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「実地棚卸」かんたんマニュアル(経理部門、管理部門向け)

ほとんどの方が「棚卸(たなおろし)」という言葉を聞かれたことがあると思います。
手持ちの商品について、数を数えることを言い、実際に数を数えることを「実地棚卸」と言います。
この「実地棚卸」、商品を販売していたり、また製品を製造したりする事業の場合には、少なくとも期末(出来れば中間や月次)で行う必要があるのです。
仕入や販売・移動などの払出が100%正確に記録で、品質や流行り廃りなどの変化がないモノを取り扱っている場合は帳簿記録だけで十分かもしれませんが、実際には記録間違いや現場での劣化、陳腐化などで記録残高を修正しなければならないケースも多くあります。
また、実地棚卸には大事な品物が盗難などの被害に遭わないよう、常に正確性をチェックしているという牽制としての役割もあります。
しかしこの実地棚卸、実際のカウント作業が大変なだけではなく、たくさんの注意点がある難しい手続なのです。
今回は、この実地棚卸について、簡単なマニュアルをまとめてみました。
このマニュアル通りに進めれば、誰でも正しい実地棚卸が行えます。
年末や3月決算に向け、ご利用頂ければ幸いです。

なおこの記事に関するお問い合わせは、このメールへのお返事か、弊所メールフォームをご利用ください。

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1.棚卸の手順
1)事前準備
①倉庫・工場等在庫配置場所ごとに見取図を準備、置き場に棚番等を付す
②タイムスケジュール見積、担当者配置、当日の生産・入出庫停止予定等決定と全社への通知
③商品および倉庫の整理整頓予定決定
④棚卸票の準備、検査
⑤商品受払台帳の整備(プレ棚卸)

2)棚卸の実施
①担当者の点呼、スケジュール最終確認、現場の整備状況確認
②緊急入出庫申請有無の確認
③棚卸開始宣言

3)棚卸票回収・集計
①棚卸票の回収
②商品受払台帳への記載
③在庫継続記録との差異把握
④差異分析と継続記録の修正

2.各段階での注意点
1)事前準備
①実地棚卸の目的(経営管理、資産保全、税務)や、生産・入出庫を止めなければならないことの重要性を十分に説明し、正確かつ迅速に終わらせることが担当者の責務であることを全員が認識する
②見取図や記号等に不備があると当日混乱の原因となるため、リハーサル等で慎重に確認を行っておく
2)整理整頓
実棚商品
・検数が行いやすいようなレイアウトで配置する
・同一品種・同一品名のものは、できる限り同一場所にまとめておく
・商品の品名、価格等を記載した紙を商品に添付しておく
・不良品、不動品等は正常品と区分し、整理しておくこと
(事前に処分や仕入先への返品・交換等行っておくことが望ましい)
預け品(社外在庫)
・原則として受け戻しておく
・受け戻しができない場合は、先方より預り証を受領しておくこと
預り品
・原則として返品しておく
・見本品、委託品、修理預り品等は通常品と区分し、整理しておくこと(返却しておくことが望ましい)
・返却できなかった預り品は、預り品であること、また預り先やその理由を明記した伝票を作成し、預り品置き場のよく見える場所に貼付しておくこと

3)棚卸票
リスト方式
・実棚在庫を記載しないこと(数えず書いてしまうため)
・残高のある商品名をリストしておくことは問題ないが、ないものもリストするか、加えて記載できる空欄を用意しておくこと
・実棚が終了したら、よく見える付箋等でカウントが終了したことを明示できるようにしておくこと
・その他記載内容以降は伝票方式と同様のため、この後は伝票方式を中心に説明する

伝票方式
・連番を付しておく
・できれば複写式が望ましい

4)商品継続記録の整備
・商品継続記録は棚卸前に締め切り、帳簿残高を確定させておくこと

5)売上、仕入、生産の締め切り
・売上、仕入については計上基準(検収基準、出荷基準等)を理解し、締め切りを厳格に守ること
・生産については原則停止する
・仕掛品等の評価を正確に行うため、原価管理上把握できるポイント(工程終了時点)等まで全て完了させてから生産を停止すること

6)緊急入出庫申請
・できるだけ断ること
・棚卸中やむを得ず入庫を行う場合、当該入庫を必要とする部門の長に理由と品名、数量等を記載した緊急入庫申請を提出させ、棚卸完了後当該申請分を除外する
・棚卸中やむを得ず出庫を行う場合、当該出庫を必要とする部門の長に理由と品名、数量等を記載した緊急出庫申請を提出させ、棚卸完了後当該申請分を追加する
・緊急入出庫分を加減算する場合には、申請書と入出荷伝票等を必ず照合すること

7)実地棚卸
棚卸責任者
・棚卸票を各在庫場所の棚卸担当者に割り当てる
・担当者への割当番号を記録しておく
棚卸担当者
・棚卸担当者は、区域ごとに2名一組(計数者、記録者)とする
・計数者が商品名・品番等と数量を読み上げ、記録者が商品名や数量等を棚卸票に記入
・棚番号が終わるごとに棚卸票を貼付する
・書き損じの棚卸票は、破り捨てずに×を付して回収する
検査担当者(経理部門や内部監査部門が実施監査法人等が行う場合も)
・棚卸実施場所を偏りないよう巡回し、実施状況を検査、指導する
・棚卸票の貼付漏れがないかを確認する
・サンプルを選んでテストカウントし、集計後の棚卸票と照合する
・可能であれば、現場の固定資産等の実地確認も行うと効率的

8)集計/整理
棚卸票の回収
・すべての棚の棚卸しが終了したことをレイアウト図で確認し、棚卸票を順次回収する
・回収終了後、配付枚数と使用、未使用、書き損じの枚数を照合し、紛失がないかを確認する
・棚卸責任者が、棚卸票の記載内容をチェックし、不備がある場合は現地を確認する
・訂正のある場合は、棚卸責任者が内容を確認し訂正印を押印する

商品受払台帳への記載
・実施棚卸数と帳簿残高とに差異がある場合には、もう一度現品と帳簿を調査し原因を追求する。
・過不足の理由が不明の場合は、棚卸責任者の承認を得て過不足数を商品受払台帳に記載
し、実際数量に一致させる

 

コラム「相続の基礎」⑧相続税の税務調査

3)税務調査
①税務調査はいつ、どんな時に来るか
相続税の税務調査は、相続税の申告書を提出した後、1年~2年程度の間にあることが多いようです。これは、税務署が事前に申告書の内容を分析したり、被相続人や相続人について収集した資料と付き合わせたりといった、「事前調査」の時間がかかるためです。

