(緊急)安全な食品と風評被害-仲卸事業者とは何か

1.今何が起こっているのか

食品の風評被害が顕著になってきました。

分かる気もします。そりゃ、訳も分からない一市民としては、放射能だろうが重金属だろうが、少しでも危険のありそうな食品なら(自分はともかく)大事な家族には与えたくないと思うのが当然です。

しかし、今起こっている問題は少し焦点がずれています。

本来安全でおいしいものを安く選びたいという消費者の需要と、その需要に応えるべく努力をする生産・流通からの供給のバランスが保たれているのが健全な経済です。
そういう健全な状態であれば、極端な需要や粗悪な供給は(ある程度)排除され、良い状態に向かっていくというのが古典的なミクロ経済学の考え方です。

「そうなっているじゃないか」とおっしゃるかもしれませんが、私にはどうも(食品に限って言えば)そうなっていないように見えて仕方がありません。
「鮮魚仲卸事業者」という立ち位置を中心に、以下疑問点など書いてみます。

いつもながら長い文章でくどいですが、最後まで読んで頂けると幸いです。

2.鮮魚の仲卸事業者

1)「中抜き」

元々、鮮魚(いわゆる「お魚」)の流通は、こんな形が主流でした。

  産地→産地市場→各中央市場→小売店→消費者

産地で獲れた魚を、産地市場に持ち込み、ここから各地の中央市場(複数段階になることもあります)が仕入れたものを小売店や飲食店に販売、一般消費者に販売するという流れです。

多段階の事業者が関与していますが、この事業者を通過する間に利幅が乗り、少しずつ付加価値が増えていきます。

最近は、このような多段階の流れが「無駄」であるとして、流通の工夫や情報化によって以下のようなルートを取ることも珍しくなくなりました。

 産地→→→→→→→→→大規模小売店→消費者

一見すると、これは「中抜き」する事業者がおらず、消費者にとっては非常に良い結果を生むように思えます。
それでは、単に間に立っている事業者は「中抜き」するだけの「ブローカー」なのでしょうか。

2)仲卸事業者の本当の機能

実はそうではありません。市場、特に中央市場の仲卸事業者は、元々以下のような機能を期待されているのです。

  • 小分流通機能
    卸売業者から仕入れた商品を、市場内での売買参加権のない買付人(小売業者など)向けに小分けして販売する。
  • 評価機能
    専門家としての立場で商品を識別、評価し、価格形成や流通調整の基礎とします。
  • 流通調整機能
    集荷先や供給先を調整したり、一時的に備蓄するなどにより、そのままであれば不安定となりがちな自然産物の供給を安定させます。
  • 価格形成機能
    専門家としての観点から品物を直接評価すること、また需給関係を勘案して適正かつ安定した価格を形成します。

よくお正月にテレビで「初セリ」の模様が放送されますが、あれは古典的な価格形成の一セレモニーに過ぎません。最近はセリを通す取引はかなり少なくなっており、一説によると「TVが季節の風物詩を撮りたいという希望に応えているだけ」という側面もあるようです。

3)現状

ただ、上で述べた「機能」を仲卸事業者自体が失いつつあるのも確かです。

私は一部の仲卸事業者しか知らないのですが、自らが上で述べたような機能を持っていることについて認識していない事業者が多いように思います。また、そのような機能を認識したとしても、いわゆる「中抜き」を大規模小売店に仕掛けられると、中小企業が多い仲卸事業者には太刀打ちできないのが事実だと思います。そんな訳で、統計上仲卸事業者は年々減少しているようです。

  (参考)クローズアップ現代  食卓が変わる?鮮魚の新流通

3.消費者として

私が子供の頃は、まだ魚はスーパーで切り身を買うのではなく「魚屋さん」で買うものでした。
物言わぬ特売シールではなく、魚屋さん(信頼出来ないと駄目ですが)が薦めるモノだったり、出来る人は自分で目利きして買うものだったと思います。

ま、そういうのは面倒なんで、結局スーパーで並んでいるモノを買うだけになってしまった訳です。

それはそれでいいんですが、若干なりとも流通業におけるそれぞれの立ち位置を見ることが多くなってくると、本当に皆がちゃんとあるべき機能を果たしてくれているのか?と気になります。

物量に走り直送を重視する生産地、本来の機能を果たせない仲卸事業者、消費者のニーズを「安い」ことしかとらえきれず、規格の揃った工業製品のように取り扱おうとする大規模小売店、そして旬を忘れ、形の揃ったそれなりのモノがいつも安く手に入ることを当然と考える私達のような消費者。

ここに「適切な価値の認識」ひいては「健全な需給調整」が起ころうはずもありません。

結局、こういう状況に大企業ならではの「事なかれ主義」が重なると、今回のような「風評被害」が起こるのではないかと思います。実際に、テレビで大手スーパーの社員さんが「福島県産のほうれん草についてはすぐ販売を止めました!」と語るところなどは、大企業としての立場は分かりますが流通業としての立場は完全に放棄していると感じざるを得ません。

4.興和水産という仲卸事業者

ここからはお客さんのPRに見えるかもしれませんが、そうではありません。不快な方はスルーして下さい。

大阪市中央市場に、興和水産株式会社という老舗の鮮魚仲卸事業者があります。この会社の河合淳一社長は、若い頃(今でも若いですが)から創業社長の鉄拳修行を受け、魚、特に青物(イワシ類・サバ類・サンマなどの、いわゆる「背の青い魚」を言います)についてはプロ中のプロ中のさらにプロです。

さてこの社長、最近こういうことを始めました。

美味しい~~!!千葉県鴨川の大羽いわし (04/21)

