岐阜事務所 開設のお知らせ

平素より大変お世話になっております。

この度、我々税理士法人耕夢は、新年度となる6月1日から、岐阜のしのだ会計事務所をグループに迎え入れることとなりました。
しのだ会計事務所は、岐阜市入舟町で平成15年に開業された、所長以下全員が女性の事務所です。全員が女性ということで、耕夢が目指している新しい働き方の大きな力にもなるのではないかと期待しております。
しのだ会計事務所の加入で期待されるのは単なる会計・税務業務だけではありません。
所長の篠田税理士は、税理士としての能力はもちろん、顧客サービスについても抜群の能力を備えており、お客様への経営アドバイスや助成金など活用の提案力についても大変優れています。
加えて、篠田税理士は単に耕夢システムの使い方だけではなく、仕組みとしての耕夢を深く理解しています。

今回の加入をもって、弊所は3拠点に総勢17名という規模となりました。
しかし、弊所は単に規模や収益の拡大を目指しているのではありません。
現在行っていることは、十数年前から準備を始めた、特に女性を中心とした「普通にまじめな人たち」が、「楽しく普通に努力すればよい成果が得られる」環境を作りたい、という代表の願いを着実に実現しているに過ぎません。

今後この仕組みに一番必要なのは「協力」です。

普通の人ひとりが頑張っても、大きな事務所や輝かしい経歴・能力を持つスターと同じことは出来ません。
しかし、真っ当な考え方と正しい知を共有し、相互に協力した組織は、どんな個人より強くなります。そういう仕組みが作れれば、むしろ「普通にいい人」たちが集まり、力を発揮したほうが良いのです。

耕夢という概念は、システムだけではなく仕組み全体でこれを実現しようとしています。

​なおお客様は大事ですが、自身でできる努力もせず無理難題を強いる方、職員の気持ちや身体的安定に悪影響を及ぼす方は、改善の努力も効かなければお断りすべきと思っています。
何よりそういうお客様は、お客様ご自身でも持続的に高い収益をあげ、顧客や従業員の為になり続ける可能性は低いのです。

しかし本当によいお客様、特に顧客はもちろん従業員やそれぞれの家族、世間を大事にする企業の業務には、全員が協力して全力で担当する、という信念を持つグループを作り上げたいと思っています。

以上、長くなりましたがお読み頂きありがとうございました。
数年後、「耕夢」の考え方がある程度正解だった、と思える日が来るように、私も頑張りたいと思います。
これからも是非ご指導、ご協力を宜しくお願い致します。

​税理士法人耕夢 代表社員 塩尻明夫

税務調査が省略されました

私たちの事務所は、「税理士法第33条の2に規定する添付書面」をさまざまな税務申告書とともに税務署へ提出しています。この書面、経営者が懸念する「税務調査」のリスクを大きく減らす効果があります。最近※も2件「税務調査省略」事例が出ましたので、うち1件をご紹介します。
なお守秘義務がありますので、正確な時期や業種、登場人物は少しぼかしてあります。
※当該記事は2019年公開のメルマガから転載されています。

1.税務調査のリスク
法人税や所得税、消費税、相続税といった「申告納税方式」の税金は、「納税者が自主的に申告、納税する」事を建前としています。
ほとんどの方はこの申告と納税を適切になさっているのですが、ごく一部の悪意を持った脱税や、ルールや法律の理解を誤った場合など、税金の計算が過少になるケースも無視できません。このため、申告納税方式の税金には必ず「税務調査」がセットになっています。
この税務調査、誤りが見つかったら「追徴課税」といって追加で納税させられたり、加算税や延滞税といったペナルティがつく場合もあります。悪質な場合には重加算税といった重いペナルティに加え、刑事罰を課される場合もあります。
弊害はそれだけではありません。上場準備中の会社の場合税務調査を受けるリスクは高くなる(こちらの記事を参照)のですが、そこで重加算税などの重いペナルティを受けると、上場準備そのものが頓挫してしまう可能性もあるのです。
税理士法第33条の2の添付書面は、税理士が決算・申告に関する一定の事項を記載した書面を申告書とともに税務署へ提出する事で、これらの税務調査のリスクを大きく下げる(またはゼロにする)ことができる、画期的な制度です。
但し、この書面を提出するには、捺印する担当税理士が申告書提出までの業務について深く知らねばならず、また多くの文章を書く必要もあって手数が掛かります。このためもあってか、現在も申告書に対する書面添付割合は1割にも満たないと言われています。

2.税務署からの打診
税理士に依頼(委任)している方の場合、税務調査の対象になったら(税務調査の対象に選ばれるのはどのような場合かについてはこちらを参照)担当の税務署員から「原則として担当税理士に」税務調査日程の調整について電話が掛かってきます。直接電話したり、急にやってきたりすることはありません。これだけで税理士に依頼するメリットが十分あるというものです。
「税理士法添付書面」を提出している場合、税理士に電話が掛かってくるのは同じなのですが、税務調査の日程調整には入らず、税理士と税務署員との打ち合わせ(「意見聴取」)日程の調整となります。
今回も、4月初めに確定申告が終了して一時的に忙しさが落ち着く時期に連絡がありました。

3.事前の資料準備
意見聴取日程が決まりましたので、当日の資料を準備します。
決算や申告に関する詳細な内容は「税理士添付書面」に記載してありますのでほとんど説明は不要かと思われるのですが、そこは単なる文書、先方がこちらの意図した通り理解しているとは限りません。ということで、領収書・請求書といった補足資料や条文解釈の資料、場合によっては総勘定元帳などのデータを揃えておきます。

4.意見聴取当日
事前の打診時に決めた日時、準備した資料とともに税務署へ向かいます。当然ながらこの時点で納税者の方は同行はもちろん、他に何もする必要はありません。
税務署の担当部署に到着すると、調査官が出迎えてくれます。税務署は怖い所と思われているかもしれませんが、皆さんとても丁寧で穏やかです。
ご挨拶や雑談のあとは本題に入ります。納税者に関して、税理士法添付書面や持参した書類をもとに、税理士が詳しく調査官に対して説明し、これに対して調査官からも追加の質問などがあります。
これら一連のやり取りは、実は税務調査で行われるものの「縮小版」ともいえる手続なのです。従って、簡単なように見えてこの意見聴取を確実に進めるには税務調査立ち合いに十分な経験がある税理士が対応しなければなりません。
さて今回のケースは、少し残った疑問について2点ほど追加資料の提出を依頼されて終了となりました。

