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あなたは必ず騙される ~ ポンジ・スキーム研究(1/5)

0.はじめに

「年率○○%の、絶対儲かる投資話があるんです!」

こんな話を持ち込まれても、普通の感覚を持った人なら「そんなうまい話があるか!」と、むしろ疑ってしまいますよね。

しかし、その相手の周りはいわゆる「セレブ」ばかりで、しかもそのセレブたちが実際に儲けを手にしているところを目の当たりにしたら。また、自分の親しい友人までが「あの人はすごい、ホンモノだよ」などと話をはじめたら。

あなたはそれでもこの投資話、自信を持って断ることができますか?

そんな話が出てきたら、「ポンジ・スキーム」を疑ってみるべきです。

 

このコラムは、何度かに分けてこの「ポンジ・スキーム」について解説します。

最近話題になった「マドフ事件」や「AIJ投資顧問事件」についてもご紹介する予定です。

※これらの記事は、本来のイタリア語読みである「ポンツィ」で書かれていましたが、最近は「ポンジ」と記載されることが多いためこちらに統一しています。

1.ポンジ・スキームとは

1)チャールズ(カルロ)・ポンツィ

「ポンジ・スキーム」の由来は、この詐欺師の名前そのものです。

この男「チャールズ(カルロ)・ポンツィ(Carlo Pietro Giovanni Guglielmo Tebaldo Ponzi)」は、1882年3月3日、イタリア・ルーゴに生まれています。その後、21歳だった1903年、アメリカに上陸しました。

アメリカに渡ったポンツィは、職を転々とした後ボストンにて「国際返信用クーポン」(国際通信用に、返信用切手と交換できるクーポンの付いた切手。郵便に使うという機能は共通ながら国によって物価が異なるため、安い国で買い、高い国で換金すると、理屈上は差益が得られる)の大量購入、換金という、当時流行りを見せていた鞘取りビジネスでひと儲けを目論見ますが、敢え無く失敗してしまいます。

ここでめげないのがポンツィの強みだったのでしょうか、失敗したにも関わらず、鞘取りのスキームによる投資を目的として、1919年12月、ボストンに会社を立ち上げます。当時の投資家に対する売り文句は、「たったの数十日で50%の利益が出る」というものでした。この投資会社は人気を呼び、ニューイングランドを中心に数千人から数百万ドルもの大金を集めたと言われています。

しかし、そもそもこのビジネスはそんなにうまくいくものではありませんでした。実の所、ポンツィは「先に投資した人に対し、後から投資した人の資金を使って配当」していたのでした。実は、この「自転車操業的」配当こそが、ポンジ・スキームの本質であると言っても過言ではありません。

さて、事態は急転直下となります。1920年7月、ザ・ボストン・ポスト(新聞)が、ポンツィが行うビジネスの合法性を疑問視する記事を大々的に掲載します。この結果ポンツィは、裁判所からの命令によって新規投資の受付を禁止されてしまいます。

ポンツィの手口が有効に回るには、「配当に見せかけるための新たな資金が入り続ける」ことが絶対条件ですから、このように新規投資受付を禁じられるとあっという間に破綻してしまいました。この結果、彼は詐欺罪で有罪となり刑務所に収容されることとなりました。

ポンツィは出所後も数度の詐欺を働き、実質的にアメリカ市民権を剥奪されます。その後1934年出身国のイタリアに戻り、さらに第二次世界大戦が勃発するとさらにブラジルに渡っています。この間、いわゆる原野商法など、現在の経済詐欺の原型となるようなスキームに次々と手を染めていたそうです。

まさに詐欺師人生の王道を歩いたポンツィですが、結局晩年は心臓発作や脳障害、視力障害などに苦しみ、1949年、貧しいままリオデジャネイロ市内の慈善病院で67年の生涯を閉じています。

 

2)ポンジ・スキームの特徴

ポンジ・スキームという名前が一般的でなかったためか、日本でこの手の事件が明るみに出た際には「ねずみ講」と呼ばれることが多いようです。しかしこの表現は正しくありません。

