円を非課税とします。
次に、預けられた資金が教育資金に使われているかどうかを取扱金融機関が領収書等によってチェックし、書類を保管しておきます。
そしてこの口座は、子や孫等が30歳に達する日に終了し、その時点で残額や目的外使用があればそれらの金額に贈与税がかかることになります。
この制度は、平成25年4月1日から令和3年3月31日までの期間となっています。

結婚・子育て資金贈与
この贈与についても、教育資金贈与と同様、祖父母や両親(贈与者)が、子・孫(受贈者)名義の金融機関の口座等に、結婚・子育て資金を一括して預けます。ただ、対象となる子・孫が20歳以上50歳未満であること、また非課税の金額は子・孫ごとに1000万円(結婚関係は300万円が限度)となる点が異なります。
また、領収書等のチェック、保管についても教育資金と同様金融機関が行います。
最後に、口座は子や孫が50歳に達する日に終了し、終了時に使い残しがあれば、贈与税が課税されます。
また終了前に贈与者が死亡した時、使い残しがあれば、贈与者の相続財産に加算します。
この制度も期間が限定されており、平成27年4月1日から令和3年3月31日までの4年間となっています。

「どこにも規定のない」贈与
教育資金や結婚・子育て資金については上に書いたように特別の制度が出来ましたが、実は従来からこのような贈与の大半は元々非課税であったと言われています。
また、同居する親族への生活費補助についても、課税される贈与としては従来から取り扱われていません。
これらを考えると、面倒な手続きの必要な上の制度ではなく従来通りの取り扱いをしてはどうか、という意見もあるのですが、従来通りの取り扱いについては、それが本当に課税されない贈与なのか、課税されるべき贈与なのかをが(税務署から見て)はっきりしない場合には多額の課税がされてしまう場合もあり得ます。
そのような場合には信頼できる税理士に相談して、リスクの少ない方法を選ぶようにしましょう。

5.贈与の「ウソ・ホント」
贈与税はめちゃくちゃ高い?
確かに同じ資産の額であったとすれば、贈与税率は相続税率より非常に高くなっています。だからと言って、基礎控除(110万円)を超えて贈与し、贈与税を払うのが必ず損かというとそうでもありません。
例えば、全体の財産から見て相続税の実効税率(予想される相続税額を相続財産の総額で割り返したもの)が20%の税率で課税される可能性の高い方があるとします。その方が300万円の贈与をした場合、贈与税は下記の通りとなります。

(300-110)×10%(贈与税率)=19万円(300万円の6.3%)

つまり、放っておけば財産に20%の相続税がかかるところ、上記の贈与を行えば6.3%の贈与税で済む訳です。
贈与を利用した相続対策を行うためには、このような点に注意しておくと効果的です。詳しくは「3代で財産がなくなる」相続税と効果的な対策(シミュレーション)をご覧ください。

暦年贈与はちょっと税金を出して申告しておくと安全?
申告書を提出した、という行為は認められますが、だからと言って税務署が申告書の内容を保証してくれる訳ではありません。ですので、申告をすること自体が贈与や贈与税の計算そのものを立証する証拠にはならないのです。

毎年110万円を10年贈与したら1100万円に一括で税金がかかる?
これは一番といっていいほどよく頂く質問です。
論拠としては、「毎年110万円を10年間贈与することを約束したのだから、1100万円の贈与と同じだ」と指摘されないか、という点に集約されると思います。
この考え方も理論的にはあり得ない訳ではないのですが、そのことが明らかに書かれた契約書でもなければ税務署側も「10年間の贈与契約に合意した」と断言はできないと思います。
ですので、明らかに毎年贈与することを約束していない限りは、このようにまとめて課税される心配はないと思って良いと思います。

保険料の贈与は安全?
補償額やリターン(返戻)の大きな保険契約を子が結び、親がその保険料を子に贈与する、という贈与手法が最近良く使われています。この保険料を毎年110万円未満にしておけば贈与税がかからない、と言われている方法です。
この方法は確かに良いアイデアなのですが、ちょっと注意が必要です。
まだ収入の発生する見込みがない方がそんな保険契約を結んだら、少なくとも数年間は保険料の贈与を受けないといけないですよね。
とすると、③の懸念と同じで「数年間の贈与契約に合意した」と言えるかもしれないのです。
このような説明がなく、単に「贈与税はかかりませんよ」とだけ言うような保険担当さんには、頼まない方が良さそうです。