5.調査省略
事務所に戻り、早速追加資料を作成します。
今回依頼された資料は、特定の取引先に関する売上や外注費、その入金・支払に関するものでしたから、比較的簡単でした。
お客様に承認頂き、これらの資料を郵送したら完了です。
その後特に問題がない場合は、1~2週間待っていると、税務署から「調査は省略することになりました」というお電話を頂くことができます。
ただこの電話はあくまで内定で、完全に調査が省略される場合には「意見聴取結果についてのお知らせ(国税庁HPの文書例)」という書面が届き、正式に調査省略となります。

6.書面添付、意見聴取について
この制度、きちんと実践するには手間がかかりますが、申告書の品質は確実に上がります。そのため、第一義的には納税者や税理士が助かる制度であるものの、国税側も非常に力を入れていて調査官の協力体制も十分です。税務署はよく「税金を取ることだけを考えている」と思われていますが、一番大事なのは「法律通りの適正な申告・納税を行ってもらう」ことなので、こういった「真っ当な納税者の負担が減る」制度はあちらにとっても大きな意義があるのです。
しかし、それにもかかわらず税理士側の都合でなかなか使われていないのは正直残念なところです。
もし新たな税理士さんと契約される場合、「税理士法添付書面をつけてもらえますか?」と聞いてみては如何でしょうか。多くの税理士はいろいろな理由を述べて「意味がない」などと断るのですが、もし自信をもって「100%添付しています!」という税理士さん(若い方に多いです)でしたら、小さな規模でも是非契約を検討して見て下さい。

相続税の見積り計算と有利な贈与

1.相続税とは
人が亡くなった際にかかる「相続税」。
一般の人々にとってはなじみの薄いものだったのですが、昨年の改正によって相続税を払わなくてはならない対象者が増え、注目を浴びています。
この相続税、制度はものすごく複雑なのですが、簡単にいうと以下の通りの手順で計算されます。

①純財産…亡くなった時点の財産から負債を引いたもの。時価で計算します)
②基礎控除…相続人一人当たり600万円に、3000万円を加えたもの)
③(①-②)を法定相続分で相続したと仮定した場合の相続税額…①-②を法定相続分で割り、それぞれに相続税率を掛けます
④相続税総額…③を合計します
⑤それぞれの財産取得割合に応じて、④を再度配分します。

要するに、「全体を一旦法定相続分で分けたと仮定して総税額を計算し、財産取得割合に応じて分ける」という方法を採用している訳です。

この他、配偶者が財産を取得した場合の大きな特典や、その他控除、財産の時価を計算する場合の有利な制度等がありますが、今回は省略します。

2.財産に対してどれくらいの相続税がかかるか
相続税の「税率表」は、次の通りです。

相続税速算表
平成27年1月1日以後の場合の相続税の速算表(国税庁パンフより)

この税率表、見ての通り財産が増えると率も上がる「累進性」を取っています。

しかし、たとえば「法定相続分に応ずる取得金額」(1.の③を計算する際に利用します)が1億円から1.5億円になった場合、急に30%から40%になるかというとそうではありません。

右の「控除額」という欄を見て下さい。

税金を計算する際は、金額×税率から「控除額」を差し引きすることで、財産と税金の関係が滑らかな曲線に近くなるよう設計されているのです。2億円までの財産に対する相続税は、次のグラフのようになります。

相続財産と相続税の関係

相続財産(一人当)と税額との関係
(横軸が財産、縦軸が相続税額)

 

では実際にどれくらいの相続税がかかるのでしょうか。

財産や相続人の数応じてたくさんのパターンがありますから、ここでは3つほどの事例を挙げておきます。

1.と同様、税制上の特典利用等は省略していますので、相続人も配偶者なしの場合だけです。

①相続財産が5億円、相続人3人…1億2980万円(財産に対して約26%)
②相続財産が10億円、相続人3人…3億5000万円(同 35%)
③相続財産が1億円、相続人4人…490万円(同 約5%)

相続財産や相続人の数によって大きく変わることが分かって頂けたと思います。

相続財産、相続人と税金の関係については、当所のシミュレーションページにて色々と試してみて下さい。

3.「贈与税は高い」のホントと嘘
相続税は決して低い負担ではありませんから、生前に自分の財産を子供たちに移してしまい、相続税がかからないようにしたいと願うのは自然な流れかもしれません。

そうなると相続税が取れませんので、国は「贈与税」という制度を相続税法の中に置いて、そのような回避行為が出来ないようにしています。

贈与税の税率表は次の通りです。

計算方法は相続税と似ていて、贈与金額から基礎控除(110万円)を差し引いた金額に税率を掛け、控除額を差し引きます。

この計算に用いる贈与税の税率表(一般)は以下の通りとなっています。

贈与税速算表
相続税の表と比べて頂ければお分かりと思いますが、同じ税率に対して「対象となる財産の金額」が非常に低くなっています。ということは、より低い財産の時に高い税率が適用されるのです。

これが、贈与税が高いと言われるゆえんです。

このため、一般には「贈与は基礎控除(年110万円までなら税金がかかりません)までにすべき」という意見も良く聞かれます。

しかし、本当にそれだけが正しいでしょうか?

4.賢い贈与の利用
実際、贈与税の税負担はどれくらいでしょうか。
いろいろなパターンがありますが、例えば以下の通りになります。

(a)3人に110万円ずつ330万円贈与した場合…税額なし(財産に対して0%)
(b)3人に500万円ずつ1500万円贈与した場合…159万円(同 10.6%)
(c)1人に1500万円贈与した場合…450.5万円(同 約30%)
(d)1人に3000万円贈与した場合…1195万円(同 約40%)

これを2.の例と比較してみて下さい。

2.の例で説明した①の方は、何もしなければ相続財産に26%の相続税がかかります。となると、(a)、(b)の贈与を相続人の予定者(推定相続人と言います)に対して先に行っておけば、対象となる財産に関してはより低い税金で財産が移転出来ることになるのです。

