「出資持分なし医療法人」への移行と認定制度について

医療法人とは、「病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を開設しようとする 社団 又は 財団(医療法の定義)」を言います。
医療自体は医師等の専門家が行うべきものですが、病院のように大規模な組織や施設をもつ場合には、個としての活動には限界があり、組織経営が必要となってきたことから定められた制度です。

この「医療法人」制度は、昭和25年に始まり、その後昭和39年の「特定医療法人」制度や、昭和60年の「一人医師医療法人」制度など、変遷を経て現在に至っています。

さて、現在存在する医療法人の多くは、平成19年4月1日より前に設立された「出資持分(株式のようなもの)あり」法人となっています。
現在この「出資持分のある医療法人」の新規設立は認められておらず、「経過措置(型)医療法人」と呼ばれています。

これらの法人の出資持分には財産価値があります。このため、出資持分には以下のような問題が発生します。

  • 出資割合に応じて純資産の払戻しを請求できる
    →医療法人の資金が激減し、資金繰りを圧迫する可能性がある
  • 出資者が死亡した場合、相続財産となる(時価評価は株式等に準じて行われます)
    →換金できない資産(持分)に高額な相続税が課税される
    相続税の概算についてはこちら(相続税の概算)をご覧ください
  • ある出資者が持分を放棄した際、他の出資者持分の価値がその分上がったものとして、他の出資者に「贈与税」が課税される

このような問題を回避する手段として「出資持分なし医療法人」への移行という手続が準備されています。
この手続は、出資者が自分の出資持分を放棄することで、上記のような問題を解決することを目的としています。
(※もちろん、こういう問題に心配が要らない場合、持分ありのままでも問題ありません)

この「出資持分なし医療法人」への移行を促進するため、厚生労働省は 「認定制度」を作りました。
認定制度の流れは、以下の通りです(厚生労働省資料より )。

この制度の特徴は、以下の通りです。

  • 認定を受けると、上記の問題点で説明した「贈与税」「相続税」の納税が猶予されます
  • 認定の日から3年以内に出資持分が放棄され、持分のない医療法人になると、猶予された税額が免除されます

なお、出資持分の免除により、免除した者の相続税や贈与税が不当に減少すると認められる場合(相続税法66条④)の「法人に対する贈与税課税」は、依然としてのこっています。この課税がなされないためには、運営組織の適性性や法人の社会的存在としての認識など、いくつかの要件を満たす必要があります。

出資持分は財産であるとともにオーナーシップの源泉であり、これを簡単に放棄することは医療法人の経営に悪影響を与えるかもしれないという懸念をお持ちの方も多いと思います。
この考え方は間違っている訳ではありませんが、他方多くの医療法人が抱える純資産は、前述のような金銭的問題を必ず生みます。
財産的オーナーシップの消失は、人的なオーナーシップ(ガバナンス)などでカバーすることも可能ですので、経営体制の強化とともに、ぜひこの認定制度を活用し、持続的な病院・診療所経営が可能となる体制を整えて頂きたいと考えております。

医療機関の消費税-「益税・損税」のメカニズムとあるべき政策

はじめに

平成26年4月1日から、消費税の税率が8%となった。この税率アップは、前回平成9年に税率が5%とされてから実に17年ぶりの税率改定となる。このことにより、元々消費税に関連して存在していた問題のいくつかが改めてクローズアップされることとなった。

我が国の消費税には、いわゆる「益税」の問題、すなわち最終消費者から預かった税金が全て納付されない場合がある、という問題が議論されている。しかし、医療機関に限れば、逆に「損税」と言われる論点が存在することも忘れてはならない。これは、社会保険診療報酬が消費税法上非課税扱いとなることに伴う、医療機関の消費税負担問題である。

以下、消費税の歴史や税体系、課税構造を説明しつつ、この損税問題がなぜ発生するか、また国民皆保険制度の元このような問題を解決するためには、どのような政策を採るべきかについて考察する。

 

1.我が国の消費税の歴史と現状について

1)物品税

平成元年に消費税が導入されるまでの間、我が国においては間接税の一種である「物品税」が長い間採用されてきた。この物品税は、間接税についての伝統的な考え方の一つである、「生活必需品に対しては課税を控え、贅沢品はそれを購入する者に担税力が認められるから重く課税する」という考え方に基づく課税体系を基本としていた。

上記のような考え方に基づく物品税は、どの品目を課税対象とするかについてあらかじめリストアップしておく必要がある。しかし、需要者側のニーズが多様化することにより、同じ物品でも生活必需品か贅沢品であるかといった判定があいまいで課税に困難が生じたり、本来奢侈度の多寡で税率を変えていたものが不公平感のある課税体系となったりといった問題が発生していた。また、様々に進化するサービス業には原則課税されないなど、課税ベースの狭さも課題であった。

2)消費税成立までの流れ

このような問題を抱えた物品税に変わり、一般的な付加価値税の体系を持つ消費税については長い間議論や政治的検討がなされてきたが、下記の通り平成元年にようやく現在の消費税が導入された。

消費税導入から現在に至る流れについて、下記(表1 消費税の歴史)にあらましを示す。

表1 消費税の歴史

昭和53年 第1次大平内閣時に、一般消費税導入案が浮上。総選挙の結果を受け撤回。
昭和61年 第3次中曽根内閣時に、売上税法構想。
昭和63年 竹下内閣時に、消費税法が成立、12月30日公布
平成 元年 4月1日 消費税法施行 税率3%
平成 9年 4月1日、村山内閣で内定していた地方消費税の導入と消費税等の税率引き上げ(5%)を橋本内閣が実施。
平成24年 野田内閣が消費税率引き上げ法案を提出。8月10日、参院本会議で可決成立。
平成25年 安倍内閣が消費税率の8%への引き上げを決定。
平成26年 消費税率の引き上げ(8%)が実施される。

 

2.消費税の課税構造

1)概要

消費税の課税構造は一般的に、事業者が「売上等で顧客から預かった消費税」から、「仕入や経費等で支払った消費税」を差し引いた額を納税するという課税構造であると説明されることが多い。しかし、消費税の課税は実際にはもう少し異なる形で計算されている。

消費税の「課税標準(税金をかける元となる金額)」はあくまで売上等の「収入」であり、法律の建前としてはこれをまず納付するという形になっている。具体的には、課税標準に6.3%の消費税率(国税分。残り1.7% は「地方消費税」)を乗じたものが法律上「消費税額」と呼ばれているのである。

そして、これに対応する「仕入税額(支払った消費税額)」で一定の要件を満たす金額を控除したものが「納付税額」と呼ばれ、納付する国税額となる(その後地方消費税額が計算される)。

一般的に、消費税をはじめとする付加価値税の課税やその計算、管理には本来「インボイス方式(税務署等が発行する所定の伝票を消費税の支払・受取時に使い、納税額を当該伝票で確定する方式)」が適しているが、消費税の導入当初、中小企業の事務負担軽減のため見送られた経緯がある。

上記の通り、消費税は「預り金」ではなく、あくまで「事業者が受け取った金額に対する消費税」が主であり、支払った消費税は「控除できる」部分に過ぎないのである。このことは消費税導入当初から研究者や実務家によって指摘されており、現在は国税庁も「預り金的性格」であると表現することが多い。

 

2)消費税法の体系

消費税法は、以下の通りの税法体系となっている。

第一章 総則(第一条―第二十七条)

第二章 課税標準及び税率(第二十八条・第二十九条)

第三章 税額控除等(第三十条―第四十一条)

第四章 申告、納付、還付等(第四十二条―第五十六条)

1)で説明した通り、第二章で「課税標準」や「税率」について規定し、第三章で「税額控除」について規定するという体系となっている。

 

3)計算方法

消費税の計算方法は、おおよそ以下の通りである。

  • 「課税標準」と「税額控除」
①課税売上高(課税雑収入を含む)×6.3%を「課税標準」とする
②課税仕入、課税経費から「税額控除額(6.3%)」を計算
③ ①-②=「消費税額(国税)」
④ ③×17÷63=「地方消費税額」
⑤ ③+④=「納付税額」

 

  • 課税売上高が5億円以下、かつ課税売上高割合(売上や雑収入、固定資産の売却など全ての収入取引に占める課税売上高の割合)が95%以上でなければ②の全額を控除することができない。
  • 上記を除く場合は、②のうち「課税売上に対応する課税仕入」に限り①から控除できる。
  • 控除可能な仕入消費税額が課税売上に対する消費税額を上回った場合、当該上回った部分は還付される。
  • 2事業年度前の課税売上高が5000万円以下の事業者は、選択により「簡易課税」制度が選択できる。これは、上記の「消費税額」から、事業ごとに認められた「みなし仕入率」により計算された仕入税額を控除することで納付税額が計算できる簡易な方法である。

 

4)課税・非課税・不課税

消費税法上、事業者が行う取引は、以下の3つに分類して課税関係が決められている。

  • 課税…「対価性」のある国内取引(非課税取引を除く)
  • 非課税…「対価性」はあるが、消費されないもの(土地など)や政策上消費税を課さないもの(住宅貸付、医療など)
  • 不課税(免税)…「対価性」のないもの(贈与など)、国内取引でないもの(輸出)

 

5)基準期間

我が国の消費税は、課税売上高を基準として、主に小規模事業者に対する負担軽減(免税)や手続の簡易化(簡易課税の適用)などを認めているが、この判定に使用する課税売上高は、事務手続を考慮して原則として2事業年度前のものとなっている。

 

3.医療と消費税の関係

1)消費税導入時における医療の扱い[参考1]

理論的には医療も「サービス業」であり「役務提供」の一種であるから、消費税が課税の対象とする「対価性ある役務提供」であると言える。しかしながら、医療は所得の大小に関わらず、全ての人の生命を守るために必要なものであり、需要側(患者)、供給側(医療)ともに採算を考えずに支出、供給せざるを得ないものである。

このように、医療は低所得者であっても生きていくために選択の余地なく必要となる支出であり、そもそも逆進的な要素を持っている。この上、さらに逆進性を持つと言われる消費税を課税すると、低所得者に対する負担をより増大することになり、公的医療保険の趣旨にもそぐわない。