6.まとめ
以上、贈与について出来るだけ簡単にまとめてみました。
この贈与、他の制度や金融商品と組み合わせることで、とても効果的な相続税対策を組み立てることも可能です。ただ、程度の大小はありますがどの方法も注意点やリスクがあります。
また、ここには書けない、いわゆる「グレーゾーン(違法ではないが、状況や見方によっては納税者と税務署で見解が異なる状態)」と呼ばれる方法もたくさんあります。
大変使いでのある贈与ですが、検討される場合は必ず税理士などの専門家にきちんと相談されることをお勧めします。

以上

令和元年度 査察の概要

30年以上前の映画「マルサの女」で一躍有名になった「査察」。
この制度は、受忍義務はありながら事実上任意である「税務調査」とは違って、悪質な脱税者を強制的に取り調べ、脱税について刑事責任を追及する強力な手続です。
この「査察」について、昨年令和元年度の実績が国税庁から発表されました。

1.税務調査と査察
法人税、所得税、相続税など主要な税法は「申告」による課税制度を採っています。つまり納税者が自分で申告書を作成し、これに基づいて納税することになります。
この場合、納税者全員が正しい知識と納税意識に基づいて申告・納税をするなら良いのですが、間違いや不正などの可能性は否定できません。このため、何らかの形で申告された内容が正しいかどうかを確認する制度が必要となります。
この目的を達するために存在するのが税務調査という制度で、一般的には納税者の同意を得て行う、いわゆる任意調査が実施されます。

しかし不正等により故意に脱税をする者には、税額を正すだけではなく刑事責任を追及するため、犯罪捜査に準ずる方法で調査する場合があります。これが査察(ささつ)調査です。
この査察調査の結果いかんによっては、検察官に告発し、公訴されることがあります。
通常の税務調査がそれぞれの税目に応じた法律に基づいているのに対し、査察調査は「国税犯則取締法」という特別な法律に基づいて行われます。

2.令和元年度の概要
国税庁は、毎年この査察を行った実績や事例を公表しています。
これは、活動実績を納税者に報告すると同時に、犯罪行為となる脱税についてどのように発見し、刑罰を与えたかという事例を紹介することで、適正・公平な課税の実現と申告納税制度の維持に資することを目的としています。
公表された内容のあらましは以下の通りです。

  • 全国で116件(平成30年度は121件)を告発、発見された脱税総額は93億円(同112億円)
  • 消費税還付事案11件
  • 国際事案25件、海外に不正資金を隠した所得税ほ脱事案で、国外財産調書(国外財産が5000万円を超える場合に提出義務のある調書)の不提出犯を初適用
  • 無申告事案は、過去5年間で最も多い 27 件を告発。
  • (なぜか)相続税の脱税額がほぼゼロ
  • 告発の多かった業種上位3業種は建設業、不動産業、人材派遣でここ数年順位とともに変化はないが、第4位に下水道管調査業が登場

3.告発事例
①海外法人を利用して法人税を免れた情報商材関連会社
投資に関するノウハウを紹介する情報商材に関する取引などで得た多額の利益を、海外の法人を利用して不正に法人税を免れた事業者について、外国との間で締結した租税条約に基づく情報交換制度(詳しくは「CRS(共通報告基準)であなたの口座情報が筒抜け?」を参照)を活用するなどして、不正取引を解明し告発

②消費税還付コンサルにより多額の利益を得た税理士
不動産投資家に対して金地金売買を利用した消費税還付のコンサルティングを行うことにより、多額の利益を得ていた税理士本人の脱税を告発。

③芸能スタイリスト会社の無申告
芸能関係のスタイリスト事業により得た所得に係る法人税及び消費税の申告義務を認識していながら、確定申告を行わず故意に納税を免れていた単純無申告事案を告発しました。

