投稿者「admin」のアーカイブ

新規事業を探すには(天才ではないあなたの為に)

1.ポストコロナ・ウィズコロナと事業再構築補助金
現在、業種業態の転換や新しい事業に取り組む企業が増えています。
これは、コロナ禍の中、またポストコロナ・ウィズコロナを見据えた場合、戦後から連綿と続く昭和的な価値観や経済社会が大きく変化し、それにビジネスを適応させる必要があるからです。

そういった状況に合わせ、国は「中小企業等事業再構築促進事業」という制度を創設しました。
この制度は、下記①~③に該当する中小企業等に対し、最大1億円の補助金を出して新事業や事業再構築を支援するというものです。

①直近6か月間のうち任意の3か月の合計売上高が、コロナ以前の同3か月の合計売上高と比較して10%以上減少
②事業計画を認定経営革新等支援機関や金融機関と策定し、一体となって事業再構築に取り組む
③3~5年で付加価値額の年率平均3.0%(一部5.0%)以上増加又は従業員一人当たり付加価値額の年率平均3.0%(一部5.0%)以上増加の達成

事業再構築補助金については、弊所岐阜事務所(しのだ会計)のブログにてご紹介しており、今後新しい情報が出たら随時お知らせ致します。

2.新規事業の探し方
この制度の適用を受けるためには、新しい事業について事業計画を策定し、そして付加価値の増加につなげる必要があります。

では、新規事業を探すにはどうしたら良いのでしょうか。
安藤百福さん(日清)のチキンラーメン、またスティーブジョブス(アップル)のiPhoneといった、革新的というより世界を変えるほどの革命的新事業が思い浮かんだら素晴らしいですよね。
しかし、普通の皆さんがそんな発想を得るのは至難の業です。
(実際、上の両製品とも、一つ間違えば大失敗になっていたかもしれません)
では、そういった「天才ではない」普通のあなたが新事業を思いつくためにはどうしたら良いでしょうか。
それにはちゃんと定石があります。
今回は、私たち税理士が普段お客様にお話ししている内容を、少しだけご紹介したいと思います。

①基本的な考え方
どんな事業でも、収益をあげなければ意味がありません。
正確に言うと、世の中に付加価値を生むような事業でなければ、そこから収益は取れませんし、持続しないのです。
100円で仕入れたものを80円で売るのは事業でしょうか?
ひょっとしたら安いものだけを好む人には大人気かもしれませんが、すぐ資金が立ち行かなくなるでしょう。
これは単に損をしているだけではなく、折角100円という価値のついているものを80円に落とすことで、経済的観点からは付加価値を下げる(世の中の価値を下げている)「悪」なのです。
また、いくら収益を上げても他の参入などによって継続できなければ意味がありません。
継続して安定した収益を継続するには、何らかの参入障壁が必要なのです。
では、安定した収益を継続するために必要な要素は何でしょうか。
要約すると以下の3つになります。
・ゼロから始めない
・2つ以上を組み合わせる
・嫌なことから探す
これを以下説明していきます。

②ゼロから始めない
「新規事業」というと全く新しい何かを見つけるものと思われていますが、実際には(そして普通であるあなたにとっては)そうではありません。
必ず、自身がもともと持っている人、モノといった資源を活用することから考えるべきです。
人としては従業員だけではなく、友人・取引先だけではなく、ひょっとしたらライバルのような自分を取り囲む全ての者が含まれます。
また、モノについても同じで、所有する資産だけではなく、使えるものすべてを見逃さずに使うべきです。
あなたが既に活用している資源を使うのですから、他の人たちよりも一歩も二歩も先んじていることになります。これが大きな参入障壁になりうるのです。

例:ホンダオデッセイ
1990年代、車の需要がミニバンやSUVに移る中、ブームに乗り遅れたホンダは売上が低迷していました。
ここで、起死回生の企画として作り出されたのが「オデッセイ(初代)」です。
実は、それまでのホンダは「車高が低くてカッコいい車こそ善」というスタンスで、ミニバンやSUVのような背の高い車を作る設備が無かったのです。しかし、業績も悪化している会社に全くの新工場を作る余裕はありません。
なんと、ここでホンダがとった判断は「背の低いセダン用工場で作れる限度の車高で設計する」という「あるものを使う」方針でした。
この意外な戦略が大ヒットを生みます。
背が低い代わりに、様々な設計上の工夫をして車内を広くしたことで、「使い勝手はいいけど見た目や走行性能は悪い」というミニバンの常識を覆す、スタイリッシュなデザインと高い走行性能を得たのです。
この結果、一時は目標の30倍を超える販売実績を達成するに至りました。

オデッセイ
(写真:ホンダ オデッセイ)

③2つ以上を組み合わせる
何かとネガティブな印象を持たれることもある「ホリエモン(堀江貴文氏)」ですが、非常に良いこともたくさん述べています。
その中の一つが「100万分の1の人材になる方法」です。
100万分の1とはオリンピックで金メダルを取るような確率で、とても普通の人が目指せる水準ではない、と思われがちですが、彼は書籍の中で下記のように述べています。

「まず、対象や分野は何でもいいということを念頭に置いてください。そこで『100人の中で1番になる』ことを考えるとどうでしょう。頑張れば何とかなれるものが見つかるのではないでしょうか。その『100分の1』の要素を自分の中で3つ見つければいいんです。そして、3つを掛け合わせれば『100万分の1』になれます。

希少なほど付加価値は上がり、参入障壁が大きくなるのは当然ですが、このような考え方は「普通の人」を勇気づけてくれます。
彼が言うように100万分の1でなくても、100分の1を2つだけでも1万分の1になります。
企業経営としては十分な水準です。

例:機能性チョコレート
元々チョコレートは完全な嗜好品で、甘くておいしいといった魅力以外は、虫歯や肥満などネガティブなイメージが付きまとう食品でした。
しかし、最近は機能性表示食品制度開始が追い風となり、「ポリフェノールの強化」や「脂肪や糖の吸収を抑える」「乳酸菌入り」などといった健康への配慮を組み合わせたチョコレートがヒットしています。

チョコレート効果
(写真:明治 チョコレート効果)

④嫌なことから探す
昔から「好きなことで仕事はできない」と言われますが、別に「自分が」好きなことを仕事にするのは悪いことではないと思います。
しかし新規事業を探す場合、「好きなこと」を追っても何も出てきません。
そこには「満足」しかないからです。
世の中のビジネスのほとんどは、「嫌なこと」「困ること」を解決するために生み出されたと言っても過言ではありません。そういう人間の困ったことを解決するから付加価値を高く出来るのです。
自身が嫌なことや困ることを探すのも良いですが、やはりいろいろな人にそれを聞き出すことは大変有効です。普段のビジネスや人付き合い、インターネットやその他メディアなどにおいて、「人が何を嫌がり、困っているか」という観点のアンテナを張っておくことはとても重要です。

3.情報収集する・相談する
ここまで読んで「なんだそんなことか」と思った方もおられるかもしれません。
そういう方は既に事業で成功している方だと思います。
しかしこれから新しい事業で成功を目指す人は、この3条件を中心に据えてひたすら考えてみて下さい。
とはいうものの、一人で単に考えているだけではなかなか良いものは生まれません。
また、いくら良い事業アイデアがあっても、資金の手当てが無ければ実現できませんし、法律や税金をはじめとした我が国の制度も知らなければなりません。
公的な機関や団体としては中小機構、商工会議所などが起業や新事業のサポートをしていますし、法律の面では弁護士、お金や税金の面は公認会計士や税理士が、また社会保険労務士(雇用など)、中小企業診断士(経営)、司法書士(登記)、弁理士(特許など知財)といった様々な専門家の中にもこのような新事業をサポートしてくれる方たちが多くいます。また、冒頭に説明しました補助金などのサポートには「認定支援機関」という存在も役に立ちます。

様々に整備された制度やサポーターを活用して、新しい時代の新しい事業を創り上げる方が一人でも多く生まれるよう、我々も頑張りたいと思います。

「会計専門家でない」監査役、監査等委員取締役は「会計上の見積り」にどう対応すべきか?

