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これが贈与の全てだ! ~ プロが教える贈与のポイント

平成27年に相続税の増税があったため、最近は相続税を減らす対策としての「贈与(ぞうよ)」が大きな注目を浴びています。
でもこの贈与、実は意外と複雑で、気を付けないといけないポイントも多いのです。
今回はそんな贈与について、できるだけ分かりやすく解説し、よく言われる贈与税に関するうわさの真実、また上手な活用のヒントについて書いてみたいと思います。

1.はじめに
平成27年に、大変大きな「相続税の増税」がありました。
これは、法律の改正により「今まで相続税がかからなかった」多くの人にも相続税がかかるようになったことによるものです。
そのこともあって、相続税を減らす対策としての「贈与(ぞうよ)」が大きな注目を浴びています。
でもこの贈与、実は意外と複雑で、気を付けないといけないポイントも多いのです。
今回はそんな贈与について、できるだけ分かりやすく解説し、上手な活用のヒントについて書いてみたいと思います。

2.贈与・贈与税とは?
贈与という言葉を見ると、単に「人に自分のものを与える」だけのように感じます。
ですが、法律上の意味はちょっと違います。
「人に自分のものを与える」のはその通りなのですが、「与える相手に『与える』ことを伝えて」、「相手がそれに応じる」という条件がないと成立しないのです。ややこしいですね。
この点、法律を勉強している人なら「民法549条」や「片務契約(へんむけいやく)」「諾成契約(だくせいけいやく)」「無償契約」などという言葉をご存知と思いますが、このコラムにおいては不要なので省略します。
なお、贈与や贈与税といった言葉はありますが、贈与について規定した「贈与法」やその税金に関する「贈与税法」という法律はありません。それぞれ「民法」や「相続税法」に規程が設けられています。

3.相続・相続税との関係
持ち戻し
相続人となる子供が複数いた場合、一人の相続人だけが親からたくさんの財産を生前にもらっていた場合、他の相続人にとっては不利になります。このような生前に受けた贈与は、民法上「特別受益」と言われており、相続の際には公平を期すよう考慮することとされています。これを「持ち戻し」と呼びます。

贈与税率
相続税を回避するためにたくさんの財産を贈与すると、相続税を課税する意味がなくなってしまいます。このため、同じ財産を対象にした場合、相続税に比べて贈与税は非常に高くなるように税率が定められています。

3年内贈与
法律上、いつの贈与であっても贈与は贈与です。しかし、相続税を計算する場合には、相続発生前3年間の贈与については、相続財産に含めて計算します。ただ、もしその贈与で申告し、贈与税を支払っている場合には、その贈与税は計算された相続税から差し引くことができます。

4.贈与の種類
暦年贈与
暦年(れきねん)とは普通、1月から12月までの1年間のことを言います。
この暦年贈与は、特別な制度を使わない「普通の贈与」として取り扱われます。
暦年贈与の場合、もらう人単位で「1年間110万円」までは税金がかからないことになっています。この金額を「基礎控除」といいます。
この基礎控除を超えた部分には贈与税がかかりますので、贈与があった翌年の2月1日から3月15日までに贈与税を申告、納税する必要があります。また前述の通り贈与税は相続税に比べてかなり高く、贈与された金額が高くなればなるほど税率も高くなります。

相続時精算課税贈与
この制度を使い、例えば60歳以上の父母又は祖父母から20歳以上の子又は孫に対して財産を贈与した場合、申告と利用の届出をすることで、なんと2500万円までは税金がかからないことになるのです。また、2500万円を超える場合でも、超えた部分には20%の税金しかかかりません。
ここまでだけ見ると、税額が高くて、金額が上がると税率も上がる暦年贈与と比べて非常に得なように見えますが、実はそうではありません。
相続時精算課税贈与の対象となった贈与財産は、贈与した人が亡くなった際にはその相続財産に「贈与した時の時価」で「加えられてしまう」のです。そして、もし先に払った贈与税があれば、相続税から差し引くこととされています。つまり相続時精算課税贈与とは、文字通り「相続の際に『精算』する」ことを前提にした贈与なのです。

事業承継、農地の贈与(課税繰り延べ)
我が国の企業のほとんどを占める中小企業は、上場会社のように大きくはなくとも、地域の経済や雇用にとって非常に重要な存在です。しかし、多くの中小企業は経営者の高齢化と後継者難に直面しています。また、農業従事者も減少を続けており、こちらも後継者難は非常に大きな問題となっています。
ところが、通常中小企業の株式は「相続財産」とされ多額の相続税がかかりますし、農地も土地として相続税の課税対象となります。引き継ぐためには多額の相続税がかかることとなっては、ただでさえ後継者難に悩む企業経営や農業にとって追い打ちとなってしまいます。
このような問題に対応するため、事業承継、農地それぞれに関して「贈与税の特例」が設けられています。
この特例制度自体は非常に複雑なのですが、ざっくりと言うと企業経営者や農業従事者が後継者となる者にその株式や農地を贈与した場合、贈与した際の贈与税(株式や農地に対応する部分に限ります)を「猶予」し、贈与した人が亡くなった後後継者が企業や農業を引き継いだ場合には、一定の条件の元「猶予された贈与税や相続税が免除」されます。
このことにより、中小企業や農業の後継者にとっては相続税の負担が軽減されるのですが、従業員を大きく減らしたり、農地を売ってしまったりした場合には、猶予された贈与税に利息を付けて払わなければならないという大きなリスクもあります。