4.資料
詳細は、国税庁発表の「令和元年度 査察の概要」に記載されています。

ディープラーニングとは

最近、コンピュータプログラムが囲碁の世界王者を破るなどのニュースで注目されている「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる技術。
この技術は、囲碁や将棋などゲーム分野だけではなく、ビジネスや科学研究の分野でも非常に注目を集めています。
この注目の技術について、技術的に高度な内容は含めず簡単に説明してみたいと思います。

1.注目の「ディープラーニング」
2011年頃から注目され始めた「新世代人工知能(AI)」。その中心になっているのが「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる技術です。
この技術を活用したグーグルの「AlfaGo」が囲碁の世界王者に勝利したニュースは記憶に新しいですが、これ以外にもグーグルやアマゾンがディープラーニングのためのシステムを「オープンソース(プログラムの内容を公開する代わりに、利用者が見出した改善なども公開して進歩させることを前提にした枠組)」で公開するなど、機運が高まっています。

しかしこのディープラーニング、コンピュータの黎明期から主流だった「人間がプログラミングする」という考え方とは、少し異なるものを持っています。
この注目の技術について、簡単に説明してみたいと思います。

2.ディープラーニングとは
コンピュータは元々、「決まりきった処理を、決まった形で正確に処理する」ことを目的に開発されました。
その主な用途は計算です。
ゲーム等に象徴される高度な画像処理も、その基礎を掘り下げると非常に複雑な計算を超高速で行っているに過ぎません。
しかしこれらは、如何に進歩しても全て「人間が決まった計算方式(アルゴリズムと呼ばれます)を指定し、その通りにコンピュータが動く」点において、本質的には何ら変わりはありませんでした。

これに対して、ディープラーニングは「コンピュータが自分で処理方式を学習する」点が大きく異なります。
何層かのニューラルネットワーク(脳神経のような特性をコンピュータ上にシミュレーションした高度な数学的システム)に対して、いろいろな情報を大量に学習させることで、人間が見いだせない微妙な特徴やマクロな傾向までをコンピュータが自分で学習してしまうという点が大きな特徴です。

 deeplearning
出展:野村総合研究所

 

3.ディープラーニングがなぜ発達したか
実は、アーサー・C・クラーク原作、スタンリー・キューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」やその小説版に、ディープラーニングの概念を持ったコンピュータ「HAL9000」が登場します。
このHAL、小説によると「人脳の活動の大部分を、人脳よりはるかに優れた速度と確実さで再生する」とか「HALは人間の同僚たちと同じように、この任務の為に徹底的な訓練を受けた」などと書かれています。小説には、初歩的な英語や基本的な考え方を、人間が直接教え込むような描写も書かれています。

しかし、実際にディープラーニングが必要とする学習量は、人間が与える事のできる情報量とは比べ物になりません。
「2001年宇宙の旅」が書かれた時代(1960年代)においては、この点が解決すべき課題でした。
この課題が解決できた理由は、大きく分けて2つあります。一つはコンピュータの処理能力向上、もう一つはインターネットの発達によるデータ爆発(ビッグデータ)の存在です。

コンピュータの処理能力は、ご存知の通り計算能力や記憶容量が毎年飛躍的に向上しています。また、電子商取引やソーシャルメディア、企業の電子データ処理の急速な普及によって、インターネット上の電子データは不連続と言っていいくらいに増加しています。
このようなビッグデータは、人間が逐一閲覧していてもほとんど役に立ちませんが、飛躍的に処理能力の向上したコンピュータが、ディープラーニング技術で学習すると人間の見いだせない点まで学習することが出来るのです。

4.ディープラーニングの用途
ディープラーニングの用途はあらゆる所にあります。
現在使える可能性のある、あるいは実際に使われている分野は、例えば以下のようなものです。

  • コールセンターの初期対応
  • 不正取引(株式売買やクレジットカード等)の自動検知
  • Web検索の最適化や、適切な広告表示
  • 大規模プラントの故障個所・時期予測
  • スパムメール・フィルター
  • 画像や症状による病気診断
  • 不確実な状況における経営戦略の選択

