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広大な土地の相続税~億単位で相続税が変わる!

相続税は、税理士にとっても非常に難しい分野の一つです。
今回は、相続税における土地の評価方法と、大きな土地を所有する方にとって特に影響が大きい「広大な土地」の評価方法及びその改正についてご説明します。

広大地

1.相続税と土地
相続税を計算する際、土地がある場合には原則として「路線価方式」や「倍率方式」で相続税のかかる時価を計算します。
路線価方式は、路線価(その道路に面している標準的な宅地の㎡単価)に、土地の状態に応じた調整を施した価格に面積を掛けたもので、いわゆる「土地の相続税評価額」としては最も一般的なものです。
また倍率方式は、山間部など路線価が設定されていない地域の土地に関して、その固定資産税評価額に地域の状況を踏まえた倍率を乗じて計算する時価です。
これらの路線価や倍率は現在インターネット上に公開されており、誰でも確認することができます。

2.広大地
ところが、このような評価が当てはまらない土地が時々あります。これが「広大地」と呼ばれる種類の土地です。
例えば1000㎡を超えるような土地の場合、昨今は大きなお屋敷などを建てたりはしませんので、一般的な大きさの住宅として分譲する場合がほとんどです。
しかしそのような場合には、どうしても道路(公衆用になるので、その部分の販売価値がなくなる)を作らなければ開発許可が下りないことになります。
そこで、従来からこのような広大地については、一般的な路線価方式や倍率方式よりも大幅に評価が低くなる方式(比例的な一律減額方式)が定められていました。
この結果、広大地に該当することとなれば、どんな土地でも大幅に相続税のかかる時価が低くなる結果が出る状態となっていました。

3.改正
このような問題に対処するため、平成29年に改正が行われました。
まず「広大地」という用語は「地積規模の大きな宅地」と変更され、地積(面積)や所在地域の容積率(※)に応じた判断が明確になりました。具体的な適用要件は下記の通りです。

※ 建物の延床面積を敷地面積で割った割合。建築基準法に基づき、地域や構造に応じて容積率の限度、すなわち敷地に応じてどれだけの大きさの建物を建築できるかを決めています

①地積が500平方メートル(三大都市圏以外は1000平方メートル)以上の宅地
②普通商業・併用住宅地区及び普通住宅地区として定められた地域に所在
③次のA~Cのいずれにも該当しない
A.市街化調整区域(都市計画法に規定する開発行為を行うことができる区域を除く)に所在
B.都市計画法に規定する工業専用地域に所在
C.容積率が400%(東京都の特別区においては300%)以上の地域に所在

また、評価方法は下記の通りとなりました。
路線価×地積×補正率(計上・奥行による)×規模格差補正率(面積による)

この改正によって、改正前の広大地評価よりも評価減割合が通常縮小することになります。また上記の改正は、平成30年1月1日以後の相続等により取得した財産の評価に適用されます。

4.注意点
「広大地」や「地積規模の大きな宅地」の改正は上記の通りなのですが、実はこれらの難しさは計算そのものではなく、判定の為の条件(地積の測定や地域の判断、容積率のチェックなど)にあります。私たちは多くの相続税申告をこれまで手掛けており、その中には土地の相続税評価額(時価)計算が含まれるものも多いのですが、一般的に土地の評価はこれらの基礎調査が難しく、その内容によってはかなり大きな金額で相続税が変わる(損になる)場合もあり得ます。この「広大地」や「地積規模の大きな宅地」は、面積が大きい分その影響も大きくなります。

このため、私たちはこのような評価が必要な場合には不動産鑑定士などの専門家を活用するだけではなく、信頼のおける不動産業者や役所などとも綿密に連携し、場合によってはこれらの分野を専門とする事務所とも連携することで適切な相続税が計算できるよう十分に配慮しています。

コラム「相続の基礎」⑥相続争いと事例

4.相続争い

1)相続はほとんどがもめる?
大半の相続は円満に終わることが多いと思うのですが、ときどきいわゆる「争族」(そうぞく)と呼ばれる相続争いに陥ってしまうことがあります。

ものの本などを読むと「ほとんどがもめる」ようなことを書いてありますが、そんなに何もかもの事例で争いが起こっているわけではありません。

ただ、相続争いになるようなケースというのは財産総額が大きい場合が多く、しかも一度揉め出すと、裁判になる場合はもちろん、そこまで行かなくても外見的にも目立ってしまいます。このため、相続争いがよく起こっているように見えるのでしょう。

2)相続争いの例
では、相続争いの事例として、一澤帆布(京都)のケースをご紹介しましょう。
このケースは、世間から大変注目されただけではなく、相続の観点から見て面白い論点がたくさん含まれています。

①状況

  • 三男は20年以上先代と一緒に仕事をし、社長にも就任していた
  • 長男は銀行員
  • 次男は既に故人、四男は一旦一緒に働いていたが退社
  • 先代は顧問弁護士に以下の遺言書を託していた
    「会社の保有株2/3を三男夫妻に、1/3を四男に、その他銀行預金等を長男に相続させる」

②先代に相続発生

  • 2001年3月に先代が死去
  • 長男が、上記の遺言書より後の日付となる遺言書を提出。内容は以下の通り。
    「会社の保有株株式8割を長男に、2割を四男に相続させる」
  • 上記遺言の疑問点
    -事業を円満に手伝っていた三男に対して何の配分もない
    -弁護士保管の遺言書の捺印は実印だが、三文判が使われている
    -しかもその文字は、先代が書かれることを嫌がっていた「一沢(一澤ではなく)」表記
    -遺言書の日付時点において、先代は文字を書くことも困難な状況だった

③裁判の応酬

  • 三男は、第二の遺言が「無効」であるとして提訴
  • 最高裁で三男が敗訴
    「無効であると言える十分な証拠がない」という理由で、本物かどうかまで踏み込んだ論点ではなかった
  • 社長に就任した長男が三男に店舗や工場からの立退きを求めたため、三男や職人が一斉に別の会社・店舗へ移転
  • 長男が三男を権利侵害として提訴
  • 三男の妻が、第二の遺言書が「本物でない」ため無効である等という別の論点で提訴
    ※元々の訴訟に参加していなかったため、一事不再理の原則(いったん結論の決まった論点で二度裁判はできない)が適用されず、再度訴訟提起が可能となった
  • 第二の遺言書が「本物ではなく」無効であるとする判決を大阪高裁が出し、最高裁判所が長男の上告を棄却(最初の訴訟とは論点が違うことに注意)

