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「生産性」とは言うけれど(耕夢システムのご紹介)

1.日本の生産性が低い?
日本の企業はよく「先進国中で生産性が低い」と言われます。
この生産性、一般的な定義は

「労働時間当たりで生み出した付加価値」

とされています。

付加価値というのは、企業活動で世の中に生み出された新しい価値のことで、企業の利益や給料、賃借料や金利、税金などを合計したものです。
要するに、その企業活動が無かった時に比べて世の中がどれくらい(金銭的に)良くなったかを示す指標と言えます。

ということは、「生産性の低さ」は、要するに

「世の中を(金銭的に)に良くしたければ、他の国より長く働かなければならない」

ということを意味します。

「だから日本は長時間労働から脱却できないのだ」ともいわれることがあります。

国レベルの労働生産性については、国が生み出した付加価値(GDP)を総労働時間で割って計算する場合が多いので、その統計における経済構造や計算基礎で結果が割とばらつくため、国どうしの比較(マクロ経済レベル)において単純に断じるのは議論があるようです。

日本の労働生産性
OECD加盟国の時間当たり労働生産性比較(2017年 総務省)

2.それでもやはり生産性は低い
しかし、やはり日本の一般的なビジネス環境においては、生産性を低くする要因が結構あるように思います。

分かりやすい例で書いてみます。
同じ場所から出発し、同じ目的地に向かう2台のタクシーがあるとします。

  • ある運転手は、豊富な知識をもとに、裏道も上手に使った効率的なルートで、信号や渋滞にもつかまりにくい適切で上手な運転により、早く到着しました。
  • もう一人の運転手は、何も工夫しない、信号や渋滞にはまりまくるルートを走り、希望の時間よりずいぶん遅れて到着しました。

さて、今のタクシー料金ルールで、運転手の売上が高いのはどちらでしょうか?
前者の運転手は持てるスキルを最大限使ってお客様に良いサービスをしたにも関わらず、ぼんくらな後者よりずっと低い売上しか上げられないのです。

なんだタクシーの例だから我々の会社とは関係ないじゃないか、と思うかもしれませんが、違います。
皆さんがお勤めの、または経営される会社の中にこういうおかしな評価が存在しませんか?
きちんとした成果測定がないため、このタクシーのような、本質とは逆の評価結果になっているケースはありませんか?
きちんとした成果測定のない職場においては、同じ問題が発生するのです。

よくあるのが、「日中タバコ休憩などでサボっていて残業の多い労働者は残業代が増えて給与が高く、一生懸命業務効率やコミュニケーション、スケジュールを工夫して時間内に仕事を終えている労働者には残業代がつかず、給与が低くなってしまう」という例です。
もっと厄介なのは、仕事の内容を評価するための測定がなされておらず、上司は残業している社員を「頑張っている」、していない社員を「仕事しておらず暇」と評価してしまう可能性があることです。

そうなると、企業全体の生産性が悪化するばかりか、「本当に良い仕事をしている良い社員」が評価されない現実に幻滅して離職してしまうという、最悪の事態を招きかねません。

3.成果測定の重要性
このように、測定手法がないか、それ自体に欠陥があると、生産性の低下だけではなく組織上も大きな軋轢を生む恐れがあります。
「生産性の低さ」という問題のあるところには必ず「正しい成果測定がない」という背景が存在します。
しかしこの成果測定、戦後の高度成長期、言い換えればアナログな世界においては大変難しいものでした。
何しろ表計算すら使えない環境ですから、給与の計算に使う労働時間の集計すらそろばんや電卓で行う必要があったのです。
そんなわけで、社員の個別の仕事内容やその所要時間を集計するなど極めて大きな手間、コストのかかる作業が必要で事実上不可能でした。
でも、「昨日より今日、今日より明日はもっと良くなる」という希望を持たせる著しい経済成長が、それを見ずに済む環境を与えてくれていたのです。

しかし、現在のようにITの普及した環境においては、大きな手間をかけずに「社員のアクティビティに基づいた詳細な成果の測定」が可能となっています。
成果測定が可能になれば、先に挙げたような「頑張っているように見える」社員のフェイクも見破れますし、本当に頑張る社員への評価も正しいものになるはずです。
何より、昭和期のような「みんな一斉に成長する」という経済が全く望めない現在、この問題を「見ぬふりする」ことは、企業だけではなく社会や国自体の衰退をさらに加速してしまうでしょう。

4.税理士業界の問題
実は、私たちが属する税理士事務所の業界は、この「成果測定」についてかなり遅れた環境にあると言わざるを得ません。
労働時間については法律の規制もありタイムカード等で把握しているのですが、職員が一日どのような仕事をどれだけしたか、という記録については、顧問先ごとに何をしたか、という程度の記録がほとんどです(実際にはこの記録すら作成していない事務所もあります)。

これに加えて成果の判断は「担当する顧問先の報酬」「残業時間」等「単純な数字」に応じて行われることが多いため、入力スタッフを独り占めして売上を増やしたり、新人への指導を嫌がる、産休・育休社員を疎んじる(他人のサポートをすると自分の時間が減って担当する仕事が進まないため)といった問題や、多く残業している人間を「頑張っている」、効率よく仕事した人間を「仕事していないと判断する」、といった誤解が多く発生します。

よく言われるように、税理士業界は過当競争の真っただ中にあります。
多くの事務所が価格競争に晒され、無理なコストダウンや人件費の高騰(経験者を最優先することが多く、人材不足も深刻です)によってどんどん収益性が下がっているのに、生産性の低下原因がどこにあるのかを把握できずにいるのです。

5.耕夢システム
こういった問題に対処するため、弊所が開発・運用している「耕夢システム」には、顧問先ごとよりさらに詳細な「プロジェクト(会計、税務、相続、コンサルなど)単位」の時間管理を詳細に記録する機能が盛り込まれています。自分の担当業務だけではなく、他人のサポートも正確に記録され、自身の業務時間と同等以上に評価される仕組みとなっているのです。
このことは「未経験者でも手厚い周囲のサポートで業務がこなせる」という副次的効果も生み、人材難への解決策になっています。

また、年間のどのようなタイミングでどのような時間発生があったかをグラフで確認する機能もあり、生産性の改善や顧客に対する価格変更の説明にも大きな効果を生んでいます。

発生時間推移
時間発生実績グラフの例(耕夢システム)

プロジェクトの売上予算に対して時間の発生が想定より過大となっている場合には「採算アラート」が発出され、異常な時間発生について分析、対処を促す機能も装備されています。異常な時間発生には様々な原因があり、担当者の単なる不効率だけではなく、イレギュラーな事象の発生、顧客要求の増大など、原因によって対処のまったく異なる場合があるためです。

この結果、弊所の生産性は大きく向上しています。
業務時間を変えずに1~2割増の新規業務をこなしたり、コロナ禍においてテレワークや短時間勤務を織り込んでも仕事の成果が変わらないなど、耕夢導入後良い傾向が続いています。

今後はさらに精緻な評価制度を社会保険労務士等専門家とともに開発し、より良い事務所運営を目指します。

 

個人事業主と消費税(帳簿がないと大増税?)