ねずみ講とは、法律上は無限連鎖講(むげんれんさこう)と呼ばれ、一人の上位会員に対して二人以上増加する下位会員から金銭を徴収し、その金銭を上位会員に分配することで、その上位会員が、自らの支払った金品を上回る配当を受けることを目的としてピラミッド型の組織を構築する詐欺の手法を言います。

このねずみ講で上位の会員が利益を得るためには、当然下位の会員は上位の会員よりも多く存在する必要がありますので、ねずみが子孫を大きく増やすように組織が拡大することからこの名前が付けられました。もちろん金品を払う下位の参加者が無限に増加するということはありえないため、途中で必ず破綻します。日本では無限連鎖講の防止に関する法律で禁止されています。

これに対してポンジ・スキームの特徴は、詐欺の首謀者が広く多数から資金を集め、この集めた資金の大半または全てを配当に見せかけて支払うことで、虚偽の運用実績を提示するところにあります。前述のねずみ講とは異なりピラミッド型の組織は必要とされず、首謀者が集まる資金を比較的自由に使える点が特徴であると言えます。

うまくこのスキームが構築されると首謀者には短期間かつ連続的に大きな資金が集まりますので、首謀者がその資金を乱用しやすい不正となっています。また信用を得るため一部の者への配当として多額の資金が流出するため、発覚、摘発されても損害の額に対して十分な賠償を得られない場合が多いようです。

 

次回(2/5)は、ポンジ・スキームの中でも史上最大規模と言われている「バーナード・マドフ事件」についてご説明します。

税理士法人耕夢のWEBページはこちら

会計監査人非設置会社において注意すべき期末の不正会計(セミナー告知)

来る2月19日(火)、日本監査役協会関西支部にて、「会計監査人非設置会社において注意すべき期末の不正会計-経理・法務経験のない監査役のためのスキルアップ」と題したセミナーの講師をさせて頂くことになっております。

「会計監査人非設置会社」というと堅苦しいのですが、中小規模の会社で社内のリソースが十分ではなく、また経理等の経験もそれほどない監査役が就任している場合、どのように不正と対峙していくべきか、についてのお話となります。
時間が限られておりますが、できる限り興味深い事例と、すぐに使える防止・発見ノウハウをお話できるよう準備を進めている所です。

聴講は監査役協会会員の監査役に限られる点少々残念ですが、もし該当する方、知り合いに該当する方がおられましたらご参加ご検討ください。

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開催日時:平成25年2月19日(火) 午後3時~4時30分
開催場所:公益社団法人 日本監査役協会 関西支部会議室
〒530-0004 大阪市北区堂島浜1‐4‐16 アクア堂島西館15階

概要
1.総論
中小会社の会計不正と監査役の関係などについて説明します。
2.事例と対策
在庫計上、循環取引、架空販売、架空人件費、横領などいくつかの手口をリストアップし、事例と対策をご説明します。
3.まとめと対策
上の事例を受け、採りうる対策をまとめます。

以上

ACFEジャパンセミナー

皆さんこんにちは。Whistle Technologyの塩尻明夫(CFE)です。
さて、来る11月27日(土)、大阪本町つるやホールにて、ACFEジャパンセミナーが開催されます。
詳細は下記の通りですが、後半にて私が3時間ほどお時間を頂き、「不正と内部統制」について講義する事になっております。
大阪で本格的なセミナーが開催される機会はまだ少なく、新たに必要となった倫理ポイントなど、CPE獲得のためにもぜひお申し込み下さい。

①10:00~13:00 CFEのための倫理セミナー
組織における不正防止の専門家として、CFEには職務遂行にあたって高い倫理観が求められており、同時に、企業の倫理的風土向上へのリーダーシップを発揮することも期待されています。一方で、企業において「倫理」という言葉は多用されているものの、その意義を役職員間の共通認識に高めるのは容易ではありません。

本講座では、ACFEが定めるCFEの職業倫理規程に即して倫理の意義を解説するとともに、組織倫理向上の要点と、実践に向けたリーダーシップを発揮するためのポイントを示します。

講師は甘粕潔さん(日本公認不正検査士協会理事)です。

②14:00-16:50 不正と内部統制/ACFEアニュアルカンファレンス報告
不正防止には不正リスクマネジメントが極めて重要な役割を担います。また不正リスクマネジメントを実施する際には、財務報告やコーポレートガバナンスと同様、内部統制、特に統制環境の整備が非常に重要となります。本セミナーにおいては、その活用についてご説明します。