住宅資金贈与
父母や祖父母から住宅を購入するために資金の贈与を受け、贈与を受けた年の翌年3月15日までにその資金で自分が住むための住宅を購入したり、増改築をした場合、その贈与した資金には一定額まで贈与税がかかりません。
この制度は現在段階的に縮小されており、令和3年末まで下記のような非課税枠となっています(国税庁ページより)。

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なお対象となる住宅の種類(省エネ住宅かどうか)や、購入する時期、その時の消費税率などによって非課税金額が異なります。また、贈与を受ける者がその年の1月1日時点で20歳以上であることや、贈与のあった年の所得が2000万円以下であることなどの制約があるので注意が必要です。

教育資金贈与
この教育資金贈与は、次の結婚・子育て資金贈与とともに、親、祖父母世代から次の世代へ資産を移転し、教育機会の充実や人材育成、少子化対策等へ良い影響を与えることを期待して設けられた制度です。
まず、祖父母(贈与者)は、取扱金融機関(銀行、信託銀行など)に子・孫(受贈者)名義の口座等を開設し、教育資金を一括して預けます。この預け資金については、子・孫ごとに1500万円を非課税とします。
次に、預けられた資金が教育資金に使われているかどうかを取扱金融機関が領収書等によってチェックし、書類を保管しておきます。
そしてこの口座は、子や孫等が30歳に達する日に終了し、その時点で残額や目的外使用があればそれらの金額に贈与税がかかることになります。
この制度は、平成25年4月1日から令和3年3月31日までの期間となっています。

結婚・子育て資金贈与
この贈与についても、教育資金贈与と同様、祖父母や両親(贈与者)が、子・孫(受贈者)名義の金融機関の口座等に、結婚・子育て資金を一括して預けます。ただ、対象となる子・孫が20歳以上50歳未満であること、また非課税の金額は子・孫ごとに1000万円(結婚関係は300万円が限度)となる点が異なります。
また、領収書等のチェック、保管についても教育資金と同様金融機関が行います。
最後に、口座は子や孫が50歳に達する日に終了し、終了時に使い残しがあれば、贈与税が課税されます。
また終了前に贈与者が死亡した時、使い残しがあれば、贈与者の相続財産に加算します。
この制度も期間が限定されており、平成27年4月1日から令和3年3月31日までの4年間となっています。

「どこにも規定のない」贈与
教育資金や結婚・子育て資金については上に書いたように特別の制度が出来ましたが、実は従来からこのような贈与の大半は元々非課税であったと言われています。
また、同居する親族への生活費補助についても、課税される贈与としては従来から取り扱われていません。
これらを考えると、面倒な手続きの必要な上の制度ではなく従来通りの取り扱いをしてはどうか、という意見もあるのですが、従来通りの取り扱いについては、それが本当に課税されない贈与なのか、課税されるべき贈与なのかをが(税務署から見て)はっきりしない場合には多額の課税がされてしまう場合もあり得ます。
そのような場合には信頼できる税理士に相談して、リスクの少ない方法を選ぶようにしましょう。

5.贈与の「ウソ・ホント」
贈与税はめちゃくちゃ高い?
確かに同じ資産の額であったとすれば、贈与税率は相続税率より非常に高くなっています。だからと言って、基礎控除(110万円)を超えて贈与し、贈与税を払うのが必ず損かというとそうでもありません。
例えば、全体の財産から見て相続税の実効税率(予想される相続税額を相続財産の総額で割り返したもの)が20%の税率で課税される可能性の高い方があるとします。その方が300万円の贈与をした場合、贈与税は下記の通りとなります。

(300-110)×10%(贈与税率)=19万円(300万円の6.3%)

つまり、放っておけば財産に20%の相続税がかかるところ、上記の贈与を行えば6.3%の贈与税で済む訳です。
贈与を利用した相続対策を行うためには、このような点に注意しておくと効果的です。詳しくは「3代で財産がなくなる」相続税と効果的な対策(シミュレーション)をご覧ください。

暦年贈与はちょっと税金を出して申告しておくと安全?
申告書を提出した、という行為は認められますが、だからと言って税務署が申告書の内容を保証してくれる訳ではありません。ですので、申告をすること自体が贈与や贈与税の計算そのものを立証する証拠にはならないのです。

毎年110万円を10年贈与したら1100万円に一括で税金がかかる?
これは一番といっていいほどよく頂く質問です。
論拠としては、「毎年110万円を10年間贈与することを約束したのだから、1100万円の贈与と同じだ」と指摘されないか、という点に集約されると思います。
この考え方も理論的にはあり得ない訳ではないのですが、そのことが明らかに書かれた契約書でもなければ税務署側も「10年間の贈与契約に合意した」と断言はできないと思います。
ですので、明らかに毎年贈与することを約束していない限りは、このようにまとめて課税される心配はないと思って良いと思います。

保険料の贈与は安全?
補償額やリターン(返戻)の大きな保険契約を子が結び、親がその保険料を子に贈与する、という贈与手法が最近良く使われています。この保険料を毎年110万円未満にしておけば贈与税がかからない、と言われている方法です。
この方法は確かに良いアイデアなのですが、ちょっと注意が必要です。
まだ収入の発生する見込みがない方がそんな保険契約を結んだら、少なくとも数年間は保険料の贈与を受けないといけないですよね。
とすると、③の懸念と同じで「数年間の贈与契約に合意した」と言えるかもしれないのです。
このような説明がなく、単に「贈与税はかかりませんよ」とだけ言うような保険担当さんには、頼まない方が良さそうです。

