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コラム「相続の基礎」③単純承認・限定承認・相続放棄

2)単純承認・限定承認・相続放棄
被相続人が亡くなり相続が開始した場合、そこから(知らなかった時はそれを知った時から)3か月以内は、相続の手続において最も重要な期間であると言えます。財産がたくさんあって、相続人全員で仲良く財産分けが出来る状況なら良いのですが、仮に被相続人が多額の債務だけを抱えて亡くなった場合には注意が必要です。

このような場合、相続人が何もせず一定の期間を経過すると、被相続人の抱えていた多額の債務がそのまま相続人達に強制的に引き継がれてしまうのです。これを「単純承認」といいます。

そのような事態とならないために、民法には「相続放棄」や「限定承認」といった手続が定められています。

「相続放棄」は、民法第939条において「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」と定められており、財産も債務も引き継がないことが可能となります。(相続放棄については、弊所ブログ「相続放棄って何?」に詳しく説明しています)。

ところで、単純承認で相続人が複数いる場合、遺産分割によって債務の相続人を定めたとしても、それだけで他の相続人が債務から逃れられる訳ではありません。
もし債務を引き継いだ相続人が破産などした場合、他の相続人は連帯債務者として支払義務を負う場合があります。これを「重畳的債務引受け」と言います。
これを防ぐためには、債権者と債務を引き継いだ相続人が「免責的債務引受契約」を締結しておく必要があります。

また、相続財産もある程度あり、しかし債務もかなり多く、相続放棄、単純承認のどちらをすべきか明らかでない場合には、限定承認という手続を行います。

限定承認とは、相続財産を限度として債務を引き継ぐことを言います。単純承認の場合は、相続人が引き継いだ債務の弁済のため相続人固有の財産まで引き出される可能性もありますが、限定承認ならそのような危険はありません。また、債務を弁済した後に残余があれば、相続人が残余財産を相続出来る事になっています。

限定承認の手続は相続人が全員で行う必要がある他、財産目録の作成、公告、競売など様々なものが細かく定められていますが、現在は使われることが少ないため説明は省略します。

3)保証債務と相続
保証債務は、保証人が死亡しても原則として消滅しません。これは、保証人の死亡という偶然の事情によって、債権者が不測の損害を被ることを防止するためです。このため、保証債務は法定相続分に応じて各相続人に引き継がれることになります。

しかし、身元保証債務や根保証については、長期間にわたって保証することになることが多く、また責任も広範になるおそれが大きいことから、これを相続人に相続させると、相続人の負担が大きくなります。そこで判例は、これらについては相続されないとしています。ただ、相続の時点で具体的に発生していた保証債務については相続されます。

相続手続の際には、実債務だけではなく、このような保証債務がないかどうかについても慎重に検討する必要があります。

(第3回 完)
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  • 相続税として納めなければならないのは、相続財産の何%に当たるか
  • その割合以下で子供に対して有利な贈与をするには年間一人当たりいくらまで贈与可能か

コラム「相続の基礎」②相続人や養子について

2.相続の手続
ここまで、「相続とはなにか」という観点からご説明をしてきました。ここから先は、相続における実際の手続についてご説明します。ただ、相続に関する手続は非常に多いため、主なものだけに絞っております。

1)相続人や養子、その他相続する権利のある者
①法定相続人
相続においては財産に目が行きがちですが、実は相続が発生した場合、最も重要なのは「誰が相続人となるべきか」です。この相続人については、民法において詳しく規定されています。この項目においては、この「法定相続人」についてご説明します。

まず、被相続人に配偶者が居る場合、その配偶者は必ず相続人になります。

配偶者以外の相続人は、以下の順位で相続割合を決めると定められています。

  • (第1順位) 子 全体の1/2を各人で配分、配偶者は1/2
  • (第2順位) 直系尊属(親、祖父母など)  全体の1/3を各人で配分、配偶者は2/3
  • (第3順位) 兄弟姉妹 全体の1/4を各人で配分、配偶者は3/4