1.はじめに

最近消費税については、10%への増税や、生活必需品などへの軽減税率の適用などの大きく変化がありました。小規模な個人事業においても、無視できない税負担になってきたと思います。
最近のように大きな増税となると価格への転嫁(消費税分値上げする)をどうするか考える必要も出てきますし、コロナ禍で大変な営業への影響を懸念される方も多いと思います。

ですが、事業主の方にとって従来からもっと大事なことが見落とされている場合が多いですので、今回は簡単にご説明&注意喚起しておきます。
間近の確定申告からでも是非ご注意ください。

2.仕入税額控除

日本の消費税は「税額控除方式」を採っています。
これは、売上にかかる消費税から、仕入や経費など支払にかかる消費税を差し引くことで納税すべき金額を差し引く方式です。

消費税の仕組み(財務省)
消費税の仕組み(財務省)

 

本来、預かった消費税である売上消費税から支払った消費税(消費税法上は「仕入税額」と言います)を当然差し引いて納税する消費税額を計算すべきなのですが、日本の消費税法にはちょっと問題な規定があります。それが、「帳簿等記載要件、請求書等保存要件(消費税法30条、末尾に条文抄を記載)」です。

この規定は「仕入税額を控除したかったら、仕入や経費の支払について
①相手先
②年月日
③仕入などした資産やサービスの内容
④支払対価を記載した帳簿
⑤請求書等
を保存しておかなければならない」というものです。 この要件、①~④の帳簿に関するものは「帳簿記載要件」、⑤の請求書等に関するものは「請求書等保存要件」と呼ばれます。

消費税導入当初はもう少し甘いものだったのですが、平成9年の改正(税率が3%→5%になった)際、同時に現在の厳しい内容へと改正されました。

3.税務調査時のリスク

売上が小規模な事業者で「簡易課税(売上税の一定率を仕入税額控除額とみなす方式)」を採用できていれば当面問題はありませんが、給与支払が少なく外注費が多いなど、簡易課税が不利になる事業者の場合は売上が小規模であっても注意が必要です。

この規定、条文を見てもわかるとおり「災害その他やむを得ない理由」を除いて宥恕規定(一定の事情があれば要件を満たしていない場合も認めてもらえる)が定められていません。調査の過程で仕入先に関して上の要件の一つでも満たしていなければ、「その取引に関する仕入税額控除は否認」と言えてしまうわけです。

実際に、この論点で消費税の仕入税額控除を否認しようとする調査官も最近はぽつぽつとあらわれています。 現在でも仕入税額控除が認められなければ税負担が上がりますが、今後増税になると、その影響も税率に比例して大きくなります。

4.対応

上で説明しました帳簿記載要件を満たすためには、青色申告(きちんと帳簿を作成する代わりに、様々な税務上の有利な制度が認められます。青色申告でないものを白色申告と言います)で作成すべきものと同レベルの、きちんとした帳簿を作成する必要があります。
また平成26年度からは全ての白色申告者についても帳簿作成が義務化されますし、先に述べました簡易課税についても、廃止または適用事業規模の縮小が議論されています。

ご自分で、もしくは税理士に頼んでなどどのような方法でも良いですが、まだきちんと整備ができていない事業主がおられましたら、青色申告、白色申告に関係なく請求書等の保存と帳簿の整備をお勧め致します。

以上

(仕入れに係る消費税額の控除)
消費税法 第三十条
(略)
7  第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(同項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が少額である場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。
8  前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
一  課税仕入れ等の税額が課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
イ 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
ロ 課税仕入れを行つた年月日
ハ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容
ニ 第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額
(略)
9  第七項に規定する請求書等とは、次に掲げる書類をいう。
(略)

新規事業を探すには(天才ではないあなたの為に)

1.ポストコロナ・ウィズコロナと事業再構築補助金
現在、業種業態の転換や新しい事業に取り組む企業が増えています。
これは、コロナ禍の中、またポストコロナ・ウィズコロナを見据えた場合、戦後から連綿と続く昭和的な価値観や経済社会が大きく変化し、それにビジネスを適応させる必要があるからです。

そういった状況に合わせ、国は「中小企業等事業再構築促進事業」という制度を創設しました。
この制度は、下記①~③に該当する中小企業等に対し、最大1億円の補助金を出して新事業や事業再構築を支援するというものです。

①直近6か月間のうち任意の3か月の合計売上高が、コロナ以前の同3か月の合計売上高と比較して10%以上減少
②事業計画を認定経営革新等支援機関や金融機関と策定し、一体となって事業再構築に取り組む
③3~5年で付加価値額の年率平均3.0%(一部5.0%)以上増加又は従業員一人当たり付加価値額の年率平均3.0%(一部5.0%)以上増加の達成

事業再構築補助金については、弊所岐阜事務所(しのだ会計)のブログにてご紹介しており、今後新しい情報が出たら随時お知らせ致します。

2.新規事業の探し方
この制度の適用を受けるためには、新しい事業について事業計画を策定し、そして付加価値の増加につなげる必要があります。

では、新規事業を探すにはどうしたら良いのでしょうか。
安藤百福さん(日清)のチキンラーメン、またスティーブジョブス(アップル)のiPhoneといった、革新的というより世界を変えるほどの革命的新事業が思い浮かんだら素晴らしいですよね。
しかし、普通の皆さんがそんな発想を得るのは至難の業です。
(実際、上の両製品とも、一つ間違えば大失敗になっていたかもしれません)
では、そういった「天才ではない」普通のあなたが新事業を思いつくためにはどうしたら良いでしょうか。
それにはちゃんと定石があります。
今回は、私たち税理士が普段お客様にお話ししている内容を、少しだけご紹介したいと思います。

①基本的な考え方
どんな事業でも、収益をあげなければ意味がありません。
正確に言うと、世の中に付加価値を生むような事業でなければ、そこから収益は取れませんし、持続しないのです。
100円で仕入れたものを80円で売るのは事業でしょうか?
ひょっとしたら安いものだけを好む人には大人気かもしれませんが、すぐ資金が立ち行かなくなるでしょう。
これは単に損をしているだけではなく、折角100円という価値のついているものを80円に落とすことで、経済的観点からは付加価値を下げる(世の中の価値を下げている)「悪」なのです。
また、いくら収益を上げても他の参入などによって継続できなければ意味がありません。
継続して安定した収益を継続するには、何らかの参入障壁が必要なのです。
では、安定した収益を継続するために必要な要素は何でしょうか。
要約すると以下の3つになります。
・ゼロから始めない
・2つ以上を組み合わせる
・嫌なことから探す
これを以下説明していきます。