ただこのディープラーニング、使える分野は正直限定されないと思います。
たくさんの情報があり、そこから何らかの判断を必要とされる全ての分野において、この技術は人間を超える判断を下すことが可能となるはずです。

これが行き渡った世界で、人間はどう対応すべきか…

先に書いた「2001年宇宙の旅」においては、ある理由によってHALが人間に反旗を翻し、宇宙で乗員を全て排除しようと試みます。
SFの世界と思っていたことが、あっという間に現実のものになりそうですが、できれば良い事だけが実現されるよう祈るばかりです。

ダブルで得する「税額控除」

会社の場合でも個人事業の場合でも、特に順調に売り上げや利益を上げている場合には税金(法人税や所得税)の負担が無視できません。
この記事は、その税金を減らすうえで非常に大きなメリットのある「税額控除」という制度を取り上げてご説明します。
中小企業を中心とした企業経営者や個人事業主の皆様は、是非参考になさってください。

1.事業に関する税金の計算方法
我が国の税制は個人事業と法人の制度を完全に分けているのですが、基本的なところは同じです。簡単に言うと、売上などの収入から費用を差し引いた「利益」に対して税金がかかるということになります。
つまり、売上が大きくなったり、費用が下がったりして利益が増えると、その分税金が増えますし、逆もまたしかりということになります。
実際には税金の計算はもう少し複雑で、法人なら「税金を減らさない費用(損金不算入の費用と言います)」があったり、個人の場合は「費用や支出ではないが税金を減らす項目(所得控除といいます)」があったりと、なかなか大変です。

2.税額控除とは
これに加えて、法人税や個人所得税には「税額控除」という制度が用意されています。
この制度は、政策的な目的、例えば設備投資や雇用の拡大、試験研究の実施といった企業活動がなされると、税金を一部免除するというインセンティブを与えるために税金を控除するという形を採っています。

税額控除の仕組
税額控除の仕組み

上記の図をご覧ください。
先に説明した通り、税金はもともと利益に対してかかるものなのですが、その税金から「さらにマイナスができる」という所が税額控除のメリットになります。

3.特別償却との違い
よく似た目的を持った「特別償却」という制度もあります。
この制度も、同じように政策的な目的から設けられているのですが、効果については大きな違いがあります。

設備投資された資産は一度に費用となるのではなく、何年かに渡って分割して費用とされるのですが、その分割年数は法律に基づくルールで定められています。
この特別償却は、そのルールより早く費用とすることで、利益を圧縮し、税金を少なくしようとするものです。
なお政策的な目的が同じですから、特別償却の対象となる資産と、税額控除の対処となるものはほぼ同じとなっています。

税額控除と特別償却の目的は一緒なのですが、効果(税金を減らす)については大きな違いがあります。
特別償却は「費用化を早くする」だけで、トータルの費用額は「買った値段」で変わりません。
しかし税額控除の場合、特別償却よりは遅いものの、費用化額は全体として同じである上に、購入金額に応じた税額控除も受けられることになるのです(ある意味「二重に引ける」ことになります)。
ですから、よほどの理由がない限り、税額控除と特別償却が選択できるなら前者を選ぶべき、ということになります。

4.税額控除の例
税額控除の制度は多く用意されていますが、主なものは下記の通りです。
なお、これらの制度は「個人事業主でも会社でも適用可」となっています。

  • 試験研究費…試験研究費を支払ったり、増加した場合
  • 生産性向上設備投資促進税制…生産性向上設備等を取得した場合
  • 中小企業等投資促進税制…機械等を買った場合
  • 雇用促進税制…人数が増加した場合
  • 所得拡大税制…雇用者給与支給額が増加した場合

5.税額控除の注意点
税額控除を利用する際には、主に下記の点に注意する必要があります。

  • 最初の申告の際、原則「税額控除を利用する」ことを記載した明細を提出しないと、後から適用できることが明らかになっても認めてもらえない(訂正できない)
  • 法人税や所得税の一定割合が限度(極端な話赤字だと適用できない)