6.まとめ
以上、贈与について出来るだけ簡単にまとめてみました。
この贈与、他の制度や金融商品と組み合わせることで、とても効果的な相続税対策を組み立てることも可能です。ただ、程度の大小はありますがどの方法も注意点やリスクがあります。
また、ここには書けない、いわゆる「グレーゾーン(違法ではないが、状況や見方によっては納税者と税務署で見解が異なる状態)」と呼ばれる方法もたくさんあります。
大変使いでのある贈与ですが、検討される場合は必ず税理士などの専門家にきちんと相談されることをお勧めします。

以上

令和2年度の路線価とコロナの影響について

7月1日、国税庁より全国の「路線価」が発表されました。
この路線価、相続税の計算をする際には非常に重要な指標となっています。
今回は、この路線価についてご説明します。

1.路線価って?
亡くなった方の相続人などにかかる「相続税」。
この相続税は、相続財産(亡くなった方から受け継がれる財産)の「時価」に、税率や相続人数などに基づいた計算を加味することで計算されます(「相続税の計算は意外と複雑」参照)。
相続財産に占める土地の割合は4~5割と非常に重要ですので、私たち税理士が相続税の計算を行う際、土地の時価を計算するのは非常に大事な仕事です。

しかしこの「土地の時価」を計算するにはどうすればよいでしょう。
上場株式なら株式市場でいつでも売り買いできる時価が公表されていますが、土地の場合はそうはいきません。
確かに、不動産会社を通じて「売りたい」「買いたい」といえばその状況に応じて価格がつきます。しかし、それはその特別な状況で採用される価格であって、税金の計算のように「公平性」が重要な指標として使うことは無理があります。

そこで国は、全国的な調査を定期的に行って、地域ごとに道路(不特定多数が通行するもの)に面する宅地について、1㎡当たりの時価を公表することとしています。これが一般に路線価(相続税路線価。この他、固定資産税課税の為の路線価もある)と呼ばれています。
※なお、特に市街地でない場所によっては路線ごとの時価が適していない場合もありますので、その場合には「倍率方式」と呼ばれる別の方法を時価として採用します。また、納税者が不動産鑑定士による鑑定評価額などを時価として採用することもできます。

2.路線価の例
路線価の例を見てみましょう。

銀座路線価

国税庁の路線価検索サイトから、「全国一路線価が高い」といわれる銀座5丁目周辺の路線価図を呼び出してみました。
ご覧の通り、全ての道路に細かい数字が示されています。
この数字が「路線価」、すなわち「1㎡当たりの土地の価格」になります。
※その他の記号も相続税を計算する上で非常に重要な意味を持つのですが、今回は省略します。

少々見づらいですが、図の左下に注目して下さい。
中央通りの「鳩居堂」と書かれた地点は、「45,920」と記されています。この数字は千円単位なので、1㎡当たりなんと4,592万円の価格となっている訳です。
この価格、いわゆるバブル期の3,600万円程度をはるかに上回っています。

3.大阪の推移
大阪で最も路線価が高いのは「梅田阪急百貨店前」です。
この路線価がどのように変化しているかを説明するため、今年から3年ごとにさかのぼったデータをまとめてみました。

路線価変遷

こちらも平成26年の1㎡あたり756万円が、平成29年には1,176万円となり、なんと今年令和2年には2,160万円にまで上昇しています。

国税庁が発表する地価の高い場所は、下記の通りです。
令和元年分都道府県庁所在都市の最高路線価

4.コロナの影響について
今回は地価が上昇している場所を中心にご説明しました。
これらは、インバウンド需要を中心に価値が暴騰したことが主な理由といわれています。
また、バブル後低迷を続けていた他の地域においても、このような場所に影響を受け、また旺盛なマンション建設需要などを背景に下げ止まっていた所でした。

しかし今回のコロナ禍を経て、地価がどのように変化するかが注目されるところです。
例えば、もしコロナ禍の影響で実際の土地実勢価格が大きく下がっていたとしても、相続税の計算はその前の非常に高い路線価で計算しなければならないのが原則だからです。
国税庁は、今後のこのような影響によって実際の地価が大きく下がる場合、その推移によっては路線価の減額修正を可能にする措置を導入することを検討しています。
この行方にも注意が必要です。

CRS(共通報告基準)であなたの口座情報が筒抜け?

皆さん「CRS」という言葉をご存知でしょうか?
最近、国際的な脱税や租税回避に対する批判が高まっています。
アップルのような大企業のみならず、中小企業や個人富裕層までもが様々な手段を利用して課税を逃れようと工夫を重ねています。
この「CRS」という制度は、このような脱税や租税回避に対処するため2017年から運用されている国際基準です。
金融機関はこの制度に基づき、顧客情報をより詳しく把握して国税当局に報告し、当局は各国間でこの情報を共有しています。

1.CRSとは
OECDは、外国の金融機関等を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するため、非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準である「共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)」を公表し、日本を含む各国がその実施を約束しました。

OECD加盟国はこの基準に基づき、各国の税務当局は、自国に所在する金融機関等から非居住者が保有する金融口座情報の報告を受け、租税条約等の情報交換規定に基づき、その非居住者の居住地国の税務当局に対しその情報を提供します。

このため国内に所在する金融機関等は、平成30年以後、毎年4月30日までに特定の非居住者の金融口座情報を所轄税務署長に報告し、報告された金融口座情報は、租税条約等の情報交換規定に基づき、各国税務当局と自動的に交換されることとなります。