すなわち、子がいる場合は子のみが、子がおらず親などの直系尊属が居る場合には直系尊属のみが、そして子も直系尊属もない場合には兄弟姉妹が法定相続人となります。

②代襲相続人
ここまで法定相続人について説明してきました。では、上記の相続人となるべき者が既に亡くなっている場合はどうなるでしょうか?このような場合、その亡くなっている人に子や孫がいるならばその子や孫が死亡した者に代わって相続することになります。このような相続人を「代襲相続人(だいしゅうそうぞくにん)」と言います。

第1順位の相続人が亡くなり、その子が居る場合にはその子が代襲相続人となります。また、その子も亡くなっている場合には孫が代襲相続人となります。亡くなった相続人に子が複数名いた場合は、そのそれぞれで均等に配分します。但し、第3順位の場合の代襲者はその子(被相続人から見れば甥、姪)までが代襲相続人となることされており、第1順位の場合より範囲が狭くなっています。
また第2順位の親や祖父母の子は被相続人やその兄弟姉妹ですから、代襲相続人の考え方としては意味を持ちません。

後述(⑥)する「欠格事由」、「推定相続人の廃除」で相続人から外された者が亡くなっている場合も、その子があれば代襲相続をすることになります。これに対して「相続放棄」した者が亡くなった場合に代襲相続はありません。前述の2つの場合と異なり、自ら相続権を放棄した訳ですから、代襲させる必要がないという訳です。

③胎児の扱い
民法は、まだ生まれてきていない胎児についても特殊な権利を認めています。
民法第886条第1項は、相続における胎児の地位について、例外的に、「相続に関しては胎児は既に生まれたものとみなす」としています。

胎児には出生まで権利能力はないと考えられていますが、生存状態で生まれてきたことを条件として、出生により生じた権利能力が問題の時点、すなわち相続の時点などにまで遡って生じたものとみなして扱うという考え方となっています。

ただし、残念ながら死産となった場合には、「みなす」項目が意味を失い、最初から居なかったことになってしまいます。

④養子縁組
養子縁組とは、実の子でない他人に親子関係を法律上発生させる事を言いますが、民法は養子について、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2つを定めています。
これらの違いは、実の親との親族関係が残るかどうかにつきます。つまり、普通養子縁組の場合、養親との親族関係が成立しても実の親との親族関係が残りますが、特別養子縁組の場合、実の親との親族関係は無くなってしまいます。

どちらの養子とするかに係わらず、養子縁組によって親子となった者(養子)と親となった者(養親」との間は実の親子と同じ親族関係が発生するため、相続に関する権利も実の親子と全く同じとなります。

さて、後の「相続税」に関する項目でお話しますが、相続税は子供が多ければ多いほど少なくなります。養子も子として数えられますし、民法上は養子人数に制限はありませんので、どんどん養子を増やせばどんどん相続税が少なくなることになります。実際に、かつてはこれを狙って何人もの養子をかかえるケースも少なくありませんでした。

このように課税回避を目的とした養子の増加が目に余る状態となったため、昭和63年の相続税法改正で以下のような制限が設けられてしまいました。

  • 実子がある場合は1名
  • 実子がない場合は2名
  • 上記を超える養子については、税法上は「いないもの」として計算する

また、財産に相続税が課される回数を少しでも少なくしようと、従来から孫を養子にする方法が良く採られてきました。このようにしておくと、孫に相続される財産には通常親(1回目)、子(2回目)と2回相続税が課されるのに対し、親の1回しか相続税が課されないからです。

しかしこれについても、平成15年の相続税法改正で制限が設けられました。その結果、孫を養子にした場合その養子に課される相続税は2割増になるという制度です。

⑤非嫡出子の認知
「非嫡出子」(ひちゃくしゅつし)と読みますが、これは、「婚姻関係のない男女間に生まれた子」のことを言います。このような非嫡出子の場合、認知によってはじめて法律上の親子関係が発生することになります。この言葉の逆の意味が「嫡出子」です。

