投稿者「admin」のアーカイブ

令和3年税制改正の大綱~手続きの電子化関係

今回も「令和3年税制改正の大綱」についてご説明します。
コロナ禍において最も問題となったのが、テレワークや時差出勤など「人との接触を避ける」ことが必要となった際に「紙の書類をどうするか」でした。
残念ながら、現在の日本の税務に関する仕組みは、十分に電子化がなされていると言えず、逆に押印を不必要に要求するなど電子化の足を引っ張る状況になっています。
この状況を打開するため、様々な取り組みがなされることとなりました。

さて今回の税制改正の大綱においては、下記のような項目が挙げられています。
以下、一つずつ説明します。

======================================
1.税務関係書類における押印義務の見直し
2.電子帳簿等保存制度の見直し等
3.地方税共通納税システムの対象税目の拡大
4.個人住民税の特別徴収税額通知の電子化
======================================

eLTax

1.税務関係書類における押印義務の見直し(国税、地方税)
提出者等の押印が必要とされている税務関係書類について、実印を要するものなど一部を除き押印を不要とします(次に掲げる税務関係書類を除く)。令和3年4月1日以後に提出する税務関係書類について適用され、また施行日前においても、運用上、押印がなくとも改めて求めないこととされます。

2.電子帳簿等保存制度の見直し
これらの改正は令和4年1月1日から施行されます。

①電子計算機を使用して作成する帳簿書類
・現在必要となっている承認制度が廃止され、以下の要件を満たせば使用ができます
・国税関係帳簿書類(元帳や決算書、請求書などの帳簿書類)について、システムの概要書、操作説明書等の備付けがあり、画面等への速やかで明瞭な出力が可能、また調査の際その国税関係帳簿書類に係る電磁的記録のダウンロードに対応する

②スキャナ保存制度
・承認税度の廃止
・タイムスタンプ(「入力日の特定」や「改ざんの検知」を担う機能)の要件について、付与期間を3日以内から最長2月(入力期間と同じ)とする
・受領者等がスキャナで読み取る際に行う国税関係書類への自署を不要とする
・電磁的記録について訂正又は削除を行った事実及び内容を確認することができるシステムで記録の保存を行うことができれば、タイプスタンプは不要

③電子取引制度
・タイムスタンプ要件を②と同じく緩和
・検索要件を一部不要にするなど緩和

④地方税
・地方のたばこ税、軽油取引税について、国税の取り扱いに準じて同様電磁的帳簿記録や書類のスキャナ保存、電磁的記録の提出を可能とします

3.地方税共通納税システムの対象税目の拡大
地方公共団体の収納事務を行う「地方税共同機構」が電子的に処理する特定徴収金(法人の事業税その他の政令で定める地方税に係る地方団体の徴収金のうち、納税義務者又は特別徴収義務者が総務省令で定める方法により納付し、又は納入するもの)の対象税目に固定資産税、都市計画税、自動車税種別割及び軽自動車税種別割を追加し、eLTAX(地方税のオンライン手続のためのシステム)を通じて電子的に納付を行うことができるよう、所要の措置を講ずる(令和5年度以後の課税分について適用)。

4.個人住民税の特別徴収税額通知の電子化(住民税)
個人住民税の特別徴収税額通知について、次の見直しが行われます(令和6年度分以後の個人住民税について適用)。
①給与所得に係る特別徴収税額通知(特別徴収義務者=会社など用)
eLTAXを経由して給与支払報告書を提出する特別徴収義務者が申出をしたときは、市町村は、当該通知の内容をeLTAXを経由し、当該特別徴収義務者に提供しなければならないこととする。
(注)現在、選択的サービスとして行われている、書面による特別徴収税額通知(特別徴収義務者用)の送付の際の電子データの副本送付は終了する

②給与所得に係る特別徴収税額通知(納税義務者=給与を受ける者用)
eLTAXを経由して給与支払報告書を提出する特別徴収義務者であって、個々の納税義務者に当該通知の内容を電磁的方法により提供することができる体制を有する者が申出をしたときは、市町村は、当該通知の内容をeLTAXを経由して当該特別徴収義務者に提供し、当該特別徴収義務者を経由して納税義務者に提供しなければならないこととする。この場合において、当該特別徴収義務者は、当該通知の内容を電磁的方法により納税義務者に提供するものとする。

令和元年事務年度 相続税調査概要(国税庁)

国税庁は、昨年12月18日、令和元年事務年度(令和元年7月1日~令和2年6月30日)における相続税の調査等の状況を公表しました。
コロナ禍の影響で調査件数は大きく減っているものの(年配の方も多く訪問などがなかなかできなかったそうです:調査官談)、後述の通り1件当たりの申告漏れや追徴額は増加しています。
「コロナだから調査も減る」などと軽く考えない方がよさそうです。

1.相続税の実地調査、簡易な接触状況
資料情報等から申告額が過少であると想定される事案や、申告義務があるにもかかわらず無申告であると想定される事案など、大口事案や悪質な不正が見込まれる事案に集中して実地調査が行われています。
また、平成27年の改正で小規模な相続税案件が増えたことから、⽂書、電話による連絡⼜は来署依頼による面接による是正など(簡易な接触)も多く行われています。
これらの結果、実地調査、簡易な接触ともに件数は昨年より大きく減少したものの、1件当たりの申告漏れ額や追徴税額は増加しました。

申告漏れ相続財産の財産別推移は下記のようになっています。

申告漏れ金額推移
グラフ 申告漏れ相続財産の金額の推移

2.無申告事案に対する調査状況
無申告事案は、申告納税制度の下で⾃発的に適正な申告・納税を⾏っている納税者の税に対する公平感を著しく損なうものとされているので、資料情報の収集・活⽤など無申告事案の把握のための取組を積極的に⾏い、実地調査や簡易な接触を活⽤してできるだけ発見する努力がなされています。とはいうものの、通常の調査と同様にコロナ禍の影響で件数については昨年より8割以上減少しています。
しかし、無申告事案に対する1件当たりの申告漏れ、追徴税額は大きく増加しています。

無申告事案
グラフ 無申告事案に係る調査事績の推移

3.海外資産関連事案に対する調査状況
※海外資産関連事案とは、①海外資産が含まれる、②相続人や被相続人等が国外居住者である、③海外資産等に関する資料情報あり、④外資系の⾦融機関との取引あり の事案を言います

