相続税の計算は意外と複雑

私たちの事務所には相続税を概算できるページを以前から設けているのですが、昨今の改正、特に平成27年の改正で相続税を払わなければならない方が増えたこともあり、こちらへのアクセスもずいぶん多くなっています。

でも、相続税が実際どのように計算されるかについては、実はあまり良く知られていません。

というより、実際の計算方法は皆さんが考えるよりちょっと複雑なのです。

相続税の計算方法について一番多い誤解が、

「相続税は相続財産に相続税率を掛けることで計算される」

というものです。

いや、正直これでいいんじゃないの?と私も思うのですが、いろんな理屈やらがあって、実際の計算は下記のように行われることになっています。

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①相続財産を「法定相続分」で分けたと「仮定」(あくまで仮定)

②その「仮定」の財産それぞれに、税率(累進税率)を掛ける

③②の計算結果を集計する

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「法定相続分」は、民法で決められている財産の分け方で、特に相続人間で分け方を決めなければこの配分で分けることになります。例えば配偶者と子供2人であれば、配偶者が半分、そして残り半分を子供が2人で半分ずつ受け取ります。

累進税率とは、財産が増えると税率が上がる仕組みです。急激に増えないよう、緩やかなカーブを描いて率が増加するように工夫されています。

 

さて、相続税の計算はまだ終わりません。

先ほどの③に続いて、各相続人の税金を計算する過程が残っています。

 

④③で集計した相続財産全体を、各相続人の財産取り分の割合で分ける

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これでようやく、それぞれが納める税金が計算できることになります。

相続税の計算が少しだけ複雑なことが分かって頂けましたでしょうか?

多くの方が何度も経験するものではありませんが、改正により可能性は増えていると思います。ご参考にして頂けると幸いです。

 

加圧トレーニング

皆様、「加圧トレーニング」をご存知ですか?
みんなで筋肉体操(NHK)」など、筋トレが注目されていますので、ご存知の方も多いかもしれません。
この加圧トレーニング、50年以上前にボディビルダーの佐藤義昭氏が、正座による「脚の痺れ」をヒントに発明したトレーニング方法です。

加圧トレーニングは、空気圧をかけたベルトなどで血流量を制限しながらトレーニングを行う事で、腕や脚の乳酸(疲労で発生する物質)を増やします。
そしてトレーニング後にベルトを外すと高濃度で溜まっていた乳酸が体内に流れていき、それに脳下垂体が反応する事により、成長ホルモンが分泌される、という仕組みだそうです。
この加圧トレーニング、若い世代だけではなく、我々のような50代やもっと高年齢の方々にも非常によい特徴を備えています。

まず、加圧トレーニングの特徴は、「負荷やトレーニング時間が少なくても効果が得られる」ところにあります。
例えば、普段20キロのダンベルを使っているような人でも、2~5キロ程度で十分だそうです。また、1回のトレーニングも30分程度で効果が得られるとのことです。
このことで、だんだんと体力が落ちていくシニアの方々でも安全にトレーニングが可能になります。

またダイエット効果が非常に高いです。加圧をすると通常の数~数百倍の成長ホルモンが分泌されることで、筋肉がついて脂肪が燃焼しやすくなるからです。また、肌のツヤやハリを取り戻す効果も期待できるらしいとのことです。
そして意外と大きいのが、リハビリ効果であるといわれています。
加圧をすると骨折や肉ばなれ、ねんざなどのケガの回復が早くなるという研究データがあるそうです。これは、分泌される成長ホルモンによって、筋肉や人体の修復が早まると考えられるからで、心筋梗塞や脳梗塞、脳出血などのリハビリ現場でも取り入れられているケースがあるそうです。

年齢を経るとどうしても老化により自然と体力が落ちていくのですが、この加圧トレーニングを使うと、老化のスピードを抑えることが可能になるそうです。
老化を抑えるトレーニングの場合、加圧だけで負荷をかけなくても十分な効果が得られる、とも言われています。

なお、自分で加圧トレーニングを体験できる道具も販売されているようですが、加圧トレーニングは専門的な経験を積んだトレーナーが、トレーニングをする人の体力や年齢を考慮した上で、圧のかけ具合や時間を決めなければ、かえって体への悪い負担を生じかねません。
もしご興味を持たれた方は、是非専門のトレーナーによる指導を受けてお試しください。

ひとり親控除(令和2年 税制改正)

1.改正について

「寡婦」、「寡夫」(両方とも「かふ」と読みます)という言葉をご存知でしょうか。
配偶者と死別したり離婚して未婚のままであったり、扶養家族や子供がいる人、所得が一定の額以下の人を所得税法上「寡婦」や「寡夫」と呼び、その条件に応じて課税所得が控除されることになっています。

この制度、従来は女性の要件が少し広くなっていたり、全ての要件を満たす女性は控除額の割り増しがあったりと、男女差のある制度となっていました。
また、この制度の適用があるのは「民法上の婚姻関係にある者」に限られ、未婚のひとり親については対象となっていませんでした。

令和2年の改正においてはこの点が見直され、「ひとり親控除」と新しい「寡婦控除」制度に再編されました。

2.ひとり親控除(35万円)

ひとり親とは、現に婚姻をしていない者又は配偶者の生死の明らかでないことに加え、さらに下記の要件を満たす者を言います。

  • 生計を一にする一定の子があること
  • 合計所得金額が 500 万円以下
  • 事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる者がないこと

ひとり親である場合には、ひとり親控除として、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から35万円を控除することとされました。
この35万円の控除は、従来の制度で「特別の寡婦」として認められていた割り増し控除額になります。
従来は女性のひとり親にしか認められていなかったのに対し、新しい制度においてはひとり親条件を満たせば男性でも適用されることになります。

3.(新しい)寡婦控除(27万円)

改正後の「寡婦」とは、次に掲げる者でひとり親に該当しないものをいいます。
(1)夫と離婚した後婚姻をしていない、次の要件を満たす者

  • 扶養親族を有すること
  • 合計所得金額が 500万円以下であること
  • その者と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる者がいないこと

(2)夫と死別した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない次の要件を満たす者

  • 合計所得金額が 500万円以下であること
  • その者と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる者がいないこと

