「研究施設」開設のお知らせ


税理士法人耕夢は、今年夏に「研究施設」をオープンします。
メーカーでもない会計事務所が研究施設?と疑問に思われるかもしれません。
ですがこの施設、私たちが業務上直面する、様々な問題への解決手法を生み出し、お客様にアドバイスするための大変重要な場所なのです。

例えば、現在問題となっている「空き家」。
長年お一人で住んでおられた住人がお亡くなりになり、相続人がいなかったり、遠く離れて住んでいたりとその家を引き継げず、メンテナンスも収益化もできず放置して、雨漏りやカビなどでどんどん傷んでしまう。
「実家の相続対策」と言い換えても良いかもしれません。
このような事例は数多く発生しており、どのように対処すべきか早急に検討する必要があります。

また昨今、物価高や人材不足、円安といった複合要因で新築の戸建てやマンションが高騰しています。
こうなると、幾ら賃上げが進んでも若い世代に手が届かなくなってしまいます。
そういった方に、良い中古物件を魅力的なリフォーム・リノベーションで安価に提供できないでしょうか。
幸い?中古物件はまだ新築ほど高騰しておらず、特に前述の空家の問題もあって供給は比較的期待できます。

遠隔地にある実家を管理したり、中古物件を上手に使う場合、重要になるのがIoTによる「ホームオートメーション」化です。
例えば、電気代を節約しつつ家じゅうの湿度を一定以下に抑えたり、照明やエアコン、ドアロックなどをコントロールして安全で快適、低コストな生活を実現するなど、こういったことは今手に入る製品群で比較的安価に実現できます。

最後に、中古住宅の購入、リフォームやリノベーション、賃貸や売却、相続といった節目には必ず「税金」が関係してきます。どのようなシチュエーションでどのような税金が影響するか意識する必要があり、対処は大変重要な論点です。

この研究施設は、上記のような論点を研究しつつ、お客様に実証実験内容を見学頂いたり動画を配信することが可能です。また同時に、弊所の役職員がフルリモートで事務所と全く同じ業務を行えたり、またゲストハウスとしての活用も可能な立地・構成となる予定です。
今後各論点についてご紹介記事を配信致しますので、是非ご期待下さいませ。

写真1 ダメージ修理・リノベーション中

写真2 施設からの眺望

写真3 ホームオートメーションの例

頂き女子りりちゃん

まだ記憶に新しい「頂き女子りりちゃん」事件。
様々なメディアで取り上げられ、その後の話題にも事欠かないこの事件は、表面上は「単なる恋愛詐欺事件」に見えるかもしれません。
しかしその実態は驚くほど緻密かつ完成度の高い、新種の不正としての特性を完全に備えています。

風俗嬢として働いていた「りりちゃん」は、男性顧客の心を掴み、弱者を演じることで信頼を得た上で、「闇金に追われている」「死にたい」などと精神的危機を訴え、金銭を引き出す技術を体系化。それを「魔法マニュアル」と称し、他の女性にも販売していました。そのマニュアルを使い、名古屋市の女子大生が複数の男性から計1000万円以上を詐取したことが発覚し、「りりちゃん」自身も詐欺幇助と詐欺の罪で逮捕。最終的には懲役8年6ヶ月、罰金800万円の有罪判決が確定しました。

このマニュアルにおいて驚くべきポイントはいくつかあります。

①高度に完成された「心理操作技術」
構成は大きく三段階――信頼関係の構築、金銭引出しの会話術、そしてアフターケア――に分かれており、ターゲットの感情を計算し尽くして制御する内容になっています。

②フィルタリングの巧みさ
彼女は“おぢ”と呼ばれるターゲットを「ギバー型(与える人)」「マッチャー型(見返りを求める人)」「テイカー型(搾取する人)」に分類。最も効率良く金銭が得られる“良おぢ”に的を絞り、LINEの返信間隔や言動から心理状態を把握し、段階的に情報を小出しにして感情を高めていきます。いきなり金銭を要求するのではなく、「自分から出させる」よう誘導するこの手法は、従来の詐欺とは一線を画す点です。

③リスクの回避手法
さらに驚くべきは、彼女が法的リスクやターゲットからの報復リスクまで防ぐ方法までも理論化していた点です。
金銭提供を「頼んでいない」「むしろ一度断っている」という構図を作ることで、法的責任の回避を図ったり、結婚詐欺の追及を防ぐ言い訳、また強い報復の恐れのあるターゲットに手を出さないための方法などが明記されています。

④「防ぎにくい」「裁きにくい」
最も厄介なのは、こうした一連の行為が「防ぎにくい」「裁きにくい」点にあります。
ターゲットされた男性は、その資金が尽きるまで自分の意思でお金を差し出し、満足すら感じています。このような場合、その行為を他者によって止められるか、また詐欺として裁けるどうかは微妙な所です。
そしてこの手法は、彼女のマニュアルを完ぺきに実践すれば、どんな女性でも実行できてしまうのです。
このように彼女が確立した「頂き女子」手法は、これまで見出されていなかった「パンドラの箱」であると言えます。

