最近、コンピュータプログラムが囲碁の世界王者を破るなどのニュースで注目されている「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる技術。
この技術は、囲碁や将棋などゲーム分野だけではなく、ビジネスや科学研究の分野でも非常に注目を集めています。
この注目の技術について、技術的に高度な内容は含めず簡単に説明してみたいと思います。
1.注目の「ディープラーニング」
2011年頃から注目され始めた「新世代人工知能(AI)」。その中心になっているのが「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる技術です。
この技術を活用したグーグルの「AlfaGo」が囲碁の世界王者に勝利したニュースは記憶に新しいですが、これ以外にもグーグルやアマゾンがディープラーニングのためのシステムを「オープンソース(プログラムの内容を公開する代わりに、利用者が見出した改善なども公開して進歩させることを前提にした枠組)」で公開するなど、機運が高まっています。
しかしこのディープラーニング、コンピュータの黎明期から主流だった「人間がプログラミングする」という考え方とは、少し異なるものを持っています。
この注目の技術について、簡単に説明してみたいと思います。
2.ディープラーニングとは
コンピュータは元々、「決まりきった処理を、決まった形で正確に処理する」ことを目的に開発されました。
その主な用途は計算です。
ゲーム等に象徴される高度な画像処理も、その基礎を掘り下げると非常に複雑な計算を超高速で行っているに過ぎません。
しかしこれらは、如何に進歩しても全て「人間が決まった計算方式(アルゴリズムと呼ばれます)を指定し、その通りにコンピュータが動く」点において、本質的には何ら変わりはありませんでした。
これに対して、ディープラーニングは「コンピュータが自分で処理方式を学習する」点が大きく異なります。
何層かのニューラルネットワーク(脳神経のような特性をコンピュータ上にシミュレーションした高度な数学的システム)に対して、いろいろな情報を大量に学習させることで、人間が見いだせない微妙な特徴やマクロな傾向までをコンピュータが自分で学習してしまうという点が大きな特徴です。
3.ディープラーニングがなぜ発達したか
実は、アーサー・C・クラーク原作、スタンリー・キューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」やその小説版に、ディープラーニングの概念を持ったコンピュータ「HAL9000」が登場します。
このHAL、小説によると「人脳の活動の大部分を、人脳よりはるかに優れた速度と確実さで再生する」とか「HALは人間の同僚たちと同じように、この任務の為に徹底的な訓練を受けた」などと書かれています。小説には、初歩的な英語や基本的な考え方を、人間が直接教え込むような描写も書かれています。
しかし、実際にディープラーニングが必要とする学習量は、人間が与える事のできる情報量とは比べ物になりません。
「2001年宇宙の旅」が書かれた時代(1960年代)においては、この点が解決すべき課題でした。
この課題が解決できた理由は、大きく分けて2つあります。一つはコンピュータの処理能力向上、もう一つはインターネットの発達によるデータ爆発(ビッグデータ)の存在です。
コンピュータの処理能力は、ご存知の通り計算能力や記憶容量が毎年飛躍的に向上しています。また、電子商取引やソーシャルメディア、企業の電子データ処理の急速な普及によって、インターネット上の電子データは不連続と言っていいくらいに増加しています。
このようなビッグデータは、人間が逐一閲覧していてもほとんど役に立ちませんが、飛躍的に処理能力の向上したコンピュータが、ディープラーニング技術で学習すると人間の見いだせない点まで学習することが出来るのです。
4.ディープラーニングの用途
ディープラーニングの用途はあらゆる所にあります。
現在使える可能性のある、あるいは実際に使われている分野は、例えば以下のようなものです。
- コールセンターの初期対応
- 不正取引(株式売買やクレジットカード等)の自動検知
- Web検索の最適化や、適切な広告表示
- 大規模プラントの故障個所・時期予測
- スパムメール・フィルター
- 画像や症状による病気診断
- 不確実な状況における経営戦略の選択
ただこのディープラーニング、使える分野は正直限定されないと思います。
たくさんの情報があり、そこから何らかの判断を必要とされる全ての分野において、この技術は人間を超える判断を下すことが可能となるはずです。
これが行き渡った世界で、人間はどう対応すべきか…
先に書いた「2001年宇宙の旅」においては、ある理由によってHALが人間に反旗を翻し、宇宙で乗員を全て排除しようと試みます。
SFの世界と思っていたことが、あっという間に現実のものになりそうですが、できれば良い事だけが実現されるよう祈るばかりです。