改正前の「寡婦」の要件との主な違いは、
①扶養親族を有する寡婦についても「合計所得金額要件」が追加された
②「非事実婚要件」が追加された
ことになります。

4.改正前後の適用判定変動
改正前後で、それぞれの方の適用がどのように変動するかについては、国税局「年末調整のしかた」に下記の通り判定図が掲載されています。

ひとり親控除判定

5.改正の適用開始日、その他

これらの改正は、令和2年分以降の所得税について適用されます。
まず令和2年の年末調整や確定申告について適用され、また令和3年の給与、公的年金の源泉徴収税額計算の際にも新しい制度を適用して計算します。
なお、住民税でも同じ制度改正があります。控除額は、所得税で35万円の場合には30万円、27万円の場合には26万円の控除となります。

以上

美人タレント女医事件

以前、バラエティ番組で「年収は5000万円で豪遊」という、驚くべきキャラクターで話題になった美人の女医さんがいました。
しかし結局、その女医さんは不正行為が明らかになり逮捕され、有罪判決を受けることになってしまったのです。
美人女医が逮捕、有罪判決!ということで世間の耳目を集めたこの事件、実は掘り下げると結構深い問題の根を持っていることが分かります。
以前講演でお話しした内容を抜粋、加筆修正したメルマガ記事をブログ化しています。

1)逮捕、有罪判決
この事件は、脇坂英理子氏(Ricoクリニック)という女性医師が逮捕されたことから衆目を集めることとなりました。
「美人女医」としてもてはやされていた脇坂医師は、TVのバラエティ番組に出演し、ホストクラブで一晩に何百万豪遊したとか、驚くような数の男性遍歴があるなど、常識的な人間からすると耳を疑うような話を番組で披露していました。
しかしその実態は、彼女が経営する美容クリニックで架空診療行為を繰り返し行い、健康保険や国保といった医療保険に対して約7000万円という高額の架空請求を行っていた不正実行者だったのです。
裁判の結果、結局は懲役3年、執行猶予4年の有罪判決となり、医師としても業務停止3年の行政処分を受けることとなりました。

2)手口
それでは、この不正請求はどんな手口で行われていたのでしょうか。
簡単にいうと、「実際に行っていないのに、架空の診療行為をでっち上げる」という手法でした。
例えば、一度通院しただけの患者にも、その後も通院を続けたように偽装して診療報酬を請求することで、架空の診療報酬が手に入るという訳です。
しかし、彼女はそれ以上に破壊的な不正請求にも手を染めていました。

3)「保険証集め」の手法
彼女が不正に請求した医療費には、かなりの割合で「一度も来院したことがない患者」が含まれていたようです。

この「患者」たち、実はアルバイト感覚で集められた芸人や暴力団組員ら数百人が、不正用に彼らの保険証を提供したことによりでっち上げられたものだったのです。
捜査関係者によると、「保険証提供者の報酬はせいぜい数千円。アルバイト感覚でやっていたとしか思えない」とのことでした。

4)組織的な「ビジネス」
実はこのような医療機関は彼女のクリニックだけではありませんでした。
暴力団の「企業舎弟」とされる首謀者たちは、コンサルタントの名目で元々経営の苦しい医療機関に目を付け、不正グループに勧誘していたのです。
また首謀者グループにはホストもおり、ホストクラブで受け皿となる女医や保険証の提供者となるホステスを探していたそうです。
同時にクラブ経営者たちにも報酬を提示して女医の紹介やニセ患者集めを働きかけていました。
結局、このスキームで得られた不正な利益のうち、一部は暴力団に上納されていたのです。

5)不正請求の主な内容
健康保険に対する医療費の不正請求は、この事件のようなものだけではありません。一般的なものだけでもこれだけあります。

  • 架空診療・投薬による請求…診療していないのに、診療したことにして診療報酬を不正に請求
  • 生活保護者(自己負担なし)に対する架空診療、過剰診療
  • 振替請求…外来診察なのに入院診察として扱い、診療報酬を不正に請求
  • 二重請求…患者が自費で診療したものを、保険診療したものと扱い二重請求
  • 付増請求…血液検査の際、採血は1回だったにもかかわらず、数回に分けて検査したように診療報酬を不正に請求
  • 健康診断の保険請求…健康診断には本来保険が適用されない
  • 看護師等の水増しによる不正請求…看護要員の長期にわたる不足にもかかわらず変更の届出を行わず、診療報酬を不正に請求していた。
  • 施設基準の虚偽申請…一定の施設や人的要件を要する請求につき、届出の際行われる検査時だけ満たし、検査が終われば元に戻していた。

6)処分や対応は
医療保険による保険診療については、保険診療報酬支払機関(国保、社保)から本人に対して確認通知があり、本人が知らない医療費請求についてはチェックをかけることができるようになっています。
またこのような不正が行われた場合には、厚生局・厚生労働省による指導、調査、行政処分や、医師免許・保険医療機関の取り消しなどの処分がなされることとなっており、刑事罰も合わせて一定の抑止効果を得ているとは思います。
しかし、医療サービスを受けた本人がその内容に無関心だったり、また患者による不正への積極的、消極的関与がある場合、施設基準など患者の目に触れにくい複雑なもので不正が行われる場合には発覚が非常に難しくなります。これに加え、今回の事件のように最初から組織的に組み立てられたものを積極的に摘発することは難しくなります。
健康保険は加入者の保険料や税金が使われる極めて公益性の高い制度です。
医療機関自体の倫理保持や、通報窓口や内部監査体制により防止・発見対策などを整備することが急務だと思います。

 

 

「耕夢」ってこんなシステムです(事務所日常のご紹介)

私たちの事務所名にもなった「耕夢(こうむ)」。
日本どころか世界のどこにもないコンセプトで作られた、会計事務所の業務管理用アプリケーションです。
このシステムを機能面で紹介することはもちろん可能なのですが(セールスフォースさんのページにもご紹介あり)、実際どのように使われているかを比較ストーリー形式で書いてみました。
この内容、特に誇張はなく、実際にそれぞれの事務所で起こっていることがほぼそのまま書いてあります。
では、会計事務所の一日を少しだけご覧ください!