このため、消費税法は6条(非課税)及び別表第1において医療(公的医療保険の対象となるものに限る)を非課税としているのである。

2)現在の消費税における医療、介護の取扱

それでは、現在の消費税法における医療、介護の取扱について、先に述べた「別表第1」の記載から抜粋して説明する。

 

①社会保険医療の給付等

健康保険法、国民健康保険法などによる医療、労災保険、自賠責保険の対象となる医療などは非課税。但し、美容整形や差額ベッドの料金及び市販されている医薬品を購入した場合は課税取引となる。

 

②介護保険サービスの提供

介護保険法に基づく保険給付の対象となる居宅サービス、施設サービスなどは非課税。但し、サービス利用者の選択による特別な居室の提供や送迎などの対価は課税取引となる。

 

③社会福祉事業等によるサービスの提供

社会福祉法に規定する第一種社会福祉事業、第二種社会福祉事業、更生保護事業法に規定する更生保護事業などの社会福祉事業等によるサービスの提供は非課税。

 

3)社会保障・税一体改革と税率引き上げ

平成24年6月21日、当時政権党(野田内閣)であった民主党と、野党第一党であった自民党、公明党の三党間において、「社会保障・税の一体改革」について合意が成立した。この合意に基づき、平成24年6月26日、消費税増税を柱とする社会保障と税の一体改革関連法案が衆議院本会議で採決され、民主党・国民新党・自民党・公明党の賛成多数で可決、平成24年8月22日に公布された(平成24年法律第68号)。

この後自民党への政権交代がなされた後も経済動向を注視しながら消費税率引き上げの可否を検討した結果、平成25年10月1日、安倍首相は、官邸で開かれた政府与党政策懇談会で、平成26年4月に消費税率を8%に引き上げると表明した。

 

4.益税、損税のメカニズム

1)益税問題

我が国の消費税には導入当初から「益税」と呼ばれる問題が指摘されている。この益税は、簡単に言えば「顧客から預かったとされる消費税が全て納税されない」という問題である。

以下この「益税」問題に関して説明するが、消費税制度は平成元年の導入当初から現在に至るまでかなり変遷しているため、下記の説明は現在の制度を対象としている。

 

①免税事業者

基準期間(2事業年度前)の課税売上高が1000万円以下の事業者は、消費税の納税義務が免除される。これは、小規模事業者の事務負担を軽減するための制度と言われている。

このような事業者でも、消費者は消費税を含んだ支払をする必要がある(外見的に課税事業者か免税事業者か判別できるか否かに関わらず、顧客は消費税分を含めて支払う必要がある)ため、免税事業者に支払われた消費税については全額納税がなされないこととなる。その納税がなされない部分は事業者の利益になるが、この部分がいわゆる「益税」と呼ばれる。

 

②簡易課税事業者

前述の通り、消費税は原則「課税売上に係る消費税額」から「課税仕入に係る消費税額」を控除することで計算される。

しかし、基準期間における課税売上高が5000万円以下である事業者は、「みなし仕入率」を用いて仕入税額を計算することができるとされている。これを「簡易課税制度」と言う。

この「みなし仕入率」は、事業の種類(卸売、小売、製造、各種サービス業等)に応じて90%から40%まで段階的に設定されているが、これらはそれぞれの業種ごとの平均的な課税仕入率(課税仕入が課税売上の何%となるか)よりも納税者に若干有利、すなわち大きくなるように設定されていると言われている。

このため、実際の仕入税額よりみなし仕入税額の方が大きくなり、その差額部分がいわゆる「益税」となる。この制度も小規模事業者の事務負担軽減のために設けられた制度である。

 

2)損税問題

2.消費税の課税構造 3)計算方法 で説明した通り、消費税法上、事業者が課税仕入となる仕入や経費への支払を行ったとしても、その課税仕入が課税売上に対応するものでなければ当該課税仕入を課税売上から控除することは出来ない。

医療機関の収入が全て社会保険診療報酬だけであったとすると、3.医療と消費税の関係 1)消費税導入時における医療の扱い で説明した通り、この収入は消費税法上非課税と規定されているから、当該医療機関には納税すべき消費税が発生しないこととなる。

他方、医療機関が支払う医薬品仕入、家賃、検査機器やその他経費については消費税が課税されている。となると、課税売上がない事業者に発生した仕入消費税額は一切控除できない。そうであれば当然、課税売上のある事業者には認められている「仕入税額の還付」(2.消費税の課税構造 3)計算方法 を参照)も受けられないこととなる。

医療機関も理論的にはサービス業であるから、本来消費税を負担すべきなのはサービスを受ける患者である。しかしながら、上記のようなメカニズムにより、結果としてあたかも医療機関が消費税の最終負担者のような形になっているのである。これがいわゆる「損税」問題である。

この「損税」問題について、厚生労働省は「診療報酬改定の際、影響額を織り込んでいる」と主張している。具体的には、平成元年(消費税導入、税率3%)時点で0.76パ-セント、平成9年(消費税率を5%に引き上げ)の際に0.77パ-セント、都合1.53パ-セントを行政措置として社会保険診療報酬に上乗せして控除対象外消費税の手当をしてきたというものである。そしてこの引き上げは、消費税や税率引き上げで増加する医療機関の平均的な「損税」部分に見合ったものであるとされている。

しかし、日本医師会は、調査の結果、医療機関の規模に関わらず現時点においても社会保険診療等収益の2.2%に相当する消費税の負担増が発生しており、2.22%―1.53%=0.69%分の損害が放置されていると主張している[参考2]。

このような主張に基づくと、予定されている税率の引き上げはいわゆる「損税」問題を拡大し、医療機関の経営を圧迫する恐れがある。

 

5.採るべき政策についての考察

1)問題点の整理

社会保障と税の一体改革は、社会保障の安定財源確保と財政健全化を同時に達成することを目指す観点から行われるものであり、消費税の税率引き上げもこの改革を目的として行われることは既に述べた。しかし、社会保障の持続可能性を目的としたこの税率引き上げは、消費税の負担割合増加を通じて「損税」問題を拡大し、結果として社会保障の重要な領域である医療の消費税負担問題を拡大するというジレンマを包含した政策であるとも言える。

この問題については、厚生労働省は前述の通り、消費税導入時と税率引上げ時に、診療報酬の上乗せにより解決済みであるとしてきた。しかしながら、医師会や医療機関からは、増加する負担に対して不十分であること、改定項目が限られていて公平に配賦しているとはいい難いこと、またその後のマイナス改定等により現在の補填状況が検証不能であること、等が問題として指摘されている[参考2]。

 

2)採るべき政策とは

このような問題に対しては、どのような政策を採るべきだろうか。

3.医療と消費税の関係 1)消費税導入時における医療の扱い で説明した通り、医療(特に社会保険診療報酬の対象となる一般的な医療)については公共性が極めて強く、また一体改革の目的である社会保障の対象そのものであることから、消費税の軽減税率(食糧や衣料など基本的な生活必需品に一般の税率より低い税率を適用する方式)やゼロ税率(課税だが税率をゼロとする方式)は、そもそも「課税」という概念から見てそぐわないと考える。

他方、厚生労働省等が主張するように、医療が非課税となっていることで増える医療機関の負担(仕入税額に関するもの)を診療報酬の改定で対応する方式についても、改定の客観的な合理性・公平性を欠き曖昧で不十分である。

私は、上記の問題点を考慮した上で、下記の政策を採るべきであると提唱する。

  • 社会保険診療報酬は、消費税の非課税売上とするが、課税売上割合の計算上、課税売上として取り扱う。また社会保険診療報酬に対応する課税仕入は、税額控除(還付)対象とする
  • 社会保険診療報酬は、消費税の負担を考慮外として計算する

以下、上記について個別に説明する。

 

3)消費税上、社会保険診療報酬のあるべき取扱い[参考3]

消費税法上、輸出に関しては免税扱いとなっている。このため、例えば輸出が100%の事業者であれば、国内で商品を仕入れた際や経費を支払った際同時に支払った消費税についても、理論的には課税売上高がないため控除できないこととなる。

しかし消費税法は、あくまで輸出自体は免税としながらも、その他の場合、すなわち課税売上割合の計算や課税売上に対応する課税仕入の判定においては、輸出を課税取引とみなす規定を置いている(消費税法31条)。

この結果、前述の100%輸入となっている事業者であっても、国内で支払った消費税額は全額税額控除の対象となり、輸出免税により消費税が発生していないことから税額控除対象の消費税が全額還付されるのである。

上記の考え方は、社会保険診療報酬にも適用が可能であるものと考える。すなわち、政策目的から必要となる社会保険診療報酬の非課税性は保持しつつ、輸出と同様に、課税売上割合の計算や課税売上に対応する課税仕入の判定においては社会保険診療報酬を課税取引とみなす方式である。このような方式を採用することで、例えば収入の100%が社会保険診療報酬である医療機関においては、支払った仕入税額が全て控除対象となり、還付されることとなるのである。

なお、仮に上記のような方式を現行の消費税法に適用する場合、仕入税額控除の「帳簿記載要件(消費税法30条7~10項)」には注意が必要である。この要件は不正な税額控除を防ぐため、一定の要件を満たした仕入税額のみを控除させるために定められている。具体的には請求書と、以下の通りの情報を記載した帳簿を保存することとされている。

  • 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
  • 課税仕入れを行った仕入年月日
  • 課税仕入れに係る資産又は役務の内容
  • 課税仕入れに係る対価の額

なおこの要件には原則として宥恕規定はなく、災害などの場合を除き要件を満たさなければ税額控除が認められないこととなる。ほとんどの医療機関は現在課税事業者となっておらず、上記の要件を満たす帳簿記載や証憑保存がなされていない可能性があるため、特に注意が必要となると考える。

 

4)社会保険診療報酬の適切な調整

前述の通り、現在厚生労働省は消費税の損税部分につき、社会保険診療報酬の改定によって対応したとの立場に立っている。しかし、医師会等が主張するように、負担への対応が不十分であったり、配賦の公平性に欠けたりすることが問題として指摘されている

このため、3)の通り社会保険診療報酬については非課税を保ちつつ課税売上とみなす制度を導入すると同時に、消費税部分を総額で考慮するのではなく、外税的に社会保険診療報酬の点数を定め、消費税率変動の影響を排除することで、「損税」と言われる現象の影響を完全に排除することが医療政策上好ましいと考える。

 