2.日本における状況
日本においては、国税庁が「租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律(実特法)」を改正しCRSに対応しています(平成29年1月1日から施行)。

日本の金融機関は、この実特法に基づき、新たに口座開設等を行う顧客の、「税務上の居住地」を記載した届出書の提出を依頼することになります。また顧客の税務上の居住地に日本以外の居住地があり、その居住地が報告対象国である場合、顧客の口座情報等を年1回、金融機関より国税庁に報告することが義務付けられています。

最近、新しい銀行口座を開設する上で、開設者本人やその関係者、法人の実質支配者などを詳細に書かせるようになった背景がここにあります。

3.具体的な手続き、注意点など
海外の税務当局は、所有している個人情報・法人情報(氏名、名称、住所等、納税者番号など)と収入に関する情報(利子配当譲渡収入など)、また口座番号やその口座に所有している預金や有価証券等の残高を日本の国税庁に提供します。
逆に、日本の国税庁からは、上記と同様の情報が海外の税務当局に提供されます。運用の始まったマイナンバーは、納税者番号として取り扱われているようです。なお、口座残高が25万ドル以下の場合は情報交換の対象外となっています。

この情報交換は2018年から始まっており、国税庁はその内容と日本での申告書や「国外財産調書(年末時点で5,000万円超の国外財産を有する者に提出義務のある資料)」を照らし合わせる作業を進めています。また、この照合結果を基礎として、順次疑いのある納税者に税務調査を進めることになっています。

最近はこの制度を生かした調査が行われており、下記のような報道も出ています。

調査対象者の男性は国外に預金口座を複数保有していた。大阪国税局はCRSなどで得られた情報をもとに税務調査を実施。調査の結果、一部の預金口座の存在を認めたが、その他は認めなかった。CRS情報で得られた口座情報を活用して追及した結果、意図的に海外預金の利子を申告していなかった事実を認めた。申告漏れ所得の総額は約5500万円で重加算税を含めた追徴税額は約2700万円だった。(日本経済新聞 「富裕層」の申告漏れ最多、1年で763億円 国税庁調査 2019/11/28)

なお、最近のCRSの運用については、国税庁が下記のような資料を公表しています。
平成 30 事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要(国税庁 PDF)

もし無申告の高額海外資産をお持ちの場合、全て情報交換の対象になりますので、税理士に相談の上できるだけ早く自主的に申告なさることをお勧めします。

相続税の計算は意外と複雑

私たちの事務所には相続税を概算できるページを以前から設けているのですが、昨今の改正、特に平成27年の改正で相続税を払わなければならない方が増えたこともあり、こちらへのアクセスもずいぶん多くなっています。

でも、相続税が実際どのように計算されるかについては、実はあまり良く知られていません。

というより、実際の計算方法は皆さんが考えるよりちょっと複雑なのです。

相続税の計算方法について一番多い誤解が、

「相続税は相続財産に相続税率を掛けることで計算される」

というものです。

いや、正直これでいいんじゃないの?と私も思うのですが、いろんな理屈やらがあって、実際の計算は下記のように行われることになっています。

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①相続財産を「法定相続分」で分けたと「仮定」(あくまで仮定)

②その「仮定」の財産それぞれに、税率(累進税率)を掛ける

③②の計算結果を集計する

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「法定相続分」は、民法で決められている財産の分け方で、特に相続人間で分け方を決めなければこの配分で分けることになります。例えば配偶者と子供2人であれば、配偶者が半分、そして残り半分を子供が2人で半分ずつ受け取ります。

累進税率とは、財産が増えると税率が上がる仕組みです。急激に増えないよう、緩やかなカーブを描いて率が増加するように工夫されています。

 

さて、相続税の計算はまだ終わりません。

先ほどの③に続いて、各相続人の税金を計算する過程が残っています。

 

④③で集計した相続財産全体を、各相続人の財産取り分の割合で分ける

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これでようやく、それぞれが納める税金が計算できることになります。

相続税の計算が少しだけ複雑なことが分かって頂けましたでしょうか?

多くの方が何度も経験するものではありませんが、改正により可能性は増えていると思います。ご参考にして頂けると幸いです。

 

相続税の見積り計算と有利な贈与

1.相続税とは
人が亡くなった際にかかる「相続税」。
一般の人々にとってはなじみの薄いものだったのですが、昨年の改正によって相続税を払わなくてはならない対象者が増え、注目を浴びています。
この相続税、制度はものすごく複雑なのですが、簡単にいうと以下の通りの手順で計算されます。

①純財産…亡くなった時点の財産から負債を引いたもの。時価で計算します)
②基礎控除…相続人一人当たり600万円に、3000万円を加えたもの)
③(①-②)を法定相続分で相続したと仮定した場合の相続税額…①-②を法定相続分で割り、それぞれに相続税率を掛けます
④相続税総額…③を合計します
⑤それぞれの財産取得割合に応じて、④を再度配分します。

要するに、「全体を一旦法定相続分で分けたと仮定して総税額を計算し、財産取得割合に応じて分ける」という方法を採用している訳です。

この他、配偶者が財産を取得した場合の大きな特典や、その他控除、財産の時価を計算する場合の有利な制度等がありますが、今回は省略します。

2.財産に対してどれくらいの相続税がかかるか
相続税の「税率表」は、次の通りです。

相続税速算表
平成27年1月1日以後の場合の相続税の速算表(国税庁パンフより)

この税率表、見ての通り財産が増えると率も上がる「累進性」を取っています。

しかし、たとえば「法定相続分に応ずる取得金額」(1.の③を計算する際に利用します)が1億円から1.5億円になった場合、急に30%から40%になるかというとそうではありません。