同じく②の方ですと、(a)、(b)、(c)の方法までが有利となりますが、(d)は不利となります。

このように、相続税がかかる金額とその財産に対する比率を予想し、有利な贈与を毎年行っていけば、相続税は効果的に減らすことが可能です。

5.税理士の活用
ただ、良い事ばかりでもありません。この手法を使う場合には、例えば以下のような点に注意する必要があります。

  • 贈与税の申告が絶対に必要(贈与の翌年3月15日まで)
  • 相続発生以前3年内の贈与は、相続財産に含められる(払った贈与税は相続税の前払としてもらえる)
  • 財産の価値増減は読みにくく、有利と思っていたものが不利になる可能性もある
  • 時価の計算は、財産の多い人は全てが預金でもない限りは非常に難しい(特にオーナー会社の株式や不動産の時価計算)
  • 税額の計算シミュレーションは非常に専門的で、これもまた難しい

このため、この対策を採るに当たっては必ず相続税に強い税理士にアドバイスを依頼されることをお勧めします。

相続に「絶対的公平」はない~揉めない相続のために

いわゆる「相続税対策」や「事業承継対策」の仕事をしていますと、資産家や経営者の方々から「出来るだけ子供たちには公平に資産を分けたい」というご意向を伺う時が良くあります。

この「親が子を思う気持ち」、大変良くわかるのですが、悲しいことに相続において「絶対的公平」は不可能だと思って頂いた方が良いのです。

この記事に置いては、何故それが不可能かについて説明し、どのようにすれば「公平」が実現できるかについて述べてみたいと思います。

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1.財産分けの難しさ

相続において重要な「財産分け」。

この財産分けに置いては、よく「争族」と呼ばれるように揉めることが少なくありません。

なぜ単に「分ける」ことがそれほど難しいのでしょうか?

それは、相続をとりまくさまざまな法律や実務が極めて大きく影響しています。

 

今、100万円の預金があるとします。これをあなたとご友人の2人で「公平に」半分ずつ分けて下さい、と私が依頼した場合、あなたならどのように分けるでしょうか?

この場合は、当然ながら「50万円ずつ」が正解ですね。

しかし、同じ100万円であっても、一株の時価が現在100万円の株式ならどうでしょうか?

真っ二つに切り裂くわけにもいかないし、さりとて一人が一株を手に入れてしまえば、もう一人が受け取る分は無くなります。

このような場合、少し考えれば「株式を売却して現金化し、50万円ずつ分ける」ならば公平を保ったまま分けることが出来ると気づくかもしれません。

ではさらに、「その株式を現金化してはならない 」という条件が与えられた場合にはどうでしょうか。

幸運なことに、世の中にはこの問題に対する答えがきちんと用意されています。

株式をもらった側は、自らの手持資金から50万円を支出し、株式をもらっていない側に渡せばいいのです。

この場合、手持資金がなければ50万円を借りて支払ってもかまいません。なぜなら、手元には100万円相当の株式があり、50万円の借金が出来たとしても差引50万円の財産増加には変わりないからです。

ここでは、あなたが株式を受け取り、すぐに現金が必要であった友人はあなたから50万円の現金を受け取ったと仮定しましょう。

 

これで公平に分割が出来た、と思っていたあなたと友人は、後にそれが誤っていたことに気づきます。

というのも、この株式会社がその後すばらしい新技術を開発し、その技術を利用した製品の市場があまりに大きいため株価が一度に100倍になってしまったのです。

つまり、あなたの友人は50万円の現金しか手に出来なかったのに、あなたは一躍1億円(彼に先に50万円を支払っているから、正確には9,950万円)の価値ある資産を手に出来たことになります。

そうなれば、「損をした」友人はおそらく黙っていないでしょう。あなたの幸運をうらやみ、何がしかの補償を要求するかもしれません。分割時点では公平でも、結果として「公平」とはとてもいえない結果となったのですから当然とも言えます。

それに応じるかどうかはあなた次第ですが、いずれにせよあなたと友人の仲が悪化しないことを祈るばかりです。

さて一体、「公平な分割」とは何だったのでしょうか?

 

2.相続における財産分け(遺産分割)

このような問題は、当然ながら相続の現場において頻発します。

分割が「著しく不合理」であった場合には分割をやりなおすことも認められていますが、単に不動産の収益性の見込み誤り等による不合理については、そのような分割のやり直しを認められていません。

このような問題が起こる理由は、それほど複雑ではありません。

単に民法(相続法)、税法(相続税法)、経済実態(見込も含む)によって、全く「公平」の概念が異なるからなのです。

 

民法上の公平は、「相続が発生した時点の時価」によって評価した財産を公平に分割することにより実現できます。この民法の考え方が最も私たちの常識に近く、一般的であると言えます。

しかし経済実態上の公平は、その時点での時価評価だけを考えていては実現できません。

将来についても予測可能な範囲で考慮することが必要となります。
先の例で言えば、分割する時点で件の新技術の開発が実現していたならば、その果実を見込んで発生した株価上昇による利益の一部はあなたの友人にも当然与えられるべきであるとも言えます。

 

税法に基づいて公平を考えた場合には、民法の考え方とほとんどの場合同じ考え方となります。

なぜなら、相続税が課税される財産を計算する際は、原則として民法と同様に時価を採用するからです。

しかし、税法には他と大きな違いがあります。それは税法上の優遇措置などの政策的項目です。

一般的なものは下記の通りです。

 

・  小規模宅地等の評価減…居住用、事業用の宅地については大幅な減額が認められる

・  基礎控除、生命保険料控除…相続人数に応じて、非課税となる金額が増加

・  配偶者の税額控除…配偶者の相続分は、法定相続分か1億6000万円のいずれか多い方まで非課税

・  株式の評価手法…同族株主グループかどうかによって大きく時価が異なる

 

これらは、当然ながら時価で計算した結果との乖離を生み、当然ながら相続税額の計算にも影響を与えます。たとえば、配偶者の税額軽減など相続財産の配分方法によって税額そのものが変わってくるような制度の場合であると、民法上の公平を実現しても、税法上はもっとも税額を圧縮したとはいえなくなる場合が出てきます。

 

3.財産分け時の配慮

同じ「財産を分割する」ということであっても、法律等の考え方の違いで大きな差が発生することが分かって頂けたでしょうか。

当然ながら、民法、税法、経済実態のうちひとつの考え方だけを採用して分割を決定した場合、税金面で割高となったり、損をした(と感じる)他の相続人等から異論が出て来る可能性は高くなります。

財産分けを行う場合にはこれらのうちどの考え方を採用するかについて常に注意を払い、各相続人等に納得してもらう必要があります。

この納得してもらう方法にはいろいろありますが、やはり一番は被相続人となる予定の方(親など)が相続人となる予定の方(推定相続人)対してきちんと説明しておくことが大事です。またこれらを遺言によって説明しておくことも大変効果的です。