納税者の資産運⽤の国際化に対応し、相続税の適正な課税を実現するため、租税条約等に基づく情報交換制度のほか、CRS情報(共通報告基準に基づく⾮居住者⾦融口座情報)などを効果的に活⽤し、海外取引や海外資産の保有状況の把握に努めています。
令和元事務年度においては、海外資産に係る申告漏れ等の非違件数(149 件)は過去最高となりました。
さらに、1件当たりの申告漏れ課税価格(5,193 万円)も対前事務年度比 127.8%と増加しました。

4.贈与税に対する調査状況
相続税の補完税である贈与税についても、積極的に資料情報を収集するとともに、あらゆる機会を通じて財産移転の把握に努め、無申告事案を中心に贈与税の調査を的確に実施しています。
令和元事務年度においては、実地調査1件当たりの追徴税額(231 万円)が対前事務年度比 128.2%と増加しました。

令和3年税制改正の大綱~産業競争力強化に係る措置

今回から、令和3年税制改正の大綱に記載された改正項目をご紹介していきます。
なお、ご紹介はこちらのブログと、耕夢グループ しのだ会計事務所のブログ にて分担して執筆します。

1.産業競争力強化に係る措置(全体像)
ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現を図るため、企業のDX(デジタル技術を背景にした企業経営やビジネスの変革。デジタルトランスフォーメーション)及びカーボンニュートラル(温室効果ガスの吸収・排出バランスを目指す)に向けた投資を促進する措置を創設するとともに、こうした投資等を行う企業に対する繰越欠損金の控除上限の特例を設けることとされました。
これらの税制は「産業競争力強化法」(日本経済の再興のための産業競争力の強化を目的として、平成26年1月20日に施行された法律)の改正を前提としており(施行予定は2021年6~7月頃)、適用には同法の計画認定が必要となる予定です。

2.DX投資促進税制の創設
「つながる」デジタル環境の構築(クラウド化等)による事業変革を行う場合に、税額控除(5%又は3%)又は特別償却(30%)ができる措置を創設されます。
この制度は、従来型のソフトウェア(無形固定資産)だけではなく、クラウドシステムへの移行に係る初期費用(繰延資産)も対象となります。
DX投資促進税制の適用については、事業適応計画の認定要件を満たした上で、デジタル(D)要件と企業変革(X)要件について主務大臣から確認を受ける必要があります。
税額控除については、原則取得価額の3%、親子会社(会社法に基づくもの)間グループ「外」の事業者とデータ連携する場合は5%となります。
また、3.カーボンニュートラル投資促進税制の税額控除額と合わせ法人税額の20%が限度となります。

3.カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設
カーボンニュートラルに向け、生産プロセスの脱炭素化に寄与する設備、又は脱炭素化を加速する製品を早期に市場投入することでわが国事業者による新たな需要の開拓に寄与することが見込まれる製品を生産する設備に対する投資について、税額控除(10%・5%)又は特別償却(50%)ができる措置た創設されます。
税額控除については、原則取得価額の5%、温室効果ガスの削減に著しく資するものは10%となります。また、2.DX投資促進税制の税額控除額と合わせ法人税額の20%が限度となります。

カーボンニュートラル

4.活発な研究開発を維持するための研究開発税制の見直し
売上高が減少するなど厳しい経営環境にあっても研究開発投資を増加させる企業について、従来からある税額控除の上限を引き上げます(現行:25%→30%)
同時に、インセンティブを高めるための控除率カーブの見直し(適用される計算式が変更されます)及び控除率の下限の引下げ(現行:6%→2%)を行います。

5.コロナ禍を踏まえた賃上げ及び投資の促進に係る税制の見直し
雇用環境の悪化に対応するため、新規雇用拡大に着目した形に見直しが行われます。
具体的には、従来の「継続雇用者への賃上げ」を前提とした計算方式から、「新規雇用者」を対象とする方式に変更されます。
この結果、この税制の適用を受けるためには、既に雇用している従業員の給与等を増加させるだけではなく、新たに雇用する従業員の給与等を増加させることが必要となります。
この「給与等」の計算については、元々「雇用調整助成金等」は控除することとされていましたが、今回の改正で「控除しない(対象額が増える)」ことが明らかとされました。

6.繰越欠損金の控除上限の特例
コロナ禍の厳しい経営環境の中、赤字であっても果敢に前向きな投資(カーボンニュートラル、DX、事業再構築・再編等に関するもの)を行う企業に対し、その投資額の範囲内で、最大5年間、繰越欠損金の控除限度額を最大 100%(現行:所得の金額の 50%)とする特例が創設されます。

 

令和3年税制改正の大綱について(概要)

1.税制改正の大綱とは
令和2年12月21日、「令和3年度税制改正の大綱」が閣議決定されました。この税制改正の大綱は、政府が今後の税制改正のあり方について明確に方針を示すもので、毎年12月に公表されます。今回から数回にわたり、この税制改正の大綱について簡単に説明します。

税制改正の大綱は、政府が税制のあり方についての方針を示すもので、その後の税制改正はこの大綱に基づいて行われることとなります。

これに対し、与党自民党と公明党が発表する「税制改正大綱」と呼ばれるものも、政府の「税制改正の大綱」の直前に発表されます。これらはほぼ同じものなのですが、前者が「与党の方針を示すもの」であり、後者が「政府の方針を示すもの」であることから、場合によっては異なる場合もあり得ます。ただ現在のように政権与党がある程度安定している場合には「ほぼ同じ」と思っておいて良いようです。

税制改正大綱R3

2.税制改正の大綱の概要
今回発表された税制改正の大綱の概要は、以下の通りです。
これらのうち、私たちのお客様に大きく関係する項目については、これから数回にわたってメルマガ等で順次細かく解説いたします。

<個人所得課税>

  • 住宅ローン控除の特例の延長等(適用期限延長、面積要件緩和)
  • セルフメディケーション税制の見直し(範囲の重点化と手続簡素化、延長)
  • 国や地方自治体の実施する子育てに係る助成等の非課税措置(国や自治体からの子育て助成を非課税に)
  • 退職所得課税の適正化(年数が短い法人役員の退職金課税を強化)​