結論

以上、消費税の歴史と現在の制度について、医療と消費税の関係、損税、益税のメカニズムについて考察した。

また、社会保障と税の一体改革により今後さらなる消費税率の引き上げが予定されているが、このことで拡大する「損税」問題については対策が必要である。この損税対策については諸説あるが、私は消費税法における輸出と同様の取扱を採用し、非課税性を保ちつつ損税問題を解決する方法を提案した。

以上


参考文献

[1]医療消費税非課税の経過 診調組 税-2-4資料(平成24.7.27 厚生労働省 医療機関等における消費税負担に関する分科会)

[2]日医ニュース1224号(平成24年9月5日 日本医師会)

[3]Mizuho Short Industry Focus36号(平成24年11月12日 みずほ銀行)

IGRM概論 – eディスカバリーにおけるデータ参照フレームワーク

私はeディスカバリーを専門とはしていませんが、現在の米国における法務分野の状況を見ていると、間違いなく日本の中小企業が巻き込まれていくことになると思います。
そうなると、十分な情報システム投資が行えない(もしくは情報システム投資を軽視している)企業の場合は、「戦う前から負ける」ことすらあり得ます。
またこのような状況に対応するためには、電子情報の適切な保存だけではなく「防御的廃棄」と言われる概念も必要となります。

このように、eディスカバリーへの対応は非常に新しい概念で厄介なようにも見えるのですが、実はこの対応、内部統制の枠組みを利用して構築が可能なのです(システム投資は若干必要ですが)。
今回はその入り口として、情報ガバナンスのための参照モデル(IGRM)についての解説を取り上げてみました。 以下の記述は、基本的にEDRMのWEBページにある解説を翻訳し、手を加えたものです。

1.情報ガバナンスのための参照モデル(IGRM)とは

IGRM_v3.0[1]

情報ガバナンス参照モデル(IGRM)プロジェクトのミッションは、組織が開発を支援し、効果的かつ実用的な情報管理プログラムを実装するための、一般的かつ実用的で、柔軟なフレームワークを提供することです。
IGRMプロジェクトは、法務、IT、データ管理、基幹業務のリーダー層や組織内の他の事業の利害関係者へのガイダンスを提供することを目指しています。
プロジェクトは、組織のニーズに基づき、議論と意思決定のための共通言語と参照方法を提供することにより、これらの利害関係者間における情報交換の促進を目的としています。

2.EDRMフレームワークとの関係

IGRMはまったく新しい参照モデルであり、EDRM(電子情報開示参照モデル)とは別の、対になる概念です。
*EDRM:The Electronic Discovery Reference Model(電子情報開示参照モデル)の略称。eDiscovery(eディスカバリー、電子情報開示)を行う際の「ワークフロー」として、2005年に発足したEDRMプロジェクトによって策定されました。現在、ほぼ世界標準の作業指標として、法律事務所、サービスベンダーなどに採用されています。EDRMやeDiscoveryについては、こちらが分かりやすいですね。

IGRMプロジェクトは、単にEDRMフレームワークの情報管理のための関連性情報を構築することだけを目的としている訳ではありません。データ管理、コンプライアンス、ITインフラなどのような、多数の分野に拡張可能な概念です。

IGRMは単独で成り立つ概念ですが、他から孤立したものでもありません。RM(Records Manager)、コンプライアンス、ECM(Enterprise Content Management)、電子情報開示など、IM(Information Management)関連活動やプロセスと、概念的な相関関係を持ちます。

3.必要性

現在、利用する業種(エンドユーザー、ベンダー、影響力、および他の市場参加者)にとらわれない、汎用目的で広い範囲に適用可能なリファレンスのためのフレームワークが必要とされています。しかし現在、そのようなフレームワークは存在しません。
一方、多くのIM関連のフレームワークがありますが、これらは典型的には、RM構造化情報を取り扱う、または組織固有の、「汎用ではない」、または複数の業界で広く適用されない機能等に過ぎません。

4.コミュニケーションツール

IGRMは、組織内においてIT、法務、コンプライアンス、RM、そして他の利害関係者グループ間の情報交換ギャップの接続を助けます。IGRMは、本来、規範的なモデルの生成を目的としておらず、むしろ横断的な対話とコラボレーションを促進する参照を提供することを目的としています。

5.Q&A

①IGRMはどのように使われるのでしょうか?
IGRMは法務、IT、RIM(Records and Information Management)とビジネス全体における、トップレベルのコミュニケーションを取るためのツールです。IGRMが提供する図は、あなたの会社や組織のより良いコラボレーションや部門横断的プロセス、そしてより良い情報ガバナンスを促進します。

②IGRMとEDRMの関係は?
IGRMはEDRMにおける8つのプロジェクトの一つです。EDRMのよく知られた図は、eDiscoveryのためのモデル(フローなど)を示していますが、IGRMのそれは、情報管理のためのモデルを示しています。

③IGRMの図はどのようにして作られましたか?
IGRMの図は、下記の通り開発されました:
・RIM、証拠開示、および情報管理の専門家の召集
・コミュニティによる議論
・12カ月以上にわたる隔週でのセッション
・いくつかのCGOC(Compliance, Governance and Oversight Council)会議において
CGOCの法人会員の実務家とともにソーシャライズされ、750以上のCGOCメンバーに
広く配布された。
・企業における実務家における調査結果は以下の通り:
全ての回答者が、防御的情報廃棄(不要な情報を定期的に廃棄することによって、
訴訟およびコンプライアンス上のリスクを低減すること)は情報ガバナンスの実践が
目的であったと主張している
・IT部門の2/3、そしてRIMの半数の回答者は、現在の情報ガバナンスに係る責任
モデルは機能していないと答えた。
・横断的法分野、ITそしてRIM担当の80%は、情報と記録マネジメント及びデータ
マネジメントに対するそれぞれの法的義務間における連携がほとんどないか、非常に
弱いと答えた。
・調査の原始データはこちら

④なぜ新たな情報マネジメント図が必要なのですか?
情報のためのライフサイクルモデルや法的事件のためのライフサイクルモデルは多くありますが、ほとんどの企業は法務、RIM、そしてIT組織間の透明性欠如や、それらの組織間におけるシステマチックな連携の欠如によって情報の防御的廃棄ができていません。
IDCは、今後10年間でデータ量は44倍に増加すると予想しています。それと同時に、訴訟費用や保存義務は継続的に上昇し、対応不能な状況が多くの企業にとって発生するものと見込まれます。

多くの場合、詳細なのディスカバリーや記録マネジメントのような単一の原則に縛られたライフサイクルモデルは、ライフサイクルの終了時点で防御的破棄を可能にする正しい変革やプログラムや実践の憲章化(定着?)を可能にするシニアマネジメントレベルの注意やサポートを集めることができません。
IGRMはシニアマネジメントレベルに対する触媒となり得ますし、その点においてARMA、AIIM、Sedonaのような組織によって提供される詳細な規律ツールを補完することができます。

⑤IGRMが私の会社における情報の取扱いに合わない場合は?
ほとんどの企業は、法的義務とIT管理下における情報資産の価値とがシステマチックに統合されたプロセスを持っていないので、その問題はおそらく当たりません。
ステークホルダー間にまたがる関係についてのIGRMの単一な表現によって、IGRMはそれらの関係の重要性を確立し、防御的廃棄に必須の基盤となる。統合的なプロセスを創造することが可能になります。

⑥ダイヤグラムがどのようなツール、技術や活動が必要とされているかについてより規範的となっていないのはなぜですか?
IGRMは、未だ不足しているツールや技術の導入を先導する経営者層の利害関係者が必要な、複雑な情報環境に置かれた企業にとって、必須の初期段階です。
ダイヤグラムは、今日においては稀にしか関連しない、人やプロセスがキーであることを示すツールです。
私たちは、今後数カ月から数年に渡ってこのダイヤグラムを作り上げ、ツールが企業にとって利用可能となるようにします。
CGOCのプロセス成熟度モデルは、こんにち利用可能なリソースですあり、どの点が改善されるべきか、またガイドとしてどのようなギャップが存在するかといった点を企業が評価するのを助けます。

⑦これらのツールは、防御的廃棄や内部関係者間のシステマチックな連携が構築途上にある私たちの今のプロセスを評価するのに役立ちますか?
IGRMには「次のレベル」の詳細を提供するツールがあります。 例えば、eディスカバリーと情報マネジメントにおける13のキープロセスのを概説するCGRCのプロセス成熟モデルがその一つです。
各プロセスは、成熟度に応じ1から4に分けて記載されています - すなわち完全に自動で共通化されていないマニュアレベルから、大きな割合で機能とオートメーション間でのプロセス統合がなされています。

 

以上

一年の総括

歳を取ると一年が早くなると言いますが、まさにそんな気分です。 あっという間に2013年の大晦日となりました。
今年は経済が回復の兆しを見せた年となりましたね。
賛否両論あるようですが、現政権の成果であることは否定できないと思います。

世界的には、政治経済ともに脆弱な状態ですし、周辺国との関係がイマイチ良くないことも不安要因ですが、少なくとも日本国内は経済活動があるべき状態に戻るよう期待しています。
来年4月に消費税率がアップする際の影響をどう抑え込むか、また周辺国との関係をどうコントロールするか(*)、そして世界経済が脆弱ながら安定を続けるか、という基礎的な部分が鍵だと思います。
(*)歴史的に見ても隣接する国同士が「友好関係」を保つことはおかしいので、「冷静に対峙する関係」の継続を望みたいところ。

ということで、引き続き「乱世」を視野に入れつつ今年の総括行きます。

<仕事>
年初より、新しい事務所アイデンティティ(ロゴやWEBページデザイン)をスタートさせ、新サービスの営業活動を開始しています。
この営業活動が成果を発揮するのは来年になりそうですが、既存の分野も順調にお仕事を頂くことが出来、昨年と同レベルの成果を残すことが出来ました。

さて一年間の業務で大きなトピックは「税務調査対策」です。
平成12年あたりから連綿と続けてきた「税理士法第33条の2添付書面」を利用した税務調査対策が完成の域に達し、今年はとうとう所得税、法人税、そしてなんと相続税の税務調査まで「省略」を実現できたのです。
この省略手法は、単に調査の負担を減らす、というだけではなく、顧問先様における「税務リスクマネジメント」が非常に高度なレベルで可能となることを意味します(詳細はこちら)。
今後「私の事務所が関与させて頂ける顧問先様は、税務調査についての心配は一切ない」と断言できるレベルまで完成されました。