また、7月末にワシントンDCで行われましたACFEのアニュアルカンファレンスに参加しましたので、その際の様子や受講したセッションなどについて可能な限りご報告します。

ACFE JAPAN 第1回カンファレンス

皆さんこんにちは。Whistle Technologyの塩尻明夫(CFE)です。
去る10月13日、東京は品川カンファレンスセンターで開催されました「ACFE JAPANカンファレンス」の記念すべき第1回に出席して参りました。
私も、前半の数十分だけ、世話人をさせて頂いている「関西不正検査研究会」のご紹介として喋ってきました。

なお公式の開催速報はこちらです。

先日ご報告した本部のカンファレンスとはまだ比較にならないくらい小さいカンファレンスですが、それでもACFEのジョナサン・ターナー理事長、八田進二先生や金融庁の佐々木清隆さん、ブログで超有名な弁護士の山口利昭先生をはじめ多忙な皆さんが参加、有意義な報告・パネルディスカッションとなりました。

懇親会の席でジョナサン・ターナー理事長が「各地のアニュアルカンファレンスに出席したが、第1回としては最も成功したカンファレンスではないか」という挨拶をされていました。

ターナーさんにはアニュアルカンファレンスで一言だけご挨拶していたのですが、その際はでかい会場で気が引けていたこともあり、気の利いた事も言えてませんでした。今回は懇親会で今後日本のCFEやAnti-Fraud市場など(あくまで適当感がありますが)割とお話ができてなかなか有意義でした。

余談ですが、懇親会を少し早く失礼し、その後別件の仕事をこなしたあとホテルで休もうと思っていると、LinkedInにてプロフィールをチェック・コネクト依頼されたとのメールが(早い!)。
やっぱりFacbookとLinkedIn等メジャーな所には登録しとかないとって痛感しました。

ACFE 第21回アニュアルカンファレンス参加報告(3)

3.旅程、料金、宿泊費など
①参加費用
 フル・カンファレンスに参加すると、ACFEメンバーの早期申し込みの場合$1,295かかります。ところが、D-Questの脇山社長がACFEに交渉して「ACFEジャパンのスペシャルレート」を毎年獲得してくれています。このレートは$995となっています。
 私の場合、ポストカンファレンスには日程の関係で参加出来なかったのですが、スペシャルレートだとプレカンファレンスとメインカンファレンスを単体で申し込むより安いという状態でした。
 なお、毎年抽選による当選者は次回の参加費用と旅費の一部が無料になるという企画もあります。人ごとと思っていましたら、今回ACFEジャパンから参加された石原さんは昨年これに当選され、その権利を行使して参加されたそうです。

②宿泊費用
 Gaylord National(ゲイロードナショナル)というコンベンションホール併設のリゾートホテルが宿泊先です。このホテル、ワシントンDCエリアであることをアピールしていますが、実はワシントンDCからは割と遠く、メリーランド州に所在しています。
 割と広いツインの部屋を出て一度ロビーに降り、建物の中を移動すると3分と係らずコンベンションセンターに入れます。
 建物内はどこも強烈にエアコンが効いており、当時日本以上だった外の暑さを全く感じることがありませんでした。温暖化防止などどこ吹く風といった感じです。
 宿泊費は、カンファレンス参加者の特別レートということで一泊通常$239のところが$209(これに消費税$33.44とリゾートフィー$15.9が追加される)×4泊となっています。高いようですが、ここの場合はこのホテルに泊まるのが移動を考えるとベストのようです。
 概して、幸いというか円高なのもあって、参加、滞在費用等はあまり負担感がありませんでした。

③旅費
 太平洋線が14時間~15時間係りますので、疲れを考えてビジネスにするとどうしても割高になってしまいます。仕事や旅行など「ついで」のある方ならちょうど良いと思いますが、私のようにこれだけが目的の場合は結構予算的にきついところです。ツアーを組み合わせるなど、ちょっと工夫が要るかもしれません。