②ゼロから始めない
「新規事業」というと全く新しい何かを見つけるものと思われていますが、実際には(そして普通であるあなたにとっては)そうではありません。
必ず、自身がもともと持っている人、モノといった資源を活用することから考えるべきです。
人としては従業員だけではなく、友人・取引先だけではなく、ひょっとしたらライバルのような自分を取り囲む全ての者が含まれます。
また、モノについても同じで、所有する資産だけではなく、使えるものすべてを見逃さずに使うべきです。
あなたが既に活用している資源を使うのですから、他の人たちよりも一歩も二歩も先んじていることになります。これが大きな参入障壁になりうるのです。

例:ホンダオデッセイ
1990年代、車の需要がミニバンやSUVに移る中、ブームに乗り遅れたホンダは売上が低迷していました。
ここで、起死回生の企画として作り出されたのが「オデッセイ(初代)」です。
実は、それまでのホンダは「車高が低くてカッコいい車こそ善」というスタンスで、ミニバンやSUVのような背の高い車を作る設備が無かったのです。しかし、業績も悪化している会社に全くの新工場を作る余裕はありません。
なんと、ここでホンダがとった判断は「背の低いセダン用工場で作れる限度の車高で設計する」という「あるものを使う」方針でした。
この意外な戦略が大ヒットを生みます。
背が低い代わりに、様々な設計上の工夫をして車内を広くしたことで、「使い勝手はいいけど見た目や走行性能は悪い」というミニバンの常識を覆す、スタイリッシュなデザインと高い走行性能を得たのです。
この結果、一時は目標の30倍を超える販売実績を達成するに至りました。

オデッセイ
(写真:ホンダ オデッセイ)

③2つ以上を組み合わせる
何かとネガティブな印象を持たれることもある「ホリエモン(堀江貴文氏)」ですが、非常に良いこともたくさん述べています。
その中の一つが「100万分の1の人材になる方法」です。
100万分の1とはオリンピックで金メダルを取るような確率で、とても普通の人が目指せる水準ではない、と思われがちですが、彼は書籍の中で下記のように述べています。

「まず、対象や分野は何でもいいということを念頭に置いてください。そこで『100人の中で1番になる』ことを考えるとどうでしょう。頑張れば何とかなれるものが見つかるのではないでしょうか。その『100分の1』の要素を自分の中で3つ見つければいいんです。そして、3つを掛け合わせれば『100万分の1』になれます。

希少なほど付加価値は上がり、参入障壁が大きくなるのは当然ですが、このような考え方は「普通の人」を勇気づけてくれます。
彼が言うように100万分の1でなくても、100分の1を2つだけでも1万分の1になります。
企業経営としては十分な水準です。

例:機能性チョコレート
元々チョコレートは完全な嗜好品で、甘くておいしいといった魅力以外は、虫歯や肥満などネガティブなイメージが付きまとう食品でした。
しかし、最近は機能性表示食品制度開始が追い風となり、「ポリフェノールの強化」や「脂肪や糖の吸収を抑える」「乳酸菌入り」などといった健康への配慮を組み合わせたチョコレートがヒットしています。

チョコレート効果
(写真:明治 チョコレート効果)

④嫌なことから探す
昔から「好きなことで仕事はできない」と言われますが、別に「自分が」好きなことを仕事にするのは悪いことではないと思います。
しかし新規事業を探す場合、「好きなこと」を追っても何も出てきません。
そこには「満足」しかないからです。
世の中のビジネスのほとんどは、「嫌なこと」「困ること」を解決するために生み出されたと言っても過言ではありません。そういう人間の困ったことを解決するから付加価値を高く出来るのです。
自身が嫌なことや困ることを探すのも良いですが、やはりいろいろな人にそれを聞き出すことは大変有効です。普段のビジネスや人付き合い、インターネットやその他メディアなどにおいて、「人が何を嫌がり、困っているか」という観点のアンテナを張っておくことはとても重要です。

3.情報収集する・相談する
ここまで読んで「なんだそんなことか」と思った方もおられるかもしれません。
そういう方は既に事業で成功している方だと思います。
しかしこれから新しい事業で成功を目指す人は、この3条件を中心に据えてひたすら考えてみて下さい。
とはいうものの、一人で単に考えているだけではなかなか良いものは生まれません。
また、いくら良い事業アイデアがあっても、資金の手当てが無ければ実現できませんし、法律や税金をはじめとした我が国の制度も知らなければなりません。
公的な機関や団体としては中小機構、商工会議所などが起業や新事業のサポートをしていますし、法律の面では弁護士、お金や税金の面は公認会計士や税理士が、また社会保険労務士(雇用など)、中小企業診断士(経営)、司法書士(登記)、弁理士(特許など知財)といった様々な専門家の中にもこのような新事業をサポートしてくれる方たちが多くいます。また、冒頭に説明しました補助金などのサポートには「認定支援機関」という存在も役に立ちます。

様々に整備された制度やサポーターを活用して、新しい時代の新しい事業を創り上げる方が一人でも多く生まれるよう、我々も頑張りたいと思います。

「会計専門家でない」監査役、監査等委員取締役は「会計上の見積り」にどう対応すべきか?

以前「監査等委員会設置会社へ移行した場合、ここに注意」 において、監査役会制度と監査等委員会制度(以下「監査役等」制度とします)における法律、実務上の違いとその対応について説明しました。
監査等委員会という制度自体への疑問や批判はありますが、今後の企業にとって「ガバナンス強化」という方向性が必要なことは明らかであり、監査役や監査等委員(この記事においては「監査役等」とまとめます)にとっては、これまで以上にその役割が重視される時代になっていると思います。

そうなると、「では監査役等はどのように監査すべきなのか」という論点が今まで以上に重要になってきます。

さらに法や会計に関する制度や実務が複雑化し、また様々な分野でコロナ対応やDX(デジタルトランスフォーメーション、デジタル化による変革)が生じている今、監査役等はどの論点においても非常に難しい判断や実務を迫られていると言えます。

会計分野はその中でも非常に重要かつ複雑な分野であると言えますが、その中でも特に専門的な分野である「会計上の見積り」という論点については、会計監査人たる監査法人や公認会計士に「任せきり」なのが実情で、リスクに比較して監査役等の理解、対応が十分とは言えないと感じています。

そこで今回は、この論点についてその概要とリスクの重要性、そして監査役等がどのような姿勢で、如何に対応すべきかについて、「会計の専門家でない」方でも理解、実践できるよう簡単に説明したいと思います。
かなり長くなりますが、是非ご一読ください。

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1.会計不正とは何か
最近特に注目を集めている会計不正。この会計不正はなぜ発生するのでしょうか。
投資家が株式に投資する際、最も重視する資料の一つが「決算書」です。
決算書は、会社が持つ現在・将来の「稼ぐ力」を見出すために必須のデータがふんだんに盛り込まれています。基本的に投資家は、このデータとその他の情報を組み合わせ、投資判断を行っているのです。