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<7:30am>

(耕夢)
所長が出所。通勤中の電車で「内部chatter」に研修担当職員が掲載した会計・税務等の最新業界誌を読み、知識をアップデートするとともに必要な論点を「耕夢チェックリスト」に反映していく。また、お客様に関連する情報があれば、お客様それぞれに用意された「外部chatter」で早めに情報を提供しておく。
また、昨晩から今朝にかけて事務所に届いたFAXも紙で出力されず「内部chatter」に掲載されているので、全て確認の上対応が必要な場合は、そのFAX自体にコメントをつけ、各担当職員への指示を出しておく。​
ここまで全てスマホやタブレットだけでOK。

(旧来事務所)
所長は早めに出所するよう心掛けているが、各担当の業務進捗は朝礼まで不明。机の横に溜まった業界誌を「読まなきゃな」と思いつつ、昨晩返事できなかったメールの返信と、昨日事務所に居なかった際に積まれた書類・郵便の山で時間を取られる。もちろん紙で出力されたFAXは担当が出所するまで放置。​

​<08:45am>

(耕夢)
職員が​出所。掃除やシステムメンテナンス、郵便の受け取り、有給管理、小口現金、消耗品管理・発注など総務的業務も「総務チェックリスト」の「期日到来・未実施チェックリスト」を参考にしながら漏れなく総務業務を行っていく。
業務時間が始まると、まずは「直近スケジュール」で自分に加えて所長、他の職員の2週間分のスケジュールを確認。他の職員のスケジュールに給与計算やお客様との面談など「クリティカル業務​」マークの付いたものがある場合、体調不良による休みはもちろん、お子さん​の急な発熱により保育園に預けることができなかった場合の「在宅切り替え」など、バックアップ対応を皆で検討しておき、カバーしきれない場合は所長に報告して対処を頼んでおく。

(旧来事務所)
職員が出所。朝礼までに掃除などを進めるが、特にマニュアルはないのでベテラン職員の経験次第で、時々抜けることがある。
9時からは30分ほどかけて朝礼。本日行う業務や来所予定、申告期限などの確認を行うものの、報告方法や内容もメモや口頭で、網羅性の確保やフォローアップは難しい。本日急に体調不良で休んだ職員の担当業務については、業務進捗は本人しかわからず、とりあえず「何かあったら所長に相談する」ことにした。

<10:00am>

(耕夢)
朝一の業務が終了したので、次は今月が決算期末の​お客様の決算書・申告書作成。耕夢(こうむ。案件のこと)ごとに用意されたチェックリストを見ながら、漏れのないよう作業を進めていく。チェックリストのスケジュールに基づき早めに資料を依頼しているため滅多にないが、追加資料が必要となった場合も「外部chatter」で依頼、お客様からはファイルを添付してすぐにお送り頂く。「外部chatter」のセキュリティは十分に確保されているので、ファイルもパスワードなしで添付して頂いてOK。

(旧来事務所)
それぞれが自分のカレンダーにメモ書きした業務をスタート。​決算作業は前年の踏襲と各担当の経験に基づいて進める。しばらくして資料が足りないことに気づき、電話でお客様に依頼したものの、届くのは明日。他の業務も取り立ててないので(実際には見えていないだけ)手待ちになる。

<12:00pm>

(耕夢)
全員不在を避けるためランチタイムはシフト制としているが、担当が不在の際お客様から問い合わせがあっても、「外部chatter」でのやり取りやその他お客様関連データ、経緯は全て​掲載されているため、担当以外でも即座に対応が可能。

(旧来事務所)
お昼に出ようと思ったら、お客様から問い合わせのお電話が。運の悪いことに本日お休みの職員が担当しており、状況も資料もわからない。仕方がないのでその職員の携帯へ電話するが、病院へ行っているのか連絡がつかない。お客様には「申し訳ありませんが職員が不在で」とお詫びの電話を入れる。​所長はランチを兼ねて夕方まで外出してしまい、これまた電話に出ない。

<1:00pm>​

(耕夢)
所長が新規ご紹介先の工場を訪問のため外出。スキャンされた名刺がデータ化され、あらかじめ顧問先データ登録が完了しているので、スマホアプリから登録された電話番号に電話することも可能。また、登録された住所は地図に変換されてスマホのナビにそのまま転送されるため、徒歩、車、公共交通機関などを使った詳細なルートと所要時間が即座に表示され、初めての訪問でも迷いや遅れがない。​

(旧来事務所)
所長はフットワークが軽いのはいいが走ってから考えるタイプのため、外出してから「あのお客様の連絡先どうだったっけ」「○○の資料送って」「迷ったからちょっと遅れると連絡入れといて」など、職員頼みの行き当たりばったりな行動が多くなってしまう。そのたびに職員の作業は止まり、生産性は下がっていく。​

<2:00pm>

(耕夢)
午前中に行われた業務で耕夢の進捗割合が変わったので、それをトリガーとして自動で「内部chatter」に進捗度が掲載される。また、月次試算表が完成したら、これもPDFで「外部chatter」に掲載、社長向け伝達項目となる今月のトピックなどもコメントしておく。耕夢のリストには進捗度に応じて作物の育成段階を模した動くアイコンが設定されており、「(辛い)仕事」ではなく「お客様のために丹精込めて作物を育てる」イメージが持てて面白い。
また、隙間時間も前倒しの仕事はもちろん、​「期日経過・未完了ダッシュボード」を確認し、少し遅れ気味な他の職員の耕夢に関するチェックリストを代わりに実施したり、chatter掲載の業界誌を読んだりと、手待ちになることはほとんどない。

(旧来事務所)
資料の遅れもあり、集中月の決算作業は遅れがち。前年度も申告期限ぎりぎりになって税額や報告予定日のご連絡をしたので今年はなんとか早くしたいが、昨年辞めた職員の後を引き継いだためまだ業務に慣れず、マニュアルもなく過年度の資料を見ながら進めるのでなかなかスピードが上がらない。自分はバタバタしているのに、手待ちで所長が居ないのをいいことにネットを見ている職員がいるとストレスがたまり、はや転職を検討している。​

​<3:00pm>

(耕夢)
他の担当が仕上げた決算の「検算」を、副担当として実施。​該当するお客様の「チェックリスト」を表示し、一つ一つの項目がきちんと実行されているかを確認していく。ドラフト決算書や申告書も「chatter」にて掲載が可能となっているので、出張先や在宅でも、またタブレットでも検算作業が可能となっている。
検算により発見された特定の事項は「チェックリスト」の「添付書類コメント​」に記載する。このコメントにはタグが付けられており、「税理士法33条の2の添付書面(税務調査のリスクを減らす書類)」への記載事項へ自動的に転記される。またこれらのタグは、チェックリストそのものの改訂、消去を指示する場合にも利用できるようになっている。