④食費
 カンファレンス参加費には、ウェルカムパーティ参加費やほとんどの日の朝食、昼食が含まれています。それ以外の夕食などについては別途となります。

<参加しての感想>
1)カンファレンスの内容
 皆さんもお気づきと思いますが、まずは「セッションの数が多い!」ことに驚かされます。申し込みの際は、いろいろなセッションの選択を迷いながらも「まぁ埋め草的なものもあるんだろうな」と漠然と感じておりました。
 ところが、参加してみると大間違いでした。少なくとも私の受けたセッションは全て立ち見が出るほどの超満員でしたが、他の部屋も覗いてみた限り閑散としたところが全くありません。
 もっと驚くのはセッションの進め方です。ほぼ全てのセッションで、講師が精力的に喋ると同時に参加者から質問や議論が投げかけられ、ディスカッションに近い形式で進んでいきます。一般的に講師から参加者への一方的な情報伝達が主となっている日本のセミナーなどとは相当違うものを感じました。
 先にご紹介した岩田さんによると、この理由は、子供時代から学校でこういう授業の進め方をしていることが原因だろうということでした。

2)会場
 セッション数も多いためかなり広い場所、多くの部屋が確保されています。ただ同じ建物内に集中しているため、移動に苦労はありません。トイレや飲料、ソファなども十分に確保されていて、なかなか快適です。
 また時差の関係もあり昼からのセッションはかなり眠くなることもあったのですが、部屋に帰って仮眠してから出てくることも可能でしたので助かりました。
 ただ土地柄というか、周りに他の施設が少ししかない場所だったので、同時に観光したい人にとってはちょっと不便だったかもしれません。
 ちょっと疑問だったのは、セッション会場に置かれている椅子です。いわゆるアメリカンサイズの方々が相当数参加していたのですが、使われていた椅子は、日本のホテルで立食パーティの壁に置かれているあの椅子と同じようなサイズのもの。私でも少し窮屈なくらいなので、すし詰めな状態の受講は皆さん相当きつかったのではないでしょうか?

3)なぜ参加したか?
 実はラスベガスで行われた第20回に参加したかったのですが、スケジュールの都合でかなわず、今回が初となりました。
 日本はアメリカのように不正が多くない、という考え方が全くの幻想となりつつあるという現実は、企業経営や法務に関係する方のほとんどが理解しておられると思います。むしろ、先ほどご紹介した参加者との会話の通り、「不正を正視しようとしない」経営者がより多いことが本質ではないかと思います。
 米国などで注目を浴びているものが、間をおいて日本でも普及することは今でもありますので、不正関連業務についても今後の広がりが十分に予想できます。公認不正検査士という肩書きを外せばあまり期待したくない動きですが、残念ながら日本においても、今後不正関連業務は中小企業や個人に至るまで必要となる可能性が否定出来ません。
 私は現在、統制環境整備や不正リスクマネジメントをベースとした中小企業向け会計・税務業務の提供を計画していますが、そのためにも現在の日本で得られるより新しく、幅広く、深い情報が必要であると感じていました。
 この目的からみて、今回、たくさんのセッションを受け、関連企業の展示をつぶさに見ることが出来たのは大変良い経験でした。

4)ローカルチャプターとACFEジャパン
 ご存じの方もと思いますが、本来ACFEは世界単一会制を採っています。そして、各国・地方の会員単位として「ローカルチャプター」という下部組織が定められています。
 これに対して、これまた脇山社長を初めとする皆様のご努力で、日本のみ「ACFEジャパン」という独立した団体を設立し、ACFE本部とある意味対等に存在するという形となっています。この立ち位置が、おそらくスペシャルレートなどにつながっているのではないかと推察します。
 しかし、本当にこのままでいいのか、私には疑問が残ります。現在はACFEジャパンがマニュアルやFraudマガジンの翻訳など、日本語化に努力しておられますが、反面、不正調査と言う、「今後発展する可能性のある、幅広くチャンスのある仕事」について、例えばかつての会計の世界のように日本だけが日本語の壁に閉ざされていていいのかという疑問が以前からありました。
 今後は、ACFEジャパンという独立した組織のメリットは活かしながら、活発かつ力のあるローカルチャプターとしての活躍も進めていければ良いのではないかと思っています。