このマニュアル分析はあまりに危険(理解して使われると必ず被害が出る)なため、詳しい紹介や防止手法については公認不正検査士の勉強会でのみ公表しています。

いよいよ相続税調査にもAIが関与

国税庁が2025年7月から全国で導入する新たな仕組みとして、「AIによる相続税のリスクスコア判定」が始まります。これは、すべての相続税申告書についてAI(人工知能)を用いて税務リスクを自動的に評価し、スコア化するというもの。従来は人の目によって選定されていた調査対象が、今後はAIの判断を経て抽出される時代になります。

ではAIの導入を経て何がどう変わるのでしょうか。

これまでの相続税調査は、調査官の経験と直感、そして過去の統計、幅広く、また長い時間に基づいて集められた資料などに基づいて「この申告は気になるな」と人間が見定める仕組みでした。もちろんそこには熟練の技術が必要になり、そのような「職人技」的な運用にはどうしても限界があります。
特にコロナ禍を経て、こういった熟練の技がどうしても途絶えつつある現況、調査の範囲や深さ、質を、コストを押さえつつどう維持するかは大きな課題となっていました。

そこで今回登場したのが「AI相続税リスク判定システム」です。
開始後は、すべての相続税申告書を対象に、AIが過去の調査実績や申告内容との比較を行い、税務上の誤りの可能性を0.0~1.0のスコアで数値化します。スコアが高ければ高いほど、調査対象として選ばれる可能性が高まる訳です。

注目すべき点は、全国一律の基準で評価がなされるという所かもしれません。
この評価からは地域や税務署ごとの差が排除され、公平かつ品質の高い運用が期待されます。また、調査対象の選定が合理化されることで、本来注力すべき案件に集中でき、より精度の高い税務行政が実現されるというメリットも想定できます。

納税者にとっては「漏れなく調査される」という印象もあるかもしれませんが、先んじて開始している法人税のAIによる調査先選定は、運用が安定的となった昨今、「真っ当な会社への調査が明らかにへり、大きな問題のある会社へピンポイントで調査が入りやすくなった」との意見も多くみられます。

もちろん、AIがすべてを判断するわけではなく、最終的な判断は調査官が行います。ただ、その判断の土台にAIのスコアが用いられる、という所が重要です。

それでは、どのように対処すればよいでしょうか。
AIがどのようにスコア付けするか、という詳細な技術は公表されていませんが、相続税を長年やっている税理士にはだいたい分かります。
最も多いケースである「財産隠し」については、そういった行為が行われた場合に必ず発生する異常な点があります。嘘をついたり何かを隠蔽した場合には、必ず矛盾が出るからです。
この為、まずはそういった行為を行わない事、が重要です。
今までは見逃されたわずかな兆候も、AIの運用が安定すれば簡単にピックアップされます。

他方、何も悪いことはしていないのにそういった兆候に「見えてしまう」ことも多々あります。
そういう場合には、そういったリスクを認識して対処できる、相続税をよく理解した税理士に依頼することや、税理士から「申告書の作成に関する計算事項等記載書面(税理士法33条の2①書面。「税務調査を受けない方法 -税理士法33条の2の添付書面-」に詳しい記事があります)を提出してもらうことが重要です。

そういった「正しい対処」を心がけている場合、このシステムの導入は真っ当な納税者にとって有利に働く、と言っても良いと思います。

体温を上げると身体は整う

「なんだか疲れやすい」「最近風邪を引きやすい気がする」。そんなとき、「体温」を意識したことはありますか?
実は、体温が1℃下がるだけで、免疫力や代謝は大きく変化します。逆に言えば、少しの工夫で体温を高めるだけで、体は驚くほど元気を取り戻してくれるのです。

体温が上がると、免疫が働きやすくなる
平熱が36.5〜37.0℃前後だと、白血球などの免疫細胞が活発に働きます。これが35℃台になると、免疫力が3割以上も低下するともいわれています。

つまり、風邪を引きやすい、体調を崩しやすい…という方は、まず「体温を取り戻す」ことが改善の第一歩です。

私はコロナ禍の際、ワクチンの副反応がひどく(ほとんどかかったような熱などの症状が出ました)、最低限の2回しか接種しなかったのですが、朝風呂の習慣を中心に「体温を上げる」ことに注力しているためか、今に至るまで全くかからず過ごせています。

体を温める習慣、できていますか?
たとえば朝風呂。
朝のシャワーや入浴で体温が上がり血行が良くなると、免疫力だけではなく自律神経が整い、頭がスッキリ冴えた状態で一日をスタートできます。
また、内臓の働きも活性化しやすく、胃腸が「目覚める」効果も。

さらに、「軽い運動」もおすすめです。
ウォーキングや軽いジョギング、ヨガなどは、体に無理なく熱を生み出してくれます。
運動によって血流が改善され、手足の冷えが取れてくると、体の芯から温まってくるのが分かるはずです。

食事の力で、体の中から温める
ショウガ、にんにく、唐辛子といった香味野菜やスパイス類は、血行を良くしてくれる代表格です。
また、朝食をしっかり摂ることもポイント。朝の食事は、日中の体温リズムを整えるうえで重要な役割を担っています。