如何でしょうか?
これらの制度は、実際には非常に複雑ですので申告書を作る際には税理士などの専門家に必ずご依頼ください。
とはいえ、制度が使えるかどうかについて、経営者が知っておくことは経営判断を行う上で大変重要と思います。
是非ご参考になさってください。

令和2年度の路線価とコロナの影響について

7月1日、国税庁より全国の「路線価」が発表されました。
この路線価、相続税の計算をする際には非常に重要な指標となっています。
今回は、この路線価についてご説明します。

1.路線価って?
亡くなった方の相続人などにかかる「相続税」。
この相続税は、相続財産(亡くなった方から受け継がれる財産)の「時価」に、税率や相続人数などに基づいた計算を加味することで計算されます(「相続税の計算は意外と複雑」参照)。
相続財産に占める土地の割合は4~5割と非常に重要ですので、私たち税理士が相続税の計算を行う際、土地の時価を計算するのは非常に大事な仕事です。

しかしこの「土地の時価」を計算するにはどうすればよいでしょう。
上場株式なら株式市場でいつでも売り買いできる時価が公表されていますが、土地の場合はそうはいきません。
確かに、不動産会社を通じて「売りたい」「買いたい」といえばその状況に応じて価格がつきます。しかし、それはその特別な状況で採用される価格であって、税金の計算のように「公平性」が重要な指標として使うことは無理があります。

そこで国は、全国的な調査を定期的に行って、地域ごとに道路(不特定多数が通行するもの)に面する宅地について、1㎡当たりの時価を公表することとしています。これが一般に路線価(相続税路線価。この他、固定資産税課税の為の路線価もある)と呼ばれています。
※なお、特に市街地でない場所によっては路線ごとの時価が適していない場合もありますので、その場合には「倍率方式」と呼ばれる別の方法を時価として採用します。また、納税者が不動産鑑定士による鑑定評価額などを時価として採用することもできます。

2.路線価の例
路線価の例を見てみましょう。

銀座路線価

国税庁の路線価検索サイトから、「全国一路線価が高い」といわれる銀座5丁目周辺の路線価図を呼び出してみました。
ご覧の通り、全ての道路に細かい数字が示されています。
この数字が「路線価」、すなわち「1㎡当たりの土地の価格」になります。
※その他の記号も相続税を計算する上で非常に重要な意味を持つのですが、今回は省略します。

少々見づらいですが、図の左下に注目して下さい。
中央通りの「鳩居堂」と書かれた地点は、「45,920」と記されています。この数字は千円単位なので、1㎡当たりなんと4,592万円の価格となっている訳です。
この価格、いわゆるバブル期の3,600万円程度をはるかに上回っています。

3.大阪の推移
大阪で最も路線価が高いのは「梅田阪急百貨店前」です。
この路線価がどのように変化しているかを説明するため、今年から3年ごとにさかのぼったデータをまとめてみました。

路線価変遷

こちらも平成26年の1㎡あたり756万円が、平成29年には1,176万円となり、なんと今年令和2年には2,160万円にまで上昇しています。

国税庁が発表する地価の高い場所は、下記の通りです。
令和元年分都道府県庁所在都市の最高路線価

4.コロナの影響について
今回は地価が上昇している場所を中心にご説明しました。
これらは、インバウンド需要を中心に価値が暴騰したことが主な理由といわれています。
また、バブル後低迷を続けていた他の地域においても、このような場所に影響を受け、また旺盛なマンション建設需要などを背景に下げ止まっていた所でした。

しかし今回のコロナ禍を経て、地価がどのように変化するかが注目されるところです。
例えば、もしコロナ禍の影響で実際の土地実勢価格が大きく下がっていたとしても、相続税の計算はその前の非常に高い路線価で計算しなければならないのが原則だからです。
国税庁は、今後のこのような影響によって実際の地価が大きく下がる場合、その推移によっては路線価の減額修正を可能にする措置を導入することを検討しています。
この行方にも注意が必要です。

CRS(共通報告基準)であなたの口座情報が筒抜け?