ページのコメントを転載すると、以下の通りです。

今日は、 千葉県鴨川の山平商店から上品の大羽イワシが入荷しておりますが。現在、関西は、風評被害で一部の量販店で千葉県などの魚をボイコットして販売していません。モニタリングでもOKが出ているのですが、私どもでは、産地あっての消費地、消費地あっての産地だと、常々思っております。今、産地をつぶしてしまったら大変な事になります。これからも安心・安全な物であれば頑張って販売して行きたいと思います、それが私達魚屋に出来る一番の支援と考えます。
どうぞ宜しくお願いいたします。
(東京では、普通に販売されております。)

これは本当にすばらしいと思います。
誤解のないように言いますと、私がすばらしいと思うのはこの行動が単に支援をうたっているからではありません。
社長が仲卸事業者として至極真っ当に行動していると思えるからです。

つまり、「プロとして」きちんと安全を確認した上で、「プロとして」産地から必要なモノを調達し、「プロとして」品質=価格を保証することができるという仲卸事業者の本来果たすべき機能を淡々と果たしている訳です。

これに対して、放射能と放射線の違いも分からず、「なんか出た」だけで「とりあえず止めてしまえ!」と逃げ腰の人たちは、結局の所普段から十分な付加価値を生む仕事をしていなかったのではないかと勘ぐりたくなります。

私は、この社長のように「まともなプロ」の「目利き」を信じたいと思います。

以上、取り急ぎの記事でした。

第1回CFE研究会東西交流会

先日(1月26日)、東京不正検査研究会、不正の早期発見研究会、関西不正検査研究会の三研究会が合同で、第1回目となる東西交流会が開催されました。
今回は東京不正検査研究会さんが主催で、芝浦港南区民センターを会場に、各会の会員及びACFEジャパンの安田事務局長を加え18名の参加となりました。

ただ、私はきちんと参加連絡をしていなかったようで…
大変ご迷惑をお掛けしました m(_ _)m > 皆様

司会の米澤勝さん(東京不正検査研究会)からご挨拶のあと、各研究会の紹介がありました。三会だけではなく、現在は東海や業種別の研究会も設立されているようですので、これからも盛会になりそうな気がします。

その後、第一部は関西の山口利昭さんから「不正調査と刑事告訴」というテーマで発表していただきました。
弁護士さん以外にはなかなかなじみの少ない「事実認定の方法」や「事情聴取」に加え、いつもながら豊富な実務経験に基づく興味深いお話を頂きました。

第二部は東京の高橋孝治さんから「不公正ファイナンス」についてお話頂きました。
今年冒頭から日経でも特集されるなど、第三者割当増資や現物出資を悪用した不公正ファイナンスは、日本の証券市場の恥部と言っても良い程大きな問題になっていると思います。この問題について、法令や事例を基礎として詳しくお話頂きました。

その後品川に移動し、「創作ダイニング土間」さんにて懇親会。
時間の関係でお話できなかったことや、全く関係のない話まで、じっくりと楽しく過ごせました。

次回(来年?)は関西での開催ということになるかと思いますが、ジャパンカンファレンス同様一層盛り上がるようにと願う次第です。
ご参加の皆様、特に開催頂いた東京不正検査研究会の皆様、米澤様ありがとうございました。

コラム「公認会計士が解説する民事再生手続」第4回(最終回)

塩尻公認会計士事務所の塩尻明夫です。

「公認会計士が解説する民事再生手続」コラムは、今回が最終回となります。

5.その他の論点

1)税務の観点

民事再生業務の本質は「再生計画案」の策定や決議、履行にありますが、実はその中枢には税務、特に法人税の税務に関する論点がたくさん含まれています。メジャーなものは以下の通りです。

  • 債務免除益課税とタックスプランニング
  • 期限切れ欠損金控除(民事再生の特例)→期限切れ欠損金を青色欠損金等に優先して控除可能(平成17年からは一定の私的整理でも可能となった)
  • 資産の評価損計上(民事再生の特例)→財産評定結果の損失を損金化可能
  • 青色欠損金の繰戻控除(民事再生の特例)→申立前2期間まで可能

2)破産への移行について

再生手続開始の申立の棄却、再生手続廃止、再生計画不認可または再生計画取消の決定が確定した場合において、裁判所は、当該再生債務者に破産手続開始の原因となる事実があると認める時は、職権で、破産法に従い、破産手続開始の決定をすることが出来ます。

また一旦否決されたあと期日が続行できない場合、また続行してもなお否決された場合には、再生手続が廃止される場合があります。手続が廃止されると、原則として裁判所によって破産手続に移行されることになり、やはり破産宣告を受けます。

3)詐欺再生罪について

民事再生法における罰則はいくつかありますが、今回は詐欺再生罪のみ取り上げます。

再生手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で次の行為をなした場合、再生手続開始の決定が確定した場合には、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処し、またはこれが併科されます。

  1. 債務者の財産を隠匿し、または損壊する行為
  2. 債務者の財産の譲渡または債務の負担を仮装する行為
  3. 債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
  4. 債務者の財産を債権者の不利益に処分し、または債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為(事情を知りながらその行為の相手方となった者も同様に処罰される)

4)不正への対応

民事再生に限らず、破綻状態にある企業やその経営者は追い込まれていますので、どうしても不正に手を染める可能性が高くなります。取込詐欺的な行為はもちろん論外ですが、通常は経営者が個人保証によって自己破産を余儀なくさせられるケースがほとんどであるため、資産隠しを図る場合があります。