(旧来事務所)
決算は完成したが、所長が不在で、他に内容を知る者もいないので、とりあえず印刷して注意事項やまだもらっていない書類などを付箋に書いて所長の机の上に置いておく。以前別のお客様で税務調査があった時、チェック漏れで大きな失敗を指摘され、お客様からも所長からも叱責された記憶がちらつく。もっと勉強しなきゃとも思うが、なかなかその時間も取れなくて不安が募る。​

<4:00pm>

(耕夢)
保育園のお迎えがある短時間職員が退所。明日は乳幼児健診があるため在宅勤務の予定だが、留意事項は関連する「chatter」に記録してあるため、業務はシームレスに進めていける。
また、どうしても質問の必要な場合「内部chatter」で資料を添付して問い合わせをしておけば、スマホアプリでお迎え後など手の空いた時間に簡単な回答を貰うことも可能となっている。

(旧来事務所)
病欠の職員とようやく連絡がつき、午前中の質問事項をお客様に伝えることができた。このやり取りで取られた時間はかなりのものだが、表向きは自分の仕事が進まなかった結果しか残らず、なんだか損した気分になる。今結婚を考えている相手がいるが、出産、育児をこの環境で乗り越えられるとは思えず、非常に悩ましい。

<5:00pm>

(耕夢)
業務をこなしながら、お客様とは「外部chatter」を中心に​密なコミュニケーションを取っておく。電話やメールでも連絡は可能であるが、「税理士法41条に規定する業務処理簿」に記載すべき税務に関する質問・回答や、どんな業務を行ったか​といった情報は、chatterを使えば二度手間がなく効率的で、正確かつ分かりやすい。パソコンメールすら使えないお客様でもSNS的な使い勝手のスマホ向けchatterアプリは馴染みがあるし、資料のコピーもその場で撮影したものを鮮明に投稿できるので、業務に関連しそうな書類はすぐ掲載される。使い勝手の良さから「パソコンよりこっちの方が便利」という年配の経営者も出てくるほど。

(旧来事務所)
定時終了間際に、お客様から電話とFAXで「明日が期限なので今日中にこの資料を作って欲しい」と頼まれる。内容を見ると2カ月前にはわかっていたことで、その時一言入れておいてくれれば…という言葉をぐっと飲みこんで残業を覚悟する。何時も「ほうれんそうが大事」と言っている所長にはメールで報告しておくが、返事がなく読んだかどうかすらわからない。

​<5:30pm>

(耕夢)
業務時間終了少し前に、「スケジュール」と「実績」を入力。スケジュールは、今後最低でも2週間程度​の業務予定を日時(開始・終了)を指定して記載し、また、実績については先に書いてあるスケジュールを基礎とし、それぞれの耕夢単位で実際にかけた時間を入力する事で効率的に記録できる。総務業務や担当外のヘルプ業務を行った場合でも実績として記録され、業務実績の評価は正当に行われる。
実績が記録されると「内部chatter」に「退勤記録」が自動的に掲載され、定時できちんと退所できたことが出張中の所長にも確認できる。​また、上手にヘルプ業務を行った場合や難しい課題を解決した場合には、所長や職員から「いいね」やお礼のコメントがついてくる場合もある。
有給休暇も内部売上を割り当てられた「耕夢」の一つとして扱われており、予定を登録することで自動的に「内部chatter」に申請が行われる。承認はその申請に所長が「いいね」することで完了する。有給休暇の累積と残り日数はレポートで自ら確認できるので、業務の状況にも配慮しつつ無理のない消化が可能となっている。​

(旧来事務所)
急ぎの書類作成は意外と計算が難しく、終わる気配もないまま定時にタイムカードを押せない日が続く。本日積み残しの仕事はとりあえず明日以降に回すしかなく、「こんなに忙しいのに何考えてるんだ」と言われて有給すら取りづらい。

<7:00pm>

(耕夢)
所長が出張先から自宅へ直帰。その間にスマホアプリで本日実施された業務やその時間、耕夢の割り当て状況、お客様ごとの採算に目を通しておく。お客様とのやり取りや事務所内外での通知事項だけではなく、耕夢の進捗状況やチェックリスト改定内容、受信FAX、送付状控など全てが内部・外部chatterに記載されているので、これらをブラウズしておけば翌日に持ち越すことなく連絡や意思決定を行うことができる。

(旧来事務所)
ようやく書類ができたので、お客様にFAXして業務終了。​置きっぱなしの決算書の上へさらに控を置いて、帰り支度を始める。明日この件で朝礼後時間がとられると、溜まった仕事がまた遅れてしまうとうんざりする。

病院は簡単に乗っ取れる

ちょっとセンセーショナルなタイトルですが、全くのフィクションでもありません。
病院が乗っ取られたり、不正の温床とされた事例を再構成し、どういう点が脆弱なのかを書いてみることにしました。
今回は防衛策に触れていませんが、いずれそちらの話も書いてみようと思っています。
こういった不正を防止する枠組みを作るのは、公認不正検査士の業務領域の一つです。

なお、今回少し趣向を変えて、「いらすとや」さんのイラストを挿絵に使用しています。

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1.とある病院にて
医療法人根木会 加茂病院

1

設立40年になる中堅総合病院(ベッド数200床)で、規模は小さいながらも長年地域医療に貢献し、患者の皆さんから重要な病院として親しまれてきた。

院長は長年内科に携わってきた穏健な医師で、公立病院の内科部長を務めたあと父親の設立したこの病院を引き継ぐ。

2

専門である医療に関しては経験が長く、またよく勉強しており、患者や勤務医師・看護師からの信頼も厚い。
しかし…

経営管理の甘い病院はここ数年資金難にあえいでおり、新たな設備投資はおろか、現場での医療資材、消耗品等の支払にも黄信号がともっている状態。

このままだと、早晩給与の支払いにも影響が出そうな状態となっていた。

3

2.コンサルタント登場
メインバンク:「この資金繰だと、新たな資金のご融資は難しいですね。
大幅なリストラを行って頂くと同時に、追加担保を差し入れて頂かないと取引継続すら難しくなります」