なお4月にはマレーシア、6月にはラスベガス+ロサンゼルス、12月にはバリ島+バンコクと、気が付けば4か国も訪問した年でした。それぞれたくさんの経験と成果が得られ、海外分野でも実りの多い年になりました。

<プライベート>
こんな状況ですので、プライベートなんて特筆すべきものはありません…
海外行きの際ホテルや食事を楽しんだり、移動の際バイクを使ったりと、うまく織り交ぜないと難しい状態です。
「日曜日の午後5時ごろ一週間の仕事が終わる」なんて危機的状況を改善するため始めた「週末フリー化計画」は、なんとか「週末の大きな仕事が3つ以内」というところまで来ております(トホホ
唯一、バイクの変更が。G650Xカントリーという小さなバイクから、R1200GS(空冷最終バージョン)という大型オフロードに変わりました。このバイク、日本で売られているBMWバイクの中で一番人気なのですが、その人気にたがわず運転のしやすさ、楽しさはスポーツタイプをしのぐほど。今年は一度大阪-松山往復を試しましたが、疲れは一切ありませんでした。

<体調>
風邪ひとつ引かずに一年乗り切ることを目指していたのですが、5月に問題が起こりました。
突然腹(というより胃)が張って食事が通らなくなり、体のだるさやその他の不調で動けなくなってしまったのです。
が、胃カメラや内視鏡検査まで行って出た結果は「疲れですね」(笑
結局、胃の働きを良くする漢方一発で治りました。
知らない間に疲労がたまっていたようで…
その他は比較的楽に過ごせたようです。
忙しいのは変わらないのですが、疲れを溜めないよう気を付けて来年一年頑張りたいと思います。

<来年の目標>
来年は、今年完成した「税務調査のコントロール力」を、事業承継を中心とした新サービスに加えて、現在の問題解決力をさらに強化、拡大します。
このことで、経営者の皆様の不安を少しでも取り除けるよう、今まで以上に努力したいと思います。
もう一つ、来年は私が監査役を務める会社の上場が予定されています。非常勤ですから常駐する訳にはいかないのですが、会計士・税理士・不正検査士としての経験やスキルをフルに投入して、確実に実現できるようサポートしたいと思っています。

今年もたくさんの方に助けられ、無事楽しく健康で一年を終えることができました。 来年も皆様にとって良い年となりますように。

2013年ACFEグローバルカンファレンス参加報告

1.カンファレンス概要

2013年6月24日(月)から26日(水)まで、ACFEの第24回グローバルカンファレンス(年次総会)に参加して参りました。前回は2010年のアニュアルカンファレンス(ワシントンD.C.)に参加していますので、実に3年ぶりの参加ということになります。

前回は特にテーマを持った参加ではなく、「一度試しに参加してみよう」程度の目的だったのですが、今回は手口が巧妙化し、さらに増え続けるホワイトカラー犯罪への対応について、進んだ米国での取り組みを見たかったという一応のテーマを定めております。

カンファレンスの詳細についてはACFEジャパンのページに濱田理事長によるレポートが記載されていますので、私の受けたセッションや基調講演での興味深いお話をご説明します。

(*)関西不正検査研究会での発表順の都合上、本発表が遅くなってしまいました。

 

2.プレカンファレンス

カンファレンスは、23日から28日まで、1週間近くに渡って行われます。その最初、23日(日)に準備されているのが「プレカンファレンス」です。

滞在日程の関係でプレカンファレンスには出席していませんが、このプレカンファレンスは「カンファレンスのキックスタート」という位置づけで、基本的な内容のセッション(講義)や新メンバーに対するオリエンテーションが行われます。

 

3.メインカンファレンス

このカンファレンスの核となるメインカンファレンスは、プレカンファレンス終了後24日(月)~26日(水)の3日間行われました。

この間、参加者は基本的に以下の通りのセッションに参加することになります。

 ①80分の個別セッション…3+3+2=8回
②一般セッションが2+2+1=5回

上記①と②の全てを受けると、このメインカンファレンスだけで倫理2単位を含めて20単位を超えるCPEが取得できる計算になっています。

今回も素晴らしいと思ったのが用意されたセッション数とその質です。前回もお話しましたが、カテゴリーごとに「トラック」がA~Kの11用意され、そのそれぞれに7セッション(但し重複あり)が用意されています(各セッションの説明はこちら)。また、少なくとも私の受講したセッションは閑古鳥が鳴いたり内容が詰まらなかったりするようなものは一切なく、質の高いものばかりでした。このような内容の「分厚さ」は、残念ながらまだ日本において望み難いところではあります。

さて、以下私が受講したセッションについて簡単にご紹介します。

 

6月24日

①Entertainment Capital, Employee Fraud Capital: Lessons from Employee Fraud in Las Vegas
(エンターテインメントの都、そして従業員不正の都:ラスベガスの従業員不正から学ぶ)

ギャンブルというとイマイチイメージが良くないのですが、日本でも特区として検討されているように、エンターテインメント性も高く、観光産業としては相当なうまみがあるようです。ただ、ストレートに大きなお金が動く世界でもあり、不正を生じる機会は一般的な業種より圧倒的に多いようです。このセッションは、そのような環境で従業員不正をどのように防ぐかという論点を中心に話がありました。

監視カメラなどで厳格な不正防止のための管理をしているという点はある程度予想がつくところなのですが、カジノ事業者には「Nevada Gaming Control Board」が「The Minimum Internal Controls (MICS)」を義務付けている点については、やはりアメリカらしいと感じました。

②Digging Deeper to Discover Fraud with Data Analytics
(不正発見とデータアナリシスの深堀り)

不正調査に関する環境変化、特に制度やデータ量、複雑さの増大にどのように不正検査士が対応していくかについて幅広い講義がありました。

③Forensic Interviewing: Techniques to Detect Deception for Auditors, Examiners and Investigators
(調査のためのインタビュー術)

インタビューテクニックは私が興味を持っている分野の一つです。

苦手な英語の世界で説明される内容のためさすがにそのまま使えるものはないかと思っていましたが、事例もあってそれなりに面白く、参考になる点も多くありました。

具体的には、「過去形を使う」「IではなくWEを使う」「一つの問いに対して多くのNOを使う」などの、嘘をつく際の兆候について説明がありました。

意外だったのは「話す際かぶりを振る(うなずく)」動作。これは英語圏だと怪しいボディランゲージと見られているようです。日本人にとっては普通のことなので、下手に怪しまれないよう気を付けた方が良さそうです。

 

6月25日

①Tools of the Fraudsters: What You Don’t Know Can Hurt You
(不正実行者のツール:知らなければやられる)

このセッションについては、後程詳しくご説明します。

②Exploiting Internet and Social Network Intelligence to Enhance Investigations
(調査に役立つインターネットとソーシャルネットワークの活用)

Facebookなどソーシャルネットワークが流行りですから、このセッションも人気があったようです。少し遅れて会場入りしたのですが、全く席が空いていない混みようでした。一応セッションは先に予約しておくので、おそらく当日予約なしで聴講した人たちがあふれていたのでしょう。特にチェックはしていないようです。

CIAが毎日ソーシャルネットワーク上で500万ものポストをチェックしていることや、調査に使える検索エンジン、ブログサイトなどが説明されました。また、Facebookのプライバシーオプションの変遷(どんどん長くなっている)や、ユーザー間の関係を調べる方法をはじめ、ソーシャルネットワークを利用したプロファイリングの手法について説明がありました。

その他、画像検索や犯罪歴まで検索されるサイト、イメージ検索、など様々な手法、サイトについて多くの説明がありました。

受講者も多かったのですが、皆さん相当重視しているらしく、講義が時間オーバーで終わった後も熱心に質問をしていました。

③Skimming at the Register: Fraud Goes High Tech
(店舗でのスキミング:不正はハイテク化する)

レジスターと言っても日本のように現金主体ではなく、話の内容はほぼ全てクレジットカード、特にスキミングに関するものでした。

クレジットカードの番号から関連する個人情報まで、内容によって1件40セント~20ドル程度までで販売されている実情や、ATMスキミングの手法あれこれについて話がありました。最近らしいなと思ったのは、ATMでのスキミング機器が「3Dプリンタ」を使ってそれらしく作られていることが多いという話でした。

 

6月26日

①Benford’s Law: A Review, Relevant Findings and Recent Applications
(「ベンフォード法」研究)

この講師(Mark J. Nigrini氏)は非常に分かりやすく、進行も上手いなぁと思っていたのですが、良く調べたらベンフォード法を不正調査に適用することを初めて示した研究者だったようです。不勉強でした。なお、この方のベンフォード法に関する書物はまだ邦訳がどれも出ていないようですので、どなたか研究会で一緒に手がけませんか?

幾つも事例が出ましたが、一つ印象的だったのは、「ポンツィ・スキームは人間の作為が入っているので、何らかの関連データにベンフォード法が効果を発揮する可能性が高い」という点でした。今後研究してみたいと思います。

②Travel and Expense Fraud: Keys to a Successful Investigation
(旅費・経費の不正:調査成功への鍵)

アメリカでも出張旅費、経費に関する不正は多いようです。後程ご紹介する「領収書偽造」ページみたいなものが普通に出回っている訳ですから、経営者側も安穏としていられません。

このセッションは、不正を起こす従業員がどのような手法を用いるかを理解し、正しい戦略によって不正と戦う手法や、不正が発覚した場合のインタビューの方法について説明がありました。

 

4.ポストカンファレンス

メインカンファレンス終了後、27日(木)~28日(金)に渡って「ポストカンファレンス」が開催されます。実は日本人向けスペシャルレートにはポストカンファレンス分も含まれているのですが、こちらも日程の関係上参加を断念しました。このポストカンファレンスは、カンファレンスに加えてさらにトレーニングを積むために用意されているそうです。

 

5.セッションのご紹介(1)一般セッション

1)セッションの内容

私が受講した中で、Tools of the Fraudsters: What You Don’t Know Can Hurt You(不正実行者のツール:知らなければやられる)については特に面白かったので、ここで詳しくご説明します。

このセッションは、従業員が経歴や旅費交通費等に関係するホワイトカラー不正に手を染める際、よく利用されるWEBページなどを紹介するものです。これを見てぞっとしたのは、何でもかんでも(低コストで)偽造できる状況にあるなぁ、といったアメリカの恐るべき状況でした。

日本の税務署のように、「コクヨ領収書」が怪しいなどと言っている場合ではありません。こういう状況は遅くとも数年で日本にやってきますので、相当注意しておいた方が良さそうです。

では、以下セッションで説明のあったWEBサイトをご紹介します。

 

2)紹介されたWEBサイト

Bad Ideas

悪事に関する議論が交わされています。「自分のセールスノルマを(不正に)上げるにはどうしたらいいですか?」みたいに他愛のないものも多いですが、シャレにならない質問と答えも出てきます。

The Reference Store

就職活動でレジュメを送る際、やはり前職はチェックされます。その際の前職にフェイクの(良い)情報を書いてしまおうというのがこのサイトです。フェイクの前職にはもちろん問い合わせに対する対応サービスも含まれています。このページ、驚くべきことにFAQの「Is this legal?」という問いに対し「YES! Perfectly Legal. Misinformation on a resume isn’t a crime!」と答えています。ホントでしょうか?