自分自身が関与した業務にも幾つか事例があるのですが、守秘義務あるのでこのコラム上は和光電気の例を挙げます。

和光電気と鎌田社長は4月28日、民事再生法適用を大阪地裁に申請し、財産保全命令を受けた。調べでは、鎌田社長は申請前の4月中旬、同法適用申請が避けられないことを認識しながら、個人所有の6種類の株券約3万株(二千数百万円相当)を証券会社から引きだして自宅に隠した疑い。

和光電気は58年設立。近畿地方を中心にチェーン店を展開し、2000年3月期には1262億円の売り上げがあった。しかし、個人消費の低迷や関東系大型店の進出による競争激化などで経営が悪化し、民事再生法の申請に追い込まれた。

鎌田社長は同社の負債総額約300億円のうち約220億円について個人で債務保証していた。 (2003/06/30 17:16 朝日新聞)

以上

こちらのページからご質問などが可能です(連載終了)。

コラム「公認会計士が解説する民事再生手続」第3回

皆さん、あけましておめでとうございます。

塩尻公認会計士事務所の塩尻明夫です。
今年もよろしくお願い申し上げます。

前回は民事再生申立側の手続についてご説明しましたが、今回はこの手続をチェックする、監督委員側の実務について解説します。

4.監督委員側の実務

1)監督委員

民事再生法の特徴の一つが、この監督委員の制度だと思います。民事再生手続において監督委員は通常必ず選任され、再生手続が適正に行われているかどうかについて検討、意見書を作成します。

具体的には、下記のような業務を行います。

  1. 再生手続開始の申立について、そもそも手続を開始して良いのかどうかについての意見を述べる
  2. 開始後の申立企業の財産処分や業務遂行の監督
  3. 業務状況及び財産状況の調査
  4. 不公正な弁済や財産処分があった場合の否認権の行使
  5. 申立企業が作成した再生計画案についての意見書の作成
  6. 再生計画案が承認されたときに申立企業が計画通り履行しているかどうかの監督

監督委員の業務については上記以外にも広範囲に渡る論点があるのですが、私は弁護士ではなくあまり詳細にご説明することが出来ませんので、この項目はこれくらいにしておきます。

2)監督委員補助者

この監督委員に依頼され、会計や税務面についてその業務を補助するのが補助者です。この補助者には公認会計士や税理士が就任します。監督委員を務める弁護士は会計の専門家ではないため、会計や税務の専門家としての側面から補助的に意見を述べる必要があるからです。

「補助者」という名称から見て、文字通り補助的な業務だけを行う役割かと思うと、実は正しくありません。再生計画の大半を会計、税務に関する論点が占めますので、これらについて詳細な意見が求められますし、その意見は通常監督委員の意見書において引用され、意見形成にも大きな影響を与えます。

監督委員補助者の業務において、特に難しいのが、財産評定の検討と、再生計画の履行可能性に関する意見です。

財産評定における評価結果は、開始決定時の清算配当率計算を通じて再生計画が予定する弁済率の妥当性につながりますので、特に重要です。補助者の検討結果によって再生債務者が弁済率を上げざるを得ない場合もあります。

また、再生計画履行可能性に関する意見も重要です。再生債務者は将来の企業努力や需要増大なども見越して再生計画を策定しますが、このような将来の事象を前提とした項目の検討は、本来占い師でも無い限りは言えるわけがありません。そういった意味で極めて困難な業務であると言えます。実際には、過去や直近の実績、現在の営業状況、市況の調査など広範囲な情報を総合的に判断して、「再生計画案の履行が明らかに不可能ではない」点が存在するかどうかについて意見を述べることが多くなります。

経験上から私見を述べますが、私は監督委員補助者としての独立性は十分に保ちながらも、再生に向かって努力する会社(再生債務者)の経営者や従業員たちの強い気持ちを出来るだけ汲み取るように意識しています。もし再生がうまく行けば、再生債務者だけではなく、債権者や従業員、取引先、地域など多くの利害関係者に良い影響がもたらされるからです。

反面、民事再生を不正に利用しようとするケースも少なからずありますので、後述する不正への対応については十分に注意しています。

3)監督委員意見書の効果

さて監督委員やその補助者の意見書がどのように記載されたとしても、最終的にその再生計画案の適否について結論を出すのは再生債権者です。このためもあってか、今まで「監督委員や補助者の意見書が原因で否定された」案件はないとの事です。

しかしこれは、どのような再生計画案でも認める甘い判断を行うというのではありません。実際にそのような再生計画案を当初提出してきた再生債務者もありましたが、そういう場合には監督委員と共に、再生債務者やその代理人弁護士と相当厳しいやりとりを通じて、債権者のためになる計画案に修正させていくべく努力することになります。

監督委員やその補助者は、申立側とはまた違った意味で、民事再生の達成そのものに大きな役割を持つといえるかも知れません。

こちらのページからご質問などが可能です。

次回は、税務、破産に移行する場合、不正などについてご説明します。

コラム「公認会計士が解説する民事再生手続」第2回

皆さんこんにちは。

塩尻公認会計士事務所の塩尻明夫です。

前回は民事再生手続のあらましについてご説明しましたが、今回は実際の申立手続について解説します。

3.申立側の実務

1)手続の流れ

民事再生法に基づく手続の流れを図示すると、下記の通りとなります(クリックで拡大します)。

申立フロー

民事再生手続申立フロー

以下、上記の図に基づいて各手続を説明します。

民事再生業務は裁判所の管理の下行われますが、やはり主役は申立法人・申立代理人たる弁護士と、監督委員たる弁護士やその補助者たる会計士や税理士です。このため、これ以降は申立側と監督委員側に分けて実務をご説明します。