4

院長:「…事務長なんとかして」

そこで、弱り切った事務長が、ツテをたどって探してきたのがコンサルタントA氏。

5

このA氏、元銀行マンらしく、初対面から自信満々で「今の資金繰りを改善し、新たに銀行との融資も見事まとめて見せましょう!」と大変頼りになる言葉を発してきた。
「銀行と交渉するためには、私が顧問だけではなく理事になっておく必要があります。また、対外的に箔が付きますから社員にもしておいた方が良いですよ」

3.A氏の「手腕」
A氏は早速銀行と交渉を開始。
言われた通り、「社員・理事」として扱ったことが良かったのか、はたまたA氏の銀行時代の経験や人脈が効いたか、若干条件は厳しかったものの、新しい取引銀行がつなぎ融資に応じてくれた。

7

危機を救われた院長はA氏を完全に信用し、もうなんでもA氏に相談するようになってしまう。
そこでA氏から一つ提案をしてきた。

8

「事務長、人は良いのですが、今のように大変な状態を乗り切ろうとすると、力不足かもしれません。どうでしょう、私の仲間で、医療事務から経理、労務や税金まで何でもよくできる者がいます。入れておけば何かと安心ですよ。事務長がへそを曲げてはいけませんから、事務長は今のまま理事としておき、彼は事務長「補佐」、理事にせずとも、私と同じように社員で十分です。
さらにA氏は提案を続ける。

9

「院長、もっと資金を入れて経営を安定させましょう。
これまた私の仲間に、医療法人専門の投資家がいます。銀行ばかりだと金利もかさみますし、ここはひとつ債務を肩代わりしてもらい、同時に彼も社員にして経営参画してもらっては?院長もだいぶ楽できますよ」
A氏を信用しきった院長は、この提案も疑うことなく受け入れてしまう。

4.支配と追い出し
医療法人の役員会に当たる理事会は、以前からあまり開かれていなかった。しかしA氏が影響力を増す中、どうも納得のいかない理事たちが集合、理事長やA氏抜きで議論を始めた。

10

その中には、どこで調べたのかA氏やその周辺の胡散臭い噂を持ち出す者もいた。しかし肝心の理事長(院長)がA氏に頼りきりとなっており、理事会として具体的な方針を決める間もなく社員総会の日がやってきた。
社員総会の日。
A氏が連れてきた副事務長が、「こういうことはちゃんとしなければだめだ」と言い出したため、これまで適当だった手続が妙に厳格となって開催された。

11

と思っていると、今回任期満了(2年)で再任予定だった理事長はじめ元からいた理事の再任事案が全て否決されてしまった。
社員の過半数は既にA氏の関係者ばかリになっていたのだから当然である(※)。

12

かくして、理事長はじめ元からいた理事が全員再任されない社員総会議事録が作成され、登記されてしまった。
理事長は、「出資割合に応じて社員の議決権の強さが決まる」とA氏から嘘を聞かされていたため、こんなことが起こるとは想定外だった。
A氏はこれまた息のかかった医師を形だけの理事長に据え、完全に医療法人の乗っ取りに成功した。

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※医療法人社団のモデル定款(社員関連)
第6条 本社団の社員になろうとする者は、社員総会の承認を得なければならない。
2 本社団は、社員名簿を備え置き、社員の変更があるごとに必要な変更を加えなければならない。
第7条 社員は、次に掲げる理由によりその資格を失う。
(1) 除 名  (2) 死 亡  (3) 退 社
2 社員であって、社員たる義務を履行せず本社団の定款に違反し又は品位を傷つける行為のあった者は、社員総会の議決を経て除名することができる。
第8条 やむを得ない理由のあるときは、社員はその旨を理事長に届け出て、その同意を得て退社することができる。
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5.実態の判明
A氏が本性を現すのはここからである。

13

どこからか集めてきた生活保護者(医療費が全額補助される)への過剰診療を新しい院長(理事長)に指示する、健康保険の不正・架空請求をする、職員を減らし、安全を無視してでもコストダウンするなどの方法で不正な利益を追求し始める。

さらに息のかかった業者からの仕入にはキックバックを強要し、病院の設備投資として受けた融資資金は不正仲間のペーパー会社に支払う、架空の看護師による看護基準での不正請求、その架空人員への給与を自身に還流させるなどありとあらゆる手段で病院の資金を吸い取っていった。

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ところが、これらの不正はなぜか裏帳簿にまとめられ、逐一報告を受けている者がいた。
実は、これら不正な利益の一部はA氏のバックとなる某反社組織に上納されていたのである。

15

これらの上納金は、生活保護者集めや架空人材情報の提供、反対する者への圧力など様々な効果の見返りや、用心棒代としての名目であったとみられる。
まともな医師や看護師等の職員たちは嫌気がさしたり危険を感じたりして次々退職してしまい、不正に加担するか、何も考えない者と、せっかくの病院を蝕む悪人だけが残ってしまった。

6.病院経営の実態
平成30年度病院経営定期調査(一般社団法人日本病院会、公益社団法人全日本病院協会、一般社団法人日本医療法人協会、平成30年6月時点)によると、医業利益が赤字の病院は全体の6割を占め、さらに全体の53%が減益となっている。
このように、病院の経営は「悪いことが普通」の状態になっている。また前述した医療法人のガバナンスについては、病院経営者の多くがきちんと理解し、リスクに備えているとはいいがたい。この結果、今回書いたような事態をフィクションとして笑い飛ばすことはできない状況にあると言える。

岐阜事務所 開設のお知らせ

平素より大変お世話になっております。

この度、我々税理士法人耕夢は、新年度となる6月1日から、岐阜のしのだ会計事務所をグループに迎え入れることとなりました。
しのだ会計事務所は、岐阜市入舟町で平成15年に開業された、所長以下全員が女性の事務所です。全員が女性ということで、耕夢が目指している新しい働き方の大きな力にもなるのではないかと期待しております。
しのだ会計事務所の加入で期待されるのは単なる会計・税務業務だけではありません。
所長の篠田税理士は、税理士としての能力はもちろん、顧客サービスについても抜群の能力を備えており、お客様への経営アドバイスや助成金など活用の提案力についても大変優れています。
加えて、篠田税理士は単に耕夢システムの使い方だけではなく、仕組みとしての耕夢を深く理解しています。