また、相続税の申告書を提出したからと言って、必ず税務調査を受けるわけではありません。税務調査の対象となるのは、事前調査の結果以下のような兆候がある場合です。

  • 被相続人の所得や、被相続人がかつて相続した財産などからみて、申告された相続財産が少ないとみられる場合
  •  所得税の高額納税者
  • 生前に不動産や株式に関係する情報があったにも関わらず、これらに関する相続財産の申告がない場合
  • 死亡前に預貯金の大きな動きがある場合
  • 財産に比べて債務がアンバランスに多い場合

②税務調査手法
犯罪レベルの脱税が疑われる場合の「査察」ではありませんので、通常の税務調査の場合は事前の日程調整から訪問まで、あくまで紳士的に行われます。

担当した税理士がきちんとした手続きを採っていれば、納税者の方に直接電話がかかることもありません。また、都合の悪い日や体調などもきちんと配慮してくれます。

ただ、穏やかだからといって油断するわけには行きません。前述の通り、調査官は既に事前調査である程度のあたりをつけているわけですから、もし明らかな問題があれば既に逃げ場はなくなっている場合すらあります。

調査が始まると、通常ベテラン調査官はまず雑談から始めます。そして話を進めながら、いろいろな書類や資料の提出を求めてくることになります。よく確認するものは、例えば以下のようなものです。

  • 生前の仕事や趣味
  • 亡くなった時の様子など(時系列で)
  • 香典帳
  • 手帳、メモの類
  • 電話帳
  • 金庫の中身
  • 印鑑(家族などの三文判も含む)
  • 銀行や証券会社のカレンダー、手帳、その他ノベルティ

印鑑は、単に印影を集めるだけではなく、どの印鑑をどれくらい使っていたかも調べます。よくいわれるのは、朱肉を何もつけずに紙に押し、そのあと朱肉をつけてもう一度押す、という方法です。頻繁に使われていた印鑑であれば、朱肉の残っていることがよくあるからです。このため、私たちは普段から、重要な印鑑を使った後には徹底的に清掃して置くことをお勧めしています。

③税務調査が来ないようにする方法

  • 申告前には財産調べをしっかりと
    調べられる前に、申告漏れがないかどうかしっかりと調べましょう。そのうえで何か漏れていたとしても、よほどのことがなければ修正申告するだけで、罰にあたる重加算税までは課せられません。
  • 生前から準備
    亡くなられてから財産調べをするのは難しいものです。特に、夫が妻や子に財産の詳細を教えていないことも多く、相続発生後に右往左往することもよくあります。財産の特定に時間がとられると、税務対策を検討する時間も少なくなってしまいます。
  • 前回の相続に注意
    前回の相続、例えば被相続人の親や、配偶者からいったん相続があった場合、その財産がどのように増減して次の相続に至ったかについては必ず調べられます。不自然に減少している場合には、なぜ減少しているかをきちんと説明できなければなりません。
  • 相続税に強く、調査経験も多い税理士に依頼
    冒頭でも説明しましたが、税理士の全員が相続に強いという訳ではありません。残念ながら、強いとは言えない方が業務を受けた場合、申告書の内容も調査での対応についても、十分な効果が出せない場合もあります。また、調査のポイントをよく把握し、対応に長けていたり、調査のポイントを事前に説明、提出することで調査を行いにくくする書面を提出できる税理士も非常に有効です。

④金融機関に対する相続税税務調査
相続税の場合、申告漏れが発生する財産で最も多いのは現金、預貯金です。

屋根裏や床下に現金を隠しているなら別ですが、普通の方の場合は金融機関に預金を持っておられると思います。この預金については、忘れていたケースも含めて、意外と申告漏れがよく起きるのです。

さて、税務署も、さすがに生前から全ての取引銀行を把握しているわけではありませんので、事前調査の際には様々な方法で情報収集を行います。

例えば、被相続人の住所、勤務先周辺にある金融機関に対して、取引があるかどうかやその内容の照会文書を送り、申告された内容に漏れがないか、死亡直前に大きな資金が流出していないかなどを確認します。
#最近はGoogleの地図サービスなどが活用しやすくなっていますので、これを用いて「被相続人が関係していた場所周囲〇キロメートル以内の金融機関」などといったリストを作成して調査しているとの話も聞きます。

また、調査の途中には直接金融機関に出向き、貸金庫の存在や、親族の名義を借りた口座などがないかも調べます。

ところで、昔から「郵便貯金には調査がされにくい」という噂がありました。単なるうわさのようにも聞こえるのですが、実は根も葉もない話ではなかったようです。以前には国税局対郵政省という縦割り行政の関係で、確かに調査するのが通常の金融機関より手続的に難しかったようでこのような噂が発生したようです。ただ、ある時点においてこの点にはメスが入り、現在は税務署からの問い合わせには迅速かつ正確に答えるという取り決めができていますので、郵便貯金が調査から逃れやすいということはなくなりました。

(第8回 完)
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相続税の計算(概算シミュレーション・税制改正/増税対応)
相続税が気になる方は、弊所のシミュレーションページを是非ご活用下さい。
無料で以下の情報を確認できます。

  • 相続財産、相続人(配偶者と子供の場合に限ります)から概算の相続税額
  • 相続税として納めなければならないのは、相続財産の何%に当たるか
  • その割合以下で子供に対して有利な贈与をするには年間一人当たりいくらまで贈与可能か

コラム「相続の基礎」⑦相続税や物納・延納

5.相続税・税務調
1)申告
①相続税の一般的手続
相続税の計算は、一般的には以下のような手順で行われます。

  • 資産の時価評価
    現金預金や土地建物などの資産について、相続税計算のための時価を計算します。これを「評価」と言います。土地建物や有価証券などの時価については、計算方法が詳しく指定されています。
  • 遺産総額の計算
    上で計算した資産から、課税されない資産(非課税資産)や負債、葬式費用などを差し引いて、ネットの遺産額を計算します。
    その際、税制上の優遇措置(住んでいる住宅や事業用の宅地の減額や、非課税部分の控除など)も適用されます。
  • また、相続が開始する以前3年以内に為された贈与財産も加え、相続税の対象となる「課税価額」を計算します。
  • この課税価額から、基礎控除と呼ばれる課税最低限の金額を控除します。
    基礎控除は、3000万円に法定相続人一人あたり600万円を加えます(平成27年改正後)
    この際、先にご説明しました通り、養子の数については制限があります。
  • 基礎控除を差し引いた残額を、「法定相続分で分けたと仮定」し、それぞれの相続人の配分額に応じて以下の表にある税率を適用します。