以前「監査等委員会設置会社へ移行した場合、ここに注意」 において、監査役会制度と監査等委員会制度(以下「監査役等」制度とします)における法律、実務上の違いとその対応について説明しました。
監査等委員会という制度自体への疑問や批判はありますが、今後の企業にとって「ガバナンス強化」という方向性が必要なことは明らかであり、監査役や監査等委員(この記事においては「監査役等」とまとめます)にとっては、これまで以上にその役割が重視される時代になっていると思います。

そうなると、「では監査役等はどのように監査すべきなのか」という論点が今まで以上に重要になってきます。

さらに法や会計に関する制度や実務が複雑化し、また様々な分野でコロナ対応やDX(デジタルトランスフォーメーション、デジタル化による変革)が生じている今、監査役等はどの論点においても非常に難しい判断や実務を迫られていると言えます。

会計分野はその中でも非常に重要かつ複雑な分野であると言えますが、その中でも特に専門的な分野である「会計上の見積り」という論点については、会計監査人たる監査法人や公認会計士に「任せきり」なのが実情で、リスクに比較して監査役等の理解、対応が十分とは言えないと感じています。

そこで今回は、この論点についてその概要とリスクの重要性、そして監査役等がどのような姿勢で、如何に対応すべきかについて、「会計の専門家でない」方でも理解、実践できるよう簡単に説明したいと思います。
かなり長くなりますが、是非ご一読ください。

====================================================

1.会計不正とは何か
最近特に注目を集めている会計不正。この会計不正はなぜ発生するのでしょうか。
投資家が株式に投資する際、最も重視する資料の一つが「決算書」です。
決算書は、会社が持つ現在・将来の「稼ぐ力」を見出すために必須のデータがふんだんに盛り込まれています。基本的に投資家は、このデータとその他の情報を組み合わせ、投資判断を行っているのです。

そうなると、この決算書を「実態より良く見せる」行為(古くから「粉飾」と呼ばれてきました)は、投資家を欺いて資金を得る、本質的には詐欺と同様の悪い行いであると言えます。
このような行為を、一般に「会計不正」と呼びます。

2.会計不正の類型
この会計不正、実は大きく分けて3つほどの類型があります。

①虚偽の事実に基づいて会計処理するもの
②子会社や関連会社、協力会社等を利用して損失を繰り延べるもの
③「会計上の見積り」を悪用するもの

このうち、①には、在庫の水増しや、架空売上などが当たります。実際に存在しない在庫や売上を計上することで、財産や利益を実際より増やして見せる、最も古典的な会計不正です。

売上から仕入や経費を差し引いたのが利益なのですが、仕入れた商品のうち決算期末に「在庫(まだ販売していない)」となっているものについては、「売上から差し引く仕入」に含まないことになっています。

このため、仕入は実際の金額を計算しておき、在庫を実際より不正に増やしておけば「売上から差し引く仕入」が少なくなり、結果として利益が水増しされるのです。

増やした在庫は実態のない資産として計上されますから、上の水増しされた利益と合わせて二重に会社の「稼ぐ力」を過大表示していることになります。

また、②には、損失の「飛ばし」や、循環取引(特定のグループ内で売上をぐるぐると回し、損失の発生などを先延ばししていくこと)が当たります。

これらは昔からよく行われる会計不正ですが、①は実地棚卸(棚卸資産を実際に数えて集計すること)や売掛金の確認(取引先に売掛金残高がどれくらいあるかを問い合わせること)で判明しますし、②に関しては子会社の監査や、通常と異なる条件の取引を調査することである程度見出すことが可能です。

これに対し、③に挙げた「会計上の見積り」の悪用が行われていることを監査によって発見するのは大変難しいのです。それは会計上の見積りが一般的に可視化できる事実とは離れた、「将来の予想」という重要な概念から作られているからです。

以下、もう少し詳しく説明します。

3.会計上の見積りとは
会計上の見積とは、一般に会計で取り扱う「売上」や「費用」といった個別の取引に関するものではなく、いくつかの特殊概念を含み、少し広い意味合いを持つ考え方です。

この会計上の見積について、日本公認会計士協会は、WEBページにある解説(「会計上の見積りの監査」)内で次のように説明しています。

=================================
財務諸表に含まれる金額のうち、将来の見積や既に発生している事象であるがその金額を確定するための情報が不足している場合など、決算上、金額を見積もって計上しなければならない場合を「会計上の見積」という。
=================================

この見積りには正しい情報が必要ですが、経営者が利用可能な情報やその信頼性には様々なものがあり、結果として会計上の見積りには不確実性が伴います。

単に不確実性が大きいだけではなく、経営者が利用する情報を偏って選択した場合、重要な虚偽表示(不正)が発生する可能性が高くなるのです(国際監査基準第540号より)。

会計上の見積りが関係する論点はいくつかありますが、以下、その例と想定される不正の可能性をいくつか挙げてみます。

①工事進行基準による収益計上
工事進行基準とは、工事やソフトウェアの開発等の売上を「完成した時に計上する」のではなく、その進捗に応じて計上する方法を言います。

総額100億円の工事を3年で進める場合、1年目の進捗が30%、2年目が45%、3年目が25%だったとすると、それぞれの年度における売上高(完成工事高)の計上額は30億円、45億円、25億円となります。

また、仮に工事が何らかの理由で赤字となることが分かった場合には、その赤字は進捗で分けずに全額が一度に計上されます。

この工事進行基準には、主に「収益総額」「原価総額」「進捗度」という3つの見積り要素が必要ですが、これらを操作することで、各年度の売上や利益を実際より大きくすることが可能になります。

②貸倒引当金
貸倒引当金とは、取引先や貸付先から将来どのくらい債権が回収できるかを見積り、あらかじめその債権を「仮に」減らしておく方法を言います。通常なら債権は全て回収できるものですが、相手の財務状況が悪くなるとこの減額を検討しなければならない場合が出てきます。この「仮に」減らしておく部分が「引当金」です(実際に貸し倒れが起きると、「貸倒損失」として処理します)。

例えば、10億円を貸し付けている先が経営不振で資金ショートを起こしそうな際、担保などを見積もっても3億円しか回収できない可能性がある場合、帳簿に計上した10億円はそのままで、負債の部に7億円の引当金を計上します。このネット額3億円が「回収見込み額」となり、引当金とした7億円部分は「費用(損失)」として利益を減らします。