今回の加入をもって、弊所は3拠点に総勢17名という規模となりました。
しかし、弊所は単に規模や収益の拡大を目指しているのではありません。
現在行っていることは、十数年前から準備を始めた、特に女性を中心とした「普通にまじめな人たち」が、「楽しく普通に努力すればよい成果が得られる」環境を作りたい、という代表の願いを着実に実現しているに過ぎません。

今後この仕組みに一番必要なのは「協力」です。

普通の人ひとりが頑張っても、大きな事務所や輝かしい経歴・能力を持つスターと同じことは出来ません。
しかし、真っ当な考え方と正しい知を共有し、相互に協力した組織は、どんな個人より強くなります。そういう仕組みが作れれば、むしろ「普通にいい人」たちが集まり、力を発揮したほうが良いのです。

耕夢という概念は、システムだけではなく仕組み全体でこれを実現しようとしています。

​なおお客様は大事ですが、自身でできる努力もせず無理難題を強いる方、職員の気持ちや身体的安定に悪影響を及ぼす方は、改善の努力も効かなければお断りすべきと思っています。
何よりそういうお客様は、お客様ご自身でも持続的に高い収益をあげ、顧客や従業員の為になり続ける可能性は低いのです。

しかし本当によいお客様、特に顧客はもちろん従業員やそれぞれの家族、世間を大事にする企業の業務には、全員が協力して全力で担当する、という信念を持つグループを作り上げたいと思っています。

以上、長くなりましたがお読み頂きありがとうございました。
数年後、「耕夢」の考え方がある程度正解だった、と思える日が来るように、私も頑張りたいと思います。
これからも是非ご指導、ご協力を宜しくお願い致します。

​税理士法人耕夢 代表社員 塩尻明夫

税務調査が省略されました

私たちの事務所は、「税理士法第33条の2に規定する添付書面」をさまざまな税務申告書とともに税務署へ提出しています。この書面、経営者が懸念する「税務調査」のリスクを大きく減らす効果があります。最近※も2件「税務調査省略」事例が出ましたので、うち1件をご紹介します。
なお守秘義務がありますので、正確な時期や業種、登場人物は少しぼかしてあります。
※当該記事は2019年公開のメルマガから転載されています。

1.税務調査のリスク
法人税や所得税、消費税、相続税といった「申告納税方式」の税金は、「納税者が自主的に申告、納税する」事を建前としています。
ほとんどの方はこの申告と納税を適切になさっているのですが、ごく一部の悪意を持った脱税や、ルールや法律の理解を誤った場合など、税金の計算が過少になるケースも無視できません。このため、申告納税方式の税金には必ず「税務調査」がセットになっています。
この税務調査、誤りが見つかったら「追徴課税」といって追加で納税させられたり、加算税や延滞税といったペナルティがつく場合もあります。悪質な場合には重加算税といった重いペナルティに加え、刑事罰を課される場合もあります。
弊害はそれだけではありません。上場準備中の会社の場合税務調査を受けるリスクは高くなる(こちらの記事を参照)のですが、そこで重加算税などの重いペナルティを受けると、上場準備そのものが頓挫してしまう可能性もあるのです。
税理士法第33条の2の添付書面は、税理士が決算・申告に関する一定の事項を記載した書面を申告書とともに税務署へ提出する事で、これらの税務調査のリスクを大きく下げる(またはゼロにする)ことができる、画期的な制度です。
但し、この書面を提出するには、捺印する担当税理士が申告書提出までの業務について深く知らねばならず、また多くの文章を書く必要もあって手数が掛かります。このためもあってか、現在も申告書に対する書面添付割合は1割にも満たないと言われています。

2.税務署からの打診
税理士に依頼(委任)している方の場合、税務調査の対象になったら(税務調査の対象に選ばれるのはどのような場合かについてはこちらを参照)担当の税務署員から「原則として担当税理士に」税務調査日程の調整について電話が掛かってきます。直接電話したり、急にやってきたりすることはありません。これだけで税理士に依頼するメリットが十分あるというものです。
「税理士法添付書面」を提出している場合、税理士に電話が掛かってくるのは同じなのですが、税務調査の日程調整には入らず、税理士と税務署員との打ち合わせ(「意見聴取」)日程の調整となります。
今回も、4月初めに確定申告が終了して一時的に忙しさが落ち着く時期に連絡がありました。

3.事前の資料準備
意見聴取日程が決まりましたので、当日の資料を準備します。
決算や申告に関する詳細な内容は「税理士添付書面」に記載してありますのでほとんど説明は不要かと思われるのですが、そこは単なる文書、先方がこちらの意図した通り理解しているとは限りません。ということで、領収書・請求書といった補足資料や条文解釈の資料、場合によっては総勘定元帳などのデータを揃えておきます。

4.意見聴取当日
事前の打診時に決めた日時、準備した資料とともに税務署へ向かいます。当然ながらこの時点で納税者の方は同行はもちろん、他に何もする必要はありません。
税務署の担当部署に到着すると、調査官が出迎えてくれます。税務署は怖い所と思われているかもしれませんが、皆さんとても丁寧で穏やかです。
ご挨拶や雑談のあとは本題に入ります。納税者に関して、税理士法添付書面や持参した書類をもとに、税理士が詳しく調査官に対して説明し、これに対して調査官からも追加の質問などがあります。
これら一連のやり取りは、実は税務調査で行われるものの「縮小版」ともいえる手続なのです。従って、簡単なように見えてこの意見聴取を確実に進めるには税務調査立ち合いに十分な経験がある税理士が対応しなければなりません。
さて今回のケースは、少し残った疑問について2点ほど追加資料の提出を依頼されて終了となりました。

5.調査省略
事務所に戻り、早速追加資料を作成します。
今回依頼された資料は、特定の取引先に関する売上や外注費、その入金・支払に関するものでしたから、比較的簡単でした。
お客様に承認頂き、これらの資料を郵送したら完了です。
その後特に問題がない場合は、1~2週間待っていると、税務署から「調査は省略することになりました」というお電話を頂くことができます。
ただこの電話はあくまで内定で、完全に調査が省略される場合には「意見聴取結果についてのお知らせ(国税庁HPの文書例)」という書面が届き、正式に調査省略となります。