(参考:事務所ブログ 「遺言を書こう」

もちろん相続税を計算するわれわれとしても、分割の決定まではこれらを出来るだけ詳しく、わかりやすく説明することが不可欠であると考えています。

以上

特許法改正~職務発明の取り扱い

日本は技術大国でもありますから、特許などの知的財産を保護、活用することは大変重要です。

自分の発明を特許にしたものや他から買った特許をライバルの侵害から守る、ということも重要な知財財産の保護なのですが、最近は新たな権利保護の論点が重視されています。

そのうちの一つが「職務発明」と呼ばれる分野です。職務発明とは、会社等に努める従業員が、会社等の仕事(研究開発)として完成した発明のことを言います。

この職務発明について、昨年特許法が改正されて、この4月1日から施行されることとなりました。 今回はこの特許法改正について説明します。

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1.特許法

特許が「発明で大儲け」の為にあると思われることが多いのですが、本質的な目的は違います。 特許法が冒頭の第1条で、「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする」としている通り、特許はまず産業の発達を目的としているのです。 このため、特許の権利者はもちろん一定期間保護されるのですが、その代わりに特許の基本となった技術を世界中に公開しなければなりません。公開と保護を組み合わせることで、産業の発達を促進するのです。

 

2.職務発明

さて、現代の製造業はどこも大規模化していますから、発明と言ってもほとんどが会社等の組織で行われたものとなっています。この場合、ほとんどの発明は、会社等の従業員が、会社等の仕事(研究開発)として完成することになります。 今回説明する職務発明とは、まさにこのことを言います。

ノーベル賞受賞で有名となった「青色発光ダイオード」に関する発明も、発明者と会社等との間で「職務発明かどうか」が争われ、大きな金額について争う訴訟(中村訴訟)となりました。

 

3.従来の取り扱い

では、なぜ「職務発明かどうか」が争いとなったのでしょうか。

従来、特許法は職務発明は「発明した従業員に帰属する」と定め、会社等はこの特許について「通常実施権を有する」とだけされていました。

通常実施権とは、その特許を使っても良い、という権利で、「専用実施権」とは違って排他性がありません。 しかも、会社等がその権利を発明した従業員から譲り受けようとすると「相当の対価」を支払う必要があります。

中村訴訟の場合は、「職務発明かどうか」「職務発明の場合に会社が譲受けていたかどうか」「相当の対価はいくらか、受け取っていたか」が論点になっていました。また相当の対価の計算についても、計算方法によって大きなばらつきがみられました。 このように、従来は会社等が権利関係を明確にして保護しようにも従業員から譲受ける必要がありましたし、相当の対価についても不安定であるということから、知財経営の側面から見て不確定要素が多く問題とされていました。

 

4.改正特許法の取り扱い

そこで、権利帰属や支払対価の不安定性を解消するため、改正特許法において以下の点が改正されます。

  1. 契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ会社等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から会社等に帰属するものとする。
  2. 従業員は、特許を受ける権利等を取得等させた場合には、相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利を有するものとする。
  3. 経済産業大臣は、発明を奨励するため、産業構造審議会の意見を聴いて、相当の金銭その他の経済上の利益の内容を決定するための手続に関する指針を定めるものとする。

上記の「相当の金銭その他の経済上の利益」については、例えば法人負担による留学の機会付与や、ストックオプション、昇進昇格による給与増加、特別休暇の付与などが含まれます。

なお、会社等が従業員に対してあらかじめ①の定めをしていなければ、従来通り特許は従業員に帰属することとされました。

 

5.今後の論点

特許法改正で権利帰属の問題についてはある程度整理されたと思いますが、他方「対価」や「利益」については引き続き問題が残ります。

この対価、すなわち「いくらになるか」の計算は、実は非常に難しい実務です。 特許をはじめとする知的財産は、物理的な財産と違って100%人間が作り出したものですから、物理的な財産のように度量衡で量ることが出来ないのです。

また、含まれている技術も百者百様ですから、標準的な計算方法が明確に定められている訳ではありません。 今回の特許法改正で、従来にも増してこの「いくらになるか」の計算が重要になってくるものと考えています。

監査等委員会設置会社へ移行した場合、ここに注意(監査役会制度との法律、実務上の違いと対応)

1.監査等委員会設置会社制度
改正会社法が平成26年に可決、成立しましたが、その中に「監査等委員会設置会社」という新たな機関設計の選択肢が盛り込まれました。
この制度をざっくりと説明すると、過半数が社外(従業員等ではなかった者)である3名以上の取締役で構成される監査等委員会が、取締役の業務執行を監査することを言います。

これを受けて、ここ数年は上場会社において監査役会制度から監査等委員会制度に移行する会社が相次いでいます。
これは、上場企業における社外取締役の設置が事実上義務化された(「Comply or explain」ルール)ことから、監査役制度に加えて社外取締役を置くより、社外監査役を社外取締役にスライドさせてこの要件を満たしておけば合理的である、という判断が働いているものと言われています。

