月別アーカイブ: 2026年9月

シロアリ恐るべし!(3)

第4部 購入後の駆除・修復・毎年のメンテナンス

前回は、中古住宅や別荘を買う前に、シロアリについて何を調べ、どう購入を判断するかについて書きました。

では、安心できる物件を無事に購入したら、それで全て終わりでしょうか。

残念ながら、家の環境は購入後も変わります。雨漏りや配管の不具合が起きるかもしれませんし、植栽が伸びたり、リフォームによって、それまで見えていた基礎や床下が見えなくなることもあります。

今回は連載の締めくくりとして、購入後にどうやって家を守っていくか、私のラボでの経験も踏まえて考えてみます。

1.引渡し直後にすること

最初にしておきたいのは、「買った時点の状態」を残すことです。

入居やリフォームの前に床下を調べ、建物の外周、基礎、水回り、点検口から見える範囲をできるだけ写真に撮っておきます。過去の防蟻工事の保証書、施工範囲が分かる図面、修繕の請求書なども、ここで一度まとめます。

あとで不具合が見つかったとき、「このひび割れは買ったときからあったのか」「床下の木材は以前から変色していたのか」が分かるだけでも、判断がずいぶん変わります。

雨漏り、配管漏れ、排水不良があれば、先に直します。家の周りに置いたままの木材や段ボール、切り株など、シロアリの入り口になりやすいものも確認します。捨てられるものは撤去し、残すものは建物に接触させず、周囲を見られる状態にしておきます。

床下点検口がない、あるいは点検口はあるのに肝心の場所へ行けない場合には、リフォームの機会に増設を検討する価値があります。

ラボの場合、元々このような点検口が付いていなかったため、工務店さんが新たに作ってくれました。おかげで今回も迅速にどこが問題かを見つけることができました。
見えるようにしておくこと自体が、「中がどうなっているか分からない」状態を防ぐ立派な対策だと思います。

2.シロアリを見つけたら

羽アリや蟻道、見慣れない土の塊を見つけると、すぐに市販の殺虫剤を吹き付けたくなるかもしれません(私もやりました)。
厳しい話ですが、見えるところで明らかな痕跡が既に出ている以上、被害は大きく広がっていると思ったほうが良いでしょう。

冷静にまずは写真を撮り、発見した日時と場所を記録します。
畳を上げられるとしても、焦って被害箇所をむやみに壊したり、蟻道を全部取り払ったりする前に、専門業者に見てもらう方が侵入経路を追いやすくなります。

もちろん、大量の羽アリが室内に出て生活に支障があるなら、その場の片付けまで我慢する必要はありません。可能な範囲で記録を残し、早めに連絡する、という順番です。

調査では、シロアリの種類、侵入経路、食害が及んだ範囲と、調べられなかった範囲を確認します。そのうえで駆除・予防の範囲を決めます。

ここで特に大切なのが、「シロアリを駆除すること」と「傷んだ建物を直すこと」は別の作業だという点です。

薬剤処理を終えて虫がいなくなっても、食べられて弱くなった床板や柱の強度は戻りません。木材をどこまで交換・補強する必要があるかは、建築士や工務店にも確認してもらう必要があります。雨漏りや漏水があれば、その原因も直して初めて、再発防止の話ができます。

3.防除方法は家に合わせて選ぶ

シロアリ対策には、床下の土壌や木部を薬剤で処理する方法、餌を使って集団に作用させるベイト工法などがあります。建物の構造によっては、侵入しやすい隙間を見直すことや、床下を点検しやすくする改修、水分を減らす工事も重要です。

「では薬をまけば大丈夫?」と聞きたくなるところですが、そこは少し難しい所です。
例えば、地中から侵入するヤマトシロアリやイエシロアリと、乾いた木材の中で生活するアメリカカンザイシロアリでは、被害の見つけ方も対処の考え方も異なります。床下に入れる家と入れない家、居住中の家と長期不在の別荘でも、選べる方法が違います。