<来年について>
 第22回のアニュアルカンファレンスは、2011年7月12日~17日に開催されます。既に申込受付が開始されていますが、ACFEジャパン向けのスペシャルレートについては不明となっています。参加希望の方は、この発表を待ってからの方がよいかもしれません。

以上

(この3記事は、第3期関西不正検査研究会での発表資料をベースに作成されています)

ACFE 第21回アニュアルカンファレンス参加報告(2)

<参加イベント(26~28日)> 続き

<Track C>
Knowing What You Do Not Know: Emerging Trends and Issues
最近のトピック

<Track D>
Finding and Fighting Fraud Through Auditing
監査における不正対応

<Track E>
The Impact of Technology in the Fight Against Fraud
不正との闘いにITが与える影響
(受けたもの)
・ The First Eleven Places You Look When Investigating on the Internet
ネット上で調査をするにあたって便利なツールや、インターネットサイト、及びその使い方を紹介していました。グーグルなど日本で既にメジャーなものもありましたし、SNSのバックドア検索や企業情報検索など初耳なツール・サイトもあり、大変興味深いものでした。
・ Using Computer Forensics to Prevent and Detect Fraud
これも事前のレジュメがなかったので十分聞き取れないか…と思ったのですが、やはりIT用語はわかりやすくて助かりました。昨今の記憶容量増加がデジタル・フォレンジクスに与える問題や、PC調査の際なぜいきなりプラグを抜くか、USBのユニークIDがどこに保存されているかなど実務的な話題を紹介していました。
・ The Monster Fraud List: Developing a Comprehensive Library of Fraud Detection Tests
不正調査のために利用する、不正のトライアングルからみたデータ分析手法についての説明がありました。統計学を利用したり、テキストマイニングを利用したり、不正に利用される単語を使ったEメール分析といったITを高度に利用した手法が紹介されました。SOX法監査は「ルールベース」であるが、不正対応はそれだけでは十分でないという、考えてみれば当たり前の点を強調していたのが印象に残りました。

<Track F>
Coloring Inside the Lines: Compliance and Risk Assessment
コンプライアンスとリスク評価
(受けたもの)
・ Mitigating Risk: A Legal Perspective for Audit and Compliance Departments
本カンファレンスの「プログラム・ディレクター」でもあるブルース・ドリス氏が担当のセッションです。公務員のプライバシーに関する判例、「Honest Services Statute(正直なサービス法?)」という不正に関する法律についての注目の判例、PCAOBの違憲性に関する判例など、不正調査・防止業務に関連する判例を解説していました。ドリス氏の話術はさすがに巧みで、参加者からの質問、議論が最も活発だったのが印象的でした。