 相続税の税率と控除額(速算表)

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

注意すべきなのは「実際にどのような財産分けをしたか」とは関係なく、「法定相続分で分けたと仮定」する点です。

  • 上記で計算されたそれぞれの相続税額を合計し、ここで初めてそれぞれが配分を受けた実際の財産割合で相続税を配分します。
  • それぞれ配分された税額を納付します。納付が困難な場合は、後述の延納や物納といった制度を利用することができます。
  • 配偶者の税額軽減
    相続人が配偶者(婚姻届が出されている配偶者に限る)場合、法定相続分と1億6000万円のいずれか多い額まで相続しても、相続税はかかりません。
  • 兄弟姉妹、孫養子は2割増
  • 相次相続控除
    10年以内に続けて相続があると、2回目の相続(第2次相続)では1回目に払った相続税の一部を差し引くことができます。この差し引く金額は、年数の経過によって減少するよう定められています。ただし、適用できるのは法定相続人に限られます。

②相続時精算課税
従来から贈与税には年間一定額(現在は110万円)の基礎控除制度がありましたが、これに加えて平成15年より、相続時精算課税という制度が創設されました。この制度は、消費を拡大するため、親から消費をする子の世代への贈与を活性化するという目的で設けられました。

相続時精算課税制度とは、親子間の贈与について2500万円までの財産に税金をかけず、それを超える部分について一律20%の贈与税をかけるという制度です。なお、2500万円の非課税枠は、財産をもらう人が一生でもらえる財産の総額であり、贈与の回数は何回あってもかまいません。ただし、前年以前に、この特別控除の適用を受けた金額がある場合には、2500万円からその金額を控除した残額がその年の非課税枠となります。

なお、この制度の適用対象は原則として、65歳以上の親から20歳以上の子供(子供が亡くなっているときには20歳以上の孫を含みます)への贈与に限られています。

この制度のポイントは、贈与した資産は、相続財産に加えて相続税を計算し、納付した贈与税があればこれを相続税から控除するという点にあります。

例えば、この制度による贈与を4000万円していて、相続財産が1億円あれば合計の1億4000万円が相続税の対象となります。なお、この制度を利用した人が、相続や遺贈によって財産を取得しなかった場合であっても、相続時精算課税で被相続人から取得した財産の価額は、贈与したときの時価で相続税の課税価格に加算され相続税がかかります。

この他、住宅資金を取得するための贈与を受けた場合の特例などもあるのですが、時間の関係で省略します。

③事業承継税制
平成20年5月9日に「中小企業における経営の承継の円滑に関する法律」が成立しました。この法律は、日本全体の雇用の約70%を支えている中小企業が円滑に事業承継でき、その結果雇用を確保できることを目的に制定されました。法律の3本柱として、遺留分に関する民法特例、金融支援、相続税の課税についての措置(詳細は平成21年度税制改正にて)となっています。

そして、相続税の課税問題については、平成20年度の税制改正要綱にて、「非上場株式等に係る相続税の納税猶予制度」が平成21年度の税制改正で創設されることが明記されました。

これらの制度は非常に複雑ですので、重要な項目について簡単に記載しておきます。

  • 会社経営者がその子などに経営権を譲り、同時に株を贈与する場合にはその贈与税を一部納税猶予する
  • 会社経営者に相続が発生した場合、経営を受け継ぐ子などが相続した株式についての相続税の納税は猶予する
  • 上記の贈与税、相続税の納税猶予は、それぞれ一定の条件のもと納付義務が免除される
  • これらの対象となる株式については、遺留分の適用外とすることができる(民法の特例)

なお、現在は当制度の特例として、全ての株を対象に100%の納税猶予が可能な制度が期間限定で設けられています。

2)延納、物納
①延納
国税は、金銭で一時に納付することが原則ですが、申告又は更正・決定により納付することになった相続税額(贈与税額)が10万円を超え、納期限までに、又は納付すべき日に金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、その納付を困難とする金額を限度として、申請書を提出の上、担保を提供することにより、年賦で納めることができます。これを「延納」といいます。この延納期間中は利子税がかかります。

②物納
納付すべき相続税額を納期限までに、又は納付すべき日に延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、その納付を困難とする金額を限度として、申請書及び物納手続関係書類を提出の上、一定の相続財産で納付することが認められています。これを「物納」といいます。

(第7回 完)
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相続税の計算(概算シミュレーション・税制改正/増税対応)
相続税が気になる方は、弊所のシミュレーションページを是非ご活用下さい。
無料で以下の情報を確認できます。

  • 相続財産、相続人(配偶者と子供の場合に限ります)から概算の相続税額
  • 相続税として納めなければならないのは、相続財産の何%に当たるか
  • その割合以下で子供に対して有利な贈与をするには年間一人当たりいくらまで贈与可能か

広大な土地の相続税~億単位で相続税が変わる!

相続税は、税理士にとっても非常に難しい分野の一つです。
今回は、相続税における土地の評価方法と、大きな土地を所有する方にとって特に影響が大きい「広大な土地」の評価方法及びその改正についてご説明します。

広大地

1.相続税と土地
相続税を計算する際、土地がある場合には原則として「路線価方式」や「倍率方式」で相続税のかかる時価を計算します。
路線価方式は、路線価(その道路に面している標準的な宅地の㎡単価)に、土地の状態に応じた調整を施した価格に面積を掛けたもので、いわゆる「土地の相続税評価額」としては最も一般的なものです。
また倍率方式は、山間部など路線価が設定されていない地域の土地に関して、その固定資産税評価額に地域の状況を踏まえた倍率を乗じて計算する時価です。
これらの路線価や倍率は現在インターネット上に公開されており、誰でも確認することができます。

2.広大地
ところが、このような評価が当てはまらない土地が時々あります。これが「広大地」と呼ばれる種類の土地です。
例えば1000㎡を超えるような土地の場合、昨今は大きなお屋敷などを建てたりはしませんので、一般的な大きさの住宅として分譲する場合がほとんどです。
しかしそのような場合には、どうしても道路(公衆用になるので、その部分の販売価値がなくなる)を作らなければ開発許可が下りないことになります。
そこで、従来からこのような広大地については、一般的な路線価方式や倍率方式よりも大幅に評価が低くなる方式(比例的な一律減額方式)が定められていました。
この結果、広大地に該当することとなれば、どんな土地でも大幅に相続税のかかる時価が低くなる結果が出る状態となっていました。