そうなると、この決算書を「実態より良く見せる」行為(古くから「粉飾」と呼ばれてきました)は、投資家を欺いて資金を得る、本質的には詐欺と同様の悪い行いであると言えます。
このような行為を、一般に「会計不正」と呼びます。

2.会計不正の類型
この会計不正、実は大きく分けて3つほどの類型があります。

①虚偽の事実に基づいて会計処理するもの
②子会社や関連会社、協力会社等を利用して損失を繰り延べるもの
③「会計上の見積り」を悪用するもの

このうち、①には、在庫の水増しや、架空売上などが当たります。実際に存在しない在庫や売上を計上することで、財産や利益を実際より増やして見せる、最も古典的な会計不正です。

売上から仕入や経費を差し引いたのが利益なのですが、仕入れた商品のうち決算期末に「在庫(まだ販売していない)」となっているものについては、「売上から差し引く仕入」に含まないことになっています。

このため、仕入は実際の金額を計算しておき、在庫を実際より不正に増やしておけば「売上から差し引く仕入」が少なくなり、結果として利益が水増しされるのです。

増やした在庫は実態のない資産として計上されますから、上の水増しされた利益と合わせて二重に会社の「稼ぐ力」を過大表示していることになります。

また、②には、損失の「飛ばし」や、循環取引(特定のグループ内で売上をぐるぐると回し、損失の発生などを先延ばししていくこと)が当たります。

これらは昔からよく行われる会計不正ですが、①は実地棚卸(棚卸資産を実際に数えて集計すること)や売掛金の確認(取引先に売掛金残高がどれくらいあるかを問い合わせること)で判明しますし、②に関しては子会社の監査や、通常と異なる条件の取引を調査することである程度見出すことが可能です。

これに対し、③に挙げた「会計上の見積り」の悪用が行われていることを監査によって発見するのは大変難しいのです。それは会計上の見積りが一般的に可視化できる事実とは離れた、「将来の予想」という重要な概念から作られているからです。

以下、もう少し詳しく説明します。

3.会計上の見積りとは
会計上の見積とは、一般に会計で取り扱う「売上」や「費用」といった個別の取引に関するものではなく、いくつかの特殊概念を含み、少し広い意味合いを持つ考え方です。

この会計上の見積について、日本公認会計士協会は、WEBページにある解説(「会計上の見積りの監査」)内で次のように説明しています。

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財務諸表に含まれる金額のうち、将来の見積や既に発生している事象であるがその金額を確定するための情報が不足している場合など、決算上、金額を見積もって計上しなければならない場合を「会計上の見積」という。
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この見積りには正しい情報が必要ですが、経営者が利用可能な情報やその信頼性には様々なものがあり、結果として会計上の見積りには不確実性が伴います。

単に不確実性が大きいだけではなく、経営者が利用する情報を偏って選択した場合、重要な虚偽表示(不正)が発生する可能性が高くなるのです(国際監査基準第540号より)。

会計上の見積りが関係する論点はいくつかありますが、以下、その例と想定される不正の可能性をいくつか挙げてみます。

①工事進行基準による収益計上
工事進行基準とは、工事やソフトウェアの開発等の売上を「完成した時に計上する」のではなく、その進捗に応じて計上する方法を言います。

総額100億円の工事を3年で進める場合、1年目の進捗が30%、2年目が45%、3年目が25%だったとすると、それぞれの年度における売上高(完成工事高)の計上額は30億円、45億円、25億円となります。

また、仮に工事が何らかの理由で赤字となることが分かった場合には、その赤字は進捗で分けずに全額が一度に計上されます。

この工事進行基準には、主に「収益総額」「原価総額」「進捗度」という3つの見積り要素が必要ですが、これらを操作することで、各年度の売上や利益を実際より大きくすることが可能になります。

②貸倒引当金
貸倒引当金とは、取引先や貸付先から将来どのくらい債権が回収できるかを見積り、あらかじめその債権を「仮に」減らしておく方法を言います。通常なら債権は全て回収できるものですが、相手の財務状況が悪くなるとこの減額を検討しなければならない場合が出てきます。この「仮に」減らしておく部分が「引当金」です(実際に貸し倒れが起きると、「貸倒損失」として処理します)。

例えば、10億円を貸し付けている先が経営不振で資金ショートを起こしそうな際、担保などを見積もっても3億円しか回収できない可能性がある場合、帳簿に計上した10億円はそのままで、負債の部に7億円の引当金を計上します。このネット額3億円が「回収見込み額」となり、引当金とした7億円部分は「費用(損失)」として利益を減らします。

この「回収可能性」は、「見積の見本市」とも言えるほどたくさんの論点があり、それぞれを操作すれば驚くほど大きな結果の差すなわち利益への影響となって現れます。

③税効果会計の繰延税金資産
税効果会計は相当難しい論点のようで、弁護士や企業経営者からもたまに「繰延税金資産って一体何?」なんていう質問を受けます。

この税効果、会計の理論としては非常に複雑なのですが、シンプルに要点を説明しますと、以下の通りになります。

  • 会計で計算される「利益」と、法人税率を掛ける「所得」とは違うものである
  • その違いは、主に費用計上が認められるタイミングのズレによって生じる(たいていは会計の方が早く費用計上される)
  • 会計で費用を計上しても、法人税で費用計上が認められないとなると、認められない部分については、とりあえず先に法人税を払っておかなければならない
  • この「先に払った」法人税(これを法人税の前払と言います)については、将来費用が認められるまで会計上は費用として計上できない

上記の「法人税の前払」部分が、「繰延税金資産」と呼ばれているものにあたります(逆に法人税の未払に当たる部分が「繰延税金負債」です)。

支払った法人税から、会計上費用にできなかった部分、すなわち繰延税金資産にあたるものを差し引いた結果がその時期の税金費用となりますので、差し引いた分だけ税金費用が減り、利益を押し上げる訳です。

もちろん、問題となった支払などが将来会計上の費用として認められれば、対応する繰延税金資産は会計上その時の税金として計上されることになります。

ところがこの「法人税の前払部分」は、いつでも利益を押し上げる効果があるとは限りません。

法人税において認められなかった費用の計上が将来認められる時点で、もし企業が赤字と予想されたらどうなるでしょうか。

後で認められた費用が減らすべき法人税はそこになく、繰延税金資産として計上されていた法人税は「前払」としての意味を無くしてしまうのです。となると、前払という意味で計上された繰延税金資産は資産として扱うことは出来ず、利益を押し上げる効果もなくなってしまうのです。