Alibi Network

文字通り、「アリバイ」を提供してくれるサービスです。ホテルやセミナーなど、「あなたがそこにいたこと」を証明してくれます。用途はいろいろありそうですね。

Custom Receipt Maker

ITでの経理処理が進んでいるので、経費支払を証明するレシートの提出をコピーやスマホで撮影した画像で済ましてしまう会社も多いそうです。そこで活躍するのがこれ。

この技術は特に難しいものではなく、例えば「撮影したレシートの画像をそのまま使い、金額だけを自動的に10倍にする」なんて芸当もさほど難しくなく今ある技術で作れてしまいます。

 

6.セッションのご紹介(2)クロージングセッション

1)キーノートスピーカー

アニュアルカンファレンスの締めは、必ず大きな事件となった不正で有罪判決を受けた人間が、更正プログラムの一環として無報酬でスピーチをします。今回はなんとエンロン元CFOAndrew Fastow氏でしたので、実は非常に期待していたのですが…。

ACFEジャパンのページで濱田理事長がおっしゃる通り、「合法だった」とか「破綻することはなかった」などの発言に終始しており、反省の言葉や事件に踏み込んだ発言が全くなかったことにはがっかりしました。聴衆も演壇上の役員たちも同じような表情をしていたのが印象的でした。

 

2)CPE申告

さすがにアメリカ、IT活用は進んでおり、カンファレンス専用のスマートフォンアプリでスケジュール管理、広大なカンファレンス会場のレイアウト確認からレジュメ配布、ネットワーキングまで全てが画面上で行えます。準備を十分にしていなかった前回と異なり、今年はWiFiとiPadを携えて行きましたので、このメリットは十分享受できました(なお会場にはフリー接続可能な無線LANも準備されていました)。

ただ意外なことに、CPEの申告だけは「紙」でした。最初に配布される複写式のCPE申請書に記入、提出するので、ここだけ前時代的でした。

 

7.倫理について

カンファレンスの公式ページには記録されていないのですが、2日目の一般セッションでマネーロンダリング、テロ、組織犯罪対策の専門家Chris Mathers氏の雑談部分に、「倫理」を考える上で興味深いくだりがありました。彼はこのように問います。

「あなたが20万ドルを横領したとする。それで良い地域に良い家を買い、子供が良好な環境で育って、最後には優秀な医者となり、世界の難病患者を救ったとする。これは是か否か?」

おそらく我々日本人のほとんどは「それは悪い」として否定するはずである。しかし、彼らは真剣に「是か非か」を悩むのです。興味深いことに、この悩みは、幼少時からアメリカで育った日本人を両親にもつ若者でも同じでした。

この差は、単に欧米的な功利主義(「最大多数が最大幸福を得られるものが善い」とする考え方)と内面的動機説(「結果よりも目に見えない内的な動機」を重視し、その動機が善いなら倫理的であるとする考え方)という単純な差以上のものがあるようにも思います。

 

8.おわりに

今回はラスベガスという最高のリゾートの一つで行われましたが、残念ながら期限のある仕事が直前に舞い込んだため、カンファレンス終了(日本時間9時)から数時間は部屋で拘束されるという非常にもったいない?期間を過ごしてしまいました。その中でも、日本から行かれた濱田理事長、脇山DQUEST社長、アメリカから参加された成田さん、岩田さんとは会場、夜ともに楽しく過ごさせて頂きました。御礼申し上げます。

以上

間質膀胱炎国際会議(ICICJ)への支援

営利活動を行っている事業者は、税金とは別にその身の丈に応じた社会貢献をする必要があると私は思っています。

それは単に社会に対する責任というだけではなく、適切な社会貢献活動は、企業の規模を問わず長い時間を通じて自らにも還ってくると思うからです。

私も非常にささやかですが、毎年いくつかの社会貢献を行うように心がけています。
その一環として、今年は第3回 ICICJ(International Consultation on Interstitial Cystitis, Japan/間質性膀胱炎国際会議)学会誌への広告掲載を通じて資金拠出を行うこととしました。

http://www.hainyo-net.org/study/icicj/

この学会は、「間質性膀胱炎」という非常に厄介な病気の研究のため開催される国際会議です。
「間質性膀胱炎」は人知れず苦しむ方の多い「隠れた難病」とでも言うべきものですから、派手さはないものの、世界中に苦しむ患者さんが相当数存在します。
この学会やその出席者は、そのような患者さんたちに、適度なコストで有効な治療が行きわたるよう、日々努力している方たちばかりです。

ただ非常に珍しいことに、この学会を主催しているのは開業医でありながら泌尿器科の世界的権威でもある上田朋宏先生個人なのです。それにも拘わらず、学会には世界中から有力な研究者や医師・看護師、そして患者さんたちが出席され、毎回盛会となっています。

とはいえ。
やはり個人でこういう活動を行うには資金集めに最大の困難があります。
上田先生を中心に毎回相当な努力なさっているのですが、いまだ十分とは言えない状況です。

ということで、私の広告がその一助となればと考えております。
もちろん、広告掲載ですから事務所のPRにもなると思いますし、冒頭で書いた通りいずれ何かで還ってくる(利益だけではなく)と思っています。

不正検査士になぜ倫理が必要か

0.はじめに

私が毎年受けている会計士協会の倫理に関する継続的専門教育でも、一般的倫理や職業倫理そのものが一体何であるかまで踏み込んだ議論が少ないように思います。

そこで今回は、非常に難しいテーマではありますが、職業倫理や職業倫理規定とは何かという論点に踏み込んだ上で、我々公認不正検査士(以下CFEとします)の職業倫理や公認不正検査士協会(以下ACFEとします)の職業倫理規則について説明することを試みます。

なおACFEは、年次CPEのうち一定単位(2単位)について倫理に関する研修の受講を会員に義務付けています。

 

1.職業倫理の必要性

①「職業倫理」の定義

職業倫理とは、一般に「様々な職業において、その職業に従事する個人や団体が、自らの社会的な役割や責任を果たすために、職業人としての行動を律する倫理的基準・規範」のことを言います。

この職業倫理の内容はもちろんその職業やその特性によって大きく左右されますが、一般的には単なる法令順守だけではなく、広い意味でのコンプライアンスや、社会的責任の分野まで含まれる場合が多いようです。

 

②なぜ職業倫理が必要か?

大前提として、ほとんどの職業は自らや家族の、また法人などの集団ならばその構成員の(主に財産的)幸福のため営利性を併せ持つ必要があります。しかしながら、人的倫理に背くほど極端な営利の追求は、法令違反となる可能性が高いのはもちろんのこと、自らや周囲の人間を不幸に陥れてしまう場合もあり得ます。

古典的な功利主義(「最大多数が最大幸福を得られるものが善い」とする考え方)であっても内面的動機説(「結果よりも目に見えない内的な動機」を重視し、その動機が善いなら倫理的であるとする考え方)であっても、通常はこのように極端かつ他害的な営利追求は悪であるとされ、個々の職業人も常識として倫理的考え方を持つべきものとされています。

 

③なぜ職業倫理「規則」が必要か

このような職業倫理については、よほどの非常識人でもない限り、その重要性や社会的存在として順守しなければならない考え方であることを理解できると思います。しかし、CFEだけではなく会計士、弁護士、医師、介護など多くの団体でこの職業倫理を敢えて規定化したり、今回のように義務的継続的教育の対象としたりというような動きが現在主流となっています。このように職業倫理に「規則」やそれによる「強制」が必要になっているのはなぜでしょうか。

元々職業団体は、個々の職業人が発揮できない政治力や社会的存在意義を発揮するために成立しています。しかしこの職業団体の規模が大きくなり、影響力を増すと、職業団体が果たすべき社会的責任も当然に重くなってきます。また職業団体が影響力を持つ反動として、個々の構成員のモラルハザードに起因する問題や、職業団体に対する社会的批判も増加してきます。

職業倫理規則は、その職業や職業団体などの社会的存在意義を高めるため、守るべき(最低限の)職業倫理について定めた上でその周知徹底や順守を構成員に課し、またそのように義務を課していることについて社会にアピールする目的があるものと考えられます。

 

④職業倫理規則の一般的構成

様々な職業倫理規則をみると、一般的に下記のような項目から構成されていることがわかります。

  • 倫理フレームワーク
    倫理そのものの基本的・普遍的考え方や、職業団体としての基本的モラルなど
  • 職業団体の倫理
    構成員が倫理性を保つために、団体としてどのようなスタンスを持つべきか、また構成員が倫理を保つための教育、管理などの方法
  • 構成員の倫理
    構成員それぞれのモラルを定める。コンプライアンス、継続的教育、機密保持、独立性の保持などにより構成される
  • 職業倫理に係る実務指針など
    より具体的な実務上の行動指針、判断などを示したもの

2.CFEの職業倫理について

(不正検査士マニュアルより)

「不正検査士として下す決定は、依頼人や企業だけでなく、調査の対象となる個人にとっても極めて重大なものとなる。そのため不正検査士は、非常に高い倫理観を保持しなければならない」

 