この「回収可能性」は、「見積の見本市」とも言えるほどたくさんの論点があり、それぞれを操作すれば驚くほど大きな結果の差すなわち利益への影響となって現れます。

③税効果会計の繰延税金資産
税効果会計は相当難しい論点のようで、弁護士や企業経営者からもたまに「繰延税金資産って一体何?」なんていう質問を受けます。

この税効果、会計の理論としては非常に複雑なのですが、シンプルに要点を説明しますと、以下の通りになります。

  • 会計で計算される「利益」と、法人税率を掛ける「所得」とは違うものである
  • その違いは、主に費用計上が認められるタイミングのズレによって生じる(たいていは会計の方が早く費用計上される)
  • 会計で費用を計上しても、法人税で費用計上が認められないとなると、認められない部分については、とりあえず先に法人税を払っておかなければならない
  • この「先に払った」法人税(これを法人税の前払と言います)については、将来費用が認められるまで会計上は費用として計上できない

上記の「法人税の前払」部分が、「繰延税金資産」と呼ばれているものにあたります(逆に法人税の未払に当たる部分が「繰延税金負債」です)。

支払った法人税から、会計上費用にできなかった部分、すなわち繰延税金資産にあたるものを差し引いた結果がその時期の税金費用となりますので、差し引いた分だけ税金費用が減り、利益を押し上げる訳です。

もちろん、問題となった支払などが将来会計上の費用として認められれば、対応する繰延税金資産は会計上その時の税金として計上されることになります。

ところがこの「法人税の前払部分」は、いつでも利益を押し上げる効果があるとは限りません。

法人税において認められなかった費用の計上が将来認められる時点で、もし企業が赤字と予想されたらどうなるでしょうか。

後で認められた費用が減らすべき法人税はそこになく、繰延税金資産として計上されていた法人税は「前払」としての意味を無くしてしまうのです。となると、前払という意味で計上された繰延税金資産は資産として扱うことは出来ず、利益を押し上げる効果もなくなってしまうのです。

この考え方を「繰延税金資産の回収可能性」判断と言います。この判断にも「将来の収益の見積り」という、非常に恣意性の入りやすい考え方が含まれています。

④退職給付会計
退職給付会計は、税効果会計よりさらに複雑な理論を抱えています。ですが、これもシンプルに説明するなら下記の通りになります。

  • 現在雇用している人たちの退職金(規定や年金の状態で決まります)が将来どれくらい必要かを見積り
  • それをきちんと払うには「現在」どれくらいの財産が必要かを見積もる
  • これらの見積りに基づいて、現在足りない部分については費用を計上しておく

ご覧の通り、退職給付会計には「将来の退職金」と「それを払うための必要財産」という2つの見積りが必要です。

前者については退職金支給方法や昇給率、退職率、死亡率などを使用して計算するため非常に理論的に難しく、絶対の正しさとは言えないものの、年金数理士(アクチュアリー)など専門家に依頼することで、ある程度恣意性を排除した計算が可能となっているようです。

後者において問題となるのが「割引率」と言われる論点です。

現時点で計算すると、退職金を支払うための財源が10億円足りないと計算された場合でも、必ずしも今すぐ10億円準備しておかなければならない訳ではありません。投資利回りや期間を考えると、今これだけ準備すれば将来10億円になっている、という金額(現在価値)が計算できます。

この現在価値を計算する際に必要となるのが「割引率」です。この割引率の決め方にも一定の基準があるのですが、少しの操作で極めて大きな影響を与えることができるため、要注意の要素と言えます。

⑤減損
企業が持っている資産は、基本的に「稼ぐため」にあります。株主や銀行などから得た資金は、期待される以上の割合(投資利回り)で稼がなければ、営利を目的とする企業が存在する意義の一つが大きく失われるからです。

しかし、投資した資産(工場や有価証券など)が期待した収益を上げる事が出来なくなってしまうと、その時点で資産の価値は大きく下がってしまいます。現在の会計は、そのような兆候がある場合には、予想される収益の低下に応じて、資産自体の金額を引き下げてしまい、その引き下げた金額を損失として計上するように求めています。

これが、減損と言われるものです。

この「減損の兆候」を判断する際や、「予想される収益の低下に応じた資産の減額」を計算する際にも、会計上の見積りが大きく影響します。収益の低下を小さく見積もることができれば、大きな減損損失計上を回避できる場合があるからです。

その他、会計上の見積りが影響する分野は、減価償却計算、担保等で受け入れた資産の帳簿価額、各種引当金、リース資産の現在価値、市場価額のない有価証券の時価や国際会計基準における公正価値などたくさんあります。

4.監査役等の役割と対応
①監査役等と会計上の見積りの監査
会計上の見積りの計算には、経営者の意思決定や将来の見通しに基づく判断部分が大きく影響するので、場合によっては以下のような問題が発生します。

  • 会社の業績に与える影響が重要な場合、経営者の恣意性によって見積りがゆがめられやすい
  • 経営者は内部統制を無効化できるため、従業員を対象とした領域における内部統制システムの整備は、会計上の見積りを利用した会計不正には意味をもたない場合が多い

となると、会計上の見積りを悪用した会計不正に立ち向かうためには、経営者と直接対峙する権限や姿勢が必要となるのです。

このことから、たとえば監査法人等の会計監査人は、単に会計上の見積りの合理性を監査するだけではなく、「経営者が会計上の見積りを行う際に使用した重要な仮定が合理的であると判断しているかどうか」を「経営者確認書」という文書によって確認し、一定の牽制を掛けることにしています。

しかし、会計監査人は常に会社の内部と接触している訳ではありませんし、基本的には資料調査や従業員等へのインタビューのみに基づいて行われる会計監査で、経営者の意思が強く働く会計上の見積りを悪用した会計不正に100%対応など出来るものではありません。

また会計上の見積りに会計監査人が疑義を持ったとしても、経営者からある程度の外見的合理性をもって説明されたら、それを明らかに否定するだけの強い反証を用意することは極めて難しいのです。

また残念ながら、公認会計士たちも「不正」に真正面から対峙するようになってまだ日が浅く、対応が発展途上なのです。(「不正事例の研修を会計士に義務化 公認会計士協会 関根新会長」日経新聞記事)。

ここで私は、監査役等の役割がさらに重要になってくると考えています。

監査役等は、取締役会を筆頭に社内の重要会議に出席していますし、また通常は経営トップ層とも密なコミュニケーションを取っています。

このような立場に居る監査役等は、会計上の見積りを悪用しようとする兆候を最も早く感じ取ることができると言えます。

逆に、「対応しなければならない」という考え方もあります。

私のように会計が専門(公認会計士)である監査役等は言うに及びませんが、会計の専門家ではない方であっても、会社法における責任は専門家である者と変わらないと言われています。「私は会計の専門家ではないから分からない」と言っていてはいけないのです。

②監査役等の対処法
とは言ったものの、会計の知識なく会計の、しかも最も難しい分野の一つである「会計上の見積り」について、その合理性に関する判断を下すのはとても困難であるのも確かです。

そこで、そのような監査役でも対応が可能な方法をいくつかご紹介、ご提案してみます。もちろん方法はこれだけではありませんが、是非ご自身の能力をフルに発揮して対応してみて下さい。

a)トリガーを探る

会計上の見積りが必要となるシチュエーションには、往々にして「将来の損失発生可能性」がついて回ります。例えば、リストラ、投資の損失、退職金、貸し倒れなどがそれに当たります。

