1.ニデックで何が起こったのか
ニデックは、会計処理に関する不正疑義を受けて設置された「再生委員会」により、内部管理体制の改善検討を行っています。これに基づいて行われた生産拠点・開発拠点を対象とした品質総点検(2026 年 1 月 8日から開始)は、複数の拠点において不適切行為の疑いを見出しました。
この問題を調査するため、外部専門家による調査委員会を5月13日付で設置。先日9月4日、同委員会による調査報告が公開されました。
当該調査委員会の報告書は以下の通りです。
・調査報告書全文
・上記の要約スライド
調査において認定された「品質不適切行為」は合計844件。このうち、製造における人・機械・材料・方法、いわゆる「4M」の変更を顧客に通知せず、承認も得ないまま行ったものが805件と大半を占めます。このほか、試験・検査結果の改ざん・ねつ造22件、検査・製造条件違反11件、規格外品・未承認品の使用・出荷4件などが確認され、産地表示等の不適切行為も6件ありました。
中には、「実施していない検査について規格内の数値を記録」したり、「実測値と異なる数値を顧客に提出」したり、「禁止された材料を無断で使用した」という驚くべき事例もあります。しかもこれらの不適切な運用は長期間継続しており、事業承継や生産移管の際に、改善されることなくそのまま次の組織へ引き継がれた例までありました。
2.「テクノロジーガバナンス」の問題

私は以前、「テクノロジーガバナンスのすすめ(三菱電機・神戸製鋼の不正について)」において、テクノロジーガバナンスを「技術面に係る倫理、統制、開示、保全を統合的に管理する考え方」と説明しました。今回の事件は、まさにその不全と構築の必要性を示す事例と言えます。
ニデックの現場においては、社内で技術的に検討した結果「品質上のリスクは低い」と(独自に)判断すれば、顧客に報告しなくてもよい、という対応がまかり通っていたようです。しかし、「技術的に使用可能かどうか(という独自の判断)」と、「顧客との契約や承認手続を守ったかどうか」は全く別の問題です。顧客が判断すべきことを、供給側の技術者が勝手に判断してしまえば、それは技術判断ではなくガバナンスの欠如であり、不正行為です。
また、検査データの改ざんは「保全」の問題、無断変更や無断出荷は「統制」の問題、顧客に事実を伝えなかったことは「開示」の問題です。その背景には、品質保証部門の独立性不足、技術系内部監査の弱さ、部門を越えて情報を伝える仕組みの欠如がありました。
結局のところ、品質問題を「技術者に任せておけばよい」「知らない者は口を出すな」と考えた時点で、経営は技術をブラックボックス化してしまいます。技術に詳しい人がいることと、技術を適切に統治できていることは同じではないのです。
3.今後どのように対応すべきか
調査委員会は、現場の実力に裏付けられた業績目標の設定、品質保証部門への製造・出荷停止権限の付与、重大な品質情報の一元管理、リスクに応じた内部監査、M&Aや生産移管時の品質統合などを提言しています。また、規程を作った、研修を実施した、監査を行ったという「活動量」だけではなく、実際の判断や業務運用が変わったかによって改善効果を測るべきだとしています。これらはいずれも妥当な提言と考えます。
しかし、これらを現場の技術部門や品質保証部門だけの改革で終わらせてはなりません。必要なのは、「技術上のリスクはすなわち経営上のリスクである」という考え方を取締役会が十分に理解し、ためらわずに監督する仕組みです。おそらく技術系取締役は、不正を行う財務取締役が技術系から問われた場合に言いそうなセリフと全く同じ「知らない者がつべこべ言うな!」と反発するでしょう。しかし全ての取締役は、専門外であっても経営責任を負うことに変わりはないのです(みんな知らない「役員」の怖い話)。
すなわち、彼らにもガバナンス教育を行い、またMOTや品質管理、技術監査の知見を持つ人材を取締役会、監査等委員会、内部監査部門に配置する必要があります。
さらに、4M変更、検査結果、顧客承認、例外処理を情報システム上で結び付け、誰が、いつ、何を変更したかを追跡できるようにすべきです。「現場を信用する」ことと「記録を確認しない」ことは同じではありません。
第三者委員会の調査報告書でも、「第 7 改善策の提言 3 ニデックのコーポレート層におけるありたい姿の実現 (2) ソフト面の施策 イ 品質保証部門以外の部門との「品質」の考え方の共有」において、下記のように同趣旨の提言がなされています。
同様に、「品質」に対する姿勢や考え方は、品質保証部門だけが議論すれば良い問題ではない。(略)コーポレート層においても、ニデックグループにおける「品質」の考え方やその重要性を共有し、リスク分析に必要な実態把握や実態を踏まえた教育の提供、事業部門から相談を受けた際の各種検討、リスクの構造を踏まえたモニタリングなど、必要なサポートを行っていく必要がある。
現在のニデックに必要なのは、品質第一という言葉を単なる精神論で唱えることではなく、正しい技術判断をした人が損をせず、悪い情報ほど早く経営に届き、科学的事実を誰も書き換えられない仕組みを作ることです。それはまさに正しいテクノロジーガバナンスの実装だと考えます。