右の「控除額」という欄を見て下さい。

税金を計算する際は、金額×税率から「控除額」を差し引きすることで、財産と税金の関係が滑らかな曲線に近くなるよう設計されているのです。2億円までの財産に対する相続税は、次のグラフのようになります。

相続財産と相続税の関係

相続財産(一人当)と税額との関係
(横軸が財産、縦軸が相続税額)

 

では実際にどれくらいの相続税がかかるのでしょうか。

財産や相続人の数応じてたくさんのパターンがありますから、ここでは3つほどの事例を挙げておきます。

1.と同様、税制上の特典利用等は省略していますので、相続人も配偶者なしの場合だけです。

①相続財産が5億円、相続人3人…1億2980万円(財産に対して約26%)
②相続財産が10億円、相続人3人…3億5000万円(同 35%)
③相続財産が1億円、相続人4人…490万円(同 約5%)

相続財産や相続人の数によって大きく変わることが分かって頂けたと思います。

相続財産、相続人と税金の関係については、当所のシミュレーションページにて色々と試してみて下さい。

3.「贈与税は高い」のホントと嘘
相続税は決して低い負担ではありませんから、生前に自分の財産を子供たちに移してしまい、相続税がかからないようにしたいと願うのは自然な流れかもしれません。

そうなると相続税が取れませんので、国は「贈与税」という制度を相続税法の中に置いて、そのような回避行為が出来ないようにしています。

贈与税の税率表は次の通りです。

計算方法は相続税と似ていて、贈与金額から基礎控除(110万円)を差し引いた金額に税率を掛け、控除額を差し引きます。

この計算に用いる贈与税の税率表(一般)は以下の通りとなっています。

贈与税速算表
相続税の表と比べて頂ければお分かりと思いますが、同じ税率に対して「対象となる財産の金額」が非常に低くなっています。ということは、より低い財産の時に高い税率が適用されるのです。

これが、贈与税が高いと言われるゆえんです。

このため、一般には「贈与は基礎控除(年110万円までなら税金がかかりません)までにすべき」という意見も良く聞かれます。

しかし、本当にそれだけが正しいでしょうか?

4.賢い贈与の利用
実際、贈与税の税負担はどれくらいでしょうか。
いろいろなパターンがありますが、例えば以下の通りになります。

(a)3人に110万円ずつ330万円贈与した場合…税額なし(財産に対して0%)
(b)3人に500万円ずつ1500万円贈与した場合…159万円(同 10.6%)
(c)1人に1500万円贈与した場合…450.5万円(同 約30%)
(d)1人に3000万円贈与した場合…1195万円(同 約40%)

これを2.の例と比較してみて下さい。

2.の例で説明した①の方は、何もしなければ相続財産に26%の相続税がかかります。となると、(a)、(b)の贈与を相続人の予定者(推定相続人と言います)に対して先に行っておけば、対象となる財産に関してはより低い税金で財産が移転出来ることになるのです。

同じく②の方ですと、(a)、(b)、(c)の方法までが有利となりますが、(d)は不利となります。

このように、相続税がかかる金額とその財産に対する比率を予想し、有利な贈与を毎年行っていけば、相続税は効果的に減らすことが可能です。

5.税理士の活用
ただ、良い事ばかりでもありません。この手法を使う場合には、例えば以下のような点に注意する必要があります。

  • 贈与税の申告が絶対に必要(贈与の翌年3月15日まで)
  • 相続発生以前3年内の贈与は、相続財産に含められる(払った贈与税は相続税の前払としてもらえる)
  • 財産の価値増減は読みにくく、有利と思っていたものが不利になる可能性もある
  • 時価の計算は、財産の多い人は全てが預金でもない限りは非常に難しい(特にオーナー会社の株式や不動産の時価計算)
  • 税額の計算シミュレーションは非常に専門的で、これもまた難しい

このため、この対策を採るに当たっては必ず相続税に強い税理士にアドバイスを依頼されることをお勧めします。

相続に「絶対的公平」はない~揉めない相続のために

いわゆる「相続税対策」や「事業承継対策」の仕事をしていますと、資産家や経営者の方々から「出来るだけ子供たちには公平に資産を分けたい」というご意向を伺う時が良くあります。

この「親が子を思う気持ち」、大変良くわかるのですが、悲しいことに相続において「絶対的公平」は不可能だと思って頂いた方が良いのです。

この記事に置いては、何故それが不可能かについて説明し、どのようにすれば「公平」が実現できるかについて述べてみたいと思います。

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1.財産分けの難しさ

相続において重要な「財産分け」。

この財産分けに置いては、よく「争族」と呼ばれるように揉めることが少なくありません。

なぜ単に「分ける」ことがそれほど難しいのでしょうか?

それは、相続をとりまくさまざまな法律や実務が極めて大きく影響しています。

 

今、100万円の預金があるとします。これをあなたとご友人の2人で「公平に」半分ずつ分けて下さい、と私が依頼した場合、あなたならどのように分けるでしょうか?

この場合は、当然ながら「50万円ずつ」が正解ですね。

しかし、同じ100万円であっても、一株の時価が現在100万円の株式ならどうでしょうか?