3)相続争いを防ぐには

  • 生前から親族を仲良くさせること
  • 生前からの後継者教育を適切に行うこと
  • 遺言をきちんと書き、各人に明らかにしておくこと
  • 相続、相続税の手続を、相続人+αに対してガラス張りにすること
  • 良い税理士、弁護士を良い理解者として助けてもらう
    良い税理士、弁護士とは?:人生経験や常識的なものの見方は絶対に必要
  • 法事を手厚くすること
  • 金融機関の役割は?
    相続争いが発生した場合は金融機関にとってもリスクがある
    訴訟リスク、貸倒リスク、預金流出リスクなど
    金融機関が相続争いを防ぐ事は可能か?
    →厳格かつ理由をきちんと理解した手続

(第6回 完)
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相続税の計算(概算シミュレーション・税制改正/増税対応)
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  • 相続財産、相続人(配偶者と子供の場合に限ります)から概算の相続税額
  • 相続税として納めなければならないのは、相続財産の何%に当たるか
  • その割合以下で子供に対して有利な贈与をするには年間一人当たりいくらまで贈与可能か

コラム「相続の基礎」⑤相続と戸籍

3.相続と戸籍
1)戸籍の基本
戸籍制度の発足は明治時代の初期まで遡ります。実はこの戸籍は日本独特の制度であり、海外には日本のような戸籍制度のない国もたくさんあります。ただ戸籍の歴史や制度については私も専門ではありませんので、ここでは戸籍が何のためにあるかだけご説明しておきます。

戸籍は、以下の通りの目的をもっています

  • 本人の存在証明
    本人が日本人として存在していることを証することができます。ただ、最近はいろいろな制度の隙間の影響で「無戸籍の日本人」が問題になっています。
  • 親族関係が確認、証明できます。
    戸籍を見れば、親子関係や婚姻関係などが分かるようになっています。戸籍の筆頭者を中心に、配偶者や子などその家族関係が示されています。
    なお非嫡出子を認知した場合、父親の戸籍には身分欄にそのことが記載され、母親の戸籍には子として入籍することになります。

戸籍をみれば出身が分かるという方もいますが、実は現在の戸籍において本籍地は位置情報としての意味をあまり持ちません。転籍することは自由ですし、子も成人すれば自由に分籍をすることができます。

現在の本籍地のイメージとしては「各人を戸籍に登録する」場合のID番号的な位置付けでしかないようですので、山の頂上や遊園地など、住所を識別可能な場所であればどこでも設定ができるようです。

戦前など旧民法時代の戸籍は、家制度を非常に強く反映したものでしたが、現在はもう少し緩く、個人(結婚している場合には夫婦)を中心としたものとなっています。

2)人が亡くなったときはどのような流れで戸籍に記載されるか
人が亡くなった時は、その親族や同居人、大家さんなどがその死を知ったときから7日以内に死亡届を出さなければいけません。この死亡届は亡くなった人の本籍地に出す必要がありますが、死亡地でもこれをすることができます。

この死亡届が受理されると、その人は戸籍から除かれる事になります。これを「除籍」といいます。

但し死亡した人が戸籍の筆頭者の場合、除籍されてもその戸籍の筆頭者はそのままです。これは、本籍地と同様、筆頭者がデータベースで言うインデックスのような役割を担っているからです。

3)相続人を特定するために必要な戸籍とは
法定相続分は親族関係によって決まりますから、その特定は非常に大切です。例えば、子や親がいないと思って兄弟が相続しようとしたのに、実は婚外の子供を認知していたなどという事があれば、相続関係が完全にひっくり返ってしまいます。このような関係をきちんと調査するには、戸籍を調べる以外の方法はありません。

現在は戸籍が電子化(コンピュータ化)され、昔からの戸籍とコンピュータ化された戸籍が混在している状況にあります。新しい戸籍には古い戸籍から必要な情報のみが転記され、引き継がれていますが、全てが記載されている訳でもありません。このコンピュータに転記された元になる戸籍を、「改製原戸籍(かいせいはらこせき)」と言います。通常手書の古い書類をスキャンして作成されているため、かなり判読の難しいものが多いです。

戸籍謄本の収集はこれ以外にも注意点があり非常に難しいので、通常は市町村の戸籍係と十分に議論をした上で入手することにしています。

(第5回 完)
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コラム「相続の基礎」④遺言、遺産分割について

5)遺言書
①遺言とは
「ゆいごん」については皆さんある程度ご存じと思います。この「ゆいごん」、法律上は「いごん」と読みますが、今回は「ゆいごん」で統一したいと思います。弁護士さんとお話しする場合などは「いごん」と読むと良いかもしれません。

さて、遺言とは「人が自分の死後一定の効力を発生させる目的で、一定の方式でなされる相手方のない単独行為」のことを言います。簡単に言うと、人が自分の死後、一方的に「あれをしろ、これをしろ」と命令することです。

人の死後は、よほど霊感の強い方でもなければ現世とのコミュニケーションは取れませんので、勝手な事がなされないよう遺言については法律で厳格に要件が定められています。また、法律上遺言で指定出来るのは先ほど説明しました認知、相続分の指定、遺贈などに限られています。

②遺言書の種類
さて、民法上、遺言には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類が定められています(民法967条)。この他に臨終の場合や船舶中など、やむを得ない場合の特別な方式もありますが、今回は省略します。
では、これらの遺言方式の特徴について説明します。

<自筆証書遺言>
自筆証書遺言は、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自署し、これに印を押すことで作成できます。
この方式の長所は、紙一枚あれば容易に作成できることにあります。その反面、専門的知識のない方が書いた場合は法律的な要件を満たしていなかったり(日付の抜け、不動産の指定間違いなどが良く発生します)、間違いなく本人が書いたかどうか不明になる場合などの問題も発生しがちとなります。
また、改ざんを防ぐために封をした場合、相続発生後開封するためには家庭裁判所に持ち込み、検認という手続を受けなければならなくなります。

<公正証書遺言>
公正証書遺言は、証人2人が立ち会った上で公証人に遺言の内容を伝え、これを公証人が筆記、遺言者や証人が確認の上、公証人を加えて全員が署名、押印することによって作成します。作成した遺言書は、原本を公証役場に保管し、控を遺言者が持つことになります
この方式は、作成が公証人であること、また遺言書の原本が公証役場に保管されていることから、その証拠能力が非常に高いところに長所があります。また、公証人がその内容についてかなり厳密にアドバイスしてくれる場合も多く、無効な内容となる可能性が非常に低くなります。しかし、公証人に対しては相続人数や相続財産の額に応じて所定の手数料がかかりますし、証人の確保についても、単独で作成可能な自筆証書遺言より手間がかかると言えます。

<秘密証書遺言>
秘密証書遺言は、遺言者が署名押印した遺言書を封印し、これについて公証人及び証人2人の前に提出して「自分の遺言である」旨を述べた上で、公証人が日付などを記載、証人と遺言者が自署押印する方式です。
この方式は、遺言書を秘密に出来るというメリットがあるのですが、誰の目にも触れないため、開封した際内容に不備があれば無効になるという大きなリスクがあります。また相続発生後開封するためには家庭裁判所に持ち込み、検認という手続を受けなければならないことや、公証人の手数料がかかることなどのデメリットもあります。