3.改正
このような問題に対処するため、平成29年に改正が行われました。
まず「広大地」という用語は「地積規模の大きな宅地」と変更され、地積(面積)や所在地域の容積率(※)に応じた判断が明確になりました。具体的な適用要件は下記の通りです。

※ 建物の延床面積を敷地面積で割った割合。建築基準法に基づき、地域や構造に応じて容積率の限度、すなわち敷地に応じてどれだけの大きさの建物を建築できるかを決めています

①地積が500平方メートル(三大都市圏以外は1000平方メートル)以上の宅地
②普通商業・併用住宅地区及び普通住宅地区として定められた地域に所在
③次のA~Cのいずれにも該当しない
A.市街化調整区域(都市計画法に規定する開発行為を行うことができる区域を除く)に所在
B.都市計画法に規定する工業専用地域に所在
C.容積率が400%(東京都の特別区においては300%)以上の地域に所在

また、評価方法は下記の通りとなりました。
路線価×地積×補正率(計上・奥行による)×規模格差補正率(面積による)

この改正によって、改正前の広大地評価よりも評価減割合が通常縮小することになります。また上記の改正は、平成30年1月1日以後の相続等により取得した財産の評価に適用されます。

4.注意点
「広大地」や「地積規模の大きな宅地」の改正は上記の通りなのですが、実はこれらの難しさは計算そのものではなく、判定の為の条件(地積の測定や地域の判断、容積率のチェックなど)にあります。私たちは多くの相続税申告をこれまで手掛けており、その中には土地の相続税評価額(時価)計算が含まれるものも多いのですが、一般的に土地の評価はこれらの基礎調査が難しく、その内容によってはかなり大きな金額で相続税が変わる(損になる)場合もあり得ます。この「広大地」や「地積規模の大きな宅地」は、面積が大きい分その影響も大きくなります。

このため、私たちはこのような評価が必要な場合には不動産鑑定士などの専門家を活用するだけではなく、信頼のおける不動産業者や役所などとも綿密に連携し、場合によってはこれらの分野を専門とする事務所とも連携することで適切な相続税が計算できるよう十分に配慮しています。

医療行為は特許が取れない

iPS細胞等再生医療や遺伝子治療、AIの活用など、最近は特に画期的な治療・診断方法や手術手法がいくつも開発されています。また、新型コロナウイルスに対する治療法やワクチンの開発が全世界で急速に進められています。

これらは難病に苦しめられているたくさんの患者さんを救うことができる反面、医療業界における大きなビジネスチャンスであるともいえます。そのため、大手企業も小規模ベンチャーも、こぞって医療に関する分野のビジネス化を進めています。

どのようなテクノロジーでも、ビジネス化を進めるうえで特許は避けて通れない権利保護の方法ですが、今の日本において「医療行為」は特許をとることができません。この点についてご説明したいと思います。

1.医療行為と特許
現在のところ、医療行為(治療方法、診断方法、手術方法など)については、特許が取れないこととされています。その理由は以下の通りです。

①医療行為の研究開発は、純粋な医学の研究としてなされ、特許制度によるインセンティブ
付与のニーズが高くない
②医学研究はそもそも営利目的にそぐわない
③医療行為は医薬品、医療機器等に比較して緊急の対応が求められる場合が多く、特許権者
の承諾がなければ実施できない場合危険である

ただ、医療行為に対する特許は法律で禁じられている訳ではなく、特許法29条が定める「次に掲げる発明を除き」特許を受けることができるという除外規定を用いて特許審査基準を定め、医療行為に関する特許出願がなされても「拒絶査定」を下すことにしているだけなのです。

2.特許の取れない医療行為とは
その審査基準(特許・実用新案審査基準)には、特許の取れない医療行為として下記のようなものが定められています。

①手術方法…外科的手術方法、採血方法、美容・整形のための手術方法、手術のための予備的処置など
②治療方法…投薬・注射・物理療法等の手段を施す方法、人工臓器・義手等の取り付け方法、風邪・虫歯の予防方法、治療のための予備的処置方法、健康状態を維持するためにするマッサージ方法、指圧方法など
③診断方法…病気の発見等、医療目的で身体・器官の状態・構造など計測等する方法(X線測定法等)、診断のための予備的方法(心電図電極配置法)など

3.諸外国の制度
では、これらの点は外国においてはどのようになっているでしょうか。欧州と米国の例を挙げます。

欧州
従来は日本と同様、産業上の利用に当たらないことを理由に医療行為に関する特許申請は拒絶されていました。これに対し、TRIPS協定(知的財産に関する国際条約)との整合性を高めるため2000年にこの制度を改め、医業は産業としつつも医療行為は不特許事由に該当することを明記しました。

米国
不特許事由に関する規定は存在せず、医療行為にも特許を付与し、医師の行為にも特許権は原則として及ぶような規定とされています。しかし、近視手術の方法に関する特許権に基づいて1993年に提起された特許権侵害訴訟を契機として1996年に法改正が行われ、医師等による医療行為は「差止・損害賠償の請求の対象から除外される」ことを明文化しました。
一方、その除外の例外として、バイオテクノロジー特許の侵害となる方法の実施などについては、医師の医療行為としての実施であっても特許権者の差止・損害賠償の請求権が及ぶこととしました。

4.今後について
iPS細胞等再生医療や遺伝子治療、AIの活用など、最近は特に画期的な治療・診断方法や手術手法がいくつも開発されています。これらは難病に苦しめられているたくさんの患者さんを救うことができる反面、医療業界における大きなビジネスチャンスであるともいえます。そのため、大手企業も小規模ベンチャーも、こぞって医療に関する分野のビジネス化を進めています。

このような状況においては、冒頭で述べたように「医療行為は特許不可」という一律の対応であると不十分であり、産業の発展にも良い影響はありません。

そのため、産学両方からこの取扱いを見直すよう意見が出され、実際に特許庁でも医療行為に特許権を付与することや、特許権を付与した場合、実際の医療現場における医師の医療行為に権利行使すること等の是非について検討がなされています。

 

 

コラム「相続の基礎」⑥相続争いと事例

4.相続争い

1)相続はほとんどがもめる?
大半の相続は円満に終わることが多いと思うのですが、ときどきいわゆる「争族」(そうぞく)と呼ばれる相続争いに陥ってしまうことがあります。

ものの本などを読むと「ほとんどがもめる」ようなことを書いてありますが、そんなに何もかもの事例で争いが起こっているわけではありません。

ただ、相続争いになるようなケースというのは財産総額が大きい場合が多く、しかも一度揉め出すと、裁判になる場合はもちろん、そこまで行かなくても外見的にも目立ってしまいます。このため、相続争いがよく起こっているように見えるのでしょう。