<資産課税>

  • 住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置の拡充(非課税枠を据え置き、面積要件緩和)
  • 教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の見直し(節税的利用防止、延長)
  • 土地に係る固定資産税等の負担調整措置(コロナ対策で負担調整据え置き)
  • 国際金融都市に向けた税制上の措置(外国人家族が相続する国外財産の課税対象外)

<法人課税>

  • 産業競争力強化に係る措置(DX促進、カーボンニュートラル、研究開発、コロナ禍対応賃上・投資促進、繰越欠損金控除上限引き上げ)
  • 中小企業支援(投資促進税制延長、所得拡大促進税制見直し、中小企業の経営資源の集約化)
  • 株式対価M&Aを促進するための措置の創設(M&A対象会社株主の譲渡損益課税を繰り延べ)
  • 国際金融都市に向けた税制上の措置(投資運用業役の員業績連動給与を損金算入可)

<消費課税>

  • 車体課税(エコカー減税及び自動車税・軽自動車税の環境性能割見直し等)
  • 金密輸に対応するための消費税の仕入税額控除制度の見直し

<納税環境整備>

  • 税務関係書類における押印義務の見直し(地方税関係書類についても同様)
  • 電子帳簿等保存制度の見直し等
  • 地方税共通納税システムの対象税目の拡大
  • 個人住民税の特別徴収税額通知の電子化
  • 国際的徴収回避行為への対応

<関税>

  • 暫定税率等の適用期限の延長等
  • 個別品目の関税率の見直し(ポリ塩化ビニル製使い捨て手袋の暫定税率無税)

個人事業主の年間「税金スケジュール」

インターネットの普及はユーチューバーや転売ヤーなど、新しい個人ビジネスを生みました。
また、クラウドワークスに代表される、フリーランスに対して仕事をマッチングするサービスも盛んであり、個人事業主として活躍する方が増えているようです。

そこで今回は個人事業主の一年間の税金に関するスケジュールを簡単に説明したいと思います。

個人事業主が納める主な税金は、所得税・消費税・住民税・個人事業税の4つです。これらは同時に納付するのではなく、税金によって納付する時期が異なります。

1.所得税の確定申告
まず、個人事業主の方が納める所得税は、いわゆる暦年課税とされ、事業年度が暦年、つまり1月1日から12月31日と決められています(納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定 国税通則法15条2項1号)。この期間にかかわる所得を計算し、報告する手続が確定申告です。この手続は、事業年度の次の年の2月16日~3月15日に行うこととされています。この確定申告期限日までに申告とともに所得税を納税しなければなりません。

zei_kakuteishinkoku[1]

2.消費税の確定申告
消費税も所得税と同様に、個人事業主の課税期間は1月1日から12月31日とされ、この期間にかかわる確定申告書を提出し、税金を納付します。ただ所得税と異なり、確定申告と納税の期限は、3月31日です。

3.住民税
確定申告した所得税の内容は、国税局から各地方自治体に伝達され、住民税が計算されます。
これに基づいて税額の計算がおこなわれ、住民税の通知書が6月ごろに地方自治体から届きます。住民税は4回(6月、8月、10月、翌年1月の各末日)に分けて納付する分割納付か一括納付かを選択することができます。

次に8月ごろに、都道府県税事務所から個人事業税の通知書がきます。8月、11月の末日が納付日ですが、一括納付に変更も可能です。

4.予定納税・中間納付
前年の所得税や消費税の納税額が一定金額を超える方は、当年度の税金を先に納税する、つまり前払いする義務が生じます。

所得税は予定納税と言われ、前年分の所得金額や税額などを基に計算した金額(予定納税基準額)が15万円以上である場合、予定納税基準額の3分の1の金額を、第1期分として7月1日から7月31日までに、第2期分として11月1日から11月30日までに納めることになっています。

消費税は中間納付と言われ、前年度の確定消費税額(地方消費税額は含みません)が48万円を超える方が対象となります。納税額は前年度の納税額を基準として算定され、中間納付税額によって、支払回数が異なります。1回、3回、11回の3パターンあり、一回当たりの負担を軽減するために、納税額が大きいほど回数が多くなり、分割して支払う仕組みとなっています。前年度の確定消費税額が48万円を超え、400万円以下の場合で、年1回とされ、前年度の納税額の2分の1を8月31日までに支払います。

5.源泉所得税
源泉徴収義務者(従業員を雇っている方など)で、納期の特例の承認を受けている方は、1月から6月までの分を7月10日までに、また7月から12月までの分を1月20日までに納付しなければいけません。この源泉所得税は事業主自らが金額を集計して納税する必要がありますので、忘れないように気を付けたいところです。

まとめると以下のようになります。期限を超えるとペナルティが生じることもありますので、期限には注意してください。

1月 ・1/20 源泉所得税納付期限(納期限特例の場合、7~12月分)
3月 ・3/15  所得税確定申告及び納付期限
・3/31 消費税確定申告及び納付期限
6月 ・6/30 住民税第1期
7月 ・7/10 源泉所得税納付期限(納期限特例の場合、1~6月分)
・7/31 所得税予定納付(第1期)
8月 ・8/31 消費税中間納付(年1回の場合)
・8/31 住民税第2期
・8/31 事業税第1期
10月 ・10/31 住民税第3期
11月 ・11/30 所得税予定納付(第2期)
・11/30 事業税第2期

 

「個人クリニックの親子承継」(個人版事業承継税制について補足追加)

医療法人ではない「個人事業」としての開業医の場合、避けて通れないのが「医業承継」です。今回は、この「医業承継」のうち、後継ぎとなる子がある場合の「親子承継」について取り上げます。
医業承継は一般の事業承継とは異なる手続や注意点も多く、慎重に行う必要がありますので、院長先生や後継予定の若先生、ご家族またそのような方々を外から支える事業者、コンサルタントの皆様は是非ご一読下さい。

なお、平成31年の税制改正で導入が決まった「個人版事業承継税制」についての記述を追加しています。
弊所も現在、該当するお客様について適用を準備しています。

1.はじめに

医業承継とは
厚生労働省の調査によると、「病院開設者又は法人の代表者」や「診療所開設者又は法人の代表者」の平均年齢は年々増加しています。

ishitoukei

(図 厚生労働省統計資料より)

これは診療所において60歳以上の割合が大きく増加し、それ以下の年代が減少していることが原因です。このように医療機関においても高齢化が進んでいますが、特に私たちに最も身近な診療所の事業承継が円滑に行われることが、地域医療の安定的供給の観点からも重要です。