皆さん「CRS」という言葉をご存知でしょうか?
最近、国際的な脱税や租税回避に対する批判が高まっています。
アップルのような大企業のみならず、中小企業や個人富裕層までもが様々な手段を利用して課税を逃れようと工夫を重ねています。
この「CRS」という制度は、このような脱税や租税回避に対処するため2017年から運用されている国際基準です。
金融機関はこの制度に基づき、顧客情報をより詳しく把握して国税当局に報告し、当局は各国間でこの情報を共有しています。

1.CRSとは
OECDは、外国の金融機関等を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するため、非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準である「共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)」を公表し、日本を含む各国がその実施を約束しました。

OECD加盟国はこの基準に基づき、各国の税務当局は、自国に所在する金融機関等から非居住者が保有する金融口座情報の報告を受け、租税条約等の情報交換規定に基づき、その非居住者の居住地国の税務当局に対しその情報を提供します。

このため国内に所在する金融機関等は、平成30年以後、毎年4月30日までに特定の非居住者の金融口座情報を所轄税務署長に報告し、報告された金融口座情報は、租税条約等の情報交換規定に基づき、各国税務当局と自動的に交換されることとなります。

2.日本における状況
日本においては、国税庁が「租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律(実特法)」を改正しCRSに対応しています(平成29年1月1日から施行)。

日本の金融機関は、この実特法に基づき、新たに口座開設等を行う顧客の、「税務上の居住地」を記載した届出書の提出を依頼することになります。また顧客の税務上の居住地に日本以外の居住地があり、その居住地が報告対象国である場合、顧客の口座情報等を年1回、金融機関より国税庁に報告することが義務付けられています。

最近、新しい銀行口座を開設する上で、開設者本人やその関係者、法人の実質支配者などを詳細に書かせるようになった背景がここにあります。

3.具体的な手続き、注意点など
海外の税務当局は、所有している個人情報・法人情報(氏名、名称、住所等、納税者番号など)と収入に関する情報(利子配当譲渡収入など)、また口座番号やその口座に所有している預金や有価証券等の残高を日本の国税庁に提供します。
逆に、日本の国税庁からは、上記と同様の情報が海外の税務当局に提供されます。運用の始まったマイナンバーは、納税者番号として取り扱われているようです。なお、口座残高が25万ドル以下の場合は情報交換の対象外となっています。

この情報交換は2018年から始まっており、国税庁はその内容と日本での申告書や「国外財産調書(年末時点で5,000万円超の国外財産を有する者に提出義務のある資料)」を照らし合わせる作業を進めています。また、この照合結果を基礎として、順次疑いのある納税者に税務調査を進めることになっています。

最近はこの制度を生かした調査が行われており、下記のような報道も出ています。

調査対象者の男性は国外に預金口座を複数保有していた。大阪国税局はCRSなどで得られた情報をもとに税務調査を実施。調査の結果、一部の預金口座の存在を認めたが、その他は認めなかった。CRS情報で得られた口座情報を活用して追及した結果、意図的に海外預金の利子を申告していなかった事実を認めた。申告漏れ所得の総額は約5500万円で重加算税を含めた追徴税額は約2700万円だった。(日本経済新聞 「富裕層」の申告漏れ最多、1年で763億円 国税庁調査 2019/11/28)

なお、最近のCRSの運用については、国税庁が下記のような資料を公表しています。
平成 30 事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要(国税庁 PDF)

もし無申告の高額海外資産をお持ちの場合、全て情報交換の対象になりますので、税理士に相談の上できるだけ早く自主的に申告なさることをお勧めします。

仮想通貨技術を支える「ブロックチェーン」について

一時期もてはやされた「ビットコイン」。
これ以外にも様々な仮想通貨が登場したり、投機的な価格の変動や、「ワンコイン」の不正事件、「コインチェック」の流出事件など、衆目を集めるニュースが多発しているため注目度が非常に高くなっています。

この仮想通貨、従来からあってよく利用されている、一般的な「電子マネー」とは概念的にも技術的にも大きく違ったものを持っています。というより、本質的には「通貨」に限らない広い概念をもつ技術なのです。