③遺贈・死因贈与について
民法には、相続以外にも人の死に起因して財産などが移転する場合が規定されています。それは、遺贈(いぞう)と死因贈与です。これらは贈与の一種であるという点で共通なのですが、それぞれ次の様な違いがあります。

遺贈とは、遺言によって財産を贈与する行為です。この遺贈には受け取る側の意思は必要なく、遺言にて一方的に「○○は△△に遺贈する」と書けば足ります。

これに対し、死因贈与は贈与する者の死亡によって効力が生じる、贈与する者の生前に締結された贈与契約を言います。死因贈与の場合は、遺贈と異なり遺言に記載する必要はありません。また贈与する者と贈与される者の間に合意(あげます、もらいます)が必要となります。

これらは、民法が規定する親族など、相続の対象となる者以外に財産を分けたい場合に利用されます。例えば、内縁の妻や、親族以外でお世話になった方に対して財産を一部または全部移転したい場合に利用します。

なお、相続税法上はこれらも相続とほぼ同等に扱われますので、遺贈や死因贈与を受けた人は、相続した方と同等の相続税を負担することになります。

④遺留分
元々、遺言という制度は被相続人が自由に相続人などに対して自分の財産を分配するためにあるのですから、好きなように内容を書いてもその通りになるというのが原則です。

しかし、被相続人が相続人以外の者に全財産を渡してしまった場合や、特定の相続人だけに相続させた場合や生前贈与をした場合には、他の相続人は全く遺産を相続することが出来ません。

ただ、相続人が被相続人の財産形成に貢献した場合も考えられますし、ひょっとしたらその財産がもらえなければ相続人が生活に困窮する事もあるかもしれません。

このような考え方に基づき、民法においては法定相続人に最低限の遺産をもらえる権利を保証しています。この権利に当たる部分を「遺留分」といい、その請求を行うことを「遺留分の減殺請求」といいます。

父母や祖父母など、直系尊属のみが相続人の場合には法定相続分の1/3が、またその他の場合には1/2が遺留分となっています。また、兄弟姉妹には遺留分が認められていません。

⑤遺言書を作成する必要があるのは?
一言で言うと、「法定相続割合によらない配分方法で財産分けを行いたい場合」には遺言を書く必要があると言われています。そのようなケースをいくつか説明します。

  • 子供達やその配偶者同士の仲が悪い場合
    このような場合、ある程度それぞれが納得出来る範囲で財産分けを指定することで、相続財産を巡る争いでさらに関係を悪化させる事態を防ぐ事も可能です。
  • 夫婦に子供がなく、兄弟姉妹が疎遠な場合
    そのまま夫婦のどちらかが亡くなった場合、相続財産は生きている配偶者だけではなく、兄弟姉妹にも相続分が残ります。
    配偶者に全ての財産を移転したい場合は、「全財産を配偶者に相続させる」旨の遺言を作成しておけば、兄弟姉妹への相続分は発生しません。兄弟姉妹以外の相続分の場合は、先にご説明しました「遺留分」があるのですが、これまた先にご説明しました通り兄弟姉妹には遺留分がないため、このような事が可能となるのです。
  • 行方不明者がいる場合
    行方不明で連絡の取れない推定相続人(相続人になる予定のある人)がいる場合には、家庭裁判所などで「財産管理人」を選任してもらわなければ遺産の分割協議が出来ません。このような場合でも、遺言を作成しておけば、遺産分割協議の必要がなくなるためスムーズな相続手続が可能となります。

⑥改正について
平成30年7月6日、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立、同年7月13日に公布されました。これは一般に「改正相続法」と言われており、この分野においては約40年ぶりの大改正となっています。
その改正の中で、遺言に関しては「自筆証書遺言の様式」「法務局での遺言書保管制度」の2つが改正されています。

ア)自筆証書遺言の一部PC作成などを容認(平成31年1月13日から施行)
改正前は、自筆証書遺言については一言一句本人が手書で作成する必要がありました。
しかし改正後、遺産の目録をパソコンで作成したり、通帳のコピー、不動産の登記事項証明書、固定資産税の名寄帳などを添付して代用することが可能になりました。
但し、使用する目録の全てのページに署名捺印が必要とされています。

イ)法務局での遺言書の保管(令和2年7月10日から施行)
改正前の自筆証書遺言は、遺言した者が自宅などで保管することが一般的でした。
しかし、紛失や偽造など問題が起こることもあり、相続手続上のトラブルの種となっていました。
そこで、今回の改正により自筆証書遺言を法務局で保管することが可能になったのです(手数料3,900円/件)。
また、この保管された自筆証書遺言については、前述の検認手続(結構面倒です)が不要となります。

なお、遺言書の詳細や具体的な書き方については、弊所ブログ「遺言を書こう!~自分と家族の幸せのために」を是非参考になさって下さい。

6)遺産分割・未分割
①遺産分割協議、遺産分割協議書
被相続人が生前に遺言書を作成していなかった場合、または遺言書に記載されていない財産などがあった場合には、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成する必要があります。また、希にですが被相続人が残した遺言書と違う財産の配分などを行う場合も遺産分割協議が行われます。

なお相続人の中に未成年者がいる場合は、相続人の構成を確認した上でその未成年者に法定代理人をつけなければなりません。未成年者が法定代理人の同意なく行った法律行為は取り消しうるからです。法定代理人には通常親がなりますが、親も相続人など利益相反が懸念される場合は、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てることになります。

②分割が未了の場合はこんなにリスクが
民法上は、遺言や遺産分割協議による遺産分割が終了しない場合は、法定相続分に基づいて相続人全員が共有して相続したものと見なされます。

しかし、相続税の世界においては非常に大きな問題があります。それは、相続税における各種特例、すなわち税金を軽減してくれる制度のうち、重要なものが相続税申告書提出期限(相続開始後10か月)内に遺産分割協議が終了していることを要件としているからです。

例えば、後に説明する「配偶者の税額軽減」は、配偶者が相続した財産が法定相続分か1億6000万円のどちらか少ない金額まで税金が係らないという大きなメリットがある制度なのですが、相続税申告書の提出期限までに遺産分割協議が終了していなければその制度が使えません。この他にも遺産分割の完了を条件とする制度がありますので、やはり遺産分割は円満に、迅速に終えておく必要があると思います。

(第4回 完)
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コラム「相続の基礎」③単純承認・限定承認・相続放棄

2)単純承認・限定承認・相続放棄
被相続人が亡くなり相続が開始した場合、そこから(知らなかった時はそれを知った時から)3か月以内は、相続の手続において最も重要な期間であると言えます。財産がたくさんあって、相続人全員で仲良く財産分けが出来る状況なら良いのですが、仮に被相続人が多額の債務だけを抱えて亡くなった場合には注意が必要です。

