第4部 購入後の駆除・修復・毎年のメンテナンス
前回は、中古住宅や別荘を買う前に、シロアリについて何を調べ、どう購入を判断するかについて書きました。
では、安心できる物件を無事に購入したら、それで全て終わりでしょうか。
残念ながら、家の環境は購入後も変わります。雨漏りや配管の不具合が起きるかもしれませんし、植栽が伸びたり、リフォームによって、それまで見えていた基礎や床下が見えなくなることもあります。
今回は連載の締めくくりとして、購入後にどうやって家を守っていくか、私のラボでの経験も踏まえて考えてみます。
1.引渡し直後にすること
最初にしておきたいのは、「買った時点の状態」を残すことです。
入居やリフォームの前に床下を調べ、建物の外周、基礎、水回り、点検口から見える範囲をできるだけ写真に撮っておきます。過去の防蟻工事の保証書、施工範囲が分かる図面、修繕の請求書なども、ここで一度まとめます。
あとで不具合が見つかったとき、「このひび割れは買ったときからあったのか」「床下の木材は以前から変色していたのか」が分かるだけでも、判断がずいぶん変わります。
雨漏り、配管漏れ、排水不良があれば、先に直します。家の周りに置いたままの木材や段ボール、切り株など、シロアリの入り口になりやすいものも確認します。捨てられるものは撤去し、残すものは建物に接触させず、周囲を見られる状態にしておきます。
床下点検口がない、あるいは点検口はあるのに肝心の場所へ行けない場合には、リフォームの機会に増設を検討する価値があります。
ラボの場合、元々このような点検口が付いていなかったため、工務店さんが新たに作ってくれました。おかげで今回も迅速にどこが問題かを見つけることができました。
見えるようにしておくこと自体が、「中がどうなっているか分からない」状態を防ぐ立派な対策だと思います。
2.シロアリを見つけたら
羽アリや蟻道、見慣れない土の塊を見つけると、すぐに市販の殺虫剤を吹き付けたくなるかもしれません(私もやりました)。
厳しい話ですが、見えるところで明らかな痕跡が既に出ている以上、被害は大きく広がっていると思ったほうが良いでしょう。
冷静にまずは写真を撮り、発見した日時と場所を記録します。
畳を上げられるとしても、焦って被害箇所をむやみに壊したり、蟻道を全部取り払ったりする前に、専門業者に見てもらう方が侵入経路を追いやすくなります。
もちろん、大量の羽アリが室内に出て生活に支障があるなら、その場の片付けまで我慢する必要はありません。可能な範囲で記録を残し、早めに連絡する、という順番です。
調査では、シロアリの種類、侵入経路、食害が及んだ範囲と、調べられなかった範囲を確認します。そのうえで駆除・予防の範囲を決めます。
ここで特に大切なのが、「シロアリを駆除すること」と「傷んだ建物を直すこと」は別の作業だという点です。
薬剤処理を終えて虫がいなくなっても、食べられて弱くなった床板や柱の強度は戻りません。木材をどこまで交換・補強する必要があるかは、建築士や工務店にも確認してもらう必要があります。雨漏りや漏水があれば、その原因も直して初めて、再発防止の話ができます。
3.防除方法は家に合わせて選ぶ

シロアリ対策には、床下の土壌や木部を薬剤で処理する方法、餌を使って集団に作用させるベイト工法などがあります。建物の構造によっては、侵入しやすい隙間を見直すことや、床下を点検しやすくする改修、水分を減らす工事も重要です。
「では薬をまけば大丈夫?」と聞きたくなるところですが、そこは少し難しい所です。
例えば、地中から侵入するヤマトシロアリやイエシロアリと、乾いた木材の中で生活するアメリカカンザイシロアリでは、被害の見つけ方も対処の考え方も異なります。床下に入れる家と入れない家、居住中の家と長期不在の別荘でも、選べる方法が違います。
薬剤処理とベイト工法にも、施工する場所、継続的な点検の必要性、費用などの違いがあります。日本しろあり対策協会も、新築時の予防と既存建築物の処理を分けて説明しています。
何という工法が一番強いか、という聞き方よりも、「この家のどこから入り、どこまで被害があり、この方法でどこを守るのか」と尋ねる方が、ずっと役に立つと思います。
4.業者さんの説明で見るところ
私のラボでは、管理会社さんが連れてきてくれた防蟻業者さんが、2階窓際を見てすぐ1階の畳の下を確認しました。その判断と対応の早さには感謝しています。
とはいえ、いつも信頼できる業者さんを紹介してもらえるとは限りません。初めて依頼する場合は、見積金額だけでなく、次の点を確認したいところです。