特に冷えやすい方は、冷たいサラダや飲み物ばかりでなく、温かいスープやみそ汁などを日常的に取り入れてみてください。

「不調の原因が、実は“冷え”だった」。
こうした話は、決して少なくありません。
朝風呂、軽い運動、温かい食事。できることからで構いません。日々のちょっとした工夫が、体調を大きく左右します。

なおこれから暑い季節がやってきますが、実はそういう季節ほど体を冷やす環境や行動をとりがちです。
そのような時も、是非体温を保つ習慣を忘れないようにして下さい。

なかなか時間がとれない、という方も多いと思いますが、「体温を上げる習慣づけ」は少しずつでも必ず効果があります。


<出典>
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」
厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」
環境省「熱中症環境保健マニュアル 2018」
文部科学省「中学生用食育教材 指導者用」

中小企業の資金繰りで注意すべき点

中小企業における資金繰り管理は、単なる現預金の増減把握に留まらず、事業の継続可能性そのものに直結する重要な業務です。

まず注意すべきは、「資金繰り計画の可視化」です。
損益計算書上の黒字と、実際の資金繰り状況は必ずしも一致しません。
そのため、月次の資金繰り表(将来の入出金予定を一覧化した表)を作成し、資金の流れを体系的に整理することが不可欠です。

特に、売掛金の回収サイト(売上代金が実際に回収できるまでの期間)と、買掛金の支払サイト(仕入代金を支払うまでの期間)の差によって生じるキャッシュフローのギャップ(資金の出入りのズレ)を正確に把握することが、資金ショートを防ぐ鍵となります。

次に、金融機関との関係構築についてです。
資金調達は、必要に迫られてからではなく、平時から備えておくべきものです。
具体的には、事前に財務内容を金融機関に説明し、信用を高めておくことが重要です。
借入枠(あらかじめ設定しておく融資限度額)を確保したり、コミットメントライン契約(一定期間、必要に応じて融資を受けられる契約)を締結するなど、将来の資金需要に備えた対策を講じておくべきです。
また、銀行担当者とは定期的に情報交換を行い、自社の状況を正しく理解してもらうことが、いざというときの迅速な資金調達につながります。

売上債権や棚卸資産の管理も欠かせません。
売掛債権の回収遅延は、資金繰り悪化の大きな要因ですので、取引先の信用リスク(債権回収不能リスク)の管理や、与信限度(取引上限額)の設定、請求漏れ防止の仕組みづくりが求められます。
また、棚卸資産(在庫)についても、過剰在庫は資金を圧迫するため、適正在庫水準の維持や在庫回転率(一定期間に何回在庫が回転したかを示す指標)の改善に努める必要があります。

さらに、資金繰り悪化の兆候を早期に察知する体制づくりも重要です。
例えば、月次決算を適時に実施し、売掛金回収期間の延伸、仕入債務返済の遅延、運転資金需要の急増などの指標をモニタリングすることで、問題の兆しをいち早く捉えることができます。
このモニタリングを精緻かつ適時に行う事は大変難しいのですが、最近は様々なツールやサービスが提供されており、専門家や経理のベテランでなくてもコントロールすることができるようになりつつあります。
弊所もお客様向けにツールを開発・運用しており、導入頂いたお客様から一定の評価を頂いています。
倒産しないために~資金繰(しきんぐり)の重要性と便利なツール

資金繰り対策は、一時的な融資や返済条件変更だけでは解決できません。
日常の資金管理体制を地道に整備し、中長期的な財務戦略を描くことが、持続的な企業経営を支える土台となります。
私たちも全力でお手伝い致します。

個人情報保護に関する基本方針

当法人は、個人情報保護法に定める個人情報を大切に保護することは当然の社会的責務であることを充分認識し、下記の通り個人情報の保護方針を定めます。

1.個人情報保護方針

当法人は、お客様からご提供いただく個人情報について、個人情報の保護に関する法律その他の関係法令等を遵守し、内部サーバ、クラウドストレージを問わず必要かつ十分なセキュリティ対策を講じるとともに、適正に取扱います。また、個人情報の取扱いに関する苦情・相談に迅速に対応し、その取扱及びセキュリティ対策については、継続的に見直し、改善いたします。
なお、当個人情報保護に関する基本方針は、法人設立以前から個人事務所において運用がなされている公認会計士法及び税理士法が定める守秘義務条項において包括的に定められ、遵守しておりました概念を具体的に明文化された方針として定めるものであります。

2. 個人情報の収集と利用の目的

当法人は、当法人の業務に関して、必要な範囲で、適法かつ公正な手段により、お客様およびお客様の関係者(以下「お客様等」といいます)の個人情報を入手することがあります。当法人が入手したお客様等の個人情報は、お客様等に公認会計士・税理士・公認不正検査士業務に関連するサービスを提供するため必要な範囲でのみ利用し、お客様等に無断でその他の目的に利用しません。

3.個人情報の開示・訂正・利用停止

当法人に提供されたお客様等の個人情報は、お客様等ご本人の求めにより開示、訂正すること、及び利用の停止が出来ます。その際、当該ご請求のお客様等には適切なご本人確認を実施します。