2)相続争いの例
では、相続争いの事例として、一澤帆布(京都)のケースをご紹介しましょう。
このケースは、世間から大変注目されただけではなく、相続の観点から見て面白い論点がたくさん含まれています。

①状況

  • 三男は20年以上先代と一緒に仕事をし、社長にも就任していた
  • 長男は銀行員
  • 次男は既に故人、四男は一旦一緒に働いていたが退社
  • 先代は顧問弁護士に以下の遺言書を託していた
    「会社の保有株2/3を三男夫妻に、1/3を四男に、その他銀行預金等を長男に相続させる」

②先代に相続発生

  • 2001年3月に先代が死去
  • 長男が、上記の遺言書より後の日付となる遺言書を提出。内容は以下の通り。
    「会社の保有株株式8割を長男に、2割を四男に相続させる」
  • 上記遺言の疑問点
    -事業を円満に手伝っていた三男に対して何の配分もない
    -弁護士保管の遺言書の捺印は実印だが、三文判が使われている
    -しかもその文字は、先代が書かれることを嫌がっていた「一沢(一澤ではなく)」表記
    -遺言書の日付時点において、先代は文字を書くことも困難な状況だった

③裁判の応酬

  • 三男は、第二の遺言が「無効」であるとして提訴
  • 最高裁で三男が敗訴
    「無効であると言える十分な証拠がない」という理由で、本物かどうかまで踏み込んだ論点ではなかった
  • 社長に就任した長男が三男に店舗や工場からの立退きを求めたため、三男や職人が一斉に別の会社・店舗へ移転
  • 長男が三男を権利侵害として提訴
  • 三男の妻が、第二の遺言書が「本物でない」ため無効である等という別の論点で提訴
    ※元々の訴訟に参加していなかったため、一事不再理の原則(いったん結論の決まった論点で二度裁判はできない)が適用されず、再度訴訟提起が可能となった
  • 第二の遺言書が「本物ではなく」無効であるとする判決を大阪高裁が出し、最高裁判所が長男の上告を棄却(最初の訴訟とは論点が違うことに注意)

3)相続争いを防ぐには

  • 生前から親族を仲良くさせること
  • 生前からの後継者教育を適切に行うこと
  • 遺言をきちんと書き、各人に明らかにしておくこと
  • 相続、相続税の手続を、相続人+αに対してガラス張りにすること
  • 良い税理士、弁護士を良い理解者として助けてもらう
    良い税理士、弁護士とは?:人生経験や常識的なものの見方は絶対に必要
  • 法事を手厚くすること
  • 金融機関の役割は?
    相続争いが発生した場合は金融機関にとってもリスクがある
    訴訟リスク、貸倒リスク、預金流出リスクなど
    金融機関が相続争いを防ぐ事は可能か?
    →厳格かつ理由をきちんと理解した手続

(第6回 完)
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相続税の計算(概算シミュレーション・税制改正/増税対応)
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  • 相続税として納めなければならないのは、相続財産の何%に当たるか
  • その割合以下で子供に対して有利な贈与をするには年間一人当たりいくらまで贈与可能か

コラム「相続の基礎」⑤相続と戸籍

3.相続と戸籍
1)戸籍の基本
戸籍制度の発足は明治時代の初期まで遡ります。実はこの戸籍は日本独特の制度であり、海外には日本のような戸籍制度のない国もたくさんあります。ただ戸籍の歴史や制度については私も専門ではありませんので、ここでは戸籍が何のためにあるかだけご説明しておきます。

戸籍は、以下の通りの目的をもっています

  • 本人の存在証明
    本人が日本人として存在していることを証することができます。ただ、最近はいろいろな制度の隙間の影響で「無戸籍の日本人」が問題になっています。
  • 親族関係が確認、証明できます。
    戸籍を見れば、親子関係や婚姻関係などが分かるようになっています。戸籍の筆頭者を中心に、配偶者や子などその家族関係が示されています。
    なお非嫡出子を認知した場合、父親の戸籍には身分欄にそのことが記載され、母親の戸籍には子として入籍することになります。

戸籍をみれば出身が分かるという方もいますが、実は現在の戸籍において本籍地は位置情報としての意味をあまり持ちません。転籍することは自由ですし、子も成人すれば自由に分籍をすることができます。

現在の本籍地のイメージとしては「各人を戸籍に登録する」場合のID番号的な位置付けでしかないようですので、山の頂上や遊園地など、住所を識別可能な場所であればどこでも設定ができるようです。

戦前など旧民法時代の戸籍は、家制度を非常に強く反映したものでしたが、現在はもう少し緩く、個人(結婚している場合には夫婦)を中心としたものとなっています。

2)人が亡くなったときはどのような流れで戸籍に記載されるか
人が亡くなった時は、その親族や同居人、大家さんなどがその死を知ったときから7日以内に死亡届を出さなければいけません。この死亡届は亡くなった人の本籍地に出す必要がありますが、死亡地でもこれをすることができます。

この死亡届が受理されると、その人は戸籍から除かれる事になります。これを「除籍」といいます。

但し死亡した人が戸籍の筆頭者の場合、除籍されてもその戸籍の筆頭者はそのままです。これは、本籍地と同様、筆頭者がデータベースで言うインデックスのような役割を担っているからです。

3)相続人を特定するために必要な戸籍とは
法定相続分は親族関係によって決まりますから、その特定は非常に大切です。例えば、子や親がいないと思って兄弟が相続しようとしたのに、実は婚外の子供を認知していたなどという事があれば、相続関係が完全にひっくり返ってしまいます。このような関係をきちんと調査するには、戸籍を調べる以外の方法はありません。

現在は戸籍が電子化(コンピュータ化)され、昔からの戸籍とコンピュータ化された戸籍が混在している状況にあります。新しい戸籍には古い戸籍から必要な情報のみが転記され、引き継がれていますが、全てが記載されている訳でもありません。このコンピュータに転記された元になる戸籍を、「改製原戸籍(かいせいはらこせき)」と言います。通常手書の古い書類をスキャンして作成されているため、かなり判読の難しいものが多いです。

戸籍謄本の収集はこれ以外にも注意点があり非常に難しいので、通常は市町村の戸籍係と十分に議論をした上で入手することにしています。

(第5回 完)
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コラム「相続の基礎」④遺言、遺産分割について

5)遺言書
①遺言とは
「ゆいごん」については皆さんある程度ご存じと思います。この「ゆいごん」、法律上は「いごん」と読みますが、今回は「ゆいごん」で統一したいと思います。弁護士さんとお話しする場合などは「いごん」と読むと良いかもしれません。