2)申立から手続開始まで

民事再生法の場合、破産の恐れがある、事業上重要な資産を手放さなければ債務が弁済出来ない恐れがあるなどの申立原因が存在すれば、債務者は支払不能、債務超過、支払停止になる前に申立てが出来ます。債務者に破産の恐れがある場合には、債権者も申立てすることができます。

申立がなされると、速やかに裁判所は保全処分を下します。この保全処分には、全ての債権者に対し、再生債務者、すなわち申立法人の財産への強制執行などを禁止する「包括的禁止命令」や担保権者に対する「競売手続中止命令」などがあります。この保全処分により再生債務者の財産を守らなければ、後に配当されるべき資金や資産などが流出、離散してしまうからです。

この後、2週間程度の間に裁判所は民事再生手続の開始決定を下します。

ところで、書籍やネット上の説明には、申立から説明をスタートしている場合が多くあります。しかし、実は申立の相当前段階で既に民事再生の実務は始まっているのです。例えば、裁判所への事前面談がその一つです。大阪地裁の場合、裁判所の第6民事部が担当となりますが、この民事再生係には申立予定日の2週間程度前に内々の相談に行くことが多いようです。その中で、例えばスポンサーの有無や、事業譲渡などの方向性も内定した、いわゆる「プレパッケージ型」の再生計画案について打合せがなされることも多くあります。

3)手続開始から再生計画案作成まで

保全処分が下され、手続の開始決定がなされると、申立直前の資金繰り難によって差し迫った状況はいったん落ち着きます。しかし、ここでゆっくりしている訳には行きません。

再生債務者は、一定期間(通常毎月)の報告書提出義務の他、開始決定時点における財産を時価評価した「財産評定書」や、再生計画の草案を作成していく必要があります。

財産評定というのは、単なる資産の時価評価ではなく、開始決定時点で再生債務者をハードランディング、すなわち破産させた場合、どれくらいの破産配当が得られるかという一種のシミュレーションです。この結果は、後で説明します弁済計画に基づく弁済率と比較されます。つまり、仮に弁済計画に基づく弁済率が財産評定に基づく破産配当率を下回る場合、民事再生手続が行えない事になるわけです。このため、この財産評定結果を、違法性無くいかに低く算定するかは担当する会計士や税理士の腕の見せ所と言えます。

次に大変なのが、再生計画の策定です。再生計画案とは、借金をいくら減額し、どのように返済していくのかなど、弁済の計画を示したものです。具体的には以下のような事項を記載します。

  •  再生計画の基本方針
  •  再生債権者の免除額や残額の弁済方法
  •  担保などの権利者について
  •  事業計画

弁済方法等に関してはある程度形式的に作成が可能と思いますが、民事再生に係る事業計画については困難が伴います。申立までの間、よほど突発的な事情でも無い限りは相当な経営危機に直面していた再生債務者ですから、申立時点において、資金的にはもちろん、人的にも営業基盤としても、お世辞にも健全とは言えない状況にあるはずです。例えば、重要な部材を仕入れている取引先は、民事再生を申し立てたことで支払いがストップした上に、大半の債権を貸倒損失として計上しなければならない訳ですから、「民事再生しましたので、これからも部材の調達をよろしくお願いします」なんて簡単に言えたものではありません。幸いに取引を続けてもらえたとしても、現金取引や前渡金取引などを前提とされることが多いようです。

このような状況を前提として事業再生を考える訳ですから、相当な困難を伴う計画になると思います。この時点においては、やはり事業に精通し、再生の強い決意を持った経営者と、能力の高い代理人弁護士の組み合わせが必須だと思います。

4)再生計画案の決議と認可まで

一般的には、再生計画案は正式なものをいきなり提出しません。まずドラフトを何バージョンか作り、裁判所に提出します。そのドラフトを叩き台に、後述する監督委員とのすりあわせや、大口債権者に対する説明を行います。

債権者集会で再生計画案が認められるためには、議決権を行使できる再生債権者の過半数で、かつその議決権の総額の2分の1以上の議決権をもつ人が再生計画案に同意する必要があります。

債権者集会で再生計画案が可決されなかった場合は、債権者集会の続行を申し立てます。この続行については、再生決議で必要となる決議要件のいずれか、または債権者集会に出席した債権者の過半数で、かつ出席した者の議決権総額の2分の1以上の議決権を有する債権者が、同意する必要があります。期日の続行回数に制限はありませんが、最初の債権者集会から原則として2ヶ月以内が限度となります。

なお、可決されてからは、官報への公告と即時抗告期間が必要となりますので、1か月程度かかりますが、その後再生計画が認可決定され、再生計画の履行がスタートすることになります。

こちらのページからご質問などが可能です。

次回は、「監督委員側の実務」からご説明します。

コラム「公認会計士が解説する民事再生手続」第1回

皆さんこんにちは。

塩尻公認会計士事務所の塩尻明夫です。

先日「相続の基礎」コラムの連載を終えましたが、今度は少し分野を変えて「民事再生手続」の解説をして行きたいと思います。
この再生手続、批判もあるものの再生型の倒産手続としては非常に柔軟かつ便利で、機動的な活用が可能な制度になっています。
出来れば自分が経営していたり勤めていたりする会社には起こって欲しくない事態ですが、いざというときのために読んで頂けると幸いです。

0.はじめに

一時期は非常に多くの申請があった民事再生法ですが、返済猶予などが行われる中小企業金融円滑化法の影響もあってか、破産と同様ここ1年は申請数が大幅に減少しているようです。