このような場合、相続人が何もせず一定の期間を経過すると、被相続人の抱えていた多額の債務がそのまま相続人達に強制的に引き継がれてしまうのです。これを「単純承認」といいます。

そのような事態とならないために、民法には「相続放棄」や「限定承認」といった手続が定められています。

「相続放棄」は、民法第939条において「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」と定められており、財産も債務も引き継がないことが可能となります。(相続放棄については、弊所ブログ「相続放棄って何?」に詳しく説明しています)。

ところで、単純承認で相続人が複数いる場合、遺産分割によって債務の相続人を定めたとしても、それだけで他の相続人が債務から逃れられる訳ではありません。
もし債務を引き継いだ相続人が破産などした場合、他の相続人は連帯債務者として支払義務を負う場合があります。これを「重畳的債務引受け」と言います。
これを防ぐためには、債権者と債務を引き継いだ相続人が「免責的債務引受契約」を締結しておく必要があります。

また、相続財産もある程度あり、しかし債務もかなり多く、相続放棄、単純承認のどちらをすべきか明らかでない場合には、限定承認という手続を行います。

限定承認とは、相続財産を限度として債務を引き継ぐことを言います。単純承認の場合は、相続人が引き継いだ債務の弁済のため相続人固有の財産まで引き出される可能性もありますが、限定承認ならそのような危険はありません。また、債務を弁済した後に残余があれば、相続人が残余財産を相続出来る事になっています。

限定承認の手続は相続人が全員で行う必要がある他、財産目録の作成、公告、競売など様々なものが細かく定められていますが、現在は使われることが少ないため説明は省略します。

3)保証債務と相続
保証債務は、保証人が死亡しても原則として消滅しません。これは、保証人の死亡という偶然の事情によって、債権者が不測の損害を被ることを防止するためです。このため、保証債務は法定相続分に応じて各相続人に引き継がれることになります。

しかし、身元保証債務や根保証については、長期間にわたって保証することになることが多く、また責任も広範になるおそれが大きいことから、これを相続人に相続させると、相続人の負担が大きくなります。そこで判例は、これらについては相続されないとしています。ただ、相続の時点で具体的に発生していた保証債務については相続されます。

相続手続の際には、実債務だけではなく、このような保証債務がないかどうかについても慎重に検討する必要があります。

(第3回 完)
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コラム「相続の基礎」②相続人や養子について

2.相続の手続
ここまで、「相続とはなにか」という観点からご説明をしてきました。ここから先は、相続における実際の手続についてご説明します。ただ、相続に関する手続は非常に多いため、主なものだけに絞っております。

1)相続人や養子、その他相続する権利のある者
①法定相続人
相続においては財産に目が行きがちですが、実は相続が発生した場合、最も重要なのは「誰が相続人となるべきか」です。この相続人については、民法において詳しく規定されています。この項目においては、この「法定相続人」についてご説明します。

まず、被相続人に配偶者が居る場合、その配偶者は必ず相続人になります。

配偶者以外の相続人は、以下の順位で相続割合を決めると定められています。

  • (第1順位) 子 全体の1/2を各人で配分、配偶者は1/2
  • (第2順位) 直系尊属(親、祖父母など)  全体の1/3を各人で配分、配偶者は2/3
  • (第3順位) 兄弟姉妹 全体の1/4を各人で配分、配偶者は3/4

すなわち、子がいる場合は子のみが、子がおらず親などの直系尊属が居る場合には直系尊属のみが、そして子も直系尊属もない場合には兄弟姉妹が法定相続人となります。

②代襲相続人
ここまで法定相続人について説明してきました。では、上記の相続人となるべき者が既に亡くなっている場合はどうなるでしょうか?このような場合、その亡くなっている人に子や孫がいるならばその子や孫が死亡した者に代わって相続することになります。このような相続人を「代襲相続人(だいしゅうそうぞくにん)」と言います。

第1順位の相続人が亡くなり、その子が居る場合にはその子が代襲相続人となります。また、その子も亡くなっている場合には孫が代襲相続人となります。亡くなった相続人に子が複数名いた場合は、そのそれぞれで均等に配分します。但し、第3順位の場合の代襲者はその子(被相続人から見れば甥、姪)までが代襲相続人となることされており、第1順位の場合より範囲が狭くなっています。
また第2順位の親や祖父母の子は被相続人やその兄弟姉妹ですから、代襲相続人の考え方としては意味を持ちません。

後述(⑥)する「欠格事由」、「推定相続人の廃除」で相続人から外された者が亡くなっている場合も、その子があれば代襲相続をすることになります。これに対して「相続放棄」した者が亡くなった場合に代襲相続はありません。前述の2つの場合と異なり、自ら相続権を放棄した訳ですから、代襲させる必要がないという訳です。

③胎児の扱い
民法は、まだ生まれてきていない胎児についても特殊な権利を認めています。
民法第886条第1項は、相続における胎児の地位について、例外的に、「相続に関しては胎児は既に生まれたものとみなす」としています。

胎児には出生まで権利能力はないと考えられていますが、生存状態で生まれてきたことを条件として、出生により生じた権利能力が問題の時点、すなわち相続の時点などにまで遡って生じたものとみなして扱うという考え方となっています。

ただし、残念ながら死産となった場合には、「みなす」項目が意味を失い、最初から居なかったことになってしまいます。

④養子縁組
養子縁組とは、実の子でない他人に親子関係を法律上発生させる事を言いますが、民法は養子について、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2つを定めています。
これらの違いは、実の親との親族関係が残るかどうかにつきます。つまり、普通養子縁組の場合、養親との親族関係が成立しても実の親との親族関係が残りますが、特別養子縁組の場合、実の親との親族関係は無くなってしまいます。

どちらの養子とするかに係わらず、養子縁組によって親子となった者(養子)と親となった者(養親」との間は実の親子と同じ親族関係が発生するため、相続に関する権利も実の親子と全く同じとなります。

さて、後の「相続税」に関する項目でお話しますが、相続税は子供が多ければ多いほど少なくなります。養子も子として数えられますし、民法上は養子人数に制限はありませんので、どんどん養子を増やせばどんどん相続税が少なくなることになります。実際に、かつてはこれを狙って何人もの養子をかかえるケースも少なくありませんでした。

このように課税回避を目的とした養子の増加が目に余る状態となったため、昭和63年の相続税法改正で以下のような制限が設けられてしまいました。

  • 実子がある場合は1名
  • 実子がない場合は2名
  • 上記を超える養子については、税法上は「いないもの」として計算する

また、財産に相続税が課される回数を少しでも少なくしようと、従来から孫を養子にする方法が良く採られてきました。このようにしておくと、孫に相続される財産には通常親(1回目)、子(2回目)と2回相続税が課されるのに対し、親の1回しか相続税が課されないからです。