4. 第三者への個人情報の提供

当法人は、以下の場合を除き、お客様等の個人情報を第三者に対して開示または提供することはいたしません。

  1. お客様等ご本人の同意を得た場合
  2. 法令に基づく場合
  3. 人の生命、身体、財産の保護のために必要がある場合であって、お客様本人の同意を得ることが困難である場合
  4. 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
  5. 個人情報をご提供されたお客様本人から明示的に第三者への開示又は提供を求められた場合
  6. お客様本人が第三者が主催するセミナーやイベントに当法人を通じて申し込まれた場合で、当該第三者から情報の提供を求められた場合
  7. お客様本人が当法人を通じて当法人又は第三者の物品やサービスの購入をされ、当該第三者又は運送業者等から必要な情報の提供を求められた場合
  8. 当法人の営業の全部又は一部を第三者に譲渡する場合
  9. お客様を識別することのできない情報

なお、お客様の個人情報を第三者に提供する場合には、その第三者に対し契約書等の徴取により適切かつ継続的な管理を義務づけます。

5. インターネットサーバの運用について

当サイトでは、WEBサーバの機能により、IPアドレス、ユーザーエージェント等のデータを自動的に収集しています。これらの情報は、当サイト運営のための参考資料として、および不正アクセスなどのセキュリティ上の問題ならびに脅迫等の不法行為が発生した場合の検証目的に限り利用します。また、上記以外の個人情報についてはWEBサーバから物理的に分離されたファイルサーバ及び適切なセキュリティ設定のなされたクラウドストレージに保管し、外部からの不正なアクセスを制限しています。
当法人の開設するWEBサーバ内には、当法人以外の第三者が設置するサーバ内に保存されたファイルに対してリンクを設置している場合がありますが、当該第三者が設置するサーバにおけるお客様の個人情報保護については、当法人は一切の責任を負いかねます。

6. 連絡先について

当法人の個人情報保護の取扱については、
事務所連絡先にご連絡頂くか、連絡フォームにてご連絡ください。

贈与税の改正について(令和5年度税制改正大綱)

昨年12月23日、「令和5年度税制改正の大綱」が閣議決定されました。

この税制改正の大綱は、政府が今後の税制改正のあり方について明確に方針を示すもので、毎年12月に公表されます。

これに対し、与党自民党と公明党が発表する「税制改正大綱」と呼ばれるものも、通常は政府の「税制改正の大綱」の直前に発表されます。通常これらはほぼ同じものとなるのですが、前者が「与党の方針を示すもの」であり、後者が「政府の方針を示すもの」であることから、場合によっては異なる場合もあり得ます。

さて、この「税制改正の大綱」の中に、贈与税について興味ぶかい改正がリストされました。
以前から「暦年贈与の廃止?」として、ずっと話題になっていた内容にかかわるものです。
具体的には以下の通りとなっています。

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①相続時精算課税(※)
・課税価格から基礎控除 110 万円を控除できる(暦年課税とは別)
・相続時は、上記の控除後の金額を相続財産に加算
・相続時精算課税で取得した土地又は建物の災害損失→被害部分を控除して相続税計算
・手続の簡易化

②暦年贈与
・相続の開始前7年以内(現行:3年以内)の贈与財産は相続財産に加える
・但し、今回増える部分(4年以前)は、100 万円を控除した残額を加算

贈与R5改正
暦年贈与改正

③適用開始
令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用
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※相続時精算課税とは:届出をした親子などの間で、贈与をした財産について「贈与時の時価で」相続財産に持ち戻して相続税を計算する制度。贈与額の合計が一定額(2500万円)を超えると20%の贈与税がかかるが、相続税の前払として相続税額から控除を受けることができる。贈与後のキャピタルゲインが相続税の課税対象とならず受贈者に移転するため、値上がりや高い収益発生が確実な資産を対象にすると効果が高い。

相続時精算課税贈与のメリットが増加すること、また暦年贈与の「持ち戻し」期間が長くなることから、これまでの贈与を用いた相続対策に少し変化が出ることが予想されます。
とはいうものの、早めに相続対策を始めることができる方にとっては、改正後もまだ暦年贈与は大きなメリットを持つ対策です。

弊所のブログ(下記)でご紹介した説明については、改正後少し補正が必要ではあるものの、基本的な考え方が変わらず活用できます。

これが贈与の全てだ! ~ プロが教える贈与のポイント
相続税の見積り計算と有利な贈与
「3代で財産がなくなる」相続税と効果的な対策(シミュレーション)

また、以下のシミュレーションを使うと「相続税を効果的に抑えることができる贈与額」を求めることができます。
相続税シミュレーション(相続税額と、有利な暦年贈与額の比較)

 

献血と骨髄バンク(新型コロナワクチンとの関係)

皆さん、献血をしたことがありますか?
ときどき、赤十字や若者たちが街で「献血をお願いします」と呼びかけているのを見たことがあると思います。また、ひょっとしたら大きな怪我や手術で、輸血を受けられたことがあるかもしれません。この献血について、また水泳選手が急性白血病を発症したことで注目を浴びている「骨髄バンク」について、またそれらに関連した活動、問題点について少し説明したいと思います。
※新型コロナウイルス用ワクチン接種の場合の注意点を追加しました。