では、監査等委員会設置会社制度は具体的にどんな特徴を持つでしょうか。会社法の条文から拾い上げると下記の通りとなります。

  1. 監査等委員会設置会社は、会計監査人を置かなければならない(327条5項)。
  2. 監査役を置いてはならない(327条4項、5項)。
  3. 監査等委員取締役は、それ以外の取締役とは区別して、株主総会の決議によって選任する(329条2項)。
  4. 監査等委員取締役の報酬等は、他の取締役の報酬等とは区別して、定款または株主総会の決議によって定める(361条2項)。
  5. 監査等委員会は、監査等委員である取締役3名以上(過半数が社外)で組織され、監査等委員は、取締役でなければならず、かつ、その過半数は、社外取締役でなければならない(331条6項)。
  6. なお、常勤の監査等委員を置くことは義務付けられていない(監査役における390条3項に該当する記載なし)。
  7. 監査等委員取締役の任期は2年(短縮不可)であるのに対し、他の取締役の任期は1年(定款または株主総会決議により短縮可)である(332条3項、4項)。
  8. 監査等委員会は、監査等委員取締役の選任に関する議案の提出について同意権を持つ。また、監査等委員取締役は、監査等委員取締役の選任等に関して意見を述べることができる。また、監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員である取締役以外の取締役の選任等について、監査等委員会の意見を述べることができる(342条の2第1項、4項、344条の2第1項、4項)。
  9. 各監査等委員は、株主総会において、監査等委員取締役の報酬等について意見を述べることができる(361条5項)。
  10. 監査等委員会が選定する監査等委員(選定監査等委員)は、株主総会において、監査等委員以外の取締役の報酬等について、監査等委員会の意見を述べることができる (361条6項)。
  11. 監査等委員以外の取締役との「利益相反取引」について、監査等委員会が事前に承認した場合には、取締役の任務懈怠の推定規定を適用しない(423条4項)。
  12. 監査等委員会設置会社の業務を執行するのは、代表取締役または業務執行取締役(363条1項各号)であり、執行役は設置されない(399条の13第3項)。
  13. 業務執行の決定
    1)監査等委員会設置会社の取締役会は、362条4項各号に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
    2)1)にかかわらず、監査等委員会設置会社の取締役の過半数が社外取締役である場合には、当該監査等委員会設置会社の取締役会は、その決議によって、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができる。
    また 1)及び 2)にかかわらず、重要な業務執行の全部または一部の決定を取締役に委任することができる旨を定款で定めることができる(399条の13第4項、5項、6項)。

2.具体的に変わったところ、変わっていないところ
これらの条文を読んだり、運用の現場にあてはめると、どうも次のような捉え方をしておくことが妥当なようです。

①監査役の権限、立ち位置との違い

  • 監査役の権限は原則そのまま有する
    従来の監査役の権限そのもので本質的に変更されたものはなく、監査を行う上での権限は原則としてそのままスライドしていると考えて良さそうです。但し、任期は4年から2年に短くなっています。
  • 独立性も原則そのまま維持
    選任、報酬決定、会計監査人に関する議案等がほぼ同じ
  • 但し「独任制」は否定されている
    監査役は監査役そのものが監査を担う会社の機関として定義されていました(監査役が単独で監査活動が出来た)が、監査等委員会は「監査等委員会として」監査を行うことになります。
  • 常勤の設置義務なし
    ここが非常に大きな違いです。監査役制度においては常勤監査役の設置が義務付けられていましたが、監査等委員については常勤を「置かなくても良い」ことになっています。
  • 議決権を持つ
    最大の権限強化と言えます。議決権の行使は会社のガバナンス強化に大きく影響します。

②監査業務への影響
常勤の設置義務がないことで、これまで行ってきた監査役監査からアプローチが少し変わってくると考えます。
例えば、常勤監査役が重要会議に出席するなどして収集してきた情報が、たとえば「監査等委員会室」などのサポート部門や内部監査部門の情報を利用することで集められることになります。加えて監査役監査が独任制も合わせ「直接的」に監査していた状態と少し変わり、監査等委員会による「モニタリング」に重点を置いた監査が主となると考えます。

また、取締役として議決権を持つことから、監査役が行っていた「適法性監査」に加え「妥当性監査」も監査すべき領域であるとされています。
妥当性まで監査の範囲に含まれるのであれば、監査等委員取締役は単純に「問題や間違いを是正する」というスタンスから、一種「投資家」的な視点への切り替えが必要なように思います。また、経営上のリスクマネジメントについても、十分に行われているかをチェックする必要が出てくると思います。

このような方向性は「簡易版 執行と監督の分離」とも言えるのですが、実際の所執行部門と監査部門の分離は設計上不十分であり、運用でカバーする必要があります。この点、今後監査等委員会設置会社制度が普及するにつれ、実務の積み重ねが重要となってきます。

以上

医療法人について ~ こんなにあるメリット・デメリット・注意点

はじめに
医療法人制度は、医療事業を法人組織化することにより、その運営に安定性、持続性をもたらすことを目的として作られました。昭和25年に始まった医療法人制度も、幾多の改正を経て「一人医療法人」制度の導入や「持分の定めのない医療法人」など、現在の制度に至っています。
この医療法人制度、本質である「非営利性」や、「医療法による規制」などはもちろん重視すべきなのですが、広い意味での経営安定につながる「税制上のメリット」や「医業継続上の有利性」など、小規模な診療所でも活用すべき論点がたくさんあります。
この記事は、特に「一人医師医療法人」に焦点を当て、メリットやデメリット、そして少々難しい注意点について簡単に説明します。
分量が多くなりますので簡単な説明に留めますが、ご興味がおありの方は是非事務所までお問い合わせ下さい。

1.一人医療法人のメリット
①個人財産と法人経営が分離されるため、適正な医業経営の実践が可能となります。
②法人税の実効税率が低いため、所得税よりも通常課税が小さくなります。また理事長先生の給与には「給与所得控除」が適用され、必ず節税になります。
③理事長家族への所得分散が容易になり、個々人の所得税・住民税の税率が下がることで節税ができます。
④理事長先生に支払う退職金を、法人の損金として計上することができます(個人は不可)。また退職金は退職所得控除を控除した金額の1/2が課税の対象になるうえ、分離課税のため、かなりの節税となります。
⑤個人はわずかな控除しかできない生命保険料などを、損金に計上できます。
⑥交際費や車両関係費に対する扱いが緩和されます。例えば、個人時代に使用する車両関係費はその10%~50%について家計分として自己否認(個人使用分を経費にしない)しなければなりませんが、法人名義の車両は原則として全額経費になります。
⑦欠損金の繰越が9年間認められます(個人だと青色申告で3年間、平成29年4月1日以降はさらに10年と伸びます)。
⑧持分がないため、相続対策がやりやすくなります。
⑨法人になると社会保険支払基金の源泉徴収がなくなり、資金繰りが楽になります。
⑩将来に後継者がいなくても、個人病医院のように医療機関を閉院しなくて済みます。
⑪別の医師に医療法人を低い税負担で譲渡することができます。

2.医療法人のデメリット
①交際費の一部が損金不算入となります。但し法人税法の改正により、事実上問題とはならなくなりました。
②社会保険加入の義務が発生し、雇用側の負担が増加します。
③設立に関しては、かなり複雑な手続(届出や登記)が必要となりますので、院長先生ご本人や事務長さんが行うことはほぼ不可能です。
④医業専門でない税理士先生が担当している場合、同様に手続が難しく、失敗してしまう場合があります。特に、登記申請や保健所、施設認定などの届出タイミングを誤ると、一時的に社会保険診療が出来ない(請求できない)といった、冗談では済まないトラブルも発生する場合があります。