<Track G>
Addressing the Legal and Ethical Issues of Fraud
不正の法的、倫理的側面への対応

<Track H>
Identifying and Implementing Best Practices
ベストプラクティスの認識と準備

<Track I>
Learning the Hard Way: Case Studies
ケーススタディ

<Track J>
No Unique Problems: International Anti-Fraud Efforts
国際的な不正対応の努力

<Track K>
Exhibitor Education and Presentations
展示企業のセミナー・プレゼンテーション

<Keynote Speakers>
 朝食時や昼食時には、大会場に参加者を集めて講演がありました。事前のレジュメが手に入らなかったので細部まで内容が理解出来なかったのは残念ですが、それでも相当興味深い話が多くありました。詳細についてはACFEジャパンのページに日本語のレポートがありますのでまたご覧下さい。
・ Working Lunch(26日)
サブプライムローンなどの金融危機を解決するため、金融安定化法の一環としてTARP(Troubled Asset Relief Program)という制度が出来ました。これは、一種の公的な不良資産買取制度です。
スピーカーのニール・バロフスキー氏は、このTARPを悪用して公的資金を不正に取得することを防ぐ「Special Inspector General of TARP」に所属しています。この中で、TARPに関連する不正調査に従事した業務経験について話がありました。
・ General Session(27日)
スピーカーのアービング・ピカード氏は大規模なポンツィ・スキームによる不正を行ったマドフ事業の破産管財人を務める弁護士事務所のパートナーです。このセッションにおいては、破産管財人としてどのように不正を暴き、資金の流れを解明し、回収し続けているかについての話がありました。
・ Working Lunch(27日)
スピーカーのジェームズ・T・リース博士は、25年に渡りFBIに勤め、犯罪者プロファイリングなどを行ってきました。この後コンサルティング会社を設立し、現在に至っています。冗談も多くてかなり聴き取りにくかったのですが、CFEがどのような姿勢を持ち、常に高いレベルのスキルを求めなければならないかについての話がありました。
・ General Session & Closing(28日)
締めのスピーチとして、ジャスティン・ペーパニー氏による講演がありました。ペーパニー氏はUBSやメリルリンチ、ベアスターンズなどで証券投資を行っていたブローカーです。顧客からのパフォーマンス要求により、誘惑に負けてポンツィ・スキームによる不正に手を染めてしまったことや、逮捕、収監、そして現在の困難などの生々しい話がありました。
ACFE年次総会は毎年、総会の最終日の基調講演として、不正行為によって逮捕・収監された者をスピーカーとして招いています。このスピーカーには報酬は支払われませんが、何らかの犯罪者更正プログラムの一環なのではないかと思います。

< 参加イベント(その他)>
3)その他
①表彰式が非常に多い
・ クリフ・ロバートソン・センティネル・アワード
・ チャプターオブザイヤー
・ チャプターニュースオブザイヤー
・ リサーチコミュニティサービス賞
・ CFEテスト最高点賞
・ エデュケーターオブザイヤー
  などなど…

②エキシビション
・ 40以上の企業、大学、団体などが展示、セミナー実施
・ LexisNexisなど日本サービス提供している企業(私は知りませんでしたが)もありますが、ほとんどはあまりまだ日本で知られていない会社ばかりでした。
・ ただ、各々の企業が提供するサービスは、法律や文化の違いはあっても、近々に必要になると感じられるものばかりでした。
例:新日鐵ソリューションとNorkom Technologies(アイルランド)の提携など
・ その他、リクルーティングを目的にしたものや、キャリアアップのための大学のブースなどもありました。

③朝食
 カンファレンス期間中は、毎日エキシビションホールで朝食が用意されます。立食のビュッフェ形式でたくさん用意されているのですが、やはりというか味はそれなり…でした。会話にもあまり自信はありませんが、出来るだけいろんな方と話すように心がけてみました。
 お話出来た方のうち、興味深かったのは、
・ ホワイトカラー犯罪対策コンサルタント
ニュースレター「White Collar Crime Fighter」を発行していたので、一部もらってきました。
日本の中小企業経営者が不正や不正リスクにフォーカス出来ておらず、不正リスクマネジメントや調査、防止業務が伸びにくい旨の話をしたのですが、程度の差こそあれアメリカでも中小企業経営者は同じ問題を抱えているとのことでした。
・ フロリダにある会計事務所のパートナー会計士
「マドフの会計士を知っているか」と聞いてみたのですが、フロリダだけでも会計士は多すぎて全く知らないとのことでした。
・ 「オランダ領アンティル」(カリブ海の島国)からの参加者
政府関連の仕事をしているとのことでしたが、イマイチ理解できていません。
余談ですが、この国は「日本のシンドラー」と呼ばれた杉浦千畝がリトアニアで発行した大半の通過ビザにおいて最終目的地とされていたそうです。

4)アフター5
 いきなり日本語で話しかけられたと思ったら「リソース・グローバル(NY)」で働いておられる岩田潤さん(CPA/CFE)でした。高校から海外経験の長い岩田さんは、ご両親が日本におられたり国籍が日本のままではあったりするものの、それ以外はいわゆる日本人とはかけはなれた生活や考え方なのが印象的でした。
 D-Quest脇山社長、石原さん、今村さんには途中でお会いできたのですが、26,27日の夜は岩田さんも合流して楽しい飲みとなりました。海外の場合一人ではさすがに遅くまで飲みに出ないのですが、数日ぶりの日本語でずいぶん楽しくリラックスさせて頂きました。

次回に続く

ACFE 第21回アニュアルカンファレンス参加報告(1)