さて医業承継とは、文字通り「事業承継の医療版」です。
事業承継ですから、一般的な事業と同じく、「誰に引き継ぐか」や、税金の届出、顧客(患者さん)や従業員(スタッフ)の引継ぎ、金融機関との付き合いなど、多くの論点に注意しなければなりません。
しかし、医療については通常の事業会社と違って特別な法令、規制、ルールが多くあり、一般的な事業を引き継ぐ場合より多くの注意点があるのです。
以下、これらについて順にご説明します。

親子承継について
事業承継は大きく分けて①親族への承継と、②親族外への承継に区分できます。この点は医業でもその他の事業でも全く同じです。但し、個人事業である医業の場合は「医師免許」を持った後継者かどうか、という点について大きな制約があります。
親族への承継の場合、第三者への承継に比べて信頼性や自由度、患者さん方への受けなどの点でメリットがありますが、税務上は「自由がきく」点が「恣意的に税金を減らせる」ことにつながるものとして、様々な制限を置いています。
特に子への承継は後に「相続」が関係する点で重要ですし、後述する建物や医療機器など資産の譲渡や貸付する場合の「値決め」にも注意が必要です。

2.医療関係手続の注意点
開業と廃業
個人クリニックの場合は、親子間の承継であっても、開設者や管理者が代わるので、現院長の「廃業」と新院長の「開業」の手続きが必要です。
具体的には、保健所や年金事務所(社会保険事務所)、公共職業安定所、労働基準監督署、税務署、都道府県、市町村などに所定の届出をしなければなりません。特に社会保険事務局に提出する「保険医療機関指定申請書」は、保健所に提出する「開設届」とともに、提出タイミングに注意しましょう。開業して最初の1か月の保険診療が請求できない、すなわち入金が遅れてしまうケースもあり得ます。

施設認定の届出に注意
このような届出のうち、「施設認定」(特定の治療行為が可能な施設であることを認めるもの)についてはさらに注意が必要です。過去は基準を満たしていても、それがイレギュラーな判断を伴った認定であったり、途中で制度や取り扱いの改正があったりして現在の基準に照らすと認められないケースも偶にあります。そうなると、重要な保険請求が出来なくなってしまう恐れもあります。診療所施設の改修や新たな設備の導入が必要となる場合もありますので、保健所や地区医師会事務局などと事前に検討して対処を決めておきましょう。

3.税金関係の注意点
届出
税金関係の書類についても、廃業と開業の両方について、下記のような届出が必要です。期限を経過すると税制上の特典が受けられない場合もありますので、忘れないようにしましょう。

  • 親:廃業届/子:開業届
  • 青色申告の承認申請書…青色申告の特典を得るために必須です。原則として開業から2か月以内が期限
  • 青色専従者の届出書…配偶者など、親族に給与を払うためには必須。
  • 給与支払事業所等の開設届出書
  • 源泉所得税の納期特例届出書
  • 棚卸資産の評価方法の届出書
  • 減価償却資産の償却方法の届出書

この他、自費診療が多い場合には、消費税の届出が必要な場合もあります。

措置法の活用
医業の世界で「措置法」と俗に呼ばれる制度をご存知でしょうか?
正式には「租税特別措置法」の第26条のことを言います。
社会保険診療報酬(健康保険の対象となる診療)が年間5000万円以下(かつ全体の収入が7000万円以下)の場合は、社会保険診療報酬に関する経費については、実際の金額ではなく、「概算経費率(収入に対して一定率を掛けたものを経費にする)」を使えるものとした制度です。
この制度、一般的には実際にかかった経費を上回る概算経費となることが多く、小規模な医療機関にとっては非常に有利な制度となっています。
ところが、この制度はあくまで「年間」で計算しますので、年間の収入が上の制限を超過している場合でも、承継前(親)と承継後(子)の収入がそれぞれ制限を超過していなければ、それぞれこの制度を活用できるのです。例えば、年間の社会保険診療報酬が7000万円の診療所の場合、承継前の親先生の収入が3000万円、承継後の子先生の収入が4000万円であれば、それぞれ概算経費率が使えることになります。

税理士の対応
親子承継に限りませんが、医療機関における事業承継手続を行う場合には、税務、会計、法律だけではなく、医療制度特有の考え方も大変重要になってきます。
当事者たる医師親子がこのような知識を持っておくことはもちろん必要ですが、これらの手続を担当する税理士も十分にこれらを理解しておく必要があります。
また、様々な手続、届出を行う際には、それぞれの役所などの窓口担当者と事前に綿密な打ち合わせを行っておく必要がありますが、その際には医業経営に関する十分な知識と経験が必須です。
そんな訳で、少なくとも親子承継や医療法人設立など、医業特有の手続に関しては医業を良く知る税理士(「認定登録医業経営コンサルタント」などの有資格者)に担当してもらうことが安全です。

個人版事業承継税制
平成31年の税制改正で、「個人版事業承継税制」が導入されることとなりました。
この制度、後継者(※)が先代より事業用資産(土地建物や機械器具、車両、特許などの無形固定資産)を相続や贈与により移転を受けた場合、発生する相続税や贈与税の納税が次の事業承継まで100%猶予されるという制度です。
この制度は、2019年1月1日~2028年12月31日までの間に行われる事業承継相続、贈与が対象となります。
さて小規模なクリニックであっても、事業承継の容易さや税制上のメリットを考えて「医療法人」化することが非常に多いです。
しかしまだまだ多数を占める平成19年4月1日以前の「持分あり」医療法人はその持分が相続税の課税対象になるにもかかわらず、法人版の事業承継税制(贈与税、相続税の納税猶予)の適用対象外となっていました。
他方、平成19年4月1日以降に法人化すると、元々のオーナー医師の所有権は事実上なくなってしまいます(持分がないため)
このような問題を一挙解決する手法として、この個人版事業承継税制はクリニックの中長期経営方針に大きな影響を与えると考えております。