薬剤処理とベイト工法にも、施工する場所、継続的な点検の必要性、費用などの違いがあります。日本しろあり対策協会も、新築時の予防と既存建築物の処理を分けて説明しています。

何という工法が一番強いか、という聞き方よりも、「この家のどこから入り、どこまで被害があり、この方法でどこを守るのか」と尋ねる方が、ずっと役に立つと思います。

4.業者さんの説明で見るところ

私のラボでは、管理会社さんが連れてきてくれた防蟻業者さんが、2階窓際を見てすぐ1階の畳の下を確認しました。その判断と対応の早さには感謝しています。

とはいえ、いつも信頼できる業者さんを紹介してもらえるとは限りません。初めて依頼する場合は、見積金額だけでなく、次の点を確認したいところです。

・被害箇所を写真付きで説明してくれるか
・調べた場所と、調べられなかった場所を分けて示すか
・薬剤名、施工箇所、施工範囲が見積書で分かるか
・防蟻工事と木材の交換・構造補修を区別しているか
・保証の対象、期間、対象外となる条件が書面になっているか
・再発した場合に、誰が何をするのか説明があるか

協会への登録や施工資格、実績も参考になります。ただ、それだけで個別の施工内容まで保証されるわけではありません。「今日契約しないと家が危ない」と不安をあおられた場合は、緊急の応急処置と本格的な工事を分けて考え、可能なら別の業者さんにも見てもらった方が良いでしょう。

5.毎年、どこを見るか

毎日床下をのぞく必要はありません。しかし年に何度か、季節に合わせて見る場所を決めておけば、異変に気づく可能性は高まります。

・春から初夏:羽アリや、窓際・照明の下に落ちた翅がないか
・梅雨:屋根や窓周りの雨漏り、配管漏れ、床下の湿気が増えていないか
・夏から秋:建物外周、ウッドデッキ、植栽、置いた木材の状態
・冬:保証書と施工記録を見直し、次の点検予定を確認
・通年:床の沈み、建具の動き、木部の変色、小さな土の盛り上がり

羽アリの時期は種類や地域によって違います。例えばヤマトシロアリは一般に4~5月、イエシロアリは6~7月が目安ですが、その時期だけを見ていればよいわけではありません。

別荘や空き家なら、長期間訪れない間に雨漏りや漏水が続くこともあります。訪問した際は室内の換気だけで終わらせず、まず水回りと建物の外周を一周する。管理を頼める人がいるなら、異変を見つけたときの連絡先も決めておきます。

6.数年単位で考えること

防蟻工事に「5年保証」が付いていても、5年間は何も見なくてよい、という意味ではありません。保証の内容と、実際に処理された範囲は別に確認が必要です。5年を過ぎた瞬間に薬剤の効果がゼロになるわけでもありませんが、定期点検と再施工の時期は業者さんと相談しておきます。

また、配管工事、増築、外構工事、リフォームをしたときには、その周辺を改めて確認します。前に行った防蟻処理の部分を掘り返したり、見えなくしたり、新しい木部を土に接触させたりする可能性があるからです。

写真、図面、防蟻工事の報告書、修繕の見積書・請求書、保証書を一か所にまとめ、いわば「住宅カルテ」にしておくと便利です。いつ、どこを、なぜ直したのか。次の点検時にも、将来この家を売る場合にも説明できる状態になります。

7.ラボの場合、そしてもう一度買うなら

ラボでの流れを振り返ると、最初に見えたのは2階窓際の小さな土の盛り上がりと数匹の羽虫でした。しかし、実際に大きな被害が分かったのは、業者さんが1階の琉球畳を上げ、床板を確認してからです。

管理会社さんを通じてすぐに応急処置が行われ、2日後には床下、基礎、柱、壁内などの防蟻処理が完了しました。防蟻代は8万円程度。その後、工務店さんが被害を確認して修復工事を進め、発見から約1か月半で元通りになりました。修復費は決して安くありませんでしたが、リフォームから1年少々での出費を、家の管理について勉強する機会にもできました。