厚生労働省の献血キャラクター「けんけつちゃん」

1.献血とは?
献血とは、病気や怪我で輸血を必要としている人のために、「自発的」に「無償」で血液を提供することを言います。日本での献血の受入れは、国(厚生労働省)から唯一、採血事業者として許可を受けている日本赤十字社が行っています。
この「自発的に」「無償で」という点、実は国際的な定義があります。
1991年の国際赤十字・赤新月社決議によると、「自発的な無償供血とは、供血者が血液、血しょう、その他の血液成分を自らの意思で提供し、かつそれに対して、金銭又は金銭の代替とみなされる物の支払いを受けないことをいう」と決められています。
かつては「売血」「血液銀行」といって、有償で人々から仕入れた血液を輸血用に売る商売がありました。このような事業者に血液を売る人々の多くはいわゆる低所得者で、生活の糧を得るために血液を売らざるを得ない人々でした。そうなると、本来間隔を置かなければならない売血が頻繁になり、健康を害するようになってしまいました。このような人からの血液は、輸血に適さない上に肝炎などの副作用を起こすリスクも増大します。
このような問題を受け、政府は昭和39年8月21日、献血に関する体制整備(日本赤十字社または地方公共団体によるもの)を閣議決定しました。その後売血はほぼなくなり、現在のような体制が続いています。

2.献血を受けるには
会場を探す
まず、各所に設けられている献血ルームや、イベント会場などにやってくる献血バスを探しましょう。日本赤十字のWEBページから、各地での献血会場を検索することができます。どの会場でも、後述の献血カードがあれば献血者の情報は記録されていますし、安全・衛生面において全く問題がありません。便利な場所、時間で気軽に行ける場所を選んでください。

申し込む
献血カードをお持ちでない方は、会場の窓口で作ってもらいましょう。献血は前回との間隔や年齢等さまざまな制約があり、個人ごと個別に管理する必要があるので、このカードがなければ献血できません。この申請の際には氏名、生年月日、原則として写真付きの身分証明の提示が必要です。
なお残念ながら、年齢制限や特定の薬の服用、予防接種を受けた場合、海外から帰国後4週間以内の場合や特定期間内に特定国(イギリスなど)に滞在していた場合など、「献血ができない」一定の制約があります。献血カードを提示後いくつか質問を受けますので、これらには正直に答えましょう。

献血する
カードが作成できたら、献血ルームに入ります。しかし、ここでいきなり献血するのではなく、医師の問診、血圧、血液検査、シーフテスト(肩・腕・手の状態が悪くないか自己検査)などの簡単なチェックを受ける必要があります。
これらの検査が終わった後は、ようやく献血開始です。
少し背中を起こしたようなベッドにリラックスして横になり、献血用の針を腕に刺して血液を提供します。
血管の太さや体の大きさなどによって異なりますが、400mlの献血で10~15分程度、成分献血と呼ばれる、血液から必要な成分だけを抽出して元に戻す献血の場合には40~1時間半程度かかります。私の場合は適しているのか、10分かからないことが多いです。
その間、担当するスタッフや看護師さんからは、しつこいくらい「大丈夫ですか」「水分採って下さい」と言われます。これは、血液の減少による体調不良を防止するためです。実際、献血後くらくらして倒れる方もおられるようです。これに対し、献血を始める前から何本かの飲料を持っておき(会場には大量に飲料が置いてあるのでいくらでももらえます)、献血中から少し多い目なくらい飲んでおくと、このような体調不良をほとんどなくすことが可能です。

④新型コロナなど、ワクチンを接種した場合
ワクチンは、人間が持つ「免疫」の仕組みを人為的に利用し、ウイルスや細菌などの病原体に対する抵抗力を作り出します(ワクチンの仕組みや種類については、「コロナワクチンとリスクマネジメント」を参照)。
この過程で、弱らせた病原体やウイルス、mRNAと呼ばれる遺伝子を体、すなわち血液に注入するので、これがそのまま献血で取り出されてしまっては、献血血液にそういった物質が紛れ込むことになりリスクがあります。

このため、日本赤十字は元々、以下のワクチンに応じて献血が不可となる時間を決めていました。

  • インフルエンザ、日本脳炎、コレラ、A型肝炎、肺炎球菌、百日ぜき、破傷風等の不活化ワクチンおよびトキソイドの接種を受けた場合…接種後24時間
  • B型肝炎ワクチンの接種を受けた場合…接種後2週間
  • 抗HBs人免疫グロブリンを単独または併用した場合…投与後6カ月間
  • 狂犬病ワクチン(動物にかまれた後)を接種した場合…接種後1年間
  • おたふくかぜ、風疹、BCG等の弱毒生ワクチンの接種を受けた場合…接種後4週間
  • 天然痘ワクチンの接種を受けた場合…2カ月間
  • 破傷風、蛇毒、ガスえそ、ボツリヌスの抗血清の投与を受けた場合…投与後3カ月

これに加えて、新型コロナウイルスのRNAワクチン(mRNAワクチンを含む)を接種した場合には、1回目、2回目いずれの場合も、接種後48時間を経過するまで献血が不可となりました。
なお、現在公費接種の対象となっているRNAワクチンは、ファイザー社と武田/モデルナ社となります(2021/8/21現在)。 また、その他の種類のワクチンを接種された方は、現時点では献血不可とのことです。
加えて言うと、予防接種「前」の献血については基本的に制限していないとのことです。