3.法人成りによる一人医療法人の設立認可申請に係る必要書類(一般的なもの)
・医療法人設立認可申請書
・定款
・設立時の財産目録、各内訳明細書
・負債の残高証明及び債務引継承認書(負債を引き継ぐ場合)
・設立決議録
・診療施設の概要
・不動産賃貸契約書
・役員就任承諾書及び履歴書
・印鑑登録証明書
・管理者就任承諾書
・医師・歯科医師免許証のコピー
・社員及び役員の名簿
・基金の募集に関する書類
・登記事項証明書
・賃貸契約の引継承認書、賃貸契約書(不動産、リース等)
・原本証明

4.注意点
①医師国保、歯科医師国保
医師の場合、個人事業であれば医師国保、歯科医師国保に加入できます。(存在しない都道府県もありますので、必ず加入できるとは限りません。)
医師国保の場合、通常の国保と違い収入により保険料が上下することがありません。
個人事業から法人成りして医療法人になる場合でも、「個人時代に医師国保に加入している場合」は、医療法人になった後でも、引き続き医師国保に加入することが出来ますが、医療法人になった後に、初めて医師国保に加入しようとしても認められませんので注意が必要です。

②法人のお金は、院長の自由にはならない
理事長と医療法人は、人格が異なるため、理事長でも法人のお金を勝手に流用することはできません。
もし、個人の資金繰りのために医療法人から借りた場合には利息を付けて返済しなければならなくなります。
法人から見た場合、理事長が個人的に使ったお金は、貸付金若しくは役員賞与(経費にならない)と認識されます。
また、全く同じ効果を持つ費用でも、理論的・実務的に法人と個人で経費になるかどうかが異なる場合があります。この点についても、常に相談できる専門家を持つことが必要です。

③届出・登記などの手続きが発生する
設立手続き、決算後の届出・登記など、法人の場合は、面倒な届出等が発生します。
具体的には、定期的に社員総会を開催し、その議事録を作成し、決算事業年度終了後に決算の届出、及び、総資産の変更登記、並びに、変更登記にかかる官庁への届出が必要となります。
また、定款の記載事項に変更があった場合(例えば、診療所移転など)に、都道府県知事へ申請し、その許可を得なければならないなど、管理業務の負担が増加します。

④配当禁止のため持分評価額が増加する(出資額限度法人を除く)
医療法人は株式会社と違って、利益が出ても配当することが出来ません。
したがって、利益が医療法人に留保されるため、その分相続財産としての出資持分の評価額が大きくなりやすく、医療法人の出資金という換金性の低い相続財産が膨らみがちになります。
ただし、クリニックである医療法人の規模であれば、毎月の役員報酬や役員退職金などの支給額で、出資金が膨らまないようにコントロールすることは可能です。
平成19年3月以前に設立された医療法人は出資持分があり相続税が課税されますので、この対策(増加を押さえたり、持分のない医療法人に移行するなど)は必須です。

⑤解散時のみなし配当所得課税
利益の内部留保が多くなっていった場合、解散時における配当所得課税が生じます。
ただし、解散時点までに余剰金を意図的にゼロになるまで減少させていけば(役員報酬の増加、役員退職金の支給など)、みなし配当所得を少なくすることは可能です。

⑥各都道府県ごとに、実施すべき手続や提出書類、スケジュールがかなり異なっています

⑦個人時代の借入金は全て引き継げません。法律上は「設備に関する借入金に限る」とされているのですが、実際の運用は都道府県によって異なります。

⑧その他
これら以外にもたくさんあるのですが、分量が多くなりますのでリストしておくに留めます。検討される際は、専門的に知識や経験のあるコンサルタントへ必ずご相談ください。

・役所窓口とのコミュニケーションは綿密にとっておく
・移行資産負債の検討は厳密に
・銀行等への確認書は、出来るだけ早めに出しておく
・理事捺印なども早い目に対応しておく
・登記完了報告書や、銀行の手続、資金繰りその他 設立認可、登記後も気を抜けない

以上

医療法人について ~ こんなにあるメリット・デメリット・注意点

はじめに
医療法人制度は、医療事業を法人組織化することにより、その運営に安定性、持続性をもたらすことを目的として作られました。昭和25年に始まった医療法人制度も、幾多の改正を経て「一人医療法人」制度の導入や「持分の定めのない医療法人」など、現在の制度に至っています。
この医療法人制度、本質である「非営利性」や、「医療法による規制」などはもちろん重視すべきなのですが、広い意味での経営安定につながる「税制上のメリット」や「医業継続上の有利性」など、小規模な診療所でも活用すべき論点がたくさんあります。
この記事は、特に「一人医師医療法人」に焦点を当て、メリットやデメリット、そして少々難しい注意点について簡単に説明します。
分量が多くなりますので簡単な説明に留めますが、ご興味がおありの方は是非事務所までお問い合わせ下さい。

1.一人医療法人のメリット
①個人財産と法人経営が分離されるため、適正な医業経営の実践が可能となります。
②法人税の実効税率が低いため、所得税よりも通常課税が小さくなります。また理事長先生の給与には「給与所得控除」が適用され、必ず節税になります。
③理事長家族への所得分散が容易になり、個々人の所得税・住民税の税率が下がることで節税ができます。
④理事長先生に支払う退職金を、法人の損金として計上することができます(個人は不可)。また退職金は退職所得控除を控除した金額の1/2が課税の対象になるうえ、分離課税のため、かなりの節税となります。
⑤個人はわずかな控除しかできない生命保険料などを、損金に計上できます。
⑥交際費や車両関係費に対する扱いが緩和されます。例えば、個人時代に使用する車両関係費はその10%~50%について家計分として自己否認(個人使用分を経費にしない)しなければなりませんが、法人名義の車両は原則として全額経費になります。
⑦欠損金の繰越が9年間認められます(個人だと青色申告で3年間、平成29年4月1日以降はさらに10年と伸びます)。
⑧持分がないため、相続対策がやりやすくなります。
⑨法人になると社会保険支払基金の源泉徴収がなくなり、資金繰りが楽になります。
⑩将来に後継者がいなくても、個人病医院のように医療機関を閉院しなくて済みます。
⑪別の医師に医療法人を低い税負担で譲渡することができます。