・被害箇所を写真付きで説明してくれるか
・調べた場所と、調べられなかった場所を分けて示すか
・薬剤名、施工箇所、施工範囲が見積書で分かるか
・防蟻工事と木材の交換・構造補修を区別しているか
・保証の対象、期間、対象外となる条件が書面になっているか
・再発した場合に、誰が何をするのか説明があるか
協会への登録や施工資格、実績も参考になります。ただ、それだけで個別の施工内容まで保証されるわけではありません。「今日契約しないと家が危ない」と不安をあおられた場合は、緊急の応急処置と本格的な工事を分けて考え、可能なら別の業者さんにも見てもらった方が良いでしょう。
5.毎年、どこを見るか
毎日床下をのぞく必要はありません。しかし年に何度か、季節に合わせて見る場所を決めておけば、異変に気づく可能性は高まります。
・春から初夏:羽アリや、窓際・照明の下に落ちた翅がないか
・梅雨:屋根や窓周りの雨漏り、配管漏れ、床下の湿気が増えていないか
・夏から秋:建物外周、ウッドデッキ、植栽、置いた木材の状態
・冬:保証書と施工記録を見直し、次の点検予定を確認
・通年:床の沈み、建具の動き、木部の変色、小さな土の盛り上がり
羽アリの時期は種類や地域によって違います。例えばヤマトシロアリは一般に4~5月、イエシロアリは6~7月が目安ですが、その時期だけを見ていればよいわけではありません。
別荘や空き家なら、長期間訪れない間に雨漏りや漏水が続くこともあります。訪問した際は室内の換気だけで終わらせず、まず水回りと建物の外周を一周する。管理を頼める人がいるなら、異変を見つけたときの連絡先も決めておきます。
6.数年単位で考えること
防蟻工事に「5年保証」が付いていても、5年間は何も見なくてよい、という意味ではありません。保証の内容と、実際に処理された範囲は別に確認が必要です。5年を過ぎた瞬間に薬剤の効果がゼロになるわけでもありませんが、定期点検と再施工の時期は業者さんと相談しておきます。
また、配管工事、増築、外構工事、リフォームをしたときには、その周辺を改めて確認します。前に行った防蟻処理の部分を掘り返したり、見えなくしたり、新しい木部を土に接触させたりする可能性があるからです。
写真、図面、防蟻工事の報告書、修繕の見積書・請求書、保証書を一か所にまとめ、いわば「住宅カルテ」にしておくと便利です。いつ、どこを、なぜ直したのか。次の点検時にも、将来この家を売る場合にも説明できる状態になります。
7.ラボの場合、そしてもう一度買うなら
ラボでの流れを振り返ると、最初に見えたのは2階窓際の小さな土の盛り上がりと数匹の羽虫でした。しかし、実際に大きな被害が分かったのは、業者さんが1階の琉球畳を上げ、床板を確認してからです。
管理会社さんを通じてすぐに応急処置が行われ、2日後には床下、基礎、柱、壁内などの防蟻処理が完了しました。防蟻代は8万円程度。その後、工務店さんが被害を確認して修復工事を進め、発見から約1か月半で元通りになりました。修復費は決して安くありませんでしたが、リフォームから1年少々での出費を、家の管理について勉強する機会にもできました。
今回、特に食害を受けたのは、リフォーム時に「まだ使える」と判断して残した古い木材でした。これをもって「古い木材は全部交換すべきだった」とは思いません。コストをかけられる範囲には限りがありますし、使えるものを残す判断自体は合理的です。
ただ、もう一度同じような物件を買ってリフォームするなら、長年雨漏りしていた場所と、残す旧材の周辺は、工事前にもう一段詳しく調べます。そして工事後も、床下のどこを見ればよいかを、写真とともに残しておきたいと思います。
これは後知恵ではありますが、実際に被害を経験した者の後知恵ですので、これから買う方には役立つのではないでしょうか。
8.最後に
今回のラボは、早く発見できたことも、管理会社さん、防蟻業者さん、工務店さんが驚くほど早く動いてくださったことも幸運でした。
しかし、幸運だけを管理方法にはできません。
家を守るために必要なのは、
「水を止める」「侵入経路を見る」「点検できる状態にする」「記録を残す」
という、地味ですが継続できる仕組みだと思います。
シロアリを一度駆除して終わりではなく、家をどう見続けるか。今回の経験で、私自身もそこまで含めて「不動産を管理する」ということなのだと学びました。
長い連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。