【令和3年5月14日から適用開始】 新型コロナウイルスワクチンを接種された方の献血受入れについて(日本赤十字)

2.骨髄バンクについて
骨髄バンクとは
人間の血液は、白血球や赤血球、血小板などの血液細胞から構成されていますが、これらの細胞は全てが「骨髄」(骨の中心部にある組織)の「造血幹細胞」という一種類の細胞から作り出されています。この骨髄において異常な造血細胞が無秩序に増加し、正常な血液細胞の増加を妨げる状態が白血病です。白血病になると、赤血球の減少による貧血や、白血球の減少による抵抗力減、そして血小板減少によって出血しやすいなどの症状が現れます。

この白血病は血液のがんと言われていますが、今のところ抗がん剤・放射線と骨髄移植によるものが代表的な治療法です。
骨髄移植とは、抗がん剤や放射線によって白血病幹細胞などの病原を死滅させ、その後正常な骨髄を移植することで、正常な造血力を再生させる治療法です。
この骨髄移植は、患者のみならず移植細胞の提供者にも大きな負担がかかることや、拒否反応が発生しないよう「型」の合う提供者を探さなければならないことから、効果は大きいものの容易な方法ではありません。
骨髄バンクは、このような患者さんを救うため、善意による骨髄提供の仲介を行うために設立されました。提供者となるドナーを多く集め、移植を必要とする患者さんとのマッチングを迅速かつ公平に行うことをその使命としています。
ドナー登録については様々な場所で受け付けが行われており、もちろん献血会場にも受付窓口があります。

骨髄バンクの抱える問題
トップ水泳選手の急性白血病が取り上げられた関係で、ドナー登録を希望する人々が急に増えたそうです。ドナーとなれるのは20歳以上55歳以下(登録自体は18歳以上54歳以下)の方だけで、しかも多様な型が必要だったり、献血以上に様々な制約がありますので、慢性的に不足している状態が多少改善されるかもしれません。
しかし、実際には「キャンセル」という深刻な問題も起きているそうです。
実際にあった話として看護師さんから伺ったのは、こんな話です。
小さなお子さんが白血病となり、せっかく待ちに待った「型」の合うドナーが見つかったのに、移植直前になって「キャンセル」された(制度上キャンセルを制限することはできず、理由も聞けない)ことがあったそうです。ご両親のお気持ちを思うと胸が痛みます。
実際登録はしたものの、提供する場合には数日入院しなければならないこと、提供側にも副作用の出る可能性があることなどから、このようにキャンセルする場合が出てくるそうです。

3.ロータリークラブ・ローターアクトクラブの活動
私が所属するロータリークラブ(世界200以上の国と地域、120万人を超えるメンバーで構成された奉仕団体)においては、献血や骨髄バンクの活動を長きにわたり支援しています。
ロータリークラブとともに活動する、30歳までの若者で構成された「ローターアクトクラブ」とともに、各地の献血会場でPRや誘導、骨髄バンク説明員などのボランティア活動に汗を流しています。
会場で見かけたら、是非激励してあげて下さい。

4.宗教と輸血
時折、宗教上の理由から、本人や家族により「輸血を拒否」した場合がニュースになります。
我が国は信教の自由(憲法20条)、自己決定権・幸福追求権(同13条)が認められていますが、他方医療機関としては治療上、献血しなければ患者の生命が危険な状況を放置するわけにはいきません。実際、宗教上輸血を拒否する患者に同意なく輸血した医療機関が賠償請求された場合もありました。
このため、現在はほとんどの医療機関が「宗教上の理由により輸血を拒否する患者さんへの基本方針」といったポリシーを定めて公開し、そのような患者さんの理解を得るようにしています。
基本的には「相対的無輸血(患者さんの意思を尊重して可能な限り無輸血治療に努力するが、輸血以外に救命手段がない場合には輸血する)」の立場を採り、「絶対的無輸血(いかなる事態になっても輸血をしない)」は否定する、という内容となっています。

policy
宗教上の理由により輸血を拒否する患者さんへの基本方針の例(神戸赤十字病院)

どんな会計ソフトでもOK(汎用データコンバータ)

1.財務会計データの非互換性
会計ソフトに代表される財務会計用ソフトウェアは、それぞれの開発会社が独自に定めた方法でデータを保存しており、当然ながらそれぞれの間に互換性(相互に利用できること)がありません。
このため、例えばある会計ソフトを長年利用してきた会社が、別のより使いやすい、廉価な会計ソフトに移行したいと考えたとしても、旧ソフトから新ソフトへのデータ移行は容易ではありませんでした。
また、同じ開発会社の会計ソフトと販売管理ソフトは連携の取れる場合が多いのですが、違う開発会社間の連携はごく稀なケースを除いては不可能でした。
そんな訳で、これまで財務会計用ソフトの世界は、データの非互換性が一種の「移動障壁」であったと言えます。