このような損失の発生可能性は、経営者をして会計上の見積りをゆがめさせる、悪いモチベーションとなり得ます。
そこで、監査役等は「近い将来損失になりそうな事象の発生可能性」について常にアンテナを立てておく必要があります。

もちろん、その事象がどれだけ損失を生むかという定量的な影響については、会計の知見を持つ監査役等、監査法人と協議することが必要です。

最も強力な情報源は「取締役会」や「重要会議」におけるやりとりですが、これ以外にも業界や競争相手の動向、場合によっては取締役以外の現場職員からの情報なども有用となる場合があります。

b)「質問力」を磨く
良い質問が出来る人は、良い情報を引き出せるだけではなくその場の状況をコントロールできます。会計上の見積りに対処するためにもこの力が非常に重要です。

例えば、「この債権の回収可能性は甘過ぎるじゃないか!」と断定的に指摘したとしても、先に書いた監査法人への対応と同様、専門的で一見合理性のある説明がなされたら、それを覆すだけの反証を用意することは素人にとって簡単ではありません。

これに対して、「この債務者の財務状況はどうやって調べましたか」「担保価値はどのように評価しましたか」「返済に回せるキャッシュフローはどうやって計算しましたか」「その確実性はどうですか」など、回収可能性を検討するに至った過程やその判断根拠について質問し、質問それぞれや他の状況との矛盾を探る方法は、相手に問題を自らさらけ出させる方法として有効です。

また、これらの質問と回答を正しく記録しておけば、万が一会計不正が発生した場合、自らが善管注意義務を果たしたことを立証できる証拠となり得ます(逃げを打つようですが、取締役や監査役等となる場合非常に大事な姿勢です)。

このような質問は会計的な知識がいると思われがちですが、一般的な経営者としての常識、リスク認識があれば十分に可能です。また、監査法人や会計の知見ある他の監査役等にアドバイスを受けても良いでしょう。

c)気兼ねしない
ここが一番大事な所です。
法律や会計の知見ある監査役等がそれぞれ法律、会計に関する質問、指摘をする場合はともかく、専門外の方が会計上の見積りに関係する質問をした場合、経営者や担当者から往々にしてあるのが下記のような反応です。

  • 「この業界は普通こうですよ」
  • 「○○と比較しても妥当だと思います」
  • 「専門外なんだから黙ってろ」

専門外で分からないことも多い場合には、こういう切り返しをされるとそれ以上の突込みを躊躇してしまいがちですが、そこで引いてしまってはいけません。

上記のような対応があること、それ自体が問題の所在を認識していることの表れとなっている可能性もあるのです。

もし問題がないのならば、専門外の監査役等にもわかる客観的・合理的な説明を行うべきですし、それをせず押し通そうとする場合には、妥協せずにわかりやすい説明を求めるべきです。

d)監査法人との連携
会計監査を担当する監査法人は会計のエキスパート中のエキスパートですが、上記の通り経営者から「ある程度幅を持った」合理性を説明されたら、それを完全に否定する反証を出すことは困難です。

このような点を補完し、監査上のリスクを減殺できるのが監査役等の存在であるとも言えます。

通常、監査役等の監査は原則として「相当性」監査(会計監査人の監査結果を相当と認める)ではありますが、それ以前に不正発生リスクを見出し、あらかじめ減殺しておく機能は監査役等にしか期待できないのです。

5.終わりに
会計監査人の監査も監査等委員の監査も同じなのですが、監査の本質的目的は「監査意見を出すこと」ではありませんし、「不適正、不適法意見」といったダメ出しをすることでもありません。

監査を進めていく上で、その監査の目的に応じて適切な経営、情報開示を行っていく体制が整備されていくようリードしていくことが一番の目的なのです。その結果として出されるものが監査報告であると私は考えています。

このために、監査役等は普段からアンテナを十分に張って適切な質問力により情報収集し、目立たず静かに平時のガバナンスを支える役割を果たすべきであると思います。

会計上の見積りが急激にそのリスクを増すのは、会社が業績落ち込みの階段を一段でも降りはじめた時、経営者がそれと気づかずに追い込まれ始めた時です。

如何に初動で止めるか、平時にその芽を摘み取っておくかが非常に重要です。

偉そうなことを書いてしまいましたが、このコラムが「ガバナンス強化」の時代を生きる監査役等の皆さんの参考になれば幸いです。

 

コロナ禍が「路線価」に影響

相続税を計算する際には、全ての財産の時価を計算する必要があります。
土地についての時価を計算するのに必要なのが「路線価」です。
上場株式なら株式市場でいつでも売り買いできる時価が公表されていますが、土地の場合はそうはいきません。税金の計算のように「公平性」が重要な場合、一般の取引価格をそのまま指標として使うことは無理があります。
そこで国は、全国的な調査を定期的に行って、地域ごとに1㎡当たりの時価を路線価として公表しています。
(この路線価について、詳しくはブログ記事「令和2年度の路線価とコロナの影響について」 をご参照ください)

IMG_4771
心斎橋大丸前

さて、令和3年1月26日、国税庁はこの年度の相続税計算に使われる路線価について、大阪市内の繁華街3地点を対象に減額補正(下方修正)すると発表しました。
減額補正は昭和30年に制度が開始以来、大規模災害時を除き初めて行われるものです。
コロナ禍の影響で廃業などが相次ぎ、地価が大幅に(20%超)下落したため路線価を著しく下回る状況が発生し、修正が必要と判断されたものです。また今後も大阪市と名古屋市の一部地点で減額補正を追加する可能性があるとのことです。

大阪市で対象となっているのは、心斎橋筋2丁目、宗右衛門町、道頓堀1丁目と、いずれもコロナ禍前にインバウンド需要が極めて高くなっていた地域で、2割を大きく超える地価下落が発生しています。
これらの地域については、今回4%の減額補正が行われるとのことです。

心斎橋
減額補正対象地域

まずは今年7月以降の相続についてこの減額補正が適用されることとなりました。
下落に比較して少ないような気もしますが、極めて異例の対応、関係する方は注意して適用しましょう。

令和3年税制改正の大綱~所得拡大促進税制見直し

続いて「令和3年税制改正の大綱」についてご説明します。
今回は「所得拡大促進税制」の見直しについてです。
コロナ禍の前、第二次安倍政権の時代から、中小企業を中心に「雇用者数の増加や給与増加」を実現した事業主や法人に対して、法人税や所得税)の税額控除の適用が受けられる制度を広げてきました。年度によって変遷はありますが、この制度を総称して「雇用促進税制」や「所得拡大促進税制」と呼びます。
また、大企業についても同様に「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合の税額控除制度」と呼ばれる、設備投資拡大をセットとした制度が設けられていました。
令和3年の税制改正大綱においては、この所得拡大促進税制について、対象の拡大など緩和が行われます。

所得拡大

1.中小企業における所得拡大促進税制の見直し
中小企業(法人・個人事業主)における所得拡大促進税制について、次の見直しを行った上、その適用期限を2年延長されます。また地方税についても同様の改正が行われます。

①適用要件

継続雇用者給与等支給額(前年度から継続して雇用している者への支給額)の増加割合」要件が、雇用者給与等支給額の比較雇用者給与等支給額に対する増加割合に見直されます(計算が煩雑な継続雇用者の要件が無くなります)。

②税額控除率要件(法人税や所得税の一定割合を控除限度とする計算)
継続雇用者給与等支給額の増加割合要件が、雇用者給与等支給額の比較雇用者給与等支給額に対する増加割合に見直されます。