6.書面添付、意見聴取について
この制度、きちんと実践するには手間がかかりますが、申告書の品質は確実に上がります。そのため、第一義的には納税者や税理士が助かる制度であるものの、国税側も非常に力を入れていて調査官の協力体制も十分です。税務署はよく「税金を取ることだけを考えている」と思われていますが、一番大事なのは「法律通りの適正な申告・納税を行ってもらう」ことなので、こういった「真っ当な納税者の負担が減る」制度はあちらにとっても大きな意義があるのです。
しかし、それにもかかわらず税理士側の都合でなかなか使われていないのは正直残念なところです。
もし新たな税理士さんと契約される場合、「税理士法添付書面をつけてもらえますか?」と聞いてみては如何でしょうか。多くの税理士はいろいろな理由を述べて「意味がない」などと断るのですが、もし自信をもって「100%添付しています!」という税理士さん(若い方に多いです)でしたら、小さな規模でも是非契約を検討して見て下さい。

相続税の見積り計算と有利な贈与

1.相続税とは
人が亡くなった際にかかる「相続税」。
一般の人々にとってはなじみの薄いものだったのですが、昨年の改正によって相続税を払わなくてはならない対象者が増え、注目を浴びています。
この相続税、制度はものすごく複雑なのですが、簡単にいうと以下の通りの手順で計算されます。

①純財産…亡くなった時点の財産から負債を引いたもの。時価で計算します)
②基礎控除…相続人一人当たり600万円に、3000万円を加えたもの)
③(①-②)を法定相続分で相続したと仮定した場合の相続税額…①-②を法定相続分で割り、それぞれに相続税率を掛けます
④相続税総額…③を合計します
⑤それぞれの財産取得割合に応じて、④を再度配分します。

要するに、「全体を一旦法定相続分で分けたと仮定して総税額を計算し、財産取得割合に応じて分ける」という方法を採用している訳です。

この他、配偶者が財産を取得した場合の大きな特典や、その他控除、財産の時価を計算する場合の有利な制度等がありますが、今回は省略します。

2.財産に対してどれくらいの相続税がかかるか
相続税の「税率表」は、次の通りです。

相続税速算表
平成27年1月1日以後の場合の相続税の速算表(国税庁パンフより)

この税率表、見ての通り財産が増えると率も上がる「累進性」を取っています。

しかし、たとえば「法定相続分に応ずる取得金額」(1.の③を計算する際に利用します)が1億円から1.5億円になった場合、急に30%から40%になるかというとそうではありません。

右の「控除額」という欄を見て下さい。

税金を計算する際は、金額×税率から「控除額」を差し引きすることで、財産と税金の関係が滑らかな曲線に近くなるよう設計されているのです。2億円までの財産に対する相続税は、次のグラフのようになります。

相続財産と相続税の関係

相続財産(一人当)と税額との関係
(横軸が財産、縦軸が相続税額)

 

では実際にどれくらいの相続税がかかるのでしょうか。

財産や相続人の数応じてたくさんのパターンがありますから、ここでは3つほどの事例を挙げておきます。

1.と同様、税制上の特典利用等は省略していますので、相続人も配偶者なしの場合だけです。

①相続財産が5億円、相続人3人…1億2980万円(財産に対して約26%)
②相続財産が10億円、相続人3人…3億5000万円(同 35%)
③相続財産が1億円、相続人4人…490万円(同 約5%)

相続財産や相続人の数によって大きく変わることが分かって頂けたと思います。

相続財産、相続人と税金の関係については、当所のシミュレーションページにて色々と試してみて下さい。

3.「贈与税は高い」のホントと嘘
相続税は決して低い負担ではありませんから、生前に自分の財産を子供たちに移してしまい、相続税がかからないようにしたいと願うのは自然な流れかもしれません。

そうなると相続税が取れませんので、国は「贈与税」という制度を相続税法の中に置いて、そのような回避行為が出来ないようにしています。

贈与税の税率表は次の通りです。

計算方法は相続税と似ていて、贈与金額から基礎控除(110万円)を差し引いた金額に税率を掛け、控除額を差し引きます。

この計算に用いる贈与税の税率表(一般)は以下の通りとなっています。

贈与税速算表
相続税の表と比べて頂ければお分かりと思いますが、同じ税率に対して「対象となる財産の金額」が非常に低くなっています。ということは、より低い財産の時に高い税率が適用されるのです。

これが、贈与税が高いと言われるゆえんです。

このため、一般には「贈与は基礎控除(年110万円までなら税金がかかりません)までにすべき」という意見も良く聞かれます。

しかし、本当にそれだけが正しいでしょうか?

4.賢い贈与の利用
実際、贈与税の税負担はどれくらいでしょうか。
いろいろなパターンがありますが、例えば以下の通りになります。

(a)3人に110万円ずつ330万円贈与した場合…税額なし(財産に対して0%)
(b)3人に500万円ずつ1500万円贈与した場合…159万円(同 10.6%)
(c)1人に1500万円贈与した場合…450.5万円(同 約30%)
(d)1人に3000万円贈与した場合…1195万円(同 約40%)

これを2.の例と比較してみて下さい。

2.の例で説明した①の方は、何もしなければ相続財産に26%の相続税がかかります。となると、(a)、(b)の贈与を相続人の予定者(推定相続人と言います)に対して先に行っておけば、対象となる財産に関してはより低い税金で財産が移転出来ることになるのです。

同じく②の方ですと、(a)、(b)、(c)の方法までが有利となりますが、(d)は不利となります。

このように、相続税がかかる金額とその財産に対する比率を予想し、有利な贈与を毎年行っていけば、相続税は効果的に減らすことが可能です。

5.税理士の活用
ただ、良い事ばかりでもありません。この手法を使う場合には、例えば以下のような点に注意する必要があります。

  • 贈与税の申告が絶対に必要(贈与の翌年3月15日まで)
  • 相続発生以前3年内の贈与は、相続財産に含められる(払った贈与税は相続税の前払としてもらえる)
  • 財産の価値増減は読みにくく、有利と思っていたものが不利になる可能性もある
  • 時価の計算は、財産の多い人は全てが預金でもない限りは非常に難しい(特にオーナー会社の株式や不動産の時価計算)
  • 税額の計算シミュレーションは非常に専門的で、これもまた難しい