2.汎用データコンバータ
このような状況に対応するため、税理士法人耕夢は「汎用データコンバータ」を開発しました。

汎用データコンバータを利用した業務の例

このコンバータは、①ある会計ソフトウェアや販売管理ソフトウェアなど、決まった様式で多数の取引などの情報を持つデータ(ソースデータ)から、別のソフトウェアにおいて取扱が可能な様式へ、一度の簡単な設定後は自動的に変換を行うことができる、一種の「フィルタ」と呼ばれるアプリケーションです。

このコンバータを利用することで、お客様がどの会計ソフト(仕訳をCSVなどテキストデータの形で出力が出来るものに限ります)をご利用の場合でも、簡単な基礎データ収集と初期設定によって私どもの事務所で使用する会計ソフトの形式へのデータ変換が可能です。

3.汎用データコンバータでできること
では、この汎用データコンバータでどのような作業ができるでしょうか。 現在実際に行われている作業の一部をご紹介します。

1)会計ソフト移行
このコンバータが最も力を発揮するのがこの作業です。
新しく顧問先になって頂いた会社が現在会計事務所で使用しているものと異なる会計ソフトを使用して経理業務を行っておられる場合、いわゆる「自計化(顧問先にて基本的な記帳を行い、会計事務所が内容の確認を行う方式)」状態を続けるためには、従来は

  1. 顧問先においてBをAに変更してもらう
  2. 会計事務所でBを新たに購入し、受け入れをする

など、共通の会計ソフトをどちらかで購入する必要がありました。
しかし、汎用データコンバータを用いることで、顧問先は従来通りの会計ソフトで記帳し、そのデータを会計事務所の会計ソフトに変換して受入れ、チェックや決算、申告書作成を行うという業務の流れが可能になります。

2)販売管理などサブシステムとの連携
同じメーカーのソフトを使っている場合、販売管理ソフトなどサブシステムと会計ソフトは通常連携が取れるようになっています。
しかし、会計ソフトとサブシステムのメーカーが違うというケースは以外と多くあります。その理由はいくつかありますが、例えば次のようなものです。

  1. 会計ソフトと同メーカーの販売管理ソフトが営業形態に合わない
  2. 会計ソフトは経理部、販売管理ソフトは営業部と別々に導入が行われた

このような場合も、汎用データコンバータは違うメーカー製ソフトウェア間の連携を取ることができます。例えば販売管理ソフトから販売データ、入金データなどをデータ出力し、これを会計ソフトの仕訳データに変換後会計ソフトで取り込むといった処理が可能となります。

3)財務会計データの総合チェック
汎用データコンバータの機能を用いて会計データをチェック用に加工し、勘定科目や摘要記載、消費税処理、仕訳検索、ベンフォード法(※)判定データなどの機能を付加することで、会計データの適正性や税務調査対策、ひいては不正調査に至るまでの業務を行うツールが作成できます。
弊所はこのツールを用いて不正調査や新規顧問先の予備調査などを行っています。

※自然に発生する数字の集合においては、その最初のn桁の発生度合いは一定の対数関数カーブに従うという法則。このカーブから外れるものは何らかの人為的な行為が含まれている可能性が高い。

4.汎用データコンバータの今後
今後会計はPCソフトウェアからクラウド環境へ急速に移行するものと予想されます。
また、資料をAIなどで画像処理することで自動会計仕訳が作成されたり、電子商取引の情報がそのまま財務会計データとなるなど大きく変革していきます。
しかし、会計という考え方が完全に変わってしまわない限り、「日付、摘要、勘定科目、金額」という基本的なデータ構造は不動となります。
恐らく将来的にはブロックチェーン技術(参考記事はこちら→仮想通貨技術を支える「ブロックチェーン」について)を活用し、プラットフォームを横断した財務会計情報がクラウド上で取り扱われるような形になっていくと思いますが、それまでは様々な形で偏在するデータを使わざるを得ません。その間の「つなぎ」として、しばらくは活用することになるのではないかと思います。

以上

監査等委員会設置会社への移行について

平成26年に可決・成立した改正会社法には「監査等委員会設置会社」という新たな機関設計の選択肢が盛り込まれています。
この「監査等委員会」制度については「上場企業における社外取締役の設置義務をクリアするため」であるとか「監査役制度がスライドしたもの」などとあまり良いイメージでない語られ方をすることも多いのですが、制度をきちんと研究するとなかなか使いでのある部分も認められます。
実務としても定着しつつある「監査等委員会設置会社」について、制度のあらましや監査役(会)制度との違い、活用方法について説明してみたいと思います。

1.監査等委員会設置会社制度
 改正会社法が平成26年に可決、成立しましたが、その中に「監査等委員会設置会社」という新たな機関設計の選択肢が盛り込まれました。

この制度をざっくりと説明すると、過半数が社外(従業員等ではなく、会社から独立した者)である3名以上の取締役で構成される監査等委員会が、取締役の業務執行を監査することを言います。

この改正後、数年間は上場会社において監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行する会社が相次ぎました。

監査等委員会設置会社
東証上場会社における独立社外取締役の
選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況
(2021年8月2日 株式会社 東京証券取引所)

この変化の原因には、上場企業における社外取締役の設置が事実上義務化された(「Comply or explain」ルール)ことから、監査役制度に加えて社外取締役を置くより、社外監査役を社外取締役にスライドさせてこの要件を満たしておけば合理的である、という判断が一定程度あるものと言われています。