この傾向、見方によっては倒産する会社が減少して良いようにも感じるのですが、本来破綻しているべき会社の本質的な問題が解決されず、単に破綻時期が先延ばしされただけなのであれば、本当に破綻が訪れた場合の影響がさらに大きくなることが懸念されます。特にこの円滑化法が終わる平成25年3月以降、これらの企業がどのようになるか、予断を許さないところです。

今のところは、このまま景気が少しでも持ち直し、先延ばしされた破綻が二度と訪れないことを祈るばかりです。

さて、私は平成15年から幾つかの民事再生業務に関与しています。関与するまでは別の世界の話だった民事再生法もある程度理解するようになり、この手続の重要性も少しずつ分かるようになってきました。そこでこのコラムにおいては、私が理解している制度の説明だけではなく、この業務を通じて得た経験なども織り込めればと思います。

当連載は、今回以降4回を予定しています。

1.倒産とは?

「倒産」という言葉を聞かれた場合、皆さんはどのような印象を持ちますでしょうか?一口に「倒産」と言っても、実は自主廃業、清算、特別清算、私的整理、民事再生、会社更生、破産などなど多数の形態があります。また、手形の不渡りが発生したことを倒産と呼ぶ人もおられます。

企業再生に関与される皆様の場合はこれらの区分はされていると思いますが、一般の事業会社の場合、経理部の方でもその区別がついていない場合があります。ですので、よく「先生、取引先がつぶれました」という表現での連絡を受ける事があります。

民事再生は、これら多数ある会社の倒産形態のうち、事業の再生を最も強力に推し進めることのできる法制度です。

2.民事再生法のあらまし

1)倒産法制と民事再生法の歴史

かつて、戦前に制定された和議法という法律がありました。この法律は、当時としては最も強く事業の再生を考慮した倒産法制でした。しかし、和議が成立した後、再生対象の会社が管財人の管理下から離れ、また債務弁済を遅滞させるような事態が発生しても何ら強制力がありませんでした。このためきちんと完結した事案がほとんど無いことから「ザル法」との批判を強く受けていました。とはいっても、十分な強制力のある会社更生法が定める更生手続は非常に厳格で使いづらいものでした。

これらに対し、民事再生法は、和議法に代わる形で平成12年4月1日に施行されました。この後現在まで10年が経過し、新破産法とともに、既に倒産法制の中心と言っても過言ではないほど浸透しています。

2)民事再生法のイメージ

民事再生法だけではありませんが、同様に複雑な法律制度を説明する際、個別の制度ばかりを説明しているとなかなか全体像がつかめません。そこで、私は普段民事再生法をはじめとする倒産法制を説明する際、人間の病気や怪我とその治療方法に当てはめて説明しています。それは次の通りです。

    手法・法律     人間の治療に当てはめた場合
私的整理・中小企業再生支援協議会 自宅での治療や通院治療
民事再生法 入院による管理治療、時に生死には影響しない手術有
会社更生法 集中治療室(意識なし)、時に内臓摘出などの処置有
破産法 死亡、または死刑宣告

 

3)民事再生法の実績データ

帝国データバンクによると、民事再生法の申請は平成22年まで施行10年間の累計で7754件に達しているそうです。単年度の件数を見ると、平成20年度(平成20年4月~平成21年3月)は前年度比31.3%増の935件で、平成14年度(948件)以来6年ぶりの高水準となっています。これに対し、平成21年度には29.8%減の656件と大幅な減少を見せています。これは、景気動向だけではなく中小企業金融円滑化法の影響も大きいものと考えられます。

また手続の経過をみると、これまで申請のあった7754件のうち5394件が認可決定を受け、3365件、全体の実に43.4%がすでに終結決定を受けています。一方、申請後に取り下げ・棄却・廃止となった企業も1747件と、全体の22.5%が再生手続きを途中で断念しています。

また、平成20年度中に認可決定を受けた555社のうち、再生計画が判明した163社の平均弁済率は12.4%と、平成13年4月調査時の24.2%を大きく下回っています。平均弁済期間としては、1年以内(一括弁済)の比率が39.2%と、前回調査時の8.1%を大きく上回っています。これは、不動産デベロッパーを中心に、「即死」的破綻案件が多かったことや、低い弁済率でも短期の弁済完了を望む債権者側の意向、“清算型”民事再生の定着などが影響したと見られています。

こちらのページからご質問などが可能です。

次回は、申立の実務手続からご説明します。

ACFEジャパンセミナー

皆さんこんにちは。Whistle Technologyの塩尻明夫(CFE)です。
さて、来る11月27日(土)、大阪本町つるやホールにて、ACFEジャパンセミナーが開催されます。
詳細は下記の通りですが、後半にて私が3時間ほどお時間を頂き、「不正と内部統制」について講義する事になっております。
大阪で本格的なセミナーが開催される機会はまだ少なく、新たに必要となった倫理ポイントなど、CPE獲得のためにもぜひお申し込み下さい。

①10:00~13:00 CFEのための倫理セミナー
組織における不正防止の専門家として、CFEには職務遂行にあたって高い倫理観が求められており、同時に、企業の倫理的風土向上へのリーダーシップを発揮することも期待されています。一方で、企業において「倫理」という言葉は多用されているものの、その意義を役職員間の共通認識に高めるのは容易ではありません。

本講座では、ACFEが定めるCFEの職業倫理規程に即して倫理の意義を解説するとともに、組織倫理向上の要点と、実践に向けたリーダーシップを発揮するためのポイントを示します。