その技術の核となるのが「ブロックチェーン」という概念です。

私はこの技術の専門家ではありませんが、同じく専門外の方でも分かりやすいよう、簡単な説明を書いてみました。
なおこの記事は、以前作成したものに一部加筆修正しています。

1.データの保存形態の変遷
コンピュータの創生期から、どんどん増え続けるデータの処理や保存方法については様々な努力がなされてきました。
一台一台のパソコンに保存されていたものが、サーバと呼ばれる集中機に保存されるようになり、これがインターネットの普及に伴って「クラウド」という形態まで進歩してきましたが、「データがどこかで一元管理される」という形には変化がありませんでした。

この形だと、一元管理されている箇所を攻撃(ハッキングなど)したり、その通路(ネットワーク経路)を支配してしまえば改ざんや遮断が容易にできます。
実際、一部の国で行われているインターネット検閲などは、この点を利用している訳です。

2.ブロックチェーンの衝撃
ブロックチェーン技術は、このような常識に衝撃を与えました。
この技術は、元々「ビットコイン」のような、ネットワーク上を流通させる暗号通貨を実現するために作り出されたものです。

ブロックチェーンは、簡単にいうと「利用者が使う全ての端末に、分散して全てのデータが保存されている」という点がポイントです。

この「分散」についても、単にデータをバラバラに保存しているだけではありません。それぞれが冗長性(無駄な部分)を持ち、一部が壊されたり改ざんされたりしても、生き残った他の部分から全体像が再構成できるように考えられているのです。

例えば、誰かが自分の資金残高を10倍にするようデータを改ざんしたとします。その場合でも、他のデータを合わせるとその改ざんは即座に見破られ、不正が行われたことが分かる訳です。

新しい取引が発生すると、そのデータが一定の規則によって次々と追加され、あたかもデータの塊(ブロック)が鎖(チェーン)のようにつながっていくことから、このような名前で呼ばれるようになったのです。

3.ブロックチェーンの用途とメリット
ブロックチェーン技術は、言ってみれば進化したデータ保存方法ですから、データを扱う全ての用途に活用できます。特に、「取引とその履歴を記録し、改ざんや盗難リスクが大きい」用途にはうってつけです。

例えば、以下のような用途です。

  • 電子マネー…改ざんや盗難リスクがあり、また災害等でデータが失われることを防ぎやすい。また数多くの端末で分散処理され、遅れはあるもののシステムダウンの恐れが極めて低い。
  • 電子商取引…電子マネーと同じ理由で適しています。
  • 証券取引、銀行の勘定系、資金送金…上記と同じ理由ですが、システムダウンへの耐性が高い点は他より重視されます。
  • 不動産等の登記…不動産の登記簿(登記情報)は、権利(所有権や担保)情報やその履歴で構成されています。またその内容に改ざんがあれば、不動産取引に悪影響を与えます。

 

4.ブロックチェーンのデメリット
逆に、ブロックチェーンは以下のようなデメリットも持ちます。
意外と重大な欠点もあるのですが、今後メリットの大きさと技術の進歩で改善が図られると思います。

  • 低いパフォーマンス…参加者全員で全てのデータを分散して所持し、お互いを確認しながら取引を進めるため、データが巨大化し処理が遅くなります。
  • オンラインでしか動かない…単独の機器でももちろん動かすことは理論的に可能ですが、ブロックチェーンの意味がありませんね。取引が実行されたことを全ての参加者に通知、取引内容を含んだブロックの生成、チェーンに追加といった一連処理はオンラインでしか動きません。
  • データの巨大化によるストレージの圧迫…今誰が何をどれだけ持っているかというデータだけではなく、今までどんな取引がされてきたのかという履歴を全て保存するため、管理するデータ量が膨大となってしまいます。
  • 機密性に欠ける…全ての参加者が全てのデータを分散して持っていますので、身分等に応じて一部を隠すことが難しくなります。
  • 不正取引が簡単…システムの欠陥を突けば、簡単に大きな金額を送金する取引を記録することができ、その経緯や作業者を隠すことも比較的容易です。