※経営承継円滑化法に基づく認定(申請は2019年4月1日から5年以内に申請)を受けていることが必要

4.スタッフ
医業や親子承継に限りませんが、事業を引き継ぐ場合にはスタッフの引き継ぎが大きな課題となります。
経験豊かな既存スタッフは、現場における業務をスムーズに継続する上で不可欠ですが、反面新院長のスタンスと合わない場合、反発があったり、極端な場合には経営に混乱を生じたりする可能性も否定できません。
このような既存スタッフを継続雇用する場合には、お互い十分なコミュニケーションを取り、新たな経営方針を十分に説明して理解させることが重要です。
もし既存のスタッフに退職してもらう場合には、退職金をどうするかは非常に重要な問題となります。また継続してもらう場合でも、あくまで親の廃業、子の開業ですから、既存のスタッフにはいったん退職金を支払うか、支払義務を子が引き継ぐかのどちらかを決めなければいけません。
退職金の計算方法や親子承継の場合の退職金引継ぎなどは、法令にも注意しながら決定する必要があります。

5.患者さん
一般的には「大先生の子供さん」が引き継がれたということで、現在の患者さんが引き続き通われる場合が多いようです。しかし、性格の違いや診療・治療スタンスの違いから、ある程度の割合で患者さんが離れていくこともあり得ます。
このため、一般的には子供の診療を主としつつ、一週間に短い時間だけ親先生が診療し、スムーズなつなぎを目指すことが多いようです。

6.その他の注意点
診療所などの不動産
ビルの一室など、診療所を他のオーナーから賃貸している場合には、親子間で賃貸借契約を引き継ぐ必要があります。一般的に診療所の契約の場合、親子間の契約であれば特段の抵抗なく引き継がれる場合が多いようですが、古い条項の見直しなど、念の為契約内容はきちんと確認しておきましょう。
不動産が親先生の自己所有となっている場合は、子供が引き継ぐ場合その場所を使わせてもらわなければなりません。このため、親子間であっても「賃貸借契約」が必要となります。
診療所と住居が一体となっている場合は、診療所部分と住居部分を区分し、診療所部分に関して契約書を作ることになります。
子供が親に支払う賃借料は医業における必要経費となり、親が受け取るものは不動産所得の収入となります。

医療機器などの器具備品
医療機器は、一般的に自己資金(借入を含む)での購入とリースによる使用があります。
前者の場合には、親から子へ「売却」や「贈与」するなどして移転するか、不動産のように「賃貸」して使わせる必要があります。またリースの場合は、必要に応じてリース会社とリース契約の引継ぎについて交渉する必要があります。

金融機関
親先生に銀行などの借入金がある場合、それが診療所に関するものであれば、子に引き継がせることが理想的です。しかし、個人間での借入金の引き継ぎは非常に難しく、条件や担保、保証人の変更で不利になる場合もあり得ます。このような場合、例えば借入金は親に残し、子は診療所資産(不動産や機器など)、診療報酬未収入金などを引き継ぐ対価として親に対して支払い義務(債務)を負い、その支払をそのまま親の借入金支払いにスライドさせるといった手法を採用することもあり得ます。

マーケティング・患者満足
親先生の世代のマーケティングは、電話帳広告や駅、近隣への看板など、旧来のメディアが主流でした。しかし最近はインターネットホームページやブログ、メールマガジン、ソーシャルネットワークなど新しいメディアを利用したマーケティングが主流となりつつあります。
また、クラウドを利用した予約システムなど、患者満足度と効率性を上げるツールも多く利用されています。
親子承継をきっかけとして、このようなツールの利用を検討されては如何でしょうか。
なお、医療機関には広告などに関する規制(ガイドライン、下記)がありますので注意が必要です。

医療広告ガイドラインに関するQ&A  同 事例集

 

「実地棚卸」かんたんマニュアル(経理部門、管理部門向け)

ほとんどの方が「棚卸(たなおろし)」という言葉を聞かれたことがあると思います。
手持ちの商品について、数を数えることを言い、実際に数を数えることを「実地棚卸」と言います。
この「実地棚卸」、商品を販売していたり、また製品を製造したりする事業の場合には、少なくとも期末(出来れば中間や月次)で行う必要があるのです。
仕入や販売・移動などの払出が100%正確に記録で、品質や流行り廃りなどの変化がないモノを取り扱っている場合は帳簿記録だけで十分かもしれませんが、実際には記録間違いや現場での劣化、陳腐化などで記録残高を修正しなければならないケースも多くあります。
また、実地棚卸には大事な品物が盗難などの被害に遭わないよう、常に正確性をチェックしているという牽制としての役割もあります。
しかしこの実地棚卸、実際のカウント作業が大変なだけではなく、たくさんの注意点がある難しい手続なのです。
今回は、この実地棚卸について、簡単なマニュアルをまとめてみました。
このマニュアル通りに進めれば、誰でも正しい実地棚卸が行えます。
年末や3月決算に向け、ご利用頂ければ幸いです。

なおこの記事に関するお問い合わせは、このメールへのお返事か、弊所メールフォームをご利用ください。

souko

1.棚卸の手順
1)事前準備
①倉庫・工場等在庫配置場所ごとに見取図を準備、置き場に棚番等を付す
②タイムスケジュール見積、担当者配置、当日の生産・入出庫停止予定等決定と全社への通知
③商品および倉庫の整理整頓予定決定
④棚卸票の準備、検査
⑤商品受払台帳の整備(プレ棚卸)

2)棚卸の実施
①担当者の点呼、スケジュール最終確認、現場の整備状況確認
②緊急入出庫申請有無の確認
③棚卸開始宣言

3)棚卸票回収・集計
①棚卸票の回収
②商品受払台帳への記載
③在庫継続記録との差異把握
④差異分析と継続記録の修正

2.各段階での注意点
1)事前準備
①実地棚卸の目的(経営管理、資産保全、税務)や、生産・入出庫を止めなければならないことの重要性を十分に説明し、正確かつ迅速に終わらせることが担当者の責務であることを全員が認識する
②見取図や記号等に不備があると当日混乱の原因となるため、リハーサル等で慎重に確認を行っておく
2)整理整頓
実棚商品
・検数が行いやすいようなレイアウトで配置する
・同一品種・同一品名のものは、できる限り同一場所にまとめておく
・商品の品名、価格等を記載した紙を商品に添付しておく
・不良品、不動品等は正常品と区分し、整理しておくこと
(事前に処分や仕入先への返品・交換等行っておくことが望ましい)
預け品(社外在庫)
・原則として受け戻しておく
・受け戻しができない場合は、先方より預り証を受領しておくこと
預り品
・原則として返品しておく
・見本品、委託品、修理預り品等は通常品と区分し、整理しておくこと(返却しておくことが望ましい)
・返却できなかった預り品は、預り品であること、また預り先やその理由を明記した伝票を作成し、預り品置き場のよく見える場所に貼付しておくこと