しかしこれについても、平成15年の相続税法改正で制限が設けられました。その結果、孫を養子にした場合その養子に課される相続税は2割増になるという制度です。

⑤非嫡出子の認知
「非嫡出子」(ひちゃくしゅつし)と読みますが、これは、「婚姻関係のない男女間に生まれた子」のことを言います。このような非嫡出子の場合、認知によってはじめて法律上の親子関係が発生することになります。この言葉の逆の意味が「嫡出子」です。

この認知は父親だけに対するものとなっています。母親の場合、分娩という厳然たる事実ある訳ですから、あらためて認知する必要はないわけです(このあたり最近の出産事情はだいぶ変わってきているようですが、法律が追い付いてないようです)。

なお、認知には任意認知(自分で行う認知)と強制認知(調停による認知)がありますが、いずれにしても「出生の時にさかのぼって効力を生ずる」とされていますので、生まれたときにさかのぼって子としての権利を得ることになります。

⑥欠格事由、推定相続人の廃除
何もなければ法定相続人として相続する権利がある者であっても、民法上その権利を亡くしてしまう幾つかの場合が以下の通り規定されています。

(1)欠格事由
親兄弟の殺人等で刑罰を受けたり、遺言書を偽造・変造もしくは詐欺・脅迫で作成させるなどした場合
(2)推定相続人の廃除
被相続人に対する虐待や重大な侮辱などをしたことで、被相続人からその生前に相続人の排除を家庭裁判所に請求された者や、遺言で排除された場合
(3)相続放棄
相続人が自ら相続に関する権利を放棄することを言います。

なお、欠格事由や排除、相続放棄があった場合でも、その子には前述の通り代襲相続権がありますし、後でご説明する相続税の計算上は、相続人が居るものとして計算します。

⑦内縁の妻の場合
長年連れ添った相手が内縁の妻(または夫)という場合はどうでしょうか。よく言われるように、いわゆる事実婚と言われる相手には何年仲むつまじく暮らそうが、事業や仕事に貢献があろうが相続権はありません。

このような場合、後で説明する遺言を書き、財産を残す配慮をする必要があります。
様々な事情があるかと思いますが、やはり財産を残してあげたい場合には「事実婚」だといろいろな無理が出て来ます。

⑧特別受益者、寄与者
前述の通り、相続は、基本的には遺産総額を各人の法定相続分で分ける事となっています。しかし、例えば生前の被相続人に対して、財産を大きく増やすことに貢献した相続人や、逆に生前の被相続人から多額の贈与を受けた者があれば、これらの相続人に対して単純に法定相続分で財産を分けると不公平となります。

民法においては前者を「特別受益者」といい、後者を「寄与者」といいます。これらの者があるときに法定相続分を計算する場合、本来の相続財産に「特別受益」部分を加え、これを特別受益を受けた相続人が相続したと見なしたり、また相続財産から「寄与分」を除いて相続分を計算したりして調整します。

⑨相続人がいない場合(不存在)
相続人の存否が不明な場合や、相続放棄により相続人が存在しないこととなった場合、利害関係人は家庭裁判所に相続財産の管理人の専任を請求できます。

この管理人は、以下のような手続を行います。

  • 相続財産(法人として取り扱います)の管理
  • 不明となっている相続人を捜索
  • 債務の弁済
  • 相続人の不存在が確定した場合の特別縁故者への財産分与
  • 残余財産の国庫への帰属

(第2回 完)

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相続税の計算(概算シミュレーション・税制改正/増税対応)
相続税が気になる方は、弊所のシミュレーションページを是非ご活用下さい。
無料で以下の情報を確認できます。

  • 相続財産、相続人(配偶者と子供の場合に限ります)から概算の相続税額
  • 相続税として納めなければならないのは、相続財産の何%に当たるか
  • その割合以下で子供に対して有利な贈与をするには年間一人当たりいくらまで贈与可能か

コラム「相続の基礎」①相続・相続税とは?

1.相続とは
1)相続はいつ起こるか
そもそも、「相続」とはなんでしょうか?この事を説明する前に、皆さんに相続というもののイメージを問うて見たいと思います。例えば、以下のようなところでしょうか。

  • 相続はなんだか恐いものだ
  • 相続は人が死ななくても起こる場合がある
  • 相続があると必ず税金がかかる
  • 相続があるとマルサが入る
  • 財産がなければ相続のことは考えなくても良い

相続とは、「人間の財産や負債、権利、義務の一切を他の人間が受け継ぐこと」を言います。この場合の「人間」は、当たり前ですが私たちのような自然人に限られ、会社などの法人は含まれません。

また、よく言われるように「相続イコール財産分け」でもありません。プラス財産だけではなく、マイナスの財産(債務)も対象に含まれます。
簡単に言えば、「誰かの一切合財をそのまま受け継ぐこと」と表現してもよいかもしれません。

では、相続はどんなときに起こるのでしょうか。先ほど、「民法」が相続の基本的な事項を規定しているとお話しました。民法882条には、「相続がいつ起こるか」についてこんな規定があります。

「相続は、死亡によって開始する。」(民法882条)

これ以外にも、失踪宣告といって、行方不明者の生死が7年間明らかでないときなどの場合、家庭裁判所への申立てによって行う「失踪宣告」によっても相続は発生します。失踪宣告とは、生死不明の者に対して、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度です。また、日本国憲法が施行される前の旧民法においては、「家督相続」における「隠居」のように、死亡を原因としない場合もありました。

さてここで、亡くなった人や相続する人などという一般的な言葉の代わりに、相続や相続税で使われる専門用語を定義しておきます。このコラムにおいては多用しますので、ぜひ認識しておいて下さい。

  • 被相続人(ひそうぞくにん) … 亡くなった人など
  • 相続人(そうぞくにん) … 被相続人から財産などを相続する人
  • 一般承継(いっぱんしょうけい) … 相続によって財産等を受け継ぐこと
  • 特定承継(とくていしょうけい) … 譲渡などによって財産等を受け継ぐこと

2)相続で何が起こるか
①相続は財産だけの移転ではない
では、相続が起こるとどんなことになるのでしょうか。これについても、民法に規定があります。

(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

「一切の権利義務」とあります。つまり、財産だけが移転するわけではなく負債(義務)も移転するのです。もっと言うと、単なる資産や負債でも足りず、権利や義務全てを受け継ぐことになるのです。この「一切合切を受け継ぐ」という点については、次の項目にも関係しますので、そこでも詳しくお話します。

なお、「被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」とありますが、これは何でしょうか。これは「被相続人だから」存在した権利義務のことを言います。例えば、雇用契約などがこれにあたります。こういう権利義務は、被相続人が生存しているからこそ有効になるものだからです。