2.給与等の支給額から控除する項目見直し
元々、「所得拡大促進税制」や「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合の税額控除制度」の金額を計算する際には、給与等の金額から「給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額」を差し引くこととされていました。計算上給与等の額が多い方が有利ですから、助成金など「給与等の為にもらった金額」は差し引かないと不合理、という考え方でした。

しかし現在のコロナ禍で「雇用調整助成金」の対象や助成割合が拡大され、利用が増加したこと、またこの利用で一定の雇用維持効果が出ていることから、要件を判定する場合には、雇用調整助成金及びこれに類するものの額を控除しないこととされました(税額控除率計算に関しては引き続き控除した金額を上限とします)。

令和3年税制改正の大綱~手続きの電子化関係

今回も「令和3年税制改正の大綱」についてご説明します。
コロナ禍において最も問題となったのが、テレワークや時差出勤など「人との接触を避ける」ことが必要となった際に「紙の書類をどうするか」でした。
残念ながら、現在の日本の税務に関する仕組みは、十分に電子化がなされていると言えず、逆に押印を不必要に要求するなど電子化の足を引っ張る状況になっています。
この状況を打開するため、様々な取り組みがなされることとなりました。

さて今回の税制改正の大綱においては、下記のような項目が挙げられています。
以下、一つずつ説明します。

======================================
1.税務関係書類における押印義務の見直し
2.電子帳簿等保存制度の見直し等
3.地方税共通納税システムの対象税目の拡大
4.個人住民税の特別徴収税額通知の電子化
======================================

eLTax

1.税務関係書類における押印義務の見直し(国税、地方税)
提出者等の押印が必要とされている税務関係書類について、実印を要するものなど一部を除き押印を不要とします(次に掲げる税務関係書類を除く)。令和3年4月1日以後に提出する税務関係書類について適用され、また施行日前においても、運用上、押印がなくとも改めて求めないこととされます。

2.電子帳簿等保存制度の見直し
これらの改正は令和4年1月1日から施行されます。

①電子計算機を使用して作成する帳簿書類
・現在必要となっている承認制度が廃止され、以下の要件を満たせば使用ができます
・国税関係帳簿書類(元帳や決算書、請求書などの帳簿書類)について、システムの概要書、操作説明書等の備付けがあり、画面等への速やかで明瞭な出力が可能、また調査の際その国税関係帳簿書類に係る電磁的記録のダウンロードに対応する

②スキャナ保存制度
・承認税度の廃止
・タイムスタンプ(「入力日の特定」や「改ざんの検知」を担う機能)の要件について、付与期間を3日以内から最長2月(入力期間と同じ)とする
・受領者等がスキャナで読み取る際に行う国税関係書類への自署を不要とする
・電磁的記録について訂正又は削除を行った事実及び内容を確認することができるシステムで記録の保存を行うことができれば、タイプスタンプは不要

③電子取引制度
・タイムスタンプ要件を②と同じく緩和
・検索要件を一部不要にするなど緩和

④地方税
・地方のたばこ税、軽油取引税について、国税の取り扱いに準じて同様電磁的帳簿記録や書類のスキャナ保存、電磁的記録の提出を可能とします

3.地方税共通納税システムの対象税目の拡大
地方公共団体の収納事務を行う「地方税共同機構」が電子的に処理する特定徴収金(法人の事業税その他の政令で定める地方税に係る地方団体の徴収金のうち、納税義務者又は特別徴収義務者が総務省令で定める方法により納付し、又は納入するもの)の対象税目に固定資産税、都市計画税、自動車税種別割及び軽自動車税種別割を追加し、eLTAX(地方税のオンライン手続のためのシステム)を通じて電子的に納付を行うことができるよう、所要の措置を講ずる(令和5年度以後の課税分について適用)。

4.個人住民税の特別徴収税額通知の電子化(住民税)
個人住民税の特別徴収税額通知について、次の見直しが行われます(令和6年度分以後の個人住民税について適用)。
①給与所得に係る特別徴収税額通知(特別徴収義務者=会社など用)
eLTAXを経由して給与支払報告書を提出する特別徴収義務者が申出をしたときは、市町村は、当該通知の内容をeLTAXを経由し、当該特別徴収義務者に提供しなければならないこととする。
(注)現在、選択的サービスとして行われている、書面による特別徴収税額通知(特別徴収義務者用)の送付の際の電子データの副本送付は終了する

②給与所得に係る特別徴収税額通知(納税義務者=給与を受ける者用)
eLTAXを経由して給与支払報告書を提出する特別徴収義務者であって、個々の納税義務者に当該通知の内容を電磁的方法により提供することができる体制を有する者が申出をしたときは、市町村は、当該通知の内容をeLTAXを経由して当該特別徴収義務者に提供し、当該特別徴収義務者を経由して納税義務者に提供しなければならないこととする。この場合において、当該特別徴収義務者は、当該通知の内容を電磁的方法により納税義務者に提供するものとする。

令和元年事務年度 相続税調査概要(国税庁)

国税庁は、昨年12月18日、令和元年事務年度(令和元年7月1日~令和2年6月30日)における相続税の調査等の状況を公表しました。
コロナ禍の影響で調査件数は大きく減っているものの(年配の方も多く訪問などがなかなかできなかったそうです:調査官談)、後述の通り1件当たりの申告漏れや追徴額は増加しています。
「コロナだから調査も減る」などと軽く考えない方がよさそうです。

1.相続税の実地調査、簡易な接触状況
資料情報等から申告額が過少であると想定される事案や、申告義務があるにもかかわらず無申告であると想定される事案など、大口事案や悪質な不正が見込まれる事案に集中して実地調査が行われています。
また、平成27年の改正で小規模な相続税案件が増えたことから、⽂書、電話による連絡⼜は来署依頼による面接による是正など(簡易な接触)も多く行われています。
これらの結果、実地調査、簡易な接触ともに件数は昨年より大きく減少したものの、1件当たりの申告漏れ額や追徴税額は増加しました。

申告漏れ相続財産の財産別推移は下記のようになっています。

申告漏れ金額推移
グラフ 申告漏れ相続財産の金額の推移

2.無申告事案に対する調査状況
無申告事案は、申告納税制度の下で⾃発的に適正な申告・納税を⾏っている納税者の税に対する公平感を著しく損なうものとされているので、資料情報の収集・活⽤など無申告事案の把握のための取組を積極的に⾏い、実地調査や簡易な接触を活⽤してできるだけ発見する努力がなされています。とはいうものの、通常の調査と同様にコロナ禍の影響で件数については昨年より8割以上減少しています。
しかし、無申告事案に対する1件当たりの申告漏れ、追徴税額は大きく増加しています。

無申告事案
グラフ 無申告事案に係る調査事績の推移

3.海外資産関連事案に対する調査状況
※海外資産関連事案とは、①海外資産が含まれる、②相続人や被相続人等が国外居住者である、③海外資産等に関する資料情報あり、④外資系の⾦融機関との取引あり の事案を言います