さて、遺言とは「人が自分の死後一定の効力を発生させる目的で、一定の方式でなされる相手方のない単独行為」のことを言います。簡単に言うと、人が自分の死後、一方的に「あれをしろ、これをしろ」と命令することです。

人の死後は、よほど霊感の強い方でもなければ現世とのコミュニケーションは取れませんので、勝手な事がなされないよう遺言については法律で厳格に要件が定められています。また、法律上遺言で指定出来るのは先ほど説明しました認知、相続分の指定、遺贈などに限られています。

②遺言書の種類
さて、民法上、遺言には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類が定められています(民法967条)。この他に臨終の場合や船舶中など、やむを得ない場合の特別な方式もありますが、今回は省略します。
では、これらの遺言方式の特徴について説明します。

<自筆証書遺言>
自筆証書遺言は、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自署し、これに印を押すことで作成できます。
この方式の長所は、紙一枚あれば容易に作成できることにあります。その反面、専門的知識のない方が書いた場合は法律的な要件を満たしていなかったり(日付の抜け、不動産の指定間違いなどが良く発生します)、間違いなく本人が書いたかどうか不明になる場合などの問題も発生しがちとなります。
また、改ざんを防ぐために封をした場合、相続発生後開封するためには家庭裁判所に持ち込み、検認という手続を受けなければならなくなります。

<公正証書遺言>
公正証書遺言は、証人2人が立ち会った上で公証人に遺言の内容を伝え、これを公証人が筆記、遺言者や証人が確認の上、公証人を加えて全員が署名、押印することによって作成します。作成した遺言書は、原本を公証役場に保管し、控を遺言者が持つことになります
この方式は、作成が公証人であること、また遺言書の原本が公証役場に保管されていることから、その証拠能力が非常に高いところに長所があります。また、公証人がその内容についてかなり厳密にアドバイスしてくれる場合も多く、無効な内容となる可能性が非常に低くなります。しかし、公証人に対しては相続人数や相続財産の額に応じて所定の手数料がかかりますし、証人の確保についても、単独で作成可能な自筆証書遺言より手間がかかると言えます。

<秘密証書遺言>
秘密証書遺言は、遺言者が署名押印した遺言書を封印し、これについて公証人及び証人2人の前に提出して「自分の遺言である」旨を述べた上で、公証人が日付などを記載、証人と遺言者が自署押印する方式です。
この方式は、遺言書を秘密に出来るというメリットがあるのですが、誰の目にも触れないため、開封した際内容に不備があれば無効になるという大きなリスクがあります。また相続発生後開封するためには家庭裁判所に持ち込み、検認という手続を受けなければならないことや、公証人の手数料がかかることなどのデメリットもあります。

③遺贈・死因贈与について
民法には、相続以外にも人の死に起因して財産などが移転する場合が規定されています。それは、遺贈(いぞう)と死因贈与です。これらは贈与の一種であるという点で共通なのですが、それぞれ次の様な違いがあります。

遺贈とは、遺言によって財産を贈与する行為です。この遺贈には受け取る側の意思は必要なく、遺言にて一方的に「○○は△△に遺贈する」と書けば足ります。

これに対し、死因贈与は贈与する者の死亡によって効力が生じる、贈与する者の生前に締結された贈与契約を言います。死因贈与の場合は、遺贈と異なり遺言に記載する必要はありません。また贈与する者と贈与される者の間に合意(あげます、もらいます)が必要となります。

これらは、民法が規定する親族など、相続の対象となる者以外に財産を分けたい場合に利用されます。例えば、内縁の妻や、親族以外でお世話になった方に対して財産を一部または全部移転したい場合に利用します。

なお、相続税法上はこれらも相続とほぼ同等に扱われますので、遺贈や死因贈与を受けた人は、相続した方と同等の相続税を負担することになります。

④遺留分
元々、遺言という制度は被相続人が自由に相続人などに対して自分の財産を分配するためにあるのですから、好きなように内容を書いてもその通りになるというのが原則です。

しかし、被相続人が相続人以外の者に全財産を渡してしまった場合や、特定の相続人だけに相続させた場合や生前贈与をした場合には、他の相続人は全く遺産を相続することが出来ません。

ただ、相続人が被相続人の財産形成に貢献した場合も考えられますし、ひょっとしたらその財産がもらえなければ相続人が生活に困窮する事もあるかもしれません。

このような考え方に基づき、民法においては法定相続人に最低限の遺産をもらえる権利を保証しています。この権利に当たる部分を「遺留分」といい、その請求を行うことを「遺留分の減殺請求」といいます。

父母や祖父母など、直系尊属のみが相続人の場合には法定相続分の1/3が、またその他の場合には1/2が遺留分となっています。また、兄弟姉妹には遺留分が認められていません。

⑤遺言書を作成する必要があるのは?
一言で言うと、「法定相続割合によらない配分方法で財産分けを行いたい場合」には遺言を書く必要があると言われています。そのようなケースをいくつか説明します。

  • 子供達やその配偶者同士の仲が悪い場合
    このような場合、ある程度それぞれが納得出来る範囲で財産分けを指定することで、相続財産を巡る争いでさらに関係を悪化させる事態を防ぐ事も可能です。
  • 夫婦に子供がなく、兄弟姉妹が疎遠な場合
    そのまま夫婦のどちらかが亡くなった場合、相続財産は生きている配偶者だけではなく、兄弟姉妹にも相続分が残ります。
    配偶者に全ての財産を移転したい場合は、「全財産を配偶者に相続させる」旨の遺言を作成しておけば、兄弟姉妹への相続分は発生しません。兄弟姉妹以外の相続分の場合は、先にご説明しました「遺留分」があるのですが、これまた先にご説明しました通り兄弟姉妹には遺留分がないため、このような事が可能となるのです。
  • 行方不明者がいる場合
    行方不明で連絡の取れない推定相続人(相続人になる予定のある人)がいる場合には、家庭裁判所などで「財産管理人」を選任してもらわなければ遺産の分割協議が出来ません。このような場合でも、遺言を作成しておけば、遺産分割協議の必要がなくなるためスムーズな相続手続が可能となります。

⑥改正について
平成30年7月6日、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立、同年7月13日に公布されました。これは一般に「改正相続法」と言われており、この分野においては約40年ぶりの大改正となっています。
その改正の中で、遺言に関しては「自筆証書遺言の様式」「法務局での遺言書保管制度」の2つが改正されています。