米国発祥の民間資格であるCFEには、弁護士、会計士や医師といった資格のように規制する法令が存在しません。またCFE業務は一般的に「相反する利害関係を調整する」といった意味合いをあまり強く持たない反面、「不正=悪」というストレートに倫理的側面が問題となる可能性の高い職業であると言えます。また、不正防止対策を検討する際、依頼人によって自らの倫理的スタンスを上回るレベルの倫理的概念を検討すべき場合もあり得ます。

また、CFEの業務が「不正と対峙すること」を直接的な目的としている点は、他の職業と異なる重大な倫理的問題を引き起こす可能性も秘めています。それは、フリードリヒ・ニーチェが「善と悪を超えて(Jenseits von Gut und Böse)」において述べた有名な言葉に言い表されています。

怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。

おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。

3.ACFEの職業倫理規定について

①CFEは、常に専門性と勤勉さをもって自らの職務を遂行する

マニュアルにおいては、専門性については個人のレベルと団体のレベル両方が大事であると述べています。また勤勉さについては、単に勤勉に業務を行うことだけを意味するのではなく、十分な調査や機密保持、利益相反の回避など広い概念を含む意味合いで説明がなされています。

 

②CFEは、違法行為、非倫理的行為あるいは利益相反行為に該当する恐れのある活動には一切関与してはならない

違法行為が禁止されるのは当然ですが、マニュアルには特に名誉棄損、不法監禁について禁止行為の例として説明がなされています。

またCFEが業務を行う場合問題となる利益相反行為についても説明がなされています。利益相反行為に関する論点については、後述の事例で触れます。

 

③CFEは、専門職としての職務遂行にあたり、常に最高の倫理観と誠実さを発揮し、自らの経験・能力に照らして、専門職にふさわしい成果が出せると期待できる範囲においてのみ依頼を引き受ける

CFEは誠実性の基礎として、正直さ、信頼感や機密保持は不可欠であり、そのほか倫理規定が適用できない場合に備え道徳哲学のセンスを研ぎ澄ますべきであると述べています。

 

④CFEは、裁判所の命令を順守し、公正無私に真実のみを証言する

この規則においては「裁判所」と記載していますが、実際には同様の命令を出す司法的権限のある機関も含まれています。そのような場所で答弁を行う場合も、偏見や先入観を交えずに証言すべきであるとされています。

 

⑤CFEは、不正検査を実施するか程度意見を述べる場合には、その根拠となる証拠を入手する。個人もしくは団体の罪状については、一切意見を述べてはならない

本質的には、CFEは特定の誰かが悪事を働いたことについて意見するのではなく、それを「いかにして、誰が、どの程度」行ったかについて客観的な証拠を述べなければならないと説明されています。

 

⑥CFEは、職務遂行過程で知り得る機密情報を正当な許可なくして口外してはならない

CFEには秘密保持について法令による禁止事項やその罰則がないため、この項目は相対的に重要であると言えます。マニュアルにはこの項目について相当な紙面を割いて事例を含め説明していますが、分量の関係で省略します。

 

⑦CFEは、不正検査において発見した重要事項を、事実を歪曲することのないよう全て明示しなければならない

CFEの報告書に記載された証拠や結論は、多くの場合において依頼人の意思決定に大いなる影響を与えます。この為、CFEは自らが作成する報告書が利用者による意思決定プロセスまで理解し、必要とされる情報を正確に与えなければならない点が説明されています。

 

⑧CFEは、自らの指揮の下で提供する専門的サービスの能力及び効果を高めるために、絶えず努力しなければならない。

この点はどの職業倫理規則にも記載されている項目ですが、特に不正行為の状況が常に変化しており、これには適時に継続的学習を続けるべきである点などが説明されています。

4.CFEの職業倫理事例-利益相反

CFE業務は、不正調査という幅広い対象を扱う関係上、複雑な利害が対立する中での業務を行う必要のある可能性も高くなります。また、前述の通りCFE自体を規制する法律がないことも影響し、利益相反と一言で表現しても大変バラエティに富んだ事情を考慮しなければなりません。

マニュアルにおいては「明らかに避けるべき問題点」として、ある会社に所属しているCFEが調査対象となる別の企業や個人に雇われるといった、双方代理の禁止(民法第108条)に近い概念について述べています。

この点について、2010年のアニュアルカンファレンスにおけるセミナーから抜粋で説明します。

===================================

一般に、不正調査は、第三者からの抗議か、又はクライアントや弁護士による、対象となる事実を説明した上での依頼からスタートします。

この時点で最も重要なのは、契約を受諾することではなく、まずあなたが利益相反チェックを行い、調査対象があなたの現在のクライアントと関係していないかをチェックする必要があることを依頼側にわからせることです。

通常、このような利益相反チェックはあまり問題とはならないものですが、特定の従業員が電子メールチェックを滞らせていたり、海外に出張していたり、あるいはまったく電子メールを見ていないなどの理由で利益相反チェックに応じない場合も多くありました。

このような時、この業務によってパートナーになることを切望している個人が、そのチェックに応じていない最後の人間が利益相反を抱えていないという確信に基づいて契約することはまれではありません。

また、他の競争相手に仕事を取られてしまうリスクを恐れるがために、新しい業務を持ち込んだり早めに契約を受け入れたりといった特定の圧力も存在します。その結果、利益相反チェック完了前に契約を受け入れたりすることがあります。

別のケースとしては、個人個人が利益相反について十分な情報を持たない時が挙げられます。利益相反チェックの場合、対象となる「名前」は回覧などがなされますが、そこに住所やビジネスパートナー等の関係がリストされていない場合も多くあります。後になって個人や企業が、機密サービスを提供する会社のクライアントやパートナーと密接な関係にあったことがわかるというケースも少なくありませんでした。

 以上

Le Cheminant Skymaster

先日手元にやってきたちょっと古い時計。
アンティークというべきか微妙なところなんですが、1950~60年代のものです。
時計メーカーは”Le Cheminant(ル・シェミナン)”だそうです。

メーカーについてはあまり有名ではないのですが、問題なのはその「中身(キャリバー)」です。

この時計が使っているキャリバー(心臓部)は、「フェルサ693」という、「両方向自動巻」を世界で初めて実現した点など、結構有名かついろいろな時計メーカーで採用された機械だとか。

フェルサ6**シリーズにはいろいろなバリエーションがあるのですが、その中でもこの機械は「トリプルカレンダームーンフェイズ」と言って、月、日、曜日と月の満ち欠けを表示できる、結構な複雑機構を持ってます。
#但し、月は手動です(笑
しかも、このシリーズでも高級な部類に入る「25石」装備となっています。

アンティウォッチマンさんで見ている時は写真が不鮮明で迷っていたのですが、手元に来てから軽く磨くと、ちょっとしたヤレ感を残しつつキレイな輝きを取り戻し、とても良い雰囲気を醸し出してくれてます。
オーバーホール直後で精度も文句なしですし、値段を考えると、見た目も性能もかなりな掘り出しものでした。

あなたは必ず騙される ~ ポンジ・スキーム研究(5/5)

今回は「ポンジ・スキームを見抜き、騙されることを防止する」方法について考えてみます。

なお、ポンジ・スキームの歴史や事例は以下の通りです。
その1:歴史や特徴 その2:マドフ事件 その3:AIJ事件(1) その4:AIJ事件(2)

4.ポンジ・スキームの分析

ポンジ・スキームは、通常の詐欺のように「騙す側と騙される側」という単純な構図だけで成功するわけではありません。この悪事が上手く回るためには、騙す側に一定の特徴を持った①首謀者、②協力者、そして③紹介者という登場人物が揃っている必要があります。

また、騙される側にも①プレッシャー・機会、②ガバナンスの弱さ、③情報・知識の欠如といった、一見「不正のトライアングル※」にも似た要因が備わっていなければなりません。

 ponzischeme
ポンジ・スキームの構造

※米国のドナルド・R・クレッシー教授が提唱した不正の仕組みに関する理論で、(1)不正を行うための「動機・プレッシャー」、(2)不正を行うことができる「機会」、(3)不正を行うことが本人にとって「正当化」といった条件が一つでも増加すれば、それだけ不正の発生する可能性が高くなる、とされています。

この項目においては、これらの登場人物や、騙される側の要因について説明し、これらを踏まえて「見抜く」ための方策について説明します。

 

①首謀者

様々な(成功した)ポンジ・スキームを分析すると、首謀者となる人物像については、以下のようなプロファイルが浮かんできます。

  • AIJの場合:浅川和彦社長
  • マドフ事件の場合:マドフ受刑囚
  • 首謀者のキーワード:雄弁、大胆不敵、カリスマ、名声、人脈、社会貢献(しかしその裏には虚栄心、狡猾、金銭欲、虚飾などの裏がある)
  • 投資話を全面に出す以上、「この相手で大丈夫か?」と思われては上手くいかない。
  • きちんとしたビジネススーツ、靴や時計、カバンや名刺入れなど、これ見よがしの高級ブランドではないが、決して安物ではない、一般人にも分かりやすいブランド
  • 一等地の事務所、居宅と現代的な調度品、高級ホテルなどの利用
  • 本当の悪人は「悪人面」をしていない
  • 華麗な経歴と実績(但し虚偽や誇張が含まれることの方が多い)
  • 顧客へ提供する投資に対する絶大なる自信と実績(但しこちらも虚偽が含まれることの方が多い)
  • 断定的で力強い説明、ビジュアルに優れた資料(但しきちんと分析すると内容は薄く、虚偽も多い)
  • 大物政治家、官僚OBなど、政財界キーパーソンとの親密な関係(但し金や接待に基づくものや、一方的なものが多い)→最近はSNSなどで写真を誇示することも多い

 

②協力者

ポンジ・スキームは首謀者だけで上手く回る訳ではありません。首謀者のカリスマ性を支え、実務の分野を確実に進める「協力者」は必須です。

  • AIJの場合:高橋成子(しげこ)取締役
  • マドフ事件の場合:不明(マドフ以外あまり表に出てこないが、幹部社員の中にはこれに当たる者がいたと推定される)
  • 首謀者の右腕となり、忠実に詐欺行為やその管理行為を実行
  • 実務を行っているため、首謀者よりも実情を理解している。違法性も認識している場合が多い
  • 口は堅く、信頼できる。堅実な仕事ぶり
  • 首謀者に対しては服従に近い関係(悪いこととはわかっていても絶対に裏切らない)
  • 首謀者とは最も長い付き合い