納税者の資産運⽤の国際化に対応し、相続税の適正な課税を実現するため、租税条約等に基づく情報交換制度のほか、CRS情報(共通報告基準に基づく⾮居住者⾦融口座情報)などを効果的に活⽤し、海外取引や海外資産の保有状況の把握に努めています。
令和元事務年度においては、海外資産に係る申告漏れ等の非違件数(149 件)は過去最高となりました。
さらに、1件当たりの申告漏れ課税価格(5,193 万円)も対前事務年度比 127.8%と増加しました。

4.贈与税に対する調査状況
相続税の補完税である贈与税についても、積極的に資料情報を収集するとともに、あらゆる機会を通じて財産移転の把握に努め、無申告事案を中心に贈与税の調査を的確に実施しています。
令和元事務年度においては、実地調査1件当たりの追徴税額(231 万円)が対前事務年度比 128.2%と増加しました。

令和3年税制改正の大綱~産業競争力強化に係る措置

今回から、令和3年税制改正の大綱に記載された改正項目をご紹介していきます。
なお、ご紹介はこちらのブログと、耕夢グループ しのだ会計事務所のブログ にて分担して執筆します。

1.産業競争力強化に係る措置(全体像)
ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現を図るため、企業のDX(デジタル技術を背景にした企業経営やビジネスの変革。デジタルトランスフォーメーション)及びカーボンニュートラル(温室効果ガスの吸収・排出バランスを目指す)に向けた投資を促進する措置を創設するとともに、こうした投資等を行う企業に対する繰越欠損金の控除上限の特例を設けることとされました。
これらの税制は「産業競争力強化法」(日本経済の再興のための産業競争力の強化を目的として、平成26年1月20日に施行された法律)の改正を前提としており(施行予定は2021年6~7月頃)、適用には同法の計画認定が必要となる予定です。

2.DX投資促進税制の創設
「つながる」デジタル環境の構築(クラウド化等)による事業変革を行う場合に、税額控除(5%又は3%)又は特別償却(30%)ができる措置を創設されます。
この制度は、従来型のソフトウェア(無形固定資産)だけではなく、クラウドシステムへの移行に係る初期費用(繰延資産)も対象となります。
DX投資促進税制の適用については、事業適応計画の認定要件を満たした上で、デジタル(D)要件と企業変革(X)要件について主務大臣から確認を受ける必要があります。
税額控除については、原則取得価額の3%、親子会社(会社法に基づくもの)間グループ「外」の事業者とデータ連携する場合は5%となります。
また、3.カーボンニュートラル投資促進税制の税額控除額と合わせ法人税額の20%が限度となります。

3.カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設
カーボンニュートラルに向け、生産プロセスの脱炭素化に寄与する設備、又は脱炭素化を加速する製品を早期に市場投入することでわが国事業者による新たな需要の開拓に寄与することが見込まれる製品を生産する設備に対する投資について、税額控除(10%・5%)又は特別償却(50%)ができる措置た創設されます。
税額控除については、原則取得価額の5%、温室効果ガスの削減に著しく資するものは10%となります。また、2.DX投資促進税制の税額控除額と合わせ法人税額の20%が限度となります。

カーボンニュートラル

4.活発な研究開発を維持するための研究開発税制の見直し
売上高が減少するなど厳しい経営環境にあっても研究開発投資を増加させる企業について、従来からある税額控除の上限を引き上げます(現行:25%→30%)
同時に、インセンティブを高めるための控除率カーブの見直し(適用される計算式が変更されます)及び控除率の下限の引下げ(現行:6%→2%)を行います。

5.コロナ禍を踏まえた賃上げ及び投資の促進に係る税制の見直し
雇用環境の悪化に対応するため、新規雇用拡大に着目した形に見直しが行われます。
具体的には、従来の「継続雇用者への賃上げ」を前提とした計算方式から、「新規雇用者」を対象とする方式に変更されます。
この結果、この税制の適用を受けるためには、既に雇用している従業員の給与等を増加させるだけではなく、新たに雇用する従業員の給与等を増加させることが必要となります。
この「給与等」の計算については、元々「雇用調整助成金等」は控除することとされていましたが、今回の改正で「控除しない(対象額が増える)」ことが明らかとされました。

6.繰越欠損金の控除上限の特例
コロナ禍の厳しい経営環境の中、赤字であっても果敢に前向きな投資(カーボンニュートラル、DX、事業再構築・再編等に関するもの)を行う企業に対し、その投資額の範囲内で、最大5年間、繰越欠損金の控除限度額を最大 100%(現行:所得の金額の 50%)とする特例が創設されます。

 

令和3年税制改正の大綱について(概要)

1.税制改正の大綱とは
令和2年12月21日、「令和3年度税制改正の大綱」が閣議決定されました。この税制改正の大綱は、政府が今後の税制改正のあり方について明確に方針を示すもので、毎年12月に公表されます。今回から数回にわたり、この税制改正の大綱について簡単に説明します。

税制改正の大綱は、政府が税制のあり方についての方針を示すもので、その後の税制改正はこの大綱に基づいて行われることとなります。

これに対し、与党自民党と公明党が発表する「税制改正大綱」と呼ばれるものも、政府の「税制改正の大綱」の直前に発表されます。これらはほぼ同じものなのですが、前者が「与党の方針を示すもの」であり、後者が「政府の方針を示すもの」であることから、場合によっては異なる場合もあり得ます。ただ現在のように政権与党がある程度安定している場合には「ほぼ同じ」と思っておいて良いようです。

税制改正大綱R3

2.税制改正の大綱の概要
今回発表された税制改正の大綱の概要は、以下の通りです。
これらのうち、私たちのお客様に大きく関係する項目については、これから数回にわたってメルマガ等で順次細かく解説いたします。

<個人所得課税>

  • 住宅ローン控除の特例の延長等(適用期限延長、面積要件緩和)
  • セルフメディケーション税制の見直し(範囲の重点化と手続簡素化、延長)
  • 国や地方自治体の実施する子育てに係る助成等の非課税措置(国や自治体からの子育て助成を非課税に)
  • 退職所得課税の適正化(年数が短い法人役員の退職金課税を強化)​

<資産課税>

  • 住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置の拡充(非課税枠を据え置き、面積要件緩和)
  • 教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の見直し(節税的利用防止、延長)
  • 土地に係る固定資産税等の負担調整措置(コロナ対策で負担調整据え置き)
  • 国際金融都市に向けた税制上の措置(外国人家族が相続する国外財産の課税対象外)

<法人課税>

  • 産業競争力強化に係る措置(DX促進、カーボンニュートラル、研究開発、コロナ禍対応賃上・投資促進、繰越欠損金控除上限引き上げ)
  • 中小企業支援(投資促進税制延長、所得拡大促進税制見直し、中小企業の経営資源の集約化)
  • 株式対価M&Aを促進するための措置の創設(M&A対象会社株主の譲渡損益課税を繰り延べ)
  • 国際金融都市に向けた税制上の措置(投資運用業役の員業績連動給与を損金算入可)

<消費課税>

  • 車体課税(エコカー減税及び自動車税・軽自動車税の環境性能割見直し等)
  • 金密輸に対応するための消費税の仕入税額控除制度の見直し

<納税環境整備>

  • 税務関係書類における押印義務の見直し(地方税関係書類についても同様)
  • 電子帳簿等保存制度の見直し等
  • 地方税共通納税システムの対象税目の拡大
  • 個人住民税の特別徴収税額通知の電子化
  • 国際的徴収回避行為への対応