②一般承継と特定承継
先ほど、用語の定義で「一般承継」と「特定承継」という言葉を簡単にご説明しました。
売買のような「特定承継」は、単に所有権だけが移動するイメージですが、相続などの一般承継は、たとえば「被相続人がその財産いつどこで幾らで買ったか」などの一切合切を受け継ぐことになります。

例えば税金の世界においては、何らかの資産を譲渡した場合の所得は

譲渡代金 - その資産を取得した際の支出(*)

として計算されますが、対象の資産が相続されたものである場合は、(*)については被相続人(被相続人も相続した場合はそのまた被相続人、と延々続く)が取得した時の支出となります。また、いつ買ったか等が重要となる税務上の特例などの場合も、被相続人が購入した際のものが相続人に引き継がれます。

3)相続と相続税の違いとは?
これらの言葉は非常によく似ていますが、概念も基づく法律も全く異なります。簡単にその違いを定義すると、以下の通りになると思います。

  • 相続
    人間が死んだとき財産や負債、権利や義務を相続人に受け継がせる手続。民法に規定あり。
  • 相続税
    相続があったとき、財産の状況によって発生する可能性のある税金と、その計算などを行う手続。相続税法に規定あり。

(第1回 完)
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相続税が気になる方は、弊所のシミュレーションページを是非ご活用下さい。
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  • 相続財産、相続人(配偶者と子供の場合に限ります)から概算の相続税額
  • 相続税として納めなければならないのは、相続財産の何%に当たるか
  • その割合以下で子供に対して有利な贈与をするには年間一人当たりいくらまで贈与可能か

相続税の申告が必要になるのは?

ここ数年の税制改正で、「相続税を払う対象者が増える」ケース(基礎控除の引き下げ)や、「上手に制度を使えばオーナー会社の株式に係る相続税が免除される」方法(事業承継税制)など、様々な新しい論点が出てきました。
このため、これらの制度やその基礎となる「株価計算」、「土地評価」、また相続税額や贈与税といったお問合せが非常に多くなっています。
しかし、そんな場合にいつも課題となるのが、相続税が一体何なのか、という疑問です。
そこで今回は、基本に立ち戻って「ではそもそも相続税を払う(申告する)のはどんなケースなのか?」という論点に絞って記事を書いてみました。

1.相続
相続「税」の話をする前に、「相続」について説明しなければなりません。
相続とは、亡くなった人間の財産や負債、権利、義務の一切を他の人間が受け継ぐことを言います。この場合の「人間」は、当たり前ですが私たちのような自然人に限られ、会社などの法人は含まれません。

では、相続はどんなときに起こるのでしょうか。先ほど、「民法」が相続の基本的な事項を規定しているとお話しました。民法882条には、「相続がいつ起こるか」についてこんな規定があります。

「相続は、死亡によって開始する。」(民法882条)

これ以外にも、失踪宣告といって、行方不明者の生死が7年間明らかでないときなどの場合、家庭裁判所への申立てによって行う「失踪宣告」によっても相続は発生します。失踪宣告とは、生死不明の者に対して、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度です。また、日本国憲法が施行される前の旧民法においては、「家督相続」における「隠居」のように、死亡を原因としない場合もありました。

では、相続が起こるとどんなことになるのでしょうか。これについても、民法に規定があります。

(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

「一切の権利義務」とあります。つまり、財産だけが移転するわけではなく負債(義務)も移転するのです。もっと言うと、単なる資産や負債でも足りず、権利や義務全てを受け継ぐことになるのです。

「被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」とありますが、これは何でしょうか。これは「被相続人だから」存在した権利義務のことを言います。例えば、雇用契約や名誉職などがこれにあたります。こういう権利義務は、被相続人が生存しているからこそ有効になるものだからです。

2.相続税の申告
相続税の申告や納税が必要となる場合
相続税の申告や納税が必要となるのは、下記の財産の合計額が「基礎控除額(3000万円+600万円×相続人数)」を超える場合です。

  • 相続又は遺贈(相続人以外が受継)により取得した財産
  • 被相続人の死亡前3年以内に被相続人から贈与により取得した財産
  • 相続時精算課税(特別に定められた生前贈与制度)の適用を受けて贈与により取得した財産の額

なお、上記の財産額には、「小規模宅地の特例(居住している財産などについて大幅に減額してくれる制度)」などの特例を適用する前の計算を使います。

ですので上記の合計額が基礎控除額を超えない場合には納税も申告もいりませんが、超えている場合(申告は必要)でも様々な特例を利用して税額がゼロになる場合もあり得ます。

相続税の申告期限
相続税の申告は、「被相続人が死亡したことを『知った日』の翌日から10か月以内」に行います。
例えば、4月1日に死亡した場合には、翌年の2月1日が申告期限になります。
この期限が土、日、祝日などに当たる場合、他の制度と同様その翌日が期限となります。
また相続税の申告書は、原則として被相続人の死亡の時における住所を管轄する税務署に提出します。

3.相続税の計算
このような過程で対象となった方は、相続税の申告書を提出する必要があります。
この相続税の計算方法については「相続税の計算は意外と複雑」で詳しく説明していますので、こちらもぜひご覧ください。

また、財産や相続人数に応じてどれくらいの相続税がかかるか、また相続税を少しでも減らす方法として最も簡単な「生前贈与」を利用する場合の最適金額の計算ができるシミュレーションはこちら解説記事はこちら)をご利用下さい。

 

これが贈与の全てだ! ~ プロが教える贈与のポイント

平成27年に相続税の増税があったため、最近は相続税を減らす対策としての「贈与(ぞうよ)」が大きな注目を浴びています。
でもこの贈与、実は意外と複雑で、気を付けないといけないポイントも多いのです。
今回はそんな贈与について、できるだけ分かりやすく解説し、よく言われる贈与税に関するうわさの真実、また上手な活用のヒントについて書いてみたいと思います。

1.はじめに
平成27年に、大変大きな「相続税の増税」がありました。
これは、法律の改正により「今まで相続税がかからなかった」多くの人にも相続税がかかるようになったことによるものです。
そのこともあって、相続税を減らす対策としての「贈与(ぞうよ)」が大きな注目を浴びています。
でもこの贈与、実は意外と複雑で、気を付けないといけないポイントも多いのです。
今回はそんな贈与について、できるだけ分かりやすく解説し、上手な活用のヒントについて書いてみたいと思います。

2.贈与・贈与税とは?
贈与という言葉を見ると、単に「人に自分のものを与える」だけのように感じます。
ですが、法律上の意味はちょっと違います。
「人に自分のものを与える」のはその通りなのですが、「与える相手に『与える』ことを伝えて」、「相手がそれに応じる」という条件がないと成立しないのです。ややこしいですね。
この点、法律を勉強している人なら「民法549条」や「片務契約(へんむけいやく)」「諾成契約(だくせいけいやく)」「無償契約」などという言葉をご存知と思いますが、このコラムにおいては不要なので省略します。
なお、贈与や贈与税といった言葉はありますが、贈与について規定した「贈与法」やその税金に関する「贈与税法」という法律はありません。それぞれ「民法」や「相続税法」に規程が設けられています。