 

③紹介者

  • AIJの場合:社会保険庁OBや投資基金担当者自身
  • マドフ事件の場合:ファンド・マネジャーや投資家など

ポンジ・スキームに限らず、投資詐欺被害拡大の原因として「紹介者」による部分は少なからず存在します。

詐欺の被害に気付いた人間が、その詐欺師を友人や知人、親族に紹介することはまずあり得ません。しかし投資詐欺の場合は「騙されている」ことに気づかされないまま、拠出した資金が高利で運用されていると思い込まされていることがほとんどです。そうなると、その良いパフォーマンスを身近な人たちにも教えてあげたいという親切心(または「自分がこれだけ儲けている」ことを示したい、若干の自己顕示欲かも知れません)から、詐欺被害を拡大させる手助けをしてしまうのです。また、先に述べたカリスマ性などから首謀者に心酔してしまい、宗教的に他人を勧誘してしまうケースも多くあります。

例えば「こんな良い話はない。私も多額の配当を受け取っており、経営者も信頼できる素晴らしい人だ」などと初対面の人間に言われても警戒心ばかりが募ってしまいますが、もし同じことを信頼している知人から言われた場合、人間の心理として警戒心の水準が大きく下がってしまう傾向があります。つまり、「この投資話は大丈夫かどうか」を自分で判断するのではなく「この人が持ってきた話なら大丈夫だろう」と、投資話の内容より普段から付き合いのある、信用できる紹介者の人間性で信じてしまうのです。

余談ですが、Facebookやtwitterをマーケティングに活用する場合も同じ考え方に基づいています。詐欺とは違いますが、「友達」や「フォローしている人」など、自分が信頼している者からの情報というものが無防備に受け入れられがちな点は全く同じであると言って良いと思います。

 

2)騙される側の特徴

残念ながら、騙される側にも一定の特徴を持つ人的、組織的、環境的要因があります。もちろん細かい原因まであげつらうとたくさんあるのですが、大きく分けると①プレッシャー・機会、②ガバナンスの弱さ、そして③情報・知識の欠如という要因が大きな影響を与えていると考えます。

この3要素、一見すると前述した「不正のトライアングル」に似ています。が、これはあくまで騙される側の要因であり、不正のトライアングルのように「どれかの要因が大きければ他が小さくても不正が発生する」というわけではありません。

では、これらの要因を以下順に説明していきます。

 

①プレッシャー・機会

  • 金のない人間がギャンブルにのめり込むのと似た状況
  • 困窮→金銭欲、あせり、射幸心
  • 長期的には絶対的に資金が足りないが、短期的には借り入れや資産売却などで少し使える資金がある、もしくは調達できる状態にある(この資金を狙われる)
  • AIJ事件の場合、厚生年金基金の抱える財政的な問題がこれに当てはまる

 

②ガバナンスの弱さ

  • 個人の場合…意思決定の弱さ、相談者・指導者の不在
  • 法人の場合…健全なガバナンスの欠如、専門家の不採用、事務の集中
  • AIJ事件の場合、厚生年金基金のガバナンス不在がこれに当てはまる

 

③情報・知識の欠如

  • 権威者やその華麗な人脈、虚偽データに対する無駄な信頼
  • 業界誌(雑誌や新聞)の記事などに十分な注意を払っておらず、最新情報に疎い。前任者まで連綿と受け継がれた古い情報や前例にのみ基づいて意思決定し、前例のない動きは極力しない→いわゆる天下り人材に多くみられる特徴
  • AIJ事件の場合、厚生年金基金における専門知識を持った運用担当者の欠如がこれに当てはまる

 

3)ポンジ・スキームを見抜く

①大原則:「うまい話はない!」

これまで説明した通り、騙す側と騙される側にはそれぞれ特徴があり、これらをきちんと認識できれば見抜くことはそれほど難しくありません。

しかし、最も重要なのは「理由もなくうまくいく話は絶対にない」という事実を認識することです。当たり前かもしれませんが、結局はこの常識的な認識が詐欺の被害から自らや組織を救うのです。

ただ、個人の場合はともかく、組織、特に大規模法人になると、誰かひとりがこのセンスを研ぎ澄ましたところで被害は防げません。なぜなら、例えばその上司が騙されれば、そのセンスを持った者の努力は水泡と化してしまうからです。

このような場合に組織として対応力を持たせることができる手法が、内部統制の整備による方法です。

内部統制というと、昨今のいわゆるJ-SOXブームやその終焉によって「財務報告に限られたもの」や「もう流行らない論点」であるような認識がありますが、実はこのような不正に対応するためのマネジメントには強力な効果を発揮するのです。

この方法の詳細については別の機会に譲りますが、一般に組織内における不正を防止するための「不正リスクマネジメント」を若干拡張し、騙す側、騙される側の特徴をリスクとして認識することで、不正リスクマネジメントによるポンジ・スキームへの対応が可能となります。

 

②騙される側の特徴を排除

前述した「内部統制の整備によるリスクマネジメント」は確かに有効な方法ですが、これを的確に行うためには内部統制の整備・運用に関する十分な知識と経験が必要となり、おそらく公認会計士や不正リスクマネジメントを専門に行っている者でなければ十分な運用ができない可能性が高いと思います。

また、「騙される側の特徴」の一つである「プレッシャー」や「機会」が強く顕在化した状況、すなわち財政的に逼迫した状況などが起こってからそのような体制を整備することは大変難しいものです。

しかしながら、「騙される側の特徴を排除」することで、このようなスキームをもっと簡単に見抜くことを容易にする方法があります。

 

a)信頼できる専門家の活用

AIJ事件の場合、被害を受けた厚生年金基金の運用担当者のかなりの割合が、専門的な運用の知識を持っていなかったと言われています。このような担当者が十分な知識を持っていることが最も重要ではありますが、人的リソースの問題から、そのような担当者を専任で置くことが難しい場合も多いと思います。

また同事件の場合、AIJや営業を担当するアイティーエム証券の担当者は「同じ業種の基金も運用に使っている」と勧誘したり、同県内の基金の実名を出して「こちらは増額すると言っているが、おたくも増額しないか」と勧誘したりといった手法を採っていました。実際にはこのような営業スタンスを全面に出した時点でAIJは破たん状態にあったとみられ、業界誌などにも疑念が呈されたり解約が相次いだりしていたと言われています。とすれば、このような情報がきちんと入手できれば、他の業種などを挙げて安心感や焦りを誘う手法の効果を著しく下げることが可能となります。

そのためには、勧誘者から独立した第三者であるアドバイザーを置くことや、そのようなアドバイザーを必要に応じて依頼することができる体制を準備しておくことが望ましいと考えます。

往々にしてこのような詐欺の首謀者は、先に述べたように「他の者はこれで稼いでいる」、「今決めなければ十分なゲインが取れない」などと急かすことがありますが、「専門家に意見をもらわなければ意思決定ができない」という判断を貫くことが肝要です。

また、信頼できる専門家から、正しい知識に基づいてこのようなスキームの首謀者に対して監査報告書などを要求する場合、本人の名声を利用してその提出を回避したり(○○さんなんだから信用してくださいよ、といった言い方)、改ざんされた報告書を提出することなどが比較的難しくなります。

 

b)正当な期待(収益など)の醸成

AIJ事件の場合もマドフ事件の場合も、大きなポンジ・スキームには必ず小さな声ながら異論を唱える者が現れます。それは、異論を唱える者、すなわち一定の知識を持った者にとっては、特に革命的な運用スタンスを採っている訳でもないのに、状況から見てあり得ない運用収益率を継続したり、他が壊滅的な打撃を受けている際に無傷だったりという事実自体が異常なものに映るからです。

先に「うまい話はない」が大原則であると述べましたが、一定額の投資に対しては、様々な投資手法において通常どのようなリスクとリターンが見込めるか、という認識、言ってみれば「正常な期待(収益)」の認識を醸成することが非常に重要です。

これに加えて会社など法人や組織の場合、この認識は単に運用担当者だけが持つのではなく、組織におけるトップから末端の構成員に至るまで、それぞれの階層に応じた正しい認識を持っておく必要があります。

 

c)ガバナンスの保持

報道を見ていると、AIJ事件の原因の一つとして、先ほど説明した「厚生年金基金におけるガバナンスの欠如」があると明確に断じている記事は少ないように思えます。

しかしながら、多くの厚生年金基金が「騙される側」に回った理由の、最も根本的な原因はここにあるのではないかと私は考えます。

すなわち、株式会社であれば出資者である株主が株主総会などを通じて最低限会社のガバナンスを保持しますが、厚生年金基金の場合、資金の拠出者である加入者はそのような力を持っていません。このため、加入者から預かった掛け金を慎重に運用するためのガバナンスが欠如していると言えるのです。

 

③「焦り」への対処

ただ、そのようなキレイごとを言ったとしても、経済的に困窮している者は「藁をも掴む」ことがあり得ます。個人の場合は自分の判断が自分の損失につながるためやむを得ないとも言えますが、組織、例えば法人の運用担当者の場合、自らの意思決定と法人のゲインが完全に連結していない点が問題となります。

すなわち、仮に担当者個人が怪しいと認識したとしても、「もしこのスキームが不正でなければ利益をみすみす取り逃がしてしまう」という焦りを本人やその上司などが持った場合、「その機会損失が本当に発生したら自ら(もしくはその上司)の責任となってしまいかねない」という迷いが発生する可能性があるのです。

そのような状況に加えて、他の「紹介者(特に多少なりとも権威のある者)」が「あの人なら大丈夫、私(の組織)も十分な収益を上げている」などという意見を述べようものなら、せっかく掴んでいた兆候が無駄な結果になりかねません。

こういったシチュエーションは非常に悩ましいため、ここでは対策として一例を述べるにとどめたいと思います。

まずは前述の特徴(騙す側、騙される側)の特徴を分析し、複数が当てはまる場合には如何に良いパフォーマンスを提示されても扱わないと定め、これを組織のリスクマネジメント基準の一つとして規定しておきます。この結果、騙されないという効果とともに、客観的な指標によって判断するだけで、担当者が機会損失を発生させるのではないかという懸念により判断を鈍らせることを防止できます。

 