<はじめに>
 7月末、米国ワシントンDCで行われた、不正検査士協会のアニュアルカンファレンスに参加して参りましたので、その内容や感想についてご報告申し上げます。
 英語力の貧弱さや、また単身での参加ということもあり、内容が完全に網羅出来ていない点については何卒ご容赦下さい。

<カンファレンスの概要>
1.正式名称
21st Annual ACFE Fraud Conference and Exhibition

2.日程
・プレカンファレンス(25日)
・メインカンファレンス(26~28日)
・ポストカンファレンス(29~30日)
の三部構成となっています。

<参加イベント(25日)>
①受付
 大量の資料とバッグ、カップなどのノベルティが渡される。

②Pre Conference
 メインカンファレンスに先立ち、プレカンファレンスが行われました。
 プレカンファレンスは、「デジタル・フォレンジクス」と「FCPA(米国腐敗防止法)」の2テーマです。私は後者を選んだのですが、以前この勉強会で研修して頂いた知識が基本にありましたので、ある程度スムーズに聞くことができました。FCPAの制度、ペナルティの説明や事例、また海外での不正をどのように防止・発見するか、その場合のフィーなどについても、参加者と講師との間で活発な議論がありました。

③ウェルカムパーティ
 プレカンファレンス後、コンベンションホールでウェルカムパーティが行われました。イベントとしてスピーチなどあるのかと思ったのですが、単なる立食パーティ的な感じで、何となく始まってなんとなく終わっていました。
 ただ、ホールにはいくつものブースが設けられ、不正調査や防止に関連したツールやサービスの展示、リクルートなどを目的とした様々な企業が出展していました。出来るだけたくさんのブースに立ち寄って担当者に話を聞いたり、パンフレットやノベルティをもらったりと積極的に活動してみましたが、やはりこの分野に関する米国市場の厚みを感じました。

<参加イベント(26~28日)>
①オープニングセレモニー
 こういう儀式は特に皆さん好きなんだろうなぁと思います。各参加国の旗を持って行進し、壇上に立てていくというFlag Processionが荘厳に行われました。集合場所を間違っていて危うかったのですが、後述の石原さんのおかげでなんとか参加することができました。

②メインカンファレンス
 それぞれのトラックごとに6セッション(一部のセッションは同内容が二回実施あり)が用意されています。これらのセッションは内容のレベルによって「ベーシック」と「インターミディエイト」に分類されています。これらの中から、26,27日は3講座、28日は2講座の計8講座を選択することになっています。
 また、それぞれのセッションの間、朝や昼に食事をしながらの講演も用意されています。

<Track A>
Eyes Wide Open: Fraud Awareness, Prevention and Detective
不正の認識、防止、発見
(受けたもの)
・Things That Most Auditors Don’t Do Well
監査人が調査を実施する上で、不正を発見するために効果的となる重要な業務、例えばウォークスルーや調査対象現場への立ち入りなどは十分に行われていません。これらについて、実例を挙げながら説明がありました。話の中で「現在プロフェッショナルスタンダードとして求められていなくても、状況によってはそれ以上のことをすべきである」と強調していた点については大変印象に残りました。

<Track B>
Taking Action: Fraud Detection, Investigating and Resolution
不正の発見、調査、解決
(受けたもの)
・Fraud Investigations: What Not To Do
「不正調査でやってはならないこと」と題して、不正調査の失敗事例を中心に、契約時の利益相反からインタビュー、文書作成や陪審への対応などまで幅広く説明していました。
・The Best of Crimes, the Worst of Crimes: Fraud Stories that Prove the Truth is in the Transactions
テキストマイニングなど、取引データの詳細な分析によって不正を発見する手法について細かく説明がありました。一定のキーワードを含むメールから不正取引をあぶり出したり、日報データと旅費データの比較を行ったりと、日本でも使えそうな項目が多く提示されていました。
・Lessons Learned from Examining The Oversight of Ponzi Schemes
マドフ事件についてSECの調査を担当したデービッド・コッツ監察官が、マドフ事件や同様のポンツィスキームであるアレン・スタンフォード事件について説明しました。ただ、このセッションだけはレジュメが事前に発表されておらず、ぼそぼそと早口なしゃべりだったため細かい点まで聞き取れなかったのが残念です。

次回に続く