ア)自筆証書遺言の一部PC作成などを容認(平成31年1月13日から施行)
改正前は、自筆証書遺言については一言一句本人が手書で作成する必要がありました。
しかし改正後、遺産の目録をパソコンで作成したり、通帳のコピー、不動産の登記事項証明書、固定資産税の名寄帳などを添付して代用することが可能になりました。
但し、使用する目録の全てのページに署名捺印が必要とされています。

イ)法務局での遺言書の保管(令和2年7月10日から施行)
改正前の自筆証書遺言は、遺言した者が自宅などで保管することが一般的でした。
しかし、紛失や偽造など問題が起こることもあり、相続手続上のトラブルの種となっていました。
そこで、今回の改正により自筆証書遺言を法務局で保管することが可能になったのです(手数料3,900円/件)。
また、この保管された自筆証書遺言については、前述の検認手続(結構面倒です)が不要となります。

なお、遺言書の詳細や具体的な書き方については、弊所ブログ「遺言を書こう!~自分と家族の幸せのために」を是非参考になさって下さい。

6)遺産分割・未分割
①遺産分割協議、遺産分割協議書
被相続人が生前に遺言書を作成していなかった場合、または遺言書に記載されていない財産などがあった場合には、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成する必要があります。また、希にですが被相続人が残した遺言書と違う財産の配分などを行う場合も遺産分割協議が行われます。

なお相続人の中に未成年者がいる場合は、相続人の構成を確認した上でその未成年者に法定代理人をつけなければなりません。未成年者が法定代理人の同意なく行った法律行為は取り消しうるからです。法定代理人には通常親がなりますが、親も相続人など利益相反が懸念される場合は、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てることになります。

②分割が未了の場合はこんなにリスクが
民法上は、遺言や遺産分割協議による遺産分割が終了しない場合は、法定相続分に基づいて相続人全員が共有して相続したものと見なされます。

しかし、相続税の世界においては非常に大きな問題があります。それは、相続税における各種特例、すなわち税金を軽減してくれる制度のうち、重要なものが相続税申告書提出期限(相続開始後10か月)内に遺産分割協議が終了していることを要件としているからです。

例えば、後に説明する「配偶者の税額軽減」は、配偶者が相続した財産が法定相続分か1億6000万円のどちらか少ない金額まで税金が係らないという大きなメリットがある制度なのですが、相続税申告書の提出期限までに遺産分割協議が終了していなければその制度が使えません。この他にも遺産分割の完了を条件とする制度がありますので、やはり遺産分割は円満に、迅速に終えておく必要があると思います。

(第4回 完)
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コラム「相続の基礎」③単純承認・限定承認・相続放棄

2)単純承認・限定承認・相続放棄
被相続人が亡くなり相続が開始した場合、そこから(知らなかった時はそれを知った時から)3か月以内は、相続の手続において最も重要な期間であると言えます。財産がたくさんあって、相続人全員で仲良く財産分けが出来る状況なら良いのですが、仮に被相続人が多額の債務だけを抱えて亡くなった場合には注意が必要です。

このような場合、相続人が何もせず一定の期間を経過すると、被相続人の抱えていた多額の債務がそのまま相続人達に強制的に引き継がれてしまうのです。これを「単純承認」といいます。

そのような事態とならないために、民法には「相続放棄」や「限定承認」といった手続が定められています。

「相続放棄」は、民法第939条において「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」と定められており、財産も債務も引き継がないことが可能となります。(相続放棄については、弊所ブログ「相続放棄って何?」に詳しく説明しています)。

ところで、単純承認で相続人が複数いる場合、遺産分割によって債務の相続人を定めたとしても、それだけで他の相続人が債務から逃れられる訳ではありません。
もし債務を引き継いだ相続人が破産などした場合、他の相続人は連帯債務者として支払義務を負う場合があります。これを「重畳的債務引受け」と言います。
これを防ぐためには、債権者と債務を引き継いだ相続人が「免責的債務引受契約」を締結しておく必要があります。

また、相続財産もある程度あり、しかし債務もかなり多く、相続放棄、単純承認のどちらをすべきか明らかでない場合には、限定承認という手続を行います。

限定承認とは、相続財産を限度として債務を引き継ぐことを言います。単純承認の場合は、相続人が引き継いだ債務の弁済のため相続人固有の財産まで引き出される可能性もありますが、限定承認ならそのような危険はありません。また、債務を弁済した後に残余があれば、相続人が残余財産を相続出来る事になっています。

限定承認の手続は相続人が全員で行う必要がある他、財産目録の作成、公告、競売など様々なものが細かく定められていますが、現在は使われることが少ないため説明は省略します。

3)保証債務と相続
保証債務は、保証人が死亡しても原則として消滅しません。これは、保証人の死亡という偶然の事情によって、債権者が不測の損害を被ることを防止するためです。このため、保証債務は法定相続分に応じて各相続人に引き継がれることになります。

しかし、身元保証債務や根保証については、長期間にわたって保証することになることが多く、また責任も広範になるおそれが大きいことから、これを相続人に相続させると、相続人の負担が大きくなります。そこで判例は、これらについては相続されないとしています。ただ、相続の時点で具体的に発生していた保証債務については相続されます。

相続手続の際には、実債務だけではなく、このような保証債務がないかどうかについても慎重に検討する必要があります。

(第3回 完)
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  • 相続税として納めなければならないのは、相続財産の何%に当たるか
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コラム「相続の基礎」②相続人や養子について

2.相続の手続
ここまで、「相続とはなにか」という観点からご説明をしてきました。ここから先は、相続における実際の手続についてご説明します。ただ、相続に関する手続は非常に多いため、主なものだけに絞っております。

1)相続人や養子、その他相続する権利のある者
①法定相続人
相続においては財産に目が行きがちですが、実は相続が発生した場合、最も重要なのは「誰が相続人となるべきか」です。この相続人については、民法において詳しく規定されています。この項目においては、この「法定相続人」についてご説明します。

まず、被相続人に配偶者が居る場合、その配偶者は必ず相続人になります。

配偶者以外の相続人は、以下の順位で相続割合を決めると定められています。

  • (第1順位) 子 全体の1/2を各人で配分、配偶者は1/2
  • (第2順位) 直系尊属(親、祖父母など)  全体の1/3を各人で配分、配偶者は2/3
  • (第3順位) 兄弟姉妹 全体の1/4を各人で配分、配偶者は3/4

すなわち、子がいる場合は子のみが、子がおらず親などの直系尊属が居る場合には直系尊属のみが、そして子も直系尊属もない場合には兄弟姉妹が法定相続人となります。

②代襲相続人
ここまで法定相続人について説明してきました。では、上記の相続人となるべき者が既に亡くなっている場合はどうなるでしょうか?このような場合、その亡くなっている人に子や孫がいるならばその子や孫が死亡した者に代わって相続することになります。このような相続人を「代襲相続人(だいしゅうそうぞくにん)」と言います。