今回、特に食害を受けたのは、リフォーム時に「まだ使える」と判断して残した古い木材でした。これをもって「古い木材は全部交換すべきだった」とは思いません。コストをかけられる範囲には限りがありますし、使えるものを残す判断自体は合理的です。

ただ、もう一度同じような物件を買ってリフォームするなら、長年雨漏りしていた場所と、残す旧材の周辺は、工事前にもう一段詳しく調べます。そして工事後も、床下のどこを見ればよいかを、写真とともに残しておきたいと思います。

これは後知恵ではありますが、実際に被害を経験した者の後知恵ですので、これから買う方には役立つのではないでしょうか。

8.最後に

今回のラボは、早く発見できたことも、管理会社さん、防蟻業者さん、工務店さんが驚くほど早く動いてくださったことも幸運でした。

しかし、幸運だけを管理方法にはできません。

家を守るために必要なのは、

「水を止める」「侵入経路を見る」「点検できる状態にする」「記録を残す」

という、地味ですが継続できる仕組みだと思います。

シロアリを一度駆除して終わりではなく、家をどう見続けるか。今回の経験で、私自身もそこまで含めて「不動産を管理する」ということなのだと学びました。

長い連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。

ニデックの品質不正(テクノロジーガバナンスの観点から)

1.ニデックで何が起こったのか

ニデックは、会計処理に関する不正疑義を受けて設置された「再生委員会」により、内部管理体制の改善検討を行っています。これに基づいて行われた生産拠点・開発拠点を対象とした品質総点検(2026 年 1 月 8日から開始)は、複数の拠点において不適切行為の疑いを見出しました。
この問題を調査するため、外部専門家による調査委員会を5月13日付で設置。先日9月4日、同委員会による調査報告が公開されました。

当該調査委員会の報告書は以下の通りです。
・調査報告書全文
・上記の要約スライド

調査において認定された「品質不適切行為」は合計844件。このうち、製造における人・機械・材料・方法、いわゆる「4M」の変更を顧客に通知せず、承認も得ないまま行ったものが805件と大半を占めます。このほか、試験・検査結果の改ざん・ねつ造22件、検査・製造条件違反11件、規格外品・未承認品の使用・出荷4件などが確認され、産地表示等の不適切行為も6件ありました。

中には、「実施していない検査について規格内の数値を記録」したり、「実測値と異なる数値を顧客に提出」したり、「禁止された材料を無断で使用した」という驚くべき事例もあります。しかもこれらの不適切な運用は長期間継続しており、事業承継や生産移管の際に、改善されることなくそのまま次の組織へ引き継がれた例までありました。

2.「テクノロジーガバナンス」の問題

私は以前、「テクノロジーガバナンスのすすめ(三菱電機・神戸製鋼の不正について)」において、テクノロジーガバナンスを「技術面に係る倫理、統制、開示、保全を統合的に管理する考え方」と説明しました。今回の事件は、まさにその不全と構築の必要性を示す事例と言えます。

ニデックの現場においては、社内で技術的に検討した結果「品質上のリスクは低い」と(独自に)判断すれば、顧客に報告しなくてもよい、という対応がまかり通っていたようです。しかし、「技術的に使用可能かどうか(という独自の判断)」と、「顧客との契約や承認手続を守ったかどうか」は全く別の問題です。顧客が判断すべきことを、供給側の技術者が勝手に判断してしまえば、それは技術判断ではなくガバナンスの欠如であり、不正行為です。

また、検査データの改ざんは「保全」の問題、無断変更や無断出荷は「統制」の問題、顧客に事実を伝えなかったことは「開示」の問題です。その背景には、品質保証部門の独立性不足、技術系内部監査の弱さ、部門を越えて情報を伝える仕組みの欠如がありました。

結局のところ、品質問題を「技術者に任せておけばよい」「知らない者は口を出すな」と考えた時点で、経営は技術をブラックボックス化してしまいます。技術に詳しい人がいることと、技術を適切に統治できていることは同じではないのです。