真っ二つに切り裂くわけにもいかないし、さりとて一人が一株を手に入れてしまえば、もう一人が受け取る分は無くなります。

このような場合、少し考えれば「株式を売却して現金化し、50万円ずつ分ける」ならば公平を保ったまま分けることが出来ると気づくかもしれません。

ではさらに、「その株式を現金化してはならない 」という条件が与えられた場合にはどうでしょうか。

幸運なことに、世の中にはこの問題に対する答えがきちんと用意されています。

株式をもらった側は、自らの手持資金から50万円を支出し、株式をもらっていない側に渡せばいいのです。

この場合、手持資金がなければ50万円を借りて支払ってもかまいません。なぜなら、手元には100万円相当の株式があり、50万円の借金が出来たとしても差引50万円の財産増加には変わりないからです。

ここでは、あなたが株式を受け取り、すぐに現金が必要であった友人はあなたから50万円の現金を受け取ったと仮定しましょう。

 

これで公平に分割が出来た、と思っていたあなたと友人は、後にそれが誤っていたことに気づきます。

というのも、この株式会社がその後すばらしい新技術を開発し、その技術を利用した製品の市場があまりに大きいため株価が一度に100倍になってしまったのです。

つまり、あなたの友人は50万円の現金しか手に出来なかったのに、あなたは一躍1億円(彼に先に50万円を支払っているから、正確には9,950万円)の価値ある資産を手に出来たことになります。

そうなれば、「損をした」友人はおそらく黙っていないでしょう。あなたの幸運をうらやみ、何がしかの補償を要求するかもしれません。分割時点では公平でも、結果として「公平」とはとてもいえない結果となったのですから当然とも言えます。

それに応じるかどうかはあなた次第ですが、いずれにせよあなたと友人の仲が悪化しないことを祈るばかりです。

さて一体、「公平な分割」とは何だったのでしょうか?

 

2.相続における財産分け(遺産分割)

このような問題は、当然ながら相続の現場において頻発します。

分割が「著しく不合理」であった場合には分割をやりなおすことも認められていますが、単に不動産の収益性の見込み誤り等による不合理については、そのような分割のやり直しを認められていません。

このような問題が起こる理由は、それほど複雑ではありません。

単に民法(相続法)、税法(相続税法)、経済実態(見込も含む)によって、全く「公平」の概念が異なるからなのです。

 

民法上の公平は、「相続が発生した時点の時価」によって評価した財産を公平に分割することにより実現できます。この民法の考え方が最も私たちの常識に近く、一般的であると言えます。

しかし経済実態上の公平は、その時点での時価評価だけを考えていては実現できません。

将来についても予測可能な範囲で考慮することが必要となります。
先の例で言えば、分割する時点で件の新技術の開発が実現していたならば、その果実を見込んで発生した株価上昇による利益の一部はあなたの友人にも当然与えられるべきであるとも言えます。

 

税法に基づいて公平を考えた場合には、民法の考え方とほとんどの場合同じ考え方となります。

なぜなら、相続税が課税される財産を計算する際は、原則として民法と同様に時価を採用するからです。

しかし、税法には他と大きな違いがあります。それは税法上の優遇措置などの政策的項目です。

一般的なものは下記の通りです。

 

・  小規模宅地等の評価減…居住用、事業用の宅地については大幅な減額が認められる

・  基礎控除、生命保険料控除…相続人数に応じて、非課税となる金額が増加

・  配偶者の税額控除…配偶者の相続分は、法定相続分か1億6000万円のいずれか多い方まで非課税

・  株式の評価手法…同族株主グループかどうかによって大きく時価が異なる

 

これらは、当然ながら時価で計算した結果との乖離を生み、当然ながら相続税額の計算にも影響を与えます。たとえば、配偶者の税額軽減など相続財産の配分方法によって税額そのものが変わってくるような制度の場合であると、民法上の公平を実現しても、税法上はもっとも税額を圧縮したとはいえなくなる場合が出てきます。

 

3.財産分け時の配慮

同じ「財産を分割する」ということであっても、法律等の考え方の違いで大きな差が発生することが分かって頂けたでしょうか。

当然ながら、民法、税法、経済実態のうちひとつの考え方だけを採用して分割を決定した場合、税金面で割高となったり、損をした(と感じる)他の相続人等から異論が出て来る可能性は高くなります。

財産分けを行う場合にはこれらのうちどの考え方を採用するかについて常に注意を払い、各相続人等に納得してもらう必要があります。

この納得してもらう方法にはいろいろありますが、やはり一番は被相続人となる予定の方(親など)が相続人となる予定の方(推定相続人)対してきちんと説明しておくことが大事です。またこれらを遺言によって説明しておくことも大変効果的です。

(参考:事務所ブログ 「遺言を書こう」

もちろん相続税を計算するわれわれとしても、分割の決定まではこれらを出来るだけ詳しく、わかりやすく説明することが不可欠であると考えています。

以上

平成27年からの相続税関係改正について

1.はじめに

平成25年度税制改正により相続税法(及び租税特別措置法)の一部が改正されました。これらの改正のうち、平成27年1月1日以降の相続等から適用されるものについて解説します。

 

2.遺産に係る基礎控除

相続財産が「基礎控除額」を超える場合、原則として相続税の申告をする必要がありますが、その基礎控除額が、次のように4割減とされました。

<改正前>5,000万円+1,000万円×法定相続人の数
<改正後>3,000万円+ 600万円×法定相続人の数

 

3.相続税の税率構造

相続税額は、①課税価格の合計額から上記の基礎控除額を控除した金額である課税遺産総額を法定相続人が法定相続分に応じて取得したものと仮定した場合の各取得金額に対して、②超過累進税率により税率を乗じて算出し、③各取得金額に対する②を合計して計算します。