この認知は父親だけに対するものとなっています。母親の場合、分娩という厳然たる事実ある訳ですから、あらためて認知する必要はないわけです(このあたり最近の出産事情はだいぶ変わってきているようですが、法律が追い付いてないようです)。

なお、認知には任意認知(自分で行う認知)と強制認知(調停による認知)がありますが、いずれにしても「出生の時にさかのぼって効力を生ずる」とされていますので、生まれたときにさかのぼって子としての権利を得ることになります。

⑥欠格事由、推定相続人の廃除
何もなければ法定相続人として相続する権利がある者であっても、民法上その権利を亡くしてしまう幾つかの場合が以下の通り規定されています。

(1)欠格事由
親兄弟の殺人等で刑罰を受けたり、遺言書を偽造・変造もしくは詐欺・脅迫で作成させるなどした場合
(2)推定相続人の廃除
被相続人に対する虐待や重大な侮辱などをしたことで、被相続人からその生前に相続人の排除を家庭裁判所に請求された者や、遺言で排除された場合
(3)相続放棄
相続人が自ら相続に関する権利を放棄することを言います。

なお、欠格事由や排除、相続放棄があった場合でも、その子には前述の通り代襲相続権がありますし、後でご説明する相続税の計算上は、相続人が居るものとして計算します。

⑦内縁の妻の場合
長年連れ添った相手が内縁の妻(または夫)という場合はどうでしょうか。よく言われるように、いわゆる事実婚と言われる相手には何年仲むつまじく暮らそうが、事業や仕事に貢献があろうが相続権はありません。

このような場合、後で説明する遺言を書き、財産を残す配慮をする必要があります。
様々な事情があるかと思いますが、やはり財産を残してあげたい場合には「事実婚」だといろいろな無理が出て来ます。

⑧特別受益者、寄与者
前述の通り、相続は、基本的には遺産総額を各人の法定相続分で分ける事となっています。しかし、例えば生前の被相続人に対して、財産を大きく増やすことに貢献した相続人や、逆に生前の被相続人から多額の贈与を受けた者があれば、これらの相続人に対して単純に法定相続分で財産を分けると不公平となります。

民法においては前者を「特別受益者」といい、後者を「寄与者」といいます。これらの者があるときに法定相続分を計算する場合、本来の相続財産に「特別受益」部分を加え、これを特別受益を受けた相続人が相続したと見なしたり、また相続財産から「寄与分」を除いて相続分を計算したりして調整します。

⑨相続人がいない場合(不存在)
相続人の存否が不明な場合や、相続放棄により相続人が存在しないこととなった場合、利害関係人は家庭裁判所に相続財産の管理人の専任を請求できます。

この管理人は、以下のような手続を行います。

  • 相続財産(法人として取り扱います)の管理
  • 不明となっている相続人を捜索
  • 債務の弁済
  • 相続人の不存在が確定した場合の特別縁故者への財産分与
  • 残余財産の国庫への帰属

(第2回 完)

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コラム「相続の基礎」①相続・相続税とは?

1.相続とは
1)相続はいつ起こるか
そもそも、「相続」とはなんでしょうか?この事を説明する前に、皆さんに相続というもののイメージを問うて見たいと思います。例えば、以下のようなところでしょうか。

  • 相続はなんだか恐いものだ
  • 相続は人が死ななくても起こる場合がある
  • 相続があると必ず税金がかかる
  • 相続があるとマルサが入る
  • 財産がなければ相続のことは考えなくても良い

相続とは、「人間の財産や負債、権利、義務の一切を他の人間が受け継ぐこと」を言います。この場合の「人間」は、当たり前ですが私たちのような自然人に限られ、会社などの法人は含まれません。