このため、この対策を採るに当たっては必ず相続税に強い税理士にアドバイスを依頼されることをお勧めします。

相続に「絶対的公平」はない~揉めない相続のために

いわゆる「相続税対策」や「事業承継対策」の仕事をしていますと、資産家や経営者の方々から「出来るだけ子供たちには公平に資産を分けたい」というご意向を伺う時が良くあります。

この「親が子を思う気持ち」、大変良くわかるのですが、悲しいことに相続において「絶対的公平」は不可能だと思って頂いた方が良いのです。

この記事に置いては、何故それが不可能かについて説明し、どのようにすれば「公平」が実現できるかについて述べてみたいと思います。

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1.財産分けの難しさ

相続において重要な「財産分け」。

この財産分けに置いては、よく「争族」と呼ばれるように揉めることが少なくありません。

なぜ単に「分ける」ことがそれほど難しいのでしょうか?

それは、相続をとりまくさまざまな法律や実務が極めて大きく影響しています。

 

今、100万円の預金があるとします。これをあなたとご友人の2人で「公平に」半分ずつ分けて下さい、と私が依頼した場合、あなたならどのように分けるでしょうか?

この場合は、当然ながら「50万円ずつ」が正解ですね。

しかし、同じ100万円であっても、一株の時価が現在100万円の株式ならどうでしょうか?

真っ二つに切り裂くわけにもいかないし、さりとて一人が一株を手に入れてしまえば、もう一人が受け取る分は無くなります。

このような場合、少し考えれば「株式を売却して現金化し、50万円ずつ分ける」ならば公平を保ったまま分けることが出来ると気づくかもしれません。

ではさらに、「その株式を現金化してはならない 」という条件が与えられた場合にはどうでしょうか。

幸運なことに、世の中にはこの問題に対する答えがきちんと用意されています。

株式をもらった側は、自らの手持資金から50万円を支出し、株式をもらっていない側に渡せばいいのです。

この場合、手持資金がなければ50万円を借りて支払ってもかまいません。なぜなら、手元には100万円相当の株式があり、50万円の借金が出来たとしても差引50万円の財産増加には変わりないからです。

ここでは、あなたが株式を受け取り、すぐに現金が必要であった友人はあなたから50万円の現金を受け取ったと仮定しましょう。

 

これで公平に分割が出来た、と思っていたあなたと友人は、後にそれが誤っていたことに気づきます。

というのも、この株式会社がその後すばらしい新技術を開発し、その技術を利用した製品の市場があまりに大きいため株価が一度に100倍になってしまったのです。

つまり、あなたの友人は50万円の現金しか手に出来なかったのに、あなたは一躍1億円(彼に先に50万円を支払っているから、正確には9,950万円)の価値ある資産を手に出来たことになります。

そうなれば、「損をした」友人はおそらく黙っていないでしょう。あなたの幸運をうらやみ、何がしかの補償を要求するかもしれません。分割時点では公平でも、結果として「公平」とはとてもいえない結果となったのですから当然とも言えます。

それに応じるかどうかはあなた次第ですが、いずれにせよあなたと友人の仲が悪化しないことを祈るばかりです。

さて一体、「公平な分割」とは何だったのでしょうか?

 

2.相続における財産分け(遺産分割)

このような問題は、当然ながら相続の現場において頻発します。

分割が「著しく不合理」であった場合には分割をやりなおすことも認められていますが、単に不動産の収益性の見込み誤り等による不合理については、そのような分割のやり直しを認められていません。

このような問題が起こる理由は、それほど複雑ではありません。

単に民法(相続法)、税法(相続税法)、経済実態(見込も含む)によって、全く「公平」の概念が異なるからなのです。

 

民法上の公平は、「相続が発生した時点の時価」によって評価した財産を公平に分割することにより実現できます。この民法の考え方が最も私たちの常識に近く、一般的であると言えます。

しかし経済実態上の公平は、その時点での時価評価だけを考えていては実現できません。

将来についても予測可能な範囲で考慮することが必要となります。
先の例で言えば、分割する時点で件の新技術の開発が実現していたならば、その果実を見込んで発生した株価上昇による利益の一部はあなたの友人にも当然与えられるべきであるとも言えます。

 

税法に基づいて公平を考えた場合には、民法の考え方とほとんどの場合同じ考え方となります。

なぜなら、相続税が課税される財産を計算する際は、原則として民法と同様に時価を採用するからです。

しかし、税法には他と大きな違いがあります。それは税法上の優遇措置などの政策的項目です。

一般的なものは下記の通りです。

 

・  小規模宅地等の評価減…居住用、事業用の宅地については大幅な減額が認められる

・  基礎控除、生命保険料控除…相続人数に応じて、非課税となる金額が増加

・  配偶者の税額控除…配偶者の相続分は、法定相続分か1億6000万円のいずれか多い方まで非課税

・  株式の評価手法…同族株主グループかどうかによって大きく時価が異なる

 

これらは、当然ながら時価で計算した結果との乖離を生み、当然ながら相続税額の計算にも影響を与えます。たとえば、配偶者の税額軽減など相続財産の配分方法によって税額そのものが変わってくるような制度の場合であると、民法上の公平を実現しても、税法上はもっとも税額を圧縮したとはいえなくなる場合が出てきます。

 

3.財産分け時の配慮

同じ「財産を分割する」ということであっても、法律等の考え方の違いで大きな差が発生することが分かって頂けたでしょうか。

当然ながら、民法、税法、経済実態のうちひとつの考え方だけを採用して分割を決定した場合、税金面で割高となったり、損をした(と感じる)他の相続人等から異論が出て来る可能性は高くなります。

財産分けを行う場合にはこれらのうちどの考え方を採用するかについて常に注意を払い、各相続人等に納得してもらう必要があります。

この納得してもらう方法にはいろいろありますが、やはり一番は被相続人となる予定の方(親など)が相続人となる予定の方(推定相続人)対してきちんと説明しておくことが大事です。またこれらを遺言によって説明しておくことも大変効果的です。

(参考:事務所ブログ 「遺言を書こう」

もちろん相続税を計算するわれわれとしても、分割の決定まではこれらを出来るだけ詳しく、わかりやすく説明することが不可欠であると考えています。

以上