今回の改正により、この税率構造の一部について次のように変更されました。

法定相続分に対する取得金額

改正前

改正後

税率

速算控除

税率

速算控除

1000万円以下

10%

0万円

10%

0万円

3000万円以下

15%

50万円

15%

50万円

5000万円以下

20%

200万円

20%

200万円

1億円以下

30%

700万円

30%

700万円

2億円以下

40%

1700万円

40%

1700万円

3億円以下

45%

2700万円

6億円以下

50%

4700万円

50%

4200万円

6億円超

55%

7200万円

例:基礎控除後の相続財産が9億円で、相続人が子供ばかり3人の場合、相続税額は以下の通りとなります。

 ①課税遺産総額90000万円÷3=30000万円(一人当たり)
 ②一人当たり税額
 (改正前)30000万円×40%-1700万円=10300万円
改正後)30000万円×45%-2700万円=10800万円
 ③合計税額
 (改正前)10300×3=30900万円
 (改正後)10800×3=32400万円

(参考)贈与税改正

 

改正前

改正後

直系尊属→20歳以上

基礎控除後金額

税率

控除額

税率

控除額

税率

控除額

 200万円以下

10%

10%

10%

 300万円以下

15%

10万円

15%

10万円

15%

10万円

 400万円以下

20%

25万円

20%

25万円

 600万円以下

30%

65万円

30%

65万円

20%

30万円

 1000万円以下

40%

125万円

40%

125万円

30%

90万円

 1500万円以下

50%

225万円

45%

175万円

40%

190万円

 3000万円以下

50%

250万円

45%

265万円

 4500万円以下

55%

400万円

50%

415万円

 4500万円超

55%

640万円

例:1500万円(基礎控除後1390万円)の贈与をした場合、税額は以下の通りとなります

改正前                 1390万円× 50%-225万円=470万円
改正後
 親など→20歳以上の子 1390万円× 40%-190万円=366万円
 上記以外         1390万円× 45%-175万円=451万円

 

4.税額控除

①未成年者控除

相続開始時において相続人等が未成年者である場合、その相続人等の算出相続税額から控除する未成年者控除額の金額が次のように引き上げられます。

<改正前> (20歳一相続開始時の年齢)×6万円
<改正後> (20歳一相続開始時の年齢)×10万円

 

②障害者控除

相続開始時において相続人等が障害者である場合、その相続人等の算出相続税額から控除する障害者控除額の金額が次のように引き上げられます。

<改正前> (85歳一相続開始時の年齢)×6万円(特別障害者は12万円)
<改正後> (85歳一相続開始時の年齢)×10万円(特別障害者は20万円)

 

5.小規模宅地等の特例

①特定居住用宅地等の限度面積の拡大

被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で一定の要件を満たすものについては、特定居住用宅地等として宅地等の面積のうち限度面積までの部分に相当する金額の80%相当額をその宅地等の評価額から減額することができますが、この限度面積が、次のように拡大されます。

<改正前> 限度面積…240㎡
<改正後> 限度面積…330㎡

 

②居住用と事業用の宅地等を選択する場合の限度面積の拡大

特定居住用宅地等と特定事業用等宅地等を併用選択する場合の限度面積について、次のように拡大されます。

<改正前> 特定居住用宅地等…240㎡/特定事業用等宅地等…400㎡
→合計400㎡(注)まで適用可能 (注)一定の面積調整が必要
<改正後> 特定居住用宅地等…330㎡/特定事業用等宅地等…400㎡
→合計730㎡まで重複適用可能

 

6.まとめと対策

  • 基礎控除の減額で影響を受ける層…生前贈与、保険の活用、小規模宅地特例の適用による対策
  • 税率の一部アップで影響を受ける層…相続時精算課税や事業承継税制の活用、小規模宅地特例の重複適用による対策
  • 共通…事前準備、遺言作成、株価や不動産対策検討の重要性 

    以上

 

「出資持分なし医療法人」への移行と認定制度について

医療法人とは、「病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を開設しようとする 社団 又は 財団(医療法の定義)」を言います。
医療自体は医師等の専門家が行うべきものですが、病院のように大規模な組織や施設をもつ場合には、個としての活動には限界があり、組織経営が必要となってきたことから定められた制度です。

この「医療法人」制度は、昭和25年に始まり、その後昭和39年の「特定医療法人」制度や、昭和60年の「一人医師医療法人」制度など、変遷を経て現在に至っています。

さて、現在存在する医療法人の多くは、平成19年4月1日より前に設立された「出資持分(株式のようなもの)あり」法人となっています。
現在この「出資持分のある医療法人」の新規設立は認められておらず、「経過措置(型)医療法人」と呼ばれています。

これらの法人の出資持分には財産価値があります。このため、出資持分には以下のような問題が発生します。

  • 出資割合に応じて純資産の払戻しを請求できる
    →医療法人の資金が激減し、資金繰りを圧迫する可能性がある
  • 出資者が死亡した場合、相続財産となる(時価評価は株式等に準じて行われます)
    →換金できない資産(持分)に高額な相続税が課税される
    相続税の概算についてはこちら(相続税の概算)をご覧ください
  • ある出資者が持分を放棄した際、他の出資者持分の価値がその分上がったものとして、他の出資者に「贈与税」が課税される

このような問題を回避する手段として「出資持分なし医療法人」への移行という手続が準備されています。
この手続は、出資者が自分の出資持分を放棄することで、上記のような問題を解決することを目的としています。
(※もちろん、こういう問題に心配が要らない場合、持分ありのままでも問題ありません)