また、よく言われるように「相続イコール財産分け」でもありません。プラス財産だけではなく、マイナスの財産(債務)も対象に含まれます。
簡単に言えば、「誰かの一切合財をそのまま受け継ぐこと」と表現してもよいかもしれません。

では、相続はどんなときに起こるのでしょうか。先ほど、「民法」が相続の基本的な事項を規定しているとお話しました。民法882条には、「相続がいつ起こるか」についてこんな規定があります。

「相続は、死亡によって開始する。」(民法882条)

これ以外にも、失踪宣告といって、行方不明者の生死が7年間明らかでないときなどの場合、家庭裁判所への申立てによって行う「失踪宣告」によっても相続は発生します。失踪宣告とは、生死不明の者に対して、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度です。また、日本国憲法が施行される前の旧民法においては、「家督相続」における「隠居」のように、死亡を原因としない場合もありました。

さてここで、亡くなった人や相続する人などという一般的な言葉の代わりに、相続や相続税で使われる専門用語を定義しておきます。このコラムにおいては多用しますので、ぜひ認識しておいて下さい。

  • 被相続人(ひそうぞくにん) … 亡くなった人など
  • 相続人(そうぞくにん) … 被相続人から財産などを相続する人
  • 一般承継(いっぱんしょうけい) … 相続によって財産等を受け継ぐこと
  • 特定承継(とくていしょうけい) … 譲渡などによって財産等を受け継ぐこと

2)相続で何が起こるか
①相続は財産だけの移転ではない
では、相続が起こるとどんなことになるのでしょうか。これについても、民法に規定があります。

(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

「一切の権利義務」とあります。つまり、財産だけが移転するわけではなく負債(義務)も移転するのです。もっと言うと、単なる資産や負債でも足りず、権利や義務全てを受け継ぐことになるのです。この「一切合切を受け継ぐ」という点については、次の項目にも関係しますので、そこでも詳しくお話します。

なお、「被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」とありますが、これは何でしょうか。これは「被相続人だから」存在した権利義務のことを言います。例えば、雇用契約などがこれにあたります。こういう権利義務は、被相続人が生存しているからこそ有効になるものだからです。

②一般承継と特定承継
先ほど、用語の定義で「一般承継」と「特定承継」という言葉を簡単にご説明しました。
売買のような「特定承継」は、単に所有権だけが移動するイメージですが、相続などの一般承継は、たとえば「被相続人がその財産いつどこで幾らで買ったか」などの一切合切を受け継ぐことになります。

例えば税金の世界においては、何らかの資産を譲渡した場合の所得は

譲渡代金 - その資産を取得した際の支出(*)

として計算されますが、対象の資産が相続されたものである場合は、(*)については被相続人(被相続人も相続した場合はそのまた被相続人、と延々続く)が取得した時の支出となります。また、いつ買ったか等が重要となる税務上の特例などの場合も、被相続人が購入した際のものが相続人に引き継がれます。

3)相続と相続税の違いとは?
これらの言葉は非常によく似ていますが、概念も基づく法律も全く異なります。簡単にその違いを定義すると、以下の通りになると思います。

  • 相続
    人間が死んだとき財産や負債、権利や義務を相続人に受け継がせる手続。民法に規定あり。
  • 相続税
    相続があったとき、財産の状況によって発生する可能性のある税金と、その計算などを行う手続。相続税法に規定あり。

(第1回 完)
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相続税の計算(概算シミュレーション・税制改正/増税対応)>
相続税が気になる方は、弊所のシミュレーションページを是非ご活用下さい。
無料で以下の情報を確認できます。

  • 相続財産、相続人(配偶者と子供の場合に限ります)から概算の相続税額
  • 相続税として納めなければならないのは、相続財産の何%に当たるか
  • その割合以下で子供に対して有利な贈与をするには年間一人当たりいくらまで贈与可能か