<関税>

  • 暫定税率等の適用期限の延長等
  • 個別品目の関税率の見直し(ポリ塩化ビニル製使い捨て手袋の暫定税率無税)

個人事業主の年間「税金スケジュール」

インターネットの普及はユーチューバーや転売ヤーなど、新しい個人ビジネスを生みました。
また、クラウドワークスに代表される、フリーランスに対して仕事をマッチングするサービスも盛んであり、個人事業主として活躍する方が増えているようです。

そこで今回は個人事業主の一年間の税金に関するスケジュールを簡単に説明したいと思います。

個人事業主が納める主な税金は、所得税・消費税・住民税・個人事業税の4つです。これらは同時に納付するのではなく、税金によって納付する時期が異なります。

1.所得税の確定申告
まず、個人事業主の方が納める所得税は、いわゆる暦年課税とされ、事業年度が暦年、つまり1月1日から12月31日と決められています(納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定 国税通則法15条2項1号)。この期間にかかわる所得を計算し、報告する手続が確定申告です。この手続は、事業年度の次の年の2月16日~3月15日に行うこととされています。この確定申告期限日までに申告とともに所得税を納税しなければなりません。

zei_kakuteishinkoku[1]

2.消費税の確定申告
消費税も所得税と同様に、個人事業主の課税期間は1月1日から12月31日とされ、この期間にかかわる確定申告書を提出し、税金を納付します。ただ所得税と異なり、確定申告と納税の期限は、3月31日です。

3.住民税
確定申告した所得税の内容は、国税局から各地方自治体に伝達され、住民税が計算されます。
これに基づいて税額の計算がおこなわれ、住民税の通知書が6月ごろに地方自治体から届きます。住民税は4回(6月、8月、10月、翌年1月の各末日)に分けて納付する分割納付か一括納付かを選択することができます。

次に8月ごろに、都道府県税事務所から個人事業税の通知書がきます。8月、11月の末日が納付日ですが、一括納付に変更も可能です。

4.予定納税・中間納付
前年の所得税や消費税の納税額が一定金額を超える方は、当年度の税金を先に納税する、つまり前払いする義務が生じます。

所得税は予定納税と言われ、前年分の所得金額や税額などを基に計算した金額(予定納税基準額)が15万円以上である場合、予定納税基準額の3分の1の金額を、第1期分として7月1日から7月31日までに、第2期分として11月1日から11月30日までに納めることになっています。

消費税は中間納付と言われ、前年度の確定消費税額(地方消費税額は含みません)が48万円を超える方が対象となります。納税額は前年度の納税額を基準として算定され、中間納付税額によって、支払回数が異なります。1回、3回、11回の3パターンあり、一回当たりの負担を軽減するために、納税額が大きいほど回数が多くなり、分割して支払う仕組みとなっています。前年度の確定消費税額が48万円を超え、400万円以下の場合で、年1回とされ、前年度の納税額の2分の1を8月31日までに支払います。

5.源泉所得税
源泉徴収義務者(従業員を雇っている方など)で、納期の特例の承認を受けている方は、1月から6月までの分を7月10日までに、また7月から12月までの分を1月20日までに納付しなければいけません。この源泉所得税は事業主自らが金額を集計して納税する必要がありますので、忘れないように気を付けたいところです。

まとめると以下のようになります。期限を超えるとペナルティが生じることもありますので、期限には注意してください。

1月 ・1/20 源泉所得税納付期限(納期限特例の場合、7~12月分)
3月 ・3/15  所得税確定申告及び納付期限
・3/31 消費税確定申告及び納付期限
6月 ・6/30 住民税第1期
7月 ・7/10 源泉所得税納付期限(納期限特例の場合、1~6月分)
・7/31 所得税予定納付(第1期)
8月 ・8/31 消費税中間納付(年1回の場合)
・8/31 住民税第2期
・8/31 事業税第1期
10月 ・10/31 住民税第3期
11月 ・11/30 所得税予定納付(第2期)
・11/30 事業税第2期

 

「個人クリニックの親子承継」(個人版事業承継税制について補足追加)

医療法人ではない「個人事業」としての開業医の場合、避けて通れないのが「医業承継」です。今回は、この「医業承継」のうち、後継ぎとなる子がある場合の「親子承継」について取り上げます。
医業承継は一般の事業承継とは異なる手続や注意点も多く、慎重に行う必要がありますので、院長先生や後継予定の若先生、ご家族またそのような方々を外から支える事業者、コンサルタントの皆様は是非ご一読下さい。

なお、平成31年の税制改正で導入が決まった「個人版事業承継税制」についての記述を追加しています。
弊所も現在、該当するお客様について適用を準備しています。

1.はじめに

医業承継とは
厚生労働省の調査によると、「病院開設者又は法人の代表者」や「診療所開設者又は法人の代表者」の平均年齢は年々増加しています。

ishitoukei

(図 厚生労働省統計資料より)

これは診療所において60歳以上の割合が大きく増加し、それ以下の年代が減少していることが原因です。このように医療機関においても高齢化が進んでいますが、特に私たちに最も身近な診療所の事業承継が円滑に行われることが、地域医療の安定的供給の観点からも重要です。

さて医業承継とは、文字通り「事業承継の医療版」です。
事業承継ですから、一般的な事業と同じく、「誰に引き継ぐか」や、税金の届出、顧客(患者さん)や従業員(スタッフ)の引継ぎ、金融機関との付き合いなど、多くの論点に注意しなければなりません。
しかし、医療については通常の事業会社と違って特別な法令、規制、ルールが多くあり、一般的な事業を引き継ぐ場合より多くの注意点があるのです。
以下、これらについて順にご説明します。

親子承継について
事業承継は大きく分けて①親族への承継と、②親族外への承継に区分できます。この点は医業でもその他の事業でも全く同じです。但し、個人事業である医業の場合は「医師免許」を持った後継者かどうか、という点について大きな制約があります。
親族への承継の場合、第三者への承継に比べて信頼性や自由度、患者さん方への受けなどの点でメリットがありますが、税務上は「自由がきく」点が「恣意的に税金を減らせる」ことにつながるものとして、様々な制限を置いています。
特に子への承継は後に「相続」が関係する点で重要ですし、後述する建物や医療機器など資産の譲渡や貸付する場合の「値決め」にも注意が必要です。

2.医療関係手続の注意点
開業と廃業
個人クリニックの場合は、親子間の承継であっても、開設者や管理者が代わるので、現院長の「廃業」と新院長の「開業」の手続きが必要です。
具体的には、保健所や年金事務所(社会保険事務所)、公共職業安定所、労働基準監督署、税務署、都道府県、市町村などに所定の届出をしなければなりません。特に社会保険事務局に提出する「保険医療機関指定申請書」は、保健所に提出する「開設届」とともに、提出タイミングに注意しましょう。開業して最初の1か月の保険診療が請求できない、すなわち入金が遅れてしまうケースもあり得ます。

施設認定の届出に注意
このような届出のうち、「施設認定」(特定の治療行為が可能な施設であることを認めるもの)についてはさらに注意が必要です。過去は基準を満たしていても、それがイレギュラーな判断を伴った認定であったり、途中で制度や取り扱いの改正があったりして現在の基準に照らすと認められないケースも偶にあります。そうなると、重要な保険請求が出来なくなってしまう恐れもあります。診療所施設の改修や新たな設備の導入が必要となる場合もありますので、保健所や地区医師会事務局などと事前に検討して対処を決めておきましょう。