3.今後どのように対応すべきか

調査委員会は、現場の実力に裏付けられた業績目標の設定、品質保証部門への製造・出荷停止権限の付与、重大な品質情報の一元管理、リスクに応じた内部監査、M&Aや生産移管時の品質統合などを提言しています。また、規程を作った、研修を実施した、監査を行ったという「活動量」だけではなく、実際の判断や業務運用が変わったかによって改善効果を測るべきだとしています。これらはいずれも妥当な提言と考えます。

しかし、これらを現場の技術部門や品質保証部門だけの改革で終わらせてはなりません。必要なのは、「技術上のリスクはすなわち経営上のリスクである」という考え方を取締役会が十分に理解し、ためらわずに監督する仕組みです。おそらく技術系取締役は、不正を行う財務取締役が技術系から問われた場合に言いそうなセリフと全く同じ「知らない者がつべこべ言うな!」と反発するでしょう。しかし全ての取締役は、専門外であっても経営責任を負うことに変わりはないのです(みんな知らない「役員」の怖い話)。
すなわち、彼らにもガバナンス教育を行い、またMOTや品質管理、技術監査の知見を持つ人材を取締役会、監査等委員会、内部監査部門に配置する必要があります。
さらに、4M変更、検査結果、顧客承認、例外処理を情報システム上で結び付け、誰が、いつ、何を変更したかを追跡できるようにすべきです。「現場を信用する」ことと「記録を確認しない」ことは同じではありません。

第三者委員会の調査報告書でも、「第 7 改善策の提言 3 ニデックのコーポレート層におけるありたい姿の実現 (2) ソフト面の施策 イ 品質保証部門以外の部門との「品質」の考え方の共有」において、下記のように同趣旨の提言がなされています。

同様に、「品質」に対する姿勢や考え方は、品質保証部門だけが議論すれば良い問題ではない。(略)コーポレート層においても、ニデックグループにおける「品質」の考え方やその重要性を共有し、リスク分析に必要な実態把握や実態を踏まえた教育の提供、事業部門から相談を受けた際の各種検討、リスクの構造を踏まえたモニタリングなど、必要なサポートを行っていく必要がある。

現在のニデックに必要なのは、品質第一という言葉を単なる精神論で唱えることではなく、正しい技術判断をした人が損をせず、悪い情報ほど早く経営に届き、科学的事実を誰も書き換えられない仕組みを作ることです。それはまさに正しいテクノロジーガバナンスの実装だと考えます。

シロアリ恐るべし!(2)

第3部 物件探しから契約まで ~買う前にどこを見るべきか~

前回までは、「ラボ」を襲ったシロアリ被害の経験と、そもそもシロアリとはどのような生き物なのかについて書きました。

今回はいよいよ実践編です。
これから中古住宅や別荘を買おうとする場合、どの段階で、何を確認すればよいのでしょうか。
もちろん、内見でシロアリが1匹も見つからなければ安心、というほど簡単な話ではありません。

ラボでも、最初に見つけたのは窓際に現れたわずか数匹でした。
しかし畳を上げると、その下にはちょっと写真に出せないほど大量のシロアリがいました。

つまり、シロアリについて大切なのは、

「いるか、いないか」

だけではなく、

「どこまで調べることができたか」

なのです。

1.物件を探す段階
シロアリのリスクは、現地を見る前からある程度見積もることができます。
まず確認したいのは、築年数と建物の構造。
ただし、古い木造住宅だから危険、新しい住宅だから安心、と単純に分けることはできません。
むしろ重要なのは、「その建物がどのように使われ、どのように修繕されてきたか」です。

例えば、

・何年間空き家だったか
・増改築したことがあるか
・雨漏りや床下浸水がなかったか
・浴室や台所などの水回りを改修したか
・過去に防蟻・駆除工事を行ったか
・修繕や防蟻工事の記録が残っているか
・床下や天井裏に点検口があるか

といった情報を確認します。

立地も無関係ではありません。山際、擁壁の近く、川や湿地の周辺、海辺などは、一般に湿気が多くなりやすい場所です。建物の周囲に大きな植栽、切り株、古い物置、枕木、ウッドデッキなどがある場合も注意します。