5.おわりに-ポンジ・スキームはなくならない

不況色が強くなるとポンジ・スキームが増えるきらいがあります。これは、以下のような理由によるものであると考えます。

  • 騙される側が増える:一般的な詐欺と違って多数の者を巻き込む必要があるため、不況色が強くなる→良い運用先を必要とするものが増える→騙される側の者が増える
  • 発覚が増える:騙される側が増えると、確率的に注意深いものやスキームの粗を目にするものも増え、発覚する可能性が高くなる

いずれにしても、元祖ともいえるポンジから現代に至るまで、投資詐欺の王ともいえるポンジ・スキームは途切れることなく発生していますし、また今後も根絶されることはないと思います。

日本公認会計士協会がこの問題を受けて提言を出していますが、監査義務の増加だけで不正が防げるものではありません。最近ようやく不正への対応に踏み出した監査が、100年の歴史を持ち、人間の心理に深く浸透する不正スキームに十分対応できる訳がないと思います。

我々は公認不正検査士の知識や経験を生かし、少しでも多くの人がこのような詐欺の被害に遭わないよう、また被害を防ぐよう努力を続けたいと思います。

 

税理士法人耕夢のWEBページはこちら

あなたは必ず騙される ~ ポンジ・スキーム研究(4/5)

前の記事はこちら

3)本事件の登場人物
前回まで、AIJ事件のあらましを説明してきました。これを受けて今回は、この事件の首謀者を中心とした登場人物たちのプロフィールについて触れてみたいと思います。このコラムの次回で説明する予定ですが、「ポンジ・スキーム」を理解する上でこの「登場人物たちの特質」は非常に重要です。

①浅川和彦代表取締役

まずは「首謀者」と言われる浅川和彦代表取締役です。
AIJ社長の浅川和彦氏は横浜市立大学卒業で、75年に野村證券に入社。個人営業部門で実績を積み上げてきた実力派で、「伝説の営業マン」と呼ばれていたそうです。

そんな実力の助けもあり京都支店営業次席、熊本支店長と出世階段を順調に上っていったのですが、ある時突然退社しています。バブル崩壊の影響で、個人的な投資に失敗し借金を抱えたためといわれていますが、真偽のほどは不明です。

その後浅川氏は、外資系の米ペイン・ウェーバーを経て96年頃に歩合外務員として一吉証券に移籍、営業マンとして抜群の成績をあげ、個室と秘書を与えられるという破格の待遇を受けています。なんとその際の女性秘書が、次に説明するAIJの高橋成子取締役でした。

最終的に浅川氏は独立、AIJの前身の投資顧問会社(エイム・インベストメント・ジャパン)を買い、2004年ごろから企業年金を扱うようになりました。

周囲が話す浅川氏の人となりは、以下のようなものです。

  • 言葉巧みで負けず嫌い→元同僚「好きなマージャンでも、負ければ朝までやって取り返そうとした」
  • 断定的な物言いをし、リスクを説明しない古典的営業スタイル
  • 商品性を説明して納得してもらうというより、トップセールスマン特有の「人柄で契約してもらう」というもの典型的な野村の営業マン。人あたりがよくお調子者。「証券マンは普通7時には出社するんだよ!」
  • 贅沢な生活ぶり→東京・六本木の高級マンションに住居を構えており、毎日毎日社員に食事をおごるなど羽振りの良さ
  • 高額納税者番付に掲載

②高橋成子(しげこ)取締役

次は浅川氏の側近中の側近、高橋成子取締役です。高橋氏の経歴は下記の通りです。

  • 東京出身で、大手証券会社で投資信託を販売していた
  • 浅川社長がペイン・ウェーバー証券の時代に知り合う
  • 浅川社長が一吉証券に転職したのち秘書となる
  • 浅川社長のAIJ社長就任とともに同社取締役就任
  • AIJの資金や実印等を預かり、経理を中心として実務全般を任せられていた。浅川氏が使う経費などのチェック役
  • 平成17年2月から19年6月まで旧社保庁OB・石山勲氏の東京年金経済研究所の役員も兼務
  • AIM Investment Advisors Ltd取締役
  • 浅川社長の指示に従って、虚偽の運用報告書を作っていたとされる。
  • 役員報酬は月額350万円。高額の報酬は、口止め料の意味もあったらしい。
  • 証人喚問の予定だったが、病気(うつ)によって拒否

③松木新平取締役

浅川氏以外にも、元野村証券の大物が関与していました。

  • 元野村證券常務→浅川社長の野村証券における大先輩にあたる
  • 大物総会屋「小池隆一への利益供与事件」(平成9年5月)で、野村證券の酒巻社長・藤倉常務と共に逮捕され、懲役8月(執行猶予3年)の刑を受けた
  • 兵庫県の県立篠山鳳鳴高校を卒業、野村証券に入社。「最後の高卒社員」
  • 現場一筋のたたき上げで、大阪証券取引所で顧客の注文を場につなぐ『場立ち』をやったこともある
  • 東京に転勤後は外資系の金融機関などに転換社債を販売することで営業力を発揮した
  • 野村時代相場動向の詳しい情報提供や、値上がりする株がよく当たる人物として有名だった→この知名度がAIJにおいても資金獲得に貢献していた?

④西村秀昭社長

AIJの「販売部隊」として活躍したのがアイティーエム証券です。この西村社長は証人喚問において「運用については知らなかった」と述べ、議員から「あなたは被害者か加害者か」と問われると「どちらかというと被害者」と回答しています。この答弁には強い反発がありましたが、再度問われた際には「販売に関しては責任があり、そういった意味では加害者だと思う」と訂正したものの、不正への関与は否定しています。

  • 1955年:東京都生まれ。
  • 1979年:山一証券入社
  • 1985年:山一オーストラリア シドニー支店株式部長
  • 1989年:同メルボルン支店長 主に政府機関の債券発行やM&A(企業吸収・買収)で活躍。
  • 1992年:山一證券本社外国法人部課長、
  • 1994年同事業法人部次長。 欧米大手ヘッジファンドの日本証券営業や大手企業のファイナンス・資金運用等を担当。
  • 1998年1月:退職、アイティーエム証券(今回の事件においてはAIJの営業部隊にあたる)の設立準備へ。
  • 1998年6月:アイティーエム証券を設立。(山一OBを集め設立)

⑤石山勲氏

この問題には、社会保険庁のOBも関係しています。
大半の被害は厚生年金基金に集中していますが、それぞれの厚生年金基金の常務理事はほとんどが社会保険庁のOBのいわゆる天下りでした。これらの役所のOK同士はお互いに信頼することも多く、特に先輩後輩の間柄は非常に話のしやすい関係だったと思います。そしてこれらの理事はAIJの販路拡大にも関与しています。例えばこのような理事が「遠く離れた他県にまで出向き、AIJの採用を働き掛けたこともある」とも言われています。

石山氏とAIJとの関係は、以下の通りです。

  • 都内の年金基金(常務理事)に天下り(このとき浅川社長と知り合う)
  • 2004年に年金コンサルタント会社を設立(千葉県)、この会社の取締役には高橋成子氏も就任している
  • AIJと顧問契約(契約料:年間数百万円)
    セミナー開催、社保庁OBの年金基金への天下り組を参加させ、紹介や勧誘(接待攻勢)による営業活動を行っていた
  • AIJとの顧問契約は数年前に解消したと本人は述べているが、実際は年金コンサル会社の運営をAIJに任せていた。
  • 愛知県は特に石山氏の社会保険庁での最後の赴任地で、大勢の後輩が年金基金の現役幹部として働いていることから、被害が大きかった。

⑥萩原和男氏

同業者としては残念ながら、この事件には最悪の形で公認会計士が関与していました。事件発覚当初は、新聞などに荻原氏の名前や関与度合いが余りでなかったためセミナーなどでは名前を伏せていたのですが、後述の通り金融庁から懲戒処分を受けてしまっています。本来最後の砦であるべき監査報告書を改ざんするという関与は、首謀者に勝るとも劣らない重大性を持っていると思います。


平成25年4月26日
金融庁

公認会計士の懲戒処分について
公認会計士が行った下記の行為について、公認会計士法(昭和23年法律第103号)に違反すると認められたことから、本日、同法第31条第1項の規定に基づき、下記の懲戒処分を行いました。

1.処分対象 公認会計士 萩原 和男 (登録番号:第6734号 住所:東京都中央区)
2.処分内容 登録の抹消
3.処分理由 萩原和男公認会計士は、AIJ投資顧問株式会社(以下「AIJ」という。)の社長の依頼を受けて次の(1)から(3)までの行為を行った。この事実は、公認会計士法第26条に規定する信用失墜行為の禁止に違反すると認められる。
(1)当該公認会計士は、AIJが運用する外国投資信託AIMグローバルファンド(以下「ファンド」という。)の平成20年3月期から平成23年3月期までの4期について、虚偽の基準価額に基づくファンドの運用報告書を作成した。
また、真正なファンドの決算書に対してファンドの監査人が作成した監査報告書について、限定付適正意見を無限定適正意見へと書き換えるなどの改ざんを行い、これを当該運用報告書に添付した。
特に、平成21年3月期については、AIJの顧客である1つの企業年金基金へ交付されることを知りながら当該運用報告書を作成した。
(2)当該公認会計士は、ファンドの個人顧客であることは知らなかったものの、その者に提示されることを知りながら、ファンドの監査人が作成した平成22年3月期のファンドの監査済決算書について、虚偽の基準価額に基づくファンドの運用報告書と内容が一致するように改ざんを行った。
また、この際、当該監査済決算書に含まれる監査報告書について、限定付適正意見を無限定適正意見へと書き換えるなどの改ざんを行った。
(3)当該公認会計士は、当該公認会計士が経理を担当していたファンドの管理会社であるAIMインベストメントアドバイザーズリミテッド(以下「AIA」という。)の平成22年3月期の決算において、銀行から受領した預金元帳や入出金伝票などの証憑の改ざんを行うなどして、本来AIAの管理報酬ではない約6億円を不正に売上計上し、約3億2,800万円の利益を過大計上する不正経理に協力した。

以上

最終回(5/5)は、「ポンジ・スキームの分析」についてご説明します。これまで説明した事件や、その登場人物、だまされる側の特徴などを分析し、ポンジ・スキームに引っかからないための方法について述べる予定です。

税理士法人耕夢のWEBページはこちら