3)棚卸票
リスト方式
・実棚在庫を記載しないこと(数えず書いてしまうため)
・残高のある商品名をリストしておくことは問題ないが、ないものもリストするか、加えて記載できる空欄を用意しておくこと
・実棚が終了したら、よく見える付箋等でカウントが終了したことを明示できるようにしておくこと
・その他記載内容以降は伝票方式と同様のため、この後は伝票方式を中心に説明する

伝票方式
・連番を付しておく
・できれば複写式が望ましい

4)商品継続記録の整備
・商品継続記録は棚卸前に締め切り、帳簿残高を確定させておくこと

5)売上、仕入、生産の締め切り
・売上、仕入については計上基準(検収基準、出荷基準等)を理解し、締め切りを厳格に守ること
・生産については原則停止する
・仕掛品等の評価を正確に行うため、原価管理上把握できるポイント(工程終了時点)等まで全て完了させてから生産を停止すること

6)緊急入出庫申請
・できるだけ断ること
・棚卸中やむを得ず入庫を行う場合、当該入庫を必要とする部門の長に理由と品名、数量等を記載した緊急入庫申請を提出させ、棚卸完了後当該申請分を除外する
・棚卸中やむを得ず出庫を行う場合、当該出庫を必要とする部門の長に理由と品名、数量等を記載した緊急出庫申請を提出させ、棚卸完了後当該申請分を追加する
・緊急入出庫分を加減算する場合には、申請書と入出荷伝票等を必ず照合すること

7)実地棚卸
棚卸責任者
・棚卸票を各在庫場所の棚卸担当者に割り当てる
・担当者への割当番号を記録しておく
棚卸担当者
・棚卸担当者は、区域ごとに2名一組(計数者、記録者)とする
・計数者が商品名・品番等と数量を読み上げ、記録者が商品名や数量等を棚卸票に記入
・棚番号が終わるごとに棚卸票を貼付する
・書き損じの棚卸票は、破り捨てずに×を付して回収する
検査担当者(経理部門や内部監査部門が実施監査法人等が行う場合も)
・棚卸実施場所を偏りないよう巡回し、実施状況を検査、指導する
・棚卸票の貼付漏れがないかを確認する
・サンプルを選んでテストカウントし、集計後の棚卸票と照合する
・可能であれば、現場の固定資産等の実地確認も行うと効率的

8)集計/整理
棚卸票の回収
・すべての棚の棚卸しが終了したことをレイアウト図で確認し、棚卸票を順次回収する
・回収終了後、配付枚数と使用、未使用、書き損じの枚数を照合し、紛失がないかを確認する
・棚卸責任者が、棚卸票の記載内容をチェックし、不備がある場合は現地を確認する
・訂正のある場合は、棚卸責任者が内容を確認し訂正印を押印する

商品受払台帳への記載
・実施棚卸数と帳簿残高とに差異がある場合には、もう一度現品と帳簿を調査し原因を追求する。
・過不足の理由が不明の場合は、棚卸責任者の承認を得て過不足数を商品受払台帳に記載
し、実際数量に一致させる

 

コラム「相続の基礎」⑧相続税の税務調査

3)税務調査
①税務調査はいつ、どんな時に来るか
相続税の税務調査は、相続税の申告書を提出した後、1年~2年程度の間にあることが多いようです。これは、税務署が事前に申告書の内容を分析したり、被相続人や相続人について収集した資料と付き合わせたりといった、「事前調査」の時間がかかるためです。

また、相続税の申告書を提出したからと言って、必ず税務調査を受けるわけではありません。税務調査の対象となるのは、事前調査の結果以下のような兆候がある場合です。

  • 被相続人の所得や、被相続人がかつて相続した財産などからみて、申告された相続財産が少ないとみられる場合
  •  所得税の高額納税者
  • 生前に不動産や株式に関係する情報があったにも関わらず、これらに関する相続財産の申告がない場合
  • 死亡前に預貯金の大きな動きがある場合
  • 財産に比べて債務がアンバランスに多い場合

②税務調査手法
犯罪レベルの脱税が疑われる場合の「査察」ではありませんので、通常の税務調査の場合は事前の日程調整から訪問まで、あくまで紳士的に行われます。

担当した税理士がきちんとした手続きを採っていれば、納税者の方に直接電話がかかることもありません。また、都合の悪い日や体調などもきちんと配慮してくれます。

ただ、穏やかだからといって油断するわけには行きません。前述の通り、調査官は既に事前調査である程度のあたりをつけているわけですから、もし明らかな問題があれば既に逃げ場はなくなっている場合すらあります。

調査が始まると、通常ベテラン調査官はまず雑談から始めます。そして話を進めながら、いろいろな書類や資料の提出を求めてくることになります。よく確認するものは、例えば以下のようなものです。

  • 生前の仕事や趣味
  • 亡くなった時の様子など(時系列で)
  • 香典帳
  • 手帳、メモの類
  • 電話帳
  • 金庫の中身
  • 印鑑(家族などの三文判も含む)
  • 銀行や証券会社のカレンダー、手帳、その他ノベルティ

印鑑は、単に印影を集めるだけではなく、どの印鑑をどれくらい使っていたかも調べます。よくいわれるのは、朱肉を何もつけずに紙に押し、そのあと朱肉をつけてもう一度押す、という方法です。頻繁に使われていた印鑑であれば、朱肉の残っていることがよくあるからです。このため、私たちは普段から、重要な印鑑を使った後には徹底的に清掃して置くことをお勧めしています。