3.相続・相続税との関係
持ち戻し
相続人となる子供が複数いた場合、一人の相続人だけが親からたくさんの財産を生前にもらっていた場合、他の相続人にとっては不利になります。このような生前に受けた贈与は、民法上「特別受益」と言われており、相続の際には公平を期すよう考慮することとされています。これを「持ち戻し」と呼びます。

贈与税率
相続税を回避するためにたくさんの財産を贈与すると、相続税を課税する意味がなくなってしまいます。このため、同じ財産を対象にした場合、相続税に比べて贈与税は非常に高くなるように税率が定められています。

3年内贈与
法律上、いつの贈与であっても贈与は贈与です。しかし、相続税を計算する場合には、相続発生前3年間の贈与については、相続財産に含めて計算します。ただ、もしその贈与で申告し、贈与税を支払っている場合には、その贈与税は計算された相続税から差し引くことができます。

4.贈与の種類
暦年贈与
暦年(れきねん)とは普通、1月から12月までの1年間のことを言います。
この暦年贈与は、特別な制度を使わない「普通の贈与」として取り扱われます。
暦年贈与の場合、もらう人単位で「1年間110万円」までは税金がかからないことになっています。この金額を「基礎控除」といいます。
この基礎控除を超えた部分には贈与税がかかりますので、贈与があった翌年の2月1日から3月15日までに贈与税を申告、納税する必要があります。また前述の通り贈与税は相続税に比べてかなり高く、贈与された金額が高くなればなるほど税率も高くなります。

相続時精算課税贈与
この制度を使い、例えば60歳以上の父母又は祖父母から20歳以上の子又は孫に対して財産を贈与した場合、申告と利用の届出をすることで、なんと2500万円までは税金がかからないことになるのです。また、2500万円を超える場合でも、超えた部分には20%の税金しかかかりません。
ここまでだけ見ると、税額が高くて、金額が上がると税率も上がる暦年贈与と比べて非常に得なように見えますが、実はそうではありません。
相続時精算課税贈与の対象となった贈与財産は、贈与した人が亡くなった際にはその相続財産に「贈与した時の時価」で「加えられてしまう」のです。そして、もし先に払った贈与税があれば、相続税から差し引くこととされています。つまり相続時精算課税贈与とは、文字通り「相続の際に『精算』する」ことを前提にした贈与なのです。

事業承継、農地の贈与(課税繰り延べ)
我が国の企業のほとんどを占める中小企業は、上場会社のように大きくはなくとも、地域の経済や雇用にとって非常に重要な存在です。しかし、多くの中小企業は経営者の高齢化と後継者難に直面しています。また、農業従事者も減少を続けており、こちらも後継者難は非常に大きな問題となっています。
ところが、通常中小企業の株式は「相続財産」とされ多額の相続税がかかりますし、農地も土地として相続税の課税対象となります。引き継ぐためには多額の相続税がかかることとなっては、ただでさえ後継者難に悩む企業経営や農業にとって追い打ちとなってしまいます。
このような問題に対応するため、事業承継、農地それぞれに関して「贈与税の特例」が設けられています。
この特例制度自体は非常に複雑なのですが、ざっくりと言うと企業経営者や農業従事者が後継者となる者にその株式や農地を贈与した場合、贈与した際の贈与税(株式や農地に対応する部分に限ります)を「猶予」し、贈与した人が亡くなった後後継者が企業や農業を引き継いだ場合には、一定の条件の元「猶予された贈与税や相続税が免除」されます。
このことにより、中小企業や農業の後継者にとっては相続税の負担が軽減されるのですが、従業員を大きく減らしたり、農地を売ってしまったりした場合には、猶予された贈与税に利息を付けて払わなければならないという大きなリスクもあります。

住宅資金贈与
父母や祖父母から住宅を購入するために資金の贈与を受け、贈与を受けた年の翌年3月15日までにその資金で自分が住むための住宅を購入したり、増改築をした場合、その贈与した資金には一定額まで贈与税がかかりません。
この制度は現在段階的に縮小されており、令和3年末まで下記のような非課税枠となっています(国税庁ページより)。

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なお対象となる住宅の種類(省エネ住宅かどうか)や、購入する時期、その時の消費税率などによって非課税金額が異なります。また、贈与を受ける者がその年の1月1日時点で20歳以上であることや、贈与のあった年の所得が2000万円以下であることなどの制約があるので注意が必要です。

教育資金贈与
この教育資金贈与は、次の結婚・子育て資金贈与とともに、親、祖父母世代から次の世代へ資産を移転し、教育機会の充実や人材育成、少子化対策等へ良い影響を与えることを期待して設けられた制度です。
まず、祖父母(贈与者)は、取扱金融機関(銀行、信託銀行など)に子・孫(受贈者)名義の口座等を開設し、教育資金を一括して預けます。この預け資金については、子・孫ごとに1500万円を非課税とします。
次に、預けられた資金が教育資金に使われているかどうかを取扱金融機関が領収書等によってチェックし、書類を保管しておきます。
そしてこの口座は、子や孫等が30歳に達する日に終了し、その時点で残額や目的外使用があればそれらの金額に贈与税がかかることになります。
この制度は、平成25年4月1日から令和3年3月31日までの期間となっています。

結婚・子育て資金贈与
この贈与についても、教育資金贈与と同様、祖父母や両親(贈与者)が、子・孫(受贈者)名義の金融機関の口座等に、結婚・子育て資金を一括して預けます。ただ、対象となる子・孫が20歳以上50歳未満であること、また非課税の金額は子・孫ごとに1000万円(結婚関係は300万円が限度)となる点が異なります。
また、領収書等のチェック、保管についても教育資金と同様金融機関が行います。
最後に、口座は子や孫が50歳に達する日に終了し、終了時に使い残しがあれば、贈与税が課税されます。
また終了前に贈与者が死亡した時、使い残しがあれば、贈与者の相続財産に加算します。
この制度も期間が限定されており、平成27年4月1日から令和3年3月31日までの4年間となっています。

「どこにも規定のない」贈与
教育資金や結婚・子育て資金については上に書いたように特別の制度が出来ましたが、実は従来からこのような贈与の大半は元々非課税であったと言われています。
また、同居する親族への生活費補助についても、課税される贈与としては従来から取り扱われていません。
これらを考えると、面倒な手続きの必要な上の制度ではなく従来通りの取り扱いをしてはどうか、という意見もあるのですが、従来通りの取り扱いについては、それが本当に課税されない贈与なのか、課税されるべき贈与なのかをが(税務署から見て)はっきりしない場合には多額の課税がされてしまう場合もあり得ます。
そのような場合には信頼できる税理士に相談して、リスクの少ない方法を選ぶようにしましょう。