この考え方を「繰延税金資産の回収可能性」判断と言います。この判断にも「将来の収益の見積り」という、非常に恣意性の入りやすい考え方が含まれています。

④退職給付会計
退職給付会計は、税効果会計よりさらに複雑な理論を抱えています。ですが、これもシンプルに説明するなら下記の通りになります。

  • 現在雇用している人たちの退職金(規定や年金の状態で決まります)が将来どれくらい必要かを見積り
  • それをきちんと払うには「現在」どれくらいの財産が必要かを見積もる
  • これらの見積りに基づいて、現在足りない部分については費用を計上しておく

ご覧の通り、退職給付会計には「将来の退職金」と「それを払うための必要財産」という2つの見積りが必要です。

前者については退職金支給方法や昇給率、退職率、死亡率などを使用して計算するため非常に理論的に難しく、絶対の正しさとは言えないものの、年金数理士(アクチュアリー)など専門家に依頼することで、ある程度恣意性を排除した計算が可能となっているようです。

後者において問題となるのが「割引率」と言われる論点です。

現時点で計算すると、退職金を支払うための財源が10億円足りないと計算された場合でも、必ずしも今すぐ10億円準備しておかなければならない訳ではありません。投資利回りや期間を考えると、今これだけ準備すれば将来10億円になっている、という金額(現在価値)が計算できます。

この現在価値を計算する際に必要となるのが「割引率」です。この割引率の決め方にも一定の基準があるのですが、少しの操作で極めて大きな影響を与えることができるため、要注意の要素と言えます。

⑤減損
企業が持っている資産は、基本的に「稼ぐため」にあります。株主や銀行などから得た資金は、期待される以上の割合(投資利回り)で稼がなければ、営利を目的とする企業が存在する意義の一つが大きく失われるからです。

しかし、投資した資産(工場や有価証券など)が期待した収益を上げる事が出来なくなってしまうと、その時点で資産の価値は大きく下がってしまいます。現在の会計は、そのような兆候がある場合には、予想される収益の低下に応じて、資産自体の金額を引き下げてしまい、その引き下げた金額を損失として計上するように求めています。

これが、減損と言われるものです。

この「減損の兆候」を判断する際や、「予想される収益の低下に応じた資産の減額」を計算する際にも、会計上の見積りが大きく影響します。収益の低下を小さく見積もることができれば、大きな減損損失計上を回避できる場合があるからです。

その他、会計上の見積りが影響する分野は、減価償却計算、担保等で受け入れた資産の帳簿価額、各種引当金、リース資産の現在価値、市場価額のない有価証券の時価や国際会計基準における公正価値などたくさんあります。

4.監査役等の役割と対応
①監査役等と会計上の見積りの監査
会計上の見積りの計算には、経営者の意思決定や将来の見通しに基づく判断部分が大きく影響するので、場合によっては以下のような問題が発生します。

  • 会社の業績に与える影響が重要な場合、経営者の恣意性によって見積りがゆがめられやすい
  • 経営者は内部統制を無効化できるため、従業員を対象とした領域における内部統制システムの整備は、会計上の見積りを利用した会計不正には意味をもたない場合が多い

となると、会計上の見積りを悪用した会計不正に立ち向かうためには、経営者と直接対峙する権限や姿勢が必要となるのです。

このことから、たとえば監査法人等の会計監査人は、単に会計上の見積りの合理性を監査するだけではなく、「経営者が会計上の見積りを行う際に使用した重要な仮定が合理的であると判断しているかどうか」を「経営者確認書」という文書によって確認し、一定の牽制を掛けることにしています。

しかし、会計監査人は常に会社の内部と接触している訳ではありませんし、基本的には資料調査や従業員等へのインタビューのみに基づいて行われる会計監査で、経営者の意思が強く働く会計上の見積りを悪用した会計不正に100%対応など出来るものではありません。

また会計上の見積りに会計監査人が疑義を持ったとしても、経営者からある程度の外見的合理性をもって説明されたら、それを明らかに否定するだけの強い反証を用意することは極めて難しいのです。

また残念ながら、公認会計士たちも「不正」に真正面から対峙するようになってまだ日が浅く、対応が発展途上なのです。(「不正事例の研修を会計士に義務化 公認会計士協会 関根新会長」日経新聞記事)。

ここで私は、監査役等の役割がさらに重要になってくると考えています。

監査役等は、取締役会を筆頭に社内の重要会議に出席していますし、また通常は経営トップ層とも密なコミュニケーションを取っています。

このような立場に居る監査役等は、会計上の見積りを悪用しようとする兆候を最も早く感じ取ることができると言えます。

逆に、「対応しなければならない」という考え方もあります。

私のように会計が専門(公認会計士)である監査役等は言うに及びませんが、会計の専門家ではない方であっても、会社法における責任は専門家である者と変わらないと言われています。「私は会計の専門家ではないから分からない」と言っていてはいけないのです。

②監査役等の対処法
とは言ったものの、会計の知識なく会計の、しかも最も難しい分野の一つである「会計上の見積り」について、その合理性に関する判断を下すのはとても困難であるのも確かです。

そこで、そのような監査役でも対応が可能な方法をいくつかご紹介、ご提案してみます。もちろん方法はこれだけではありませんが、是非ご自身の能力をフルに発揮して対応してみて下さい。

a)トリガーを探る

会計上の見積りが必要となるシチュエーションには、往々にして「将来の損失発生可能性」がついて回ります。例えば、リストラ、投資の損失、退職金、貸し倒れなどがそれに当たります。

このような損失の発生可能性は、経営者をして会計上の見積りをゆがめさせる、悪いモチベーションとなり得ます。
そこで、監査役等は「近い将来損失になりそうな事象の発生可能性」について常にアンテナを立てておく必要があります。

もちろん、その事象がどれだけ損失を生むかという定量的な影響については、会計の知見を持つ監査役等、監査法人と協議することが必要です。

最も強力な情報源は「取締役会」や「重要会議」におけるやりとりですが、これ以外にも業界や競争相手の動向、場合によっては取締役以外の現場職員からの情報なども有用となる場合があります。

b)「質問力」を磨く
良い質問が出来る人は、良い情報を引き出せるだけではなくその場の状況をコントロールできます。会計上の見積りに対処するためにもこの力が非常に重要です。

例えば、「この債権の回収可能性は甘過ぎるじゃないか!」と断定的に指摘したとしても、先に書いた監査法人への対応と同様、専門的で一見合理性のある説明がなされたら、それを覆すだけの反証を用意することは素人にとって簡単ではありません。

これに対して、「この債務者の財務状況はどうやって調べましたか」「担保価値はどのように評価しましたか」「返済に回せるキャッシュフローはどうやって計算しましたか」「その確実性はどうですか」など、回収可能性を検討するに至った過程やその判断根拠について質問し、質問それぞれや他の状況との矛盾を探る方法は、相手に問題を自らさらけ出させる方法として有効です。

また、これらの質問と回答を正しく記録しておけば、万が一会計不正が発生した場合、自らが善管注意義務を果たしたことを立証できる証拠となり得ます(逃げを打つようですが、取締役や監査役等となる場合非常に大事な姿勢です)。