③税務調査が来ないようにする方法

  • 申告前には財産調べをしっかりと
    調べられる前に、申告漏れがないかどうかしっかりと調べましょう。そのうえで何か漏れていたとしても、よほどのことがなければ修正申告するだけで、罰にあたる重加算税までは課せられません。
  • 生前から準備
    亡くなられてから財産調べをするのは難しいものです。特に、夫が妻や子に財産の詳細を教えていないことも多く、相続発生後に右往左往することもよくあります。財産の特定に時間がとられると、税務対策を検討する時間も少なくなってしまいます。
  • 前回の相続に注意
    前回の相続、例えば被相続人の親や、配偶者からいったん相続があった場合、その財産がどのように増減して次の相続に至ったかについては必ず調べられます。不自然に減少している場合には、なぜ減少しているかをきちんと説明できなければなりません。
  • 相続税に強く、調査経験も多い税理士に依頼
    冒頭でも説明しましたが、税理士の全員が相続に強いという訳ではありません。残念ながら、強いとは言えない方が業務を受けた場合、申告書の内容も調査での対応についても、十分な効果が出せない場合もあります。また、調査のポイントをよく把握し、対応に長けていたり、調査のポイントを事前に説明、提出することで調査を行いにくくする書面を提出できる税理士も非常に有効です。

④金融機関に対する相続税税務調査
相続税の場合、申告漏れが発生する財産で最も多いのは現金、預貯金です。

屋根裏や床下に現金を隠しているなら別ですが、普通の方の場合は金融機関に預金を持っておられると思います。この預金については、忘れていたケースも含めて、意外と申告漏れがよく起きるのです。

さて、税務署も、さすがに生前から全ての取引銀行を把握しているわけではありませんので、事前調査の際には様々な方法で情報収集を行います。

例えば、被相続人の住所、勤務先周辺にある金融機関に対して、取引があるかどうかやその内容の照会文書を送り、申告された内容に漏れがないか、死亡直前に大きな資金が流出していないかなどを確認します。
#最近はGoogleの地図サービスなどが活用しやすくなっていますので、これを用いて「被相続人が関係していた場所周囲〇キロメートル以内の金融機関」などといったリストを作成して調査しているとの話も聞きます。

また、調査の途中には直接金融機関に出向き、貸金庫の存在や、親族の名義を借りた口座などがないかも調べます。

ところで、昔から「郵便貯金には調査がされにくい」という噂がありました。単なるうわさのようにも聞こえるのですが、実は根も葉もない話ではなかったようです。以前には国税局対郵政省という縦割り行政の関係で、確かに調査するのが通常の金融機関より手続的に難しかったようでこのような噂が発生したようです。ただ、ある時点においてこの点にはメスが入り、現在は税務署からの問い合わせには迅速かつ正確に答えるという取り決めができていますので、郵便貯金が調査から逃れやすいということはなくなりました。

(第8回 完)
=====================================================
相続税の計算(概算シミュレーション・税制改正/増税対応)
相続税が気になる方は、弊所のシミュレーションページを是非ご活用下さい。
無料で以下の情報を確認できます。

  • 相続財産、相続人(配偶者と子供の場合に限ります)から概算の相続税額
  • 相続税として納めなければならないのは、相続財産の何%に当たるか
  • その割合以下で子供に対して有利な贈与をするには年間一人当たりいくらまで贈与可能か

コラム「相続の基礎」⑦相続税や物納・延納

5.相続税・税務調
1)申告
①相続税の一般的手続
相続税の計算は、一般的には以下のような手順で行われます。

  • 資産の時価評価
    現金預金や土地建物などの資産について、相続税計算のための時価を計算します。これを「評価」と言います。土地建物や有価証券などの時価については、計算方法が詳しく指定されています。
  • 遺産総額の計算
    上で計算した資産から、課税されない資産(非課税資産)や負債、葬式費用などを差し引いて、ネットの遺産額を計算します。
    その際、税制上の優遇措置(住んでいる住宅や事業用の宅地の減額や、非課税部分の控除など)も適用されます。
  • また、相続が開始する以前3年以内に為された贈与財産も加え、相続税の対象となる「課税価額」を計算します。
  • この課税価額から、基礎控除と呼ばれる課税最低限の金額を控除します。
    基礎控除は、3000万円に法定相続人一人あたり600万円を加えます(平成27年改正後)
    この際、先にご説明しました通り、養子の数については制限があります。
  • 基礎控除を差し引いた残額を、「法定相続分で分けたと仮定」し、それぞれの相続人の配分額に応じて以下の表にある税率を適用します。

 相続税の税率と控除額(速算表)

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

注意すべきなのは「実際にどのような財産分けをしたか」とは関係なく、「法定相続分で分けたと仮定」する点です。

  • 上記で計算されたそれぞれの相続税額を合計し、ここで初めてそれぞれが配分を受けた実際の財産割合で相続税を配分します。
  • それぞれ配分された税額を納付します。納付が困難な場合は、後述の延納や物納といった制度を利用することができます。
  • 配偶者の税額軽減
    相続人が配偶者(婚姻届が出されている配偶者に限る)場合、法定相続分と1億6000万円のいずれか多い額まで相続しても、相続税はかかりません。
  • 兄弟姉妹、孫養子は2割増
  • 相次相続控除
    10年以内に続けて相続があると、2回目の相続(第2次相続)では1回目に払った相続税の一部を差し引くことができます。この差し引く金額は、年数の経過によって減少するよう定められています。ただし、適用できるのは法定相続人に限られます。

②相続時精算課税
従来から贈与税には年間一定額(現在は110万円)の基礎控除制度がありましたが、これに加えて平成15年より、相続時精算課税という制度が創設されました。この制度は、消費を拡大するため、親から消費をする子の世代への贈与を活性化するという目的で設けられました。

相続時精算課税制度とは、親子間の贈与について2500万円までの財産に税金をかけず、それを超える部分について一律20%の贈与税をかけるという制度です。なお、2500万円の非課税枠は、財産をもらう人が一生でもらえる財産の総額であり、贈与の回数は何回あってもかまいません。ただし、前年以前に、この特別控除の適用を受けた金額がある場合には、2500万円からその金額を控除した残額がその年の非課税枠となります。

なお、この制度の適用対象は原則として、65歳以上の親から20歳以上の子供(子供が亡くなっているときには20歳以上の孫を含みます)への贈与に限られています。

この制度のポイントは、贈与した資産は、相続財産に加えて相続税を計算し、納付した贈与税があればこれを相続税から控除するという点にあります。

例えば、この制度による贈与を4000万円していて、相続財産が1億円あれば合計の1億4000万円が相続税の対象となります。なお、この制度を利用した人が、相続や遺贈によって財産を取得しなかった場合であっても、相続時精算課税で被相続人から取得した財産の価額は、贈与したときの時価で相続税の課税価格に加算され相続税がかかります。