2.医療法人のデメリット
①交際費の一部が損金不算入となります。但し法人税法の改正により、事実上問題とはならなくなりました。
②社会保険加入の義務が発生し、雇用側の負担が増加します。
③設立に関しては、かなり複雑な手続(届出や登記)が必要となりますので、院長先生ご本人や事務長さんが行うことはほぼ不可能です。
④医業専門でない税理士先生が担当している場合、同様に手続が難しく、失敗してしまう場合があります。特に、登記申請や保健所、施設認定などの届出タイミングを誤ると、一時的に社会保険診療が出来ない(請求できない)といった、冗談では済まないトラブルも発生する場合があります。

3.法人成りによる一人医療法人の設立認可申請に係る必要書類(一般的なもの)
・医療法人設立認可申請書
・定款
・設立時の財産目録、各内訳明細書
・負債の残高証明及び債務引継承認書(負債を引き継ぐ場合)
・設立決議録
・診療施設の概要
・不動産賃貸契約書
・役員就任承諾書及び履歴書
・印鑑登録証明書
・管理者就任承諾書
・医師・歯科医師免許証のコピー
・社員及び役員の名簿
・基金の募集に関する書類
・登記事項証明書
・賃貸契約の引継承認書、賃貸契約書(不動産、リース等)
・原本証明

4.注意点
①医師国保、歯科医師国保
医師の場合、個人事業であれば医師国保、歯科医師国保に加入できます。(存在しない都道府県もありますので、必ず加入できるとは限りません。)
医師国保の場合、通常の国保と違い収入により保険料が上下することがありません。
個人事業から法人成りして医療法人になる場合でも、「個人時代に医師国保に加入している場合」は、医療法人になった後でも、引き続き医師国保に加入することが出来ますが、医療法人になった後に、初めて医師国保に加入しようとしても認められませんので注意が必要です。

②法人のお金は、院長の自由にはならない
理事長と医療法人は、人格が異なるため、理事長でも法人のお金を勝手に流用することはできません。
もし、個人の資金繰りのために医療法人から借りた場合には利息を付けて返済しなければならなくなります。
法人から見た場合、理事長が個人的に使ったお金は、貸付金若しくは役員賞与(経費にならない)と認識されます。
また、全く同じ効果を持つ費用でも、理論的・実務的に法人と個人で経費になるかどうかが異なる場合があります。この点についても、常に相談できる専門家を持つことが必要です。

③届出・登記などの手続きが発生する
設立手続き、決算後の届出・登記など、法人の場合は、面倒な届出等が発生します。
具体的には、定期的に社員総会を開催し、その議事録を作成し、決算事業年度終了後に決算の届出、及び、総資産の変更登記、並びに、変更登記にかかる官庁への届出が必要となります。
また、定款の記載事項に変更があった場合(例えば、診療所移転など)に、都道府県知事へ申請し、その許可を得なければならないなど、管理業務の負担が増加します。

④配当禁止のため持分評価額が増加する(出資額限度法人を除く)
医療法人は株式会社と違って、利益が出ても配当することが出来ません。
したがって、利益が医療法人に留保されるため、その分相続財産としての出資持分の評価額が大きくなりやすく、医療法人の出資金という換金性の低い相続財産が膨らみがちになります。
ただし、クリニックである医療法人の規模であれば、毎月の役員報酬や役員退職金などの支給額で、出資金が膨らまないようにコントロールすることは可能です。
平成19年3月以前に設立された医療法人は出資持分があり相続税が課税されますので、この対策(増加を押さえたり、持分のない医療法人に移行するなど)は必須です。

⑤解散時のみなし配当所得課税
利益の内部留保が多くなっていった場合、解散時における配当所得課税が生じます。
ただし、解散時点までに余剰金を意図的にゼロになるまで減少させていけば(役員報酬の増加、役員退職金の支給など)、みなし配当所得を少なくすることは可能です。

⑥各都道府県ごとに、実施すべき手続や提出書類、スケジュールがかなり異なっています

⑦個人時代の借入金は全て引き継げません。法律上は「設備に関する借入金に限る」とされているのですが、実際の運用は都道府県によって異なります。

⑧その他
これら以外にもたくさんあるのですが、分量が多くなりますのでリストしておくに留めます。検討される際は、専門的に知識や経験のあるコンサルタントへ必ずご相談ください。

・役所窓口とのコミュニケーションは綿密にとっておく
・移行資産負債の検討は厳密に
・銀行等への確認書は、出来るだけ早めに出しておく
・理事捺印なども早い目に対応しておく
・登記完了報告書や、銀行の手続、資金繰りその他 設立認可、登記後も気を抜けない

以上

平成27年からの相続税関係改正について

1.はじめに

平成25年度税制改正により相続税法(及び租税特別措置法)の一部が改正されました。これらの改正のうち、平成27年1月1日以降の相続等から適用されるものについて解説します。

 

2.遺産に係る基礎控除

相続財産が「基礎控除額」を超える場合、原則として相続税の申告をする必要がありますが、その基礎控除額が、次のように4割減とされました。

<改正前>5,000万円+1,000万円×法定相続人の数
<改正後>3,000万円+ 600万円×法定相続人の数

 

3.相続税の税率構造

相続税額は、①課税価格の合計額から上記の基礎控除額を控除した金額である課税遺産総額を法定相続人が法定相続分に応じて取得したものと仮定した場合の各取得金額に対して、②超過累進税率により税率を乗じて算出し、③各取得金額に対する②を合計して計算します。

今回の改正により、この税率構造の一部について次のように変更されました。

法定相続分に対する取得金額

改正前

改正後

税率

速算控除

税率

速算控除

1000万円以下

10%

0万円

10%

0万円

3000万円以下

15%

50万円

15%

50万円

5000万円以下

20%

200万円

20%

200万円

1億円以下

30%

700万円

30%

700万円

2億円以下

40%

1700万円

40%

1700万円

3億円以下

45%

2700万円

6億円以下

50%

4700万円

50%

4200万円

6億円超

55%

7200万円

例:基礎控除後の相続財産が9億円で、相続人が子供ばかり3人の場合、相続税額は以下の通りとなります。

 ①課税遺産総額90000万円÷3=30000万円(一人当たり)
 ②一人当たり税額
 (改正前)30000万円×40%-1700万円=10300万円
改正後)30000万円×45%-2700万円=10800万円
 ③合計税額
 (改正前)10300×3=30900万円
 (改正後)10800×3=32400万円

(参考)贈与税改正

 