講師は甘粕潔さん(日本公認不正検査士協会理事)です。

②14:00-16:50 不正と内部統制/ACFEアニュアルカンファレンス報告
不正防止には不正リスクマネジメントが極めて重要な役割を担います。また不正リスクマネジメントを実施する際には、財務報告やコーポレートガバナンスと同様、内部統制、特に統制環境の整備が非常に重要となります。本セミナーにおいては、その活用についてご説明します。

また、7月末にワシントンDCで行われましたACFEのアニュアルカンファレンスに参加しましたので、その際の様子や受講したセッションなどについて可能な限りご報告します。

ACFE JAPAN 第1回カンファレンス

皆さんこんにちは。Whistle Technologyの塩尻明夫(CFE)です。
去る10月13日、東京は品川カンファレンスセンターで開催されました「ACFE JAPANカンファレンス」の記念すべき第1回に出席して参りました。
私も、前半の数十分だけ、世話人をさせて頂いている「関西不正検査研究会」のご紹介として喋ってきました。

なお公式の開催速報はこちらです。

先日ご報告した本部のカンファレンスとはまだ比較にならないくらい小さいカンファレンスですが、それでもACFEのジョナサン・ターナー理事長、八田進二先生や金融庁の佐々木清隆さん、ブログで超有名な弁護士の山口利昭先生をはじめ多忙な皆さんが参加、有意義な報告・パネルディスカッションとなりました。

懇親会の席でジョナサン・ターナー理事長が「各地のアニュアルカンファレンスに出席したが、第1回としては最も成功したカンファレンスではないか」という挨拶をされていました。

ターナーさんにはアニュアルカンファレンスで一言だけご挨拶していたのですが、その際はでかい会場で気が引けていたこともあり、気の利いた事も言えてませんでした。今回は懇親会で今後日本のCFEやAnti-Fraud市場など(あくまで適当感がありますが)割とお話ができてなかなか有意義でした。

余談ですが、懇親会を少し早く失礼し、その後別件の仕事をこなしたあとホテルで休もうと思っていると、LinkedInにてプロフィールをチェック・コネクト依頼されたとのメールが(早い!)。
やっぱりFacbookとLinkedIn等メジャーな所には登録しとかないとって痛感しました。

ACFE 第21回アニュアルカンファレンス参加報告(3)

3.旅程、料金、宿泊費など
①参加費用
 フル・カンファレンスに参加すると、ACFEメンバーの早期申し込みの場合$1,295かかります。ところが、D-Questの脇山社長がACFEに交渉して「ACFEジャパンのスペシャルレート」を毎年獲得してくれています。このレートは$995となっています。
 私の場合、ポストカンファレンスには日程の関係で参加出来なかったのですが、スペシャルレートだとプレカンファレンスとメインカンファレンスを単体で申し込むより安いという状態でした。
 なお、毎年抽選による当選者は次回の参加費用と旅費の一部が無料になるという企画もあります。人ごとと思っていましたら、今回ACFEジャパンから参加された石原さんは昨年これに当選され、その権利を行使して参加されたそうです。

②宿泊費用
 Gaylord National(ゲイロードナショナル)というコンベンションホール併設のリゾートホテルが宿泊先です。このホテル、ワシントンDCエリアであることをアピールしていますが、実はワシントンDCからは割と遠く、メリーランド州に所在しています。
 割と広いツインの部屋を出て一度ロビーに降り、建物の中を移動すると3分と係らずコンベンションセンターに入れます。
 建物内はどこも強烈にエアコンが効いており、当時日本以上だった外の暑さを全く感じることがありませんでした。温暖化防止などどこ吹く風といった感じです。
 宿泊費は、カンファレンス参加者の特別レートということで一泊通常$239のところが$209(これに消費税$33.44とリゾートフィー$15.9が追加される)×4泊となっています。高いようですが、ここの場合はこのホテルに泊まるのが移動を考えるとベストのようです。
 概して、幸いというか円高なのもあって、参加、滞在費用等はあまり負担感がありませんでした。

③旅費
 太平洋線が14時間~15時間係りますので、疲れを考えてビジネスにするとどうしても割高になってしまいます。仕事や旅行など「ついで」のある方ならちょうど良いと思いますが、私のようにこれだけが目的の場合は結構予算的にきついところです。ツアーを組み合わせるなど、ちょっと工夫が要るかもしれません。

④食費
 カンファレンス参加費には、ウェルカムパーティ参加費やほとんどの日の朝食、昼食が含まれています。それ以外の夕食などについては別途となります。

<参加しての感想>
1)カンファレンスの内容
 皆さんもお気づきと思いますが、まずは「セッションの数が多い!」ことに驚かされます。申し込みの際は、いろいろなセッションの選択を迷いながらも「まぁ埋め草的なものもあるんだろうな」と漠然と感じておりました。
 ところが、参加してみると大間違いでした。少なくとも私の受けたセッションは全て立ち見が出るほどの超満員でしたが、他の部屋も覗いてみた限り閑散としたところが全くありません。
 もっと驚くのはセッションの進め方です。ほぼ全てのセッションで、講師が精力的に喋ると同時に参加者から質問や議論が投げかけられ、ディスカッションに近い形式で進んでいきます。一般的に講師から参加者への一方的な情報伝達が主となっている日本のセミナーなどとは相当違うものを感じました。
 先にご紹介した岩田さんによると、この理由は、子供時代から学校でこういう授業の進め方をしていることが原因だろうということでした。

2)会場
 セッション数も多いためかなり広い場所、多くの部屋が確保されています。ただ同じ建物内に集中しているため、移動に苦労はありません。トイレや飲料、ソファなども十分に確保されていて、なかなか快適です。
 また時差の関係もあり昼からのセッションはかなり眠くなることもあったのですが、部屋に帰って仮眠してから出てくることも可能でしたので助かりました。
 ただ土地柄というか、周りに他の施設が少ししかない場所だったので、同時に観光したい人にとってはちょっと不便だったかもしれません。
 ちょっと疑問だったのは、セッション会場に置かれている椅子です。いわゆるアメリカンサイズの方々が相当数参加していたのですが、使われていた椅子は、日本のホテルで立食パーティの壁に置かれているあの椅子と同じようなサイズのもの。私でも少し窮屈なくらいなので、すし詰めな状態の受講は皆さん相当きつかったのではないでしょうか?