この「出資持分なし医療法人」への移行を促進するため、厚生労働省は 「認定制度」を作りました。
認定制度の流れは、以下の通りです(厚生労働省資料より )。

この制度の特徴は、以下の通りです。

  • 認定を受けると、上記の問題点で説明した「贈与税」「相続税」の納税が猶予されます
  • 認定の日から3年以内に出資持分が放棄され、持分のない医療法人になると、猶予された税額が免除されます

なお、出資持分の免除により、免除した者の相続税や贈与税が不当に減少すると認められる場合(相続税法66条④)の「法人に対する贈与税課税」は、依然としてのこっています。この課税がなされないためには、運営組織の適性性や法人の社会的存在としての認識など、いくつかの要件を満たす必要があります。

出資持分は財産であるとともにオーナーシップの源泉であり、これを簡単に放棄することは医療法人の経営に悪影響を与えるかもしれないという懸念をお持ちの方も多いと思います。
この考え方は間違っている訳ではありませんが、他方多くの医療法人が抱える純資産は、前述のような金銭的問題を必ず生みます。
財産的オーナーシップの消失は、人的なオーナーシップ(ガバナンス)などでカバーすることも可能ですので、経営体制の強化とともに、ぜひこの認定制度を活用し、持続的な病院・診療所経営が可能となる体制を整えて頂きたいと考えております。

平成25年税制改正における事業承継税制の改正

平成20年5月、「中小企業における経営の承継の円滑に関する法律」が成立しました。

この法律は、日本全体の雇用の約70%を支えている中小企業の経営者が円滑に事業承継でき、結果として雇用が確保されることも考慮して制定されました。

さてこの制度ですが、大きく分けると「遺留分に関する民法特例」、「金融支援」、「相続税の課税についての措置」から構成されています。そして、相続税の課税問題については、平成20年度の税制改正要綱にて、「非上場株式等に係る相続税の納税猶予制度」が平成21年度の税制改正で創設されることが明記されました。 この制度の当初の概要は、以下の通りでした。

  • 会社経営者がその子などに経営権を譲り、同時に株を贈与する場合にはその贈与税を一部納税猶予する
  • 会社経営者に相続が発生した場合、経営を受け継ぐ子などが相続した株式についての相続税の納税は猶予する
  • 上記の贈与税、相続税の納税猶予は、それぞれ一定の条件のもと納付義務が免除される
  • これらの対象となる株式については、遺留分の適用外とすることができる(民法の特例)

しかしながらこの制度、様々な届出や確認など手続が煩雑なこと、また「雇用の8割を5年間維持する」という、経営者の経営判断にとって大きな足かせとなる制限が課されていること、またこれらの要件を満たさなければ「猶予」された税額を、利子税と同時に一括で支払わなければならないという厳しいハードルが置かれており、成立から現在に至るまで適用した経営者は500件余りとあまり多くありませんでした。
実際に私も1件担当しましたが、経営者の現況からみて上記の制約を受けにくい環境にあったため実現しただけで、非常に使いにくい制度であったとの印象を持っています。

そこで、平成25年改正においては主に下記のような改正がなされています。

  • 経済産業大臣の「事前確認」を廃止、事前確認なく制度の利用が可能になった(平成25年4月から)
  • 現在「現経営者の親族」に限られている後継者について、親族外にも適用対象を広げた(平成27年1月から)
  • 5年間毎年の雇用8割維持要件を、「5年間平均」と緩和(平成27年1月から)
  • 利子税負担の軽減(利子税率引き下げ、一定の要件の下で利子税支払免除など、平成27年1月から)
  • 株式の移転時に「役員を退任」する必要があった現制度に比べ、「代表者の退任」と緩和した(平成27年1月から)

これで利用する方が増えるかどうか個人的には疑問が残るのですが、事業承継のための手段が少しでも増え、そして使いやすくなるのは歓迎したい所です。

 

なお、事業承継税制の利用に限らず、事業承継プランを策定、実施するには慎重な検討と十分なプランニング、そして事業承継計画とマッチした中長期経営計画の確実な実施が必須となります。
このようなプロジェクトは「単なる節税対策」ではありません。
ご自身の事業承継をお考えの際は、豊富な知識と経験をもつ専門家(弁護士、会計士、税理士、金融、不動産など)を選任して、後継者のみならず親族外のリーダー層(現、次世代)まで含めたプロジェクトチームの編成を強くお勧めします。

 

富裕層増税(平成25年税制改正大綱)

平成25年1月24日、与党自民党・公明党から「平成25年税制改正大綱」が発表されました。

様々な論点が織り込まれていますが、その軸の一つはいわゆる「富裕層増税」にあると言っても良いと思います。
この「富裕層」増税の趣旨は以下の通りです。

・平成27年1月から改正施行
・(所得税)課税対象所得のうち4000万円を超える部分で、税率が40%から45%に
・(相続税)基礎控除(相続税がかからない部分)が
「5000万円+1000万円×相続人」
から、

「3000万円+600万円×相続人数」
に変更
・(相続税)相続財産が6億円超の部分に係る税率が、現行の50%から55%に変更

富の再分配という点に置いて頭から否定するものではありませんが、日本の金融や税制も相当国際化している現在、このような負担増を嫌って、例えば海外を利用した対策を採用する方も増えると思います。 また実際、そのようなご相談も最近増えつつあります。

なお、相続税に関する改正で、税額にどれくらいの影響があるかについては、以下のシミュレーションで調べることができます。

相続税の概算(塩尻公認会計士事務所WEBページ)