この他、住宅資金を取得するための贈与を受けた場合の特例などもあるのですが、時間の関係で省略します。

③事業承継税制
平成20年5月9日に「中小企業における経営の承継の円滑に関する法律」が成立しました。この法律は、日本全体の雇用の約70%を支えている中小企業が円滑に事業承継でき、その結果雇用を確保できることを目的に制定されました。法律の3本柱として、遺留分に関する民法特例、金融支援、相続税の課税についての措置(詳細は平成21年度税制改正にて)となっています。

そして、相続税の課税問題については、平成20年度の税制改正要綱にて、「非上場株式等に係る相続税の納税猶予制度」が平成21年度の税制改正で創設されることが明記されました。

これらの制度は非常に複雑ですので、重要な項目について簡単に記載しておきます。

  • 会社経営者がその子などに経営権を譲り、同時に株を贈与する場合にはその贈与税を一部納税猶予する
  • 会社経営者に相続が発生した場合、経営を受け継ぐ子などが相続した株式についての相続税の納税は猶予する
  • 上記の贈与税、相続税の納税猶予は、それぞれ一定の条件のもと納付義務が免除される
  • これらの対象となる株式については、遺留分の適用外とすることができる(民法の特例)

なお、現在は当制度の特例として、全ての株を対象に100%の納税猶予が可能な制度が期間限定で設けられています。

2)延納、物納
①延納
国税は、金銭で一時に納付することが原則ですが、申告又は更正・決定により納付することになった相続税額(贈与税額)が10万円を超え、納期限までに、又は納付すべき日に金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、その納付を困難とする金額を限度として、申請書を提出の上、担保を提供することにより、年賦で納めることができます。これを「延納」といいます。この延納期間中は利子税がかかります。

②物納
納付すべき相続税額を納期限までに、又は納付すべき日に延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、その納付を困難とする金額を限度として、申請書及び物納手続関係書類を提出の上、一定の相続財産で納付することが認められています。これを「物納」といいます。

(第7回 完)
=====================================================
相続税の計算(概算シミュレーション・税制改正/増税対応)
相続税が気になる方は、弊所のシミュレーションページを是非ご活用下さい。
無料で以下の情報を確認できます。

  • 相続財産、相続人(配偶者と子供の場合に限ります)から概算の相続税額
  • 相続税として納めなければならないのは、相続財産の何%に当たるか
  • その割合以下で子供に対して有利な贈与をするには年間一人当たりいくらまで贈与可能か

広大な土地の相続税~億単位で相続税が変わる!

相続税は、税理士にとっても非常に難しい分野の一つです。
今回は、相続税における土地の評価方法と、大きな土地を所有する方にとって特に影響が大きい「広大な土地」の評価方法及びその改正についてご説明します。

広大地

1.相続税と土地
相続税を計算する際、土地がある場合には原則として「路線価方式」や「倍率方式」で相続税のかかる時価を計算します。
路線価方式は、路線価(その道路に面している標準的な宅地の㎡単価)に、土地の状態に応じた調整を施した価格に面積を掛けたもので、いわゆる「土地の相続税評価額」としては最も一般的なものです。
また倍率方式は、山間部など路線価が設定されていない地域の土地に関して、その固定資産税評価額に地域の状況を踏まえた倍率を乗じて計算する時価です。
これらの路線価や倍率は現在インターネット上に公開されており、誰でも確認することができます。

2.広大地
ところが、このような評価が当てはまらない土地が時々あります。これが「広大地」と呼ばれる種類の土地です。
例えば1000㎡を超えるような土地の場合、昨今は大きなお屋敷などを建てたりはしませんので、一般的な大きさの住宅として分譲する場合がほとんどです。
しかしそのような場合には、どうしても道路(公衆用になるので、その部分の販売価値がなくなる)を作らなければ開発許可が下りないことになります。
そこで、従来からこのような広大地については、一般的な路線価方式や倍率方式よりも大幅に評価が低くなる方式(比例的な一律減額方式)が定められていました。
この結果、広大地に該当することとなれば、どんな土地でも大幅に相続税のかかる時価が低くなる結果が出る状態となっていました。

3.改正
このような問題に対処するため、平成29年に改正が行われました。
まず「広大地」という用語は「地積規模の大きな宅地」と変更され、地積(面積)や所在地域の容積率(※)に応じた判断が明確になりました。具体的な適用要件は下記の通りです。

※ 建物の延床面積を敷地面積で割った割合。建築基準法に基づき、地域や構造に応じて容積率の限度、すなわち敷地に応じてどれだけの大きさの建物を建築できるかを決めています

①地積が500平方メートル(三大都市圏以外は1000平方メートル)以上の宅地
②普通商業・併用住宅地区及び普通住宅地区として定められた地域に所在
③次のA~Cのいずれにも該当しない
A.市街化調整区域(都市計画法に規定する開発行為を行うことができる区域を除く)に所在
B.都市計画法に規定する工業専用地域に所在
C.容積率が400%(東京都の特別区においては300%)以上の地域に所在

また、評価方法は下記の通りとなりました。
路線価×地積×補正率(計上・奥行による)×規模格差補正率(面積による)

この改正によって、改正前の広大地評価よりも評価減割合が通常縮小することになります。また上記の改正は、平成30年1月1日以後の相続等により取得した財産の評価に適用されます。

4.注意点
「広大地」や「地積規模の大きな宅地」の改正は上記の通りなのですが、実はこれらの難しさは計算そのものではなく、判定の為の条件(地積の測定や地域の判断、容積率のチェックなど)にあります。私たちは多くの相続税申告をこれまで手掛けており、その中には土地の相続税評価額(時価)計算が含まれるものも多いのですが、一般的に土地の評価はこれらの基礎調査が難しく、その内容によってはかなり大きな金額で相続税が変わる(損になる)場合もあり得ます。この「広大地」や「地積規模の大きな宅地」は、面積が大きい分その影響も大きくなります。

このため、私たちはこのような評価が必要な場合には不動産鑑定士などの専門家を活用するだけではなく、信頼のおける不動産業者や役所などとも綿密に連携し、場合によってはこれらの分野を専門とする事務所とも連携することで適切な相続税が計算できるよう十分に配慮しています。