3.税金関係の注意点
届出
税金関係の書類についても、廃業と開業の両方について、下記のような届出が必要です。期限を経過すると税制上の特典が受けられない場合もありますので、忘れないようにしましょう。

  • 親:廃業届/子:開業届
  • 青色申告の承認申請書…青色申告の特典を得るために必須です。原則として開業から2か月以内が期限
  • 青色専従者の届出書…配偶者など、親族に給与を払うためには必須。
  • 給与支払事業所等の開設届出書
  • 源泉所得税の納期特例届出書
  • 棚卸資産の評価方法の届出書
  • 減価償却資産の償却方法の届出書

この他、自費診療が多い場合には、消費税の届出が必要な場合もあります。

措置法の活用
医業の世界で「措置法」と俗に呼ばれる制度をご存知でしょうか?
正式には「租税特別措置法」の第26条のことを言います。
社会保険診療報酬(健康保険の対象となる診療)が年間5000万円以下(かつ全体の収入が7000万円以下)の場合は、社会保険診療報酬に関する経費については、実際の金額ではなく、「概算経費率(収入に対して一定率を掛けたものを経費にする)」を使えるものとした制度です。
この制度、一般的には実際にかかった経費を上回る概算経費となることが多く、小規模な医療機関にとっては非常に有利な制度となっています。
ところが、この制度はあくまで「年間」で計算しますので、年間の収入が上の制限を超過している場合でも、承継前(親)と承継後(子)の収入がそれぞれ制限を超過していなければ、それぞれこの制度を活用できるのです。例えば、年間の社会保険診療報酬が7000万円の診療所の場合、承継前の親先生の収入が3000万円、承継後の子先生の収入が4000万円であれば、それぞれ概算経費率が使えることになります。

税理士の対応
親子承継に限りませんが、医療機関における事業承継手続を行う場合には、税務、会計、法律だけではなく、医療制度特有の考え方も大変重要になってきます。
当事者たる医師親子がこのような知識を持っておくことはもちろん必要ですが、これらの手続を担当する税理士も十分にこれらを理解しておく必要があります。
また、様々な手続、届出を行う際には、それぞれの役所などの窓口担当者と事前に綿密な打ち合わせを行っておく必要がありますが、その際には医業経営に関する十分な知識と経験が必須です。
そんな訳で、少なくとも親子承継や医療法人設立など、医業特有の手続に関しては医業を良く知る税理士(「認定登録医業経営コンサルタント」などの有資格者)に担当してもらうことが安全です。

個人版事業承継税制
平成31年の税制改正で、「個人版事業承継税制」が導入されることとなりました。
この制度、後継者(※)が先代より事業用資産(土地建物や機械器具、車両、特許などの無形固定資産)を相続や贈与により移転を受けた場合、発生する相続税や贈与税の納税が次の事業承継まで100%猶予されるという制度です。
この制度は、2019年1月1日~2028年12月31日までの間に行われる事業承継相続、贈与が対象となります。
さて小規模なクリニックであっても、事業承継の容易さや税制上のメリットを考えて「医療法人」化することが非常に多いです。
しかしまだまだ多数を占める平成19年4月1日以前の「持分あり」医療法人はその持分が相続税の課税対象になるにもかかわらず、法人版の事業承継税制(贈与税、相続税の納税猶予)の適用対象外となっていました。
他方、平成19年4月1日以降に法人化すると、元々のオーナー医師の所有権は事実上なくなってしまいます(持分がないため)
このような問題を一挙解決する手法として、この個人版事業承継税制はクリニックの中長期経営方針に大きな影響を与えると考えております。

※経営承継円滑化法に基づく認定(申請は2019年4月1日から5年以内に申請)を受けていることが必要

4.スタッフ
医業や親子承継に限りませんが、事業を引き継ぐ場合にはスタッフの引き継ぎが大きな課題となります。
経験豊かな既存スタッフは、現場における業務をスムーズに継続する上で不可欠ですが、反面新院長のスタンスと合わない場合、反発があったり、極端な場合には経営に混乱を生じたりする可能性も否定できません。
このような既存スタッフを継続雇用する場合には、お互い十分なコミュニケーションを取り、新たな経営方針を十分に説明して理解させることが重要です。
もし既存のスタッフに退職してもらう場合には、退職金をどうするかは非常に重要な問題となります。また継続してもらう場合でも、あくまで親の廃業、子の開業ですから、既存のスタッフにはいったん退職金を支払うか、支払義務を子が引き継ぐかのどちらかを決めなければいけません。
退職金の計算方法や親子承継の場合の退職金引継ぎなどは、法令にも注意しながら決定する必要があります。

5.患者さん
一般的には「大先生の子供さん」が引き継がれたということで、現在の患者さんが引き続き通われる場合が多いようです。しかし、性格の違いや診療・治療スタンスの違いから、ある程度の割合で患者さんが離れていくこともあり得ます。
このため、一般的には子供の診療を主としつつ、一週間に短い時間だけ親先生が診療し、スムーズなつなぎを目指すことが多いようです。

6.その他の注意点
診療所などの不動産
ビルの一室など、診療所を他のオーナーから賃貸している場合には、親子間で賃貸借契約を引き継ぐ必要があります。一般的に診療所の契約の場合、親子間の契約であれば特段の抵抗なく引き継がれる場合が多いようですが、古い条項の見直しなど、念の為契約内容はきちんと確認しておきましょう。
不動産が親先生の自己所有となっている場合は、子供が引き継ぐ場合その場所を使わせてもらわなければなりません。このため、親子間であっても「賃貸借契約」が必要となります。
診療所と住居が一体となっている場合は、診療所部分と住居部分を区分し、診療所部分に関して契約書を作ることになります。
子供が親に支払う賃借料は医業における必要経費となり、親が受け取るものは不動産所得の収入となります。

医療機器などの器具備品
医療機器は、一般的に自己資金(借入を含む)での購入とリースによる使用があります。
前者の場合には、親から子へ「売却」や「贈与」するなどして移転するか、不動産のように「賃貸」して使わせる必要があります。またリースの場合は、必要に応じてリース会社とリース契約の引継ぎについて交渉する必要があります。

金融機関
親先生に銀行などの借入金がある場合、それが診療所に関するものであれば、子に引き継がせることが理想的です。しかし、個人間での借入金の引き継ぎは非常に難しく、条件や担保、保証人の変更で不利になる場合もあり得ます。このような場合、例えば借入金は親に残し、子は診療所資産(不動産や機器など)、診療報酬未収入金などを引き継ぐ対価として親に対して支払い義務(債務)を負い、その支払をそのまま親の借入金支払いにスライドさせるといった手法を採用することもあり得ます。

マーケティング・患者満足
親先生の世代のマーケティングは、電話帳広告や駅、近隣への看板など、旧来のメディアが主流でした。しかし最近はインターネットホームページやブログ、メールマガジン、ソーシャルネットワークなど新しいメディアを利用したマーケティングが主流となりつつあります。
また、クラウドを利用した予約システムなど、患者満足度と効率性を上げるツールも多く利用されています。
親子承継をきっかけとして、このようなツールの利用を検討されては如何でしょうか。
なお、医療機関には広告などに関する規制(ガイドライン、下記)がありますので注意が必要です。

医療広告ガイドラインに関するQ&A  同 事例集