第1順位の相続人が亡くなり、その子が居る場合にはその子が代襲相続人となります。また、その子も亡くなっている場合には孫が代襲相続人となります。亡くなった相続人に子が複数名いた場合は、そのそれぞれで均等に配分します。但し、第3順位の場合の代襲者はその子(被相続人から見れば甥、姪)までが代襲相続人となることされており、第1順位の場合より範囲が狭くなっています。
また第2順位の親や祖父母の子は被相続人やその兄弟姉妹ですから、代襲相続人の考え方としては意味を持ちません。

後述(⑥)する「欠格事由」、「推定相続人の廃除」で相続人から外された者が亡くなっている場合も、その子があれば代襲相続をすることになります。これに対して「相続放棄」した者が亡くなった場合に代襲相続はありません。前述の2つの場合と異なり、自ら相続権を放棄した訳ですから、代襲させる必要がないという訳です。

③胎児の扱い
民法は、まだ生まれてきていない胎児についても特殊な権利を認めています。
民法第886条第1項は、相続における胎児の地位について、例外的に、「相続に関しては胎児は既に生まれたものとみなす」としています。

胎児には出生まで権利能力はないと考えられていますが、生存状態で生まれてきたことを条件として、出生により生じた権利能力が問題の時点、すなわち相続の時点などにまで遡って生じたものとみなして扱うという考え方となっています。

ただし、残念ながら死産となった場合には、「みなす」項目が意味を失い、最初から居なかったことになってしまいます。

④養子縁組
養子縁組とは、実の子でない他人に親子関係を法律上発生させる事を言いますが、民法は養子について、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2つを定めています。
これらの違いは、実の親との親族関係が残るかどうかにつきます。つまり、普通養子縁組の場合、養親との親族関係が成立しても実の親との親族関係が残りますが、特別養子縁組の場合、実の親との親族関係は無くなってしまいます。

どちらの養子とするかに係わらず、養子縁組によって親子となった者(養子)と親となった者(養親」との間は実の親子と同じ親族関係が発生するため、相続に関する権利も実の親子と全く同じとなります。

さて、後の「相続税」に関する項目でお話しますが、相続税は子供が多ければ多いほど少なくなります。養子も子として数えられますし、民法上は養子人数に制限はありませんので、どんどん養子を増やせばどんどん相続税が少なくなることになります。実際に、かつてはこれを狙って何人もの養子をかかえるケースも少なくありませんでした。

このように課税回避を目的とした養子の増加が目に余る状態となったため、昭和63年の相続税法改正で以下のような制限が設けられてしまいました。

  • 実子がある場合は1名
  • 実子がない場合は2名
  • 上記を超える養子については、税法上は「いないもの」として計算する

また、財産に相続税が課される回数を少しでも少なくしようと、従来から孫を養子にする方法が良く採られてきました。このようにしておくと、孫に相続される財産には通常親(1回目)、子(2回目)と2回相続税が課されるのに対し、親の1回しか相続税が課されないからです。

しかしこれについても、平成15年の相続税法改正で制限が設けられました。その結果、孫を養子にした場合その養子に課される相続税は2割増になるという制度です。

⑤非嫡出子の認知
「非嫡出子」(ひちゃくしゅつし)と読みますが、これは、「婚姻関係のない男女間に生まれた子」のことを言います。このような非嫡出子の場合、認知によってはじめて法律上の親子関係が発生することになります。この言葉の逆の意味が「嫡出子」です。

この認知は父親だけに対するものとなっています。母親の場合、分娩という厳然たる事実ある訳ですから、あらためて認知する必要はないわけです(このあたり最近の出産事情はだいぶ変わってきているようですが、法律が追い付いてないようです)。

なお、認知には任意認知(自分で行う認知)と強制認知(調停による認知)がありますが、いずれにしても「出生の時にさかのぼって効力を生ずる」とされていますので、生まれたときにさかのぼって子としての権利を得ることになります。

⑥欠格事由、推定相続人の廃除
何もなければ法定相続人として相続する権利がある者であっても、民法上その権利を亡くしてしまう幾つかの場合が以下の通り規定されています。

(1)欠格事由
親兄弟の殺人等で刑罰を受けたり、遺言書を偽造・変造もしくは詐欺・脅迫で作成させるなどした場合
(2)推定相続人の廃除
被相続人に対する虐待や重大な侮辱などをしたことで、被相続人からその生前に相続人の排除を家庭裁判所に請求された者や、遺言で排除された場合
(3)相続放棄
相続人が自ら相続に関する権利を放棄することを言います。

なお、欠格事由や排除、相続放棄があった場合でも、その子には前述の通り代襲相続権がありますし、後でご説明する相続税の計算上は、相続人が居るものとして計算します。

⑦内縁の妻の場合
長年連れ添った相手が内縁の妻(または夫)という場合はどうでしょうか。よく言われるように、いわゆる事実婚と言われる相手には何年仲むつまじく暮らそうが、事業や仕事に貢献があろうが相続権はありません。

このような場合、後で説明する遺言を書き、財産を残す配慮をする必要があります。
様々な事情があるかと思いますが、やはり財産を残してあげたい場合には「事実婚」だといろいろな無理が出て来ます。

⑧特別受益者、寄与者
前述の通り、相続は、基本的には遺産総額を各人の法定相続分で分ける事となっています。しかし、例えば生前の被相続人に対して、財産を大きく増やすことに貢献した相続人や、逆に生前の被相続人から多額の贈与を受けた者があれば、これらの相続人に対して単純に法定相続分で財産を分けると不公平となります。

民法においては前者を「特別受益者」といい、後者を「寄与者」といいます。これらの者があるときに法定相続分を計算する場合、本来の相続財産に「特別受益」部分を加え、これを特別受益を受けた相続人が相続したと見なしたり、また相続財産から「寄与分」を除いて相続分を計算したりして調整します。

⑨相続人がいない場合(不存在)
相続人の存否が不明な場合や、相続放棄により相続人が存在しないこととなった場合、利害関係人は家庭裁判所に相続財産の管理人の専任を請求できます。

この管理人は、以下のような手続を行います。

  • 相続財産(法人として取り扱います)の管理
  • 不明となっている相続人を捜索
  • 債務の弁済
  • 相続人の不存在が確定した場合の特別縁故者への財産分与
  • 残余財産の国庫への帰属

(第2回 完)

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