3)なぜ参加したか?
 実はラスベガスで行われた第20回に参加したかったのですが、スケジュールの都合でかなわず、今回が初となりました。
 日本はアメリカのように不正が多くない、という考え方が全くの幻想となりつつあるという現実は、企業経営や法務に関係する方のほとんどが理解しておられると思います。むしろ、先ほどご紹介した参加者との会話の通り、「不正を正視しようとしない」経営者がより多いことが本質ではないかと思います。
 米国などで注目を浴びているものが、間をおいて日本でも普及することは今でもありますので、不正関連業務についても今後の広がりが十分に予想できます。公認不正検査士という肩書きを外せばあまり期待したくない動きですが、残念ながら日本においても、今後不正関連業務は中小企業や個人に至るまで必要となる可能性が否定出来ません。
 私は現在、統制環境整備や不正リスクマネジメントをベースとした中小企業向け会計・税務業務の提供を計画していますが、そのためにも現在の日本で得られるより新しく、幅広く、深い情報が必要であると感じていました。
 この目的からみて、今回、たくさんのセッションを受け、関連企業の展示をつぶさに見ることが出来たのは大変良い経験でした。

4)ローカルチャプターとACFEジャパン
 ご存じの方もと思いますが、本来ACFEは世界単一会制を採っています。そして、各国・地方の会員単位として「ローカルチャプター」という下部組織が定められています。
 これに対して、これまた脇山社長を初めとする皆様のご努力で、日本のみ「ACFEジャパン」という独立した団体を設立し、ACFE本部とある意味対等に存在するという形となっています。この立ち位置が、おそらくスペシャルレートなどにつながっているのではないかと推察します。
 しかし、本当にこのままでいいのか、私には疑問が残ります。現在はACFEジャパンがマニュアルやFraudマガジンの翻訳など、日本語化に努力しておられますが、反面、不正調査と言う、「今後発展する可能性のある、幅広くチャンスのある仕事」について、例えばかつての会計の世界のように日本だけが日本語の壁に閉ざされていていいのかという疑問が以前からありました。
 今後は、ACFEジャパンという独立した組織のメリットは活かしながら、活発かつ力のあるローカルチャプターとしての活躍も進めていければ良いのではないかと思っています。

<来年について>
 第22回のアニュアルカンファレンスは、2011年7月12日~17日に開催されます。既に申込受付が開始されていますが、ACFEジャパン向けのスペシャルレートについては不明となっています。参加希望の方は、この発表を待ってからの方がよいかもしれません。

以上

(この3記事は、第3期関西不正検査研究会での発表資料をベースに作成されています)

ACFE 第21回アニュアルカンファレンス参加報告(2)

<参加イベント(26~28日)> 続き

<Track C>
Knowing What You Do Not Know: Emerging Trends and Issues
最近のトピック

<Track D>
Finding and Fighting Fraud Through Auditing
監査における不正対応

<Track E>
The Impact of Technology in the Fight Against Fraud
不正との闘いにITが与える影響
(受けたもの)
・ The First Eleven Places You Look When Investigating on the Internet
ネット上で調査をするにあたって便利なツールや、インターネットサイト、及びその使い方を紹介していました。グーグルなど日本で既にメジャーなものもありましたし、SNSのバックドア検索や企業情報検索など初耳なツール・サイトもあり、大変興味深いものでした。
・ Using Computer Forensics to Prevent and Detect Fraud
これも事前のレジュメがなかったので十分聞き取れないか…と思ったのですが、やはりIT用語はわかりやすくて助かりました。昨今の記憶容量増加がデジタル・フォレンジクスに与える問題や、PC調査の際なぜいきなりプラグを抜くか、USBのユニークIDがどこに保存されているかなど実務的な話題を紹介していました。
・ The Monster Fraud List: Developing a Comprehensive Library of Fraud Detection Tests
不正調査のために利用する、不正のトライアングルからみたデータ分析手法についての説明がありました。統計学を利用したり、テキストマイニングを利用したり、不正に利用される単語を使ったEメール分析といったITを高度に利用した手法が紹介されました。SOX法監査は「ルールベース」であるが、不正対応はそれだけでは十分でないという、考えてみれば当たり前の点を強調していたのが印象に残りました。

<Track F>
Coloring Inside the Lines: Compliance and Risk Assessment
コンプライアンスとリスク評価
(受けたもの)
・ Mitigating Risk: A Legal Perspective for Audit and Compliance Departments
本カンファレンスの「プログラム・ディレクター」でもあるブルース・ドリス氏が担当のセッションです。公務員のプライバシーに関する判例、「Honest Services Statute(正直なサービス法?)」という不正に関する法律についての注目の判例、PCAOBの違憲性に関する判例など、不正調査・防止業務に関連する判例を解説していました。ドリス氏の話術はさすがに巧みで、参加者からの質問、議論が最も活発だったのが印象的でした。