では、監査等委員会設置会社制度は具体的にどんな特徴を持つでしょうか。会社法の条文から拾い上げると下記の通りとなります。

①監査等委員会設置会社は、会計監査人を置かなければならない(327条5項)。
②監査役を置いてはならない(327条4項、5項)。
③監査等委員取締役は、それ以外の取締役とは区別して、株主総会の決議によって選任する(329条2項)。
④監査等委員取締役の報酬等は、他の取締役の報酬等とは区別して、定款または株主総会の決議によって定める(361条2項)。
⑤監査等委員会は、監査等委員である取締役3名以上(過半数が社外)で組織され、監査等委員は、取締役でなければならず、かつ、その過半数は、社外取締役でなければならない(331条6項)。
⑥なお、常勤の監査等委員を置くことは義務付けられていない(監査役における390条3項に該当する記載なし)。
⑦監査等委員取締役の任期は2年(短縮不可)であるのに対し、他の取締役の任期は1年(定款または株主総会決議により短縮可)である(332条3項、4項)。
⑧監査等委員会は、監査等委員取締役の選任に関する議案の提出について同意権を持つ。また、監査等委員取締役は、監査等委員取締役の選任等に関して意見を述べることができる。また、監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員である取締役以外の取締役の選任等について、監査等委員会の意見を述べることができる(342条の2第1項、4項、344条の2第1項、4項)。
⑨各監査等委員は、株主総会において、監査等委員取締役の報酬等について意見を述べることができる(361条5項)。
⑩監査等委員会が選定する監査等委員(選定監査等委員)は、株主総会において、監査等委員以外の取締役の報酬等について、監査等委員会の意見を述べることができる(361条6項)。
⑪監査等委員以外の取締役との「利益相反取引」について、監査等委員会が事前に承認した場合には、取締役の任務懈怠の推定規定を適用しない(423条4項)。
⑫監査等委員会設置会社の業務を執行するのは、代表取締役または業務執行取締役(363条1項各号)であり、執行役は設置されない(399条の13第3項)。
⑬業務執行の決定
1)監査等委員会設置会社の取締役会は、362条4項各号に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
2)1)にかかわらず、監査等委員会設置会社の取締役の過半数が社外取締役である場合には、当該監査等委員会設置会社の取締役会は、その決議によって、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができる。
また 1)及び 2)にかかわらず、重要な業務執行の全部または一部の決定を取締役に委任することができる旨を定款で定めることができる(399条の13第4項、5項、6項)。

2.具体的に変わったところ、変わっていないところ
これらの条文を読んだり、運用の現場にあてはめると、監査役会設置会社と比較して次のような捉え方をしておくことが必要です。

監査役の権限、立ち位置との違い

  • 監査役の権限は原則そのまま有する
    従来の監査役の権限そのもので本質的に変更されたものはなく、監査を行う上での権限は原則としてそのままスライドしていると考えて良さそうです。但し、任期は4年から2年に短くなっています。
  • 独立性も原則そのまま維持
    選任、報酬決定、会計監査人に関する議案等がほぼ同じ
  • 但し「監査役の独任制」は否定されている
    監査役は監査役そのものが監査を担う会社の機関として定義されていました(監査役が単独で監査活動が出来た)が、監査等委員会は「監査等委員会として」監査を行うことになります。
  • 常勤の設置義務なし
    ここが非常に大きな違いです。監査役制度においては常勤監査役の設置が義務付けられていましたが、監査等委員については常勤を「置かなくても良い」ことになっています。
  • 議決権を持つ
    最大の権限強化と言えます。議決権の行使は会社のガバナンス強化に大きく影響します。

監査業務への影響
常勤の設置義務がないことで、これまで行ってきた監査役監査からアプローチが少し変わってきます。

例えば、常勤監査役が重要会議に出席するなどして収集してきた情報が、たとえば「監査等委員会室」などのサポート部門や内部監査部門の情報を利用することで集められることになります。加えて監査役監査が独任制も合わせ「直接的」に監査していた状態と少し変わり、監査等委員会による「モニタリング」に重点を置いた監査が主となると考えます。

また、取締役として議決権を持つことから、監査役が行っていた「適法性監査」に加え「妥当性監査」も監査すべき領域であるとされています。
妥当性まで監査の範囲に含まれるのであれば、監査等委員取締役は単純に「問題や間違いを是正する」というスタンスから、一種「投資家」としての視点に切り替えが必要なように思います。また、経営上のリスクマネジメントについても、十分に行われているかをチェックする必要が出てくると思います。

このような方向性は簡易版「執行と監督の分離」とも言えのですが、実際の所執行部門と監査部門の分離は設計上不十分であり、運用でカバーする必要があります。

監査等委員会設置会社への「雪崩を打つような移行」は一旦落ち着いたようですが、今後監査等委員会設置会社制度に関する実務の積み重ねが重要となってきます。
長年積み重ねられた監査役会設置会社の実務を踏まえつつ、監査等委員会設置会社の違いや意義、強み・弱みを理解して実効性の高い監査を行っていきたいものです。