5.贈与の「ウソ・ホント」
贈与税はめちゃくちゃ高い?
確かに同じ資産の額であったとすれば、贈与税率は相続税率より非常に高くなっています。だからと言って、基礎控除(110万円)を超えて贈与し、贈与税を払うのが必ず損かというとそうでもありません。
例えば、全体の財産から見て相続税の実効税率(予想される相続税額を相続財産の総額で割り返したもの)が20%の税率で課税される可能性の高い方があるとします。その方が300万円の贈与をした場合、贈与税は下記の通りとなります。

(300-110)×10%(贈与税率)=19万円(300万円の6.3%)

つまり、放っておけば財産に20%の相続税がかかるところ、上記の贈与を行えば6.3%の贈与税で済む訳です。
贈与を利用した相続対策を行うためには、このような点に注意しておくと効果的です。詳しくは「3代で財産がなくなる」相続税と効果的な対策(シミュレーション)をご覧ください。

暦年贈与はちょっと税金を出して申告しておくと安全?
申告書を提出した、という行為は認められますが、だからと言って税務署が申告書の内容を保証してくれる訳ではありません。ですので、申告をすること自体が贈与や贈与税の計算そのものを立証する証拠にはならないのです。

毎年110万円を10年贈与したら1100万円に一括で税金がかかる?
これは一番といっていいほどよく頂く質問です。
論拠としては、「毎年110万円を10年間贈与することを約束したのだから、1100万円の贈与と同じだ」と指摘されないか、という点に集約されると思います。
この考え方も理論的にはあり得ない訳ではないのですが、そのことが明らかに書かれた契約書でもなければ税務署側も「10年間の贈与契約に合意した」と断言はできないと思います。
ですので、明らかに毎年贈与することを約束していない限りは、このようにまとめて課税される心配はないと思って良いと思います。

保険料の贈与は安全?
補償額やリターン(返戻)の大きな保険契約を子が結び、親がその保険料を子に贈与する、という贈与手法が最近良く使われています。この保険料を毎年110万円未満にしておけば贈与税がかからない、と言われている方法です。
この方法は確かに良いアイデアなのですが、ちょっと注意が必要です。
まだ収入の発生する見込みがない方がそんな保険契約を結んだら、少なくとも数年間は保険料の贈与を受けないといけないですよね。
とすると、③の懸念と同じで「数年間の贈与契約に合意した」と言えるかもしれないのです。
このような説明がなく、単に「贈与税はかかりませんよ」とだけ言うような保険担当さんには、頼まない方が良さそうです。

6.まとめ
以上、贈与について出来るだけ簡単にまとめてみました。
この贈与、他の制度や金融商品と組み合わせることで、とても効果的な相続税対策を組み立てることも可能です。ただ、程度の大小はありますがどの方法も注意点やリスクがあります。
また、ここには書けない、いわゆる「グレーゾーン(違法ではないが、状況や見方によっては納税者と税務署で見解が異なる状態)」と呼ばれる方法もたくさんあります。
大変使いでのある贈与ですが、検討される場合は必ず税理士などの専門家にきちんと相談されることをお勧めします。

以上

令和2年度の路線価とコロナの影響について

7月1日、国税庁より全国の「路線価」が発表されました。
この路線価、相続税の計算をする際には非常に重要な指標となっています。
今回は、この路線価についてご説明します。

1.路線価って?
亡くなった方の相続人などにかかる「相続税」。
この相続税は、相続財産(亡くなった方から受け継がれる財産)の「時価」に、税率や相続人数などに基づいた計算を加味することで計算されます(「相続税の計算は意外と複雑」参照)。
相続財産に占める土地の割合は4~5割と非常に重要ですので、私たち税理士が相続税の計算を行う際、土地の時価を計算するのは非常に大事な仕事です。

しかしこの「土地の時価」を計算するにはどうすればよいでしょう。
上場株式なら株式市場でいつでも売り買いできる時価が公表されていますが、土地の場合はそうはいきません。
確かに、不動産会社を通じて「売りたい」「買いたい」といえばその状況に応じて価格がつきます。しかし、それはその特別な状況で採用される価格であって、税金の計算のように「公平性」が重要な指標として使うことは無理があります。

そこで国は、全国的な調査を定期的に行って、地域ごとに道路(不特定多数が通行するもの)に面する宅地について、1㎡当たりの時価を公表することとしています。これが一般に路線価(相続税路線価。この他、固定資産税課税の為の路線価もある)と呼ばれています。
※なお、特に市街地でない場所によっては路線ごとの時価が適していない場合もありますので、その場合には「倍率方式」と呼ばれる別の方法を時価として採用します。また、納税者が不動産鑑定士による鑑定評価額などを時価として採用することもできます。

2.路線価の例
路線価の例を見てみましょう。

銀座路線価

国税庁の路線価検索サイトから、「全国一路線価が高い」といわれる銀座5丁目周辺の路線価図を呼び出してみました。
ご覧の通り、全ての道路に細かい数字が示されています。
この数字が「路線価」、すなわち「1㎡当たりの土地の価格」になります。
※その他の記号も相続税を計算する上で非常に重要な意味を持つのですが、今回は省略します。

少々見づらいですが、図の左下に注目して下さい。
中央通りの「鳩居堂」と書かれた地点は、「45,920」と記されています。この数字は千円単位なので、1㎡当たりなんと4,592万円の価格となっている訳です。
この価格、いわゆるバブル期の3,600万円程度をはるかに上回っています。

3.大阪の推移
大阪で最も路線価が高いのは「梅田阪急百貨店前」です。
この路線価がどのように変化しているかを説明するため、今年から3年ごとにさかのぼったデータをまとめてみました。

路線価変遷

こちらも平成26年の1㎡あたり756万円が、平成29年には1,176万円となり、なんと今年令和2年には2,160万円にまで上昇しています。

国税庁が発表する地価の高い場所は、下記の通りです。
令和元年分都道府県庁所在都市の最高路線価

4.コロナの影響について
今回は地価が上昇している場所を中心にご説明しました。
これらは、インバウンド需要を中心に価値が暴騰したことが主な理由といわれています。
また、バブル後低迷を続けていた他の地域においても、このような場所に影響を受け、また旺盛なマンション建設需要などを背景に下げ止まっていた所でした。

しかし今回のコロナ禍を経て、地価がどのように変化するかが注目されるところです。
例えば、もしコロナ禍の影響で実際の土地実勢価格が大きく下がっていたとしても、相続税の計算はその前の非常に高い路線価で計算しなければならないのが原則だからです。
国税庁は、今後のこのような影響によって実際の地価が大きく下がる場合、その推移によっては路線価の減額修正を可能にする措置を導入することを検討しています。
この行方にも注意が必要です。