改正前

改正後

直系尊属→20歳以上

基礎控除後金額

税率

控除額

税率

控除額

税率

控除額

 200万円以下

10%

10%

10%

 300万円以下

15%

10万円

15%

10万円

15%

10万円

 400万円以下

20%

25万円

20%

25万円

 600万円以下

30%

65万円

30%

65万円

20%

30万円

 1000万円以下

40%

125万円

40%

125万円

30%

90万円

 1500万円以下

50%

225万円

45%

175万円

40%

190万円

 3000万円以下

50%

250万円

45%

265万円

 4500万円以下

55%

400万円

50%

415万円

 4500万円超

55%

640万円

例:1500万円(基礎控除後1390万円)の贈与をした場合、税額は以下の通りとなります

改正前                 1390万円× 50%-225万円=470万円
改正後
 親など→20歳以上の子 1390万円× 40%-190万円=366万円
 上記以外         1390万円× 45%-175万円=451万円

 

4.税額控除

①未成年者控除

相続開始時において相続人等が未成年者である場合、その相続人等の算出相続税額から控除する未成年者控除額の金額が次のように引き上げられます。

<改正前> (20歳一相続開始時の年齢)×6万円
<改正後> (20歳一相続開始時の年齢)×10万円

 

②障害者控除

相続開始時において相続人等が障害者である場合、その相続人等の算出相続税額から控除する障害者控除額の金額が次のように引き上げられます。

<改正前> (85歳一相続開始時の年齢)×6万円(特別障害者は12万円)
<改正後> (85歳一相続開始時の年齢)×10万円(特別障害者は20万円)

 

5.小規模宅地等の特例

①特定居住用宅地等の限度面積の拡大

被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で一定の要件を満たすものについては、特定居住用宅地等として宅地等の面積のうち限度面積までの部分に相当する金額の80%相当額をその宅地等の評価額から減額することができますが、この限度面積が、次のように拡大されます。

<改正前> 限度面積…240㎡
<改正後> 限度面積…330㎡

 

②居住用と事業用の宅地等を選択する場合の限度面積の拡大

特定居住用宅地等と特定事業用等宅地等を併用選択する場合の限度面積について、次のように拡大されます。

<改正前> 特定居住用宅地等…240㎡/特定事業用等宅地等…400㎡
→合計400㎡(注)まで適用可能 (注)一定の面積調整が必要
<改正後> 特定居住用宅地等…330㎡/特定事業用等宅地等…400㎡
→合計730㎡まで重複適用可能

 

6.まとめと対策

  • 基礎控除の減額で影響を受ける層…生前贈与、保険の活用、小規模宅地特例の適用による対策
  • 税率の一部アップで影響を受ける層…相続時精算課税や事業承継税制の活用、小規模宅地特例の重複適用による対策
  • 共通…事前準備、遺言作成、株価や不動産対策検討の重要性 

    以上

 

病院の不正防止・調査

1.病院の不正について
資金を扱うあらゆる組織において不正リスクは存在しますが、一般の営利企業と収益構造や法令、管理体制の異なる病院においては、一般的な営利企業とは不正リスクの質や頻度が異なると考えられています。しかしながら、不正リスクに関する理論、管理手法の本質的な所には共通点があります。

2.不正のトライアングル
不正リスクを考える際には、「不正のトライアングル」という概念が非常に役に立ちます。
「不正のトライアングル」とは、アメリカのドナルド・R・クレッシー教授が提唱した不正の仕組みに関する理論です。具体的には、不正に手を染めるファクターは以下の3点であるとされています。
(1)不正を行うための「動機・プレッシャー」
(2)不正を行うことができる「機会」
(3)不正を行うことが本人にとって「正当化」
これらの条件が一つでも増加すれば、それだけ不正の発生する可能性が高くなっていることを意味します。

3.内部統制について
内部統制とは、(1)業務の効率性・有効性 (2)財務報告の信頼性 (3)法令の遵守 (4)資産の保全を目的として法人内で構築される管理体制を指し、「全社的な内部統制」と「業務プロセスに関する内部統制」に区分されます。
昨今、内部統制は上場企業が財務報告の適正性を保証するための開示対象として注目されていますが、本来内部統制は「組織がその目的に従って適切かつ効率的に活動し」「法令を順守し」「資産を保全する」と同時に「適切な情報開示を実施する」ことを可能とするための組織管理であるとされています。
この内部統制は適切な情報開示にはもちろん役立ちますが、不正リスクの低減や、事務部門、医療現場における事故、誤りの低減にも有効です。

4.病院における不正の例

①横領

  • 窓口収入、保管現金、機器、消耗品、互助会資金等の管理を長年同一のベテラン職員に任せていることによる横領とその発覚遅れ
  • 自動販売機等売上金の横領
  • 医薬品の横流し

②キックバック

  • 医薬品、医療消耗品の購買担当者が、仕入業者からキックバック等の利益供与を受ける

③不正経理

  • 横領等を発覚させないため、帳簿や証拠書類を偽装する
  • 架空人件費

5.防止対策

  • 不正のトライアングルの把握
    職員における不正のトライアングルがどのような状態にあるかを把握し、不正リスクの発生を未然に抑えます。
  • 病院向け内部統制の整備
    病院には病院向きの内部統制があります。病院の特色を理解しつつ、不正が起こりにくい組織体制を整備、維持します。
  • 内偵調査、尋問
    残念ながら不正の発生が疑われる場合、疑いのある部署、者に対して内偵調査を行い、必要に応じて不正調査手法を用いて尋問します。
  • 税務調査の利用
    税務調査を不正調査に利用します(参考コラムはこちら

6.お問い合わせ、ご相談、料金
個人診療所レベルなら、院長が末端の職員にまで気を配ることが可能ですから、院長の管理レベル次第でこのようなリスクは防止することが比較的楽です。しかし、病院においては一般的に組織規模が大きく、院長や事務長がいくら気を配っていても末端まで注意を行き届かせることは不可能です。この為、不正リスクを低減する組織的な管理体制は必要です。

私どもは、企業の公認会計士監査や内部統制構築、不正防止・調査の実績、また認定登録医業経営コンサルタントの実務経験を生かし、これらの不正リスクを低減する体制構築のお手伝い、また不正調査を行うことが可能です。
病院における不正防止にご興味のある方、また、残念ながら不正が疑われる事実や情報が現時点で顕在化している医療機関におかれましては、是非お気軽にご相談下さい(ご相談は無料)。

以上