このような質問は会計的な知識がいると思われがちですが、一般的な経営者としての常識、リスク認識があれば十分に可能です。また、監査法人や会計の知見ある他の監査役等にアドバイスを受けても良いでしょう。

c)気兼ねしない
ここが一番大事な所です。
法律や会計の知見ある監査役等がそれぞれ法律、会計に関する質問、指摘をする場合はともかく、専門外の方が会計上の見積りに関係する質問をした場合、経営者や担当者から往々にしてあるのが下記のような反応です。

  • 「この業界は普通こうですよ」
  • 「○○と比較しても妥当だと思います」
  • 「専門外なんだから黙ってろ」

専門外で分からないことも多い場合には、こういう切り返しをされるとそれ以上の突込みを躊躇してしまいがちですが、そこで引いてしまってはいけません。

上記のような対応があること、それ自体が問題の所在を認識していることの表れとなっている可能性もあるのです。

もし問題がないのならば、専門外の監査役等にもわかる客観的・合理的な説明を行うべきですし、それをせず押し通そうとする場合には、妥協せずにわかりやすい説明を求めるべきです。

d)監査法人との連携
会計監査を担当する監査法人は会計のエキスパート中のエキスパートですが、上記の通り経営者から「ある程度幅を持った」合理性を説明されたら、それを完全に否定する反証を出すことは困難です。

このような点を補完し、監査上のリスクを減殺できるのが監査役等の存在であるとも言えます。

通常、監査役等の監査は原則として「相当性」監査(会計監査人の監査結果を相当と認める)ではありますが、それ以前に不正発生リスクを見出し、あらかじめ減殺しておく機能は監査役等にしか期待できないのです。

5.終わりに
会計監査人の監査も監査等委員の監査も同じなのですが、監査の本質的目的は「監査意見を出すこと」ではありませんし、「不適正、不適法意見」といったダメ出しをすることでもありません。

監査を進めていく上で、その監査の目的に応じて適切な経営、情報開示を行っていく体制が整備されていくようリードしていくことが一番の目的なのです。その結果として出されるものが監査報告であると私は考えています。

このために、監査役等は普段からアンテナを十分に張って適切な質問力により情報収集し、目立たず静かに平時のガバナンスを支える役割を果たすべきであると思います。

会計上の見積りが急激にそのリスクを増すのは、会社が業績落ち込みの階段を一段でも降りはじめた時、経営者がそれと気づかずに追い込まれ始めた時です。

如何に初動で止めるか、平時にその芽を摘み取っておくかが非常に重要です。

偉そうなことを書いてしまいましたが、このコラムが「ガバナンス強化」の時代を生きる監査役等の皆さんの参考になれば幸いです。

 

コロナ禍が「路線価」に影響

相続税を計算する際には、全ての財産の時価を計算する必要があります。
土地についての時価を計算するのに必要なのが「路線価」です。
上場株式なら株式市場でいつでも売り買いできる時価が公表されていますが、土地の場合はそうはいきません。税金の計算のように「公平性」が重要な場合、一般の取引価格をそのまま指標として使うことは無理があります。
そこで国は、全国的な調査を定期的に行って、地域ごとに1㎡当たりの時価を路線価として公表しています。
(この路線価について、詳しくはブログ記事「令和2年度の路線価とコロナの影響について」 をご参照ください)

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心斎橋大丸前

さて、令和3年1月26日、国税庁はこの年度の相続税計算に使われる路線価について、大阪市内の繁華街3地点を対象に減額補正(下方修正)すると発表しました。
減額補正は昭和30年に制度が開始以来、大規模災害時を除き初めて行われるものです。
コロナ禍の影響で廃業などが相次ぎ、地価が大幅に(20%超)下落したため路線価を著しく下回る状況が発生し、修正が必要と判断されたものです。また今後も大阪市と名古屋市の一部地点で減額補正を追加する可能性があるとのことです。

大阪市で対象となっているのは、心斎橋筋2丁目、宗右衛門町、道頓堀1丁目と、いずれもコロナ禍前にインバウンド需要が極めて高くなっていた地域で、2割を大きく超える地価下落が発生しています。
これらの地域については、今回4%の減額補正が行われるとのことです。

心斎橋
減額補正対象地域

まずは今年7月以降の相続についてこの減額補正が適用されることとなりました。
下落に比較して少ないような気もしますが、極めて異例の対応、関係する方は注意して適用しましょう。

令和3年税制改正の大綱~所得拡大促進税制見直し

続いて「令和3年税制改正の大綱」についてご説明します。
今回は「所得拡大促進税制」の見直しについてです。
コロナ禍の前、第二次安倍政権の時代から、中小企業を中心に「雇用者数の増加や給与増加」を実現した事業主や法人に対して、法人税や所得税)の税額控除の適用が受けられる制度を広げてきました。年度によって変遷はありますが、この制度を総称して「雇用促進税制」や「所得拡大促進税制」と呼びます。
また、大企業についても同様に「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合の税額控除制度」と呼ばれる、設備投資拡大をセットとした制度が設けられていました。
令和3年の税制改正大綱においては、この所得拡大促進税制について、対象の拡大など緩和が行われます。

所得拡大

1.中小企業における所得拡大促進税制の見直し
中小企業(法人・個人事業主)における所得拡大促進税制について、次の見直しを行った上、その適用期限を2年延長されます。また地方税についても同様の改正が行われます。

①適用要件

継続雇用者給与等支給額(前年度から継続して雇用している者への支給額)の増加割合」要件が、雇用者給与等支給額の比較雇用者給与等支給額に対する増加割合に見直されます(計算が煩雑な継続雇用者の要件が無くなります)。

②税額控除率要件(法人税や所得税の一定割合を控除限度とする計算)
継続雇用者給与等支給額の増加割合要件が、雇用者給与等支給額の比較雇用者給与等支給額に対する増加割合に見直されます。

2.給与等の支給額から控除する項目見直し
元々、「所得拡大促進税制」や「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合の税額控除制度」の金額を計算する際には、給与等の金額から「給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額」を差し引くこととされていました。計算上給与等の額が多い方が有利ですから、助成金など「給与等の為にもらった金額」は差し引かないと不合理、という考え方でした。

しかし現在のコロナ禍で「雇用調整助成金」の対象や助成割合が拡大され、利用が増加したこと、またこの利用で一定の雇用維持効果が出ていることから、要件を判定する場合には、雇用調整助成金及びこれに類するものの額を控除しないこととされました(税額控除率計算に関しては引き続き控除した金額を上限とします)。

令和3年税制改正の大綱~手続きの電子化関係

今回も「令和3年税制改正の大綱」についてご説明します。
コロナ禍において最も問題となったのが、テレワークや時差出勤など「人との接触を避ける」ことが必要となった際に「紙の書類をどうするか」でした。
残念ながら、現在の日本の税務に関する仕組みは、十分に電子化がなされていると言えず、逆に押印を不必要に要求するなど電子化の足を引っ張る状況になっています。
この状況を打開するため、様々な取り組みがなされることとなりました。