<Track G>
Addressing the Legal and Ethical Issues of Fraud
不正の法的、倫理的側面への対応

<Track H>
Identifying and Implementing Best Practices
ベストプラクティスの認識と準備

<Track I>
Learning the Hard Way: Case Studies
ケーススタディ

<Track J>
No Unique Problems: International Anti-Fraud Efforts
国際的な不正対応の努力

<Track K>
Exhibitor Education and Presentations
展示企業のセミナー・プレゼンテーション

<Keynote Speakers>
 朝食時や昼食時には、大会場に参加者を集めて講演がありました。事前のレジュメが手に入らなかったので細部まで内容が理解出来なかったのは残念ですが、それでも相当興味深い話が多くありました。詳細についてはACFEジャパンのページに日本語のレポートがありますのでまたご覧下さい。
・ Working Lunch(26日)
サブプライムローンなどの金融危機を解決するため、金融安定化法の一環としてTARP(Troubled Asset Relief Program)という制度が出来ました。これは、一種の公的な不良資産買取制度です。
スピーカーのニール・バロフスキー氏は、このTARPを悪用して公的資金を不正に取得することを防ぐ「Special Inspector General of TARP」に所属しています。この中で、TARPに関連する不正調査に従事した業務経験について話がありました。
・ General Session(27日)
スピーカーのアービング・ピカード氏は大規模なポンツィ・スキームによる不正を行ったマドフ事業の破産管財人を務める弁護士事務所のパートナーです。このセッションにおいては、破産管財人としてどのように不正を暴き、資金の流れを解明し、回収し続けているかについての話がありました。
・ Working Lunch(27日)
スピーカーのジェームズ・T・リース博士は、25年に渡りFBIに勤め、犯罪者プロファイリングなどを行ってきました。この後コンサルティング会社を設立し、現在に至っています。冗談も多くてかなり聴き取りにくかったのですが、CFEがどのような姿勢を持ち、常に高いレベルのスキルを求めなければならないかについての話がありました。
・ General Session & Closing(28日)
締めのスピーチとして、ジャスティン・ペーパニー氏による講演がありました。ペーパニー氏はUBSやメリルリンチ、ベアスターンズなどで証券投資を行っていたブローカーです。顧客からのパフォーマンス要求により、誘惑に負けてポンツィ・スキームによる不正に手を染めてしまったことや、逮捕、収監、そして現在の困難などの生々しい話がありました。
ACFE年次総会は毎年、総会の最終日の基調講演として、不正行為によって逮捕・収監された者をスピーカーとして招いています。このスピーカーには報酬は支払われませんが、何らかの犯罪者更正プログラムの一環なのではないかと思います。

< 参加イベント(その他)>
3)その他
①表彰式が非常に多い
・ クリフ・ロバートソン・センティネル・アワード
・ チャプターオブザイヤー
・ チャプターニュースオブザイヤー
・ リサーチコミュニティサービス賞
・ CFEテスト最高点賞
・ エデュケーターオブザイヤー
  などなど…

②エキシビション
・ 40以上の企業、大学、団体などが展示、セミナー実施
・ LexisNexisなど日本サービス提供している企業(私は知りませんでしたが)もありますが、ほとんどはあまりまだ日本で知られていない会社ばかりでした。
・ ただ、各々の企業が提供するサービスは、法律や文化の違いはあっても、近々に必要になると感じられるものばかりでした。
例:新日鐵ソリューションとNorkom Technologies(アイルランド)の提携など
・ その他、リクルーティングを目的にしたものや、キャリアアップのための大学のブースなどもありました。

③朝食
 カンファレンス期間中は、毎日エキシビションホールで朝食が用意されます。立食のビュッフェ形式でたくさん用意されているのですが、やはりというか味はそれなり…でした。会話にもあまり自信はありませんが、出来るだけいろんな方と話すように心がけてみました。
 お話出来た方のうち、興味深かったのは、
・ ホワイトカラー犯罪対策コンサルタント
ニュースレター「White Collar Crime Fighter」を発行していたので、一部もらってきました。
日本の中小企業経営者が不正や不正リスクにフォーカス出来ておらず、不正リスクマネジメントや調査、防止業務が伸びにくい旨の話をしたのですが、程度の差こそあれアメリカでも中小企業経営者は同じ問題を抱えているとのことでした。
・ フロリダにある会計事務所のパートナー会計士
「マドフの会計士を知っているか」と聞いてみたのですが、フロリダだけでも会計士は多すぎて全く知らないとのことでした。
・ 「オランダ領アンティル」(カリブ海の島国)からの参加者
政府関連の仕事をしているとのことでしたが、イマイチ理解できていません。
余談ですが、この国は「日本のシンドラー」と呼ばれた杉浦千畝がリトアニアで発行した大半の通過ビザにおいて最終目的地とされていたそうです。

4)アフター5
 いきなり日本語で話しかけられたと思ったら「リソース・グローバル(NY)」で働いておられる岩田潤さん(CPA/CFE)でした。高校から海外経験の長い岩田さんは、ご両親が日本におられたり国籍が日本のままではあったりするものの、それ以外はいわゆる日本人とはかけはなれた生活や考え方なのが印象的でした。
 D-Quest脇山社長、石原さん、今村さんには途中でお会いできたのですが、26,27日の夜は岩田さんも合流して楽しい飲みとなりました。海外の場合一人ではさすがに遅くまで飲みに出ないのですが、数日ぶりの日本語でずいぶん楽しくリラックスさせて頂きました。

次回に続く