もちろん、こうした条件が一つあるだけで「買ってはいけない物件」になるわけではありません。
私の専門である「不正調査」である「不正のトライアングル」の判断と似ています。
動機・機会・正当化のどれか一つが高まることで不正が起こるのではなく、全体として高まった結果として不正が発生・顕在化する、というのと同様、前述の条件がどれくらい全体として高まっているか、と判断するのが重要です。

ハッキリ言える最もよくない状態は、「悪い条件がいくつも重なっているのに、床下に入れない、修繕記録もない、売主もよく知らない」という状態です。
このような状態の場合は、よほど他に良い条件や全面修理を覚悟できる場合でなければ、購入を断念したほうが良いかもしれません。

2.最初の内見で、自分でも確認できること
内見では、きれいに改装されたリビングや新しいキッチンに目が行きます。
しかしシロアリの観点から見ると、豪華な設備より、建物の隅や足元の方が重要です。
私なら、室内へ入る前に、まず建物の外周を一周して、下記のような点をチェックします。

・建物外周:蟻道、基礎のひび割れ、土と木部の接触
・玄関・勝手口:木枠の浮き、変色、傷み、空洞音
・浴室・洗面所:床の沈み、湿気、漏水跡
・和室:畳の沈み、敷居や柱の傷み
・床下:木材の変色や腐朽、蟻道、配管漏れ
・屋外:ウッドデッキ、物置、枕木、切り株(シロアリの入り口になりやすい)
・室内全般:羽アリ、落ちた翅、砂粒状の糞、小さな土塊

特に重要なのが床下です。
床下点検口があっても、ふたを開けて少しのぞいただけでは、建物全体を確認したことにはなりません。配管や基礎で奥へ進めない、増築部分には点検口がない、断熱材で木部が見えない、といったこともあります。
また、柱や敷居を軽くたたいたときに不自然な空洞音がする、床や畳が沈む、建具の動きが悪い、といった現象も手掛かりになります。

ただし、ここで最も注意したいのは、「異常が見えない=シロアリはいない」と同義ではないことです。
表面上きれいでも、壁や床の内部で食害が進んでいる場合があります。内見は診断ではなく、詳しい調査が必要かどうかを判断する入口と考えるべきです。

3.売主・仲介業者に何を尋ねるか
次に、売主や仲介業者へ確認します。
単に「シロアリは大丈夫ですか」と聞くだけでは、たいてい「聞いていません」「今のところ問題ありません」という答えになりますので、実際には次のように具体的に尋ねます。

・過去にシロアリ被害を受けたことがあるか
・防蟻・駆除工事をしたことがあるか
・施工年月日、施工範囲、使用薬剤、保証期間
・保証書や施工報告書が残っているか
・雨漏り、給排水漏れ、床下浸水の履歴
・修復時にどこまで木材を交換したか
・被害箇所や工事前後の写真が残っているか
・過去の不具合も告知書に記載されているか

これらについては口頭で済ますのではなく、施工報告書、保証書、請求書、写真、告知書など、後から確認できる資料を開示させる必要があります。
但し過去に被害があったこと自体は、必ずしも致命的ではありません。きちんと駆除され、傷んだ部材が交換され、侵入原因も改善されているなら、何も調べられていない家より判断しやすい場合もあります。

怖いのは「何もなかった家」ではなく、「何も分からない家」なのです。

4.インスペクションをどう使うか
中古住宅の購入では、「建物状況調査」「インスペクション」という言葉をよく見かけるようになりました。
宅地建物取引業法上の建物状況調査は、所定の講習を修了した建築士が、建物の構造耐力上主要な部分や、雨水の浸入を防止する部分について、劣化事象などの有無を調べるものです。

ただこれは大変有用な制度にも関わらず、万能ではありません。
建物状況調査は、基本的に目視や計測などの非破壊調査です。壁や床を壊して内部を確認するものではなく、「瑕疵がないこと」を保証する調査でもありません。