さて今回の税制改正の大綱においては、下記のような項目が挙げられています。
以下、一つずつ説明します。

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1.税務関係書類における押印義務の見直し
2.電子帳簿等保存制度の見直し等
3.地方税共通納税システムの対象税目の拡大
4.個人住民税の特別徴収税額通知の電子化
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1.税務関係書類における押印義務の見直し(国税、地方税)
提出者等の押印が必要とされている税務関係書類について、実印を要するものなど一部を除き押印を不要とします(次に掲げる税務関係書類を除く)。令和3年4月1日以後に提出する税務関係書類について適用され、また施行日前においても、運用上、押印がなくとも改めて求めないこととされます。

2.電子帳簿等保存制度の見直し
これらの改正は令和4年1月1日から施行されます。

①電子計算機を使用して作成する帳簿書類
・現在必要となっている承認制度が廃止され、以下の要件を満たせば使用ができます
・国税関係帳簿書類(元帳や決算書、請求書などの帳簿書類)について、システムの概要書、操作説明書等の備付けがあり、画面等への速やかで明瞭な出力が可能、また調査の際その国税関係帳簿書類に係る電磁的記録のダウンロードに対応する

②スキャナ保存制度
・承認税度の廃止
・タイムスタンプ(「入力日の特定」や「改ざんの検知」を担う機能)の要件について、付与期間を3日以内から最長2月(入力期間と同じ)とする
・受領者等がスキャナで読み取る際に行う国税関係書類への自署を不要とする
・電磁的記録について訂正又は削除を行った事実及び内容を確認することができるシステムで記録の保存を行うことができれば、タイプスタンプは不要

③電子取引制度
・タイムスタンプ要件を②と同じく緩和
・検索要件を一部不要にするなど緩和

④地方税
・地方のたばこ税、軽油取引税について、国税の取り扱いに準じて同様電磁的帳簿記録や書類のスキャナ保存、電磁的記録の提出を可能とします

3.地方税共通納税システムの対象税目の拡大
地方公共団体の収納事務を行う「地方税共同機構」が電子的に処理する特定徴収金(法人の事業税その他の政令で定める地方税に係る地方団体の徴収金のうち、納税義務者又は特別徴収義務者が総務省令で定める方法により納付し、又は納入するもの)の対象税目に固定資産税、都市計画税、自動車税種別割及び軽自動車税種別割を追加し、eLTAX(地方税のオンライン手続のためのシステム)を通じて電子的に納付を行うことができるよう、所要の措置を講ずる(令和5年度以後の課税分について適用)。

4.個人住民税の特別徴収税額通知の電子化(住民税)
個人住民税の特別徴収税額通知について、次の見直しが行われます(令和6年度分以後の個人住民税について適用)。
①給与所得に係る特別徴収税額通知(特別徴収義務者=会社など用)
eLTAXを経由して給与支払報告書を提出する特別徴収義務者が申出をしたときは、市町村は、当該通知の内容をeLTAXを経由し、当該特別徴収義務者に提供しなければならないこととする。
(注)現在、選択的サービスとして行われている、書面による特別徴収税額通知(特別徴収義務者用)の送付の際の電子データの副本送付は終了する

②給与所得に係る特別徴収税額通知(納税義務者=給与を受ける者用)
eLTAXを経由して給与支払報告書を提出する特別徴収義務者であって、個々の納税義務者に当該通知の内容を電磁的方法により提供することができる体制を有する者が申出をしたときは、市町村は、当該通知の内容をeLTAXを経由して当該特別徴収義務者に提供し、当該特別徴収義務者を経由して納税義務者に提供しなければならないこととする。この場合において、当該特別徴収義務者は、当該通知の内容を電磁的方法により納税義務者に提供するものとする。

令和元年事務年度 相続税調査概要(国税庁)

国税庁は、昨年12月18日、令和元年事務年度(令和元年7月1日~令和2年6月30日)における相続税の調査等の状況を公表しました。
コロナ禍の影響で調査件数は大きく減っているものの(年配の方も多く訪問などがなかなかできなかったそうです:調査官談)、後述の通り1件当たりの申告漏れや追徴額は増加しています。
「コロナだから調査も減る」などと軽く考えない方がよさそうです。

1.相続税の実地調査、簡易な接触状況
資料情報等から申告額が過少であると想定される事案や、申告義務があるにもかかわらず無申告であると想定される事案など、大口事案や悪質な不正が見込まれる事案に集中して実地調査が行われています。
また、平成27年の改正で小規模な相続税案件が増えたことから、⽂書、電話による連絡⼜は来署依頼による面接による是正など(簡易な接触)も多く行われています。
これらの結果、実地調査、簡易な接触ともに件数は昨年より大きく減少したものの、1件当たりの申告漏れ額や追徴税額は増加しました。

申告漏れ相続財産の財産別推移は下記のようになっています。

申告漏れ金額推移
グラフ 申告漏れ相続財産の金額の推移

2.無申告事案に対する調査状況
無申告事案は、申告納税制度の下で⾃発的に適正な申告・納税を⾏っている納税者の税に対する公平感を著しく損なうものとされているので、資料情報の収集・活⽤など無申告事案の把握のための取組を積極的に⾏い、実地調査や簡易な接触を活⽤してできるだけ発見する努力がなされています。とはいうものの、通常の調査と同様にコロナ禍の影響で件数については昨年より8割以上減少しています。
しかし、無申告事案に対する1件当たりの申告漏れ、追徴税額は大きく増加しています。

無申告事案
グラフ 無申告事案に係る調査事績の推移

3.海外資産関連事案に対する調査状況
※海外資産関連事案とは、①海外資産が含まれる、②相続人や被相続人等が国外居住者である、③海外資産等に関する資料情報あり、④外資系の⾦融機関との取引あり の事案を言います

納税者の資産運⽤の国際化に対応し、相続税の適正な課税を実現するため、租税条約等に基づく情報交換制度のほか、CRS情報(共通報告基準に基づく⾮居住者⾦融口座情報)などを効果的に活⽤し、海外取引や海外資産の保有状況の把握に努めています。
令和元事務年度においては、海外資産に係る申告漏れ等の非違件数(149 件)は過去最高となりました。
さらに、1件当たりの申告漏れ課税価格(5,193 万円)も対前事務年度比 127.8%と増加しました。

4.贈与税に対する調査状況
相続税の補完税である贈与税についても、積極的に資料情報を収集するとともに、あらゆる機会を通じて財産移転の把握に努め、無申告事案を中心に贈与税の調査を的確に実施しています。
令和元事務年度においては、実地調査1件当たりの追徴税額(231 万円)が対前事務年度比 128.2%と増加しました。