そこで、依頼前に次の点を確認します。
・床下へ実際に入るのか
・点検口から見える範囲だけなのか
・小屋裏まで確認するのか
・含水率を測定するのか
・調査できなかった場所を明記するのか
・写真付きの報告書が出るのか
・シロアリや腐朽について、どの範囲まで確認するのか

建築士は、建物全体の劣化や構造上の問題を判断する専門家です。一方、防蟻業者は、シロアリの種類、侵入経路、被害範囲、防除方法を判断する専門家であり、役割が少し違います。
雨漏り歴がある、床が沈む、蟻道らしきものがある、長期間空き家だった、床下を十分に確認できない・・・このような物件では、一般的な建物状況調査だけでなく、シロアリ専門調査を追加する方が良いと思います(日当+調査費用は掛かる可能性あり)。

なお売主側が既に調査している場合も、その調査を無意味と考える必要はありません。ただし、調査日、調査者、調査範囲、確認できなかった場所を自分でも確認します。報告書の表紙に「異常なし」と書かれているかより、どこまで見たのかの方が重要なのです。

5.契約前に整理すべきこと
調査が終われば、次はその結果を契約条件へ落とし込みます。
ここで整理すべきなのは、契約書や重要事項説明書において
・被害がないことを、どこまで確認できたか
・調査できなかった場所はどこか
・過去の被害は駆除済みなのか、構造補修まで済んでいるのか
・追加工事はいくらかかるのか
・その費用を売買価格に反映するのか
・引渡し前に売主が施工するのか
・購入後に買主が施工するのか
・契約不適合責任の範囲と期間
・シロアリ被害が免責事項になっていないか
・保険や仲介会社の保証の対象になるか
といった事項です。

なお、「もし見つかったら、保険で何とかなるでしょう」と考えるのは危険です。
一般的に「シロアリ被害に保険は効かない!」からです。
※少なくとも一般的な既存住宅売買瑕疵保険では、シロアリ被害や建物の経年劣化は支払い対象外

もちろん、防蟻業者の施工保証や、仲介会社独自のシロアリ保証などが付いている場合はあります。しかし、それも保証期間、対象箇所、再施工だけなのか、被害木材の修復費まで含むのかによって中身が違います。
また、売主の契約不適合責任と保険は別の話です。売主が責任を負う契約になっているからといって、保険会社が費用を出してくれるとは限りません。
「発見されたら誰かが直してくれる」と思い込まず、契約書、告知書、保険約款、保証書をそれぞれ確認する必要があります。

6.購入判断を三段階に分ける
最後に、調査結果を三段階に分けて考えます。

①購入してよい物件
侵入や被害の兆候がなく、床下など主要箇所を十分に点検でき、購入後の予防・点検計画も立てられる物件です。

②条件付きで購入できる物件
被害があったというだけで、直ちに購入を諦める必要はありません。価格と修復可能性が読めるなら、判断はできます。
被害はあるものの範囲が限定され、駆除費用と構造補修費を見積もることができ、その費用負担も契約上整理できる物件です。

③見送ったほうが良い物件
被害範囲を確認できない、主要構造部まで広がっている可能性がある、売主の説明と現況が食い違う、調査を拒まれる、といった物件です。
悪いところがある物件より、悪いところがあるかどうか分からず、しかも調べさせてもらえない物件の方が危険です。

7.今回の結論
中古住宅を買うとき、大切なのは「シロアリがいるか、いないか」だけではありません。
・調査できた範囲
・調査できなかった範囲
・駆除・修復に必要な費用
・契約上、誰がその費用を負担するのか

この四つをセットで判断する必要があります。

シロアリ被害が見つかった物件でも、範囲と費用が分かれば判断できます。反対に、「たぶん大丈夫です」という説明だけで調査できない物件は、判断そのものができません。

書くべきことが多くなりましたので、続きは次回にします。

次回、第4部は「購入後の駆除・修復・毎年のメンテナンス」についてです。

一度駆除すれば終わりなのか。どの部分を修復し、何を記録し、毎年どこを見ればよいのか。
次回の記事も、ラボで実際に行った対応も交えながらまとめます。