令和3年税制改正の大綱~産業競争力強化に係る措置

今回から、令和3年税制改正の大綱に記載された改正項目をご紹介していきます。
なお、ご紹介はこちらのブログと、耕夢グループ しのだ会計事務所のブログ にて分担して執筆します。

1.産業競争力強化に係る措置(全体像)
ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現を図るため、企業のDX(デジタル技術を背景にした企業経営やビジネスの変革。デジタルトランスフォーメーション)及びカーボンニュートラル(温室効果ガスの吸収・排出バランスを目指す)に向けた投資を促進する措置を創設するとともに、こうした投資等を行う企業に対する繰越欠損金の控除上限の特例を設けることとされました。
これらの税制は「産業競争力強化法」(日本経済の再興のための産業競争力の強化を目的として、平成26年1月20日に施行された法律)の改正を前提としており(施行予定は2021年6~7月頃)、適用には同法の計画認定が必要となる予定です。

2.DX投資促進税制の創設
「つながる」デジタル環境の構築(クラウド化等)による事業変革を行う場合に、税額控除(5%又は3%)又は特別償却(30%)ができる措置を創設されます。
この制度は、従来型のソフトウェア(無形固定資産)だけではなく、クラウドシステムへの移行に係る初期費用(繰延資産)も対象となります。
DX投資促進税制の適用については、事業適応計画の認定要件を満たした上で、デジタル(D)要件と企業変革(X)要件について主務大臣から確認を受ける必要があります。
税額控除については、原則取得価額の3%、親子会社(会社法に基づくもの)間グループ「外」の事業者とデータ連携する場合は5%となります。
また、3.カーボンニュートラル投資促進税制の税額控除額と合わせ法人税額の20%が限度となります。

3.カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設
カーボンニュートラルに向け、生産プロセスの脱炭素化に寄与する設備、又は脱炭素化を加速する製品を早期に市場投入することでわが国事業者による新たな需要の開拓に寄与することが見込まれる製品を生産する設備に対する投資について、税額控除(10%・5%)又は特別償却(50%)ができる措置た創設されます。
税額控除については、原則取得価額の5%、温室効果ガスの削減に著しく資するものは10%となります。また、2.DX投資促進税制の税額控除額と合わせ法人税額の20%が限度となります。

カーボンニュートラル

4.活発な研究開発を維持するための研究開発税制の見直し
売上高が減少するなど厳しい経営環境にあっても研究開発投資を増加させる企業について、従来からある税額控除の上限を引き上げます(現行:25%→30%)
同時に、インセンティブを高めるための控除率カーブの見直し(適用される計算式が変更されます)及び控除率の下限の引下げ(現行:6%→2%)を行います。

5.コロナ禍を踏まえた賃上げ及び投資の促進に係る税制の見直し
雇用環境の悪化に対応するため、新規雇用拡大に着目した形に見直しが行われます。
具体的には、従来の「継続雇用者への賃上げ」を前提とした計算方式から、「新規雇用者」を対象とする方式に変更されます。
この結果、この税制の適用を受けるためには、既に雇用している従業員の給与等を増加させるだけではなく、新たに雇用する従業員の給与等を増加させることが必要となります。
この「給与等」の計算については、元々「雇用調整助成金等」は控除することとされていましたが、今回の改正で「控除しない(対象額が増える)」ことが明らかとされました。

6.繰越欠損金の控除上限の特例
コロナ禍の厳しい経営環境の中、赤字であっても果敢に前向きな投資(カーボンニュートラル、DX、事業再構築・再編等に関するもの)を行う企業に対し、その投資額の範囲内で、最大5年間、繰越欠損金の控除限度額を最大 100%(現行:所得の金額の 50%)とする特例が創設されます。

 

令和3年税制改正の大綱について(概要)

1.税制改正の大綱とは
令和2年12月21日、「令和3年度税制改正の大綱」が閣議決定されました。この税制改正の大綱は、政府が今後の税制改正のあり方について明確に方針を示すもので、毎年12月に公表されます。今回から数回にわたり、この税制改正の大綱について簡単に説明します。

税制改正の大綱は、政府が税制のあり方についての方針を示すもので、その後の税制改正はこの大綱に基づいて行われることとなります。

これに対し、与党自民党と公明党が発表する「税制改正大綱」と呼ばれるものも、政府の「税制改正の大綱」の直前に発表されます。これらはほぼ同じものなのですが、前者が「与党の方針を示すもの」であり、後者が「政府の方針を示すもの」であることから、場合によっては異なる場合もあり得ます。ただ現在のように政権与党がある程度安定している場合には「ほぼ同じ」と思っておいて良いようです。

税制改正大綱R3

2.税制改正の大綱の概要
今回発表された税制改正の大綱の概要は、以下の通りです。
これらのうち、私たちのお客様に大きく関係する項目については、これから数回にわたってメルマガ等で順次細かく解説いたします。

<個人所得課税>

  • 住宅ローン控除の特例の延長等(適用期限延長、面積要件緩和)
  • セルフメディケーション税制の見直し(範囲の重点化と手続簡素化、延長)
  • 国や地方自治体の実施する子育てに係る助成等の非課税措置(国や自治体からの子育て助成を非課税に)
  • 退職所得課税の適正化(年数が短い法人役員の退職金課税を強化)​

<資産課税>

  • 住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置の拡充(非課税枠を据え置き、面積要件緩和)
  • 教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の見直し(節税的利用防止、延長)
  • 土地に係る固定資産税等の負担調整措置(コロナ対策で負担調整据え置き)
  • 国際金融都市に向けた税制上の措置(外国人家族が相続する国外財産の課税対象外)

<法人課税>

  • 産業競争力強化に係る措置(DX促進、カーボンニュートラル、研究開発、コロナ禍対応賃上・投資促進、繰越欠損金控除上限引き上げ)
  • 中小企業支援(投資促進税制延長、所得拡大促進税制見直し、中小企業の経営資源の集約化)
  • 株式対価M&Aを促進するための措置の創設(M&A対象会社株主の譲渡損益課税を繰り延べ)
  • 国際金融都市に向けた税制上の措置(投資運用業役の員業績連動給与を損金算入可)

<消費課税>

  • 車体課税(エコカー減税及び自動車税・軽自動車税の環境性能割見直し等)
  • 金密輸に対応するための消費税の仕入税額控除制度の見直し

<納税環境整備>

  • 税務関係書類における押印義務の見直し(地方税関係書類についても同様)
  • 電子帳簿等保存制度の見直し等
  • 地方税共通納税システムの対象税目の拡大
  • 個人住民税の特別徴収税額通知の電子化
  • 国際的徴収回避行為への対応

<関税>

  • 暫定税率等の適用期限の延長等
  • 個別品目の関税率の見直し(ポリ塩化ビニル製使い捨て手袋の暫定税率無税)